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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 数々の想いと戦いを重ね、時は現在に至る。 あの時、あの場所で、あの人達だから。そうやって人々の歴史は紡がれていく。 そして人生には必ず区切りがある。事件には終わりがある。それが、悠久の時を経てなお不変の真理――― 陰陽師と呼ばれる存在により創りだされたアヤカシ兵器の数々。それらを打ち倒し続け、開拓者たちはついに本人へと辿り着く。 しかし謎の陰陽師……十七夜 木乃華と名乗る老婆は巧妙に人に紛れ、一切の証拠を残しておらず、罪に問うのは難しかった。 ついにその状況を打破し、数々の悪行を重ねてきた存在であると社会的に認知させた開拓者たち。研究所に残されていた血痕が十七夜 木乃華のものであり、いよいよ最終決戦へと事態は動く。 廃坑の奥、巨大な五筒のような紋様の陣が描かれた空間で木乃華は自らが創りだした人妖と共に戦端を開いたが、やはりその力は強大であった。亜理紗のように数々の未知の術を行使し、人数差を覆す。 最終的には陣の効果なのか開拓者たちが廃坑の入り口……野外まで移動させられ水入りとなってしまったのだが。 「亜理紗、あのブラックボールっていうのは無力化できないの?」 「多分難しいです。あれは多分、対象を取るような術系統を根こそぎ吸収するものだと思われますので、解呪の術も吸収されて無効化されてしまうかと……」 開拓者ギルドで話す二人の女性。言わずと知れた西沢 一葉と十七夜 亜理紗のコンビである。 木乃華の劣化コピーとされる亜理紗では、どうしても本家の木乃華への対抗策は限られてくる。 今回の場合、対象を取らず周囲の術系統を全て封印するような術なら木乃華の術を無力化できるが、当然味方にも支障が出る。しかも効果時間がいつ終わるのかが不明であり、時々副作用もでるかなり不安定な術であるとのこと。当然使用は避けるべきだ。 木乃華が凶行に走った理由を聴きだしたものの、それは到底理解も同情もできなかった。むしろ、こいつは最初から頭がおかしかったのではないかと思ってしまうくらいである。 それでも、創りだされた人妖たちは自らの意志で木乃華を護る。この人も可哀想な人だからと……。 と、そんな時だった。 『亜理紗。聞こえるかい?』 「っ!? こ、木乃華!?」 「は? どうしたの亜理紗」 「い、今、木乃華の声がしたような……」 『気のせいではないぞい。ホッホッホ、ようやく繋がったか。それも長く保たんようじゃが』 頭の中に直接響く祖母……木乃華の声。何度も聞いたあの余裕綽々な雰囲気だ。 「何か用ですか。命乞いなら聞きませんよ」 『いやなに、あれから考えてな。どう考えてもワシの旗色が悪い。よって、ワシをここまで追い詰めた褒美をやろうと思ったんじゃよ』 「褒美……?」 亜理紗のただならぬ雰囲気を見て、一葉は口を挟むのをやめた。彼女が呟く言葉でおおよその会話の流れは察せるからだ。 『最後の選択……二つに一つじゃ。一つは、ワシを殺すこと。二つ目は、ワシを生かしておくこと。これは勿論捕縛も含まれる。開拓者と相談して決めるがいい』 「決めるがいいって……その二つのどちらかを選ぶとどうなるんですか?」 『勿論、運命が変わる。重要な選択じゃ……長きに渡る事件の総決算になるからのう。ワシを殺すならもうそれでも構わん。ワシはもう充分キャラクターとして物語を紡いだ。これ以上は無駄な引き伸ばしになる』 「……あなたを生かす方を選んだら?」 『抵抗する。どんな手段を講じてでも生き延び研究を続けよう。人を殺し動物を殺し、悲しみを振りまく。これまで同様な。おぬしも無事に結婚などできると思わんことじゃ』 「……あなたは嘘を吐かない主義ですもんね。きっと本当にそうするんでしょう。