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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「……あぁ、どうも。今日はどんなご用事で?」 「ごきげんよう。あなたにお話する気になれませんので他の方を呼んでくださる?」 「喜んで。私もあなたなんかと話したくありません」 ある日の開拓者ギルド。 入り口から入ってきた少女と目があってしまった職員の十七夜 亜理紗。気乗りしないながらも、これも仕事と声をかけた。 遠目からも目立つ見目麗しい銀髪の少女は、にっこりと丁寧に『お前には用はない』と言ってのける。それを敏感に感じ取った亜理紗もまた、にっこりと笑いながら『お前には関わりたくない』と宣言したのだった。 お互い笑っているのに雰囲気が恐い。ギルド内を行き交う開拓者や職員たちが何事かと二人を見やり通りすぎていく。 「一葉さーん、オキャクサマですよー」 「なんでお客様を強調してるのよ……って、あら」 暖簾を掻き分け奥から出てきた西沢 一葉。亜理紗の先輩に当たる職員だ。 亜理紗の後ろにいる少女の姿を見て、なるほどと苦笑いしてみせる。 さっさと別の仕事に移った亜理紗の背中を見送り、一葉が少女の対応に回る。 どうしてあの二人はこうも相性が悪いのだろう。軽くため息を吐きつつも笑顔を見せた。 「こんにちは、カミーユさん。また馬探し?」 「先日はありがとうございました。でも、今回は違いますわ」 カミーユ・ギンサ。商家、銀砂屋の一人娘である。 夢で見た馬のアヤカシに礼を言いたいとかで、似たようなアヤカシの目撃情報を元に依頼を出した変わり種だ。 結果は勿論ハズレ。彼女が求めるアヤカシではなかったが、困っていた周辺の住人からは撃破に感謝されたとかなんとか。 「わたくし、先達ての依頼で思い知りましたの。自分の未熟さ、そして開拓者のみなさんの強さ。願わくばわたくしもかくありたい……そう思いたち、訓練をお願いに参りました」 カミーユも志体を持っているが、彼女は開拓者ではない。商家の一人娘だからというのもあるが、最近まで彼女自身が戦いや開拓者について興味がなかったのが主な原因だろう。 護身術程度に剣は嗜んでいるが、現役の開拓者から言わせれば一般人の喧嘩に毛が生えた程度と笑われるレベル。 以前の依頼でアヤカシに一撃入れているが、それは熟練の開拓者との共同作業だったから有効打が出たように見えただけ。実際のところ彼女の攻撃は大したダメージになっておらず、相方が倒したようなものなのだ。 開拓者として登録せずとも、志体を持ち活躍する人間は多い。彼女もそういうパターンになるつもりだろうか。 「んっと、つまり家庭教師を雇いたいってことでいいのかしら」 「はい。様々なクラスの諸先輩方に教えを請いたいと思います。こんな依頼は駄目でしょうか?」 「いいえ、そこそこ聞く話しよ。もっとも、何人もいっぺんにっていうのは珍しいかも。大抵は誰か一人希望だから」 開拓者の強さに触れ、志体を持つ身として強くなりたいと願い始めた少女。 カミーユが強くなれるか、どういう強さを手に入れていくのか。それは皆さんにかかっています――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
キルクル ジンジャー(ib9044)
10歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●お宅訪問 神楽の都の一角に存在する大きなお屋敷。銀の取引で財を成した銀砂屋が所有する、店舗とは別の純粋に居住のためにある物件である。 住人であるカミーユ・ギンサ(正式には銀砂 紙遊)に家庭教師を依頼され、それを受諾した開拓者たちがその屋敷の門をくぐった。 使用人と名乗った男に案内され、開拓者たちは庭を通り裏庭へ。そこには、表の庭と遜色ない豪華な光景が広がっていた。 誰に見せるわけでもないのにこの仕様。よく手入れが行き届いた松の木を見ても、裏庭に対する本気度が伺える。 『うわぁ……』 開拓者たちが漏らした声は感嘆の『うわぁ』ではなく、引き気味の『うわぁ』であった。 そんな空気を他所に、依頼人のカミーユが現れる。 「み、皆様、ごきげんよう。本日は、よろしく、お願い致しま……へぶっ」 ガチャンガチャンと音を立て、完全フル装備の西洋鎧を着たカミーユがやってくる。 