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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 石鏡の極一部の地域で出現するアヤカシを倒した時のみ落とすことがあると言われており、好事家たちの間で注目されている逸品だ。 その一部の地域とは、三位湖の真東辺りに位置する『集星(イントネーションはしゅ↑うせい)』と呼ばれる地域であり、星の一欠片を求めてアヤカシ狩りをする者も増えてきたとか。 「んー……」 「どうしたの亜理紗、星の一欠片眺めて」 ある日の開拓者ギルド。 職員の鷲尾 亜理紗と西沢 一葉は、今日も今日とてお仕事中である。 仕事中なのだが、亜理紗は星の一欠片を表裏と眺めていた。 「いえ、どうしてアヤカシがメダルを落とすのかなって。しかも集星で出現するアヤカシに限ってですもんね」 「しかもこれ、何の金属かわからないみたいよ。瘴気でもないし……なんなのかしらね」 黄金に輝くメダル。開拓者のお陰で比較的数が出回っているのは山猫座、リンクスのメダルだが、それでも二十枚もない。 不思議と人を引き付けるこのメダルが恐らく88種……何か意味があるのだろうか? 「困るのは、星の一欠片をもつ星座アヤカシは特殊なのが多いってことよね。今回のも大変そうよ」 「何々……トライアングラムとトライアングラム・アウストレイル!?」 「……三角座と南の三角座って言いなさいよ」 「えへ。だってだってー、この方がカッコイイじゃないですか」 「気持ちはわかるけども……」 今回出現した星座アヤカシは、三角座と南の三角座。これまたマイナーな星座である。 集星の平原に出現したこのアヤカシは対で行動しており、見た目はペラペラの白い板のようである。 三角形の板が二枚、空中を飛び回り通りがかったものを襲う。捕食こそしないが、回転して斬り裂いたり魔術を行使するなど見た目に反しかなり攻撃的だという。 「厄介なのは、攻撃役と防御役に分かれてること。一方が技が多彩な攻撃担当、もう片方が防御壁なんかを展開できる防御担当で、見た目ではどちらがどの役か判断できないみたいね」 「奇襲が得意で役割分担も万全ですか……嫌なタイプですねぇ」 「今回は前の二回と違って強いアヤカシよ。準備や作戦はしっかりしてもらいましょう」 まだまだ秘密を秘めていそうな星の一欠片。その輝きは何も語らない。 星座の秘密を解き明かすのは、皆さん一人一人の力です――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
水月(ia2566)
10歳・女・吟
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
イデア・シュウ(ib9551)
20歳・女・騎
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
イグニート(ic0539)
20歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●トライアングラー? 石鏡に存在する巨大な湖、三位湖。その真東にある地域を集星という。 最近は文字通り星が集まるかのごとく星座を思わせるアヤカシが多数発生しており、その確率は通常のアヤカシをはるかに凌駕する。 この集星にのみ発生している現象は何なのか。そして星の一欠片とは何なのか。未だ謎に包まれたままである。 「……ん。反応ありなの。ここから前の方に、念の範囲ギリギリのところ……」 水月(ia2566)は瘴索結界「念」を展開、奇襲が得意という三角座たちを先に察知する。 彼女は幼いながら格闘戦もこなすが、こういう後方支援もできる器用な存在だ。 「88枚のメダル……そういえば聞いたことがあります。全てのメダルを集めると龍が出てきて願いを叶えてくれるという伝説を。オラすげえワクワクして来たぞ!」 「ねーよ。というか88枚全部集めるのがどれだけ大変だと思ってるんだ。大体な、こういうのは無駄な内輪もめをして肝心な時に数を減らしてるもんなんだ。今も昔もな」 分かるような分からないような会話をしているのは各務 英流(ib6372)と何 静花(ib9584)。深くは追求すまい。 「とにかく、奇襲を避けられるのは大きいです。後は我々が受け止めるのみですね」 「ガハハハハハ、未来の大英雄であるこの俺に任せておけばいい。綺麗なおねーちゃんを守るのは男の使命なのだ!」 「……綺麗、ね……今の自分にとって、どれ程意味があるのやら……」 「あり、はずしたか? 素直な感想なんだがなぁ」 前衛を努め、作戦の橋頭堡を築く役目を担うイデア・シュウ(ib9551)とイグニート(ic0539)。 