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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 今更であるが、開拓者ギルドとは開拓者に様々な依頼を紹介する場所であり、開拓者はその依頼を受け報酬を得る。 勿論、定職がありギルドの依頼に参加するのは趣味という者も少なくないし、ギルドの依頼が生命線という者もいる。 そして……報酬よりも戦いを通じ自らを鍛えることを喜びとし、強さの高みを目指す者も。 「……カミーユさん、本気? 確かにその依頼は出せなくないけど、正直オススメしないわよ?」 ギルド職員の西沢 一葉。そして美しい銀髪の女騎士、カミーユ・ギンサ。 友人である二人はカミーユがもちかけた依頼について話していたのだが、一葉は眉を寄せた。 「何事も挑戦いたしませんと。力不足は重々承知ですが、とにかくわたくしには実戦経験が足りません」 「そりゃあね。開拓者が戦うのはアヤカシだけじゃないからそういうのも必要だとは思うけど……」 依頼の内容は至って単純。開拓者を募り、その人達と一対一で戦うだけ。 カミーユは初心者マークが取れたとはいえ、まだまだ駆け出しレベルである。アヤカシとの対戦はそれなりにあるが、訓練以外で人間と戦ったことは殆ど無い。 アヤカシ相手ならともかく、人間と戦うにはそれなりの覚悟がいる。それがない状態では盗賊や山賊退治もままなるまい。 カミーユは特殊な武器を使うものの、先輩開拓者たちと渡り合うにはちょっと……いや、かなり役者不足。 というより、それなりに実力がある者でも開拓者同士で連戦はキツイ。 でも、だからこそ――― 「だからこそやってみたいですわ。負けることは恥ずかしいことではないと思っておりますので」 「ふふ、前向きね。いいわ、申請しておく。どんな人が集まるか、人数がどれくらいかは運よ」 「駆け出しの実戦訓練に付き合ってくれる酔狂な方がいらっしゃると嬉しいのですが……」 カミーユが挑む。勝っても負けてもカミーユには良い経験になるだろう。 彼女と一対一で戦ってくれる人物を募集である――― |
■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
空(ia1704)
33歳・男・砂
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
ジェーン・ドゥ(ib7955)
25歳・女・砂
鴉乃宮 千理(ib9782)
21歳・女・武
スチール(ic0202)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●上 銀砂家の敷地は広く、成金として神楽の都でもそこそこ名が知られている。 中に通された開拓者たちは、すでにブレストプレートとフライハルトで武装したカミーユに出迎えられた。 「本日は無理なお願いを聞いていただきありがとうございます。しっかり勉強させていただきますわ」 ふわりと微笑んだカミーユ。予め戦う順番を決めていた開拓者たちは、すぐさま実戦に入るべく、志藤 久遠(ia0597)だけを庭に残し縁側に座った。 「い、いきなり志藤さんですか」 「せっかくですから、カミーユさんが万全の状態で相手をしてみたく思いまして」 大身槍を構えるのは、カミーユの良き友人でもある志藤。 開拓者を続ければ知り合いと戦うこともあろう。そういう意味でもいい機会だと腹を据える。 距離を取り、フライハルトを変形させ小型の盾と鈎手甲に分離して構えた。 「……なるほど。そう来ましたか」 「器用貧乏大いに結構。その場その場での対処力が最大の武器ですわ」 試合ではないので始めの合図はない。じりじりと間合いを詰め……仕掛けたのは志藤! 「くっ!」 盾で鋭い突きを弾く。しかし志藤は休むことなく穂先を突きつけてくる。 腕の差は勿論、そもそもリーチの差がありすぎる。このままでは攻撃される一方だ。 「ふっ!」 そんな時、志藤が深く大きく槍を繰り出した。カミーユは盾で滑るように流しながら志藤の懐へ! そのまま鈎手甲での一撃で決着! ……と、思ったのはカミーユだけだった。 鈎手甲が当たる前に、志藤が体でぶつかってきたのだ。