八十八星座物語
マスター名:西川一純
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/05 15:07



■オープニング本文

 天儀の中心都市たる神楽の都。
 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。
 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら―――

「ねーねー亜理紗、これなーんだ」
「えっ!? そ、それってもしかして、星の一欠片(スターダスト・ワン)ですか!?」
 ある日の開拓者ギルド。
 お昼の休憩中、先輩職員の西沢 一葉は徐に懐から一枚のメダルを取り出した。
 三段重ねの重箱弁当を頬張っていた後輩職員、鷲尾 亜理紗も思わず手を止める。
 星の一欠片とは、最近神楽の都で実しやかに囁かれているアイテム。
 通常、アヤカシは倒すと瘴気に還り何も残さない。しかし、最近になってごく一部の限られた地域ではあるものの、倒したアヤカシが星座の描かれたメダルを落とすことがあるという噂が立っていた。
 それぞれ星座のモチーフとなっている動物や物品が原型のアヤカシを倒すと手に入れられる確率が高いと言われており、カラス型のアヤカシを倒せば烏座のメダルが、孔雀型のアヤカシを倒せば孔雀座のメダルが手に入り、どうやら八十八星座すべてあるらしい、と言われている。
 らしい、というくらいなので必ず手に入るものではなく、出ないことも多い。よって、星座好き、珍しい物好きの好事家やコレクターの間で注目の一品になっているとかいないとか。
「どうしたんですか、それ」
「昨日、キョンシー退治の依頼があってね。その帰りに爆走する牛車のアヤカシに出くわしちゃったのよ。幸い、開拓者の何人かに手伝いを頼んでたから、キョンシーのついでに倒したの。そしたらポロッと」
 西沢 一葉はギルド職員の傍ら、キョンシー関連の依頼を受ける『道士』をしている。ただし、一葉本人は志体を持たない一般人であるため、開拓者や自らが操るキョンシーのサポートが必須だ。
 そんな依頼の帰りだったため、偶発的な遭遇にも対処できたのだろう。アヤカシが瘴気に還ったあとには、黄金に輝くメダルが残されていたのだった。
「それを貰ったと。へぇー、しっかりとした彫刻なんですね。この絵だと……アウリガ、馭者座ですかねぇ。表には星座の絵、裏は星図って感じですね」
「えへへー、いいでしょ。で、別に自慢したいだけじゃなくて、星の一欠片に関わる依頼が来てるの。それを担当してもらおうと思って」
 前述のとおり、集めている人間はいるものの出るか出ないかは判らない。
 出ているケースにしても、石鏡の一部地域に限られている。
 それでも狙おうというならばその一部地域に籠ってメダルが出るまで延々と狩り続けるか、自ら狩れないならダメ元で開拓者に依頼を出すしかない。
 ……ということで、今回の依頼である。
「今回はリンクス……山猫座狙いみたいね。とある山に山猫の集団が現れたんだけど……これが厄介な部類でね」
「めっちゃ強いんですか?」
「めっちゃ可愛いの」
「……はいぃ?」
「強さは多分下の下。普通の猫よりはそりゃ大分強いけど、正直開拓者の敵じゃない。でもね、可愛いらしいのよ。じゃれついてきて、愛らしくにゃーんって鳴くんだって。うーん、私も見てみたい」
「私、山猫ってすごい凶暴なイメージがあるんですけど……」
「山にいれば可愛かろうと山猫でしょ」
「そ、そういうもんですかぁ?」
「そういうもんです。ただまぁ、アヤカシには違いないわけで、星の一欠片も兼ねて退治してしまおうってわけ。心が痛みそうっていうのだけが問題点かしらね。そういうわけで担当、よろしく」
「よ、よくわかりませんがわかりました」
 巷で噂の輝くメダル、星の一欠片(スターダスト・ワン)。趣味と実益を兼ねたアヤカシ退治である。
 星座に魅せられた人々の織り成す物語が、今始まる―――