でも、同時に人の思い通りになるのを酷く嫌う人でもありますよね。そこが信用なりません」 『ふふふ……どうじゃろうな。大人しく殺されるかと思いきや不意打ちでバッサリ……ということはあるかも知れんのう。特に今は余裕が無い』 亀の甲より年の功。舌戦で亜理紗に勝てる見込みはゼロだ。 木乃華は何故こんな取引にもならないような話を持ちかけてきたのか。いざとなれば例の強制送還の要領で籠城することもできなくはなさそうだが、そうせず決着を申し出る理由が分からない。 『ワシはな、記録よりも記憶に残りたい。世界の滅びを越えて生き続けるのも良いが、こんな死に方をした奴は見たことがないと言われるならそれも良い。生き延びるか……鮮烈に散るか。その最後をお前たちに託そう。待っておるぞ……我が孫よ』 「……お祖母ちゃん……」 『ところで、ひ孫の顔はいつ見れそうかの?』 「さっさと消えてしまえっ!」 『ホッホッホ! しばらく子を作らんで旦那とイチャイチャするのもオススメじゃよ〜』 砕けたことを言いつつ木乃華の声は聞こえなくなっていった。 生かすか殺すか。最強最後の敵から持ちかけられた、意外な選択肢。 「……亜理紗、どうするの?」 「……皆さんと話し合って決めます。私の答えは、もう出ていますけれど……」 ふっと見慣れた天井を見上げる亜理紗。 運命は、人の選択した先に築きあげられていくものだと思わざるを得なかった――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
レネネト(ib0260)
14歳・女・吟
无(ib1198)
18歳・男・陰
鹿角 結(ib3119)
24歳・女・弓
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●最後の回答 打ち捨てられた廃坑。かつては村の産業の根幹であったそれも、今は昔の荒れ果てた場所。 再びその場所に足を踏み入れた開拓者たちは、以前のこともあり慎重に進む。 しかし妨害などは一切無く、以前仕掛けられていたので解除した罠もそのまま、新たに仕掛けられた様子もない。 最悪の場合、すでにここから逃走したという可能性も捨て切れない。呼び出しておいてすでにおらず、置き手紙で小馬鹿にする……木乃華の性格ならありえないとも言い切れなかった。 だがそうではあるまい。闇と静寂の奥から以前にはなかった怪しい気配が漂ってきている。 木乃華は必ずこの奥にいる。確証はないが誰しもが確信していた。 そして――― 「ようこそ。今度は歓迎するぞい。ワシから呼び出したんじゃからな」 最早見慣れた老婆……十七夜 木乃華。 謎の陰陽師と呼ばれた希代の実力者であり殺戮者。災厄を生む悪夢の研究者だった。 常に開拓者の斜め上を行く彼女に何度煮え湯を飲まされたことだろう? 追い詰めているはずの現状でさえ、自らの下に来いと呼び出しをかけてくる始末。 ……その因縁に、今日こそ決着がつく。 「……君は居るんだね。もう一人の銀髪の子は?」 「今日は俺だ。面子が固定されてるわけじゃないからな」 木乃華を守るように、一人の少年と一人の青年。真亡・雫(ia0432)が声をかけた左右の瞳の色が違う少年は前回もいたが、今回は切れ目の青年がそこにいた。 彼も以前見たことがある。若いながらかなりの凄みを持つこげ茶の髪に着物の男。彼もまた自我があるようだ。 「相手が誰だろうと彼女を庇うなら斬り捨てるのみだよ。でなければ僕が討たれる」 「いい覚悟だ。俺もこいつを守りたくなんてないが、成り行き上仕方ない」 雪切・透夜(ib0135)が構えを取ると、切れ目の男も刀に手を掛ける。 一触即発。誰もが最終決戦の予感でピリピリしていた。 ……たった一人を除いては。 「これこれ、ワシはまだ彼らの答えを聞いておらん。勝手に話を進めるでない」 「知るか。俺はお前の部下じゃない。