亜理紗たんハァハァ
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/01 01:28



■オープニング本文

1月8日
 今年も亜理紗たんは可愛い。それにしても亜理紗たんにベタベタするシノビはいつでも邪魔だな。脳内でフルボッコにしてやった。

1月10日
 今日も亜理紗たんは西沢とかいう先輩と一緒だ。仲がいいのはいいことだが、ぶっちゃけ邪魔である。キョンシーとかいうのを連れていなければただの一般人らしいから、いつでも処理はできるだろう。

1月12日
 亜理紗たんが帰りに絵を描いていた知り合いに会った。エッチだかスケッチだかワンタッチだか知らないが、ちょっと絵が上手いくらいでいい気になるなよ!

1月14日
 亜理紗たんが買い物中に知り合いに会った。銀髪に赤い目……天儀の人間じゃないのか? 子どもっぽい外見だがさりげなく荷物を持ってあげてポイントを稼ぐ辺り油断ならない。

1月17日
 開拓者ギルドで仕事をしている亜理紗たんが、じいさんと楽しげに話していた。紳士ぶってはいるが、きっとドス黒い欲望を抱えているに違いない。注意せねば。

1月20日
 またしても帰り道に知り合いの男と会った亜理紗たん。仕事上付き合いが多いのは仕方ない。学者だとかで弱っちそうだったから一人になった所で忠告してやったが、思いの外強かった。久しぶりに本気になったら泣いて謝ったので(僕が)許してやろう。

1月22日
 やはり一番の障害はあの男だ。ナチュラルに亜理紗たんの頭をなでなでしたりするのが羨ま……あぁいやけしからん。だが僕は平和主義なので、脳内フルボッコまでで許してやろう。

1月25日
 今日、亜理紗たんと目が合った! 気恥ずかしそうにすぐに目を逸らしてしまったが、あれは脈ありだと思う! 口に出さずとも僕のこの熱い思いが伝わっているに違いない。だがしかし、焦らずゆっくり確実にいこう。

1月28日
 弓を持った女の開拓者が亜理紗たんと話していた。随分お硬い感じに見えるが、亜理紗たんと話す時は笑顔を見せる。女といえど油断はならないな。

1月31日
 やたらと亜理紗たんと親しげに話すロリコン野郎が来た。最大の障害とは違った意味で注意しなければならないやつだ。亜理紗たんはロリじゃないが、ああいう手合いはあまり年齢関係なさそうだからヤバい気がする。とありあえずこれからも亜理紗たんを見守っていかねばなるまい。




「えっと……最近ですね、ずっとこっちを見てる男の人が居て恐いんです。しかも帰り道とかも付いてきてるみたいで……」
「あぁ、あれ? もう結構前からいたけど気付かなかったの?」
「全然。あぁ、今日もいますね……うぅ……」
 開拓者ギルド。人でごった返すその中にあって、職員の十七夜亜理紗はゲンナリとした顔でうなだれてみせる。
 相談に乗っているのは先輩職員の西沢 一葉。二人は美人職員コンビとしてそこそこ知られている。
 亜理紗が言うには、最近亜理紗をつけ回している男がいるという。
 別に声をかけてきたり家に侵入したりするわけではないようだが、気付いてしまうとやはり気持ち悪い。
 この前ふと目が合った時、ニヤっと笑われて思わず目を逸らしてしまったくらいである。
 今日も今日とて、柱の影から亜理紗を見ている。不審ではあるが、知っている者は『あぁまたか』とスルーすることが多い。
「とは言ってもねぇ……見てるだけで何もしてこないんじゃ、法律上悪いことはしてないでしょ。役人に言っても梨の礫だと思うわよ?」
「わかってますよぅ。だから依頼として解決してもらおうと思ったんです。何かされてからじゃ遅いんですよ! あの人が我慢できなくなって襲ってきたらどうするんですか!」
「あなたも開拓者でしょ。撃退しなさい」
「そういう時に限って術を失敗する自信があります!」
「威張るなぁぁぁっ! 兎に角、依頼の登録だけはしとくからあとは助けてもらえることを祈りなさい」
「はーい……」
 亜理紗に思いを寄せ付き纏う男。直接何もしてきていないから、公的な機関からの助太刀は難しい。
 彼女が安心していつもの暮らしに戻れるよう、ご助力を願いたい―――


