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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 十七夜 亜理紗。開拓者ギルド職員であり、陰陽師でもある少女である。 その人生は決して平坦なものではなく、記憶喪失で放浪しているところを開拓者ギルドに保護され現在に至り、現在の人格も他人に意図的に『書き換えられた』代物であることが判明した。 だが、亜理紗は亜理紗である。今の亜理紗のことを案じ、慕い、友と呼んでくれる人々がいる。それを心の支えに、彼女は今日も生きていた。 そこに現れたのは、同じように人格を書き換えられたという陰陽師の少女。強大な力を持ち、亜理紗を実験材料として手に入れるため天儀のあちこちで騒動を起こすと宣言したのだった。 謎の陰陽師と呼ばれる研究者の成果を掘り出し、手駒とすべく暗躍する若木乃華。しかしそれらは大半が開拓者に撃破されており、開拓者の邪魔が入ったこともあって『三魔星』と呼ばれたアヤカシ兵器の入手は断念したようである。 もっとも、邪魔が入ることを確信した為に秘密裏に動くことを心がけてしまったようではあるが。 「……私、重力場の術を中和することしか出来ませんでした。結局後手後手に回るだけで……悔しいです」 「仕方ないでしょ。何でもかんでも即応しろなんて誰も言ってないわよ」 「いいえ、私だってベースは木乃華のはずなんです。もっと、向こうの手を読めるはずなんです……!」 「気負うのは止めなさい。それに、あなたに木乃華の考え方を理解できるようになってほしくないわ。例えそれが戦いを有利に進めるためであってもね」 「……わかってます。私はあくまで何も知らない村娘の頃の、一般常識で生きていた頃の木乃華がベースですから、今の木乃華の思考を理解するのは無理なんです……」 自分が複数いても問題ないとか、一番良い自分ができたら死んでも構わないとか、木乃華の思考は一般人は勿論、亜理紗にだって理解は出来ない。したくもない。 だが、木乃華は強い。普通の陰陽師が使う術とは全く違う術を平然と、いくつも使ってくる。それらを打ち破り、掻い潜り、命を断つには相当の実力と覚悟が必要なのは明らかである。 「そうだ、気になってたの。なんで木乃華はあんなにいくつも術を使えるの? 普通、活性化できる術は三つくらいまででしょ?」 「活性化させてる術はおそらく三つでしょう。あれは予め符に術を封じておいて、適宜それを解放してるんです。使い捨てになるので回数の問題はありますが、術をいくつも使えるのはそういう理屈です」 「面倒な……」 先輩職員、西沢 一葉が頭を抱えたその時である。ギルドの奥から別の職員が険しい表情でやってきて、二人に報告する。 それは、かつて造瘴志と呼ばれた特殊な人妖との戦いがあった場所で、新たな造瘴志らしき人物が出現したという内容だった。 木乃華の姿は確認されていないらしいが、姿を隠して復活させたのかもしれない。 「……どう思う?」 「まず間違いなく木乃華でしょう。ただ、造瘴志の術式はほぼ再利用不可能な状態だったはずです。その場で簡易的に作り直したというところでしょうから、能力はかなり劣化してると思いますよ。会話もできないんじゃないでしょうか」 あまりに人間的だった悲しき人妖たち。それが造瘴志。 再び悲劇に引き戻したのは、宿敵十七夜 木乃華に違いあるまい。 完璧に作り直される前に、術式を完全に破壊してしまいたいところである――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
无(ib1198)
18歳・男・陰