可哀想とも思っていない。嫌なら別の奴を呼べ」 「まったく……結局似とるんじゃないか」 答え。事前に決めておけと通達された、木乃華が突き付けた選択。 木乃華を殺すか。はたまた生かすか。決められた方に木乃華は従うという。 騙し討ちの可能性もあるが、これを選ばせるメリットがあるのだろうか? 「答える前に、質問タイムいいかな?」 「おや珍しい、おぬしが言うか。構わんよ」 ぴょこんと前に出たのは神座亜紀(ib6736)。木乃華の失敗を予言した存在でもある。 「こないだのお婆ちゃんの話を考えてみるに、まるでボク達は何かの物語の登場人物みたいだね。ボク達一人一人を誰かが操ってるなら、結局お婆ちゃんのしてる事も誰かの思惑でしょ? それってお婆ちゃんの嫌いな他人の思い通りになるって事じゃないの?」 「うーむ、前回のやりとりでわからんかったかのう。ワシは『そうなりたかった』んじゃよ。誰にも触れられず、語られず消えゆくのが我慢ならんかった。たった一人の思惑を向けて欲しかったんじゃ」 「相変わらずわけがわかりませんね。私もお伺いしてよろしいですか?」 「いつものことじゃろ。続けい」 質問の常連者である无(ib1198)に限らず、木乃華の言っていることは意味不明すぎる。抽象的すぎるといってもいい。その真意の片鱗を掴み喰らいつくには聞く他無い。 「世界の終焉とは何か?」 「この世界の消滅、あるいは完全なる停滞……かの」 「研究資料は残してあるか?」 「無い。物体として残っていたものは全て破棄した。後はワシの頭の中だけじゃ」 「焦っている理由は何か?」 「別に焦ってはおらんよ。ワシの寿命もまだあるであろうし、世界の終焉もまぁまだ先じゃろうからして」 いつもながら明朗かつ淀みのない返答。大真面目なのだ、彼女は。 「……確認しておきますが、あなたは十七夜 木乃華本人でしょうね? 以前のような身代わりは御免被ります」 「大丈夫じゃよ、前回からワシはここを出とらん。【今ここにいる十七夜 木乃華は本人に間違いない】」 「そいつは良かった。俺も確認しとかなきゃなァって思ってたんだ」 鹿角 結(ib3119)と鷲尾天斗(ia0371)はここにきて身代わりを立てられては敵わないと確認をとった。 身代わりがなく本人であることが確定。そして突きつけられた選択。どうにもすっきりしない。 「……どう思われますか?」 「どうも何も。状況がこちらに有利すぎて気持ちが悪いです」 「ですわね。何かを企んでいるのは間違いないです。……やりますか?」 「それがいいでしょう」 一行の知恵袋たるヘラルディア(ia0397)とレネネト(ib0260)のコンビ。彼女らの知恵や直感に助けられたことも多い。 その二人のみならず、全員が感じている。『相手には何か企みがある』と。 故に、その企みの根源を潰してしまえばいい。レネネトは无に目配せすると、それぞれ足元で不気味に胎動する陣を破壊するため動き出す……! しかし木乃華は慌てた様子もなくひらひらと手を振るだけ。 「やめておいたほうがえぇぞ。徒労に終わるだけじゃ」 それでも。无は手にした短刀で陣を斬り裂き、レネネトは精霊の聖歌を発動し瘴気を払った。 だが、そのどちらも効果はなかった。描き加えられたはずの線は一瞬で消え、浄化された瘴気は新たに流れこみ思ったような効果を得られない。 少なくともこれでレネネトは3時間自由に動けない……! 「このワシの生涯をかけた術式がそんなことで崩れるものか。もう茶番はよかろう?」 すっ……と木乃華の雰囲気が変わる。 余裕綽々な態度から、真面目に真っ直ぐに開拓者たちを見つめた。 「生か死か。ワシにとってもお前さんたちにとっても最後の選択じゃ。返答を聞こうか」 今までにないその眼差しに、開拓者たちは気圧された。いや、戸惑ったというのが正しい。 彼女は強要している。答えを明示することを。 「殺すか。はたまた捕縛を含めて生かすか。