どうも意思疎通が上手く行っているとは言い難いが、彼らの頑張りが重要なのは言うまでもない。 「また星座の描かれたメダルを落とすアヤカシですか、何か意味があるのでしょうか」 「さァな。高く売れるっつーんなら俺にゃそれで充分なんだが」 「なになに、亜理紗さんにお土産でも買っていくの? このこの、甲斐性あるじゃん!」 「マセガキ。でもまァ、悪かないがな……って……何やら……スゲェ殺気を感じるんだが」 緋乃宮 白月(ib9855)の呟きに鷲尾天斗(ia0371)は興味無さ気だったが、神座亜紀(ib6736)との会話で背中に針を突き刺すような視線を感じ取る。 神座は何が何やらだが、鷲尾には振り向かずとも分かる。背後に血涙を流さんばかりの女がいることを。 「ああ神よ! 視線で人を倒せれたら!」 気付いた者気付かない者。どちらも等しく各務をスルーし、作戦は始まったのであった――― ●ツインドライブ! トライアングラムとアウストレイル(ややこしいのでこう区別する)がこちらを察知したのは、30m程まで近づいた時だった。最初は草に伏せたままでその姿は見えなかったが、水月によって場所は特定されている。 獲物の動きが妙だと感じ取ったのだろう。奇襲が奇襲足り得ないと判断し、宙にふわりと白い三角形板が浮かび上がった。 どちらも綺麗な正三角形で、上下も同じ。この際どちらがトライアングラムでどちらがアウストレイルかはどうでもいいが、攻撃防御の担当は見極めなければなるまい。 「ホーリーサークル完了! 頑張ってね!」 神座に補助魔法をもらったイデアとイグニートが前面に立ち、じりじりと近づいていく……かに見えたが。 「雑魚め! さっさと死ねーっ!」 「何を……!」 敵を発見し即座に躍りかかるイグニート。慎重も何もあったものではない。 イデアは一瞬眉をひそめたが、すでに口火は切られた。説教は後にしよう。 イグニートの接近に、トライアングラムたちは急速回転し同時に突撃を開始。空気を裂くキュイィィンという音は、まるで金属でできているのではと思わせるほど。 「イグニート・スラーッシュ!! ぎゃーーーっ!?」 片方は長巻をぶつけて弾いたが、もう片方はどうにもならない。ハーフプレートに大きな傷を作りながらふっ飛ばされた。 弾かれた方も空中で再び回転、再び二体でイグニートに襲いかかる! 「まったく、無茶をするからです!」 「ホーリーサークルかけ直すから一度下がって!」 割って入ったイデアが盾で片方をブロック、イグニートが長巻でもう一方を迎撃。今度はなんとか事無きを得る。 補助魔法を使うために行ったり来たりする神座が危なっかしいが、幸いにもトライアングラムたちはイデアとイグニートしか狙っていないようだ。 「ふはははは。ご苦労、あとはこの俺に任せておけ!」 「……怒りますよ」 めげないのは褒めるべきかもしれないが、実力以上の行動を取ろうとするイグニートに対しイデアは苛立ちを募らせる。 しかしイライラしている余裕もあまりない。二体のアヤカシは空中で同時にファイヤーボールを放つ! 「おいこれどっちも攻撃役じゃないだろうな!?」 「いざとなれば水月様が回復してくれます。耐えてください」 「えー。俺、15以下の女は守備範囲外なんだけど」 「…………怒りますよ」 魔術攻撃に耐えながら敵が近づいてくるのを待つ二人。 威力はほぼ同等で区別に適さない。ならばなおさら例の作戦でいくしかない……! やはり回転斬りの方が効率がいいと判断したのか、トライアングラムたちが高速回転して突っ込んでくる……! 「片方なんとかすりゃいいんだろーが!」 「遺憾ながら合わせます」 左右から突っ込んでくるアヤカシ。左の三角を無視し、イグニートが右のアヤカシに武器を叩きつける。当然、イグニートは背中を決して軽くないレベルで斬り裂かれた。そして弾かれ動きが一瞬止まったところにイデアがバッシュブレイクを使用、地面に叩きつける! 「お待ちしてました。任せてください」 このチャンスを見逃さず、瞬脚で一気に近づいた緋乃宮。その手にあるのは……インク壺! 羽ペンとセットになっているこれが二つばかり。惜しげも無くぶち撒けられ、純白だった三角形の板に大きな黒い色が付着する。 「裏も」 高速回転してその場を離脱する板の裏側にもインクをぶち撒け、これで完全に区別が付く。これでイデア、イグニート、緋乃宮に課せられた重要なミッションはコンプリートだ。 「ここからは普通に戦います」 「よし、こっからは総力戦だぜ。お前らは下がって回復してもらいなァ」 「私のお姉様を……妬ましい憎らしい絶対に許さない」 「……怖ェよ」 「お気遣いなく。心の暗黒面を力に変える魔法の言葉です。武技言語です」 「は、そりゃいいや。山の時みたいな勢いで大体のことは任せた(キリッ)」 傷を負ったイデアとイグニートを下がらせ、緋乃宮、鷲尾、各務、何が前面に出る。 