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●馳せる 「なるほどね……辛い戦いだったんだ?」 「ん……そうだね。造瘴志に関しては、思う所も色々とある……。あの騎士達の事は、忘れない」 真亡・雫(ia0432)と雪切・透夜(ib0135)は、普段から交流のある友人同士である。 真亡は今回戦う造瘴志という敵のことを知らなかったため、道すがらそのことを雪切に聞いていた。 寂しそうに微笑む雪切を見て、真亡は言葉以上に悲しい出会いであり戦いだったのだと理解した。 「造瘴志の事はよく知らないけど、関わったお姉ちゃんはとても辛そうだったよ。若木乃華が今回造った人は人格が無いって事だけど、ならなおさらそんな存在を造る奴は許しておけないよ!」 神座亜紀(ib6736)も姉が関わっていて自分は関わっていないというタイプだったが、造瘴志のことは聞いたきたらしい。憤慨するその姿を見て、周りの人間も苦笑いである。 詳しい説明は長くなるため省くが、要は人格のある人妖との戦いだった。謎の陰陽師関連だけあって、トンデモスキルを内蔵していたのは記憶に新しい。 「そうですね、彼らは人間らしすぎました。それ故にやりにくかった感はありますが……人格がないならないで、それは人の尊厳を踏みにじっているのでしょうね」 レネネト(ib0260)は関わっていたわりには淡々とした口調で呟いた。 それは目の前の若木乃華に集中するためである。そうでなければ、全力で殺す気で行かなければこちらがやられかねない。郷愁に囚われていて勝てる相手ではない。 そうでなくとも、老木乃華が控えているのだ。だらだらと長い間戦いたくはない。 「三魔星のいた場での僕達との戦いの後に、わざわざ造瘴志の遺跡で騒ぎを起こすというのはこちらへの誘いでしょうね。隠したつもりでしたが、僕達が倒したのも察したのかもしれません。油断せず参りましょう」 そして話している間に件の史跡へと辿り着く。道を知っている人間が多いのだから迷うわけもない。 鹿角 結(ib3119)の適格な判断と言葉に、一同は気を引き締める。 相手は規格外の陰陽師。何を仕掛けて来るか……正直、出来損ないの造瘴志以上に怖い――― ●爆ぜる 「ずぉぉっ!? な、なんだこりゃあっ!?」 「遠距離からの狙撃……!? いいえ、何か性質が違います!」 「罠の懸念はありましたが……こうもあからさまとはね!」 鷲尾天斗(ia0371)を筆頭に、一行に向かってどこからともなく火炎弾のようなものが飛んでくるのだ。 一つ一つのダメージはそんなに大きくなく、盾で防いだり切り払ったりすることは容易であるが、史跡に足を踏み入れた途端にこれなので奇襲された感がある。 落ち着いて周辺を見回すヘラルディア(ia0397)。火炎弾の軌道が複数あることに気づき、一箇所から撃っているわけではないと判断する。かと言って移動しながらというには場所がまちまちすぎる。 无(ib1198)の想像が正しければ、事前に符を史跡のあちこちに貼り付け侵入者を狙い撃つ罠の類。わざと目立っておびき寄せるような真似をしているのだから罠は当然か。断続的に飛んでくるのが嫌らしすぎる。 「十七夜さん、『返し』はできます?」 「……多分。やってみます!」 无に促され、十七夜 亜理紗が印を組む。 符を使わないということは、活性化させてきた術ということか。 「撃墜陣!」 突き出した亜理紗の手から練力の塊のようなものが発射され、飛来する火炎弾を撃墜する。 どうやら飛んでくるものに大して自動的に発射される仕組みらしい。威力は殆ど無さそうだが飛んでくるものも同様なので問題はない。 「……亜理紗さん、それって凄く消耗したりします?」 「いえ、一度発動したら後はオートなので。時間経過で解除されちゃいますけどね」 「了解です。ご無理はなさらないでくださいね」 真亡は亜理紗を気遣い、優しく微笑んだ。 亜理紗をガードするため前に出ていた雪切も、振り返って微笑む。友人故の配慮が嬉しいところだった。 「……何も言ってあげないの?」 「ガラじゃねェわな。それに、亜理紗のことは透夜に任せたんだ。心配ねェよ」 「ぶー。女心をわかってないなぁ」 「あァ? 俺ァお前さんの人生より長く女ってモンに触れてきたんだぜ?」 「駄目ですね」 「典型的な駄目なタイプですね」 「何でだよ!?」 神座に続き、レネネトとヘラルディアもため息混じりに首を振った。 抗議する鷲尾であったが、武舞台にたどり着き長刀を手にする男が視界に入ったことで気を戻す。 その男の目は虚ろで、何も見ていないように見える。しかしその立ち姿だけで手練だと分かる。 「……木乃華の姿は見えませんね。やはり姿を消す術でも使っているのでしょうか」 鹿角は弓術師の視力を以て周辺を警戒するが、一番の脅威である若木乃華の姿はない。 