あと3分以内に答えよ。時間切れの場合、十七夜を復活させるぞい」 「なっ……!? なんですかそれは、そんな条件は出されていなかったでしょう!?」 「『返答しない』という選択肢を潰させてもらった。本当に二つに一つじゃよ。妥協なんぞせんしさせん。どちらにしたのか言えばいいだけじゃ、簡単じゃろ?」 抗議の声を上げた鹿角だったが、簡単ではないから悩むのだとは流石に言わない。 開拓者たちの答えは決まっていた。『殺さず出来うる手段で封印する』が決定事項だ。しかしそれを口にした場合、木乃華にしてみれば『生かす』を選択したに他ならない。 「……ここで最悪のパターンといたしましては、逃げるために例の強制送還を木乃華様自身に使われることでしょう。外に出られて身を隠されたらまず間違いなく追えません」 「そして闇に紛れ研究を続け、犠牲者を出し続ける……か。そんなこと許す訳にはいかない!」 「もしそうなったら、また若木乃華のような人物を造られる可能性が高い、よね……。……正直、御老人や子供に刀を向けるのは嫌なんだ。貴方は人間的弱さを持った人であると、僕は思う。でもこれ以上、他人の命を駒にするというなら……僕は止める」 ヘラルディアの嫌な予測に、雪切と真亡が武器を構え直す。 「ね、ねぇ……どうするの? 一応、まだ決めた範囲内ではあるけど……」 神座が不安そうに鷲尾を見上げる。 一応、『殺すつもりで』というのも予定にある。表向き殺す選択肢を取って……という流れで行くしかない。 今ここで生かす=捕縛=封印を口にして、ヘラルディアの懸念が現実になっては困る。 だから――― 「……亜理紗、いいか?」 「……お任せします」 今まで黙って成り行きを見守っていた亜理紗。彼女の力ではどうにもならない以上、鷲尾がした確認は肉親としての最後の通過儀礼だった。 「…………俺達の選択は…………『お前を殺す』だ」 「……それは総意と見なしてよいな?」 「……仕方ねェだろ」 ここに来て鷲尾は内心歯噛みしていた。 嵌められた。最初から自分たちに選択肢など無かったのだと。 正確には、選択ができないように追い込まれたと言ったほうが正しいが……! 「そうかい。わかった。……おまえたち、もう良い。助かった」 「……木乃華さん……」 「……それだけの覚悟、どうして良い方向に持って行け無かったんだ……?」 ゆっくりと微笑み、人妖たちに声をかけた木乃華。その表情はただ穏やかだった。 瘴気となって霧散していく二人の人妖。語りたいこともあったが、その猶予すらない。 やがてたった一人となった木乃華は、空間の天井を仰ぐ。 「……良い人生とは言えんかったが、概ね満足じゃ。さぁ、やるがいい」 両手を開き、全くの無防備な姿を晒す。 しかし開拓者たちに殺すつもりはない。今はそれを隠し、どんな手を使っても捕まえる。 じりじりと木乃華に歩み寄る開拓者たち。その手が届こうかという時……異変は起こった。 「えっ……こ、これは!?」 ギリギリと後方から弓を引き絞る音。同時に鹿角の戸惑う声。 見れば鹿角は戸惑いながらも全力で弓を引き、確実に木乃華の心臓を狙っていた! 「か、身体が言うことを聞かない!?」 「これは……まさか!?」 真亡と雪切も自らの異変に気付く。 身体が勝手に動く。本人の意志とは関係なく、木乃華を殺すために刀を振りかざす。 それはレネネトを除いた開拓者全員が同じであり、亜理紗でさえもわけがわからないまま符を取り出している! 戸惑いに満たされた空間に、薄ら笑いが響きだす……! 「ひひひひひひひ! お前たちが考えそうなことなんぞお見通しなんじゃよ! さぁ、言ったからには殺してもらおう! さぁ、殺せぇぇぇぇッ! ひゃははははははッ!」 「こいつ! くそっ、くそぉっ! 何が最後の選択だコラァ!!」 「ワシの死が引き金になることも、選択にならない選択も薄々気付いとったろ? 読まれることもワシは読んどった。