|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 『いらっしゃいませ、開拓者ギルドへようこそ! 今日はどんなご用事ですか?』 ポニーテールを揺らし、笑顔で接客する十七夜 亜理紗。開拓者ギルドでも評判の職員だ。 しかし、出勤日であるにもかかわらず、その姿はギルドにない。 それでもいつものように喧騒に包まれているその場所は、まるで亜理紗という人間が存在していなかったかのようですらあった。 先輩職員である西沢 一葉は力なく担当机に座り、ぎこちない笑顔で客に対応する。同僚や彼女をよく知る常連の開拓者たちからしてみれば痛々しいことこの上ない。 ―――先日、十七夜 亜理紗が行方知れずとなった。家にも帰っていないし、書き置きもない。問い合わせてみたが、祖母と名乗る老婆の家にもいないらしい。 お腹が空けば帰ってくるなどと冗談を言っていた頃が懐かしい。たった二、三日いなくなった段階でそんな感慨が湧いてしまうくらい、一葉の中では亜理紗は大きな存在になっていたのだ。 手掛かりが全くない状況で、捜索は難航。急に記憶が戻ったのではという憶測も飛んだが、それなら祖母の家に帰っているはずだ。 一葉が知る唯一手掛かりになりそうなことといえば、『祖母の家にまた遊びに行く約束をしてしまった』という亜理紗の言葉だけ。それもあくまで予定であり、詳しい日取りなどが決まっていたわけではないので今回の行方不明と直接関係があるかはわからない。 聴きこみの結果、朋友の甲龍に乗りどこかへ飛び去ったということが判明した。その時、軽装ながら旅支度であったとも。 何にせよ、人一人が、特に開拓者が行方不明になったというのは只事ではない。 これ以上事態が悪化する前に亜理紗を見つけ保護してやって欲しい――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●願い 「お断りします。わたくし、あの方嫌いですの。特に理由はありませんが」 「そ、そんなぁ」 開拓者たちのサポート役として参加したアムルタート(ib6632)は、独自の情報網を持つカミーユ・ギンサに亜理紗の目撃情報を集めて欲しいと頼みに行ったが、結果はにべもなかった。 「あの方がどうなろうとわたくしの人生に支障ありませんもの」 つんとそっぽを向くカミーユ。どうにも意思は硬そうである――― ●銅山 手探りとはいえ、これまで積み上げてきた調査は無駄ではない。事実、前回の調査で件の村の付近に今は採掘し尽くされ廃坑となった銅山があるということが判明した。 そこに向かう三人の開拓者。勿論、考えがあってのことである。 「村自体に術をかけられた様子がない、なら大規模な何かを仕掛けられそうなのは銅山くらいのものですね」 「甲龍に乗っていったらしいし、もし甲龍が隠されているなら可能性のある場所だし」 「村の外で甲龍ごと隠れられそうな場所……大掛かりな術式の仕掛けや、人の潜めそうな場所を調べるなら、後はもうそこくらいしか残っていませんからね……」 鹿角 結(ib3119)、神座亜紀(ib6736)、真亡・雫(ia0432)の三人は自分で思うよりも焦り始めていた。 この村や老婆には名状しがたい違和感がある。そこに亜理紗の行方不明が重なってしまうと、どうにも嫌な予感が鎌首をもたげてくるのだ。 最悪の事態になる前に何とかしたい。藁をも掴む気持ちで銅山への道を進むが、そこは廃れて久しいのか草が生え放題の獣道のようになっていた。在りし日は鉱石などを運ぶ荷車やらが行き来しただろうことは想像に難くないが、今は……。 やがて、二十分も歩くと銅山の坑道入口が視界に入る。入口は古びた木の柵で封じられているが、半ばほどから崩れており中に入るのは容易い。 「……何もないね。