先ほどまで飛来していた火炎弾はエリア限定だったのかもう飛んできていない。 兎に角、まずは目の前の敵を叩くしか無い。見えない脅威に警戒しながら。 「さて、嫌な気配もするしさっさと終わらせてもらうぜェ!」 「心眼に引っかからない……もっと遠くに居るのかな? それとも……」 「とりあえずアクセラレートだよ。頑張って!」 神座の援護を受けた鷲尾と真亡が男に突っ込んでいく。敵の接近を認め、男は長刀を構える。 以前戦った造瘴志ならば、二人がかりでも苦戦は必死だが……? 「お?」 「ん?」 二人の攻撃を打ち払った男。しかし、それはかなり必死であると二人は感じた。 弱くはない。しかし、真亡と鷲尾の二人を相手取れるほど強くない。直感でそう分かってしまった。 「鷲尾さん!」 「応よォ!」 一瞬で示し合わせた二人は、挟みこむように左右に別れた。 どちらを対処するべきか。男は狙いを鷲尾に定めたようだが、その時点でもうアウトだった。 「……!?」 背筋に寒いものを感じ取り、次々と飛来する矢を打ち払う男。 しかしその全てを打ち落とすのは、腕的にもタイミング的にも無理があった。 鹿角のガドリングボウによる連射で、何本もの矢を受ける。 「アルデバラン、行かせてもらうぜ!」 「では先手は僕で!」 矢のダメージで男が怯んだところに走りこむ二人。 真亡が白梅香を発動、袈裟懸けに斬りつける。続けざまに鷲尾が魔槍砲ではなく副兵装の剣ですれ違いざまに胴薙で一閃! ぐらりと揺らぎ、男は両膝を地面についた状態でカクンと動かなくなった。 「……呆気無い。呆気無さすぎる」 自分も参戦するべく機を伺っていた雪切だったが、チャンスが来る前に敵が倒されてしまった。 しかし、どうもしっくりこない。納得がいかない。 「いくら劣化しているとはいえ、あの造瘴志がこの程度とは思えませんよね。しかし、私の超越聴覚にも特に何も聞こえてこないんです」 レネネトも不審がっている。当然だ、敵との交戦中に何か仕掛けてくると思うのが普通だ。そうでないにしても…… 「若木乃華が狙う瞬間、それはこいつを仕留めた瞬間。全員の意識がコイツに向かう時しかないだろォ」 造瘴志は死ぬと瘴気に還る。ということはこの男はまだ致命傷には至っていないということである。 鷲尾も心眼を発動し、とどめを刺す前に周囲を確認するが、やはり動きはない。 「……ヘラルディアさん、どう思いますか? 仮に木乃華がかなり遠くからこちらを伺っているとして……その理由は? それがどんな得になるんでしょうね」 「わたくしたちと戦ったことがあるということを考えれば、木乃華様にもこの造瘴志様がわたくしたちの相手にならないことはわかっていたはずです。様子見……戦力把握。どれも力不足感が否めませんが……」 无とヘラルディアが考察するが、敵の意図がさっぱり見えない。 「……もしかして……騒ぎを起こすだけ起こしてさっさとどこかに行った……?」 ぽつりと亜理紗がそんなことを呟く。 亜理紗は常々、木乃華の思考を読めないかと苦心していた。 同じ人格改竄を受け、『木乃華』でもある亜理紗。しかし亜理紗と木乃華たちには大きな隔たりがあり、結局上手く行く事はなかったのだが。 「ここで騒ぎを起こして私達を引きつけて、三魔星を復活させに行ったとかないでしょうか?」 「うっわ、ありえるー!? ど、どうしよう!? 今から行ってみる!?」 「いえ、そうであればとても間に合いません。どちらにせよ三魔星はもういないのですから、木乃華が無駄足を踏むだけでしょう」 慌てる神座だったが、鹿角は冷静に状況を分析した。罠以外に仕掛けてこないのであれば、いつまでもここにいても仕方がないというのは確かなところだ。 「……確かにそうなのですが……」 「ご不満ですか? 无様」 「はい、とても。私も木乃華の思考を読めるなどと大言を吐くつもりはありませんが、もっとこう、えげつない手を使ってくると思うんです。それが何かと問われると少々辛いのですがね」 ヘラルディアが考え込んでいた无を気遣って声をかける。 『あんたたちの作戦なんかお見通しなんだから』 確か木乃華は以前にそんなことを言っていた。 もし今回の作戦を読まれていたとしたらどうだろう? 木乃華を警戒しつつも造瘴志を倒し、続けて木乃華と戦う。