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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 開拓者ギルド職員、十七夜 亜理紗。記憶喪失状態で石鏡を放浪しているところを助けられ、ギルドで働くことになった人物だ。 探し求めた過去への手がかり。そして肉親。その情報というか本人が突然現れたのはつい最近のことだ。 直に会ってもピンとこなかった亜理紗に、祖母と名乗った老婆は『焦らなくていい。まずは一度遊びに来てみればいい』と伝え、亜理紗は試しに帰郷(?)することとなった。 が、その老婆に不穏な気配を感じ取った先輩職員、西沢 一葉により依頼が出され、亜理紗の帰郷には開拓者が同行。みんなで亜理紗の故郷(?)で過ごしてみたが、どうも本人にはしっくりこなかったようである。 「どうだったの、その村は。何か思い出せた?」 「うーん……正直、あんまり。なんとなく、『あ、ここは覚えがあるような』とか、『あれ? この人会ったことがあったかなー』みたいなことはあったんですが、お婆ちゃんの家にも覚えがない始末でして」 開拓者たちが護衛してくれたということもあって、特段何が起きたわけでもなかった。 分かったことといえば、亜理紗の両親は事故で他界しており、それ故祖母が育ての親となっていたということ。 そして、ある時山菜を取りに行くといって出かけたきり行方不明になってしまったことくらいか。 「でも、多分あの人が私の祖母なんだろうと思うんですよ」 「……どうして?」 「だって嘘をつくメリットがないじゃないですか? 私は別にお金持ちでもありませんし、私のことを孫にして得なことなんてありませんもん。大飯ぐらいな分、損することはあるかもしれませんけど」 「それは短絡的よ。メリットがないから本物だろうなんて、絆も縁も感じないのにそんなこと……」 「そ、それはそうなんですが……うーん、なんていうんでしょう。本物であったらいいなーっていう希望的観測もありますけどね」 「肉親や過去に妥協してるだけよ、それは。間違ってたら傷つくのはあなたなんですからね」 「……一葉さん、随分と噛み付きますね。そんなにあのお婆ちゃんのこと気に入らないんですか? 良い人なんですけど」 「この仕事をしていれば、良い人に見えたあの人が……なんていうのは腐るほど見るもの。あなたの保護者として、姉のような存在として、あなたには幸せになって欲しいだけ」 「そのお気持ちは凄く嬉しいですけど……うーん……」 聞けば、また遊びに行く約束をしてしまったらしい。何事も無く、本当に記憶が戻るならそれが一番ではあるが、前回同行した開拓者たちの中にも何かしらの違和を感じた者がいるという。 老婆の本心は見えない。シロと決めてしまうにも確証が足りない。そう判断した一葉は、今度は『亜理紗がいない時に老婆の調査をしてほしい』という依頼を出した。 亜理紗はメリットがないなどと言っていたが、どんな理由がメリットとなるかなど人それぞれである。 運命の流れは、未だ正にも負にも傾いていない――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●村の日常 再び亜理紗の祖母と名乗る人物の調査を依頼された開拓者たち。直接会った彼らでさえ、多少の違和感はあれ怪しいと思うことはなかったのに……である。 もっとも、村の外にいたメンバーの一人が怪しい台詞を聞いており、依頼人の西沢 一葉の懸念が杞憂だけではなさそうでもあるのだが。 危険が少なそうということで、今回は開拓者が幾つかの班に別れて行動し調査を行なっている。 「あぁ、十七夜 木乃華(たちまち このか)さん? そりゃあんた、ワシの幼馴染だからもう何十年も前からここに住んどるよ。若いころは大層な美人さんでのう、村の男集の憧れの的じゃった。射止めたやつが羨ましゅうて羨ましゅうて」 「ということは、村自体も何十年もあるんですよね?」 「勿論じゃとも。元々は銅山開発のために出来た集落が大きくなっていったと聞いたのう」 直接村に入り、村長に話を聞きに行ったのは長谷部 円秀(ib4529)。もともと閉鎖的な村ということで最初は渋い顔をされたが、亜理紗を帰郷させた面子の一人と告げると態度が急に軟化した。 すでに銅山は採掘しつくされ、村だけが残った。あとは農業で細々とやっているということらしい。 