■参加者一覧
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432
16歳・男・志
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
樒(ib3814
21歳・男・シ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
菊開 すみれ(ib9014
15歳・女・弓


■リプレイ本文

●よろしく哀愁
「ゴ、ゴメーン、マッター?」
「ぶふっ!? ……い、いや、大丈夫だ。くっくっく……!」
 ある日の昼下がり。非番の亜理紗は、とある人物と待ち合わせしていた。
 その相手……鷲尾天斗(ia0371)は、亜理紗の姿と声を確認するなり思わず吹き出してしまう。
 普段着にしている巫女服ではなく、よそ行きの着物でおめかししてはいるが、表情がガチガチに硬い。しかも台詞が鬼のごとく棒読みだ。
 思わず肩が痙攣するほど笑ってしまう鷲尾だった。
「ひ、酷いですー! 笑うことないじゃないですかー!」
「わ、悪ィ悪ィ。ギャグにしか見えなかったもんでよ」
「フォローになってませんよ!?」
「まーまー。ほれ、さっさと行くぞ。メンドクセェ事は他の奴らがナンとかするだろうから、此処は楽しく遊ぼうや、な」
「なんだか申し訳ない気もしますけど……そ、それじゃあ、よろしくお願いしまひゅ!?」
「だから硬ェって!」
 実に微笑ましい、付き合いたてのカップルのような二人。
 その二人を建物の影から妬ましそうに見つめる人物が一人。
「グギギ……あの眼帯野郎、ついに僕の亜理紗たんに直接手を出すようになったのか! あぁでも緊張してる亜理紗たんもハァハァものだな……ってそんな場合じゃない! 亜理紗たんが危険に晒されている……!」
 件のストーカーは今日も今日とて亜理紗をつけ回している。
 しかもわりと目立つ所で憎悪をむき出しにしているものだから、通行人が何事かと視線をやりながら素通りしていく。勿論、本人は毛程も気にしていないが。
 鷲尾と亜理紗が移動し始める。それを追うストーカー。その様子を、きちんと身を隠しながら確認する集団がいた。
「ほほー、見事に釣れたようじゃな。……しかしあれは隠れる気がまるでないのう……」
「その分調査はしやすかったですけどね。とある武家の三男坊で、基本的に屋敷に引き篭っていることが多かったそうです。たまたま町で見かけた亜理紗さんに一目惚れして付きまとい始めたみたいですね」
「なるほど、これは面白そ……ごほん。亜理紗ちゃんが困ってるのに放っておけるわけナイジャナイデスカ〜」
 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)は男の行動に呆れ顔だが、真亡・雫(ia0432)は構わず調査結果を報告する。
 見て分かるように男は大っぴらに尾行している。ちょっと調べれば身元はすぐに判明した。
 何故か語尾が棒読みになる井伊 貴政(ia0213)。助力は惜しまないようだが、この状況を一番楽しんでいるようだ。
「好いた相手に碌に声を掛けることすらできない……わかります。ええ、痛いほどに。……ですが、だからといって―――いえ、だからこそ、(同類として)ストーカー行為を許す訳にはいきません」
「しつこくつきまとう、だと? ちっ、何と惰弱な奴だ!」
「ぐさり」
「まぁまぁ。恋愛という気持ちはまだ私には分かりませんが、人それぞれあるんですよ、きっと」
 樒(ib3814)は何やら感じるところがあるらしく、男に同情的である。もっとも、それ故に止めなければならないという使命感もあるようだが。
 逆にバッサリと切り捨てたのがラグナ・グラウシード(ib8459)。彼女の場合、物理的にもバッサリ行きそうに見えてしまうのが悲しいところである。
 ラグナの本当は優しいところを知ってか知らずか、菊開 すみれ(ib9014)はやんわりとフォローに入った。
「あぁっ、て、手まで繋いでる!? お、おのれ幼女趣味眼帯め! 次は何を握らせるつもりだナニをぉぉぉっ!?」
 ストーカー男の独り言はでかく、往来に丸聞こえである。
 流石に聞こえていないのか、鷲尾と亜理紗は神楽の都をゆっくりと歩いて行く。
 迷惑なのは行き交う人々と、解決を任されている開拓者たちだった。
「しゃーない、そろそろ説得してみっかね。恋人ができたからって諦めそうなリアクションじゃないぜありゃ」
 村雨 紫狼(ia9073)が苦笑しながら呟くと、他の面々も呆れ顔で同意する。
 ニセ恋人作戦ですんなり諦めてくれるとは思っていなかったが、血走った目を見る限り今にも刃物を持ちだしそうな雰囲気がある。
 樒に言わせると『それないだろう』とのことだが―――

