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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 十七夜 亜理紗。開拓者ギルド職員であり、陰陽師でもある少女である。 その人生は決して平坦なものではなく、記憶喪失で放浪しているところを開拓者ギルドに保護され現在に至り、現在の人格も他人に意図的に『書き換えられた』代物であることが判明した。 だが、亜理紗は亜理紗である。今の亜理紗のことを案じ、慕い、友と呼んでくれる人々がいる。それを心の支えに、彼女は今日も生きていた。 そこに現れたのは、同じように人格を書き換えられたという陰陽師の少女。強大な力を持ち、亜理紗を実験材料として手に入れるため天儀のあちこちで騒動を起こすと宣言したのだった。 「…………」 最近、仕事中にも亜理紗はぼーっとすることが多くなっていた。 笑顔を振り撒き、看板娘の一人として駆け回っていた姿とは程遠く、同僚も客として来る開拓者も心配している。 「こーら。その事後処理作業まだ終らないの?」 「あ……す、すいません。すぐ終わらせます」 先輩職員の西沢 一葉は、普段と変わらない様子で亜理紗と接する。腫れ物のように扱われるよりはこの方が亜理紗にとっても良かろうと判断してのことである。 「……今度は何を気にしてるわけ? 例の爆殺騒ぎで開拓者の人たちが怪我したこと?」 「それももちろんありますけど……その時に、私だけ無傷だったことです。守っていただいて、盾になっていただいて……他の皆さんが重傷を負ったのに、原因の私だけが無傷だなんて……申し訳なくて……」 「それは守ってくれたゆ……じゃない、開拓者さんに失礼でしょ」 「分かってます。だからこそどうしたらいいか分からないんです。私が木乃華と戦う限り、友人でもある開拓者さんたちに怪我をさせてしまいます。いえ、怪我で済まないこともあるかも知れません。かと言って木乃華に捕まってまた人格改竄なんてされたら、今まで守ってくれた皆さんに申し訳ないですし……何より私の身体で皆さんと戦うことになる可能性が高いのが怖くて……。私はどうしたらいいのか、頭がぐちゃぐちゃになるんです」 亜理紗の想いは痛いほど伝わってくる。自分のことで他人に傷ついてほしくないと願う少女の心は、一葉にも愛おしい。 だからこそ、一葉は亜理紗にデコピンをかました。 「へぶっ!? 痛いじゃないですか!?」 「少しでも早く木乃華の件を終わらせられるよう努力しなさい。自分から死ににいくようなことは私が許さない。例のトンデモ術を制御できるようになって、皆の役に立てるようになって木乃華を倒しなさい」 「一葉さん……」 姉のような存在である一葉の気持ちが嬉しい。挫けそうな時、こうやってそばに居てくれる彼女の存在はとても大きいのだ。 と、そんな時である。 「うーん、無理なんじゃないかなぁ。経験でどうにかなる差じゃないと思うよ?」 「!?」 突如、横からかけられた声に亜理紗は過敏に反応する。 そこには、ツインテールの髪型に普通の色の陰陽師服を来た少女がニコニコしながら立っていた。 一葉は見覚えのない少女に疑問符を浮かべるだけだったが、亜理紗はそうはいかない。 「こ、木乃華……!」 「は……!?」 「騒がないの。今日は別に戦いに来たわけじゃないから。もし騒ぎ立てるなら、今この場でかなりの人間に死んでもらうことになるけどいい?」 「ぐ……! ここには開拓者さんもたくさんいるんですよ。そんなことしたらあなただってただじゃ……」 「忘れたの? 別にアタシは死んだって構わないんだし」 木乃華ならやる。もしここで亜理紗と一葉が騒げば、確実に自爆紛いの虐殺を行う。 一葉を筆頭にギルドの職員には一般人が多い。そんなところで騒ぎを起こされるわけにはいかない。 「……あなたが木乃華。亜理紗を攫いに来たわけでもないなら何しに来たの?」 「ふぅん? 頭のいい子は好きよ。ちょっとね、古い方の私と共同でアヤカシ兵器を作ってみたの。