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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― アヤカシ。それは、様々な形態を取る人類の敵である。 虫、動物はもちろんのこと、人、果ては無機物の姿をしたものも存在する厄介な連中。 しかも瘴気があれば町中に突然実体化することもあるという出鱈目っぷりは、常駐する天災のようなものと言っていいだろう。 そして、アヤカシは進化する。開拓者たちの進化に合わせ、人を喰らい続けるために‥‥。 「というわけで今回の標的は、銃を使うアヤカシです。正確には、『腕が銃のようになっている石像』というのが正しいでしょうか」 開拓者ギルドの一角で、職員の十七夜 亜理紗が依頼の説明を行なっている。 これまでアヤカシの報告例は枚挙に暇がないが、銃を使うというのは珍しい。 そのアヤカシは動きまわる石像のようなアヤカシで、右腕が半ばから銃身のようになっており、銃口から鉛玉を発射する。まさに銃を使うのとほぼ変わらない攻撃能力を持っている。 しかも一緒に行動している亀のようなアヤカシは、空中を浮遊しつつ背中に連射式の銃を備えているという。 もう一匹、これは姿が確認されていないが長距離狙撃を得意とするアヤカシもいるらしい。勿論銃のようなものを使っている。 以上三体のアヤカシがとある山に出現し、グループをなしてうろついている。その辺りには付近の村の果樹園があり、収穫ができないと困るということで依頼が出されたのだった。 「銃を使うアヤカシと戦った経験はどなたもあまりないと思いますが、銃を使ったことのある方はいらっしゃると思います。だとすれば、危険な輩がそれを所持し無差別に発砲することの危険性もお分かりになりますよね? どうか、早急な撃破をお願いします!」 新たな進化を遂げるアヤカシたち。しかし、銃は元々人が開発したものである。 開拓者に猿真似が通用しないということを、教えてやっていただきたい――― |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
ジク・ローアスカイ(ib6382)
22歳・男・砲
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●銃撃 ギィンッ! 発砲音の後、晴天に恵まれた初冬の山中に耳障りな衝撃音が鳴り響く。 恵み豊かな石鏡の山中。そこに似つかわしくない重装備の騎士がそこにいた。 プレートアーマーに兜、フェンスシールド。無骨な防具に全身を固めるのは、それに似つかわしくない可憐な少女であった。 「へへん、そんな豆鉄砲であたしを倒せるとか思わないでよ!」 少女とは言え立派な開拓者であり騎士である。敵が撃ち放った弾丸を盾で弾き、仲間を守る。それがフィン・ファルスト(ib0979)の今回の役目だ。 「あら怖い。縁起のいい生き物がモチーフのわりに、長生きさせる気ないわねぇ」 「回転式の複数砲身‥‥? あんな銃、人間だって使ったことないぞ?」 結界呪符「黒」で壁を召喚し、亀からの攻撃を防いでいるのは葛切 カズラ(ia0725)。そしてその直衛に当っているのが御調 昴(ib5479)である。 御調が眉をひそめるのも無理は無い。情報にあった亀型のアヤカシは、背中に甲羅と銃を背負っている。 その銃は単発式ではなく、一発撃ったら次の砲身が回転して現れ射撃するという連射式の銃であった。 壁に隠れているとはいえ、着弾の衝撃の多さが連射性能を物語っている。まぁ良い事ずくめではなく、一発一発の威力が低いようではあるが。 「ちっ‥‥あっちに石像、こっちに亀‥‥じゃあもう一匹はどこだ‥‥?」 囮班を務める最後の一人、アルバルク(ib6635)。木の陰に身を隠し、木から木へ渡り歩く。 銃を使うアヤカシは三体セットで行動しているのは事前に判明している。が、最後の一匹は長距離狙撃を得意とするということ以外、姿さえ確認されていない。 現在も交戦状態となっている石像と亀以外のアヤカシの姿はない。