■参加者一覧
水月(ia2566
10歳・女・吟
各務 英流(ib6372
20歳・女・シ
何 静花(ib9584
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
リーシェル・ボーマン(ic0407
16歳・女・志
ヴァレス(ic0410
17歳・男・騎
暁 久遠(ic0484
22歳・男・武
リック・オルコット(ic0594
15歳・男・砲


■リプレイ本文

●ねこねこ
 緑萌える山。春の芽吹き賑やかな山道を進む開拓者たち。
 件の山猫たちが根城にしている場所を目指し、一同の気持ちは逸る。
「星座の描かれたメダルを落とすアヤカシですか、なんだか変わってますね。可愛らしい山猫型のアヤカシと聞いていますが、どの様なアヤカシなのでしょうか」
 緋乃宮 白月(ib9855)がおっとりと呟いたその時、木々を抜け開けた空間が出現する。
 そこには……!
「な、これは……!?」
 リーシェル・ボーマン(ic0407)は思わず絶句する。
 そこには、ミケ、トラ、シャム、コラット、ペルシャなど様々な種類の猫達がいたるところで遊んでいた。
 しっかり成長した大きい猫もいれば、産まれたばかりの子猫のようなものもいる。とにかく猫の博覧会かと疑うほどの光景であった。
「これ本当にアヤカシ、なのか……?」
 リーシェルが呆然と呟くとほぼ同時、一行の中から一つの影が猛スピードで飛び出した。
 猫達は開拓者に気づいたものの、どれ一つとして逃げ出したりしない。警戒するどころか興味津々とばかりに突っ込んでくる影に向かってとてとてと近づく。
「めっちゃ可愛い、しかもいっぱい……!」
 我を失ったかのように、手当たり次第に、撫で撫でしたり抱き締めたり頬擦りしたりするのは水月(ia2566)。
 彼女にそんなことをされても猫達は嫌がる様子もなく、むしろ好んで喉を鳴らし、にゃーんと鳴き、頬を水月の着物にこすりつける。
「猫、山猫か、なんだろうな、芯の方から来る感情は……。……ああ、わかった、記憶にあるんだ、そっか、私は猫が嫌いだったのか。……そうでなくてもごまをする奴は嫌いだ!」
「……仕事ですから。お金もらう以上は、成果は出します」
 そんな中、何 静花(ib9584)とリック・オルコット(ic0594)は非情にも猫達を攻撃する気満々である。
 可愛いとはいえアヤカシなのだ。二人のリアクションは正しいといえば正しい。
「十七夜亜理紗お姉様の頼みですもの……頑張りますわ」
「ん? よく知らないんですが、その人は最近結婚したんじゃ―――」
「十七夜お姉様です。大事なことなので二回言いました」
「……さいですか。しかしそのマタタビやら猫じゃらしやら人形は……」
「これは敵を油断させる為の道具です。遊ぶ訳ではありません。人形は私の心の慰めです」
「……ツッコまないほうが身のためですかねぇ」
 やる気があり気だった各務 英流(ib6372)だったが、暁 久遠(ic0484)とのやりとりをご覧いただければお分かりいただけるように、遊ぶ気満々であった。
 よって、何とリックは淡々と撃滅していく係として別行動。端っこからアヤカシを叩きのめしていく。その他のメンバーはこの世に出現したパラダイスをしばし堪能するということになったらしい。
「随分、人懐っこいんだなー?」
「みー」
「か、可愛い……っ!」
 喉を擽られ、愛らしく鳴く子猫の前に、リーシェルの理性が崩壊する。
「可愛いの……猫さんの楽園なの……!」
「聞いた通り、すごく可愛いですね。それに猫型なので親近感が湧いてきます」
 水月、緋乃宮も猫の魅力の前にメロメロである。それを責められるものはいない。断じていない。
 水月に至っては周りに猫を侍らせ夜の子守唄を発動、猫達に囲まれお昼寝モード。至福の表情で猫の寝顔をつついたりしていた。
「へぇ、可愛らしいアヤカシだねぇ」
「ずいぶんなつっこい山猫ですね……飾り帯にじゃれついたり肩に飛び乗ったり……。重いですよ。もふもふは心地いいですが……」
 猫に大して思い入れのないヴァレス(ic0410)や、生真面目な僧院の出である暁すら猫達のことは憎からず思ってしまう。
 攻撃する気が起きない。正直、この猫たちがどうやって人の負の感情を集めるのか想像がつかなかった。
「はにゃーん……」
「あまり害も無いみたいだね、こういう種類もいるんだ。って、あらあら♪」
「―――はっ!?」