それをとある町に放ってみようかなーって」 「じょ、冗談じゃありませんよ、そんなこと!」 「うん、そう言うと思ってた。アタシたちもね、無理に人を犠牲にしたいわけじゃないの。アヤカシ兵器に殺させるくらいなら材料にしたほうがいいしね?」 「その発言の時点で異常だって気付けないのは凄いわね」 「そお? 人間は最高の材料よ? 肉も骨も皮も、心も魂さえも材料になる。捨てるところのない実験素材よん。というか、キョンシーを従えてるアンタには言われたくないかな」 「あなたは……! 一葉さんだって好きでやってるわけじゃないんですよ!?」 「いいからいいから、そんな話をしに来たんじゃないの。町に放たれたくなかったら、アヤカシ兵器と戦って試験を手伝って欲しいわけ。倒しちゃっても勿論結構。アタシたちは実験がしたい。あなたたちは一般人に無駄な被害を出したくない。どう? 利害は一致してるでしょ?」 「実際はしてないけど飲むしか無いじゃないの。あなたはどっちでも構わないと思ってるんだから」 「ふふーん、ホントに頭いいわね。当日、アタシも現場に行くわ。攻撃したいならどうぞ。こっちも攻撃するつもりでいるから。それじゃーね」 言いたいことを言い終えると、印を組んで術を発動する木乃華。 すると木乃華の姿が空気に溶けるように消えてしまった。以前使っていた透明になる術だろうか? 気配が喧騒に溶け、完全に無くなった後……一葉と亜理紗は大きく息を吐く。 「……あれが、木乃華。聞きしに勝るイカレっぷりね」 「私を手に入れるためだけに行動してる訳じゃないんでしょうか……。それとも、私を手に入れるためのアヤカシ兵器の実験? ……わかりません。本当にあの人は何を考えているのか……!」 突如持ちかけられたアヤカシ兵器との実戦試験。拒否すれば町にそれを放つという。 狙いが何なのかわからないが、放置するのは危険である。 アヤカシ兵器を倒しつつ木乃華を倒すのは非常に厳しいが……せめてアヤカシ兵器だけでも撃破していただきたいところである――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
无(ib1198)
18歳・男・陰
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●優しさに包まれて 木乃華に指定された日時となり、開拓者たちと亜理紗は石鏡の某所へと向かった。 道すがら、笑顔を見せながらもふとした瞬間に表情を曇らせる亜理紗。本人は隠しているつもりでも、付き合いの長い友人たちの前ではモロバレである。 「ん〜……」 それを見かねてか、雪切・透夜(ib0135)はこっそり亜理紗の背後に近づき、人差し指の先で背筋をなぞってみせた。 「ひゃぁっ!? ゆ、ゆゆゆ雪切さん!? 何するんですか!?」 「あはは。ちょっと固くなってましたからね。あんまり考え過ぎてもよくありませんよ」 亜理紗の悩みなどこの面子にはバレバレなのだと、この段階で亜理紗も理解する。 「一葉から聞いたぜ。この間の依頼で自分だけ無傷なのを気に病ンでいるんだって?」 鷲尾天斗(ia0371)は亜理紗の頭にぽんと手を置き、優しく撫でながら呟く。 「心配してくれるのは有難いがなァ、それは半周遅れの気遣いだぜ。依頼を受けた時点で開拓者って言うのはなァ、自身に起こる事は覚悟しているモンなんだよ。ソレが出来ない奴はとっくにこんな稼業は辞めてるさァ」 他のメンバーも、頷いたり微笑んだりしてそれを肯定する。 分かっている。曲がりなりにも亜理紗自身も開拓者なのだから、その辺りは理解している。 しかし、理解はしていても納得ができない。どうしても、自分のために誰かが傷つくのを容認できない。 本当は問いたかった。この場に居る友人たちに、こう問いたかった。 『逆の立場だったら……私が皆さんを守る立場だったら、皆さんはそれを当然のことと流せますか……?』 ……聞かなくても分かる。答えは『否』だ。きっと誰もが苦しむに違いない。 それでも…… 「それに、此処に居る奴はダチの為に体張れる奴ばかりだ。お前はそれに応えればイイ。ンで、俺は惚れた女の為に命を張る。