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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 「一葉さん、最近おかしくないですか?」 「そうね……誤認情報が多すぎる。何かあるわね……」 ある日の開拓者ギルド。 報告書をまとめていた職員の二人組……十七夜 亜理紗と西沢 一葉は、眉を寄せつつ話している。 その原因は、依頼におけるアヤカシの情報についてだ。 熊のアヤカシが出たというので退治に行ってみたら、出てきたのはヘビのアヤカシだった。 巨大カマキリのアヤカシが出たというので迎え撃ちに行ったらヘビのアヤカシだった……などなど。 目撃情報と実際に遭遇し退治したアヤカシとが一致しなかったものの、周辺での被害が終息するという不可解な事例が続き、ギルドも少々混乱している。 正確な情報を開拓者に提供することは依頼人の義務でもあるしギルドの義務でもある。それが崩れ始めているのが非常に不味いのだ。 しかもそれが石鏡の一部地域から出される依頼のみに限っているのがまた解せない。そこに何かがあると考えるのは自然な流れであろう。 「で、その地域でまたアヤカシが出たらしいの。今度は鷲と空飛ぶ鮫と豹のアヤカシだって」 「イーグルシャ―――」 「ジルベリア語にしない! ちなみに、そいつらは同地域に居るけど全くの別行動をしていて、仲間って感じじゃないみたい。たまに顔を合わせることもあるようだけど、特に何もせずお互いスルーしあうみたいね」 「ふーむ……まぁアヤカシにはよくある行動ですけど……場所が場所だけに、行ってみたらまたヘビのアヤカシだったってことになるんでしょうかねぇ」 「様式美を尊重するならね。他の地域ならそんな心配は要らないんだけど……」 アヤカシの共食いというのは基本的に有り得ない。ならば誤認の原因は一体何か? 鍵はヘビのアヤカシ。孤独なシルエットが動き出す時、それは紛れもなく――― |
■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
水野 清華(ib3296)
13歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●そんなことより 件の地域までやってきた開拓者一行は、周辺の村に聴きこみをかけすぐさまアヤカシを追った。 鷲に空飛ぶ鮫に豹。目立つといえば目立つので目撃情報はすぐに集まり、寂れた山に到着する。 鴇ノ宮 風葉(ia0799)による瘴索結界が捜索の頼り。王道のアヤカシ退治という感じがして悪くない。 問題は相次ぐ誤報。依頼人もギルドさえもこの地域で起きる事件に限ってアヤカシの目撃情報に齟齬が出る。この原因も究明したいところだ。 「さーて……鬼がでんのか、蛇がでんのかなあ?」 「見間違いとかなんとかあるみたいだけど……とりあえず変なのが出てくるってーのだけは分かるかな」 「どーせ蛇なんでしょーけど……それよりも、どうやれば鮫と蛇を見間違える訳……?」 ルオウ(ia2445)にしろブラッディ・D(ia6200)にしろ、数多くの修羅場や依頼をくぐり抜けてきた猛者である。その二人にしても、蛇と別のものを見間違えたという話は聞かない。 鴇ノ宮もまずはこの事件の根本が気になっているようだった。 と、そんな時である。鴇ノ宮の瘴索結界に反応があった。 有効範囲ギリギリのところを掠めるように移動していたところから、こちらに気付いているわけではなさそうだ。鴇ノ宮の目配せで他のメンバーも状況を察した。 「敵は一匹ですか? 数が集まって擬態しているのかと思ったんですが」 檄征 令琳(ia0043)は具体的な例を以って推測をしていたが、鴇ノ宮は首を振る。 「一匹ね。呑気してるみたいだからさくっとやっちゃいましょ」 風世花団という団体に所属しており、その長である鴇ノ宮。彼女もまた歴戦の勇士である。 正体不明のアヤカシ事件とあって油断はない。敵は三匹、連携しないであろうとはいえ各個撃破すべしとの判断をすでに下している。 「この私。NO.2である、檄征 令琳にお任せください」 「ふぅん? それじゃ肉の壁よろしく」 「いざとなれば。