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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天空に浮かぶ帆船は、開拓者たちの活躍により藻屑も残さず消滅した。船乗りは当然の結末とそれを受け入れ笑って消えた。 姿を現すのは第四の男。変装で開拓者を惑わし、その動きで圧倒する。 瘴気で編まれた罠、罠、罠。開拓者たちはその向こうに何を見るのか。 次回、『忍ぶ真実』。老人の瞳に哀しみが宿る――― 「これは……まさか、そんな……!?」 開拓者ギルド職員、十七夜 亜理紗は陰陽師である。 ずっと研究を続けてきた史跡に巡らされた術式。彼女は、とうとうその真実に行き着いてしまった。 最初の武人以外、守護者としては一歩も二歩も劣る人物が式とされている理由。それは、術の基礎そのものにあったのだ。 翌日、亜理紗はそれを先輩職員の西沢 一葉に打ち明けた。包み隠さず、全て。 一葉の反応もまた、信じられないという絶句であった。 「人物が設定されていない……!? どういうことなの!?」 「術の解析を行ってて、ずっと不思議だったんです。特定の人物を記憶しておく領域がないのはどうしてなんだろうって。で、つい昨日……様々なキーワードが散りばめてあるということに気付いちゃったんですよ。性別、年齢、体躯、性格、武器、クラス、エトセトラ! それらをランダムで当てはめて、いもしない捏造人物を作り出すのがこの術なんです……!」 では、何か。今まで戦ってきた人物たちは、たまたまそういうキーワードが組み合わさって出来ただけということか? そう考えれば、たまたま最初と四番目に戦いに長けた人物が出てきただけであり、一般人が二人も続いたというのにも説明がつくが……。 「で、でも、彼らの記憶は? そんな細かいことまでキーワードで設定してるの!?」 「多分……。ですから、『出自を明かす行動が取れない』んじゃなくて、『元々出自がないから語れない』っていうのが真実なんですよ。ただ、式本人たちは自分たちがかつて人間で、確かにこの世界に存在していたと思い込んでるんです。きっと、そんな道化振りを見るのも楽しかったんじゃないでしょうか、開発者は……」 東の皇帝陛下というのも出自に抵触しない、キーワードで設定された記憶に過ぎないから口に出来たわけか。 一般人には決して理解出来ない謎の陰陽師の感性。あの場所に術を施したのも、史跡を守ることを目的としたわけではなく、ただ単純に適当な場所で実験がしたかっただけだったと言われたほうがしっくりくるレベルだ。 哀れなのは式たち。何の脈絡もなく生み出され、人間と思い込まされ、倒されるだけの存在……。 「それでも制約で戦うことは止められません。真実を話しても『何を馬鹿な』って笑われるでしょう。このことを式の人たちに話すかは、開拓者の方々にお任せしますが……」 「……このまま放置しても誰も得をしないっていうことね」 「……はい。いつまでも道化としてそこに在るだけになっちゃいますから……」 方針は変わらない。やることも変わらない。しかし、明かされた謎はまたしても悲劇。 特に今回は、相手が強敵必至というのが問題だ。道具を用意せず、瘴気で様々な罠を編むシノビというのは聞くだけで恐ろしい。 開拓者の快進撃もここまでとなるのか……それとも――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
守紗 刄久郎(ia9521)
25歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●心、忍ばせて 史跡にたどり着いた一行は、いつものようにすぐに侵入……はしなかった。 神座早紀(ib6735)が瘴索結界を発動、前方を確認すると、至る所に瘴気で編まれた罠が張ってあることに気付く。 鋼線、槍衾的な何か、トラバサミ、縄による捕縛罠にエトセトラ。よくもまぁと思える徹底ぶりであった。 勿論、この事態を予測していた一行。相手がシノビと名乗るからにはこれくらいはやって当然である。 「ちょっと面倒だなぁ……。まあ、適材適所でいきましょうか」 「罠の解除はお任せを。忍眼でも確認できます」 先頭を歩く守紗 刄久郎(ia9521)と秋桜(ia2482)が、それぞれの得物を手に罠を解除していく。 守紗は神座に指示を出して貰う必要があるが、敵と同じシノビの助っ人、秋桜は自前で何とか出来るようである。 罠解除の作業もあって、開拓者たちは言葉少なだ。いざ戦いとなれば関係ないが、やはり告げられた真実に悩むなり思うところがあるメンバーは多い。 ようやく武舞台までたどり着いた一行。見下ろす先には、前回も見た少女……に変装したシノビの翁。 「いやーん、みなさん待ちくたびれましたわーん♪」 「だからそれ止めろっつってんだろジジィ! ネタバレした後にやったって意味ねェだろーが!」 「ホッホッホ、そうだったのう。ホレ、悔しければかかってこんかい」 「上等だ固羅ァ! 貴様だけは許さん! 心に深い傷を負った俺の糧になれやァァ!」 「落ち着いてください。武舞台までの間にまだ罠があるみたいですから」 今にも飛び出しそうな鷲尾天斗(ia0371)をレネネト(ib0260)が服を引っ張り制する。 鷲尾自身も前回の轍を踏む気はないが、彼ならやりかねないという不安感があったのだ。 しっかり確実に罠を破壊しつつ、シノビの元へ。その間に老人は変装を解き、腰の曲がった本来の姿へと戻っていた。 問答の余地はない。しかしそれでも一つだけ、神座は聞きたいことがあった。 「あの……一つだけ教えてください。……かつての人生は良い人生だったですか?」 質問の意味を測りかねた老人であったが、神座の真剣な表情を見て答えを出す。 「……おぉ、良い人生であったよ。弟子と一緒に俳句を作りながら旅をしとったんじゃがの、実はワシらは各国の情勢を調べる間者だったのじゃ。じゃが途中で旅のほうが楽しくなってきてしもうてなぁ。抜け忍になったバチが当たったのか、途中で病にかかり、ポックリ逝ってしもうた。わっはっは!」 「……それでも、良い人生だったんですか……?」 「然り。人生の最後に、本当にしたいことに出会えた。それをしながら死ねた。これ以上何を望むのじゃ」 カラカラと笑う老人。その笑顔に曇りは一切ない。 それを聞いていただけのはずの神座の頬に、銀の一滴。 「およよ。どうしたねお嬢ちゃん」 「……いえ。いいえ、なんでもありません! みなさん、戦いましょう!」 「そうですね。これまでと変わらない。誇りある戦いを」 「自分を誤魔化す飾りは不要。さて、討ちましょうか。何時も通り、何時もの様に」 長谷部 円秀(ib4529)と雪切・透夜(ib0135)を筆頭に、全員が構える。 雪切は今回、フードを被った状態のままでいる。作戦のためとのことだが、果たして? 「いざ参ります。この矢、始まりを告げん―――」 鹿角 結(ib3119)が口火を切って、バーストアローを放つ。 瘴気の罠を巻き込み粉砕しながら飛来するそれを、老人は瞬間移動すらなしで的確に躱した。 四度目の戦いが、今まさに始まったのだ――― ●罠の有効活用 戦闘開始から五分経過。修羅場をくぐってきた開拓者たちならば、老人の罠の設置にいくつかの条件があることを看破するのは容易かった。 まず、射程。これはおよそ五メートル。五メートル先までならば設置が可能。 そしてその設置には手を動かすことによる印のようなものが必要であり、手の動きを見ていれば、種類はともかく設置されたということは判別できる。 だがその種類が不明というのがタチが悪い。秋桜と神座にはどんな罠かすぐわかるが、他の面々は教えてもらわないとどうにもならない。 接近しようと踏み出した足元に縄を張られ、すっ転ぶことなどざら。おかげで主力の長谷部や雪切たち接近戦メンバーが近づけない。 おまけに相手は例のごとく史跡内の瞬間移動が可能。いきなり背後に立たれることにももう驚かない。 「おっと、させるか!」 「ひょ。直衛か……やるのう」 回復ができ、罠の看破も行う神座は当然邪魔な存在である。 これまでの戦いもそうだったが、老人にとってはそれ以上にいの一番に叩いておきたい。 が、それを見越した守紗が護衛に回っている。例え背後から現れても問題はない。 