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■オープニング本文 天に瞬く星々の、輝き受け継ぐ黄金の印。 時は現在、場は集星。今、星座の力を持つアヤカシたちとの戦いが激化する――― 星の一欠片(スターダスト・ワン)。それは八十八星座が描かれた黄金のメダルである。 石鏡の極一部の地域で出現するアヤカシを倒した時のみ落とすことがあると言われており、好事家たちの間で注目されている逸品だ。 その一部の地域とは、三位湖の真東辺りに位置する『集星(イントネーションはしゅ↑うせい)』と呼ばれる地域であり、星の一欠片を求めてアヤカシ狩りをする者も増えてきたとか。 最近それに関する依頼が立て続いているが、本来落とすほうが珍しいはずの星の一欠片を、依頼に入った開拓者たちは全て手に入れている。これは奇跡的な数字である。 これが単なるラッキーや偶然なのか……それとも何かを示唆しているのかは謎のヴェールに包まれたまま――― 「さて、今回の星座はポンプ座……アントリアみたいですね」 「ポンプ座ね……どんなアヤカシ?」 開拓者ギルド職員、鷲尾 亜理紗と西沢 一葉。星の一欠片関連を一手に任されている二人組である。 資料を見ていた亜理紗が、アヤカシの特徴を一葉に説明する。 「外見は人型サイズ……2メートル弱のアーマーといったところみたいですね」 「珍しいタイプね。でもそれってポンプ座と関係ある……?」 「両肩というか背中のところに、可動式のミルクポットみたいなのが付いてるみたいです。そこや体のあちこちから圧縮した空気を吹き出して、飛行こそしないものの立体的な機動を得意とするらしいですよ。剣と盾も装備してます。……フルバーニ―――」 「怒られるからやめなさい!」 「てへぺろ」 「まぁポンプ座のポンプは空気ポンプらしいから、星座としては何も間違ってないか……」 世の中勘違いしている人間が多いが、『機動性』と『運動性』は全くの別物である。 機動性が高いから運動性が高いとは限らないし、その逆も然り。今回のアヤカシは運動性に重きを置いていると見ていい。 「でもさ、いくら捉えにくいって言っても自動命中系の魔術を使えばそれで終了じゃないの?」 「残念ですがそれは通用しません。命中前に圧縮した空気をぶつけて相殺されます」 「はぁ!? じゃあ接近戦しかないわけ!?」 「銃や弓矢は無効にされないそうなんですが……風のバリアを纏ってないだけマシと思っていただけると……」 「そんなのまであったらどこのダオラさんよってことになるでしょ」 前回のアンドロメダと違い、重たい背景がない分やりやすくはある。単調とも取れるが。 マイナー系に属するポンプ座のアヤカシ……その実力や如何に――― |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
各務 英流(ib6372)
20歳・女・シ
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
スチール(ic0202)
16歳・女・騎
多由羅(ic0271)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●星屑の記憶 静かな森に、ずしんずしんという鈍い足音が響く。それはアーマーにしては軽く、人や動物というには硬すぎる。 木々の間を進むモノアイのアヤカシ。剣と盾で武装したアーマーにも似た重厚な外見は、自然豊かなこの場所にはあまりに不釣り合いだった。 その時、モノアイが左方向に稼働する。どうやら敵の接近を感じ取ったらしい。 開拓者たちは木々に隠れながら様子を見つつ進んでいたが、あっさり発見されてしまった。これは別に隠密行動が下手だったなどではなく、純粋に敵の索敵力が優れていたと言うべきである。 どちらにせよ敵は真正面から挑んでくる。そして絶対命中系の術が使えない以上、こちらも真正面から迎え撃ち、打ち倒すのが上策であり王道であろう。 噂に聞く立体起動とやらがどこまでのものか。それを確かめるためにも、開拓者たちは各自得物を取り出して囲い込むようにアヤカシに近づいていく。 すると、アヤカシは剣を下げ、盾を構えて突撃を開始! ずしんずしんと、お世辞にも速いとは言えないスピードで……だが。 「油断はしない……外見に気圧されてなるものか!」 真亡・雫 (ia0432)は、突っ込んでくるアヤカシに対し刀を構える。 あまり見たことがないゴツイ外見。見る者が違えば迫力負けすることもあろう。 しかし彼は歴戦の勇士の一人。強さとは外見では測れないことを知っている。 