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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 吟遊詩人を延長したような攻撃を仕掛けてきた作曲家の式。苦労はさせられたが、やはり戦闘の素人であったのが災いしあえなく撃破された。 しかし、開拓者ギルドの職員、十七夜 亜理紗は考える。『何故素人を式にしたのか?』と。 他にいくらでも戦闘に秀でた人物はいただろうに、どうして彼だったのか。どうにも解せないと言うか、効率の悪さが頭に引っかかった。 「で、何やってるの?」 「例の術式の解析です。というか、小規模に再現してみようかと思ったんですが……」 「何気にすごい事言ってない……?」 「理論上はできなくもないと思うんです。ただ、どうしても人選が納得いかなくて。最初の髭の武人さんはともかく、作曲家さんとか船乗りさんはどうにも守護者として劣ってると思うんです。彼らを組み込まなければならなかった理由でもあるのかと思ったんですが、どうにも思いつかなくて……」 ギルドの先輩、西沢 一葉が覗き込むと、紙に何やら術式の理論めいたものが書き連ねてあった。 内容はさっぱりだが、解析作業が進んでいないことだけは分かる。 「そういえば、三人目の船乗りは小型の帆船に乗ってるんだったわよね」 「はい。しかも飛んでます。大きさは多分、5メートルくらい。元となった帆船がどれくらいの大きさかは知りませんが」 「大砲付きの空飛ぶ帆船ね……式でなかったらそれこそどこにでも行けそうだけど、史跡の面積から外には行けないと。もどかしいでしょうねぇ」 「問題なのは、船は本体ではなく装備扱いであるところです。船を壊しても式本体には痛くないでしょう。作曲家さんが使った瘴気で作る楽器みたいなものですから、いざとなれば再構築もできるでしょうし……」 要は、空飛ぶ帆船に乗り攻撃してくる相手を、船乗りだけを倒さなければならないということだ。 これだけ大掛かりな装備を持っているということは、船乗り本人の戦闘力は大したものではなかろうというのが専門家の御意見である。 とはいえ、船から引きずり下ろす方法がまたが問題なのだが。 「遠距離攻撃を主体とするか、朋友に頼るか……ですね。大砲以外に妙な武装が付いてないといいんですが」 「え? 朋友は駄目よ、うっかりで史跡を壊されちゃたまらないから禁止令が出てるでしょ」 「今回の場合は事情が違います。朋友に頼り過ぎないで、運搬程度に止めてもらえば大丈夫ですって。他に飛行手段はないんですから」 「うーん……まぁ、とりあえず申請してみるわ」 史跡の上空を飛ぶ小型帆船。それを操る船乗りの式。 また珍妙な相手ではあるが……開拓者の手腕が今日も問われる――― |
■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213)
22歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
守紗 刄久郎(ia9521)
25歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●いざ、出航 もう何度目かの史跡への道。しかし今回は全員朋友である龍に乗っており、地上を眼下に移動している。 目指す先には、場所に不釣り合いなものが浮く。あれさえなければ龍を使う必要はなかったのだが。 全長約5メートルほどの、ダウンサイジングされた帆船。海ではなく宙に浮くそれは、前回大砲でえらい目に遭わされた瘴気の塊である。 守るべき史跡の破壊も考慮しない姿勢も相まって、今回は空中戦がメインとなる。もっとも、大っぴらに龍を使うのは推奨されていないので朋友のスキルは封印状態だが。 史跡に到着した一行は、武舞台に立つ船乗りを発見し自分たちも地上に降り立った。 「よう、来たな。待ってたぜ」 「お話を聞いてくださるようで嬉しいです。不躾ですが、アル=カマルはご存知ですか?」 手を上げ、気さくに挨拶する船乗り。神座早紀(ib6735)はその表情から話ができると踏んで質問を投げかける。 「アル=カマル? いや、知らないなぁ。どこかの国かい?」 「そうですか……嵐の壁がない時に生きていらしたのなら、ご存知かと思ったのですが……」 「ならば私もお聞きしたいことが。