しかし、そろそろ団長交代というのもありですかね」 「なによ、言ってくれんじゃないのさ」 ふふふ、と軽快な軽口を叩き合う二人を見て、一行は肩をすくめつつもアヤカシを追う。 敵は近い。結界の範囲内に捉え直し、木々の間に垣間見えた姿は紛れもなく……! 「コブラじゃねーか!」 「やっぱり蛇だー!?」 鈴木 透子(ia5664)と水野 清華(ib3296)が思わず叫んだように、草木を分けて進んでいたのは丸太のような太さを持つ全長5mほどの大蛇だった。 天儀における一般的な蛇と違い、頭の部分が草履のように大きく広がっている。いわゆるコブラと呼ばれる種類の蛇だろう。 「バカ!」 ルオウが二人の頭を慌てて押さえつけるがもう遅い。声と物音に気づいた蛇は開拓者たちの方を振り向く。 すると…… 「ん? あ、悪ぃ、豹だったわ……」 「そうですね。豹ですね」 「んー? っかしーな、蛇に見えたんだけどなぁ」 ブラッディ、檄征、ルオウは我が目を疑った。つい一瞬前まで蛇にしか見えなかったアヤカシは、低姿勢で獲物を狙う豹の姿に早変わりしていたのだ。 見間違い? それにしては鈴木や水野たちまで誤認しているのはおかしい。 それに、今までと逆パターンだ。『豹かと思ったら蛇』ではなく『蛇だと思ったら豹』だったということにも考慮すべきであろう。 「ま、倒しちまえばなんでもいいよなっ!」 いの一番に駆け出したルオウ。それに呼応するように飛びかかってくる豹。 咆哮を使うまでもなく自分の方に向かってきてくれたので、ルオウはいなして回避しつつ攻撃という戦法を選択する。 その時、不思議なことが起こった。確かに回避したはずの豹の攻撃により、ルオウは足に切り傷を負った。 少なくともきっちり回避したはずだし、豹の爪は彼の右腕側を通ったはず。脚部への攻撃などありえない。 とはいえこれは現実だ。ダメージを負ったのは事実だし、なんだか頭がクラクラする。これは、毒……!? 「わっけわかんね! だんちょ、なんかわかるか!?」 「索敵場所にズレはないわ。少なくともそいつはそこにいる。水野、あれやってみなさい!」 「了解!」 弟子であるという水野に指示を出した鴇ノ宮。それに応え、水野がエルファイヤーで豹を攻撃する。 豹の頭上に渦巻く炎。それが地面に叩きつけるようにアヤカシを包んだ。 獣特有の悲鳴を上げ、のたうつアヤカシ。そこにルオウが隼人で肉薄する……! 「礼はしないとなっ!」 蹴りを放つルオウ。しかしその一撃は、アヤカシに確実に当たっているはずなのに空を切る! 「んなろっ!」 強引に体勢を変え、袈裟懸けに刀を振り下ろす。 すると豹とは全く関係のないところで手応えを感じ、何かを切断した。 見れば豹の姿はなく、焦げて胴体の半分くらいで両断された大蛇が横たわっているのみ。 「やっぱりコブラじゃねーか!」 「コブラだよね!? これコブラだよね!?」 鈴木と水野がツッコミの役になってしまっているが、やはり最初のは見間違いではないらしい。 鴇ノ宮にはなんとなく原因が分かったようだが、確信が欲しい。 「つ……! 悪い、だんちょ。俺あんまし動けそうにねーや」 傷自体はさして深くないが、どうも毒が回り始めている。余程手当が遅れない限り死にはしないだろうが、ルオウを戦力として数えるのは酷であろう。木陰に座り込み、少し休んでもらうことにする。 「大丈夫よ。向こうから来てくれたみたいだから」 ニヤリと笑う鴇ノ宮の視線の先には、空飛ぶ鮫と鷲。どちらもかなり低空飛行で、木々の間をホバリングするようにしてこちらへ向かってきている! 「月緋、あいつらを引きつけといて。あんたたちは月緋の援護。確認してみたいことがあんの」 「任せろや! ぎゃっはは! 遊ぼうぜぇ、アニマルども!!」 「御無理はなさらないように」 檄征、鈴木、水野にブラッディの援護を任せ、一人離れアヤカシたちの側面へ回りこむ鴇ノ宮。 しかしそれで事態は変わらない。彼女の予想では、これで何かしらの変化が起こるはずだったのだが。 「こうじゃないとすると……あっちのパターンかしら。鈴木、人魂使って鳥を作りなさい! やつらに見られないように、迂回させて背後から観察させて!」 「了解しました! 月以外誰も見ていない感じですね!」 