遮蔽物に身を隠しバダドサイトも使っているのだが、三体目の姿は見えない。 困るのは壁の背後から葛切や御調が狙撃されること。フィンも危険ではあるが、装備がある程度何とかしてくれることだろう。しかし前述の二人はそうもいかない。 一刻も早く発見し、撃滅してしまいたいところなのだが‥‥? と、その時である。ガウンッ! と銃声が響き、アルバルクの頬をかすめた。 位置的に石像でも亀でもない。例の未確認は確実にこの付近にいる! 「今の音は!? アルバルクさん、見つかった!?」 「いんや、まだだ! しかし、この角度‥‥」 フィンに言葉を返しつつ、アルバルクは撃たれたと思わしき方向へと木を盾にした。 どうも弾丸は上から撃ち下ろすような角度で撃たれている。が、その方向を見ても何もいない。 長距離狙撃とはいえ1kmも先から撃てるわけもない。木々が邪魔でそんな遠くからはこちらを判別することだって難しいはずだ。 「音が近かったわよ!? 絶対近くにいるわ!」 葛切が叫んだように、銃声がかなり近かった。恐らく普通の目視でも見えるくらいには近い。 正体探りにあまり時間を取りたくない。フィンのダメージや葛切の練力のこともある。 後続の突撃部隊が殲滅に入るためにも、どこから狙われるか分からない状況は打破したいが‥‥。 「仕方あるまい、我らも加わるぞ」 「なんとなーくだけど、位置は掴めたのだぜ!」 後方で待機していたバロン(ia6062)や叢雲 怜(ib5488)たちが戦列に加わる。 客観的な視点で戦場を見渡していたからこそ気づいたこともあるのだろう。 姿が見える二匹については、さっさと潰してしまうというのも手ではある。 「銃を使った事は無いが‥‥銃使いの相手なら慣れている」 歴戦の凄みを持つ最年長、バロン。フィンの背後から飛び出し、弾丸を放った石像に向かって反撃する。 当然のことながら、石像の動きは鈍い。回避する素振りすら無く、矢があっさりヒットする。 硬いことに違いはないが、先即封で攻撃された石像の弾丸はフィンの足元に着弾した。 「君は本当に銃使い、か? 位置が丸見え、だよ」 マスケット銃で亀を狙い撃つジク・ローアスカイ(ib6382)。宙に浮いているとはいえ亀もまた動きが鈍く、攻撃を当てること自体に支障はない。 石像と違うのは、弾幕を展開されるという点。生身で受けるには致死量の弾丸が反撃で飛んでくるので、葛切の結界呪符の影に隠れながらの戦闘となる。 まぁ、本来はこれが正しい。何もない平原ならまだしも、遮蔽物だらけの山中においてフワフワ浮いているだけというのは銃使いのすることではない。 「で、ボウズ。どこにいるのかわかったってのは本当か?」 「んー、だいたいね。まだ同じとこにいるのなら‥‥そこなのだぜ!」 マスケット銃を構え、弾丸を撃ち放つ叢雲。しかし、銃口の先にはただの木があるだけ。 アルバルクからしてみれば遊んでいるのかと思わなくもなかったが、木の表面が弾けると同時に異変が起こった。 何もなかったはずの木から何かが飛び出し、別の木に張り付く。それは長い尻尾を持つ爬虫類のような風貌で‥‥ 「カメレオンってか!? なるほど、よく擬態してたもんだ‥‥!」 どうやら口の中から舌ではなく弾丸を吐き出すらしい。長距離狙撃と思われていたのは単に姿が見えなかったからそう思われていただけか。 すぐに風景に溶け込んでしまうカメレオン。しかし、一度位置を補足されてしまうと逃げきるのは難しい。 「姿を消したまま移動はできないはずなのだぜ!」 叢雲の銃撃で再び移動するカメレオン。 直撃といかないのが歯がゆいところだが、追撃の手はすぐに掛かる。 そして、それはカメレオンにとって致命傷にも近いものであった。 どこからともなく氷の刃が飛来し、カメレオンに肉薄する。 咄嗟に回避しようとしたが、氷の刃はそれを許さない。深々と背中部分に突き刺さり、内部破壊しつつ冷気を発する。 「弾は弾でもこちらは魔弾です‥‥氷の暴威から逃げられるとお思いで?」 それは、朝比奈 空(ia0086)が放った魔術。 自動命中のこの魔法は、一度姿を捉えて発射してしまえば対象を見失わない。 