【三魔星】3つの魔星
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2011/10/31 22:35



■オープニング本文

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 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

 石鏡の発掘現場から現れた三体のアヤカシ。死鬼と名付けられた鬼の髑髏たちは、驚異的な力を以って現代を闊歩していた。
 一度目は様子見。二度目は足止めを兼ねているとは言え本気で撃破にかかった開拓者たち。激戦の末、斧持ちの死鬼を撃破した‥‥かと思われたのだが‥‥。
 開拓者の奮闘もあり、石鏡の調査団は遺跡(?)の内部調査を完了。結果としては嬉しいものは出て来なかったわけだが。
「うーん‥‥どういう原理なのかしら。倒しても自動で復活する能力なんて、普通のアヤカシにはないわよね」
「そりゃありませんよ。見てください、これ。やっぱり例の謎の陰陽師ですよ‥‥」
 開拓者ギルド職員、西沢 一葉と十七夜 亜理紗。石鏡から送られてきた調査の成果を手に頭を悩ませていた。
 結論から言えば、発掘したのは遺跡ではなく秘密の研究所であった。
 それは幽志と呼ばれた開拓者の魂を式化したものや、獣骨髑髏と呼ばれた巨大なアヤカシ兵器を作った謎の陰陽師のものと同一視されている。どちらも現代の開拓者によって撃破済みである。
 その陰陽師がどれくらい前の人物であるのか‥‥今でも存命であるのかは不明のままだ。
 亜理紗はすっかり茶色くなって古ぼけた一枚の絵図を見聞しながら、もう小一時間も眉間にシワを寄せていた。
「どう? 何か分かる?」
「‥‥これ考えた人は間違いなく天才だと思います。勿論悪い意味で。三体の式をそれぞれリンクさせて、例えやられても瘴気を急速に戻すことにより復活させる‥‥とでも言うんでしょうか。とにかくそんな特殊能力を持たせてますね。回復能力が低いのは、『やられる時はやられるもんだ』と開き直ったコンセプトだったからだと思います」
 自身も陰陽師である亜理紗。絵図に記された断片的な情報からでも分かる製作者の腕前に舌を巻く。
 死鬼たちの設計図の一部のようだが、見られても対抗策まで辿りつけないから放置したのだろう。詳しいことは分からない。
「この絵図によると、剣を使うのがシェアト、斧を使うのがアルフェラッツ、杖を使うのがデネボラという名前らしいです。この前参加者のお一人が斧に刻まれた名前を見たんですが、この事のようです。調べてみたところ、星の名前みたいですね」
「‥‥装備も分からないけど、名前もおかしくない? 昔に開発された式のはずなのにジルベリア風の名前よね?」
「これが幽志の後に開発されたのなら分からなくも無いですよ。ジルベリアの開拓者の話に興味を持って、それに傾倒しててもおかしくないですもん。知らなかった知識がバンバン入ってくるわけですから、試したくて仕方なかったんでしょう」
「それに‥‥うーん、なんか名前に違和感‥‥」
「一葉さん星に詳しいんですか?」
「そんなに詳しいわけじゃないんだけど‥‥この3つは何か違うような気がするのよねぇ」
「そうですか‥‥。とりあえず、一体だけを倒しても他の二体が生き残っていたら復活というのは間違いないでしょう。かと言って三体全部を同時に倒せばいいのかと言われると断言はできませんが」
「そもそも難しいしね? 一体倒すのも一苦労なんだから」
「ですね‥‥。救いは死鬼たちはあまり移動しないということでしょうか。今も例の森をウロウロしてます。とりあえず解読しきれていない紙がもう一枚ありますので、もっと調べてみますね」
 何かを守っていたわけではなく、死鬼そのものが封じられるべき負の遺産だったわけである。
 回復能力はないが再生能力を持つ。ある意味合理的なような、ある意味詐欺的なような、微妙な立ち位置だ。
 現れた死鬼たちは今も森を跋扈している。判明した事実から作戦を立て、もう一度戦地に赴いていただきたい―――


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
守紗 刄久郎(ia9521
25歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
レネネト(ib0260
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
神座亜紀(ib6736
12歳・女・魔


