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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 史跡の中限定とはいえ、瞬間移動を駆使し鬼神の如き強さを誇った髭の武人。 きちんと回復役がおり、それをしっかり防衛しつつ戦えたことで、なんとか撃破に成功する。 烈火の如き攻撃にボロボロになった開拓者たち。次なる式もこれほどなのかと身構えた。 しかし、続けて現れた男はどう見ても戦士に見えない。それどころか、髭の武人と出身国が違う可能性が高い。 青年は語る。『作曲だけをしながら静かに暮らしたい』と。 「一応、話が通じそうな相手だったのでインタビュゥに行って来ました」 「一人で?」 「ご冗談を。石鏡の兵士さんたちの護衛付きですよ」 開拓者ギルド職員、十七夜 亜理紗と西沢 一葉。この一件の担当者である。 亜理紗は陰陽師でもあり、式のことには精通している。 話を聞くと、青年は不承不承ながらも答えてくれた。 自分は若くして死んだ作曲家であり、折角現世に戻ったのだからそれだけをしていたい。 食事も要らない。病気もしない。そんな身体は、好きな事をやり続けるにはもってこいであると。 しかし、自分がどういう存在であるかも理解している。そして、この時代の人間が彼を排除したがるであろうことも。 理を外した偽りの命。討たれるならそれも仕方がない。ただし、制約もあって全力で抵抗させてもらうとのこと。 「え、だって作曲家さんなんでしょ? 髭の武人さんと違ってあっさり倒せちゃうんじゃ……」 「ところがそうでもないんです。吟遊詩人のようなものでして、曲を奏でて様々な効果を呼び起こして戦うんだそうですよ。楽器は瘴気で構成できるらしいので、レパートリーは彼が作曲した曲の数だけあるでしょうね」 「……重力の爆音とかの、もっと強烈なのもあるかもしれないわけ?」 「はい。御存知の通り、耳を塞げばいいというものでもないですしね」 瞬間移動を繰り返し、曲を奏でての攻撃。ある意味髭の武人よりもたちが悪いかもしれない。 名前を特定されてしまうとかで、作曲した曲名すら教えてもらえなかったが、生前は名うての作曲家だったのだろう。音楽というものについて語る時、青年は少年のように目を輝かせた。 再び作曲できる喜び。死の間際に書いた暗い曲。全てを愛おしみ、すべてを受け入れる。それが彼のスタンス。 「……倒される運命も愛おしんで、受け入れるのかしら」 「……多分。短いながら、充実した人生を送った方なんでしょうね……」 第二の式は、意外にも戦う者ではない作曲家。 彼の望む作曲は、残念ながら長くさせられそうにない――― |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
守紗 刄久郎(ia9521)
25歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●作曲家の心 短い相談期間に急かされながら、開拓者たちはなんとか作戦を立案。再び史跡へと赴く。 亜理紗によるとこれには事情があり、『例の式が曲を多く作れない内に攻めたいから』とのこと。 基本的に、この史跡に現れる式は自らの出自が判明するような行動を取れない。故に、作曲家の式は自分が作った曲ばかりを演奏して出自がバレるようなことができないのだ。 なら他の作曲家が作った曲を? ……何を馬鹿な。それなら自分で新たに作ったほうが早いに決まっている。自分にはそれだけの力があるとの自負もあろう。 長時間の大作でなくていい。ものの五分程度の曲を何曲も作ればそれで事足りる。そういう意味で、少しでも手早く攻めたかったのだ。 が、その目論見はどうやら上手くいかなかったようである。 「……いかがでしたでしょうか? もし戦闘中この舞に会う曲を思いついたら、私達が勝った時その曲をいただけませんか? この時代にあなたが蘇った、その証をきっと伝えます」 遺跡に到着した一行は、神座早紀(ib6735)のたっての希望により作曲家と対話から入る。 舞をひとさし、と扇を閃かせる神座。作曲家はそれを真剣に見つめ、神座の舞が終わった後に惜しみない拍手を送った。 