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■オープニング本文 天儀の中心都市たる神楽の都。 様々な人が行き交うこの都に、開拓者ギルドは存在する。 はてさて、今日はどんな依頼が舞い込むやら――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 石鏡の極一部の地域で出現するアヤカシを倒した時のみ落とすことがあると言われており、好事家たちの間で注目されている逸品だ。 その一部の地域とは、三位湖の真東辺りに位置する『集星(イントネーションはしゅ↑うせい)』と呼ばれる地域であり、星の一欠片を求めてアヤカシ狩りをする者も増えてきたとか。 「さて……今回はテーブル山座に関する依頼よ」 「テーブル山……メンサですね。またずいぶんマイナーな」 八十八星座全て存在すると言われる星の一欠片だが、まだまだ全て出揃ってはいない。 星座と関係のありそうなアヤカシを倒さなければならないのが主な原因で、例えばペガサス座のメダルが欲しいけどペガサスのようなアヤカシがいない……といった事態が多いのだ。 そういう意味で、アヤカシが発生するかどうかの時点で運の要素が絡んでくると言えよう。 「集星って地図で見ると基本平原じゃない? そこに突然山が出現したのよ」 「はいぃ? まさか、山のように大きいアヤカシですか?」 「いいえ。山そのものよ」 呆れたようにため息を吐くギルド職員、西沢 一葉。後輩職員の鷲尾 亜理紗も引き気味である。 山そのものというだけあり、そのアヤカシは移動しない。また、攻撃なども一切行ってこない。 ただ、現れた場所が街道の真上であり、それを完全に塞いでしまっているのが問題だ。迂回するにも距離も時間も取られ、物流に支障が出始めている。 仮に害がなかろうが、そんな巨大なアヤカシは放置しておけない。いつ動き出すように変貌するかもわからないからだ。 「今回の依頼は至って単純。山のアヤカシに登って、破壊の限りを尽くしてもらうわ。専門家によれば、生えてる木や草花なんかもアヤカシの一部らしいから、それらを攻撃するだけでもダメージは入るみたいだし」 「え、でも待ってください。山なんですよね? それに見合った耐久力っていうことですよね……?」 「多分ね。ダメージが致死量を超えたら瘴気に還ると思うから、あまり登りすぎると倒した後に困るかも」 「いや、そういう問題でなくて……」 これまた専門家の話だが、このアヤカシは人間の『こんなのどうすればいいんだ』というような諦めや絶望感を吸収し瘴気に還元するのではないかとのこと。諦めずに攻撃し続けることが重要だという。 テーブル山座のメダルを得るため以前に、街道の保護のため是非なんとかしていただきたい――― |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
カルフ(ib9316)
23歳・女・魔
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
鴉乃宮 千理(ib9782)
21歳・女・武
葛城・凪(ic0544)
24歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●day1 テーブル山のメダルを持つと思われる山のアヤカシ。大きく聳えるそれを倒すため、開拓者たちはその麓にやってきていた。 龍の背に乗り、上空から見るとよく分かる。平原の中に不自然極まりない配置で存在するその山は、明らかに異常だった。 「おおお……でっけえええええ!!」 「これ……全部アヤカシですか。もはや何でもアリですね」 ルオウ(ia2445)とカルフ(ib9316)のリアクションはテンションこそ違うが根本は同じ。