文句あるか?」 「……いいえ。私は、幸せ者です!」 偽りのない、涙混じりの笑顔。開拓者たちが守りたいと願う笑顔。 そのためにどこまでも強くなれる……誰もがそんな気がしたという――― ●魂のカタチ 「やっほー。約束の時間までまだ少しあるけど、マメねぇ」 「あなたも随分お早いですね、若木さん」 「その呼び方止めなさいよ! 木乃華でいいってば!」 「では、彩々楽さんと」 「誰よ!?」 指定の場所で待っていた若木乃華は、開拓者たちの姿を認めるとまるで友だちであるかのようなフランクな挨拶をしてきた。 それに乗るようでいてスルーしたレネネト(ib0260)は、カマをかけつつ会話を進める。 どうやらレネネトは若木乃華と亜理紗の母親に何か関係があるのではないかと思ったらしい。 「レネネト様、それは無理があるのでは……。若木乃華様はどう見ても亜理紗様より年下です」 ヘラルディア(ia0397)は優雅に柔らかくツッコミを入れる。 若木乃華はどこからか攫われてきた存在であるが、それも配下の式なり人妖にやらせたことであり、老木乃華は関与を疑われるような真似はしていない。そんな簡単に社会的立場を崩したりしないと言いたいのだろう。 それをすぐに察したレネネトは、溜息混じりに下がった。 「記憶の共有がないとこういう時不便ねぇ。彩々楽って子は古い方のアタシの娘か。うん、覚えた」 「……ところで、きみの後ろにいるそれが例のアヤカシ兵器?」 「そ。なかなかのもんでしょ」 真亡・雫(ia0432)は、皆がわかっていてあえて聞かなかったことを勇気を出して確認してみた。 血走った目に、低い唸り声を上げる口。そこには凶悪なフォルムの牙が生えそろい、涎を垂れ流しにしている。 獲物を食いちぎりたくて仕方ないと、言葉が通じなくとも考えていることが読み取れた。 全長5メートルはある三つ首の犬型のアヤカシ兵器。今回のターゲットだ。 「ところで人間相手に食い意地が張ってると聞いたけど……きみ達には従っているんですよね? それとも人とみなされていないとか?」 「飼い犬に手を噛まれるような馬鹿な真似しないわよ。調教済み♪」 「全く色気を感じない辺りが普段の行いを感じさせますね。ではそろそろ始めましょうか」 「いいの? いつもみたいに質問タイムは?」 「あなたが最初から姿を見せている可能性は薄いと思っていましからね」 「ふーん。まいいや。それじゃ、精々実験に付き合ってねぇ〜」 无(ib1198)は尾無狐を撫でながらすでに戦闘態勢を取っている。彼は老木乃華もこの場に来ないか警戒しているので、あまり長々と話をする気はなかった。 若木乃華は符を発動し、姿を消す。あとは命令一つでアヤカシ兵器は襲い掛かってくるだろう。 「人類の為とか言ってるけど本当かなー。正直禄でもない物しか作らない印象しかないんだけど。とりあえずさっさと倒しちゃおう! データ取りにまで付き合う必要ないもんね!」 「同感です。アヤカシ兵器と長々と戦い情報を与えるわけにもいきません。なるべく早く決着をつけてしまいましょう」 神座亜紀(ib6736)と鹿角 結(ib3119)は半ば聞こえよがしに檄を飛ばす。 どこからか『え、ちょっ……』という戸惑いの声が聞こえてきたがガン無視である。 二人が言うように『実験』とやらに付き合う義理はない。こちらとしてはアヤカシ兵器を倒してしまえれば良い。 「きちんと要望通りに来てあげたし、戦いもする。その行程や長さまでは保証しないけどねー!」 「事前に『どれくらいの長さ戦え』という指定をしなかったのは失敗でしたね」 神座は前衛である鷲尾、真亡、雪切三人にアクセラレートをかけ。自分にも付与。続けて鹿角がガドリングボウでアヤカシ兵器に矢を射掛ける。 ぐぬぬと閉口していたと思われる木乃華も、こうなってはアヤカシ兵器を戦わせる他はない。指示を受けた地獄の番犬はその失踪する本能を全開にし、飛来する矢を火炎で薙ぎ払う。 「戦わなければ生き残れない……ですか」 「さァって、来いよ犬っころがァ。キャンキャン言わせてやらァ」 「心眼に反応なし。