「すごいね、見たことのない踊りだ。どの作曲家が作った曲も合いそうにない……それでいて美しい。文化の違いというのは素敵ですね」 その笑顔は屈託の無いものであり、邪気は全く感じられない。 が、作曲家はすぐに悲しそうに首を振った。 「でも、ごめんね。僕は最初に出た彼と違って戦うなんてことに慣れてないんです。喧嘩だって数えられるくらいしかしたこと無いんだから。いざ戦うことになったら、曲を作ってなんていられないと思います」 すっと立ち上がる作曲家。開拓者たちもそれに応える。 最初こそヴァイオリン協奏曲を作ろうとした彼であったが、演奏するのが自分一人であるのに何が協奏かと思い直したらしい。 その代わり、ここに現れてから作った曲が述べ21曲。全てを使う機会がないとしても充分過ぎる量だ。 「『好きな事をやり続けるにはもってこいな体』なァ。俺には『生きる楽しみがないリビングデット』にしか思えネェがなァ」 「そうかい? 僕にとっては作曲は人生の大きな楽しみですよ。……それにね」 鷲尾天斗(ia0371)の皮肉に、作曲家は苦笑いをする。 構えられた剣や弓、拳に足を震わせながら。 「一度死んだ人間にとっては、生きているだけで素晴らしいという言葉が切実なんです―――」 ふっ、と水に溶けるように姿を消す。 先手を取られては敵わない。そう思ったのだろうか? すると、武舞台を見下ろせる階段上からヴァイオリンの音色が響きだす。 重く重厚な低い曲。それが、戦闘開始の合図であった――― ●連曲 自分でも言っていたとおり、作曲家の式は直接戦闘はからっきしである。 そうなれば必然的に距離を取り、自らの曲で吟遊詩人のような攻撃を繰り出すほかはない。 「……!? な、なんだろう。少し息苦しいような……」 「この曲……まさか、私たちの体力を削り取っている……!?」 雪切・透夜(ib0135)は、十秒ちょっと聞いていただけで敏感に自らの変化に気付く。 何もしていないのに息が上がる。胸が苦しくなり、深く呼吸しなければならない現状を、レネネト(ib0260)は体力を削り取っていると表現した。 それは正しく、外傷なしでゆっくりゆっくり範囲内の敵性人物の生命力を奪っていくのがこの曲なのだ。 「っ! 器用な真似を!」 「うわわっ!? あ、危ないじゃないですか!」 鹿角 結(ib3119)は危険と判断し、すぐさま番えていた矢を放つ。 作曲は演奏を止め、瞬間移動。違う場所に現れ、すぐさま演奏を再開する。 どうやらひたすら逃げ回りながら攻撃してくるつもりらしい。 「ならば、瞬脚で近づければ……!」 長谷部 円秀(ib4529)が大地を蹴り、瞬時に作曲家の傍に移動する。 「ひっ!?」 そのまま刀を突き上げた長谷部であったが、その攻撃は空を切る。作曲家が瞬間移動で逃げたのだ。 この史跡全体に張り巡らせられた術式。その中では、誰がどこに居るか式にはまるわかりだ。 故に、すぐ近くに敵が現れたのを察知し逃げた。情けない声を上げながら……だが。 連続で追いたいが、練力的にも瞬脚の制限的にも無理がある。 「ちょっ、ちょっ、どんどん手の届かない範囲にー! やっぱり接近戦に持ち込むのは厳しいですかね……と?」 井伊 貴政(ia0213)は、追おうにも全く追いつけない状況に歯噛みをする。 が、その横で同じく期を伺っている守紗 刄久郎(ia9521)の様子がいつもどおりであることに違和を感じる。 井伊を含め、7人がどんどん体力を削られ息を乱しているのに、守紗にはそれがない。元気そうに、あっちか、いやそっちかと走りまわる。 もし井伊が同じ事をしたらすぐさまバテる。そんな確信が持てるくらい、この曲はじわじわ効いているのに……。 「守紗さん、平気なんですか?」 しかし守紗、これをスルー。全く無視。 「守紗さーん。おーい。……蹴りますよー?」 軽く怒りながら、井伊は言葉通り守紗を背中から蹴り倒した。 「いってぇぇぇ!? 何すんだよ!」 「無視するからですよ!」 「あん? なんだって?」 すると守紗は、耳栓を外しながら聞き返す。 「……耳栓、効果あるんですか?」 「いや、折角持ってきたんだから使ってみようかなーって。なんかあったのか?」 