他にも自動命中の魔法はいくつもあるが、対象に突き刺さり目印を作ってくれるこの魔術とカメレオンの相性は最悪である。 こうなってしまえば何を言わんや。アルバルクが軽快に山道を駆け抜け、二丁拳銃を突きつけた。 「意外と義理堅い性格なんだ。お礼はたっぷりとさせてもらうぜ。ただし‥‥」 鉛玉でな。その言葉をカメレオン型のアヤカシが理解できたかは定かではないが、以外にも真っ先に倒されたのは未確認のアヤカシであった。 朝比奈がいたこと、叢雲が一歩退いたところから戦闘を監視していたことが勝因だろうか。 「こちらのほうが相手をしやすそうですね」 「うむ。牽制は任せるぞ、小僧」 「牽制で終わりにして差し上げますよ」 「で、できればお早めにお願いしまーす!」 御調はダメージが入りにくい亀の相手に見切りをつけ、石像へと標的を変えていた。 ダナブ・アサドを発動し石像の撃った弾丸を回避しながら一対の魔槍砲で応戦する。 そのスタイリッシュとさえ言える体捌きに石像はついていくのがやっと。というか、全長2メートルもある魔槍砲を二本も持ってこれだけ俊敏な動きをするとは誰も思わない。 しかも石像は腕が縦軸にしか回らないので、御調に注意を向けてしまうと‥‥。 「人であろうとアヤカシであろうと同じ。素人が銃を持ち小細工を弄したところで、負けはせんよ」 弓兵に側面をさらすことの愚かしさをまるで理解していない石像は、月涙で木をすり抜け飛来する矢の格好の的である。 ゴリゴリという音を立て、首だけバロンの方を向く石像。それが認識したのは、目の前に迫る巨大な盾‥‥! 「せいやぁぁぁっ!」 ボキンッ! 今まで専守防衛に徹していたフィンが前に出て、石像の右腕‥‥すなわち銃身を叩き折った。 溜った鬱憤を晴らすかのような一撃を放ったフィンの顔は、あまりにも爽やかな笑顔だったという。 「チェックメイトですね。次は魔槍砲を装備したアヤカシでしょうか‥‥勘弁願いたいものです」 ズドンズドンと腹に響く重い音が響き、石像が爆砕する。 硬い石とは言ってもこの近距離で砲撃を受けては一溜まりもない。 残るは亀だが、こちらは少々苦戦中である。 「んー、弾が無尽蔵なのは困るわね。これで何枚目の結界呪符だったかしら」 「いくらでも弾が出る銃、か‥‥興味深い、ね」 危機を悟り始めたのか、頭と四肢を引っ込め回転しながら弾丸をばらまき始めた亀。完全なランダムショットなので予測がつきづらい。 壁から迂闊に顔も出せない。これではジリ貧である。 と、そこに。 「援護します。止めはお任せしますので」 自前でストーンウォールを用意していた朝比奈がアイシスケイラルを発動。亀に直撃を食らわせた。 が、カメレオンより抵抗力がかなりあるのか若干回転が鈍った程度ですぐに空中で体勢を戻してしまう。 ジクが何度も弾丸ぶち込むが、高速回転している上に丸い形状で弾が逸れるのかイマイチ効果が薄い。 「あー、もうそろそろ面倒だわね。おいで」 やれやれとため息を吐き、葛切は式を作り出す。 それは一つ目で大きな口を持ち、多数の触手を持つ‥‥こう言っては何だが、亀よりよほどアヤカシのように見える風貌だった。 「遠距離からの一撃必殺‥‥砲術士っぽいのだよ! 倒せなかったら残念なのです」 言いつつ、木陰から飛び出してシュトゥルモヴィークを発動した一発を放つ叢雲。 ガィンッ、と不気味な音がして亀が弾き飛ばされ、近くにあった木に叩きつけられる。 ふらふらと体勢を戻そうとする亀。そこにジクが強弾撃で追撃をかけ、さらなる隙を作る。 状況を確認すべく一度頭を出した亀。その目の前には、葛切が呼び出した一つ目の式‥‥! 「ごめんなさいねー。魂喰なの、それ」 瘴気を喰らう式。アヤカシにとって最もヤバい分類の術である。 硬い甲羅を物ともせず、ジャクリと体を噛み千切る。 一瞬で絶命した亀の残り半分ほどは、すぐに瘴気となって消えてしまったという。 かくして、銃を使うアヤカシとの激闘は幕を閉じた。 バロンの言うとおり、素人が無闇に使っても専門家には通用しないということが実証されたわけである。 強力な武器を持つ前に、頭を鍛えてこい。そう思わずにはいられない開拓者たちであった――― |