お邪魔虫
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/30 22:24



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「はい、皆さんこんにちは。開拓者ギルド職員の十七夜 亜理紗です。今回は、アヤカシ退治と‥‥ちょっとした調査を平行して行なっていただくことになります」
 昼下がりの開拓者ギルド。今日も今日とて依頼は枚挙に暇がなく、様々な物語が生み出されていく。
 そんな中、亜理紗が紹介している依頼は二つの目的を持っているとのことで、興味を惹かれた者が集まっていた。
「実はですね、最近依頼中に不可思議な現象に襲われる開拓者の方々の報告が増えてるんです。依頼でアヤカシ退治を行なっている最中、錬力はまだ残っているはずなのに技が使えなかった‥‥というのものなんですが‥‥」
 開拓者たるもの、戦いの最中であっても錬力の管理は怠らないものだ。というか、戦闘中だからこそ配分には気をつけていると言ったほうが正しいだろう。
 本来技を五回使えるはずの者が、4回で練力切れになってしまったというのはどう考えてもおかしいだろう。
 戦闘中限定の現象。これによって死人が出たという話はまだないが、原因の解明くらいはしておかないと対策も練れないということで、今回の依頼と相成ったのだ。
「今回、退治するアヤカシ自体は特殊なものじゃありません。全長2メートルくらいの、カブトムシ型のアヤカシです。飛んだり硬かったり力持ちだったりはしますが、復活したりぶっ飛んだ攻撃をしたりはしないとのことです」
 そのカブトムシ型のアヤカシを退治しつつ、不可思議な練力減少の原因を解明するのが目的である。
 果たして、いかなる理由で現象が起きているのか。一連の事件は、決して他人ごとではない―――


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
熾弦(ib7860
17歳・女・巫


■リプレイ本文

●原因究明
 季節は移ろい、気候温暖で実り多き石鏡にも冬がやってきた。
 寒さも顕著になってきた今日この頃、開拓者たちは件のカブトムシ型アヤカシが居る林に足を踏み入れる。
 枯れ葉が敷き詰められた地面は、歩く度にサクサクと乾いた音を立てる。アヤカシの情報さえなければピクニックにしても良いような雰囲気がそこにはあった。
 しかし、実際はそうもいかない。開拓者たちは今正に、敵を発見したところなのだから。
「あれか‥‥。流石に目立つな」
「気持ち悪っ。‥‥何あれ、樹液でもすすってるのかしら」
 琥龍 蒼羅(ib0214)たちの視線の先には、全長2メートルはある巨大なカブトムシが、これまた樹齢の長そうな巨大な木に張り付いている姿があった。
 通常のサイズの何倍あるかは知らないが、人並みの大きさの昆虫というのは見ていて気持ちのいいものではない。ましてや、人を喰らうアヤカシとなれば今回の主目的がなくとも叩いておく必要がある。
 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は思わず手を突き出して魔術を放とうとしてしまったが、すぐに思い直して状況分析に戻った。
「アヤカシ自体が今までと変わらないなら、他のアヤカシが寄生しているか憑依しているんじゃないかな?」
「妥当な線ですね。アヤカシじゃなくともそういう新種の生物かも知れませんし、未知の術式という可能性もありますっ」
「まずは目の前の強敵を倒すことに専念するか。早く片付け過ぎない程度に‥‥な」
 滝月 玲(ia1409)に限らず、他のアヤカシの介在を疑うものは多い。
 そもそもこの件は特定の地域や相手だけに起こっているものではなく、アヤカシとの戦闘中限定である。
 ただでさえ街中に突然実体化することもあるアヤカシたちとあって、次にどこで似たような事例が起こるのかは予測不可能。
 石鏡の国も調査に乗り出してはいるが手が足りない。それもあって今回の依頼なわけなので、石鏡を責めるのはお門違いだろう。
 フェルル=グライフ(ia4572)はその他のアヤカシの以外の選択肢として、新種の生物やなども疑っている。確かに天儀の全てを人間が把握しているわけでなし、そういう未知のケモノなどが活動を始めたとしてもおかしな話ではない。
 何まともあれ、戦闘中限定の事象ならば戦闘を始めなければ調査も何もない。
 パシンと拳と掌をぶつけた羅喉丸(ia0347)の言うように、多少長引かせながら戦うしか無いだろう。
「瘴索結界、展開完了。今のところ辺りの他のアヤカシはいないわね」
 熾弦(ib7860)は索敵の要として同行している。戦闘前に結界を使用するが、やはり今のところは反応なし。実際に戦闘に突入してからが問題となるだろう。
「‥‥行くぞ。どうやら向こうも俺達に気づいたようだ」
 琥龍の言葉を肯定するように、カブトムシの動きが慌ただしくなり羽を展開し始める。
 奇妙な練力減少の原因究明が、今始まる―――