その流れを読まれていたら、木乃華が取る手は……? 「……造瘴志の人は負けるの前提。木乃華は近くにいない。これでボクたちの鼻をあかすえげつない手があるとしたら……それは……」 「しゃーねェ。とりあえずこいつ、とどめ刺すからな。どっちみち虫の息だが、武士の情けだ」 冷静になった神座も考察に加わっていた。しかし鷲尾は魔槍砲を構え、男にとどめを刺そうとしている。 真亡、鹿角は周囲の警戒。雪切は亜理紗のガード。他の面々は考察しつつ警戒。 怪しい動きはない。だが、それが敵の思う壺だったとしたら……? 「……まさか!? わし―――」 无が嫌な想像に行き当たり声を上げたのと、鷲尾が男に魔槍砲を突き刺したのとはほぼ同時であった。 その瞬間、辺りに閃光が満ち溢れ……爆音と衝撃が辺りを薙ぎ払う。 武舞台は消し飛び、史跡の中心部は軽くではあるが地形が変わっていた。 強烈な爆発。そして吹き飛ばされ叩きつけられた時の衝撃で、一行は状況を確認できないでいた。 『二人』を除いては。 「……大丈夫、でしたか?」 「雪切さん!? え、盾……で今のを!?」 「スィエーヴィル・シルトはどんな攻撃にも有効ですから。とはいえ、ちょっと肩に来ましたけどね」 見れば雪切の足元は大きく後退し地面を削っていた。それでも亜理紗を背に凌ぎ切ったのだから大したものである。 見回すとその惨状は明らかだ。開拓者たちはみんなバラバラの方向にふっ飛ばされており、かなりの出血をしている者も居る。ぶっちゃけた話、生きているかどうかも不安なレベルだ。 「あ……鷲尾さん! 鷲尾さん!」 真っ先に鷲尾の姿を探し、駆け寄る亜理紗。それを見て、苦笑いのような複雑な表情をした雪切であったが、すぐに気持ちを切り替えてヘラルディアを探す。 彼女がいれば大勢の立て直しは可能だ。いた場所が爆発からやや遠かったこともあり、呼びかけるとすぐに目を覚ました。 「倒されることで爆発する人妖だなんて……流石に想像しておりませんでした」 「そりゃあそうでしょう。体が辛いとは思いますが、他の皆さんの回復をお願いできますか?」 「喜んで。それがわたくしの役目ですから」 多少ふらつきながら、閃癒を使うため吹き飛ばされた仲間を探すヘラルディア。 彼女に近かった无、神座、レネネトはわりと近くにいたのですぐに回復させることができた。 しかし――― 「っ!? 誰か近づいてきてる! え、どこ!?」 回復した神座がムスタシュィルで何者かの接近を感知する。 しかし周辺に誰の姿もない。どういうことなのかと緊張感が高まった時だ。 「あら残念、誰も死んでなかったんだ?」 ザザザ、と空中にノイズが走り、符を構えた若木乃華が姿を現す。 自身を透明化する術なのだろうか? これを使い遠くから眺めていた……そんなところか。 「木乃華!」 「どもー。爆発の威力は結構あったと思うんだけど……足りなかったかぁ。やっぱり応急処置の上に急場のアレンジじゃ確実性に欠けるわね」 「……それで? 僕達にとどめを刺しに来たとでも?」 「んー、そのつもりだったんだけど結構元気みたいだからやめとく。とりあえず手のひらで踊ってくれたヌケサクどもの悔しがる表情だけで我慢しておくわ」 そう言って符を取り出す木乃華。それを狙い、火種、火輪、ファイヤーボールが放たれた。 ヘラルディア、无、神座は揃って木乃華の符を使う前に燃やしてしまえばいいと考えていたのである。 「熱っつ!? あーもー、そういうことする!? バーリトゥード(何でもあり)ならこっちに有利だって分かんないかな」 印を組み術を発動する木乃華。すると晴天であるにもかかわらず突如稲妻が発生、開拓者四人を撃ち抜いた。 雪切は盾でガードしたが、上空から降ってくるタイプの攻撃から仲間まで庇うのは難しい。 「……あっちもそろそろ回復させ終わるかな。引き上げ時を間違えちゃ駄目よんっと」 亜理紗が治癒符で鷲尾、真亡、鹿角を回復させていることを目の端で見ていた木乃華。指笛を吹き鳴らし、駿龍を呼び寄せその場を去っていく。 「次も殺すつもりで行くんでよろしく。そんじゃーねー」 その姿を追うことは叶わず、見送るしか無い。 開拓者たちを爆殺するためにこんなことを計画できる人物はやはり異常である。 狐と狸の化かし合いにしては、殺伐としすぎている。ふとそんなことを考える雪切であった――― |