鎧で固められたその身は、体当りすれば質量攻撃になり得る。 「そっ……!」 そんな、と言い切る前に槍の柄で脇腹を強打され、吹き飛ばされるカミーユ。 あの大きな一撃が誘い込むためわざと放たれたのだと知ったのは地面を転がった後だった。 「長い間合いの武器に対し、懐に飛び込むは常道。ただ、常道を常道通り、武器をその武器らしく使うだけでは実力以上の相手には勝てません。合理性をわきまえた上で、それを越えた力の使い方を模索する切欠となれば……」 発想は悪くない。しかし人はアヤカシと違い、考え駆け引きを行う。 それをしっかり覚えておけとの暖かい指導だった――― ●盾 「我が君主と淑女に勝利を捧げん、エイメン!」 刀礼をし、盾と剣を構えるスチール(ic0202)。その姿は王道の女騎士だった。 それに対しカミーユはスカート混じりの軽装の上、刀礼さえ知らない。 騎士扱いとはいえ、あまりにも差があった。 カミーユは小型盾と片手剣で応戦する様子だが……。 「はぁっ!」 「ぐっ……!」 盾を前面に押し出し、密着状態で押し倒しにかかるスチール。志藤とは全く異なるレンジでの戦い。 お互いに盾を繰り出して押し合いをするが、腕力はともかくやはり経験差が厳しい。 見た目細いカミーユが意外と腕力があると驚いたスチールだがそれも一瞬。すぐさま剣を使っての攻撃にスイッチし、カミーユはそれを弾くので手一杯。そして盾への注意が逸れると腕力が互角でも押されそうになってしまう。 スチールは一旦離れ、再び盾を振りかざす! 「盾対盾では!」 「そうかな?」 再びぶつかり合う盾。しかし今度はカミーユだけが弾かれ盾を持った左手が大きく開く……! 「なっ……!?」 そのままスチールが前進し、腹にピタリと剣があてがわれる。実戦なら刺し貫かれて悪ければ即死である。 「シールドノックだ。盾で必ず防げるとは思わない方がいい」 盾と盾でぶつかれば互角と安心したのが敗因か。 実戦に絶対はなく、一瞬の緩みも命取り。そういうことである――― ●差 次に歩み出たのは長谷部 円秀(ib4529)。音に聞こえた泰拳士である。 その名はカミーユも聞いたことがあるが、彼が刀を使うとは知らなかった。 これに対し、カミーユは左手に鈎手甲、右手に片手剣という構成で挑む。 「ふむ。槍などの長物で来なかったのは感心しますが」 ぽつりと言った次の瞬間、長谷部の姿が掻き消える。 雷の如き動きを可能にする瞬脚……それはカミーユも予想の範囲内。 左側に現れた長谷部。振り下ろされた刀を鈎手甲でガード! 長谷部はすぐに離脱し反撃など許さない。そしてすぐさま瞬脚、移動して再び攻撃! 「は、速い……!」 「年季の違いです」 とりあえず、先の二戦でカミーユにはわかったことがある。『守ってばかりでは勝てない』ということだ。 勿論、守りは重要であるし志藤の時のように誘われているのかどうかも見極めなくてはならない。しかしそれでも、攻撃しなければ勝てはしないのだ。 「……そこっ!」 気配を読み鈎手甲で『左薙に』攻撃を仕掛ける。しかし長谷部が現れたのは反対側……! 「勘ではね!」 だが、長谷部は思わず息を呑んだ。カミーユは鈎手甲で攻撃しつつ勢いで回転し、右手の片手剣で長谷部に攻撃を仕掛けたのだ。 長谷部は肩口から斬られ、血が吹き出す……! 当てられるとは思っていなかったカミーユの方が狼狽し、慌てて駆け寄った。 「も、申し訳ありません! 大丈夫で―――」 ビタリ、と喉元に刃が当てられる。ほんの数センチずらすだけで致命傷になりかねない絶体絶命の状況だ。 カミーユの命を握っている長谷部はケロッとしながら呟く。 「不意を突かれたのは本当ですが、受けたのはわざとです。それはわかりますね?」 「は……い……」 「問題はその後。斬った相手を心配して駆け寄ってどうするんですか。これは覚悟を持つための依頼ではありませんでしたか?」 そう言われてしまうと立つ瀬がない。この場合、攻撃を続行するのが正解だった。 ダメージを負ってまで覚悟を試した長谷部。その胆力は、勇名に恥じない――― ●舞 「やっほーカミーユ! 今日は負けないからね♪」 ブイサインで笑うのはアムルタート(ib6632)。彼女もカミーユの親友である。 「刃物や拳の人はいるから、私は得意な鞭で行くね! いつも見てるからって舐めないでよ〜タマ盗っちゃうよ〜♪」 今日もくるくると軽やかなステップで中距離を保つ。