●オマケじゃない
 カブトムシ型のアヤカシは巨体ながら、想像以上に俊敏であった。
 立派な角を武器に、自由自在に宙を舞い突撃してくる。
 その姿はまるで黒い岩が自らぶつかってくるようなもの。しかも地上に降りないので、拳で勝負する羅喉丸や滝月は有効打を与えられていない。
 当ててはいるのだが、その外皮は硬いくせにツルツルしており、込めた力があらぬ方向へ流されてしまうのだ。
 例えるなら、栗。流線型の体型もそれを助長している。格闘戦である以上、物理非物理の区別はない。
「面倒なやつね‥‥これならどうかしら」
 リーゼロッテは今度こそアークブラストを放つ。
 相手の形状が関係ない魔術による雷。物理防御が高くとも術攻撃には弱いというのはよくあるパターンだ。
 が、このカブトムシは極端に弱いわけではないらしい。空中で一瞬痙攣すると、近くにあった気に一旦止まり再び宙を駆ける。
 さらっと逃げない辺りは評価できるが‥‥と、その時だった。
「結界に反応? 数が‥‥一、二、三‥‥まだ増える!?」
 熾弦が上げた声にぎょっとする開拓者たち。
 おいでなすったと気を取り直したのはいいが、付近にはアヤカシの姿はない。
 瘴索結界に引っかかったからにはアヤカシには違いないのだろうが、透明だとでも言うのだろうか?
「姿が見えません! 術視を使っても確認できませんよ!?」
「いえ、確かにいるわ。でも凄くか細い‥‥瘴気量がカブトムシと段違いに少ないわね」
 索敵は任せていたフェルルが、透明化する術などを使っていないか術視で調べる。
 しかし透明化している敵はいない。熾弦が告げたことから考えると、極小さなアヤカシということになるか。
「ちっ! 最終的に何匹になった!? こっちはカブトムシから意識を裂けないぜ!」
「よし‥‥じゃあ試してみるか。こいつをな!」
 苦戦していた羅喉丸と滝月。時間稼ぎになればと、滝月はお手製のトリモチ玉+唐辛子の目潰し玉を取り出した。
 が。
「待て。それでカブトムシが逃げたら話しにならん。相手は飛べることを忘れるな」
 琥龍が涼やかにそれを制する。
 カブトムシはいつでも逃げ出せる。視界を奪われることでそれを実行に移す可能性は高い。
 撃退するだけに依頼なら有効な手段かもしれないが、相手の逃走により戦闘終了では今回は困るのだ。
「リーゼロッテ君、そっちに二匹ほど行った。すぐそばに居る筈よ。見えないかしら」
「見えるも何も‥‥」
 付近を見回せど姿はなし。熾弦が感知した限りでは、すでにリーゼロッテに張り付いていてもおかしくない。とりあえずそんな様子は見受けられないのだが‥‥?
「あれ? リーゼロッテさん、背中に蜉蝣が止まってますよ」
「かげろう? やだ、取ってよ」
「はいですー」
 ぶんぶんと身体を揺らすが蜉蝣が離れる様子はない。仕方なく、フェルルが羽を掴んでリーゼロッテの背中から引き剥がし、地面に叩きつけた。
 するとリーゼロッテが振り向き、それを踏みつける。プチっと言う音すらせず、蜉蝣は息絶える。
 何もそこまでと思うかも知れないが‥‥
「あら、反応が一つ消えたわね。何かした?」
「‥‥もしかしてとは思いましたけど、この蜉蝣がアヤカシですかぁぁぁっ!?」
「練力を吸われた感じはしないんだけど‥‥」
 言いつつ、リーゼロッテはカブトムシにアークブラストを放つ。
 すると、微妙な違和感。二発しか撃っていないのに、いつもより余力がないような気がする。
