【GR】爆撃!
マスター名:西川一純
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/03 12:57



■オープニング本文

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 宝珠が発する淡い光に照らされた空間。玉座に座する大いなる龍は不機嫌であった。
 その前に傅く五体の龍……特に骸龍バルドリンガはありもしない肝を冷やしていた。
「……バルドリンガよ。逃げた開拓者の顛末を確定させたことは評価する。作戦の内容も構わぬ。しかしだ……何故人間の子供などと戯れた?」
「そ、その……人質にするには言うこと聞かせたほうがよろしいですやん? 大人しくしとってくれるならその方が……」
「確かにな。しかしだ、お前は自分が楽しかったから戯れていた……違うか?」
「…………」
 創造主たるゴッド・ラゴンの力ある言葉にバルドリンガは返す言葉がなかった。そしてその沈黙はそのまま質問への肯定になっている。
 骸龍……アンデッドの龍。バルドリンガには、命ある無邪気な子供たちが眩しかったのだ。
 勿論、それはゴッド・ラゴンより優先される事柄ではない。しかしアヤカシとしては失格な思考だ。
 確かに開拓者一人の絶望のほうが一般人より遙かに大きな負のエネルギーを生み出す。だからといって一般人を狙わなかったり仲良くしたりするのでは本末転倒である。
「……余は好きにせよと言った。故にお前の趣味趣向にも文句は無い。だがお前のその考え方はアヤカシとしてお前自身の身を滅ぼす。人間は敵。人間は餌。そう思っていなければ辛い思いをするのはお前だぞ」
「恐れながら、我らが龍王ゴッド・ラゴン。差し出がましいようですが申し上げます」
 前進を鈍色の武装に包んだ装龍、ヒートガンが言葉を挟む。ゴッド・ラゴンは黙って聞く姿勢を見せた。
「人間の力は侮れませぬ。中級アヤカシと分類される我等ですら多数に囲まれれば苦戦は必死。その力に敬意と畏敬の念を抱き、良きライバルと思うことは戦意の高揚に繋ります」
「確かに。拳を交えることで分かり、通じ合う事もございます」
 闘龍ガルスキーも口添えをするが、ゴッド・ラゴンはより深い溜息を吐いた。
「通じ合う必要が何処にある? ……別に通じ合うなとは言わぬ。余はその心が命取りにならなければ良いと危惧しておるのだ」
 実力はある。それなりに頭も良い。しかし部下たちのこの人間臭さは何処から来たのか。
 アヤカシの矜持は承知しているし、人間を喰らうことに躊躇いを持つ者はいない。それでも部下たちのこの性格はゴッド・ラゴンにとって心配の種になりつつある。
 アヤカシは人を喰らう。喰らって力を蓄える。
 それ以上でもそれ以下でもない。あってはならないのに。
「……ゴッド・ラゴン。俺、やる」
「グランザーか。お前の場合はもう少し頭が欲しいところだが……」
「開拓者、殺す。戦闘は火力。余計な技、いらない」
「……まぁ良い。お前も自由にしてみるが良い」
 主の許しを得て、新たな龍が闇より出撃する。
 紅蓮の炎の如き赤き体色を持つ龍……その名は爆龍グランザーである―――


 その頃、開拓者ギルドでは、職員の十七夜 亜理紗と西沢 一葉が頭を悩ませていた。
 襲い来る中級アヤカシの龍たち。逃げた開拓者他のカードも使えなくなってしまった今、戦いは非常に厳しくなる。
「うーん……あの龍たち、めっさ強いですよね。中級アヤカシってそこまで下級と違うんでしたっけ?」
「そりゃあランクそのものが違うわけだから。100〜500体につき一体発生するって言われてるけど、それがもし下級から力を蓄えた叩き上げタイプだったとしたらまた話は違うんじゃない?」
 龍型のアヤカシというのはあまり聞かない上、想像するだに強そうではある。実際強かったわけだが。
 基本的に下級アヤカシは発見され次第撃滅されてしまうが、人知れず力を蓄える者の前例がないわけではない。
「問題なのは、中級アヤカシは上級アヤカシにランクアップする可能性があるってこと。龍たちのボスであるゴッド・ラゴンっていうのはすでに上級アヤカシ以上であろうってこと。あまり時間は掛けたくないんだけどね……」
 1体の上級アヤカシを滅するために氏族が連合してあたるということはよくある話。しかし、ゴッド・ラゴンのように身を隠して力を蓄え、散発的に攻撃を繰り返すタイプは非常に厄介である。