地断撃を放ち、罠ごと老人を吹き飛ばそうとする守紗。しかし瞬間移動で回避されてしまう。 「鷲尾さん、右後方です」 「素早い上にこの罠……チィ、攻めきれねェ」 レネネトも超越聴覚で索敵を行なっているが、報告して対応では遅い。 鷲尾の魔槍砲が虚しく空を切り、史跡の一部を砕いた。 「これこれ壊すでない。年寄りも文化遺産も大事にせんかい」 「だったら動くなやァ!」 本当は老人ではなく、変装した若い忍者なのではないかと思ってしまうくらい老人は素早い。 しかしその老練な戦法、所作、状況判断は確実に年輪を重ねたものだ。シノビの師として弟子を募れば相当優秀なシノビ軍団ができることだろう。 最初の武人以上に瞬間移動との相性がいい。手裏剣の投擲などでジワジワダメージを増やしてくるのも抜け目がない。 「くっ! 瘴気で畳返しですか!?」 「ホッホ、まだまだじゃな若いの」 秋桜も手裏剣で応戦するが、罠は防御にも使えるらしい。 まるで蜘蛛の巣であると評した秋桜は正しいのかもしれない。もがいても抜け出せず、ずるずると深みに嵌っている気がする。 戦士としての本能で分かる。このままではなぶり殺しにされる、と。 「バラバラに攻撃しても駄目です。足並みを揃えて一気に追い込みましょう。幸い、殆どの人が遠距離攻撃を所持してます」 「今までの経験則から行くと、当てられれば脆いと思われます。問題は、当てられるかどうか……!」 雪切の言葉に、全員が一度冷静になる。 鹿角の予想は恐らく正しい。あそこまでの機動力と特殊な能力を持っている以上、耐久力は紙だろう。 が……! 「いい読みじゃ。じゃがのう、作戦会議は感心できんぞい」 『っ!?』 鹿角の足元に寝そべる形で出現した老人。すぐに移動してしまったが、全部聞かれたと思って間違いない。 「他の連中はいざしらず、ワシの前で相談など筒抜けよ。そうくるのであればこちらにも考えがあるわい」 そう言うと、老人は黒い小さな玉を懐から取り出し、地面に叩きつけた。 すると周辺に煙ならぬ瘴気が吹き出し、開拓者たちの視界を一瞬塞ぐ。 視界が戻った時には、開拓者は9人に増えていた。正確には、神座が二人に増えていたのだ。 『えっ、私……!?』 まったく同時に喋る二人の神座。瓜二つというか、本人が二人いるとしか思えない再現度である。 「わ、わっかんねェ。……早紀大好きだ」 『変なこと言わないでください。不快です。死にます』 「ひっでェ!?」 「……いつか身を滅ぼしますよ。ほいっと」 鷲尾は放っておいて、直衛の立場上神座の一番近くにいた守紗が、片方の神座の肩に触れた。 それは予め決められた合図。本人確認のための、個人の動作。 触れられた神座は、ほぼノータイムで守紗の鳩尾に捻りを加えた拳を叩き込んだ! 「げぶぅしっ!?」 「あなたが偽物です!」 レネネトが重力の爆音で『触れられなかった方の』神座を攻撃する。 自分が攻撃されるとは思っていなかったのか、まともにもらい吹っ飛ぶ! 空中で一回転して着地すると、すでに老人の姿に戻っていた。 「ど、どーいう証明の仕方じゃ!?」 「細かな癖まで再現できても、根深い条件反射までは無理だったみたいですね!」 雪切が苦無を投擲する。それを避ける老人。続けざまに秋桜の手裏剣。瞬間移動で回避。 できれば一旦姿を晦ましたい。というか、普通ならそうする。しかし鷲尾が魔槍砲を準備しており、先ほどのように史跡を壊されるのではないかという懸念が式としての彼を縛る。 続けて長谷部の空波掌。回避。レネネトの重力の爆音。瞬間移動。そしてその先に、鷲尾が走り込んでいた! 「餓鬼が!」 回避ではなく足払いで鷲尾の体勢を崩し、掌底を叩きこむ。 たまらず吹き飛ぶ鷲尾を更に弾き飛ばし(!)、鹿角が放ったバーストアローが迫る! 攻撃態勢から戻れない。というか、老人が鷲尾をぶっ飛ばさなければ鷲尾に直撃しかねないコース。 衝撃波を伴うバーストアローは畳返しでは防ぎきれない。老人は瞬間移動したが、現れたのは矢が通り過ぎた場所。横軸には移動していない。 「まったく、寿命が縮むわい!」 「では、寿命を終わらせて差し上げます」 大火力の攻撃の通り過ぎた跡は安全。そう考えたのがまずかった。 