カミーユはこのステップに合わせ二人で戦ったこともあるが、むしろ『合わせてもらっていたんだ』ということに気付く。 カミーユの武装は槍状態。鞭で来ることは予想できたし、懐に飛び込ませない戦い方をしてみようと思ったからである。 が、リーチはこれでも相手のほうが上。鋭く飛来する鞭は避けるのは無理だ。 そこで…… 「えっ!?」 「絡め取れれば……!」 カミーユは甘く入った一撃に槍の後ろ部分を敢えてぶつけ、絡めとった。そして鞭の先端を左手で掴み、アムルタートを引き寄せる。 単純な腕力ならカミーユの方が上だ。そしてそのまま槍を突き出し、当てにかかるが……! 「あれ!? やばっ!?」 口調とは裏腹にその一撃を回避し、接近してくるアムルタート。ナイフでも隠し持っているのかと思ったが、そんな様子もない。素手で攻撃を仕掛けてくるのか!? それでも油断せず槍を薙いで弾き飛ばそうとするカミーユ。しかし、それすらも回避され……。 「……なんちゃって。勝負ありだね♪」 プレスティディヒターノ。体積などを無視し自分の体の中に物体を隠しておける技。アムルタートはそれでピストルを利き手に隠しておき、カミーユの眼前に突きつけたのだった。 教訓。素手のように見えるからと言って武器がないとは限らない――― ●殺 「ん? そろそろ俺か? さッて、ッと……」 次の相手は空(ia1704)。分かってはいたがこうも連敗だと一つくらい勝ちたいカミーユであったが、空から向けられる殺気で勝つ以前に自分の身が心配になった。 そんな自己保身も手伝ってか、フライハルトを両腕装備のシールドソードに変形させ……。 「イくゾ?」 空は遠距離から手裏剣を投擲するが、防御に徹するカミーユには当てられない。 無表情な虎の面。その下から浴びせられる確かな殺気。 長谷部も殺気は放っていたが、空のそれは毛色が違う。上手く説明できないが身の危険を感じるのだ。 「学習せンナ……!」 守るだけでは勝てない。そう分かったはずなのに、亀の子のように縮こまっている。 空は遠距離から一転、手裏剣を投擲しつつカミーユに接近する! 「今です!」 カミーユもシールドソードを構えつつ接近、すれ違いざまに斬ることを画策する。 なるほど、生意気にも誘うことを覚えたらしい。が、そんな付け焼刃が通用するほど生半可な人生を空は送っていない。 「舐めルナ、餓鬼ガ……!」 放たれた殺気。それは見ていた開拓者たちを動かすほどのものだった。 アームクロスボウから放たれた夜+月涙の一矢を、カミーユは盾で防げると判断する。 だが、遠くから『避けてー!』と叫び声が聞こえるとほぼ同時に、カミーユの胸のド真ん中に矢が突き刺さっていた……! 「ごほっ……! た、盾を……通り、抜けて……!?」 「俺に盾なんぞ、意味を為さん」 「意味を為さん、じゃなぁぁぁいっ! ほらカミーユ、符水飲んで!」 アムルタートに救護してもらい、なんとか回復したカミーユ。盾を構えつつも心臓から狙いをずらした辺りは評価できるが、そうしていなかったら危なかったかもしれない。 教訓。盾を過信しすぎてはいけない――― ●休? 次の相手はジェーン・ドゥ(ib7955)であるが、彼女からとりあえず休憩と休息をはさめと言われカミーユは大人しく従った。 「実践に於いては実力に差がある者との連戦を避け、撤退することも重要です。その一環と考えてください」 実に含蓄のある、反論の余地のないお言葉だ。それに甘え、まだプリプリ怒っているアムルタートを『わたくしが望んだことですから』となだめるカミーユであった。 ややあって休憩も終わり、二人は庭の真ん中で対峙する。 フライハルトはハルバードのような形状にするようだ。 「行きますよ」 刀を構えていたジェーンが懐から小袋を取り出す。 何事かと思っていた矢先、それを投げつけられ……咄嗟に迎撃する。 すると砂が舞い散り、カミーユに振りかかる。一瞬視界を奪われ、カミーユは何が起こったのか理解するまで少々時間がかかった。 「卑怯な!?」 「そうですね」 ふっと浮遊感を味わい、地面に横倒しになるカミーユ。ジェーンが足払いをかけたのだ。 すぐに転がって距離を取ったのは評価してもいいが、足払いでなかったら死んでいる可能性もある。 