 猫に囲まれ肉球をぷにりながらトリップしていたリーシェルだったが、ヴァレスの視線に気付き、動きが止まる。
 そしてそっと優しく猫を下し、一つ咳払い。
「ぇー……ぁー、見てた、か?」
「ぇ?うん。最初からずっと」
「〜〜〜ッ!」
「ふぉあっ!?」
「受けるな! 忘れろっ……!」
「う、受けるよっ! 危ないよ! そしてそんな無茶なぁ!?」
 涙目で訴えるリーシェルは六尺棍を振り回すが、ヴァレスはそれをきっちり受け止め、ギリギリと鍔迫り合いになる。
 ややあって……ようやく落ち着いたリーシェルはもう一度咳払いをした。
「……失礼、少し取り乱した様だ」
「やっと落ち着いたみたいだね」
「……なぁ、ヴァレス殿。私は常々思うのだが」
「うん?」
「何であれ、差別で断罪すると言うのは愚かではないだろうか?」
「うん、そうかもしれないね」
「だからさ、その……この子たち……見逃してあげれない、よね?」
「あ、あらあら。よっぽど気に入っちゃったみたいだね。気持ちは分かるけど。でも、俺達はアヤカシ退治で来て、この子らはそのアヤカシだ。ちゃんと倒さないと、依頼者にも悪いでしょ?」
「ぅ、それはそうなのだが……」
 ヴァレスにしてみれば叱ったつもりはないのだが、リーシェルはしゅんと縮こまる。
 彼女が落ち込んだのを知ってか知らずか、猫達はリーシェルの周りに集まってみーみーと鳴く。まるで泣かないでと言わんばかりに。
「ぱるぱるぱる……。まったく嘆かわしいですこと。アヤカシはアヤカシ、きちんと退治してしまうべきですわ」
「各務さん、言ってることとやっていることが違いませんか?」
「どこがですか? 寄ってきた猫にはッ! ダークフレイムハンドで顎や頭を狙い、敵の防御を崩しますッ!」
「いや、手で撫でてるだけですよね」
「体勢を崩した所ですかさずダークネスフィンガーッ!」
「お腹をわしわししてるだけですよね」
「これで猫の生命力を極限まで消耗させッ!」
「思う存分もふもふしてるだけですよね」
「ダウンしたら次の猫の番ッ! 黙っていても寄ってくる? いいや駄目だねッ! 心の傷を癒す為にはッ! より多くをもふもふする事ッ!」
「本音ダダ漏れですよねぇぇぇ!? うぅ、これだから女性の扱いは苦手なんですよ。緋乃宮さん、女性同士なんとかしてあげてください」
「僕、男ですけど」
「…………はいぃ?」
 男というにはあまりに可憐な15歳、緋乃宮を下から上まで眺め……暁は体育座りで落ち込んだ。
 彼を癒したのは、やはりアヤカシであるはずの子猫たちだったという。
 一方その頃……
「その柄、なんなんだ? 気に食わん!」
 何は主に虎柄の猫ばかりを狙い、問答無用で殴り倒していく。
 軽快に空中に吹っ飛び、地面に落ちて瘴気に還る猫たち。しかし彼女に罪悪感はない。
「柔らかい……まあ、別に気にしない。仕事はきっちりこなさないと、お金にはならないのですよ」
 リックは柄などには構わずとにかく撃ち殺す。この二人のお陰で、確実に三桁はいる猫達も順調に削れていっているのだった。
「メダル……集めておくか……」
 チャリン、と山猫座の絵と星図が描かれた黄金のメダルが地面に落ちる。星の一欠片は体感上、20匹に一枚程度の確率で出現していた。
 これがこのアヤカシだけの確率なのか、すべての星の一欠片に言える確率なのかはまだ定かではない。
「はははっ、逃げるな、外れるだろ? 我、修羅也、今こそ真に修羅と化し百邪を滅す悪鬼と成るっ!」
「……ツッコまないよ」
 そうでないとややこしくなるのは確かである。
 と、その時だった。
「きみ、一体何を……!?」
「あ……」
 お昼寝から目覚めた水月にじゃれつこうと猫ぱんちを繰り出した三毛猫に対し、水月は反射的にカウンターをしかけてしまった。
 元々素手や布での戦いを得意とする彼女の攻撃に、猫はあっさり瘴気に還ってしまった。
 それでも周りの猫は怯えない。遊ぼうと言わんばかりに水月に群がる。
「あ……あ……!」
 可憐な少女であっても水月は開拓者なのだ。猫を愛する気持ちと、アヤカシと戦う戦士の本能は全く別物。
 目覚めだした本能がアヤカシを討ち果たしていくその時、彼女の目からは涙が溢れていた。
 それを見ていたリーシェルとヴァレス、緋乃宮と暁は、なんとも言えない悲哀を感じながらもついに猫達と決別する決意を固めた。
「うぅ……すまない、すまない……」
 疑念の一つも持たず消滅していく猫達に半泣きになりながら、リーシェルたちは猫を撃滅していったという―――