●ギンギラギンって時点でさり気なくないよね?
 鷲尾と亜理紗を更に追うべく、男が移動しようとした時である。
 がしっと肩を掴まれその場に留まらされる。何事かと振り向くと、そこには七人の開拓者たちが顔を揃えていた。
「な、なんだよあんたらは。げ、赤鬼にロリコン野郎にSAもどき!?」
「……SAもどきってもしかして僕のことですか……?」
「確かに俺はロリコンだ。それは否定しない! けどなんで井伊だけカッコいい覚え方なんだよ」
「うーん、この場合、浸透してるのを喜ぶべきかどうなのか……」
 笑顔ではあるが口元が引きつっている真亡。村雨と井伊もなんだか微妙な気分になっている。
 流石に亜理紗を付け回しているだけあって、彼女とよく会う人物はチェック済みらしい。覚え方はともかくとして。
「な、何の用だよ。僕は何も悪いことはしてないぞ!」
「確かに、法の上ではそうです。しかし、十七夜さんは貴方の尾行に気付いていて、それを嫌がっています。相手の嫌がることはするべきではないと説得に来ました」
「これストーカーよ、汝の行いは亜理紗を酷く恐れさせておるぞ。恋い焦がれる相手を恐怖させるは汝の本意ではあるまい? その様な関わり方では汝の恋は何時までも成就せんぞ」
 樒とリンスガルトの言葉を聞いてぽかーんとしていた男だったが、不意に鼻で笑った。
「ふん、何を馬鹿なことを。僕は彼女を見守っているだけだ。嫌がるどころか恥ずかしげに視線を逸らされるくらいの間柄なんだぞ!」
「それは恥ずかしかったからではなく、気持ち悪かったからでは?」
「お前は愛情のつもりかもしれんがな……だが、相手はそれをどう思っているか、知っているか? 惚れた女を怯えさせるのがお前の愛情か、無様な」
「お、お前らに僕と彼女の何が分かるんだよ!」
 菊開とラグナの冷静な言葉に男が憤慨する。だが、その言葉を待っていた。
 真亡は怒りマークを浮かべつつ、極めて冷静に言葉を紡ぐ。
「知ってますよ。亜理紗さんとは付き合い長いですし。あなたのことも……ね」
「なん……だと……」
「藤島家の三男で、武芸は苦手。学問に精通していて専門分野は歴史。好きな食べ物は味噌おでん、嫌いな食べ物は椎茸。右の脇腹に幼い時に事故でつけた古傷がある」
「気持ち悪っ! なんで見も知らない奴が僕の事をそんなに知ってるんだよ!?」
「僕たちだって好きで調べたわけじゃありませんよ! その気持ち悪いことをあなたは亜理紗さんにしてるんです!」
「ぐ……! で、でもお前たちは別に僕の事好きなわけじゃないだろ! 僕は彼女のことが好きなんだ! 好きな人のことを知りたいと思うのは悪いことか!?」
「いやいや、悪いことじゃないんですけどね。ライバルは少ないほうがいいかなーって」
「……は?」
 爽やかな笑顔で言う井伊の言葉を、藤島は少しの間理解出来ないでいた。
「僕も亜理紗ちゃんのこと好きなんですよー。鷲尾さんに一歩リードされちゃってますけどね。雫くんもそうですよね?」
「はい!?(ちょっと、僕を巻き込まないでくださいよ!)」
「……(いいじゃないですか、ライバルが多いと思わせたほうが諦めてくれるかもしれませんよ?)」
「(うぅ……仕方ないですね……)じ、実はそうなんです。日頃お世話になってる内に気になってきて……」
「……なんで目ぇ逸らすんだ?」
「気のせいです!」
「なら亜理紗たんハァハァって言ってみろ! 好きならそれくらい言えるはずだ!」
『言わん言わん』
 七人から総ツッコミを受ける藤島。好きな相手に普通そんなことは言わない。
 と、イライラしてきたのかラグナがだんっと地面を踏む。
「だいたい! 見守る事だけが愛か!? お前はそれで本当にいいのか!? どうせなら当たって砕けろだ! 私が見届けてやるッ、とっとと想いでも告げて来いッ! そうでないなら二度と彼女に近づくなッ!」