少なくとも木乃華は離れましたね」 雪切、鷲尾、真亡が加速しアヤカシ兵器に突っ込む。 目指すは速攻撃破。しかし、わざわざ開拓者を呼び出してまで戦わせるだけのことはあり…… 「速い! これは、思った以上に!」 「こんな物をさらっと作る敵は……怖いね!」 両前足に備えた爪と、三つの頭にある牙。そして吹雪、火炎、雷。 攻撃方法も多彩だが、攻めて攻めて攻めまくるという獰猛さが危険度を跳ね上げる。 爪を切り払った真亡にしろ、牙を盾で弾いた雪切にしろ、烈火のように繰り出される攻撃に舌を巻く。 「生憎、お前にかまってやってる暇は無いンでなァ、とっとと俺の糧になれェ!」 弱点にまで近づけない鷲尾は、とりあえず魔槍砲で砲撃を試みる。 頭の一つに直撃するが、爆煙を掻き分け別の首が襲い掛かる! 「アイヴィーバインドだよ!」 「先即封!」 神座の術で命中力などが下げられ、更に鹿角が側面から攻撃を弱めるような業で牽制。それらでわずかな時間を稼ぐことで、すんでのところで真亡がカットに入った。 そうやって前面に意識を集めている間に鹿角が回り込み、背後から矢を射掛ける! 「……なんとお粗末な」 鹿角は思わず溜息を吐いた。このアヤカシ兵器は、より獲物が多くより苛烈な戦闘が行われている前方にしか意識を向けていない。背後から突き刺さる矢を自覚しているはずなのに、それを無視し後頭部に何本も矢を受けている。 ぴょんぴょん跳びまわるのはいいが、それで鹿角の矢を避けられる道理はない。 ただ、それにも関わらず動きが鈍らない。タフさは驚嘆に値する。 「近くの敵しか狙わないようですね。練力の続く限り回復に努めます」 前衛三人は猛者であるが、流石に二つの頭に同時に攻撃されたり、雷などで攻撃されるとダメージの回避は難しい。 しかし、いつも頼りになる回復役、ヘラルディアがいる。一人一人回復ではなく纏めて回復できる閃癒は、このアヤカシ兵器相手には非常に助かる。 「ふむ。試してみましょうか」 真っ向勝負では時間がかかると判断したレネネトは、手にした三味線で精霊の狂想曲を奏で出す。 三つの頭は独自にものを考え、適宜バラバラに行動している。ということは、レネネトの曲でダメージを受けるのも、混乱判定をするのも独立しているのだ。 攻撃本能ばかり優先で頭が悪い。それは謎の陰陽師、木乃華の作品に多く見られる特徴だ。 そして、それはこのケルベロスもどきも例外ではなかった。 『……!? ガァァァッ!!』 真ん中と右側の頭が混乱状態に陥り、同士討ちをはじめる。 正常な左側の頭は開拓者たちとの戦いを続行しているが、単純に考えて攻撃の頻度が3分の1に下がったに等しい。 「では、その正常な頭にも御退場願いましょうか」 神座と共に亜理紗の近くにいて、周囲を警戒していた无。混乱に乗じて亜理紗に手を出されないため、念のためといったところだ。警戒から一転、好機を悟り魂喰を発動する。 事前に有効と聞かされていただけのことはあり、无の術は混乱していない左の首を消滅させた。 ひとしきり同士討ちをした真ん中と右側の首は、荒れ狂いながら火炎と吹雪を撒き散らす。 雪切が前に出て盾を用いガードに回っているが、前衛三人は迂闊に近寄れない。 「頭が三つあっても中身はすっからかんなんでしょ? ばーかばーか」 事実として確定してしまったが、悪口を言いつつ神座はブリザーストームを放った。 二つの頭が怯んだ瞬間、前衛三人が走りこむ! 「トチ狂ってオシマイかよ。狂犬にしたって哀れだなァ」 「……無闇に作られて、こうして処理されて。か……」 鷲尾は魔槍砲で。真亡は刀で、アヤカシ兵器の首と首の付根を突き刺した。 弱点だと教えられた場所に、弱点と言われた白梅香を発動する。 情報は正確だった。恐ろしい雄叫びを上げたアヤカシ兵器は、巨体を痙攣させてその巨体を横倒しにさせる。 その直前、最後の力を振り絞って真亡に向かって火炎を放とうとするも…… 「すまないね。読んでるよ」 盾で下顎をカチ上げ、攻撃を阻止する雪切。大きくえぐれた胴体から消滅していくアヤカシ兵器。見ると、その足はまるでハリネズミのように矢が刺さっていた。