裏庭に降りるためレッグパーツを履こうとして……そのまま前のめりに倒れ伏した。 じたばたともがくカミーユ。やがて動かなくなり、しくしくとすすり泣く声だけがあたりに響いた――― ●気を取り直して 「こほん。お見苦しいところをお見せいたしました。お父様とお母様がこれくらいは着てやれと……」 「あはは……身の丈にあった装備をしなければ意味がありませんよ。装備に振り回されていては戦えませんから」 「お、お恥ずかしい限りですわ」 「なになに〜? カミーユのお父さんとお母さん、もしかして過保護なの〜?」 先日も着ていた軽めのプレートアーマーに着替え、改めて挨拶するカミーユ。 雪切・透夜(ib0135)にやんわりと注意され、思わず頬を朱に染めた。 あれだけの重装備を勧めるところを見ると、アムルタート(ib6632)の言は当たらずとも遠からずだろう。 「そうですわね……過保護だと思いますわ。この裏庭も、わたくしのためだけに作ったそうですから」 無駄に広く立派な裏庭。カミーユが聞いてみたところ、両親は『お前には何不自由ない生活をさせてやりたいんだよ』と返してきたという。 物も、そして心も。だからカミーユが強くなりたいと言い出した今回の件も、驚きもしたし難色も示したが結局は了承してくれたのだ。 好きに生き、好きなように恋し、好きなように人生を全うしてくれればそれでいい。それが両親の口癖だという。 「わたくしを自由にさせることに強迫観念でもあるのでしょうか……わたくしの見た夢でもあるまいし」 「ふぇ〜、それでよくカミーユお姉さんはワガママお嬢様に育たなかったのです〜」 「叱るべき時にはしっかり叱って下さいましたから」 「ふーん……いい家族だね。お金持ちにしては性格もよさそうだし。気に入ったわ」 キルクル ジンジャー(ib9044)にしても海月弥生(ia5351)にしても、この何もかも与えられた環境でカミーユの性格が歪まなかったことを驚き、賞賛する。 だからこそ、力になってやりたくなる。金持ちの道楽で呼ばれたわけではないことに安堵する。 カミーユの想いと共に、カミーユの両親の想いも受け取った一行。 お喋りもそこそこに、訓練へと入っていく――― ●陰陽の理 「最初は『陰陽師とはなんぞや?』という話から」 そう切り出したのは陰陽師の各務原 義視(ia4917)。先程カミーユが脱ぎ捨てた西洋鎧の胴体部分を地面に設置し、斬撃符を叩きつけた。 人が着ているわけではないとはいえ、あの重い鎧に傷が入り後退させていることに驚くカミーユ。 「アヤカシの類だけど、このように使役する事で戦えるわけです。訓練すると更に威力のある術や護身用の受けたダメージを軽減してくれる物も使える様になります」 「えっ、あれってアヤカシですの?」 「はい。陰陽師は人工的にアヤカシを作って戦う術士ですから」 「危なくありませんか?」 「危なくないように使いこなすのも修行の内ですよ。実践して見せますから、攻撃してみてください」 言われるままに、カミーユは竹刀を握り各務原と相対する。その構えは、接近戦は素人の各務原から見ても隙が多く、褒められたものではない。 「行きますわよ。やぁーーー!」 踏み込んで数歩の所で、各務原が人魂という術を発動する。 カミーユの目の前に突然スズメが現れ、バタバタと羽ばたいた。 「はぴぃ!?」 「面白い悲鳴ですね。術は使い方次第。予想外の事をしてくるアヤカシもいるだろうから」 「あ、こ、これも術ですの? 凄いことができるのですね、陰陽師様は」 「さっきみたいな事も起こるから瞬時に判断して行動できる様になりましょう。要は考えて行動しましょうということですね。これは他のクラスにも言えることですが」 各務原の話をカミーユは興味深そうに聞いていた。 自分が知らない世界。腕っ節ではなく知力で活躍するというのも一つの方向性であると感じたようだ。 「使用する材料が瘴気ですので、扱いに注意を要しますが、必ずしも何かを攻撃する術ばかりとも限りませんので、それをお見せしようと思います」 説明に区切りがついたところを見計らい、同じく陰陽師の宿奈 芳純(ia9695)がレッスンに入る。 まず松の木の前面や池の前に結界呪符「白」を設置し、被害や池ポチャを防止する。 そして人魂でスズメを作り出し、それを仮想敵として戦ってみろとのこと。 「この前も拝見致しましたが、凄いものですわね。守るための力ですか……これも素敵です」 壁に感心しつつも、竹刀を構えるカミーユ。