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■オープニング本文 数々の想いと戦いを重ね、時は現在に至る。 あの時、あの場所で、あの人達だから。そうやって人々の歴史は紡がれていく。 そして人生には必ず区切りがある。事件には終わりがある。それが、悠久の時を経てなお不変の真理――― 謎の陰陽師と呼ばれる存在により創りだされたアヤカシ兵器の数々。それらを打ち倒し続け、開拓者たちはついに本人へと辿り着く。 しかし謎の陰陽師……十七夜 木乃華と名乗る老婆は巧妙に人に紛れ、一切の証拠を残しておらず、罪に問うのは難しい。 一時行方不明になったギルド職員、十七夜 亜理紗を無事に救い出したのも束の間……今度は過去に攫い、人格改竄をした少女を再調整して解き放ち暗躍させていた。 とうとうその少女とも決着がつき……残すは木乃華本人のみである。 「……自決、ね……らしいのからしくないのか分からないけど……悲しいわね」 「……そうですね。あの娘も私も『木乃華にさせられてしまった』んです。だから、木乃華らしくさせずに殺してあげる事が一番の救いだったんです。優しさは木乃華を救いません。特に、私と違ってあの娘は完全に木乃華の性格になっていたわけですから……」 ある日の開拓者ギルド。 職員の西沢 一葉と十七夜 亜理紗は、いつもの様に仕事をこなしながら木乃華の件について話をしていた。 若い身空で命を散らした少女。それを悲しむ身内は一人もいない。 木乃華に常識が通用しないことは散々既出ではあるが、差し伸べられた救いの手を振り払ってまで死を選ぶ思考回路は理解し難い。 それが名誉や忠誠のためというならまだしも『相手の思い通りになりたくないから』という子供のような理屈であっさり死ねるのは異常だ。日頃から自分は死んでも構わないのだと言っていたことが虚勢で無かったことが実証されたわけだ。 「それより、気になること言ってたみたいね? 十七夜が現れるって何?」 「さぁ……私が調べた限りだと、それに該当しそうな事柄ってないんですけれども」 「アヤカシを排除することで十七夜が現れる……? 十七夜っていうのは、アヤカシと対立する存在なのかしら」 「仮にそうだとして……その十七夜っていうのが、木乃華が夢で見たミイラだとして。それがこの世に現れることで何が起こるんでしょうか。何が目的なんでしょうか……」 正直わからない事だらけだ。人格改竄を受けたとはいえ亜理紗は木乃華と似て非なる存在になったため、理解が追いつかない。 十七夜という単語はそれそのものが珍しい。何度も調べて出てこないということは、そもそも記録に残っていないのか、それとも抹消されたのか。新しく木乃華が開発したということは無さそうだが……。 「お困りかね?」 「なっ……ま、また唐突に!」 そんな二人に声をかけたのは、背中に野菜が満載の籠を背負った老婆であった。 十七夜 木乃華。噂していた本人であり、亜理紗の実の祖母である。 「ほっほっほ……ワシはなぁんにも悪いことしとらんからのう。神楽の都に野菜を売りに来ただけじゃよ」 「……ギルド内は商売禁止です」 「あれま。では他所に行くとするよ。顔を見に来ただけじゃからして」 さらっと去っていこうとする木乃華。しかし亜理紗はそれを慌てて呼び止めた。 「……聞きたいことがあります。十七夜が現れるってどういうことですか?」 「む? そのまんまじゃよ。時の狭間に消えた十七夜という存在が現れる。それだけの話じゃ」 「相変わらずペラペラ秘密を喋りますね……」 「秘密にした覚えなぞないわい」 「もう一つ。……若い方の木乃華が死にました。何かいうことはありませんか?」 「知っとるよ。見ておったからな」 「……!? あの戦いをですか!?」 「遠目からな。あの術の具合も確かめておきたかったしのう」 「見ていて何故助けなかったんですか!? 仮にも自分自身でしょう!?」 「あそこに助けに入るにはリスクのほうが高かったからやらんかっただけじゃ」 「ぐぐぐ……! 感想は!?」 「まぁ失敗作にしては頑張ったんじゃないかのう」 「あなたという人はぁぁぁっ!」 「やめなさい亜理紗! この人、あなたが怒るのを楽しんでる!」 