■リプレイ本文

●魔星、三度
 風が冷たくなってきた10月末の天儀。気候穏やかな石鏡といえどそれは変わらない。
 開拓者たちはその風の中、木々のひしめく森を進む。とはいえ、もう三度目である以上迷いもためらいもない。
 むしろ、そんな暇があればどうすれば死鬼たちを撃破できるのか考えたほうがよほど有意義であろう。
「3体がリンクしてて1体倒してもすぐ復活するなんて、そんなの詐欺だよー! でもきっとお互いに瘴気をやり取りする媒体があるはずだよ!」
「もしかすると媒体よりも位置や距離が関係あるのかも知れません」
「あ、星図ですね。これがデネボラ、これがアルフェラッツ、これがシェアト‥‥って‥‥」
「バラバラじゃねェか。なンだぁ、名前も位置も統一性がねぇなァ」
 神座亜紀(ib6736)が腕を振り振りお冠なのも無理は無い。あれだけ苦労して倒したというのに無傷の状態ですぐ復活では詐欺と叫びたくもなろう。
 しかし、叫べば死鬼が消えるわけでもない。レネネト(ib0260)は星図を用意して、復活の秘密が前回の戦いでの位置取りにあるのではと考える。
 横からその図を覗き込んだ雪切・透夜(ib0135)だったが、それらの星が記された場所は見事にバラバラ。無理矢理三角に見立てることはできるが、少なくとも前回の位置取りや距離とはあまり関係なさそうである。
 鷲尾天斗(ia0371)は呆れたように呟くが、それは死鬼たちの出鱈目さに向けられた嘲笑だろうか。
「でも、一葉さんじゃないですけど何かしっくりこないものがありますよね。偶然で片付けるのは早計かと」
「春の大三角‥‥秋の大四辺形‥‥? 前回否定されてましたし、調査隊も何も発見してないわけですから、まだ何かが居るということは無いと願いたいところですが‥‥」
「やはりここは各武器の宝珠に何かしらの意味があると見て、そこを狙うのが現実的ではないでしょうか」
 鹿角 結(ib3119)言葉に全員が頷く。井伊 貴政(ia0213)や真亡・雫(ia0432)を始め、死鬼たちの名前に疑問を持っているものは多いのだが、如何せんまだ情報が少なすぎる。
 今撃てる最善の手は宝珠狙い。それが最も現実的と言えるだろう。
 そろそろ死鬼たちと出くわすポイントだ。一同は得物を手に、意気揚々と‥‥
「もう魔術嫌いだ‥‥倒しても復活とか反則だろぅ‥‥」
 揚々と‥‥
「しかもあいつら強いしなぁ‥‥ハーフムーンスマッシュですってよ奥様。拳だって何を使ってくるかべはぁっ!?」
 一人、不貞腐れ気味にぶつぶつ呟いていた守紗 刄久郎(ia9521)の背中を鷲尾が蹴り倒す。
「男がグチグチ言ってんじゃねェ! いいか刄久郎、『口説いて駄目なら贈り物』だ!」
「し、師匠‥‥俺が間違ってました! やりようはあるってことですね!」
「そうだ。諦めないこと、そこから活路が見いだせる!」
「うぉぉぉ、ししょぉぉぉうっ!」
 そんな守紗と鷲尾のやり取りを見て、その他の全員が心の中でツッコむ。
『違うだろ。それナンパの話だろ』と―――