勿論、口にしないだけで他の面々も考えていることはほぼ同じである。 一行は地上に降りると、先に到着していた喜屋武(ia2651)と合流した。 彼は山地開発を生業とする氏族出身らしく、まずは山アヤカシの麓に拠点となる小屋を建てていたのだ。 三年計画とまでは言わないまでも、一日では終わるまいと考えたからである。 「待っていたぞ。準備は万端だ」 「やったー、野宿じゃなくて済むー! ありがとねっ♪」 喜屋武の出迎えに、リィムナ・ピサレット(ib5201)は喜び勇んで小屋の中に駆け込んでいった。 長丁場になるだろうから休憩場所は必須である。このアヤカシを倒した後も何がしかに使えるかもしれない。 「山、山相手かー……アホか! とりあえず暴れるだけでいい、いい修練になる、はず」 「こんな山のアヤカシなんてある訳がありません。という事はこれは夢。そう……つまり、お姉様の結婚も夢だったんだよ!」 「な、なんだってー!? って言わすな! アホがここにもいたか……」 「はっはっは、楽しそうじゃのう。遊んでおると置いていくぞ?」 「基本的には単独行動しても構わないだろう。別箇所から皆の思い通りの攻撃を加えて行った方が効率も上がるかもしれん」 「ちょ!? 私をこいつと一緒にするなぁっ!」 「この山がアヤカシなら、いくら攻撃しても大丈夫……つまり、分るな?」 「分からんわボケぇぇぇっ!」 各務 英流(ib6372)にツッコんだが運の尽き。哀れ何 静花(ib9584)は可哀想な子扱いされ、鴉乃宮 千理(ib9782)には生暖かい目で見られ葛城・凪(ic0544)からはあからさまに目をそらされた。 何の主張を聞き入れるものはおらず、一行はずんずん山の中へと入っていったのだった。 さて、山中に踏み入った時点で全員が違和を感じていた。 見た目は普通の山と何も変わりないのだが、ここには命の鼓動が感じられないのだ。 虫もおらず、動物もおらず、木々の呼吸も土の匂いもない。かろうじて風に揺れる木の葉もどきがざわつく音だけがそれっぽいが、どうにも偽物感が拭えない。 不意に足元が開き、大きな口に飲み込まれるのではないか……そんな気さえするのだ。 「ふんっ! ……む、どうにも手応えが悪いな」 喜屋武は巨大な戦斧で木々を叩き切りながら頂上への道を切り拓いていく。 いくら喜屋武ほどの男であっても、普通の木は何度も斧を打ち付ける必要がある。しかしこの山の木々は全てアヤカシの一部であり、瘴気である。スパンと両断され瘴気に還ってしまうので、少々拍子抜けしてしまう。 「お姉様ッ! 男なんかと結婚しても! 良い事なんてないのに!」 なので、細腕の各務でも枝を伐採するかのごとく幹を両断できる。発言はともかく全員が戦力になるだろう。 「ツッコんでやらんのか?」 「私はあいつの相方とかじゃないから!」 ガリガリと音を立て、大薙刀を引きずって歩く鴉乃宮。その言葉に対し、何もツッコまずにはいられない。 ちなみに鴉乃宮はだるいからこうしているのではなく、これも立派な攻撃の一部である。 地面もアヤカシの一部。ならば刃を立てて引けばそれはもう斬撃の一種なのだ。 やがて一行は頂上へと辿り着く。 標高は500mほどだろうか? 周りが平原だけあって遠くまでよく見渡せる。 「俺はこの山を制覇したぞおおおお!!」 「そうだ! これこそが山だ! 頂上から見る景色と位置エネルギー……素晴らしいな!」 ルオウと喜屋武が意気投合し、ガッチリと握手して雄叫びを上げる。 確かに素晴らしいのだが生憎とこれはアヤカシであり、倒すべき対象。どれだけ時間がかかるのかわからないので、一行はそれぞれ分担して攻略に乗り出す。 「まったく、何故徒歩で登らなければならなかったんですか……」 「何故、上るのか。それは目の前に山があるからだぜっ!!」 「非論理的です!」 カルフは朋友の龍に乗り、火炎を吐かせつつ自らも魔術で範囲攻撃を行なっていく。 