東の皇帝陛下というのはどなたのことです?」 船乗りに嘘を言っているような気配はない。 レネネト(ib0260)は疑うくらいならさっさと次の質問に移るべきと言葉を続けた。 「名前は……言えないみたいだな。なんというか、俺の生まれた国から何日も東に航海してやっと辿りつける国があってさ。そこはどこまでも地平の続く広大な国で、豪華絢爛な宮殿に住む絶大な権力を持った皇帝陛下がいるんだ。そうだな……どっちかっていうと俺よりこの国に住むあんたらに雰囲気が近いかな。言葉は全然通じなかったから苦労したぜー」 「嵐の壁がなければ、今もその国に辿りつけるのでしょうか……。というかそもそも、あなたはジルベリアの方ですか?」 「いんや? 俺の国は…………ってこれも言えねぇのかよ! ……うわ、駄目だ。他の地名も言えない。徹底してんなぁ」 自らの出自が判明するような行動を、彼らは取れない。苦笑いする船乗りからは、これ以上の情報は引き出せそうにない。 (……しかし、どういうことでしょうか。口にできたということは、東の皇帝陛下というのは本人の出自に関係しないということになりますよね……) レネネトの疑問は解決に至らない。 ジルベリア出身ではないと言うが、その当時ジルベリアがジルベリアという名前でなかっただけの可能性もある。 嵐の壁の先にまだ見ぬ世界があり、そこを開拓していくことになるのだろうか……? 「私としましては、偉大な先輩であるあなたの冒険譚を聞きたいところなのですが……」 「俺も聞きたいところだが、生憎となぁ。俺達の……いや、俺の未来は一つだけだし」 長谷部 円秀(ib4529)に限らず、船乗りと純粋に語りたいという者は多い。 だがこれまでと同様、戦うしか道はない。そして滅びしか結末がないと、船乗りも悟っている。 開拓者たちは顔を見合わせると、それぞれの朋友の元に散らばっていく。 「まさか伝説のドラゴンをこの目で見られるなんてなぁ。くぅーっ、やっぱりこの時代、冒険してみたいぜ! ……っつーかおまえ、噛まれとるぞ」 「よし焔弩。まず噛むのを止めなさい、というかやめて下さいお願いします」 守紗 刄久郎(ia9521)で見事なオチがつき、一行は戦うために空に舞い上がる。 教訓、朋友はしっかり可愛がりましょう――― ●空という名の井戸 開拓者たちが龍に乗り空に舞い上がったのを確認すると、船乗りも水に溶けるように船へと瞬間移動する。 何匹もの龍に取り囲まれた小型の帆船。見た目には絶望感が漂うが、そう安々とはいかない。 「よっしゃ、出航だ!この成績の範囲だけっつー狭い海だけどなぁ!」 「風と衝撃波は違いますが……果たして、上手くいくかどうか……!」 バーストアローで帆の辺りを狙い、船の動きを見出せないかと試す鹿角 結(ib3119)。 効果がないわけではないようだが、やはり自身でも言ったように効果は薄い。一瞬バンっと帆が突っ張るが、船に大した動きはない。 「小細工だぜ! てーーーーっ!」 「そちらも一度見た攻撃です!」 大砲を斉射し反撃する船乗り。乗組員もいないのにどういう仕組みなのだろう? 鹿角は龍を巧みに駆り、それを回避していく。 「結構ッ! 洒落にッ!? ならんッ!! ぞッ!! こなくそォォォ!?」 船乗りは両面の大砲を休まず発射しており、側面には休まる場所はない。 きっちり時間差で砲弾を飛ばしていたりするあたり、海戦の経験があるのは明らかだった。 守紗は相棒に避けてもらいつつ、必死に焙烙玉を大砲に向かって投げつける。 しかも鬼腕まで使用しており、そのスピードは尋常ではない。 爆音が響き、大砲が二つばかりまとめてひしゃげてしまった。 「六番と七番が!? ちぃっ、ちっちゃくなってるとこういうこともあんのか!」 今更ではあるが、目標の帆船はさして機動力がない代わりに運動性が尋常ではない。 普通なら船の回頭には長い時間がかかるが、この帆船は細かい軌道修正などお手の物なのだ。 故に、逃げる龍をその場で一回転しながら大砲で撃つという真似もできたりする。 「くるくるとよくもまぁ……! ほらほら、こっちにもいますよ!」 「おうよ! 髭の武人との戦いは知ってるから、対処法もあらぁ!」 井伊 貴政(ia0213)と守紗は咆哮を使い、攻撃を誘導している。が、船乗りは飛び回る二人を同時に大砲で狙うという真似が出来るのだ。 