「ギンサ様、次は右腕に攻撃を仕掛けますよ」 「……!」 ギン、と甲高い音がして刀とハルバードの柄がぶつかり合う。 カミーユがガードしたのは左方向。ジェーンの予告が虚偽だと察したらしい。 「ジェーンさんはこんな卑怯な手を使う方ではありません。しかし世の中にはこういう手を使ってくる方もいる……そう教えてくださっているのでしょう? これまでの戦いで皆様から教わったこと……無駄にはしていません!」 「……ギンサ様───いえ、カミーユ。また貴方と共に肩を並べ戦える日を、楽しみにさせて頂きます」 ふっと笑い、ジェーンはカミーユから離れた。 やっと視界を回復したカミーユに、その言葉と微笑みは暖かいものだったという――― ●力 そろそろ終盤。次の相手は雪切・透夜(ib0135)。彼はこれまでの戦いを観察しスケッチしていた。 カミーユの癖や身体の動かし方、動きの無駄などを指摘するためで、それは全て終えてから別件として伝えるようだ。 彼が使うのは鉤薙斧。対してカミーユは大鎌のような形状で応戦する。 雪切は距離を取り、薙ぎ払いと振り下ろしをメインに据えていた。 しかしカミーユはそれを上手く防ぎ、攻撃に転じている。これまでの闘いの成果を急速にものにし始めている。 とはいえまだまだ雪切には遠く及ばない。カミーユの成長は素直に嬉しいが、指導に戻ることにする。 「ふっ!」 「っ!?」 体ではなく大鎌の方を狙われ、カミーユは少し焦る。武器を手放せばそこで終了というのを理解したらしい。 間髪入れず襲い来る武器狙いの突き。それをなんとか回避したカミーユ。しかし……! 「きゃあっ!?」 突きを戻す際、斧に付いたフックでカミーユのレッグアーマーを引っ掛け転ばせる。 そしてそのまま鉤薙斧を振り上げ、落とす! 「ぐっ!」 柄を構えなんとかガードするカミーユ。しかし状況は決したことを彼女も悟っていた。 「騎士は対人の攻めは不得手。だから他の職以上に如何に戦うかが問われます。戦技や道具に頼るのではなく、どう使うのか、何時も心がけていることです」 「は、はい……肝に銘じておきますわ」 どうにかしてここから逆転できないか。カミーユが必死に考えていると…… 「カミーユー、透夜ねー、好きな人いるんだってー」 『はい!?』 アムルタートが満面の笑みで放った一言に、雪切とカミーユが同時に振り向く。 カミーユは大鎌の柄を弄り鎖で繋がれた2つの棒に分解、雪切の首後ろで交差させ強引に引き寄せる! 「ど、どどどどなたですか!? わたくしのお知り合いですか!?」 「い、いや、カミーユさん落ち着いて……!」 「わたくし、負けませんからっ!」 「趣旨が違いますって!?」 火事場の馬鹿力(?)を経験したカミーユ。彼女が落ち着くまで、少し時間がかかったという――― ●終 トリを飾るのは鴉乃宮 千理(ib9782)。彼は錫杖を手に距離を取る。 カミーユは左手トンファー、右手片手剣という構成。 「イメージに捕われちゃいかぬよ」 突然銃を取り出し発砲する。確かに錫杖で戦うとは言っていないが。 カミーユはそれをトンファーで弾き、一気に距離を詰めようとする。 が、足元を狙った短銃の攻撃で思うように近づけない。そうこうしているうちに、カミーユに謎の液体がぶっかけられた。 「これは……お酒?」 「ヴォトカじゃよ。酒は好きかね?」 「まだ未成年ですので……!」 逃げ回りつつ、カミーユに当たろうが当たるまいが酒をぶちまけていく鴉乃宮。 足元への銃撃というのは、軌道が読みやすい分避けやすいが確実に回避しないと致命傷になる。よってどうしても進行が鈍ってしまう。 やがて周囲に酒の匂いが充満しきった所で、鴉乃宮はぽつりと言った。 「此処で炎を放ったらどうなるだろうねぇ」 ぎょっとするカミーユ。気づけば自分の服も髪も酒びたしで、心なしかくらくらする。 周囲の地面も酒だらけ。もしそんなことをされればどうなるか……想像に難くない。 「戦場そのものを武器に変える……ま、こんな戦い方もあるってことじゃのぅ」 「う……こ、降参です……」 仮に鴉乃宮に火を扱う技がなくとも、こういう状況に追い込まれた時点でカミーユの負けだ。素直に負けを認めるのが正しい。 結果、0勝8敗……分かってはいたが全敗である。 悔しさと経験をバネに……カミーユはまた少しずつ成長していくのであった――― |