水月と神座は後方支援と怪我人の治療である。 抜群のコンビネーションで、空中を交差するように機動するトライアングラムたち。見ていると、クロスすると思わせて重なった瞬間に軌道変更しお互いのルートを入れ替え、偽装していたことが判明。目印を付けた甲斐があったというものである。 そして……! 「あの動き……ペイントされてるほうが防御役だね!」 「……ん」 神座の言葉にこくりと頷く水月。区別をつけ、後方から見ているとよく分かる。白いほうが攻撃を受けそうになると、後退する白に合わせて黒も移動。射撃から白を守るように盾になっている。 「ヘェ、流石防御専門。堅いねェ」 緋乃宮が追い込み、鷲尾がついに手にしたシャムシールで直接白を叩くその瞬間。またしても黒が飛び込み、紫色の薄いバリアのような膜を発生させてその攻撃を防ぐ。 そして再び二体は開拓者たちの周りを凄まじいスピードで回り続ける……! 「一体でも二体でもトライアングルアタックか! おい、無敵のしっとパワーでなんとかしてくださいよォーーー!」 「やれやれですわ」 「ボクも手伝うよ! フローズ!」 何の要請で、ついに各務が動きを見せた。 何が白に攻撃を試みると当然のように黒が割って入る。それを見越し神座が自動命中の氷魔術で援護。さらにバリアが解除される前から各務が黒にしがみつこうと組み付いた! これまでの行動パターンで、バリアを張っている間は回転していることが少ないことが分かっている。確実に回転しないわけではないが、無闇にしがみつこうとするよりは余程上策。 今更であるが、トライアングラムとアウストレイルは一片の長さが三十センチほど。しっかりと抱きかかえられるとそこからの回転は難しい……! 「この距離ならシールドは張れま―――」 「アロゴン!」 「げぶふぁっ!?」 黒を抱き構えたままニヤリと笑った各務を、何は黒の上から爆砕拳で殴りつけた。 その衝撃で体ごとふっ飛ばされた各務。それでも黒を離さない辺りは褒めてあげたい。 「ちょ、何をなさいますの!?」 「え、オラごとやつを討て! って言うんじゃなかったのか」 「お姉様ならまだしも、何故あなたに命を捧げるような真似をしなければならないのですか!」 黒を抱きかかえたまま何と言い争いをする各務。正直、そのままでいてくれるほうが助かる! 「いくら速くても、瞬脚の方が速いです」 どさくさ紛れに緋乃宮が白に接近、側面から蹴り飛ばして鷲尾の方へ送る。 勿論、白もやらせまじと空中で軌道を変えようとするが、飛んでくるのをただ待っているほど鷲尾は戦闘経験が浅くなかった。 「奇襲強襲騙し討ち大いに結構。けどなァ、俺はそれに乗ってやる程お人よしじゃねェンだなァ。愛妻が待ってるしなァ!」 『喝ッ!』 「なんで静花まで反応すンだコラァ!」 何と各務から放たれた殺気とともに白いままの三角形を両断する鷲尾。 空中で瘴気と化したその後には、パサリと草むらに落ちる黄金のメダル……! 「よーし英流、そのままそいつ離すなよ。お前まで斬ったりゃしねェから安心しろって」 「お断りします。あなたにトドメを任せるくらいなら他の方にお願いします」 「……まァ好きにすりゃいいけどよ」 やれやれと肩をすくめる鷲尾。各務にはほとほと嫌われているようだった。当然だが。 「では水月さん、お願いします」 「……今日は、後方支援仕様だから……ちょっと無理なの……」 「では神座さん」 「んー、ボクもちょっと火力不足かなぁ」 「ガハハ、ここはこのイグニート様が―――」 「ではイデアさん、お願い致します。不埒な男のせいで募ったイライラをぶつけてやるといいですわ!」 「なんでだ!?」 「……いえその……改めてそう言われるとやりにくいものですね」 イライラしていたのは確かだが、目の前で『八つ当たりして、どうぞ』などと言われてしまうと毒が抜けてしまうものである。 それでも。回復してくれた水月ににこりと微笑んで……イデアは、黒く汚れた三角形に流し斬りを叩き込んだのだった――― ●新たな謎? さて、無事にトライアングラムとアウストレイルを撃破した開拓者たち。帰路につく彼らの手には、二枚のメダルが握られていた。 そう、両方とも星の一欠片を落としたのである。これで裏面の星図を見ればどちらがどちらか判定できる。 だが重要なのはそこではない。『二枚とも出た』というのが問題なのだ。 先のテーブル山座もそうだったが、一発で出るのは奇跡的な確率である。それは山猫座の時を思い出せば明らかだ。 研究者の間では、強いアヤカシであるほど落としやすいのではないかという意見もあるがまだまだ眉唾もの。もし、星の一欠片を引き寄せる何かが開拓者にもあるのだとしたら……そう唱える研究者も現れたほどである。 何はともあれ今は喜ぼう。この世に新たに生まれ落ちた、二つの三角座に輝きがあらんことを――― |