話しに不審点はない。村長にお礼を言って村を回ることにした長谷部であったが、村人からも似たような話しか聞けなかった。 と、そこに。 「それにしても大変だったでしょう。突然亜理紗さんがいなくなってしまわれて。そのとき、皆さんでお探しになられたので?」 「おぉ、あん時ゃ大騒ぎだったっぺよ。村の子供が『亜理紗ちゃんがいなくなった』って言ってきてな、村総出で徹夜で探したんだべ。けんど前の日まで大雨が振っとってよ、川が増水しててこりゃ無理だってことになっちまってさぁ」 石に腰を下ろし、スケッチブックを片手に雪切・透夜(ib0135)が村人と会話しているのが見える。 どうやらスケッチに来たという理由付けも怪しまれてはいないようだ。実際にかなりの出来栄えの絵が描かれているのだから疑う余地もないのだが。 「亜理紗さん、どんな子でした?」 「うーん? なんつーかこう、大人しくて目立たねぇ感じだったっぺ。黙ってっことが多かったから、あんまし声は聞いたことなかったっぺよ」 「……? ご飯とかはよく食べました?」 「いやいや全然。少食で困ってるって木乃華さん苦笑いしてたしよ」 「そんな可愛いお孫さんがいなくなったんじゃ、お婆さんそうとう焦ってたんじゃありませんか?」 「うん? いやそれが、のほほーんとしたもんで面食らっちまってよ。『どっかで道草でも食っとるんじゃろうよ』なんてよ、けらけら笑うもんだからこっちのほうがびっくりしたべさ」 「……」 士道という信頼を得やすくする技の効果もあってか、村人はいとも簡単に答えてくれる。だがそこから見えてくるのは、現在の亜理紗との相違点と老婆の言の肯定。 確かに亜理紗は現在記憶喪失である。今のほうがおかしいのであって、昔は大人しい性格だったのだと言わてしまえばぐうの音も出ない。 「どうも。奇遇ですね」 「おや、長谷部さん。貴方もここに?」 「はい。先日お伺いして、ひなびたいい所だと感じましたので」 偶然を装い、長谷部と雪切が合流する。それは事前に打ち合わせた『一旦村を出よう』との合図でもある。 「おっとう〜! おっかぁが呼んでるよ〜!」 「可愛らしいお子様ですね」 「へへ、オラに似ねぇいい子なんだべよぉ」 「子供はいいですね。無邪気で明るいから、見てるだけでも楽しくなります」 雪切は立ち上がり、近寄ってきた子供の頭を撫でると、長谷部を追って走りだした。その際、『折角会ったんですから』との小芝居も忘れない。 村を出た後、雪切が刀と一本の髪を取り出した。 「それは?」 「先ほどの子供の髪です。これが黒なら塩に、白ならばそのままです……」 聖堂騎士剣を発動した刀に髪を触れさせてみる。しかし、髪は何の変化もなくはらりと地面に落ちただけ。 「……少なくとも、あの子はアヤカシや式、人妖の類ではない……と」 問題はないはずなのに、どうも引っかかりが残る村での聞き込み。二人が憮然とした表情をしてしまうのも無理はなかった――― ●強行軍 安雲の役所に足を運び調査をしだしたのは神座亜紀(ib6736)と真亡・雫(ia0432)。 一応前回も調査はしたのだが、念のためともう一度やってきたのである。 「……名前、ありますね。そちらは?」 「うーん、士道は勿論、吟遊詩人とかジプシーとか、魅了系の術も既知のものしか載ってないー」 真亡は亜理紗の戸籍を、神座は人の信頼を得やすくなるような術のことを調べてみたが結果はこれである。長居しても益がなさそうということで早々に役場を出た。 その足で件の村の隣村に移動した二人は、酒場などで聴きこみを行うことにする。 「あー、知ってる知ってる。何年か前の大雨の時の話だろ? 若い娘が行方不明なったとか」 「珍しかったもんな。あの村から『女の子が流されて来てねぇか』なんて話が来るの」 中年の男たちは、仕事上がりに一杯引っ掛けていたのか上機嫌で答えてくれる。 確かに亜理紗が記憶喪失で保護され、今の状況に落ち着いたのも『何年か前』でカテゴライズできる。そしてここは例の村ではなくその隣村である。 閉鎖的な村が他所の村に出向いて行方不明の人間を探しているというのはかなり珍しかったらしく、この話を覚えている村民も多かった。 「……また話の辻褄が合っちゃったね」 「所々おかしいところはあるけれど、全体的に問題がないんですよね。一葉さんの道士としての勘と、例のおかしな台詞さえなければ……」 こうして、神座と真亡も憮然とした表情で件の村を訪れる。 