パタパタと羽ばたくスズメに向かって攻撃を仕掛けるが、スズメは器用に攻撃を回避する。 それでなくともカミーユの攻撃は下手すぎる。ぶぅんぶぅんと風を切る音からして大振りなのが丸わかり。あれでは小さな対象物に当てられるはずもない。 「ふぅ、ふぅ、すばしっこいですわ……。これ、皆さんなら簡単に当ててしまいますの?」 朝飯前だとばかりに一斉に頷く開拓者たち。思わず絶望的になるカミーユであった。 「焦らず、怒らず、驕らず、くさらず、怠らず。陰陽師に限らず、何かを為すには必要な心構えですよ」 「は、はい。もう一度お願いしますわ!」 再びスズメと格闘しだすカミーユ。この程度ではへこたれていられないのだろう。 その根性には、とりあえず賞賛を送りたい――― ●体捌きのイロハ 「私が教えるのはズバリ! 踊ることと避けることだ〜! 頑張れカミーユ♪」 「では僕もこのグループに加わりましょうか」 「俺とカミーユじゃ、体格や基礎体力が違いすぎるからなァ。アムルの教えの方がイィだろう」 今度はアムルタート、雪切、鷲尾天斗(ia0371)の三人が担当してくれるらしい。 陰陽師というクラスに触れ少し休憩した後、今度は体捌きをということになったらしい。というのも、先ほどのカミーユの動きがあまりに素人丸出しだったからだ。 先日の依頼で見せた一撃はまぐれだったのだろうかと思ってしまうくらい、その動きは拙い。 「よろしくお願いいたします。わたくし、ワルツなどの踊りでしたら嗜んでおりますわ」 「んー、ちょっとリズムが違うんだよー。これを踊るとね、自分のリズムが掴めるの! まずはそこからだよ〜♪」 「つまり、自分の体の重心や力の流れを掴みやすい踊りだから、体を十全に動かしたり力の流れ方を調整する良い練習になる……ってこったなァ」 「おおう、それだ兄ロリ! そんな感じー!」 論より証拠と、アムルタートは軽くステップを踏み出す。そして、攻撃してこいとカミーユを誘う。 人を竹刀で攻撃することに少し躊躇しつつ、当てられるわけがないと悟り全力で振るってみる。すると、ひらりという擬音がぴったりなくらいさらっと回避されてしまう。 何度やっても結果は同じ。軽やかなステップで舞い踊るアムルタートは、遊んでいるようにしか見えないのに。 「今度はこっちー。相手がツッコんできたらね、それに合わせてステップ踏むんだよ♪ 更に武器使うとスパーンって力飛ばせるの! こんな感じ〜。ね? 流されるでしょ?」 武器を取り出し、受け流しを披露するアムルタート。 打ち込まれた竹刀に短剣の腹を合わせ、まるで二人でダンスを踊るように力の方向を変えてしまう。 思わずつんのめって地面に手をつくカミーユ。これもまた、彼女が知らない世界だ。 「ど、どういう理屈ですの……?」 「相手の挙動から動きのリズムを読んで、その動きに合わせることで攻撃を躱したり、受け流したりすることが出来るっつーわけだ。更に武器を使うことで相手の力を捕え、受け流し易くなるんだよ。体捌きを突き詰めた感じだなァ」 「難しいものですわね……。ところで、あなたは何も教えてくださらないのですか?」 「その様子じゃ稽古にもならねェよ。もう少し修行積んでからな。つっても何もしないんじゃ給料泥棒か……んじゃ、心構えを一つ」 所詮この世は弱肉強食。強い者が弱い奴を糧にする。 それだけだ、と鷲尾はひらひら手を振った。 「そんな……それではあんまりではありませんか?」 「とにかく強くなって生き残ればイィだけだ。弱い奴は死に様さえ選べねェからな」 「それは強いからこそ言えることですわ。志体すら持たない人たちは生まれながらにして喰われる者だなどと、わたくしは認めたくありません」 「俺は強くなんか無ェよ。たまたま運がイィから生き残っているだけだ」 「矛盾していますわよ?」 「確かに俺は闘った奴を糧にして来た。そういう意味じゃ俺は強者だ。でも、俺自身は今まで闘いを楽しんできたが満足した事は一度も無ェよ。満足できなきゃ自分が強いなんて言い切れない、それだけだ」 「むー……。戦うということは、自己満足するためのものではないと思うのですが……」 話が平行線になると感じた鷲尾はそのまま踵を返す。『護りたいと思う者を護れない強さなんてクソみてェなもんだ』と、小声で吐き捨てながら。 「……相変わらず不器用な方です。とりあえず僕からは盾の使い方を主に御教授しましょうか」 入れ替わるように雪切が盾をカミーユに手渡す。 カミーユは一応騎士扱いとのことなので、盾の扱いは覚えておいて損はない。 