甲龍も見当たらないっと……」 「亜理紗さんは銅山の中にいるかもしれないけど、甲龍は流石に無理だろうし……」 神座と真亡は辺りを見回し途方に暮れる。 坑道の中に入るのもよかろうが、まずは甲龍を見つけたかった。そうすればこの付近に亜理紗が来ていたという証拠にもなるからである。 が、それができない。人を載せて飛ぶ龍ならば大きさから言っても目立つはずなのにそれが見当たらない。 ……しかし。 「……? 鹿角さん? 何か気になることでも?」 「……いえ……何か、血の匂いのようなものがわずかにしたような……」 森の方を見据え、眉を寄せていた鹿角に真亡が声をかける。 その先は荒れ放題の自然の森。踏み入るのにも苦労しそうな雰囲気だ。 しかし、血の匂いというのは穏やかではない。何かあるなら銅山の中だと思っていたが、調べて見る価値はありそうか? 三人は意を決して草木を分け入って進む。 やがて、森の中に不自然な破壊の跡を発見する。周囲の草木が焼かれ、そこだけ焼け野原のようになっていた。上を見上げると、不自然に枝が折れている木がいくつもある。 「これ……上からでっかいものが落ちてきたって感じだよね」 「そうですね。しかも、このサイズだと……丁度、龍くらい……!」 神座と真亡の中の緊張感が増す。辺りを警戒するが、とりあえず危険は察知できない。 鹿角は神経を研ぎ澄まし、血の匂いの出処を探している。 元々極微かに感じただけの匂い。もし本当に血の匂いならば、亜理紗が行方不明になった日にちを考えるなら嗅ぎ取れた事自体が奇跡に等しい。 だから、あるはずなのだ。乾いた血飛沫の跡などではなく、未だ血の匂いを発することのできる何かが。 「……? 神座さん、灯りをお願い出来ますか?」 「うん。構わないよー」 真亡に頼まれ、神座はマシャエライトを発動する。 鬱蒼と茂る森の中は昼でも薄暗い。熱のない火球に下から照らされた木々の間に…… 「あれは……皮膜の一部!?」 墜落した時に破れたのか、龍の翼の一部と思わしきものが木に引っかかっていた。 どうやら森の小動物がかじりに来ているようで、あちこちに歯型のようなものがある。そのせいでたまに血が吹き出し、血の匂いを撒き散らしていたのだろう。 「決まりだね。数日以内にここに龍が墜落した。あの皮膜を調べれば、龍の種類もわかるよね」 「何があったにせよ、龍が墜落したら乗り手は……! 亜理紗さん……!」 「一度戻りましょう。他の方々にも進展があったかも知れません」 皮膜を回収した三人はとりあえずこの場を去ることにした。 この皮膜の持ち主が甲龍だとしたら、亜理紗の朋友である可能性は更に高まる。 銅山を調べに来た甲斐はあったと言えるだろう――― ●搦め手 「師匠に言われましてね。地に足の着いた人達を学ぶのは大きい。色々な方にお願いして描いてこいと」 「いんやぁ、そっだらこと言われっと照れっぺよ! オラたつからすっと開拓者様たつの方が華やかで羨ましいっぺな! 貧乏もすなさそうだすよ!」 「ふふふ。実力次第では貧乏する暇もなく命を落としてしまう過酷な職業でもありますけどね。ですから、こうして絵を描くことで気持ちを楽にしてます。実際、僕も楽しいんですよ」 雪切・透夜(ib0135)は村に入り、前回同様村人たちと接触している。 今回は無作為ではなく、サポート要員の神座早紀(ib6735)が以前にリストアップしてくれた『過去に術をかけられたことがあるような微弱な反応を示した者』を追っている。 表面上は絵を描きに来た趣味人。しかし、彼には重要な役目があった。 「あの、よければモデルになっていただけませんか? 丁度、村の付近でいい場所を見つけたんです」 「もでる?」 「えっと、村を背景にあなたの絵を描かせていただけたらな、と」 「あらやだ、オラでいいべか? かー、褒めてもなんもでねぇっぺよ? 緊張すっぺや!」 四十歳くらいの女性。