一葉の静止で亜理紗は唇を噛み締めながらも冷静になる。 喧騒に包まれているとはいえギルド内でのいざこざは望ましくないし、木乃華には叩かれて出るような埃もない。 くっくっくと笑い、木乃華は一葉を見る。 「頭のいい子は好きじゃよ。若い方のワシも言ったかも知れんがの」 「……えぇ、言ってたわ。それより、これからどうするつもり? 自由に動ける手駒がいなくなったわよ?」 「そうさなぁ……それは頭の痛いところじゃ。また何処からか連れてくるのも、今となってはリスクが高かろうし……自分で超次元呪文でも開発するしかないかもしれん」 「超次元タチマチホールとか?」 「お、良いな。おぬし、なかなかやるのう」 「貴女に褒められても嬉しくないわ。それで? まだ亜理紗を狙うの?」 「そうじゃな。そうすれば失敗してももう片方に研究を任せられるしな」 「……懲りない人ね」 「研究というのは諦めたらそこで終了なんじゃ。石にかじりついてでもという意志がなければやってられんよ。そこでじゃ、ワシの研究を手伝う依頼を出してみてはもらえんかのう?」 「正気ですか!?」 「亜理紗は黙ってて。……一応、ギルドは秘密性の高い依頼も受け付けているわ。犯罪行為はお断りだけどね」 「む……それは確約しかねるな」 「何でそこで嘘でも『犯罪行為じゃない』って断言できないのよ。無駄に正直なのが頭にくるわね」 「嘘を吐くとそれを隠すためにいくつも嘘を重ねないといかんじゃろ? なら最初から嘘を言わんのが一番じゃ」 「……そうね。あなたはそういうスタンスだったわね。なら逆にこっちからあなたの捕縛依頼出すけどよろしい?」 「ふむ? 言動による容疑か。まぁやってみてもかまわんよ。証拠不十分になるだけじゃ」 「…………」 ほっほっほ、と笑って木乃華は去っていった。二人はその背中を見送るしか無い。 腹いせに十七夜 木乃華の捕縛依頼を出してみることにした西沢 一葉であったが……果たしてどうなることやら――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
无(ib1198)
18歳・男・陰
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●決意 亜理紗の故郷であり、十七夜 木乃華が住む村までの道のりは参加者の殆どが熟知している。 また、村人の大半と知り合いであるため、当初のように余所者と警戒されることも少ないだろう。こういう面においては、積み重ねてきた歴史の賜物と言えるだろう。 しかし、目標である木乃華からは何が飛び出してくるかは分からない。常にぶっ飛んだ予測不可能の行動を取るのが彼女であり、それで散々苦労させられている。 村に到着した開拓者たちは注意深く村の様子を探るが、以前と変わったところは何一つ無い。村人たちの反応も比較的良好だった。 「ふむ……どうやら若木乃華は村人にバレないように老木乃華に会いに来ていたようですね」 「まぁ妥当な線でしょう。あの派手ないでたちでは目立ちますから」 村人の挨拶に会釈で応えつつ、雪切・透夜(ib0135)やレネネト(ib0260)は現状把握を続ける。 どうもこちらに不利な噂なども流されていないようだ。やはり『嘘は言っていない』というスタンスは変わっていないようである。 それそれで楽なのだが、それ故にボロが出にくく尻尾が掴めない。今回の捕縛依頼にしても、捕まえるだけの容疑はあっても証拠は無い。 そんな中、のどかな村の風景を遠い目で見つめている人物が一人。 「……あの……大丈夫ですか……?」 「ん? あぁ、大丈夫だ、心配するな」 亜理紗に声をかけられた鷲尾天斗(ia0371)は、亜理紗の頭を撫でつつ優しく笑った。 しかし、その笑みは決して安心には繋がらない。顔見知りでないなら普通の笑顔で済んだかもしれないが、実際は違う。 傷つき、疲れ、折れそうな心。それを覆い隠す仮面のような笑顔。今いる面子にそれが分からないわけがない。 「うー、見てらんないよぅ……。辛いんだよね、鷲尾さん……」 「復讐を胸に抱いて生き、それを押し殺してまで差し伸べた手。