「受け流しつつ攻撃、シンプルですが強いですよ。他に武具を上手く使う体力と、状況判断が必要かな」 「た、体力ですか……。努力いたします」 休憩を挟んでいるとはいえ動いてばかり。カミーユはまだまだ体力的に厳しい良家のお嬢様である。 打ち込んだ攻撃をシールドノックで弾かれ、無様に尻もちをつく。 「今度はこちらから打ち込みますよ。……ほら、盾をしっかり持ってください。持ち手に意識を集中して」 「意外とスパルタですわ……」 バシバシとカミーユが持つ盾を竹刀で殴打する雪切。 盾は待ち構えるだけでは真価を発揮しない。インパクトの瞬間、押すなり引くなりすることで威力の軽減や隙の発生に繋げるのが上手い使い方なのだ。 「あ、それと」 すぱぁん、と足払いをかけカミーユをすっ転ばせる。 「盾を構えたと安心しているとこういうこともありますよ。足は止めないほうが無難ですね」 「……ご、御教授痛み入りますわ……」 地面に横倒しになったまま、カミーユは呟いたのだった――― ●他職への誘い 「今から軽く打ち合いましょうか」 志藤 久遠(ia0597)はそれだけ言うと、すっと構えを取った。困惑しつつもカミーユもそれに倣う。 向けられた真剣な眼差し。正直、隙だらけで打ち込むのは造作も無い。 軽く当てるつもりで志藤が繰り出したその一撃を、カミーユは『後ろに飛び退りながら受けた』。 「威力を殺した……? しかし、今のタイミングは……」 アムルタートに習ったステップ回避に近い。そしてしっかりとした受けは、雪切譲りか。 吸収が早いのか知らないが、それなりにモノにしているらしい。だがそれ故に、注意しておかなければならないことがある。 「イメージを固めると良いと思うのです。武器を持って敵を打ち倒す? 弓や銃で遠くから狙い撃つ? 厚い鎧と盾で体を張って敵を阻む? 不可思議な術で打ち倒す? 仲間を癒す? しっかりとしたイメージがないと、器用貧乏で終わっちゃうのです」 キルクルが懸念するのは、初心者にありがちな『あれもこれも』と覚えていき結局どうなりたいのかわからなくなってしまうパターン。 オールラウンダーも悪くはないが、それでも自分の得意なこと、やりたい方向性は決めておかねばならない。 「あたし自身は出身が山中なのもあって、弓扱いが身近なので選んだのに過ぎないけど……選べるならしっかり選んだほうがいいわ。強くなりたいなら尚更ね」 やはり一つのことを突き詰めるというのは、精神面でも成長面でも強い。脆い他の部分をカバーしてしまえるくらい習得できるならそれで勝ちである。 「要するに戦う時に必要な心得の価値を倍加できるスキルを活用するのが弓術師なのよねえ」 大局的に戦場を見て支援するなりメインにアタックするなりするのが弓術師。それはそれで重大な仕事である。また、体力に自信がないなら後衛職を選ぶのも合理的であろう。 一方、キルクルは許可をもらい、裏庭にアーマーを出現させていた。 「これが先程説明した第三世代標準アーマー『遠雷』なのです! アーマーは強くて格好良いのです!」 アーマーは別に騎士でなくとも使えるが、やはり一番上手く使えるのは騎士だ。 見習いのカミーユは当然持っていないので、珍しいようだ。 「凄い……まさかこのようなものを自由自在に動かせるなんて。わたくしにもできるのかしら……」 「騎士のまま強くなるのであれば、いずれ。……力、技は勿論ですが、心の在り方が何よりも大事、でしょうか」 志藤は優しく、それでいてどこか心配するような表情でカミーユに語りかける。 「私は先日、貴女を守る盾のように動きました。それは自身が『守る』ために力を望んだ一つの形です。別に、戦うのならば誰かの盾になるだけが道ではありません。あの時、貴女はどのように誰かの力になりたいと思ったか……その心を見つめ、それに合った道を選ぶのがよいでしょう」 志藤自身の。そしてカミーユの心の中にある不安感が拭えるように。 強さの高みへ登りはじめたばかりのカミーユが、歪んでおかしな方向へ行かないように。それは今日集まってくれた誰もが願ってやまないことである。 「……わたくし、強くなるということを甘く見ていました。でも、それでも、皆さんに追いつきたい。わたくしだけの強さを求めていきたいと、心から思います」 何が彼女を突き動かすのかは分からない。それでも、海月に弓を射させて欲しいと乞う姿には、迷いも焦りも邪気もない。 カミーユが背中や命を預けて戦えるようになるまでは、まだ遠いとしても――― |