テラコヤス
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/24 23:20



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「いよう、西沢一葉ぁ! 元気にしておったか?」
「あら、銀河さん。お久しぶりです」
「便りも寄越さんとは冷たいではないか。っふん、便りがないのは元気な証拠とも言うがなぁ!」
 ある日の開拓者ギルド。
 職員の西沢一葉を訪ねてきたのは、鎧を着込んだ体格の良い青年であった。
 親しげに話しているところを見ると旧知の仲なのだろう。あまり似合わない二人ではあるが。
 それを見かけた後輩職員、十七夜亜理紗がとてとてと寄ってくる。
「お知り合いなんですか? よければお茶でもお淹れしますけど」
「結構。依頼を出したらすぐにでも帰る」
「は、はぁ。そうですか。‥‥一葉さん、どなたですか?」
「戯夢 銀河(ぎむ ぎんが)さん。石鏡ではそこそこ有名な武家の長男で、通称御大将。石鏡内のアヤカシ退治を主な任務としてる部署に所属しているらしいわよ」
「お役人さんってことですか。珍しいですね、お役人さんが直接いらっしゃるのは」
 聞けば一葉と銀河は幼なじみのようなものらしい。母ひとり子ひとりの家庭環境であった一葉だったが、昔から親交があり助けてもらっていたとのこと。
 歳は5つほど離れていたが、一葉と銀河は現在も気さくに話せる間柄である。
「おまえのキョンシーというのにも興味はあるが、今は依頼が優先だ。すまじきは宮仕えというやつよ」
「そんな事言って、勇名は聞き及んでますよ。相変わらず戦闘狂してるらしいですね」
「はっきり言う。ふはは、だが我輩もお前のそういう所が嫌いではない」
 銀河が言うには、龍が出たという報告を受け彼が所属する部隊が討伐に向かったらしい。
 正確には龍のアヤカシとのことだったが、いざ接敵してみればどうも毛色が違う。
 茶色い表皮は硬く、羽はないが尻尾は長い。手は短いが胴体が長いわけではなく、二本足で立って走る。
 およそ天儀でイメージされる『龍』ではなく、かと言ってジルベリア風の『竜』でもない。どちらかというとトカゲを二本足立ちだせて凶悪にした感じと言ったほうが表現としては正確だ。
「我輩も様々なアヤカシを相手にしてきたが、あのようなアヤカシは初めてだ。強靭な尻尾、鋭い牙、全てを噛み砕かんばかりの顎。進化したアヤカシと戦うのは誉れと言えよう!」
 全長7メートルはあるという初見のアヤカシに、石鏡の部隊は苦戦。一時撤退し体勢を整えることになった。
 確実な撃破のため開拓者も呼び、似たようなアヤカシとの交戦経験があればそれを活かしたいとのことだ。
「要は我輩率いる部隊との集団行動である。断っておくが、例のアヤカシは一噛みで人間を真っ二つにするほどの力を秘めている。死にたくなくばしっかりと腰を据える事だな」
「そんな危険な相手なのに、指揮官の銀河さんも戦うんですか‥‥?」
「当然だ。後方でふんぞり返っているだけの指揮官では部下の士気も上がらん。それに我輩は求めている‥‥純然たる闘争の本能! 熱く滾る血潮と心! それこそが人が生まれてきた意味であり真理なのだ。我輩は‥‥絶っ好ぉぉぉ調であぁぁぁるっ!」
「‥‥一葉さん、よく平気な顔でお付き合い出来ますね‥‥」
「慣れてるから」
 日々、民のために戦い続ける石鏡の戦闘部隊。それが手を焼く凶暴なトカゲのようなアヤカシ。
 開拓者と役人、立場は違えど今回のような事例ならば轡を並べるのに不足はあるまい。
 石鏡の軍との正式な共同戦線に、是非ご協力願いたい―――


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
フリーデライヒ・M(ib0581
12歳・女・サ
クリスティア・クロイツ(ib5414
18歳・女・砲
高崎・朱音(ib5430
10歳・女・砲
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
破軍(ib8103
19歳・男・サ