とはいってもそんなに時間がないので、村人にちょっと話を聞くくらいしかできないのだが。 強行軍で移動を繰り返した二人は流石に疲労しており、駆けまわって遊ぶ子供たちが純粋に微笑ましく羨ましくもなる。 「ねぇねぇ君たち、亜理紗さんとかそのお婆さんに遊んでもらったことある?」 「亜理紗お姉ちゃんにはないけど、木乃華婆ちゃんにはあるよー。お手玉とか上手いんだ!」 「亜理紗お姉ちゃんはいつも暗い顔してて、遊んでくれなかったのー!」 神座と真亡は子供たちに話を聞くことに重きをおくことにする。この年齢の子供たちには口止めやら言い含めなどは無理だろうとの考えからだ。 子供たちは淀みなく思い出を語る。とても嘘とは思えない。 二人は顔を見合わせると、お礼にと自分たちが経験してきた不思議や自然、戦いなどについて語ってみせた。 村の外へ出ることを強く抑制された子供たちにはとても新鮮だったらしく、食い入るように二人の話に耳を傾けていた。その純真な瞳には、やはり嘘は感じられない。 「でもこの村って退屈だな。ボクが今まで経験したような不思議、この村にはないだろうな」 「そうだよね、退屈なんだよー。僕が大人になったら大きな町に行って、ひとはたあげるんだー!」 「えー? 他所は恐いところだってお父ちゃん言ってたよー。アヤカシっていうのに食べられちゃうんだって!」 「アヤカシ……ってなに?」 「うーん……? よく知らないけど恐いものなんだって!」 「……? ちょっと待って。君たち、アヤカシを見たことないの?」 真亡が子供たちの会話に違和を感じた。 神座は探りというか挑発の意味を込めて言ったのだが、そこから妙なところに話が飛ぶ。 「しらなーい。聞いたこともなかったー」 「じゃあ、この辺でアヤカシの被害に遭った人はいないの?」 「この村にはいないと思うよー? 聞いたことないもん」 人の口には戸が立てられない。それは子供たちであれば尚更で、どこそこの誰々がどんな目にあったかというのはかなりの速さで伝播する。閉鎖的であればより顕著であろう。 それが、ない。少なくともこの村は、この子供たちが生まれたであろう6〜7年前からアヤカシの被害に遭ったことがないということになる。 「……ありえないよ。アヤカシは天儀のどこにでも発生するのに」 「……不審な点が一つ増えたね。分からないことも増えたけれど……」 亜理紗の件を抜きにしても、この村には不可思議な点がある。 それが亜理紗や老婆とどう関わってくるのか……ピースはまだ、合致しない――― ●古 「えーと、何かヤバい謎の陰陽師? だっけー。石鏡で悪さしてるっぽいし、そもそもありさたん、何かヘンな術使うんだろ? ……も、もしかしたらありさたんも実はメイドイン陰陽師な人工少女!? だとしたら記憶が元々ないのも納得できる―――」 「かボケェェェッ! 亜理紗は普通の人間だ!」 「へぶっ!? オゥイェーロリ同志TAKATO! どうやらキングオブロリコンの称号を争う気になったようだな!」 「そりゃお前でいいっつったろーが。つーか亜理紗がそんなんだったら陰陽寮で反応されまくりだろ」 一際高いテンションで村の周辺を探っていた村雨 紫狼(ia9073)だったが、妄想が加速しきった辺りで鷲尾天斗(ia0371)に背後から蹴りのツッコミをもらう。 確かに謎の陰陽師ならできかねないのが恐いところだが、十七夜 亜理紗はれっきとした人間である。これは変えようのない事実であるので、村雨の妄想は100%あり得ない。 「……お二人は調査をしているという自覚がお有りで? 気が散るので他所でやってください」 「……何をやっているのですか」 そんな二人を冷ややかな目で見やるのはレネネト(ib0260)。村の中から調査を終えて戻ってきた鹿角 結(ib3119)も、その様子を見て思わずため息を漏らしてしまう。 ちなみにレネネトは前回同様、超越聴覚で老婆の動向を探っている。別に近くで騒がれたからといってその音量まで大きくなるということはないが、やはり鬱陶しいようだ。 「これはお返しいたします。特に不審な瘴気の流れや精霊力の流れは計測できませんでした」 「マジか。てっきりなんか反応があると思ったんだがなァ」 「……? その根拠は?」 「……ねェんだよ。墓が」 鹿角がド・マリニーという懐中時計を鷲尾に渡す。 本当は鷲尾自身が探るつもりだったのだが、折角だから手分けしたほうが良かろうと鹿角に託されたのだ。 