 まず間違いない。この蜉蝣が、練力減少の原因‥‥!
「こいつめ!」
 近場に寄ってきていたのがたまたま見えたので、滝月は蜉蝣を空中で掴み、握り潰した。
 脆い。恐らく一般人でも普通に握りつぶせてしまうであろうくらいに脆い。
 しかも攻撃能力が皆無で、回避も普通の蜉蝣と似たようなものだろう。
 長けているとすればステルス性能と練力を吸収することだけ。一般人には害はほぼないだろう。
「つまり、こういう事だったわけね。こいつは他のアヤカシと開拓者の戦いに便乗して練力を吸い上げ、サポートをするお邪魔虫なのよ」
「それで、開拓者の絶望や恐怖を喰らうというわけですね。今までにいなかったたいぷですねぇ‥‥『吸練虫』とでも名づけましょうか?」
 リーゼロッテとフェルルの分析に異を唱える者はいない。自身が弱いのは、強くある必要がないから。否、強くあってはいけないのだ。
 それこそ熾弦がやったように瘴索結界でも使えば話は別だが、敵に集中している戦いの最中にこんな小さな虫が近寄ってきてもなかなか気付かない。弱い故の存在感のなさが逆に怖い。
「原因が分かったのはいいけどさ‥‥残り何匹居るんだ、こいつら?」
「そうね‥‥ひーふーみー‥‥11匹かしら」
『ぶっ!?』
 しれっと言った熾弦の言葉に全員が思わず振り返る。
 外見では普通の蜉蝣と全く区別がつかないこのアヤカシ。これがあと7匹も戦場にいるのは怖い。
「ちっ、ならさっさとカブトムシを倒すだけだ。この蜉蝣共は他のアヤカシがいなくなれば逃げ出すんだろう?」
「そういうことだよな。よっし、任せろ!」
 琥龍が刀を構え直したのを見て、滝月も気持ちを切り替える。
 原因は分かった。そして早く決着したい。ならもう遠慮はいるまい。
 タイミングよく滝月に突っ込んでくるカブトムシ。彼はその下を倒れこむようにして回避し、逆に天呼鳳凰拳でかち上げる!
「舞え、炎帝たる鳳凰ッ!」
 その衝撃に思わず羽を止めるカブトムシ。外皮は硬いが腹の部分が脆いのは通常のカブトムシと同じか。
 加えてリーゼロッテの魔術によるダメージもある。思うように身体が動かせないのだろう。
「なら俺も弱いところに‥‥骨法起承拳! ‥‥って、あれ? 吸われてたのか、俺も」
 落ちてくる腹に向け、羅喉丸が追撃を駆ける。
 技を出したあとに気づいたが、残りの練力が想定より少ない。いつの間にか被害に遭っていたらしい。
 なるほど、吸われている本人は気付かず、練力の増減があったときに初めて分かるのか。これは邪魔臭い。
「例え防御力が高くとも、これならば‥‥」
 琥龍は白梅香を発動し、地面にひっくり返っていたカブトムシの腹から胴体の方向へ切り裂いた。
 狙う箇所もそうだが、アヤカシに白梅香はきつい。飛べなくなったカブトムシは、その時点で運命が決していたと言えよう。
 浄化され消滅したカブトムシ。それを受け、熾弦がまた報告する。
「吸練虫‥‥でいいんだったかしら? 一斉に逃げていくわね。群れで行動するのが好きなのかしら」
「直接肌に触れなくても吸われるっていうのは厄介ね」
「きっと鎧の上とかからでも吸われます‥‥。戦場にあれがいたら、運が悪かったと思うしか無いですね‥‥」
 新種のアヤカシ、吸練虫。別にアヤカシとの戦い全てに出現するわけではないようだが、これが存在すると判明した時点で不安材料以外の何物でもない。
 アヤカシが絶滅するその時まで、吸練虫も存在し続けるのであろうか―――