●奇妙な戦い、そして
 死鬼たちはいつになく動揺していた。それは紛れも無く鹿角の攻撃によるものだ。
 射程の長い弓を装備した彼女は、死鬼たちがまるでこちらに気づいていない位置から次々と矢を放つ。
 杖持ちへの直撃は避けつつ、斧と剣が狙い撃たれる。流石にすぐに木を盾にしたり武器で切り払ったりし始めたが、その射程の差はどうにもならない。杖の魔術ですらまるで届きようがないのだ。
 ようやく矢が飛んでくる位置を把握し、三体揃って近づいてくる。こちらも鹿角だけに頼る訳にはいかないため、同じく木を盾にしつつじわじわと死鬼との距離を詰めていく。
 杖からまた絶対命中魔術が飛んでくるかと思われたが、今のところその気配はない。
「援護するよー!」
「今回の相手は僕ですよ。お付き合い願いましょうか? ああ、拒否権は無いのであしからず」
 神座がホーリーアローで杖死鬼の杖を狙う。そしてその隙に雪切が杖に肉薄する。
 杖は今までの攻撃の蓄積でダメージが甚大である。しかし倒しても完全回復状態で復活してしまうのは想像に難くなく、雪切は『相手を倒さず抑える』という難しい戦いを強いられることになる。
 その間に、剣には鷲尾が、斧には井伊と守紗、真亡が接近する。
 人数比からも分かるように、狙いは斧持ち。消耗している他の二体を無理に回復させることはないという結論である。
「さて、今回は剣使いか。お前はドンだけ楽しませてくれるんですかァ!?」
 魔槍砲を駆使する鷲尾に対し、剣はどうにも攻めあぐねている。
 剣道三倍段とは言うが、得物の長さの違いはやはり刺さる。とはいえ、鷲尾の方も強固な盾で攻撃を防がれるので決め手には欠けるのだが。
「しっかしよォ‥‥本体倒さずにダメージだけを与えるって言うのは‥‥疲れる作業だなァ。オイ」
 剣はその巨体に似合わず速い。迂闊な大技は鷲尾にとっても危険だ。
 槍は懐に入られたら終わり。そして剣には、それを為しうる機動力がある。
 まぁ、抑えるという観点から見ればこれ以上ないシチュエーションと言えないこともない。
「少し! 大人しくしてろっ!!」
「重い‥‥上に、硬いっ!」
「真亡さん、ご無理はなさらず! 僕達は手数で勝負ですよー!」
 斧は一撃の重さと防御力に定評がある。そこに対抗するには技に訴えるのが一番だ。
 強烈な攻撃は隙も大きい。それはなるべく狙わず、連携を重視して少しずつ斧にダメージを蓄積していく。
 決して楽な相手ではないが、三度目ともなれば立ち回りも安定してくる。死鬼たちとしても同様ではあるが、こちらには手数やローテーションという武器があるのだ。
 とはいえ、チャンスがあっても倒してはいけないという奇妙な戦いであることに違いはない。
「どう? 早紀ちゃん」
「うん‥‥多分、武器は関係ないと思う。‥‥違うかも。基点にはなるんだろうけど、宝珠を壊したからってどうにかなる感じじゃない‥‥かな」
「えー!? それじゃどういう理屈なのさー、もうー!」
 今回の依頼には、神座の姉‥‥神座早紀(ib6735)が参加している。
 とはいえ、サポートでありながらここまで付いてくるのは珍しい事例だ。今回は回復役も彼女しかいないため、ある意味特別扱いなのかも知れない。
 早紀が発動したのは術視「参」という術である。対象物にかけられた術を見破ることが出来るものだが、その詳細は視えない。
 しかし、どうも死鬼の持つ武器や防具に付いている宝珠は関係はあるが弱点そのものではないとのこと。ということは、武器を破壊しても倒せるわけではない。
「これでますますわからなくなってしまいましたね‥‥一体どうすれば死鬼を滅することが出来るのか。そもそも、どうして死鬼が封印されていたのかも‥‥」
 奴隷戦士の葛藤を使い終わったレネネトが眉を寄せる。
 彼女が言いたいのは、現時点で死鬼たちには弱点らしい弱点が見当たらないということ。つまり、作品としては成功、完成しているといってもいい。
 なのに、封印されていた。あるいは事故なのかも知れないが、埋まったのなら掘り返してでも死鬼を取り戻そうとするはず。
 つまり、放置されるだけの理由があったということだ。獣骨髑髏のように暴走するようにも見えない以上、何かしら不完全な弱点があると考えるのが正しかろう。
 あえて言うなら、必ず三体固まって行動すること。それにより行動範囲があまりに狭いことが挙げられるが‥‥。
 レネネトが考えをまとめようとしている時‥‥雪切から声が上がった。
「デネボラ‥‥名前を確認しました! 杖にアルファベットで刻んであります!」