老人が見たのは、ふわりとフードが脱げ、雪切の顔が顕になるのと……自らの胸を穿つ盾――― ●最後の一人 塩になり崩れた胸部。四肢も瘴気となり消え始めた。変装のために罠の設置を疎かにしたのが敗因か。 神座は老人の直ぐ側に座り、悲しそうに声をかけた。 「……私達との戦いは満足いく物でしたか?」 「応とも。久々に燃え立つような、わくわくする戦いであったよ。思い残すことはない」 消える間際も満ち足りた顔。この意識が、所作が、捏造であるとは思えない程に。 老人は言う。穏やかに……確かに。 「……ありがとうよ。本当のことを言わないでくれて」 「!?」 「恐らく、三人目の砲撃で史跡がそこそこ破壊されたのがまずかったんじゃろうなぁ。……よいか、ワシが消える前に逃げるのじゃ。五人目は……あの娘は今までと比較にならんぞい……!」 しかし、もう時間がない。老人の身体は胸辺りまで消えている。 その必死の表情に、一行は頷き合い退避を開始する。 孫を見るような優しい目のまま、老人は消滅した。するとすぐさま武舞台の中心に瘴気の渦が出現し、人を形作る。 そこには、長い金髪をたなびかせた、剣や鎧で武装した女騎士の姿があった。 しかしその顔面は蒼白で、信じられないといった表情で顔を手で覆い、慟哭する。 「あぁ……神よ! 死してなお私を弄ぶのですか!? あれだけの恥辱、あれだけの屈辱にも耐えあなたへの信仰を貫いた私に、何故またこんなにも酷い仕打ちを……! いや、この想いさえも紛い物。私自身が紛い物。ではこの記憶は、想いはどうすれば!? 神よ……お答えください! 救国の英雄を……誰か、救って……!」 流石の鷲尾も状況を忘れ見ているしかない。女騎士の今にも壊れそうな心が手に取るように分かるからだ。 いや、もう壊れているのかもしれない。彼女もまた老人と同じように、自分が人間ではない捏造された存在であると認識してしまっているのだろうから……。 「ふ……ふふふ……なら……壊すしかありませんよね。全てを壊して、私もまた消えましょう。差し当たっては……!」 まだ若い、少女の面影を残す女騎士。しかしその表情は幽鬼のようだ。 地面を蹴ると、一足飛びに開拓者たちに肉薄する! 「マジかよ!?」 「壊れろ! 壊れろ! 壊れろ! 私に罪という名の現実を与えてッ!」 やっと腹パンのダメージが抜けた守紗に女騎士が剣を振り下ろす。 刀で受けたが、老人より速く、武人より重い! 完全に何かが吹っ切れてしまっている! 「くっ! 吹き飛べ!」 鹿角がバーストアローを横から叩きこみ何とか引き離す。 その間に史跡を抜けるべくひた走る! 「逃がしませんよ! ウフフ……アハハハハハハハハハハハッ!」 「泣きながら言う台詞ですか!」 振り下ろされる剣を捌いたのは……長谷部! 確かに彼なら殿を任せられそうだが……! 「迷っている時間はありませんよ! 私を助けたいなら一瞬でも速く史跡を抜けてください!」 「……すいません!」 女騎士の相手を長谷部に任せ、他のメンバーは走った。一番地力と格闘戦能力がたかいとはいえ、この相手は相当ヤバい。 一分一秒が惜しいとはよく言ったものだと実感せざるを得ない。 「私はね!? 苦しかったの! 辛かったの! でもそれは無かったんだって! 捏造だったんだって! おかしいよね!? おかしいですよね!? あんなに、あんなに苦しかったのにッ!」 「速い……!」 速い上に変化球が多い。一対一では逃げるのも至難の業だ。 それでも、遠くから聞こえる退避完了の叫びが耳に届いた。後は自分が脱出するだけ。 そういえば、叫んでいたのは雪切だった。右の道を通れとかなんとか…… 藁にもすがる思いで右の道に飛び込む長谷部。確かこちらの道は、行きがけに……! 走る長谷部。追う女騎士。その距離があっという間に縮まった時……不意に女騎士が倒れ伏す。その足には瘴気で出来たトラバサミが食い込んでいた。 そう、ここは行きがけに罠があると看破し、行く必要がないからと場所だけ把握して破壊はしなかった道なのだ。 その隙に長谷部は走りぬけ、史跡から転がり出る。全身を濡らす嫌な汗を久々に感じながら。 最後に現れた女騎士。救国の英雄と呟いた彼女こそ……最後にして最大の敵――― |