「耳栓が効果ある曲とそうでない曲があるということでしょうか……」 そんな問答をしている内に、守紗の呼吸が荒くなってくる。体力削りの効果が出てきたようである。 「これ、曲のせいかよ! 持ってきてみるもんだな!?」 「刄久郎、それはもうやめとけ! いざって時の連絡が遅れるんじゃ話にならねェ。それより、お前の叫びを聞かせてやれ! 魂のシャウトをよォ!!」 「お、押忍、師匠!」 耳栓を再装着しようとした守紗を鷲尾が止める。 防げる曲もあるにはあるのだろうが、物理的な衝撃を伴うような曲の場合無意味であろう。そういう意味も含め、連絡を阻害する耳栓はここでお役御免だ。 「バックミュージックを担当します。どうぞ、思いっきり」 作曲家に対抗するように、レネネトが三味線で演奏を開始する。 それには特殊な効果はないが、相手の曲調が乱れ体力の減少が止まったような気がした。それに乗じて、守紗がとある作戦に打って出る……! 「ありがとさん。すぅ…………うちの嫁様は天義一ィィィィ!!!!」 ずるっ! 「でけェ声でお惚気か固羅ァ!?」 「咆哮! 咆哮ですってば師匠! ほら、相手の動き止まりましたって!」 「味方の動きも止まったッつーんだ!」 「き、君ねぇ! 演奏中に大声を上げるなんて、なんてマナーがなっていないんだ! 戦っているとはいえそれだけはやっちゃ駄目だろう!?」 「知るか! 目には目を、音には音だ!」 「そんな騒音と僕の音楽を一緒にしないでくれたまえ! 手荒な真似はしたくなかったが、予定変更です!」 守紗の大声に抗議の声を上げる作曲家。鷲尾に小突かれつつも、守紗は作曲に反論した。こういう所が、命のやり取りをしたことがない素人丸出しの主張であると言える。 ゆっくりじわじわ削っていく曲から一転、楽器をトランペットに持ち替え吹き鳴らす。すると、音と共に球状の衝撃波が守紗を襲う! 「僕にまかせてください!」 オーラシールドを展開し、雪切が盾で代わりにガードする。 そしてすぐさま苦無を投げ放ち反撃するが、作曲家は慌てて瞬間移動。回避する。 「こ、これは駄目ですか! なら次の曲!」 作曲家の腹の前辺りに、ピアノの鍵盤部分だけが出現する。それを押すことでもしっかりピアノの音がするのだから妙なものだ。 軽快なテンポの曲。それに導かれるように、不規則な動きをする光球が開拓者に向かう! 「その楽器は正確に盤を押す必要があるはず!」 「ひぇぇぇっ!?」 鹿角の矢は正確無比。悠長に鍵盤だけを見ている訳にはいかない。 姿を現していては不利だと感じたのか、作曲家は別の場所に瞬間移動してしまう。 姿は見えないが、曲は聞こえる範囲。その証拠に、ピアノ曲で操られた光球が降り注ぐ! 「私が打ち落とします! お二人は敵の索敵を!」 「やっぱやり難いなァ! こういう手合いはよォ!」 「申し訳ありません、そろそろ練力が厳しいです! 手早く決めていただけると嬉しいです!」 鹿角は鏡弦で、レネネトは超越聴覚で作曲家の位置を探る。 その二人を守るため、長谷部と鷲尾が光球を迎撃。しかしそこに悪い知らせが入る。 最初のヴァイオリンの曲で体力をすり減らしたため、回復に奔走していた神座の練力消費が激しい。 今すぐ枯渇するわけではないが、長期戦は不利である。 「……わかりました。あちらの方向、距離はそこそこ。弓で狙える距離ですが、こちらの技ではおおまかな位置しかわかりません」 「…………聞こえます。音が反射しているように聞こえますので、手前に壁か何かがあると思われますが」 「その方向で壁がある場所……もしかしてあそこかな? 結さん、六十メートルほど先、なるべく垂直に刺さるように射れますか? ……あぁ、もう少し右です」 鹿角とレネネトの報告を受け、雪切が居場所を特定する。 彼は事前に史跡の内部構造について調べて回っていたので、その成果だろう。 頷いた鹿角は、弓を空に向け引き絞り……放つ! 風を切り、飛んでいった矢。やがて、レネネトの耳に悲鳴が飛び込んできた。 「ど、どうやって僕の居場所が……!」 肩口に矢傷と思われるダメージが見受けられる。作曲家もいきなり矢が飛んできたのにはびっくりしたに違いない。慌てて姿を現した。 「まぁ、力を合わせた結果と申しましょうか」 「うぅ……僕は本当に、作曲だけできればよかったのになぁ……!」 