それを無碍に払われたのでは無理もありません……」 神座亜紀(ib6736)とヘラルディア(ia0397)には掛ける言葉が見つからない。 心配ではあるが、彼女たちには村の聞き込みなどを続ける以外無いのである。 その痛々しい空気に気付いていないのは当の鷲尾だけだ。情報共有のため集まった他のメンバーたちは、あえてそのことには触れようとしない。 だから、亜理紗は決意した。皆のいる前で、不意に髪を結っていたリボンを解く。 ふわりと広がる長い黒髪。それを緩やかに揺らす風の中、彼女はこう言った。 「鷲尾さん……この事件が終わったら、私と結婚してください。私を……お嫁さんにしてください」 突然のプロポーズに、鷲尾は勿論他の面々も思わずフリーズする。 混乱する思考を必死に動かし、鷲尾は言った。 「ちょっと待てェ! お前それは万夫不当の死亡フラグだろォ!?」 「だからです! その死亡フラグをへし折ってでも私を貰ってください! 私だけでも……救ってください……!」 助けられなかった。救えなかった。それは開拓者なら少なからず誰にでもある自責の念。しかし鷲尾にはそれが多すぎたのだ。 だから、光明を。進むべき道を亜理紗は示したかったのである。 「いやぁ、お熱いことで。ここは頷くしか無いんじゃありませんか、色男さん」 パチパチと小さく拍手をしながら、无(ib1198)はそう言い放つ。 皮肉っぽい笑顔。その表情からは容易に真意が読み取れた。 好きな女にこうまで言われて凹んだままでいるつもりか? と。 「……鷲尾さん、全部が全部を救えるわけじゃありません。でも全部を救えないということも無いと思います。なら、足掻くしか無いんじゃありませんか?」 「そうだよー! 鷲尾さんにとって、亜理紗さんは大切なんじゃないの!?」 雪切と神座に炊きつけられ、鷲尾は亜理紗を見る。 人生の大きな決断の一つ。そして敢えての死亡フラグ。どちらも鷲尾を想ってのことだ。それが分からないほど、彼は人間を辞めていない。 「……ったく。確かにダメ男呼ばわりは免れねェよなァ。悪かった……女のほうから言わせて」 「鷲尾さん……!」 「その死亡フラグ、きっちり叩き折ってお前を幸せにしてやる。そのためにも……お前ら、協力頼むぜ」 「何を今更」 「目的に理由が一つ加わっただけです」 慈愛に満ちた表情で短く答えるヘラルディア。ツンとした感じながらも口元は微笑んでいるレネネト。見回せば、仲間たちの暖かい眼差しがあった。 「では参りましょうか。後は本陣に乗り込むしかないでしょう」 「不審な音は聞こえませんがお気をつけて」 无の音頭で一同は老木乃華の家へと向かう。ある者は、悲愴とも言える覚悟を抱いて。 守りたい最後の砦。これを失うようなら、もう――― ●無抵抗の真相 「おぉ、本当に来おったか。ご苦労なことじゃ」 訪れた開拓者たちに驚く様子もなく、老木乃華はとりあえず家の中に彼らを招いた。 以前来た時と全く同じ。生活感に溢れ、いかにも農家の家という感じの家だ。 「話は大体わかっていますよね? 亜理紗さんの甲龍を殺した罪状でお役人さんに逮捕状を申請してみたところ、通りました。今、村の外で石鏡のお役人が待機しています」 「あれま。それでは仕方ない、大人しく役所にでも何処にでも行こう。どうせすぐ釈放じゃからの」 レネネトの冷たい言葉を気にすることもなく、老婆はいつもの様に余裕綽々だった。 証拠と言えるようなものは無い。仮にこの件で無理矢理罪状を当てはめたとしても、彼女がやろうとしていることに大した影響がないと分かっているのだ。 しかし、立ち上がろうとする老婆を无が制した。 「その前に、質問タイムいいですか?」 「構わんよ」 「まず、共同研究者の募集があったそうなので手を上げておきます。陰陽師としては気になりますから。但し危険性と違法性をクリアすることが条件ですが」 「そりゃあ無理かのう。助手は欲しいが身の安全すら保証できんよ」 「それは残念。では、十七夜とは何なのか?」 「時の狭間に消えた存在」 「時の狭間にとはどういうことか?」 「術の失敗でそこに囚われたと聞いた」 「十七夜と成りうる存在と、木乃華という存在は現時点でこの世界に何人いるか」 「二人。