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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 石鏡の極一部の地域で出現するアヤカシを倒した時のみ落とすことがあると言われており、好事家たちの間で注目されている逸品だ。 その一部の地域とは、三位湖の真東辺りに位置する『集星(イントネーションはしゅ↑うせい)』と呼ばれる地域であり、星の一欠片を求めてアヤカシ狩りをする者も増えてきたとか。 しかし、どうも一筋縄ではいかないアヤカシばかり。それなりの実力を求められることもある。 「さて、今日も星の一欠片に関する依頼よ」 「今回のアヤカシは何座ですか?」 「ぎょうざ」 「…………」 「……分かったわよ、悪かったわよ! 謝るわよ!」 ある日の開拓者ギルド。 職員の西沢 一葉と鷲尾 亜理紗は、最近星の一欠片に関する依頼ばかり回される。 元々石鏡の依頼を担当することが多かったが、珍妙なアヤカシが出る依頼はこの二人に回せばOK的な風潮があるようだ。 テンプレのボケをかまし、不発に終わった空気に耐えかね一葉は思わず謝罪する。 「気を取り直して……今日の星座は海豚座、デルフィヌスよ。ドルフィンじゃないんで注意ね」 「88星座って、読み方とかが特殊なのもありますよねぇ」 「そうね。髪の毛座がコーマって聞いて、なんで? って思った記憶があるわ」 「で、今回のアヤカシは水辺での戦いですか?」 「ううん。多分森の中」 「……はいぃ?」 そのアヤカシは愛らしいイルカのような頭と顔をしている。しかし喋るとよく通るイケメンボイスで、体はムキムキのマッチョ。しかも人間と同じような体型で、身長は190cmほどだという。性格は気さくを通り越したウザいさわやか系という徹底ぶりである。 「……キモッ!」 「でしょ? 付いたあだ名がキモイルカ。猟師さんが獲物を探して森に入ったらそのアヤカシに出くわしたみたいでね……『やぁ、君は人間だね。ボクはお腹が空いているんだけれど……負の感情をくれないかな』なんてサムズアップ付きで言ってきたみたい」 「キモッ! え、なんですかそれ。喋るアヤカシっていうのはセブンアームズとかゴッド・ラゴン系で慣れっこですけど、そんな気持ちの悪いの聞いたこと無いんですけど!?」 「どうやらその『キモッ!』っていう不快感を瘴気に還元するらしくってね……要は出くわすだけでほぼ確実に役目を果たし、長引けば長引くほどその量が増してくってわけ」 戦闘力は未知数だが、その特性上速攻撃破が望まれる。 星座に感情があるならば、何故こんなヤツが自分のメダル持ってんのと嘆くのではないだろうか――― |
■参加者一覧
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
クラウス・サヴィオラ(ib0261)
21歳・男・騎
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟
来須(ib8912)
14歳・男・弓
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
エメラダ・エーティア(ic0162)
16歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●キモさは〜〜〜強さ〜〜〜! 『キモッ!?』 「………っ!?」 標的のイルカ座アヤカシを目視した開拓者は、ほぼ満場一致で同時に背筋に悪寒を走らせた。 細々とした反応はそれぞれだが、エメラダ・エーティア(ic0162)のように声にならない悲鳴を上げる者も出る始末。それほど実物は衝撃的だったのだ。 愛らしいつぶらな瞳のイルカの頭部。そこから下は丸太ほどもありそうな首が続き、発達した大胸筋やくっきり割れた腹筋、それらを大地に支える太い足。 そのアンバランスさたるや遠目からでも充分な破壊力を持っており、人間と同じような体つきなのに体色が青いこともなんだか微妙に気味が悪い。 「……なかなか見栄えの良い筋肉だ。が、あれは瘴気がそうあるものとして作り出したまやかしの筋肉。修練により鍛え上げられた本物の筋肉ではない」 喜屋武(ia2651)の肉体こそ修練により鍛え上げられた本物の筋肉の鎧。瘴気が集まりましてハイ筋肉などという現象を認められるわけがなかった。 一方…… 「うっひゃー! マジで超カッコカワイイぜ!」 「うわあ〜! マジでキモイねあのイルカ! あんなイルカいるんだあ」 たった一人だけ、大真面目に目を輝かせる人物が一人。