しかも飛び回る龍を狙うため船の角度をいちいち変えているので、突入班が迂闊に近寄れない。 だが、そんな時に役に立つのが…… 「力の歪みです!」 「重力の爆音!」 「っ!?」 神座とレネネトの術により、ミシミシと音を立てるマスト。すぐに破壊されるわけではないようだが、船乗りの性で帆のことは大いに気になるらしい。 術は基本的には命中するものである。多少角度が変わっても関係ない。 「そこっ!」 そして、鹿角の射撃がやはり頼りになる。直撃しないまでも、その正確な遠距離攻撃は船乗りの意識を大きく引き寄せる。 そして、船が水平に戻った時……! 「髭、病弱、海の男……そろそろやる気がヤバいですたい」 「SAみたいな構成が異常なんですよ。真面目にやってください」 「へいへーい」 上空で待機していた鷲尾天斗(ia0371)と雪切・透夜(ib0135)が、機を見て突撃する。 好機とは言い難い。しかし、待つばかりでは引き付け役が保たないかもしれない。 事実、神座や守紗の龍は何発か砲弾をもらっている。 船がどうにもできない真上からの突撃。それに対し、船乗りは……! 「甘ぇんだよ!」 船をその場でぐるりと回転させ、船底を空に向ける。 「いけ、アンカーチェーン!」 「しまった! 想定はしていたのに……!」 船から錨が発射され、鷲尾と雪切を龍ごと拘束。その場で再び回転し、拘束したまま史跡の武舞台に叩きつけた! 「ハン、船が上や下からの攻撃に弱いなんてこったぁ百も承知なんだよ! 俺が何年航海で生活してたと思ってんだ!」 空中だからこそ、瘴気の塊だからこそできる異常な船の動き。それは武人の技とも、作曲家の曲とも似た船乗り独自の力。 「では、乗り込まれた時のこともわかりますよね?」 「……!」 声に振り向くと、長谷部が静かに甲板に立っていた。 先程の回転劇の最中、帆にダイブしそのまま甲板に着地したらしい。 波がないため揺れない船の上。しかもダウンサイジングされているため二人の距離はほぼ無い。 動きづらくはあるが瞬脚のある長谷部からは逃げられないだろう。いくら銃を持っていても、構えている間に殴り倒されるのがオチだ。 「……白兵戦は苦手なんだよなー」 「ならば、これで終わりです!」 「それはどうかな」 長谷部が瞬脚で船乗りの目の前に出現。その拳が顔面に叩き込まれるかというところで船乗りの姿が消えた。 地上に降りた? しかしその姿はどこにもない。 「一体どこに……。……っ!?」 船の上から地上を探していた長谷部が異常に気付く。 影。太陽光に照らされ浮かび上がった船の影が……二つ……! 「俺の時代の航海ってのはさ……『船団』でやるもんなんだよな」 一つ、また一つと増える船の影。その数、合計五隻……! 「ってーーー!」 同型の船から次々と砲弾が発射され、長谷部の居る船を直撃する。 原型を保てなくなった船は瘴気と化し、長谷部は地上へ真っ逆さま。 「帝釈!」 たまたま近くにいた井伊が長谷部を救出する。そして、最初の船が消えたことにより鷲尾と雪切を拘束していたアンカーチェーンも消滅、二人が戦線に復帰する。 「マッタクよォ、毎回毎回飽きさせないこったァ!」 「いやはや……。こんな使い方をしなければ、意味を見いだせる術でしょうにねぇ……勿体無いなぁ……」 撃沈した最初の帆船もすぐに再構成され、再び五隻の船が宙に浮かぶ。 軽口を叩きながらも分の悪さを隠せない開拓者たち。そこにレネネトが進言する。 「私にいい考えがあります」 「その台詞自体が失敗フラグなのでは……」 「船乗りさんが乗っている船以外は言わばオートで動いていますから、大砲を撃ち続けることくらいはできても細かな動きは無理でしょう。なら……」 「あぅー、無視されましたぁ」 神座のツッコミを完全スルーするレネネト。彼女が立てた作戦を聞き、一同はそれに賭けることにする。 闇雲に戦っても消耗するだけだ。ならば少しでも確率の高い戦法を試すべきだろう。 四人は散開し、他の四人に作戦を伝える。そして…… 「行きますよ、みなさん!」 「お? なんだなんだ?」 レネネトの合図と共に、井伊が船乗りが乗っている船に向けて突撃する。 砲弾を掻い潜り、一気に船乗りの元へ! 「アホか! 移動すりゃ済むことだろ!」 井伊が船に乗り込んだと同時に瞬間移動し、別の船に移る船乗り。しかし? 「守紗さん、右下の船です!」 