 そんな折、ギルドに新たな連絡が入った。
 ゴッド・ラゴンの配下と思われる新たな龍が姿を現し、出会う人間を片っ端から焼き殺しているというのである。
 開拓者も一般人もない。とある山の峠に陣取り、通りがかった者を問答無用で皆殺しにしているとのこと。
「焼き殺すって……炎のブレスってことですか? じゃあ、前にちらっと話が出た爆龍……?」
「可能性は高いわね。ガルスキーのブレスも威力があったらしいけど、それが火遊びレベルだっていうなら、爆龍の火力は……」
 防御力、スピード、耐久力。今度は火力に秀でた龍。
 時が経てば経つほど強力になっていくゴッド・ラゴンとその配下たち。
 元を断つためにも、ゴッド・ラゴンの居城の情報が欲しいところだが―――


■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
刃香冶 竜胆(ib8245
20歳・女・サ


■リプレイ本文

●煉獄の炎
 夕日が山々の間に沈み、峠に漆黒の帳が降りてくる。
 照らすは淡い三日月の光と、それよりも更にか細い星々の光。
 闇に覆われた木々は静かにざわめき、煉獄の炎に怯えた人々の足が途絶えたこの場所はただただ静かであった。
 自分が地面を踏みしめる音さえ大きく響き渡るかのような錯覚。開拓者たちは否が応にも緊張しているのだと自覚する。
 そして、その視線の先には―――
「尻隠して頭隠さず……アホでありんす」
「あれ、隠れてるのかな……? 単純に森の中に居るだけじゃないの?」
 木々の中からにゅっと突き出た頭から肩口。流石に翼は広げていないが、そこには明らかに異様なものが月明かりに照らされていた。
 それだけならまだ、苦しいが背の高い木が一本で済むかもしれない。しかしその口の端から炎の吐息が常に漏れており、獲物を狙っているのだと丸わかりだ。
 呆れてため息を吐く刃香冶 竜胆(ib8245)。一方、フィン・ファルスト(ib0979)は無差別攻撃を仕掛けるくらいだから隠れているわけではないと予想する。
 どちらにせよ、開拓者たちはたった『四人』でアレの相手をしなければならないわけだが。
 凄まじい威力の火炎を吐くというゴッド・ラゴンの配下。アホそうではあるが、やはり強いのだろう。
「……どうやらあちらも配置についた様子。こちらも動きましょう」
「うん。……ごめんね」
 志藤 久遠(ia0597)は上空を見据え、合図を確認し二人に伝えた。
 フィンはギルドから借りて連れてきた馬を撫でながら、心の底から謝罪する。
 案山子を乗せた馬車を引かせ、囮として馬を走らせる。それに爆龍が喰い付き隙を見せたところから作戦は始まるのだ。その過程において、馬の生存率の低さは火を見るより明らかだった。
 爆龍がダミーの案山子を見切りスルーするという可能性も微粒子レベルで存在するが、森の中に佇むあの姿を見る限りそれはないだろう。どう考えても黒焦げにされる未来しか見えない。
 しかし、人数が厳しい以上そうでもして短期決戦を挑まなければ開拓者たち自身が危ない。今回は回復役もいないのだから。
 フィンと志藤が朋友の龍に乗りすべての配置を終えたところで、刃香冶が馬車を無人のまま走らせる。
 馬は峠道を道沿いに走る。いかにも速く通り過ぎたいと言わんばかりの速度で。
 気配を殺しつつそれに追従する刃香冶。馬車の騒音はすぐに爆龍に察知される……!
「来た! 殺す!」
 暗闇の中、案山子を載せて走る馬車。それが人間でないと区別する頭は爆龍には無い。
『なっ……!?』
 峠道を走る馬車に向かい、炎のブレスを吐く。その炎は背筋が凍るほど『蒼』かった。
 炎は高温になればなるほど青くなる。ロウソクの火元が青いのは、そこが一番熱いから。
 闇夜を切り裂く真蒼の炎。それは激走する馬車のすぐ後ろの地面に着弾した。
「はずれ……むぅ!」
 前情報通り、命中精度はそんなに良くないようだ。火炎に驚いた馬は更に速度を上げ、爆龍の射程から逃げるべく峠道をひた走る。
 勿論、相手もそれを黙って見てはいない。短い間隔で蒼い炎を次々に発射した。
 驚くべきは、炎が着弾した地面が赤熱し灼熱と化していること。こんなものを一般人が貰えば文字通り骨も残るまい。
 生きるべく必死に走る馬。しかし、あと僅かというところで蒼い炎が彼の横っ腹から直撃する!
