|
■オープニング本文 開拓者ギルド職員、西沢 一葉は天儀では珍しい道士である。 道士とは、対キョンシーに特化し、それを制御することができる者。泰国発祥であるが、現在では泰国にも数は多くない。 天儀で起きたキョンシー騒動は、大概一葉にお鉢が回る。一葉自身は志体を持たないため、開拓者に護衛を頼みキョンシー退治……というのがいつもの流れであった。 キョンシーは、凶暴化したものとそうでないものの二種類に分類される。そのうち、凶暴化したものは道士といえど制御することは出来ず、滅する他にはない。逆に、凶暴化していないキョンシーは御札や法力で制御することができるため、一葉の実家にある廟に引き取られ管理されている者もある。 そして、その一葉の実家で事件は起きた。 「な、何よあなたは!? 不法侵入よ!?」 「……退け、女」 黒マントにフードを目深にかぶった男は、白昼堂々一葉の家に押し入り、他には目もくれず廟を目指した。 一葉の静止など勿論無視。廟の戸を足蹴にして開き、5体ほど並んだキョンシーを見回した。 「……なんというおぞましい光景だ。神罰の代行者たる我らが浄化してくれる」 「だから待ちなさい! このキョンシーたちは害はないの! それに、他所様から預けられた遺体なのよ、この人たちは! 勝手なことしないで!」 「土は土に。灰は灰に。塵は塵に。このような神の摂理を逸脱したモノを見過ごすわけにはいかん。……それとも何か? 死者を操る怪しげな魔女として貴様を先に罰して欲しいか?」 「……!」 身の危険を感じた一葉は、印を組んでキョンシーたちに指示を出す。 すると、額にお札を貼られたキョンシーたちが動き出し、フードをかぶった男に襲いかかった。 男はどこからともなく剣を取り出しキョンシーたちを斬りつけるが、キョンシーの肉体は非常に硬い。 蹴り飛ばして距離を取った男は、忌々しげに言葉を吐く。 「なるほど、噂通りだ。今の装備では殺しきれん。次は万全の準備を以って救済に当たろう」 本のページのようなものが紙吹雪を巻き起こし、目をくらませる。それが止んだ時、謎の男はその場にいなかった。 だが、一葉は思い出した。男が名乗っていた『代行者』という言葉に聞き覚えがあったのだ。 「代行者……その昔に存在したっていう、最強にして最凶の宗教の実力者……! 本当にいたなんて……!」 凶暴化しておらず、しっかり管理されているキョンシーには害はない。それを勝手に破壊しようというのは立派な犯罪である。 道士の下を訪れた代行者。それを撃退するため、開拓者ギルドに依頼が出されたのであった――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
トカキ=ウィンメルト(ib0323)
20歳・男・シ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
无(ib1198)
18歳・男・陰
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●民家の迎撃戦 西沢 一葉の実家に集合した開拓者たちは、建物の配置や周辺の状況などを把握し、早速行動に移った。 敵はいつ来るのか、どれほどの人数で来るのかわからない。通常考えれば、闇夜に紛れてというのが一般的ではあろうが……仮にも神の代わりと豪語するだけあり、こそこそ隠れて行動しなかったようだ。 「あっちから三人!」 廟の屋根の上から周辺を警戒していた不破 颯(ib0495)から全員に敵の接近が告げられる。 数は三。どれも神父やシスターのような格好をしており、先日のような黒マントにフード姿ではない。 キョンシーのことについて情報を集めていた以上、一葉が開拓者ギルドの職員であることはすぐに調べがついたであろうし、依頼が出されることも開拓者が待ち伏せすることも織り込み済みだと考えるのが妥当か。 「敵が来たようです。いざとなったらキョンシーに守ってもらってくださいね」 「代行者が狙ってるのは私じゃなくて、キョンシーそのものだと思うんだけど……」 「一葉さんを倒してしまえばキョンシーは動かない。つまり、ゆっくり料理することができるわけです。私が調べた限りだと、代行者はいざとなったら手段を選ばないということになっていますが?」 无(ib1198)と一葉は廟の中に籠り、キョンシーたちで守備を固めている。 