悪い言い方をしてしまうといかにも田舎のおばさんと言った風体だが、素材は悪くない。よく言えば味があるということでもある。 純粋に絵を描きたい衝動にも駆られたが、今はやめておこう。 承諾を得た雪切は、予め仲間と打ち合わせた場所に女性を連れていき、スケッチを開始する。 小高い丘から村を見下ろし、岩に座った女性と風景のマッチングを描いていく。 「……どう思います? 完全に村からは出ていますが」 「……確かに、何かしらの術らしきものを受けた形跡はあります。しかし、あんなに微弱では現在も効果を発揮している、もしくはこれからする類のものではないでしょう」 その様子を、物陰からレネネト(ib0260)とヘラルディア(ia0397)が観察している。 要はこの二人の作戦なのだ。村人たちが村から出られないから閉鎖的なのではないかとか、村人たちをこの村に縛る何かがあるのではないかと踏んだのである。 しかし、明らかに村の外である場所まででも村人はあっさり付いて来られたし、嫌がる素振りもなかった。 「正直に申しますと、わたくしは以前に村に入ったことのある方々に『鈴』が付けられているのではないかと思っていたのですが……」 「その口ぶりからすると杞憂だったわけですね」 「はい。村に足を踏み入れていないというレネネト様は勿論、他の方々にも術の痕跡などは一切。勿論、術視で見破れない術という可能性もあるにはあるのですが……」 「合計三度目の調査なわけですが……どうもこの一件、正攻法で攻めても効果が薄い気がします。大きな手がかりのようなものを手に入れられたのが、私の『村の外から盗聴する』という搦め手でしたから」 「では、村に何かが仕込まれていたり、村人に何かが仕込まれている可能性は低いと?」 「わかりません。微弱な術の反応などもありますし、もう何が何やら……」 結局、雪切が受け取ったリストに書かれていた人物を数人村の外に連れ出してみたものの結果は芳しくなかった。全員さらっと村の外に出てしまったのである。 そういえば老婆に亜理紗を開拓者ギルドで見かけたと伝えたのは村人の誰かだったのではなかったか? 分からない。正攻法では手掛かりが、見つからない――― ●余裕 「亜理紗が見つからん」 村に入った鷲尾天斗(ia0371)は一直線に老婆の家に行き、開口一番そう言った。 一緒に付いてきた長谷部 円秀(ib4529)のほうがぎょっとするくらいのド直球である。 二人共直接老婆の動向というかリアクションを探ろうとしているのだが、スタンスには違いがあるようだ。 「あぁ、聞いとるよ。こっちに来とらんかと開拓者ギルドから連絡があったからのう」 「……の、わりに焦っていませんね? お孫さんが行方不明なんですよ?」 「そりゃあ、二年も行方不明だったんじゃから今更数日行方が知れんからといっておたおたせんわい」 「……それだ。どうもアンタのその余裕綽々な態度が気に入らない。なんでそんなに落ち着いてるんだ? なんでそんなに無関心なんだ?」 「おや……おぬし、そんな口調じゃったか? もっとこう、砕けた言葉尻だったような気がするがのう」 老婆が首を傾げたその時である。トントンと入口の戸がノックされ、アムルタートが顔を出した。 囲炉裏を囲み座って話をしていた鷲尾に何やら手紙のようなものを渡す。 「おや、見ん顔じゃのう」 「ただのお使いだからお構いなく。じゃあね〜♪」 くるくるとステップを踏みつつ去っていくアムルタート。途中、鷲尾に笑顔で目配せした。 『お断りします。わたくし、あの方嫌いですの。特に理由はありませんが』 『そ、そんなぁ』 『あの方がどうなろうとわたくしの人生に支障ありませんもの』 『でもね、カミーユぅ……!』 『……わたくしの人生に支障はありませんが……わたくしが拒否することで、教えを頂いた先輩方が悲しい思いをしてしまうのであれば、わたくしはきっと後悔いたします』 『カミーユ! それじゃあ……!』 