●追悼
「っは! 私は一体何を……星の一欠片、何時の間にこんなに? な、何だ、その私を見る目は!」
 ややあって……軽く三桁はいたであろう猫達はこの一帯から駆逐され、とうとう一匹もいなくなっていた。
 猫(というか虎や虎柄)にトラウマを持っていたらしい何がトリップ先から帰ってきた時には、星の一欠片が4枚彼女の周りに落ちていたという。
 戦闘どころか、抵抗らしい抵抗がなかったのだ。当たり前の結果である。
「出来ることなら、普通の猫さんとしてお会いしたかったです」
 緋乃宮の何気ない一言は、正に一行の心の代弁であった。
 もっとも、普通の猫というのは意外に可愛げがなかったりするものだが。
「……もしかして」
 ぽつり、と暁が呟く。
 倒した山猫型のアヤカシたちに手を合わせていた面々は、ふと暁に注目した。
「あの猫達が、俺達の『悪いことしたな』とか『こんな可愛い猫達を倒してしまって悲しい』という負の感情を瘴気に還元するのだとしたら……」
「くそっ、予想以上の効果を上げたぞ……!」
「あんたはだーっとれぃ!」
 ノリノリで猫を駆逐していた何がいかにも苦悩しましたというツラをしていたのでリーシェルがツッコむ。
 試合に負けて勝負に勝つことを狙うアヤカシ。負の感情ならなんでも良いというのが狙いということだろう。そういう意味で、何とリックは貴重な人材だったといえる。
 後ろ髪ひかれる思いで下山する開拓者たち。その途中―――
「リーシェル」
 ヴァレスは途中の店でとある物が売っていたのを思い出し、購入してリーシェルに手渡した。
「此れを……私に? ……ん、有難う」
 それは可愛らしい猫のぬいぐるみ。傷ついたリーシェルの心を癒すために贈られたヴァレスの心遣いだった。
 ……と。
「ん?」
 ふとヴァレスが気付く。猫達がいた辺りを悲しそうに見つめる少女が一人。水月だ。
「……猫さん……」
「……君も要るかい?」
 その悲しそうな表情を何とかしたくてかけた言葉。躊躇い気味にこくんと頷いたので、ヴァレスは微笑んでリーシェルと揃いで色違いのぬいぐるみをプレゼントした。
 気恥ずかしそうにぎゅっとぬいぐるみを抱く水月の姿は、歳相応の少女そのものであった。
「……」
「ん? どうかしたかい、リーシェル」
「……きみは、ずるい。ふんだ!」
「え? え? 何を怒っているんだい? おーい?」
 頭にはてなマークを浮かべるヴァレスを残し、一行は肩をすくめながら下山したという―――