最後の最後にお前たちの悔しがる顔を見れるんじゃからもう最高じゃな!! ワシを誰だと思うておるか! 他人の思い通りになるのが嫌いな十七夜 木乃華じゃよ!」 「ずるいよこんなの! じゃあ、ボクたちはどうしたらよかったのさー!?」 「生かすと素直に言われたら実質ワシの負けじゃった。もしくは3分以内に人妖を突破してワシの四肢を斬り落としてでも捕縛すればよかったんじゃよ。時間切れでも本当に十七夜が蘇ったしのう。ま、どちらもできるわきゃないがなぁぁぁぁぁッ!」 汚い。あまりに汚いが、それが自らを殺させるために仕組んだというのだから意味がわからない。 どうしてこうなった。才能の無駄遣い。何故ベストを尽くしたのか……! 「さぁ! 人生のすべてをかけた自殺ショーじゃよ! 意図せず片棒を担げッ!」 廃坑の奥に閃く無数の白刃。吹き荒ぶ吹雪と流星のような一矢。 ひたすらに奏でられ続ける精霊の聖歌を、誰のものともわからない慟哭の叫びがかき消した。 老人のか細い身体はいくつにも分断され、足元の陣には血の海が広がっていく。 やがて陣が放っていた白い光が血のような真紅に変わった時、紋様の中心で力が爆ぜる。 衝撃波が収まった後には、真っ黒い球体が出現し……中から砕けた。 そこに在ったのは、闇。そこに在ったのは、不死。 陰陽師服を着たカサカサのミイラ。木乃華を代償に木乃伊が現れたのだ……! 「ふ……ふははははは! 蘇った、蘇ったぞ! 木乃華め、流石と言っておこう! その覚悟、その技術! 教え込んだ甲斐があったというものッ!」 「てめェが十七夜か……!」 「その通り。……ふむふむ、やはり見知った顔が多いな。嬉しいやら呆れるやら。……おっと、『お前たちに』会うのは初めてだったな!? ははははははッ!」 開拓者たちは全身で感じていた。『こいつは絶対に野放しにしてはいけない』と。 木乃華の性格はこいつのものに大きく影響を受けたと思われる。しかも実力は木乃華をも上回るだろう……! 「木乃華をここまで追い詰めた褒美だ、まずは貴様たちを我が餌食としてくれる。光栄に思うがいい!」 撤退しようにもレネネトがまだトランス状態のままだ。彼女を連れて逃げるのは難しい。 いや、仮に精霊の聖歌を使っていなくてもこのミイラは開拓者を逃しはすまい。 だから、歩み出た。たった一つの可能性を信じて。 「……鷲尾さん、真亡さん、雪切さん。ここは私に任せて逃げてください!」 「何を言ってるんです! 亜理紗さんを置いてなんて行けませんよ!」 「お願いします! 全滅したくないでしょう!?」 そう言いつつ、亜理紗は印を組んで何かの術を発動する。 同時に足元の陣が青く発光。どうやら陣を利用しているようだが……!? 「馬鹿な、こんな出来損ないが陣を起動させる!? おのれぇぇぇッ!」 「亜理紗……? おい、亜理紗!?」 「あは……年越しそば、一緒に食べたかったです。お節は、一緒に―――」 寂しそうに微笑んだ亜理紗の笑顔が固まる。同時に十七夜の絶叫もピタリと止む。 亜理紗と十七夜の時だけが止まってしまったかのように、二人は全く動かない。 「……完全に固まってしまっていますわね。まるで空間そのものが凍結したかのようですわ」 「ふむ……恐らくですが、一週間かそこらで自動的に解除されるでしょう。亜理紗さんが体勢を立て直し対策を練る時間を稼いでくれたということですね」 「なんでわかンだよ!?」 「これでも木乃華や亜理紗さんの術のことは日々研究していましたから。再現は無理でも、性質の把握くらいはね」 无に掴みかかった鷲尾だったが、亜理紗が命を犠牲にしたわけではないと知り一先ず胸を撫で下ろす。 開拓者を翻弄し続けた十七夜 木乃華は手の込んだ自殺ショーを演じてこの世を去り、始祖たる十七夜というミイラを蘇らせた。 もう選択はない。亜理紗を助け、ミイラを倒す。 本当の最終決戦は年明けに持ち越されるのだった――― |