「世の中、ままなりませんね……。でも、それだけです。誰かを討つのに、自分を誤魔化す言葉を並べる気はありませんので」 愚痴を言い出す作曲家に対し、雪切はあくまで冷静に……そして確実な行動を重ねる。 もう何度目かの苦無を投げ放ち、作曲家はそれを瞬間移動で回避した。 だが、それは最も危険な罠……! 「ふっ!」 「……っ!?」 不意に雪切が右手を振りぬく。 味わったことのない戦慄を覚えた作曲家であったが、如何せん彼は武人と違い戦闘経験は皆無。緊急時の対処法など知っているわけもない。 雪切が投げた苦無には鋼線が巻き付きられており、引き戻せるようにしてあった。 それに聖堂騎士剣を付与し、軌道修正をすることで鋼線部分をぶつけたのである。 もちろん、武器の威力としてはさほど期待できない。しかし、アヤカシに効果のある聖堂騎士剣が付与してあるとなれば話は別。 作曲家は右足を切断され、地面に倒れ伏した。 「ぐぅぅ……! 痛い、痛いぃぃぃ……!」 痛みへの耐性も覚悟も少ない素人にはきつい攻撃だった。それでも式として戦うため、瞬間移動で体勢を立て直したのは評価するべきだろう。 「おや。そんなところに居ていいんですか?」 「はぁ、はぁ……! あなたには遠距離を攻撃する手段はないでしょう! 他の人の近くにいるよりはマシです!」 井伊から十メートルちょっと先に出現し、柱を支えにしている作曲家。 だが、井伊も雪切と同じで相手への敬意こそあれ同情はない。 「あららー。最初の対戦を知ってたのが仇になりましたねー」 「え……?」 完全に意識の外にあった井伊の攻撃……真空刃。今日のためにと井伊が習得した遠距離攻撃。 脇腹を大きく切り裂かれ、作曲家はもんどり打って倒れ伏す。 ゆっくりと瘴気に還る身体。元が素人だけに耐久力も低いのだろう――― ●三人目 「はは……ま、参ったな。たったの三曲しか披露出来なかった。全部演奏してやりたかったな……」 「吟遊詩人として、聞いてみたかったです。戦いの場ではなく、コンサートでゆっくりと……」 レネネトは消え行く作曲家の手を握り、声をかける。 作曲家も、時を越えて出会った音楽家に応えるように微笑む。 「あぁ……でも、幸せだった。また作曲ができるなんて思ってもみなかったから。……他の人達はどうか知らないけれど……僕は、この術を作った人に……感謝する……よ……」 風がざぁっという旋律を奏で、静寂が訪れる。 二人目の式である作曲家は、再び永遠の眠りについたのだ。 「気ィ抜くなよ。次のやつが出てくるぞ」 「どんなやつか知れたもんじゃ無いッス」 「……刄久郎、その口調は止せや」 「はい……? はぃぃぃぃぃ!?」 鷲尾と守紗のやり取りの最中、不意に辺りが薄暗くなる。 急に曇った? そう思い上を見上げると、そこには小型の帆船が浮かんでいた。 元のサイズから比べると大分小さい。が、そもそもそれがそこにあるというのがおかしいのだが。 「いよう、俺が三人目だ。お互い因果なもんだが、まぁ、やるしかないらしいぜ。よろしくなぁ!」 帆船の縁から、ひょいと顔を出す一人の男。 作曲家と同じくジルベリア風の服装。彼よりはガタイがいいが、戦士と言うより船乗りの青年という風体だ。 「おまえら、開拓者っていうんだろ? いいよなぁ、開拓! 冒険! くぅーっ、昔を思い出すぜ……俺も式なんかじゃなかったら思いっきりこの時代を冒険したいもんだ! 東の皇帝陛下、元気にしてるかなぁ……ってもう死んでるか!」 気さくな人なつっこい笑顔。志に燃える瞳。彼もまた情熱溢れる人物なのだろう。 しかし。 「泣きっ面に蜂で悪いが、攻撃させてもらうぜ。上手く逃げろよ」 船乗りの言葉と共に帆船が回頭し、その横っ腹を晒す。そこには、黒光りする砲塔が並ぶ……! 「ってーーー!」 船体同様、大砲も小型化しているが直撃を許容出来る威力ではない。 神座の練力も保たないと思われる以上、逃げるのが正解だ。 「史跡を壊す気ですか!?」 「史跡を壊そうとするやつを殺せっていう制約はあるけど、その時に史跡を壊しちゃ駄目って制約はねぇもんよ。悪いねー」 作曲家から受けたダメージより、逃げる際の砲撃で大分削られた開拓者たち。 三人目に現れたのは、冒険家と言うか船乗りの青年――― |