「あいよ! 今ッ! 必殺のッ! ギロチン踵落としィィィィ!!」 超越聴覚で相手の位置を探っているレネネトが、船乗りの行く先を他のメンバーに伝える。 守紗はすぐさま龍から飛び降り、強烈な踵落としを狙う! 「馬鹿か!? そんな高さから!」 また瞬間移動する船乗り。が、今度は鷲尾が突っ込んでくる。 ここまで来ればもう明白だ。開拓者たちは、船を全て占拠する気なのである。 船が五隻以上出せないことが前提だが、船乗りの焦り具合から追加はないとレネネトは判断する。 「くっそ……! アンカーチェーン!」 「二度も同じ手喰らうかァ!」 船底を晒した船を迂回し、下側に向かう鷲尾。船乗りの方も通用すると思っていなかったのか、すでに移動した後だった。 「ヤバいヤバいヤバい!」 「船が小さすぎるんです……よっ!」 「俺の所為じゃねぇぇぇっ!」 すでに先回りしていた雪切。聖堂騎士団剣の怖さは把握済みであり、必死の形相で瞬間移動する。 これが最後の一隻。そこには誰もいなかったが、レネネト、神座、鹿角が遠距離攻撃をいつでもたたき込めるよう準備していた。 三人の集中砲火を受けようという時、すんでのところで瞬間移動に成功。 しかし、どこへ? 船は全部開拓者に占拠されている。 ならもう行く先は一つしか無い。地上だ。 「はぁっ、はぁっ、くそ、あっぶねぇな! 一度出したら自由には消せねぇんだ―――」 その言葉は最後まで続けられなかった。あまりの事態に言葉を失ってしまったのだ。 突如目の前に青い閃光が龍のように走る。それは、長谷部が瞬脚から繰り出した絶破昇龍脚の光り……! 雷鳴のような大音響が響き……そして、静寂が訪れる――― ●四人目 「だぁーっ、負けた負けたぁ! やっぱ無理だったかぁ! いい機転だったぜ!」 船乗りは作曲家と同じくらい脆く、長谷部の一撃で瘴気と化していく。 厄介な分、船の方に力を持って行かれすぎているのだろう。 「頑張れよ! 世界はまだまだ広いはずだ……俺の分まで冒険、頼まぁ!」 豪快に笑って消滅した船乗り。名も知れぬ誰かとして船もろとも時の波間へと消えてしまった。 「で、息をつく暇もなく次なわけですね。皆さん、準備を」 神座に言われるまでもない。とりあえず前回で懲りた。 だが、辺りに不審な者の気配はなく、何かが空に出現するわけでもない。 今度は地中からかとも思ったが、それは最早人間ではあるまい。 と。 「あ、あの……あなたたちが戦う相手、ですよね?」 ひょっこりと史跡の影から姿を現したのは、十代半ばくらいの少女。 長い銀髪を揺らす、美少女と言っていいい風貌だ。 「女の子キターーーッ! ようやく俺のモチベーションが回復するぜ!」 凄まじいスピードで少女に近づいた鷲尾。少女の方はビクリと身を強張らせ怯えている。 「あーなったら師匠は最強だよなぁ……」 苦笑いする守紗を尻目に、鷲尾はナンパに入っていた。 「名乗れないのは残念だよなァ。まァいいや、よろしくカワイコちゃん!」 「えっ……わ、私、可愛いですか!?」 「勿論! キミも名のある英雄なんだろうけど、ほっとけない可愛さだぜ!」 「うふふ、嬉しい。でも……嘘じゃ♪」 少女の顔の皮がベリッと剥がれ、しわくちゃの老人が姿を現す。 纏っていたドレスも一瞬で天儀風の着物に変わり、声も少女のものから老人のそれへと変化する。 「じ……ジジィィィィィッ!」 「ホッホッホ! 外見に 惑わされるが 愚かなり。変装は忍者の得意分野でのう」 「殺す! 絶対ェ殺す! うがーーーっ!」 「ホレホレ気張らんかい。止まって見えるぞい」 「……あーなったら師匠は最弱だよなぁ……」 鷲尾はマジギレしつつ老人に斬りつけるが、老人は恐ろしい瞬発力でそれを回避する。 とても戦闘向きの格好ではないのに、本当に老人かと思ってしまうくらいだ。 「ぜぇっ、ぜぇっ、げ、元気なジジイだ……!」 「まーだまだ若いもんにゃ負けんわい。ホレ、この馬鹿を連れて一旦帰れ。死ぬぞい」 「あ? 何を―――」 老人がくいっと指を折り曲げると同時に、鷲尾が体中から大量に出血する。 鋭い一直線の傷跡が多数。鋼線か何かだろうか? 「ワシゃ瘴気で罠を編めるでな。俳人や 去る者追わず 耐え忍び。などとな」 守紗が鷲尾を回収し、神座に回復してもらう。 式である老人はカラカラと笑いながら手を振り、一行を見送った。 どうやら四人目は、俳人と名乗るシノビ――― |