 刀と杖で鍔迫り合いをする雪切。そこに刻まれたのは、情報通りの名前。
 しかし‥‥?
「あン!? BETELGEUSEってなんて読むんだ!? 少なくともシェアトとは読まねェだろ!?」
 剣と拮抗していた鷲尾からも声が上がる。
 彼が読みあげた綴り。それは‥‥
「ベテルギウス‥‥!? 鷲尾さん、それは間違いありませんか!?」
「あぁ、間違いねェ! 盾を弾いた時に裏に刻んであるのが見えたからなァ!」
「‥‥ベテルギウス‥‥冬の大三角の一つ‥‥」
 星図を取り出し、確認するレネネト。
 これはどういうことだろう? 剣を使うのはシェアトであると亜理紗も言っていた。それは研究所跡から発見された絵図に書かれたものであり、信憑性は高い。
 別の個体? しかしそれでは様々なことに齟齬が生じる。
 むしろシェアトとベテルギウスは同一の個体と考えたほうが辻褄は合うのだが‥‥。
「チッ、いまいちノりきれねェな‥‥! おい、斧組! そっちはどうなってんだ!」
「どう、と、言われましても‥‥!」
 ソードシールドでの反撃を弾きながら、井伊は歯噛みをする。
 相変わらず強い。そして武器破壊の意味が薄いと判明してしまった以上、倒しても復活は目に見えている。
 だとすればジリ貧になるのは開拓者だけ。長引けば長引くほど不利になる。
 早紀が回復魔法をかけてくれているからなんとかなっているのであって、その錬力が尽きれば‥‥。
「‥‥やってみます。メイン武装がなくなれば戦いやすくはなるはず!」
「りょーかい! 開拓者は助けあいでしょ‥‥ってね!」
 堪りかねた真亡は、当初の予定通り斧の破壊を決行しようとする。
 武器が破壊されたら本体も消えるなどという旨い話はなかろうが、大きく戦闘力を削ぐことは出来るはず。
 移動しながら援護射撃を続けている鹿角に合図を出し、行動を開始。
 井伊と守紗が斧を攻撃すると、死鬼は斧とソードシールドでブロックする。
 そこに走りこむ真亡。しかしそれは攻撃を誘うための陽動であり、斧はそれに引っかかる。
 迎撃しようと振り上げた斧に、鹿角が放った極北がらみの矢が正確に宝珠へと直撃する。
「そこだぁぁぁっ!」
 衝撃で明後日の方向に振り下ろされた斧に、真亡の刀が叩きつけられる。
 またしても宝珠狙い。すると宝珠が甲高い音を立てて砕け、その他の部分もヒビが入り半ば砕けた。これで不用意に振り回せば完全に砕け散るだろう。
「流石に本体は消えないか‥‥」
 しかし、ここからどうする? 斧を失ってもその豪腕は健在だ。
 かと言って倒せば砕いた武器もろとも復活。これでは意味が無い。奇妙なジレンマはまだ続くようである。
 もうこの武器は駄目だ。そう思ったのか、斧持ちは手にした壊れかけの斧を、何故か杖へと投げつけたが‥‥!
「甘い! 想定済みだよ!」
 いつもながら雪切の死鬼に対する勘は恐ろしく鋭い。この行動を予め予見していた彼は、飛来する斧を刀でたたき落とした。
 その隙を突き、杖がアークブラストを発射する。これも雪切には想定内であり、すでに盾を構えている。
 しかし‥‥杖が狙ったのは、雪切ではない!
「なっ‥‥しまった!?」
 アークブラストの直撃を受け、崩れ落ちた斧持ちの死鬼。
 瘴気となって霧散するが、その霧散した瘴気が再び集中し完全な状態の斧の死鬼を形作る‥‥!
「な、仲間内の特性まで計算に入れてるなんて‥‥こんなのどうしたらいいんすかねぇ!?」
「泣き言言ってんな! それでも俺の弟子かァ!?」
「師匠こそ、無敵の魔槍砲でなんとかしてくださいよォーーーッ!」
 気勢が一気に削がれた開拓者たち。その中にあって、ずっと考えていた神座が鷲尾に叫ぶ。
「‥‥天斗さん! もう一度剣持ちの名前を確認できる!?」
「あァ? ふっ、ロリっ子に期待されちゃ応えないわけにゃいかねェな。やってやらァ!」
 平突きの構えで突撃する鷲尾。盾で受ける剣持ち。その瞬間‥‥!
「点火ァ!!」
 轟音と共に魔槍砲から火線が走り、爆裂する。
 盾のお陰でダメージはさほどないが、大きく左に弾かれた。その裏に刻まれていた文字は‥‥
「SPICA!? さっきと違うだと!?」
「なるほど‥‥そういうことかぁ! みんな、今日は撤退! 命あっての物種だよ!」
 その言葉に、一気に離脱をかける開拓者たち。
 鹿角の援護射撃のお陰で、今回も逃げる際の消耗は少なくて済んだという。
 神座が気づいたこと。それは亜理紗に伝えられ、次の依頼の開始時に明らかとなる―――