確かに一葉を外に配置して狙われましたでは洒落にならない。一葉はあくまで一般人なのだから。 あとは外にいる仲間たちが、中にまで相手を入れないよう奮闘してくれることを祈るしか無い。 独自に調査したという无に言われては、一葉も黙って従うほかはなかった。 一方屋外では、やってきた三人の聖職者らしき人物と開拓者たちが睨み合っているところである。 初めから殺気を放って近づいてくる辺り、堂々としすぎていてある意味感心してしまう。 「『神罰の代行者』ねェ……相変わらず笑えるセンスしてんなァ」 「異教徒どもに理解できるわけがない。我らの信仰は我らにのみ理解されればそれで良い」 「他者の都合や他の文化を理解せずに自分達の偏屈を押し付ける無粋者は帰ってくれないかなァ。帰ってくれないと……潰すよ?」 「哀れな。我らが信仰こそが最も古く最も尊いものである。現存する異教など、所詮我らの信仰の模造品……紛い物に過ぎぬというのに」 鷲尾天斗(ia0371)はリーダー格と思わしき初老の神父に対し、憐れむような目を向けた。しかしその口元は大きく歪んでおり、決して友好的な会話にはならなかった。 代行者たちの方も、それぞれため息をつくなど開拓者を憐れむような表情を浮かべていた。 「お初にお目にかかります、神教会の神使であり神父です。どうぞお見知り置きを。私もある意味では神の代理人、地上における神罰の代行者、ただしアヤカシに対してですが」 懐柔策というわけではないが、エルディン・バウアー(ib0066)は鷲尾とは対照的に礼儀正しく接してみる。すると、人のよさそうな笑顔を浮かべたメガネのシスターが一歩前に出る。 「まぁ。教えが異なるとはいえ、源流は我らが信仰のはずですわね。ならばお分かりになるでしょう? あのキョンシーというアンデッドはあってはならないモノなのですわ」 「キョンシーでも、人々にそこにあって良しと存在を認められるなら、不浄とは言えない……と思います。しっかり管理されている人様の御遺体を、勝手な都合で破壊しようとはいただけませんね」 エルディンの言葉を聞いた途端、シスターの表情が歪む。背後からマスケット銃を取り出し、じゃきりと構える。その顔は先程までの人の良さは嘘のように消え、憎しみにまみれていた。 「命が終わったらちゃっちゃとおっ死ね! 天儀野郎!」 「うーん……死んだら人間そこでおしまい、救済も安寧もありはしないってのが俺の持論なのであなた方の言ってることは些か理解しかねます」 「理解できなきゃお前もおっ死ね! ウチの裏教義にはさァ、『暴力をふるっていいのは化物と異教徒だけ』ってのがあってね!」 トカキ=ウィンメルト(ib0323)の素朴なつぶやきが癇に障ったのか、問答無用で銃弾を発射するシスター。 しかしその攻撃を予測していたアルクトゥルス(ib0016)が走りこんでおり、割って入って弾丸を盾で弾く! 「我を通したければ口で語らず刀槍にて通してみるがいい……っと、お前さんの場合は銃か?」 「ふ……ならば私はこの拳で押し通るまで。キョンシーには素手に近いほど効果が高いと聞いた」 舌打ちするシスターを制し、短髪の若い神父が構えを取る。 泰拳士なのだろうか? その佇まいは恐ろしく隙がない。 「打撃で来るならやりやすいですねぇ。これでも拳士なので……拳の力、見せましょうか」 長谷部 円秀(ib4529)もまた拳が武器の人物である。それぞれフォーメーションや役割などは事前に決めてあるため、あとは相手を選んで実行あるのみだ。 「一葉さん曰く、特殊な弾丸やら術やら使ってたら遠距離でも有効なんだってなぁ? 予め分かってりゃやらせねぇよぉ!」 黒い笑いを浮かべ、不破が廟の屋根の上からガドリングボウで矢を連射する。 目標は銃持ちのシスター。理由は彼が呟いたとおりである。 しかし相手も屋根の上に居る弓術師の姿は確認済み。高みから狙われることの怖さは後衛職のシスターもしっかり理解しており、矢を回避しながら無理な体勢で弾丸を放った。 当然、そんな狼狽え弾が正確にヒットするわけがない。大きく逸れたと思われたが、突如その軌道が変わり不破に直撃する! 「ぐぅっ!? く、クイックカーブ!?」 「私はガンシスター、ライフ・ルー・ウイングス。前衛後衛の区別無く私の弾頭は許しはしないわ」 「じ、上等ぉ! 弓使いは敵にとってのお邪魔虫ってのが俺の信条だ。