■リプレイ本文

●恐い竜
 石鏡北東部に位置する渓谷。
 ひとえに渓谷といっても断崖絶壁に囲まれた道を差すのではなく、川や湿地なども含めた周辺一帯を表している。
 緑多き石鏡の国の御多分に漏れず、この付近も動植物が豊富だ。そこに現れた‥‥巨大なトカゲ。
 ずん、ずんと重苦しい足音を響かせ、茶褐色のトカゲが闊歩する。ギョロリとした目は獲物を狩るハンターであるかのように鋭く、低く響く唸り声は周囲の生物すべてを威嚇しているようであった。
 全長7メートルはあるその影から身を潜め、開拓者たちと石鏡の部隊は展開する。
「うへぇ‥‥テラコヤス」
「あん? どういう意味ダ?」
「あ‥‥」
 トカゲの姿を見た兵士の一人が、ボソリと呟いたセリフ。それを梢・飛鈴(ia0034)は聞き逃さなかった。
 しまったという顔をする兵士。回りを見回した後、こっそりと教えてくれる。
「いやほら、うちの御大将って色んな意味で恐いじゃないっすか? でも恐いとかいうと怒られそうなんで、恐い→こわす→コヤスってな感じで言い換えてるんです。で、すごいという言葉もテラにすれば仮に聞かれても意味はわからないっしょ? それでできたのがテラコヤスって言葉なんっすよ。俺達の間でしか通用しない暗号みたいなもんっす」
「恐いなら恐いって直接言えばいいと思うんだけど、駄目なんだぜ?」
「大人の世界には色々あるものなのですよ。悪くないガス抜きだと思いますがね」
 きょとんして叢雲 怜(ib5488)が言った言葉を、Kyrie(ib5916)が少々呆れたように返す。
 開拓者であるとはいえ、まだ叢雲に社会の悲喜交交は理解し難いのだろう。
 まぁ、大人の中にも悲喜交交を理解していない者も居るようではあるが。
「このツインマシュマロ凄いよ! さすが三人子持ちのお母さんっ! しかも年上ロリータぁ!」
「ふふ‥‥銀河か。おぬしも面白そうな男よの‥‥強大なる敵を前に尚滾る戦意、気が合いそうじゃな。‥‥『あちら』の方も逞しいかどうか、そちらも興味深き処じゃが」
「ふん、この状況でその余裕‥‥嫌いではないぞ貴様ら。だが全ては勝ってからだ。命があったら褥だろうとどこだろうと相手をしてくれる!」
 村雨 紫狼(ia9073)やフリーデライヒ・M(ib0581)は、巨大トカゲを目の当たりにしても至ってマイペースである。村雨に関しては普段よりなおチャラい。
 その太い神経を買ったのか、銀河も豪快に笑って返す。
 似たもの同士気が合うのだろう。フリーデライヒと銀河は特に仲が良さげだ。
「(似た者同士が3人も揃うとは珍しいですわね‥‥)」
 クリスティア・クロイツ(ib5414)は若干引き気味に笑う三人を見つめていた。
 あの迫力の巨大トカゲを見てなお下ネタに走れるこの胆力。見習いたくはないが認めてもよいだろう。
「アヤツなら気が合いそうではあると思ったしの。ん、なんじゃ。クリスティア、その何か言いたそうな目は」
「いーえー。気が合うのはフリーデライヒさんだけではないのでは、と」
「ま、ともかくとして‥‥。怜、クリスティア‥‥あの兵達やアヤカシに砲術師小隊としての力、見せてやろうかの」
「了解です」
「おっまかせ、なのだぜ!」
 高崎・朱音(ib5430)は叢雲と同じくらいの年齢に見える、言わば子供な外見である。
 しかしその言動や物の考え方は子供のそれではなく、実際は何歳なのか不明だ。
 砲術士三人組の確認も済んだ所で、一人の男がゆったりと口を開く。
「もういいか? 御大将も遊興でここに来ているわけではあるまい」
「言ってくれるではないか。ふはは、そうか、そんなに貴様も戦いたいか! よかろう、存分に新種のアヤカシとの戦いを楽しもうではないか!」
「‥‥そういう意味で言ったのではないんだがな」
 破軍(ib8103)は緊張感のない連中だという皮肉を言ったのだが、銀河は彼の言を一刻も早く戦ってみたいという意味合いに受け取ったらしい。
 クリスティアや破軍の進言を意外にもあっさり承諾し、石鏡軍はトカゲの側面に展開する。
 銀河曰く、『勝ってこその軍! 被害も小さいに越したことはない。兵士たちもまた石鏡の民だからな!』とのこと。自分の戦闘狂に部下を巻き込む気はあまりないらしい。
 正面から開拓者がトカゲの注意を引きつつ応戦し、いいタイミングを測って一気に‥‥という算段。
 悪くない作戦だ。というより、志体を持つ銀河はともかくそれがない一般兵たちへの犠牲を減らすためにはこれが最も効率が良いといえるだろう。
 敵は未知数の戦闘力。万全の作戦で以って、いざ挑む―――