ナキ=シャラーラ(ib7034)である。 アムルタート(ib6632)もケタケタ笑っている辺り大丈夫そうに見えるが、キモいという感性は持っている。ナキのようにプラスに感じているわけではない……と思われる。 どういう感性をしているのかはわからないが、ナキにはアレが好感触に映るらしい。もしかしたら彼女だけで挑めれば話は速いのかもしれないが、返り討ちにあっても困るので団体行動継続である。 「何だコイツ……あんなイルカどう考えたっておかしいとしか思えねえだろ。狩りだって聞いて来たのにな……」 「キモイと思ったら感情をエサにされるんだろ? となると、さっさと倒してしまった方が良さそうだ。速攻でケリをつける狩りだってあるさ」 来須(ib8912)にしろクラウス・サヴィオラ(ib0261)にしろ、開拓者たちは『速攻で撃破すべし』という作戦を予め決めてきている。それはあのアヤカシの習性も勿論あるが、長いこと凝視していたらこっちの精神がやられそうという考えが現場で確信に変わったからでもある。 「喋るイルカ、聞いた事がある……!」 「何ー!? 知っているのか!?」 「そりゃ苗字呼んだのか例のリアクションなのかどっちなんだ。まぁいい……奴等のギャグはイルカ界隈ではバカウケらしいが他種族には全く伝わらないらしいっ……!」 「うけけめけ?」 「めけらもら」 「へもげ!」 「めけけー!」 「ん、全然……わからない……です……」 突然始まった何 静花(ib9584)と各務 英流(ib6372)の漫才(?)に、エメラダは疑問符を浮かべるばかり。まぁ、おかげで大分気が紛れたようではあるが。 相手が予想以上にキモかったので、こんな馬鹿でもやって空気を変えないとガンガン負の感情を瘴気に還元されてしまいそうな気がする。ある意味グッジョブだ。 というか、何故この二人はセットのように扱われてしまっているのだろうか。 「そろそろ行こーよ。速攻でぶっ倒すんだよ〜♪」 「速攻撃破な、分かったぜ! んじゃあたしがまず奴に接触して油断させるから。その間にどつき回すなりしてくれ」 『いや、それはいらない』 「何でなんだぜ!?」 くるくる踊りながら言うアムルタートの音頭でケリをつけに行こうとした一行だったが、ナキの発言を全員一致・即効一秒で否定した。 何故か? 簡単だ。『油断させている間見ていなくてはいけないからそんなの御免被る』である。 問答無用でぶん殴っておいたほうが精神的にも瘴気を還元させない意味でもよろしい。 ナキはリアルに泣く泣く方針に従い、一行は駆け出したのだった――― ●以外! それは強敵ッ! 「転ばして鳴かす! そんでもって真直ぐ行ってぶっ飛ばす、右ストレートでぶっとばーす!!」 「チィッ! まやかしの筋肉ながらやってくれる……!」 何の空気撃を意外な俊敏さで打ち払い、喜屋武が隼襲で走りこんだ斧の一撃を白刃取りで受け止め、ババッと一気に離脱。 「こいつ……やるな!」 「ん、キモい……キモい……キモい……」 来須が矢を、エメラダがホーリーアローを撃ちこむも、キモイルカは矢を手刀で叩き落としホーリーアローを耐える。 「速攻ソッコウ♪ くたばれ〜!」 「お姉様が私の元へ戻ってくるまでッ! キミを殴るのをッ! 止めないッ!」 続けて鞭を振るうアムルタートと接近し素早いラッシュを繰り出す各務の攻撃を的確に捌き、反撃する。 各務は一発目で弾き飛ばされてしまい、アムルタートは飛来する鞭を掴まれてしまった。このままでは引き寄せられ強烈な一撃をもらってしまう……! しかしその時……! 「少しは力に自信があるようだな。だが、この盾は通らないぜ?」 割って入ったクラウスが盾でガード、その隙にアムルタートは掴まれた鞭を振りほどき距離を取る。 キモイルカもまた距離を取り、拳をぷらぷら振って笑った。 「君たちやるなぁ! こんな強敵と出会ったのは初めてだよ。お互い、良い戦いをしよう!」 「おー! イルカの兄貴、あんた性格もイケメンだぜ!」 ウインク+サムズアップ+歯光らせというコンボがこうもおぞましく見える存在も珍しい。しかも声がカッコイイものだからなおのことムカつく。 ナキだけは大喜びだが、他のメンバーはげっそりとした感覚に襲われる。それこそがこのアヤカシの存在理由であり、食事の方法と知ってはいるがどうにも回避できない。 このアヤカシは人を喰う必要がない。というより、喰わないほうが都合がいい。 喰ってしまって終了よりも、同じ相手と長く戦い瘴気の還元量を増やすほうが合理的。 だから無理に殺しにかからない。自分が生き延びることを優先する傾向があり、そのマッチョな肉体からは想像できないが技>速>力といった能力バランスだった。 