それで仲間が勝てば僥倖だ。つーわけで徹底的に邪魔するぞ宗教家共。あんたらのミッション難易度最高に跳ね上げてやるよぉ」 「回復してる!? チッ、どこかにヒーラーがいるね!?」 銃弾でかなりのダメージを受けた不破だったが、急速に回復し再び弓を取った。 それは建物の陰に隠れながら戦況を分析し、回復役も兼ねるヘラルディア(ia0397)の力添えよるもの。敵も流石にこの状況でヘラルディアを探して撃つほどの余裕はない。 『破ぁっ!』 二つの声が同時に響き、拳と拳が激突する。 神父が回し蹴りで追撃をかければ、長谷部はそれを掻い潜り腹を狙う。 しかし神父はそれを読み、打ち上げられようとする拳に肘を落とし拳そのものを破壊しようと考える。 無論そのまま迎撃される訳にはいかない長谷部は拳を止め、足払いに変化。上手く虚を突いたかと思われたが、神父は地面に手をつき軽業のような動きで退避する。 この間僅か数秒。力量差はほぼなく、長谷部だからこそ相手ができているというレベルだ。 「円秀殿、少しは私にも戦いどころ残してくださいよ」 バヨネット二刀流で挑もうとするエルディンだが、それを長谷部が制する。 「待ってください。あの相手は、まともにぶつかっては危険です。できればエルディンさんは死角を突くか、サポートに専念していただいたほうが安全です」 「むむ……円秀殿がそう仰るなら。神に仕えし聖霊よ、我らに立ちふさがる敵を退ける力を与えたまえ、Amen」 エルディンがかけたアクセラレートとホーリースペルで強化された長谷部は、瞬脚を使い一気に肉薄する。 神父は驚愕した様子もなく、淡々と迎撃に当たる。 突き出された長谷部の拳が、まるではたくような動作であっけなく流されてしまった。 「このっ……!」 連続で拳を繰り出すが、神父はそれらを全てはたいて受け流す。そのうち、隙を見つけたのか一歩踏み込んで軽く足払いをかけ、長谷部の体勢が崩れたところで拳を叩きこもうとする! 「アクセラレート……いや、瞬脚!」 すんでのところで攻撃を回避する長谷部。アクセラレートだけでは避けきれないと判断してのことだった。 お互い再び距離を取り、構えを取る。 「ふっ……瞬脚を使うとわかったならばそれを弁えた上で間合いを見測るだけのこと」 「いや、そのりくつはおかしい」 一瞬で移動する瞬脚を前に、間合いもクソもないと抗議するエルディン。しかし長谷部は神父の台詞が冗談などではないと感じていた。 「死者の為には花束を。正義の為に剣を持ち、悪漢共には死の制裁を」 初老の神父と対峙するのは鷲尾、トカキ、アルクトゥルス。両者が激突する前、鷲尾は魔槍砲を大仰に掲げてみせた。 「しかして我ら聖者の列に加わらん。サンタ・マリアの名に誓い、すべての不義に鉄槌を!」 ゆっくりと下ろした魔槍砲から、問答無用で火線が放たれる。 初老の神父は腕を交差して防御の姿勢を取り、爆煙の中に消えた。 真正面から、しかも生身で魔槍砲を受け止めようなど正気の沙汰ではない。しかし霧散しゆく煙の中から、ほとんど無傷の神父が現れる……! 「粋がるなよ小僧。我らに向かって聖句などと思い上がりも甚だしい」 「俺が言うのも変な聖句だがなァ。……つーかなんだその服。防弾加工でもしてあんのか?」 「ひとえに神の慈悲、神の御加護よ。ではこちらの番だな」 初老の神父はどこからとも無く六本もの剣を取り出し、指で挟んで保持している。 まるで手品。そしてその年齢に見合わないスピードで鷲尾に肉薄する! 「北辺蛮族舐めんなぁぁぁっ!」 迎撃に出たのはアルクトゥルス。刀身が見えづらいと評判のクリスタルマスターという剣を用い、接近戦を挑む。 敵の握力はどうなっているのか。一本の渾身の力を込める剣が、指で握った剣で止められてしまう。 片手にある三本で一撃を防ぎ、残りの片手にある三本で串刺しにしようと手を振るう。 それにあっさりやられるアルクトゥルスではない。盾を用いてそれを弾き、一旦距離を――― 「貴様らに用はないのでな」 下がろうとしたアルクトゥルスの目の間に初老の神父がいた。アルクトゥルスが距離を取ると踏み、そのまま突破することを狙ったのである。 元より代行者たちの目的はキョンシーの抹殺。開拓者たちの相手をする道理はなく、突破できるならそれに越したことはない。 アルクトゥルスの腹を踏み台にするように全力で蹴りつけ、前進を続ける! 