途中から動きが妙に鈍かったのは鹿角が足を止めていてくれた結果だったようだ。 「戦闘時間は実質五分未満。果たして満足の行くデータ取りができましたでしょうか?」 閃癒を使用しつつ、にっこりと笑うヘラルディア。そのまま亜理紗に目配せする。 頷いた亜理紗は、目を閉じ術を発動させる。 周囲に広がる何か。すると、数十メートル離れたところで木乃華の姿が突如現れた! 「……透明化を解除する術? まったく、よくやるわよ」 特に慌てた様子もなく、やれやれと肩をすくめる木乃華。その手には符が握られており、何かをしようとしていたのは明らかだった。 「データは取れましたか?」 もう一度、そう尋ねたヘラルディア。すると木乃華は、もう一度肩をすくめた。 「駄目ね。戦闘時間が短すぎる。とりあえず頭が悪いのは駄目だっていうのはわかったけど」 いつものことだが、この余裕綽々な態度はなんとかならないものか。 しかし、こういう時は必ず何か手を隠しているのが木乃華という女だ。 「ふふ。でもね、もう一つのデータは少しだけ取れたから良しとするわ」 ニヤリと笑ったその表情。目的を達した、してやったりという表情だ。 「……やはり、私達のデータも取っていた……と?」 「无くんだっけ? あなたも頭が良くて好きよ。でも、少しハズレ」 「ヤらせねェって言ってんだろうがァ!」 印を組んで術を発動する木乃華。それを阻止するべく突っ込む鷲尾。しかし、タッチの差で木乃華のほうが速い! 突き出された鷲尾の魔槍砲は、一振りの刀によて弾かれた。 「どーかなー? 上手く出来たかなー?」 「なンだ、こいつら……!?」 木乃華の前に数人の男女が出現していた。その目はどれも虚ろで、造瘴志を彷彿とさせる。 見覚えはない。しかし、不思議と知っているような……奇妙な感覚。 浅葱色にダンダラ模様の羽織を着た男。 赤と青の瞳を持つ儚げな少年。 髪、瞳、鎧など全てが紅く染められた女戦士。 黒い髪をした、どことなく雪切に雰囲気の似た切れ目の青年。 瞬時に人妖を形成したとでもいうのだろうか? またしてもぶっ飛んだ奇跡だが、当の本人は不服な様子。 「……どうしてこう知恵の方に能力が回らないのかなぁ。これじゃまた操り人形だわ……って、あれ……?」 がくりと膝をつく木乃華。頭を抑え、必死に目眩に耐えていた。 「なに……これ……? 無茶な術を、使った、反動……!?」 その時、銃声が辺りに轟き……切れ目の男がぐらりと倒れ、瘴気に還った。 撃ったのは……雪切!? 「―――騎士は銃を使わない、何時からそう錯覚していた?」 「なん……だと……!? くっ!」 気がつくと真亡がオッドアイの少年に斬りかかっていた。目眩で注意力が散漫になっている。 実力はほぼ五分五分。木乃華の調子崩れがなければさぞ厄介な相手であっただろうが……。 「……なぜだかわからないけど……この子をあなたに利用されるのは我慢ならない」 普段の真亡からは想像もつかないような冷たい声だ。それに気圧されたのか、木乃華は三人を瘴気に戻し、駿龍を呼ぶ。 「うぅっ……おかしいよ、こんなの! 私だって十七夜なのに、十七夜の力を引き出すのにこんなに力を持ってかれるなんて……!」 何を言っているのかよくわからないが、不調は回復しきっていない様子。木乃華をもってしても制御しきれない術式ということなのだろうか? 「逃がさない!」 「黙れッ!」 雪切が銃を放つ直前、木乃華は何らかの術で亜理紗を狙った。 ガード役の雪切が攻撃に回っているということは、亜理紗は手薄なはず。しかし雪切は構わず弾丸を発射し、木乃華の右肩にヒットさせた。 「ぐぅぅっ!? あ、亜理紗がどうなってもいいって……何っ!?」 「へへーん、ざーんねーん! 絶対亜理紗さんを傷つけさせたりしないんだから!」 身体に対しかなり大きな盾を取り回していた神座。彼女が割って入り、木乃華の術を防ぐ! 「頭が回らない……こんなはずじゃあ!」 珍しく混乱した様子で逃げ去る木乃華。明確にダメージを与えたのは今回が初めてだろうか? アヤカシ兵器を無事に撃破したことより、木乃華の動揺と不調が気になる開拓者たちであった――― |