「今は昼だから月だって見てないってば……」 「ぐぐっ、私も人魂を使っているのに……私の手柄が……」 ツッコミと呟きを無視し、鈴木は要請通り人魂で小鳩を作成、敵に発見されないようなルートを通らせ背後に回した。 するとどうだろう。先程まで鷲と鮫に見えていたアヤカシが、二匹の大蛇が地を這っていうようにしか見えなくなったのだ。 「コブラじゃねーか! 三回も言ったのです!」 「はぁ!? このアニマル共がどうして爬虫類なんだオラァッ!」 ブラッディの叫びはとりあえず無視し、鴇ノ宮はニヤリと笑う。自分の推論の正しさが証明されたことによる優越感はまた格別なものがあるのだ。 「そいつらはね、多分『見た相手に自分たちの姿を誤認させる能力』があるのよ。そうね……仮に『サイコ眼』とでも名付けましょうか。だから不意を突いた一匹目は普通に蛇に見えて、こちらに気づいてから誤認が始まった。後の二匹は予めこっちを見てたから最初から違う姿に見えたのよ」 「なるほど。それで師匠は『蛇の視界の外に出れば元の姿に見えるんじゃないか』と移動したんですね」 「そ。でも一度見られたら誤認はそいつを倒すまで消えないみたい。解呪でもあれば別かもしれないけど、意外と厄介な能力だわ」 そこまで聞けば水野も大体理解した。 つまり、別の姿に見えているのは全くの虚像で、実際は蛇のままなのだ。 だからさっきルオウは完全に回避したはずの攻撃で、実際は攻撃されていないはずの足をやられた。蛇本体は足を狙ったので当然の帰結である。 目撃者やギルドが誤認情報を出すのも無理は無い。予め見られていたら誤認状態からスタートなのだから。 「おやおや。これは依頼主やギルドの方々をどやしつけるのは憚られますかねぇ、風葉さん」 「ぐぬぬ。ま、原因が究明できたならそのほうがいいわけよ。さーって、不肖の弟子に魔術の使い方を見せてあげますか」 檄征の言葉を冗談めかして流し、鴇ノ宮は魔術を放とうとする。 しかし現在見えているアヤカシは虚像。本当は蛇であり、地面をどんな体勢で這っているかわからない。 分かっているのは、虚像のある場所に本体も居るということだけ。 「悪いわね、魔法は目じゃない……心で撃つのよ、ってね」 飛行する鷲の下の地面。そこを狙って鴇ノ宮はサンダーヘヴンレイを放った。 自動命中はあくまで見えている相手にだけ有効。それあえてを捨てて放った一撃は、蛇の頭を光の奔流で飲み込んだらしい。鷲の姿が消え、頭部が無くなった蛇が激しく暴れ……やがて動かなくなった。 そんな鴇ノ宮を危険視したのか、鮫は激しく蛇行しながら木々をすり抜け鴇ノ宮に迫る。 狙うべきは地面なのだが、やはり迫り来る鮫というのはどうしても気をやってしまう。 「肉の壁とはいきませんが」 檄征が作り出した結界呪符が鴇ノ宮の前に出現し鮫=蛇の接近を阻む。 「テメェの相手は俺だろうがぁ! よそ見してっと、ヤキモチ焼いて噛み千切っちゃうぞー! ぎゃっはは!」 瞬脚で一気に距離を詰めたブラッディ。鮫が触れない虚像とわかれば、その下にいる見えない蛇を攻撃するのみ! すくい取るような動作で蛇を発見すると、そのまま掴んで蛇の身体を引き千切ろうとする! 慌てた蛇はブラッディの肩口に噛み付き毒を流しこむも、すでに鴇遅し。 「これで終わりだぁぁぁ! ぎゃっははははは!」 ブチィと嫌な音が響き、何もないはずの中空から瘴気が噴出する。 やがて蛇の輪郭が浮かび上がり、ブラッディの両手には千切れた蛇の死体が握られていた。 それすらも瘴気に返り消えてゆく。無事に三匹のアヤカシを撃破終了である。 「あーきっちぃ……。毒回ってるわー。すげぇ回ってるわー」 「だんちょ、悪ぃけど俺もー」 「はいはい。水野、鈴木、あんたたち龍連れてきてたわよね? 二人を乗せていって、近くの村で薬草でも飲ませてあげて頂戴な」 「私も連れていますが……」 「あんたはこの二人に手を貸すの。男なんだから力仕事でキリキリ働く!」 戦闘中はハイテンションでも普段はダウナーなブラッディ。ルオウと同じく毒が回り始め、いつもより更にダルそうである。 彼らは知らない。噛んだのがアヤカシではなく本物のコブラだったらすでに死んでいるであろうことを。 兎にも角にも無事にアヤカシ撃破、原因も特定されギルドの誤解も解けた。 問題はサイコ眼への対策が難しいことなのだが……それはまた、別の話である――― |