 それは正に一瞬、悲鳴を上げる暇もなかった。ジュワッという焚き火に水をかけた時のような音が響いたかと思うと、馬は完全に黒焦げになり炭化していた。
 引いていた馬がそうなれば、馬車は慣性すら保てず横転する。爆龍はそこにブレスを吐き、乗員である案山子を一瞬で焼き尽くす。
「……あれ? 人、違う?」
「喰らったら消し炭とか、胸アツすぎて泣けてくるねぇ」
 軽く呆けていた爆龍に狼煙銃で狙いを定める影があり。駿龍に乗り、安息流騎射術を駆使しているため命中精度に悪影響はない。
 不破 颯(ib0495)は爆龍の眉間を狙い、狼煙銃を放つ。殺傷能力はないが、暗闇の中激しい閃光を伴って飛来する何かに、爆龍は少なからず動揺する……!
「ま、精々セコく立ち回ろうか」
 へらりと笑いつつ、レンチボーンという巨大な弓を取り出し矢を放つ。
 月涙によって強化されている一矢は、閃光に驚いて暴れていた爆龍の右肩に突き刺さった!
「いでぇぇぇっ! このぉっ!!」
 射たれた方向にブレスを吐くも、不破はすでに朋友に高速移動を指示し場所を変えている。
「脆い……場合によっては行けそうでありんす」
 上に気を取られている間に、地上を走る刃香冶が肉薄する。
 これまでの龍は何れも生存能力が高かったが、爆龍はそうではないようだ。頭の悪さもそれに拍車をかけている。
「こいつももってきなぁ」
 爆龍の顔面辺りで爆発するよう計算し、不破が焙烙玉を炸裂させた。
 爆煙が爆龍の視界を塞ぎ、その間に刃香冶が一撃を加える!
「アヤカシ如きに特別な感情を持つことはありんせん。ただ殺すだけでありんす」
 一閃で尻尾を攻撃し、すぐさま離脱する。続けて、何事かと振り返った爆龍の上から何者かが飛びかかる……!
「短期決戦あるのみ……!」
 上空から急降下させた朋友の龍から飛び降り、大槍を振るう志藤。その一撃が爆龍の左胸を大きく斬り裂き、瘴気を吹き出させた!
 今の場合、突きでなくて正解だろう。もし槍が刺さったまま抜けなくなり、動きが止まったところをブレスで焼かれましたでは笑えない。
「冷静に……確実に……!」
「おまえぇぇぇっ! 焼き殺してやる!」
 あえて爆龍の正面に立った志藤。地面を蹴り、その身は爆龍のすぐ足元へ!
 これには流石の爆龍も驚いたようだ。自分のブレスの威力を知ってか知らずか……どちらにせよこうも近づいてくるような相手は初めてだった。
「せぇいっ!」
 五月雨で二連撃を放つ志藤。槍が閃き、爆龍の両足に大きな傷を与える!
「ちょこまかうるさい!」
 その見た目通り、紅蓮の鱗は耐火性に優れているのだろうか? この近距離では自分も炎に巻き込まれるであろうに、爆龍の口から蒼い炎が吹き上がる。
 まずい! そう感じた志藤は、せめて即死を避けられればいいと祈りながら決死の防御体勢を取る。
 しかし『それ』は地面に向けてではなく……空へ。不破とその朋友に向かって放たれた。黒色火薬付きの矢で散発的に攻撃を繰り返していた不破を先に始末するべきと判断したのだろう。
 しかし、その距離はおよそ80メートル近い。例の蒼い炎では届かない。
「へ……?」
 爆龍の口から放たれたのは、一筋の蒼い光。凄まじい速度で不破たちのすぐ近くを通り過ぎた、炎を越えた何か。
 炎の撃ち分けが可能という爆龍の遠距離砲。当たってもいないのにその熱をはっきりと不破は感じ取った。
 当たったら確実に死ぬ。そして、その射程は自分の弓矢をも越える……!
「参ったねぇ……これが爆龍さんかい」
 とにかく飛び回る。命中精度が低いことを利用するしか無い。
 あと、こちらが打てる手としては……!