●共闘
 今更ではあるが、開拓者と役人が共闘するというのは珍しい部類である。
 国はそれぞれの軍を持ち、それで国内に発生したアヤカシに対処する。その中でどうしても手に負えなかったり手が回らなかったりした場合に開拓者ギルドへ依頼が寄越されるのだ。
 よって、往々にして連携が上手くいかないことが多い。しかし今回に限っては作戦が良かったと言えよう。
「まずはその動き、封じさせてもらうとするかの」
「千響衆の名に恥じぬ仕事をしませんと‥‥。狙い撃たせて頂きますわ」
「みんなー、続いてくれなのだぜ!」
 砲術士小隊こと、高崎・クリスティア・叢雲の三人がトカゲの左足に砲撃や銃撃を集中する。
 その巨体を支える二本の足とあって、太く逞しい。だがそれを部位破壊できれば大きく有利に傾く。
 皮膚が弾け、血が吹き出す。痛みに咆哮を上げるトカゲに、側面から石鏡の軍が矢を射かけている。
 志体持ちが放ったそれとはかなり威力が違うが、それでもダメージは蓄積していく。
「おォ!? こ、こいつはデカイだけじゃないナ!」
「デカイ割に俊敏。しかも獰猛と来ている。せいぜい注意を引いてやるさ」
 足に傷を負っているにもかかわらず、トカゲの攻撃は激しい。
 抜群の身軽さを誇る梢でさえヒヤリとする噛み付き攻撃は、尻尾を巧みに使いバランスを保ちながら行なっている。
 第三の足とも言える、丸太よりもなお太い尻尾。それそのものを振り回すこともあり、破軍はなかなか足元まで近づけない!
「ふははははは、戦うと元気になるなぁ! 槍隊、怯むな! 啄木鳥の戦法で攻めよ!」
 巨大な刀を持ち、最前線で斬り込む銀河。その後に続くは石鏡の槍隊。
 こちらにはフリーデライヒも参加しており、銀河と共に戦線を支える。
 彼女も外見的には子供だ。それに頼りっきりとあっては石鏡の兵士として、いや、男として面子が立たないと兵たちの発奮材料になっている。
 攻撃しては引き、注意が正面の開拓者に戻ったらまた突く。地味だが志体の無い者がこのサイズのアヤカシと戦おうとするならこれくらいの配慮は必要だ。
「御大将、魔術部隊はよ!?」
「用意させている! 次に槍隊が引いた時に放て!」
 刀を交差させ、噛み付きをガードした村雨であったが、その質量であっさりと弾き飛ばされてしまう。
 起き上がりながら銀河に声をかけ、石鏡の他の舞台から借りてきたという魔術要員での攻撃を依頼する。
 ブリザーストームが放たれ、トカゲを吹雪が襲う。どうやら寒さが苦手なようで、身震いして二、三歩後ずさる。
 弱点らしきものを発見したは良いが、効果がありすぎたのかトカゲの攻撃目標が石鏡軍の方へ向いてしまう!
 尻尾による薙ぎ払い。開始動作は大きく、薙ぎ払いが来るとはわかるが如何せん分かった時にはもう攻撃の真っ最中だ。
 大質量の肉の塊。しかしそれを、フリーデライヒ、村雨、破軍、銀河が武器を構え四人がかりで受け止める!
 薙ぎ払いは想定済みの攻撃だ。避けるのが困難である以上、複数人で一緒にガードする方が確実だ。
 そして攻撃のために下がった頭を狙い‥‥
「舐めるナ、トカゲ風情ガ」
 顔面を天呼鳳凰拳で殴りつける梢。これには流石に腹を立てたのか、トカゲの注意が再び開拓者たちへ。
「この開拓者すごいよぉ! 流石アヤカシ退治の専門家ぁ!」
「お主もなかなか。猪武者のように見えて部下の統制もきちんと取れておる。惚れてしまうかものう」
「えー!? フリーデママン、俺には惚れてくれないのかよぅ!?」