『はい。噂だけは聞いておりましたのですでに調べていただきました』 『早っ!?』 『ジョバンニが一晩で調べてくださいましたの。それによると―――』 「……感謝するぜ、カミーユ。……どうやら亜理紗が見つかったみたいだ」 「ほう。そりゃ僥倖じゃのう」 カミーユ・ギンサは独自の情報網を持つ良家のお嬢様である。亜理紗とは犬猿の仲だが、調査に協力してくれたようだ。これも日頃の行いであろう。(フラグ管理D−5&6 カミーユの依頼が成功済み&カミーユを教えた開拓者が参加している) 「……どうやら『アヤカシ』関係の事故でなくなった両親の墓参りに行く途中だそうだ。俺も行くから『墓の場所』を教えてくれない?」 「む? うちは代々墓は作っとらんよ。……あぁ、記憶が無いから忘れとるのか」 手紙に書かれた内容を頭に叩き込みつつ、老婆に揺さぶりをかける鷲尾。 しかし老婆はあっけらかんと答えてみせる。その表情には微塵もブレがない。 「アヤカシ関係の事故というのは否定しないのですね」 「ありゃ、言っとらんかったかのう。確かに亜理紗の両親の死因にはアヤカシが絡んどるが……むしろよく知っとったなぁ。あまり話したことがないんじゃが」 またしても余裕綽々な老婆の答えに、流石の長谷部もイラッと来る。 しかし鷲尾は口撃の手を緩めない。 「アヤカシは少なくとも約6〜7年間はこの付近には出ていない。それ以前に出たとしても子供達が知らないのはおかしい。違うか?」 「亜理紗の両親が死んだのはこの村の外でのことじゃからな。わざわざ子供らに『アヤカシというものに殺されたんじゃよ』と言う事もなかろうて」 「そうかい。じゃあ先日、この付近で甲龍が撃墜されたって目撃情報はどう説明する?」 「おや、そんなことがあったのかい。もしかしてそれに亜理紗が乗っておったのか?」 「ぬけぬけと!」 「鷲尾さん、落ち着いて!」 「ちっ……! 地上から何かが発射されて甲龍が撃墜、墜落した先で火の手が上がったが何故か延焼せず鎮火した。それを知らないってのか、付近の住民が!」 「農家の朝は早いんじゃ。夜はさっさと寝る者が多いしのう」 「……何故夜だと?」 「ん?」 「今、私も手紙を読ませてもらいましたが……確かに目撃情報は夜にあったものだと書いてあります。しかし、鷲尾さんは撃墜された時間帯は言いませんでした。それなのに何故夜は早く寝る云々の話になるので?」 「あぁ、そんなことか。昼や朝ならそれこそ村の誰かが目撃しとるじゃろ。誰も知らんということは夜の時間帯しかありえんよ。簡単な理屈じゃ」 「ぐぬぬ」 なんなのだ、この老婆は。この受け答えを瞬時に、焦りの色も見せずに考えているのであれば凄まじく頭の回転が早いということになる。 余裕綽々の態度は崩れない。が、この付近で甲龍が撃墜され、不審火が起き、延焼せずに鎮火したという事実は消えない。これは重要なことである。 仮に老婆がまるで関係なかったとして……それでも亜理紗が近くに居るかもしれないのだ。 「鷲尾さん、ここは亜理紗さんを探しに出るのがいいかも知れません。行方不明なら発見は早いほうがいいですし」 「うむ、そうしてもらえると助かる。なに、おまえさんらが間に合わなくともワシにはたっぷり時間があるしな」 「……全然心強く聞こえないんだよ……!」 結局、亜理紗を発見することは出来ず開拓者たちは時間切れとなってしまった。 ここまで来ると開拓者たちにもわかる。この老婆には何か名状しがたい薄気味の悪さがある。 神座、鹿角、真亡が発見した墜落跡は、鷲尾や長谷部によって確信となった。彼女らが回収した皮膜は甲龍のものであると後に判明する。 そして、レネネトは聞いた。鷲尾たちと別れた後、一人となった老婆が呟いた言葉を。 「ふむ。これは少々急がんといかんか―――」 |