「ま、言い方は荒っぽいが俺も賛成だな。グズグズするなよ、好きなら玉砕上等でコクらなきゃダメだ!」
 いつになく真面目な村雨。ラグナの言葉にも迫力がある。
 そりゃあ見ているだけよりはお近づきになりたい、懇ろになりたいという気持ちは当然ある。
 しかし、フラれた場合は? こうやって遠くから見ていることもできなくなるのではないだろうか。というか今現在、排除の依頼を出されているようだから遅かれ早かれ付き纏うことを禁止される恐れは高い。実家からそういう命令が来ては困る。
「……わ、わかったよ……やってやる、やってやるぞ!」
 藤島は半ばヤケクソ気味に走りだす。鷲尾たちの姿はとっくに見えなかったが、少し進んだ所にある茶店でお団子を食べている二人を発見した。
 今までは遠くから見ていた。その距離をどんどん詰め、ついに亜理紗と鷲尾の目の前に立つ。
「あ、亜理紗たん……じゃなかった、亜理紗さん! す、すす、好きです! 僕と付き合ってください!」
 他の客も通行人も何事かと固まる。
 こういう展開になるとは思っていなかったのか、亜理紗も団子の串を咥えたまま固まってしまっていた。
 藤島の告白。付きまとっていた人物だとすぐに分かった。
 亜理紗の答えは……
「あの―――」
「わ、別れてくれ眼帯野郎! きっと、絶対、僕のほうが亜理紗さんを好きだし幸せにできる!」
 亜理紗の言葉を遮り、鷲尾を睨みつける藤島。亜理紗の返答から逃げた格好だ。
 鷲尾はほわ〜っとした感じで傍観していたが、自らに矛先が向いたことで真剣な表情になる。
 そして……
「だが断る。俺は亜理沙の笑った顔が好きなんだ! その笑顔を俺は護ってやりたいんだ!! ガチロリ上等だァ文句あるかァァァ!!」
「私は18歳ですしロリでもありませんよぅ!? で、でも、うぁ、あう、好きって、はぅ……!」
 その反応でもうダメだった。
 鷲尾に台詞に対する亜理紗のリアクションが自分に向けられることはありえない。直感でそう感じてしまった。
 何も言わず……いや、何も言えずその場を走り去る藤島。恐らくはもう亜理紗に付きまとわなくなるだろう。
「私にもいつかは、あれぐらい私のことを想ってくれる人が現れるのかな……?」
「いや、あれは方向性がおかしかったでしょう。最後は勇気を出しましたけどねー」
(ああ……私のことを見ていてくれる女性はいないものだろうか……?)
 菊開や井伊、何故か遠い目をしているラグナたちが鷲尾たちに合流する。
 依頼とはいえ少し可哀想なことをしただろうか? だが、本人のためでもある。
「ふふーん、青春だねぇ。若さだねぇ。ま、他の良い人見つかるさぁ」
「若さ、ですか……若さって何でしょうね……?」
「振り向かいないこと……ですかね?」
 満足気な村雨と、藤島に同情する樒。明日は我が身とでも思っているのだろうか?
 一応答えてみた真亡だが、彼もまた若すぎる。恋も人生もまだまだ経験不足であろう。
「汝等、これを機に交際したらどうじゃ? 恋人がいるというのはよいものじゃぞ……式には呼ぶがよい!」
「ふぇぇ!? そ、その、わ、私は、その……!」
「からかうなよ、亜理紗はすぐテンパるんだからよォ。お兄さん、別にリンちゃんでもいいんだぜ?」
「願い下げじゃ! リンちゃん、しかも『でもいい』とは何事じゃ無礼者め!」
「わ、鷲尾さんの馬鹿ぁぁぁ!」
「わっはっは。そんじゃ俺は退散するかァ。そうだ、亜理紗」
「は、はい?」
「これやるよ。もっと女磨きなァ」
「……! あ、ありがとうございます! 大事にします!」
 リンスガルトを飛び越え、亜理紗に向かって簪が放り投げられる。
 慌てて受け取った亜理紗の表情は、ついさっきまで怒っていたとは思えないくらいの笑顔。
 こんな小さな、さりげない幸せを守るため……多くの開拓者は今日も神楽の都に在る―――