「お主はそのチャラさをなんとかせい!」
「まぁ良いではないか。ガタガタ震える新兵よりはよほど上等! 我らは‥‥」
『絶っ好ぉぉぉ調ぉぉぉであぁぁぁるっ!』
 フリーデライヒ、村雨、銀河が叫んだ時、トカゲの左足が鈍い音を立ててへし折れ、手を地面について倒れ伏す。
 今までのダメージの蓄積に加え、クリスティアの砲撃により中の骨が砕けたのだろう。これでジャンプはおろか走ることもままならない。
「こちらは銃で撃つしかないしの。どこが弱いか、どこが硬いかくらいは調べさせて貰うのじゃ」
「そういう意味合いにおいて、足は硬い部類ですね。破壊できれば効果は大ですが」
「いっそ右足も潰しちゃうと話は早そうなの!」
 やはり安全性が確保された上での砲術士は強い。相手は的がデカイだけに狙い放題だ。
 しかしトカゲはめげず、尻尾でバランスを取りつつ銀河に顔を叩きつけた!
「おのーれぇぇぇっ!」
 ガードはしたが、やはり質量が違う。似たようなアヤカシが出現したなら、この巨体による質量の差をどうにかすることが求められるだろう。
「ようやく出番らしい出番ですね。皆様なかなか優秀で」
 銀河にダメージが入ったので、閃癒を放つkyrie。無計画に突っ込んでいたならてんてこ舞いになっていただろうが、今回は怪我人が大分抑えられている。
 まぁ、ヒーラーの出番は少ないに越したことはない。そうでなくとも消耗が激しくなるクラスなのだから。
 ある意味最もアヤカシらしいアヤカシであるこのトカゲ。血を、肉を、恐怖を求め、自らが傷ついてもその衝動が収まる気配はない。
 ゴァァァ、と大気が震えるような咆哮を上げ、その牙を剥く!
「どんなに固い皮膚だろうと鈍い痛覚だろうと‥‥足先を叩かれちゃぁ嫌でも痛いだろう?」
「そんなに女が好きかだとーー!? ‥‥だいすき、です」
「なぁぜ泣ク」
 強靭な顎の攻撃を前方回転して回避し、足元に入り込む梢。
 同時に破軍と村雨も走りこみ、右足に攻撃を叩きこむ。
 しかしタフい。銃撃や砲撃に加え、石鏡の弓兵による矢もかなりの数受けているにもかかわらず、未だ倒せない。
 弱っているのは確かだが、気を抜けば噛み千切られんばかりの牙が襲ってくる。なんとも厄介だ。
 それでも、終焉は訪れる。
「折角ですわ。顔に一撃、いかがでしょうか?」
 クリスティアの魔槍砲による砲撃が顔面に直撃し、首を下げたままふらつくトカゲ。
 そこにフリーデライヒと銀河が走りこむ!
「神の国への引導を渡してやる!」
「良き戦であった。これで幕引きとしよう」
 二線の剣閃がトカゲの首を掻っ切る。
 フリーデライヒにいたっては、自分の身長の倍近い刀を振るっているのだから恐れ入る。
 大量の血を吹き出し、それが瘴気に変わり‥‥やがてトカゲそのものも瘴気となって消えていった。
「我らの勝利だ! 勝鬨を上げよ!」
『うぉぉぉぉぉぉっ!』
 怒号が渓谷に響き渡り、反響する。見事な勝利といっていいだろう。
 今回の戦いで得られた戦闘データをまとめると以下のようになる。

・足は硬いが、破壊できれば効果は大
・冷気攻撃に弱い
・尻尾攻撃に注意
・受けるより避けるが基本
・タフなので最後まで気を抜かない

 これらの項目が、巨大なトカゲのようなアヤカシと戦うときの基本となっていくだろう。
 いや‥‥トカゲというにはあまりに凶暴、あまりに凶悪。
 その強さに敬意を払い、恐怖の竜‥‥恐竜と名付けるのも悪くはないかも知れない。浸透するかは別として。
 何はともあれ、無事に依頼達成である―――