このままではまずい。長引けばヤツは7人分の嫌悪感を吸収し続け、瘴気に還元し自らも強化されていく。 「ただでさえ高い生存能力を強化されてもかなわん。攻め続けるしかない」 「多少の無理は承知でいくか。少々時間はかかるが、精霊の力でも借りないとキモさに飲み込まれちまいそうだからな―――騎士の誓約、行くぜ」 喜屋武が構えたのに呼応し、クラウスが騎士の誓約を発動。その研ぎ澄まされた瞳を見て、キモイルカは腰を落として構えを取った。 「これはボクもうかうかしていられないね。どっちが勝っても恨みっこなしさ!」 「イケメンボイスかなんだか知らないが、その体とは不協和音だ。さっさと消えてくれ……!」 「ん、決めて……ください……です」 「こいつを避けられるか?」 エメラダと来須が再びホーリーアローと弓矢で攻撃を仕掛ける。 また打ち払われるのではと思ったが、その矢は先ほどとまでは速度が違う! 瞬速の矢という技で放たれた矢たちは、ホーリーアローを追い抜いてキモイルカに直撃する! 「つっ……! まだまだぁッ! この程度でボクは負けないッ!」 どこのヒロイックファンタジーの主人公だと心の中でツッコミを入れつつ、アムルタート、各務、何が接近! 「今度はどうだぁっ! ラファガアーテファだよー!」 「天儀のみんな……私に妬み嫉み恨み辛み、恋敵を呪ってやる力をちょっとずつ分けてくれ!」 「惚気は死ね! アポロン!」 「わーん、なんか混ざってたくないんだよー!?」 アムルタートの鞭を援護代わりにし、各務と何がキモイルカの胴に拳を叩きこむ。 スキルを使っている何はともかく、各務の腕力では大したダメージにならないはずなのだが何故かキモイルカにはダメージが通っている! 「悲しいけど兄貴はアヤカシなんだよね。せめてあたしの手で……! このヴァイブレードナイフ、略してヴァイブでケリをつけるぜっ!」 「ヴァイブ言うな!」 「なんだクラウス。ヴァイブレードナイフ見るの初めてか? 力抜けよ」 「それは向こうに言え!」 多分悪意はないナキは、クラウスに怒鳴られながらもナイフを手にキモイルカに突っ込み……見事にカウンターの蹴りでふっ飛ばされた。 可哀想だがそれでもいい。本命の攻撃に繋げられるならば……! 「ぬぅぅぅんッ!」 攻撃の隙を突き、喜屋武は再び隼襲を発動、一気に近づいて斧を振り下ろす! 「ぐあっ……! な、なんてパワーだ!? これが、本物の……!」 「そう! 筋肉の脈動だッ!」 するとキモイルカは慌てていたのか今度は受け止めきれず、胸部に大きな傷を付ける。 傷口から瘴気を吹き出しながらも、喜屋武を殴り倒すため迎撃態勢を取るが……! 「読み違えたな」 がしりと喜屋武がキモイルカの両腕を掴んで離さない。純粋なパワー勝負なら喜屋武は負けない……! 「くっ、何故だい!? さっきまでより力が入らない……!?」 「決まっているだろう?」 ざざざ、と素早くキモイルカの背後に回るクラウス。その鎮魂剣から放たれたグレイヴソードは、キモイルカの背中にバッサリと大きな傷口を開かせた! 「騎士の誓いの前には、気持ち悪いという感情など瑣末なことだからな」 「フフ……やられたよ。君たちほどの人間にやられるなら本望だ。さぁ、トドメを刺しし―――」 「ごめん……ごめんよイルカの兄貴……! あんたのダブルバイセップス……見たかったぜ……!」 地面に膝をつき、覚悟を決めたキモイルカに、ナキはリアルにむせび泣きながらヴァイブレードナイフをアヤカシの首筋に突き刺した。 「ボクの、ために……泣いてくれる、なんて……嬉しいね。アスタラ・ビスタ・ベイベー」 「イルカの兄貴ぃぃぃぃぃっ!」 号泣するナキ。サムズアップして安らかな笑顔で瘴気に還るアヤカシ。 いい場面のように見えるが、傍から見ると最後の最後までキモいやつであった――― ●輝き 「ん、星の……一欠片……綺麗な……黄金の……メダル……。本当に……キラキラで……綺麗……です」 大分負の感情を瘴気に代えられてしまったかも知れないが、気持ち悪いアヤカシを無事撃破。輝く黄金のメダル、星の一欠片を眺めてエメラダはわずかに目を輝かせた。 イルカ座の絵が表、星図が裏。本来はこんなにポロポロ落ちるほど緩い確率ではないはずなのだが。 「それにしても、一匹だけで本当に良かったな。あんなのが群れをなしてたら洒落にならん」 ごもっともである。今回は全員での連携がハマったことで勝利できたのだが、相手が二匹三匹と増えていたら被害はこんなもので済むまい。 残りまだ80種以上。なるべくしんどいアヤカシが出ないようにと願うばかりであった――― |