その間、鷲尾は村の墓地で十七夜家の墓……つまりは、事故死したという亜理紗の父母の眠る墓を探していたのであった。結果は本人も言ったとおりである。 「話は作れても『古さ』は作れない。年数が経っていれば地面は堅いが掘り起こしたり最近作ったのなら真新しく柔らかいからなァ。しっかし、まさか無いとは思わなかった」 村の共同墓地にもなければ村付近のどこにも墓らしきものがない。 不審な点と言えばそうだが、これも口八丁でいくらでも抜け道が作れてしまう事案だ。 「うちは代々墓を作らない主義です……ってかい? ちょっと無理があるんじゃないかなぁ」 「無理だろーが無いモンは暴けねェ。わざとか知らねェがやってくれるぜ」 「ふむ。では後で確認してみましょう。十七夜家には墓がないのですかと聞けば誰か答えてくれるでしょう」 村雨、鷲尾、鹿角が議論している間もレネネトは老婆の家の物音に耳をそばだてている。 しかし、目眩がするほど普通。亜理紗がいようがいなかろうが、老婆の生活スタイルというか佇まいは変わらない。 独り言を言う時も勿論あるが、『あれはどこにやったかのう』とか『今日の晩飯は何がいいかのう』など生活感丸出しのものばかり。 逆に言えば、亜理紗を心配するような言葉もない。むしろ『亜理紗』という単語すら出てこない始末で、本当に心配しているのか甚だ疑問である。 「行動原理がさっぱりわかりません。亜理紗さんを取り戻したいという気配がなくて、『戻ってくるならそれでもいいんじゃないか』くらいにしか考えていないような気が……」 「しかし、それなら大掛かりな仕掛けなどは無いということなのでは? 僕達を騙してまで行動を起こす執着がないということですから」 鹿角にそう言われてしまうとレネネトとしてもぐうの音も出ない。 それが正常な家族を思う者のリアクションかという疑問は尽きないが、現に何かを企んでいるような気配が無いので手が出せない。 各々が行動を起こす前に長谷部が言っていたが、『一番怖いのは亜理沙が老婆を信用して開拓者たちが守れないところに一人で行くこと』だ。 もしこのまま亜理紗が老婆を信用し、一緒に住むと言い出したらどうなるか。 一葉が起点の懸念が杞憂なら喜ばしいが、そうでなかった場合亜理紗がどうなってしまうのか想像もつかない。老婆の目的が見えないので闇は更に深まるばかり。 と、そこに神座の手伝いとして参加していた神座早紀(ib6735)が調査結果の報告に現れた。 「待ってたよ早紀たん! さぁ俺はいつでも『なんだってー!?』と叫ぶ準備は万端さ!」 「近づかないでください!」 露骨なアピールをする村雨から、ずざざっと距離を取る神座早紀。必要以上の警戒をしながら術視「参」で見て回ったことを報告する。 結果から言えば、村の中にも付近にも何かしらの術がかけられているような痕跡はなかった。 もしレネネトが想像したように『造瘴志』という相手と戦った時のような、広範囲に渡る陣のような術式が使用されていたのであれば、神座早紀によって見破られたはず。 瘴索結界にも反応がなかったことから、村人が人外の可能性やアヤカシが潜んでいる可能性も低い。 もはや手詰まりか。そう思った時である。 「……これは、参考になるか分かりませんが」 神座早紀が言うには、村人の何人かに微妙な術の反応があったという。 とはいっても詳細は不明だし酷く微弱で、かなり昔にかけられたのではないかという推測しか立たないらしい。 「どういうこったよ、クソッ! 亜理紗が流れ着いたっつー村も、周辺の地形も、きっちり辻褄が合ってやがった。真っ当な調査じゃ駄目だってのか? レネネトみたいにちょっと捻った調べ方じゃねェと片鱗さえ掴めねぇのかよ!」 苦々しげに吐き捨てる鷲尾。何か嫌な思い出でもあるのだろうか? と、そこで村雨がポンと手を打つ。 「そういや、さっき偵察の時に例の婆ちゃんに会ってきたんだけどさ」 「知ってますよ。会話は聞いてましたから」 「いや、表情なんだよ。『ありさたんからお土産だぜ』って土産物渡した時、一瞬『余計なことを』みたいなしかめっ面したんだよな。でもそのあとすぐににまっと笑って『おぉそうかい、ありがとうねぇ』って言ったんだ。その表情の変化が、『まぁこれもありか』みたいに見えたんだけど」 真実は未だ闇の中。そして時はただ過ぎ去るばかり。 決め手に欠けたまま二度目の調査が終了し……恐れていた事態へと発展する――― (フラグ管理E−4 二話終了時までに手掛かりが足りない) |