「攻撃特化の相手に一番効果的な事……やられる前にやれって事よ!」
 まだ爆煙が完全に晴れていないことを利用し、フィンが駿龍を駆り突撃する。
 オウガバトルで自身の能力を引き上げ、聖堂騎士剣を発動しての槍の一撃。
 その清浄なる光が爆龍の顔面に突き立―――
「ゴアァァァァッ!」
「ッ!? 避けて、バックス!」
 背筋に薄ら寒いものを感じ、急遽駿龍に回避を命じるフィン。
 それとほぼ同時に爆龍の『身体から』蒼い炎が吹き上がる!
 周囲の木々を延焼する間もなく焼き尽くし炭と変えたそれは、紛うことなきあの煉獄の炎。
 全身を覆う蒼い炎は騎士のオーラのようにも見える。が、流石に長続きしないのかすぐに消えてしまった。あれが長時間バリアのように張れるならどうしようもない。
「ぜぇっ、ぜぇっ、勘の、いいやつ……!」
「くっ……こっちもオウガバトルの消耗が……! 一旦逃距離を取って!」
「逃さ……ぐおっ!?」
「私達を!」
「忘れてもらっては困るでありんす」
 地上にいた志藤と刃香冶が攻撃を加え、フィンへの追撃をカットする。
「おまえらぁぁぁっ!」
 業を煮やしたのか翼を広げ、空中に逃れる爆龍。そしてほぼ同時に例の光線のような蒼い炎で地面を横一線に薙ぎ払う。
 ふぉん、と何かが目の前を通り過ぎると、一瞬遅れて地面から火柱が吹き上がる!
「くっ! 直撃したら切断されてしまいそうな勢いですね……!」
「アホに力を持たせるものではないといういい例でありんす」
 爆龍のブレスは、火炎というより閃熱に近い。それで上空から狙われると正に爆撃を受けるような格好になる。
 空にいる不破とフィンになんとか抑えてもらいたいところだが、敵の火力がありすぎて迂闊に近づけない。不破も敵に例の長距離砲撃があると分かった以上、安心して射撃ができない。
 フィンにはアヤカシ必殺の聖堂騎士剣があるが、回復役がいない状況で相打ち狙いはしたくない。
「つかさぁ、結構タフだよなあいつ。結構斬られただろうにねぇ」
「ダメージは蓄積してるはず。もう少し人数がいれば……!」
 他の龍よりは戦いやすいし倒しやすいのは確かだ。もしあと二人程人数がいれば仕留められたかも知れない。しかし現状ではどうしても決定打が打てない。
 朋友たちの疲労もあろう。無理せず次の機会を待ったほうがいいかも知れない。
「―――闘龍と骸龍に言っときなさい、あなた達が人を喰らって悲しみを齎すアヤカシである以上、必ず討つ」
 悔しさを飲み込んで、フィンは爆龍に言葉を投げる。
 流石にこれが戦闘はここまでという意志であるとわかったのだろう。爆龍も自らのダメージを鑑み、退くことを望む。
「ガルスキーとバルドリンガにだな。わかった」
「……あなた達が人間なら、正直人食い以外の性根は嫌いじゃなかったけどね、って」
「うん? …………(考え中)…………わかった。おまえ、あいつらと友達になりたいんだな?」
「ちっがぁぁぁうっ!!」
「でも駄目だぞ。俺たち、アヤカシ。おまえ、開拓者。友達にはなれないぞ」
「だから違うって言ってるでしょ! さっさと帰れっ!」
 前言撤回。爆龍はフィンの言葉の意味を全然理解していなかった模様。
「おーい。あんた、名前は? それぐらい聞かせてくれよ」
「俺のなまえは爆龍グランザー。おまえは?」
「不破颯さぁ」
「……貧乏そうななまえだな」
「どぉこのハヤテさんとお間違えですかねぇ!?」
「あ、そうだ、今度ゴッド・ラゴンに挨拶に行きたいんだけど住所何処ー?」
「場所のなまえ、しらない。今度はぶっ殺してやるぞ!」
「ちぇっ、アホなの忘れてた……」
 こうして、爆龍グランザーはかなりのダメージを負ったものの脅威を見せつけて撤退した。和やかな雰囲気にしてアジトの場所を引き出そうとした不破とフィンの作戦も成果は出なかったようである。
「しかし、貴重なことも分かったでありんす。接近できたならあの炎のオーラさえ気をつければ充分押せる相手でありんす。アホなのも追い風でありんしょう」
「問題は、やはりあの火力。回復による保険なり数的有利なりがないと厳しいですね……」
 未遭遇の龍は後一匹。果たして、ゴッド・ラゴンはどう動く?
 このまま開拓者との戦闘を続けるのか……それとも―――