亜理紗も含めるとな」 「十七夜に繋がる要素は何か」 「アヤカシの減少。及び十七夜 木乃華、ワシ自身」 「十七夜の力は陰陽術に近いのか」 「陰陽術そのものじゃよ。ただし、遥か昔に失われた術の大系じゃがの」 怒涛のような質問をそよ風のように受け流す木乃華。ぶっちゃけた話、狂人の与太話に近いレベルだ。 そうでないことは体で実証済みだし、こうも自信満々に答えられると信じざるをえないという不思議な説得力が発生する。 取り調べに行かせる前に根掘り葉掘り聞いておいたほうがいいと判断した開拓者たちは、質問者を変えて質問タイムを続行。ただでさえ寄る辺がないのだから仕方がない。 「次はボクね。お婆さんの研究を受け継ぐのは、どうしても”木乃華”じゃないといけないの?」 「駄目じゃな。ワシしか十七夜の啓示を受けておらん」 「人格も物の考え方もが全く同じ人がやるなら、結局同じ所で同じような失敗しかしない気がするんだけど」 「研究が行き詰っておるのならな。単純に寿命的な意味で時間が足りんだけじゃからして」 「……それで若い女の子を攫って若木乃華に? ”木乃華”を作る為にその人自身の記憶や思いを犠牲にする事はなんとも思わないの?」 「別に何も。おまえさんは肉を喰う時、『可哀想だねごめんなさい』と言いながら喰うか?」 「人と動物を一緒にしないでよー!」 「そりゃ動物に対する差別発言じゃなぁ」 木乃華がからかいモードに入ったと判断したヘラルディアが二人を止める。 憮然とした表情の神座をなだめつつ、鷲尾が質問に回った。 「最初に一つ。そもそも『十七夜』とは何なんだ」 「十七夜家の根源。時の狭間に消えた陰陽師。それ以上でもそれ以下でもない」 「亜理紗と若木乃華は本当に失敗作だったのか」 「失敗じゃな。亜理紗は今のワシと呼べるところがほぼ無い。後者は性格は似せたがそれも矯正が必要なレベルじゃった。性格も記憶も両方受け継いで、魂のカタチも似せんと成功とは言えんじゃろうな」 「……そうかい。現時点では記憶はお前が居れば十分。木乃伊となっている『十七夜』に必要な入れ物が居るのではないか?」 「違うな。十七夜はそれ単体で十七夜じゃ。肉体を伴って現れるから別に用意する必要はない」 「村人にかかっている術式。復活の際に必要な人柱、錬力を吸い上げる術式か?」 「そんなものかけた覚えは……っと、あぁ、大昔にやったあれかのう? 詳しくは言えんが違うから安心せい。ワシも流石に故郷の人間を生贄にしたくはないわい」 「変なところで人間味がありますのね……」 呆れたように言うヘラルディアに毒気を抜かれたのか、納得はしていない様子で鷲尾は引き下がる。 「ではそろそろお連れしましょうか。念のため符は預からせていただきますね」 「持っておらんよ。そんなことをしたらワシが犯人じゃと言うようなもんじゃろ」 「……わたくしたちの接近を察知して処分なさったのですか?」 「さぁ? どうじゃろうな」 今度こそ立ち上がった木乃華。開拓者たちもそれに続くが、雪切だけが座したまま。 何かを考えていた彼は、そのままの姿勢で質問を投げかける。 「……どうしてそこまで十七夜というものを信じることができるんですか?」 「口では説明し辛いが……ま、真実の言葉のようなものを聞いたと思っておくれ」 「それだ。その真実の言葉で、亜理紗さんの龍の件で犯人側として関わっているかどうかを答えてもらいましょうか」 「む……?」 雪切は最初から『真実の言葉』を狙っていたのだろう。それを悟られないようにするため、敢えて先に別の質問を織り込んだ。 周りの人間に有無をいわさずそれが真実であると認識させる術。ただし、これで偽りを言うことはできず、本当のことしか口にできない。 しかも『本人にとって確定の真実』であり、『世界からみても確定の真実』でなければ効力は得られない。思い込みや半信半疑、謀には全く適さない術なのである。 雪切の問いに、珍しく長考する老木乃華。やがて答えが決まったのか、座ったままの雪切を見下ろし口を開いた。 「ノーコメントとさせてもらう。……こりゃ実質的にワシが言い負かされたに等しいわい」 眉を寄せて憮然とした表情をする。 どう答えても自分が不利になると判断したらしく、その中でも最も無難な言葉で返したようだ。 