対象物が増えれば増えるほどダメージが倍々算になっていくので極めて強力な火力となっている。 ぼやいたカルフにルオウは満面の笑みで答えつつ一番高い木にから飛び降りその木を真っ二つにした。 あとはもう止まらない。斧で木々をなぎ倒し、朋友の龍には業火炎を吐かせ山を焼いていく。 「裸山にしてやんぜええええ!!」 その言葉はあながち誇張ではないように聞こえたという。 豪快に攻撃を繰り返す者がいる一方、頭を使って対処法を考える者もいるようだ。 喜屋武とリィムナは、川辺にやってきて風車と水車を設置する。 どちらも水(と言ってもここではアヤカシの体液のようなものだろうが)や風の力を使い、オートで地面を攻撃し続けることができる仕掛けといったところか。水車小屋の中で臼が雑穀を挽いたり突いたりするのと同じ原理である。 これならば一発一発のダメージが少なくともいつかは必ずこのテーブル山アヤカシは死ぬ名案である。しかしそれまで待てないから開拓者たちは汗を流しているのだった。 「ヴェローチェ、あんたは木をばんばん切りなさい♪」 「リィムにゃんはからくり使いが荒いにゃあ……」 「そんなことよりこの石臼を見てくれ。こいつをどう思う?」 「すごく……大きいにゃん」 「こらー! ヴェローチェに何言わせてんの!」 「いや、ただ単に感想を聞いただけなんだが……」 からくりに手伝わせるリィムナに対し、あくまで自らの肉体で勝負する喜屋武。 縄、丸太、岩を使い巨大な石臼のようなものを作成、それを回すことによって地面を削りダメージを与えるという寸法だ。 山地開発を生業にしていた氏族というのは伊達ではないらしい。その豪腕に知恵と経験が合わされば鬼に金棒である。 さて、分担して活動している他の面々はどうだろうか? 葛城は頂上から山を下りつつ手当たり次第に攻撃を仕掛けていた。 木を斬り、花を斬り、岩を撃つ。普通の山ではやらない、というよりやってはいけない破壊活動を今はやらなければいけないのが皮肉な感じである。 「夢幻……あれはあれで疲れそうだな」 朋友の龍には龍蹴りとクロウで頂上付近を攻撃させている。龍なら突然山が瘴気に戻っても大丈夫だからだろう。 しかし、彼が山の麓に到着しても山に変化はなかった。自分だけならいざしらず、歴戦の開拓者が8人、しかも朋友まで連れて破壊行動を行なっているのに山が崩れる気配がないのだ。彼が少々不安な気持ちになるのも無理からぬ事だろう。 と、近くでドォンと重厚な音が響く。そちらに行ってみると、何が拳で岩壁を殴りつけているところだった。 「流石にお守りは出ないかー」 「グガァ……(出るかよ……)」 「星風、じたばただ!」 「グワア!?(えっ!?)」 どうやら朋友の龍と一緒に行動しているようだが、本当に会話できているかは傍目からは分からない。 「私は炭鉱婦、私は炭鉱婦……掘ってー掘ってーまた掘ってー。神おま待ちじゃオラァ!!」 「グココココ……(壊れた……)」 「ところで星風、このサイズが瘴気に還ると前後不覚になりそうだよな」 「グオオ!(急に不安を煽るな!)」 「……お前ら、それで本当に意思疎通できているのか?」 冗談をやっているようにしか見えなかったので、葛城が声をかける。 仕事はしていたようで、岸壁が不自然な形にえぐれている。 「まぁノリでだいたい分かる。こんなのもあるでよ。グレネード!」 焙烙玉を取り出し、木々の間に放り込む。 纏めて木々が瘴気に還るが、本体はまだまだ健在そうである。 「いやはや参った。そう都合よく核などは見つからんもんじゃなぁ」 そこに鴉乃宮も合流する。どうやら彼女も大薙刀で木を伐採しまくっていたらしいが、そろそろ休憩にするようだ。 「飴など如何か?」 「いや、遠慮しとく」 「そうか。あっちのあやつのような無理はするなよ」 言いつつ、鴉乃宮はくいっと自分がやってきた方向を指差す。 