「させませんよ!」 トカキがアークブラストを放って迎撃しようとするが、初老の神父はそれの動きを目の端で見ていた。 術が直撃する直前、右手の剣のうち一本を手放し身代わりとした! 「なっ……! もう少し早ければアークブラストは軌道を曲げ、本人に直撃していた。もう少し遅ければまともに喰らっていた。この人は……魔術師相手も慣れている……!」 驚愕するトカキを尻目に、初老の神父は更に進む。後は鷲尾が抜かれたら廟まで一直線だ。 「野郎ォッ!」 「シャァァァッ!」 剥き出しの殺意で向かってくる初老の神父。魔槍砲で接近戦を仕掛けようとする鷲尾だったが、その直前になって矢が三連射で飛来する。 神父はそれを叩き落とし、更に横から棒手裏剣が来ることを察知、仕方なく一旦後退する。 「射手が邪魔をしたか……! ライフは何をしている!」 「五月蝿いねジジィ! こっちだって必死なのよ!」 シスターは若い神父、初老の神父の両方を援護しつつ不破のことも牽制しなければならない。 明らかな人数不足であるが、彼らもここまで手強い開拓者が集まるとは予想していなかったのだろう。三人で充分と侮ったのは痛手と言える。 「今度は遅れは取らない!」 「小細工を弄するか、若造!」 アルクトゥルスが再び初老の神父に接近、速度を重視した連撃を敢行する。 それを的確に捌いていく神父の技量には舌を巻かざるをえない。焦りを見せるアルクトゥルスが放った甘い一撃を剣を交差させて挟み込んだ神父は、そのまま人一人を投げ飛ばす! 「あちらも無茶苦茶ですね……。代行者というのは噂通り化物揃いのようです」 建物の陰のヘラルディア。適宜閃癒で味方を回復している。彼女がいなければシスターの銃弾で被害が拡大し、とっくに突破されていただろう。 ヘラルディアは長谷部たちのほうに視線を向ける。すると、長谷部とエルディンが挟み撃ちで若い神父に向かっていくのが見えた。 「世の中の神父は戦うものなのです」 「狂信者って怖いですねぇ」 減らず口が出るならまだ余裕はあると思いたいところだが、若い神父はダメージを負いつつも退く気配がない。淡々としたその表情からは、どうしてそこまで教えに、キョンシー破壊に執着するのか読み取れない。 接近する二人の開拓者。ほぼ互角の戦いを演じた長谷部よりはエルディンの方が与し易いと判断したのか、神父はエルディンに向かって地を蹴った。 しかしそれは二人も予想の範疇。長谷部は瞬脚を用い、神父の背後を取る! 「がっ……!?」 次の瞬間、呻き声を上げたのは長谷部だった。見ると自らの腹にバヨネットが二本突き刺さっていた。 神父は背後から襲われることを予測し、バヨネットを握ったエルディンの両手を掴んで全力で引き、それを以って背後への攻撃としたのである。 続けて一旦エルディンを押し戻し、強烈な肘鉄を鳩尾に叩きこむ。 初老の神父の方に援護に向かおうとした若い神父の前に、ヘラルディアの回復を待たず長谷部が立ちはだかった。 「……しぶといな。カウンターで入ったのだ……かなりの深手のはずだが」 「接近戦は私の戦場です……! そう簡単に引き下がれません」 まだまだ戦いは続くのか。そう思われた時である。 「ぬぐっ……!? な、なんだこれは……!」 不意に初老の神父が苦しみ、口の端から血が滴った。 姿こそ見せていないが、それはヘラルディアの要請により廟から出てきた无の黄泉より這い出る者によるダメージに他ならない。 アークブラストは強力だが、軌道が見えるため対処されてしまうことは証明済みだ。なら、軌道が見えない術の場合は? 結果はご覧のとおりである。 もっとも、その術を使うものが居ると分かっていたなら初老の神父もこうあっさりと遅れは取らなかっただろうが。 これを好機とアルクトゥルスが攻め込もうとするが、シスターの銃撃による援護で叶わなかった。 「おのれ……キョンシーなどという不浄の他に、呪いまで行使する者がいようとは! 容易く命を落とすのは神の教えに反する。退くぞ!」 「くっ! お前らのツラ、覚えたよ!」 「よもやウイリアム神父を出し抜く者がいようとはな。迂闊な手出しはしないほうが良いかも知れん」 回復役のいない代行者たちは仕方なくその場を撤退した。しかしその強さは戦った開拓者たちの胸に強く刻まれたことだろう。 神罰の代行者。彼らの目標がアヤカシだけに向くなら、どれだけありがたいだろうか――― |