何の抵抗もないまま役人に連れて行かれた木乃華。罪に問うのはやはり難しい。 とにかく、十七夜という陰陽師=夢の中のミイラを復活(?)させようとしているのは間違いない。 それで何が得られるのか。何が起こるのか。問答を見る限り、木乃華自身にもわかっていないのかも知れなかった――― ●歴史を辿った先に さて、老木乃華の捕縛だけでは今回の話は終わらない。 真亡・雫(ia0432)と鹿角 結(ib3119)は、手がかりを求め別行動を取っていたのである。 捕縛は六人もいれば十分……というより、六人はいないと困る。もし人数比が逆だった場合、老木乃華に消されていた可能性もあるだろう。 その辺りを熟知している二人は、ギルドで龍を借り石鏡南部へとやってきていた。 たまにはかつての報告書……資料も読み返してみるものである。真亡は獣骨髑髏と呼ばれたアヤカシ兵器を作った研究所が気になったのだった。 「もちろん、そこに手掛かりがあるという確証はありませんが……何かしらの発見があるかも知れませんしね」 「藁にも縋りたいですからね。気になるんです……以前戦った三つ首のアヤカシ兵器が、何を材料にしていたのか」 人間は最高の材料であると若木乃華は言っていた。ならば同じ事を老木乃華も思うのだろう。 今までも謎の陰陽師の作品は人間の犠牲ありきのものだっただけに、つい最近作られたアヤカシ兵器が何をどのようにどれくらい使って作られたのかは気になるところ。 また、場所も問題だ。全長何メートルというような巨大なものを作るためには、やはりそれ相応の広さが必要になる。いくつ研究所があるか知らないが、そんなものを作れる場所は限られるはず。 ちなみにこの付近は、『幽志』と呼ばれたアヤカシ兵器がいた洞窟がある。そこから発見された資料から、第二研究所というのがこの近くにあるのではとする声もある。 索敵しつつ慎重に捜査を続ける真亡と鹿角。老木乃華を拘束できたのはこちらにも追い風となっている。 「……この辺りは、木乃華の村から大分ありますよね?」 「そうですね。少なくとも気軽に来られる場所ではないでしょう」 「ですよね……。うーん、造瘴志の遺跡からも遠いですしね……」 草木を掻き分け研究所を探すも、そう簡単に発見できれば世話はない。 木乃華は自分の社会的立場を守るため、故郷の村の人間には手を出したがらないことは分かった。二人は石鏡における行方不明事件も調べてみたが、流石に大量に人がいなくなるというような事件は起きていない。 ややあって、二人は龍を駆り空から洞窟のありそうな場所を探してみることにした。 それから数刻。手掛かりは無く、日も傾きはじめた。そろそろ時間切れであり、帰るしか無いか……そう思われた時だ。 「……ん? 今のは……」 ふと、鹿角の視界に屋根のようなものが入った。 そこは森の中であり、近くに村があるような場所ではない。見間違いかただの山小屋かとも思ったが、鹿角は真亡に声をかけ下に降りて見ることにする。 心眼や鏡弦を用い、慎重に探る二人。すると、森の中に隠れるようにして集落のようなものが発見された。 空から見ても、よほど注意深く見るか偶然でもない限り発見できないようなその集落には、人の気配が全く無い。しかし、そうなってからさほど時間が経っていないように思われた。 「……鹿角さん。僕は今、凄く怖い想像をしています」 「……僕もです。そうでないと願いたいくらいに」 この隠れ里のような集落が、若木乃華に目をつけられ全員攫われたのだとしたら。 隠れ里故に知る者が少なく、事件が起こっても誰にも分からなかったのだとしたら。 そ れ な ら ま だ い い。 二人の視線の先には、地下に潜るように掘られたトンネルのようなものがある。 もしここが……『木乃華が実験に使う人間を飼うための隠れ里』なのだとしたら。 人格改竄ができる木乃華なら、ここに住んでいることを疑問に思わなくすることも可能だろう。 つまり、実験材料にされることを忘れさせられ、ここで笑って暮らしていた人がいたかもしれない……ということだ。 木乃華ならやりかねない。木乃華ならありえる。二人は背筋を昇る薄ら寒さを堪えるのに必死であったという――― |