耳を澄ますと木霊で『男なんて酷い事をするに決まってます! えろ絵巻みたいに! えろ絵巻みたいに!』と、魂の叫びが響いていた。 「…………そっとしておいてやろう……」 何の疲れたような言葉に、葛城も鴉の宮もただただ頷いたのであった。 日が傾きはじめたので一行は下山し、喜屋武が建てた小屋へと帰還する。結局一日かけて活動したのに倒しきれなかったようである。 幸い、まだ時間はある。今日はゆっくり休んで明日にかけよう。 ……と。 「フッ…テーブル山座、メンサの平山(仮名)よ。あたしのフルートの音色はお前の魂に直接響くのだ!」 突如リィムナがビシっと山を指差しフルートを構える。どうやら最後に派手なのをぶちかますつもりらしい。 彼女が放つ魂よ原初に還れという曲はかなりの威力を誇り、しかも消費が少ない。 これを練力が尽きるまで連発すればいかな山そのものといえど削りきれるはず……そう考えたのだろう。 「食らえ! 鏖殺の交響曲……ジェノサイドシンフォニー!」 強力な火力となる曲が流れ続ける……のだが、この曲は決して外傷を与えないので効いているのか分かりづらい。 リアクションどころか表情すらないこのアヤカシにはなお不透明で、見た目にはリィムナが一人でフルートを吹いているようにしか見えない。実際は中級アヤカシを何度も殺せるような攻撃なのだが。 どれだけ時間が経っただろうか。日はすっかり沈み、辺りが夜の闇に包まれてなお篝火に照らされ演奏を続けたリィムナは……ついに膝をついた。 練力が空っぽになってしまったと自分で理解できる。しかしこれをやられ続けてなお健在のテーブル山の耐久力がまるで理解できなかった。 「どこのレイドボスよ……」 諦めてはいけない。自棄になってはいけない。それがこのアヤカシが瘴気を増やす手段なのだから。 演奏が止んだのを感じて仲間たちが小屋から出てきて労ってくれる。まだ肌寒い春の夜、温かいスープが悔しい心に涙がでるくらい嬉しかったという――― ●day4 すでに木は伐採されつくし、禿山と化してしまったテーブル山。 4日目に入り、そろそろ滞在期限。いい加減開拓者たちもうんざりといった表情を隠せない。 防御がゼロであっても耐久力が百万あったとしたらほぼ無意味。そんな計算が脳裏をよぎる。 ルオウ、喜屋武による斧での伐採祭り。 カルフ、リィムナによる術攻撃。 何の鉄拳に鴉乃宮の大薙刀、葛城の刀。 そして各務のしっとぱわー。どれも一日あればどれだけのアヤカシを滅することができるか想像がつかない。総計ダメージは余裕で五桁を越えただろう。 火力は勿論だが、持久力を問われるマラソン型アヤカシ。絶対に流行ってほしくない形式だった。 「今日も龍に乗れる人は頂上付近で行きましょうか。流石にそろそろ倒せるはず、そうなれば登った状態は危険ですからね」 カルフの音頭に従い、小屋を出た8人は今日も諦めずに破壊活動である。 初日に作った水力と風力で動くオート攻撃装置もまだ健在、攻撃を続行中。 そして――― 「いいかげん、消えなさいよ!」 もう何回目になるか、数えるのも馬鹿馬鹿しくなったリィムナの魂よ原初に還れ。半ば意地とプライドでこれに集中することに決めたらしい。 その時は不意に訪れた。何の前触れもなく、広大な山が一瞬にして紫がかった瘴気に変化し地面に溶けた。 それはまるで瘴気の旋風、いや嵐か。あれだけの密度、あれだけの耐久力を誇っていたのだから当然と言えば当然。開拓者たちは朋友の龍に助けてもらい、墜落は避けられたようである。 ふと気づくと、元通りになった街道に黄金のメダルが一枚、ぽつんと落ちていた。 テーブル山座、メンサの星の一欠片。これで出なかったら詐欺だレベルだったので一安心といったところ。 できればもう相手したくない……アヤカシ相手だというのに、大自然の脅威を思い知らされた開拓者たちであった――― |