白梅香を発動し、アヤカシが繰り出す剣を待ち構える真亡。打ち合えば、剣ごと敵を斬り裂くこともできるかもしれない。 迫り来る白刃。それに合わせ閃く一刀。それらがぶつかり合うことは……なかった。 「なっ!?」 アヤカシの背中にあるポッドがぐるんと回転したかと思うと、圧縮した空気を放出しありえないタイミングで軌道を変えた。 慣性も含めて、真亡の左側面に回りこむようにして移動、そのまま剣を振り下ろす! 体を捻って直撃だけは避けたが、わき腹あたりを斬り裂かれた。真亡は歯噛みしつつ一旦離れる。 「むぅ、あの動き(マニューバ)はもしや……」 「何ー!? 知っているのか!?」 「あの機動は、かつてアーマー技術が隆盛していた頃にアーマーを模倣したアヤカシが出現したがシノビなどの俊敏性に優れた志体持ちに翻弄され、それに対抗するため更に進化したアーマー型のアヤカシがしていたとされる物だ。私達の扱うアーマーは人が乗る為にどうしても出来ない動きと言うものが存在するが、奴等にはその縛りが無い為その動きを能動的に行ってきたという……その特徴的な動きからジルべリアではリコシェとして畏れられたと、故郷にあった胡散臭い書に図解してあった!」 『な、なんだってー!!』 「……付き合いいいなお前ら」 何 静花 (ib9584)が突然嘘か本当か分からない解説を始めたが、各務 英流 (ib6372)を筆頭に殆どのメンバーが律儀に驚いてくれる。 そんなことは関係ないとばかりに目標を切り替え攻撃を仕掛けるアヤカシ。それに対するは…… 「今度はポンプ座ですか、本当に色々な星座のアヤカシが出てきますね」 のんびりとした口調で呟く緋乃宮 白月(ib9855)。しかしそののんびりさとは裏腹に、アヤカシが振るう剣を的確に素早く回避する。 緋乃宮がすばしっこいと判断したのか、ポンプ座=アントリアは再びポッドを回転させ立体機動を開始。大きくジャンプし木を蹴りつけ、三角跳びの要領で上から襲いかかる! 「速……くはない、ですけど……」 空中で巧みに回転し攻撃を仕掛けてくるアヤカシに、ちょっと興味を惹かれたような顔をする緋乃宮。 とはいえ、攻撃を喰らうわけには行かないのでバックステップを――― 「それでは駄目じゃ!」 アヤカシの横っ腹からリンスガルト・ギーベリ(ib5184)が飛び蹴りをぶちかまし、軌道を変えさせる。 流石に身長と体重が足りなかったのか、弾き飛ばすまでは至らない。足にある噴射口でバランスを整え、アヤカシは何事もなかったかのように地面に立つ。 「そうでなくてはのう! この程度で無様に地に伏すようであれば妾が戦う価値もない!」 不敵に笑うリンスガルト。その後ろから緋乃宮は小首を傾げつつ理由を聞いた。 「どうして駄目だったの……?」 「雫の時の動きを見てたろ。あいつは空中で軌道を変えられるほどの大推力をあの背中の部分から吹き出してんだ。つまり、急加速や急ブレーキなんかも思いのまま。後ろに逃げれば加速してそのままバッサリって寸法よォ。なァ、リンスガルトちゃん」 「ちゃん言うでないわ! 気安いぞ妻帯者!」 「あー、うん、そのことはあんま言わねェでくれるか。背中が怖ェんでなァ」 代わりに解説した鷲尾天斗 (ia0371)だったが、背後から突き刺さる視線に思わず苦笑いした。 絶対に許さない、絶対にだという各務の呪詛のような呟きを受け流しながら。 「配置も終わりました。一度に攻撃しませんか?」 「ならば口火は私が切ろう。持ってきたピラムを無駄にしたくないのでな」 遠くから多由羅 (ic0271)とスチール(ic0202)が声をかけてくる。 開拓者たちはすでにアヤカシを包囲しており、一斉攻撃は理に適った行動だ。加えて相手は人間の言語を理解しないタイプであり、こうやって大きな声で作戦を伝えても何ら支障はない。 まぁ『囲まれた、攻撃されるな』くらいは本能で理解しているだろうが。 「スチール・ド・サグラモール。一番槍仕る!」 ピラムという紅い槍を投擲し、波状攻撃開始の合図とするスチール。 その挑発を受けたのかどうなのか。とにかくアヤカシは槍を盾で弾きながらスチールへと向かっていった。 対するスチールはがっしりと盾を構え、アヤカシの動きを止める作戦のようだ。 同時に他のメンバーたちもそれぞれアヤカシに向かっていっている。普通なら突破できるわけはない……! 「なっ……私を踏み台にしたぁ!?」 なんとアヤカシは直前でジャンプし、構えられたスチールの盾を踏み台として三角跳びを敢行。続けて刀を構え接近してきていたリンスガルトの切っ先を空中右移動で回避しつつ回し蹴り、その後空気噴射で木に着地→三角跳びで鷲尾の正面へ! 「やろっ……!」 魔槍砲を白梅香混じりで突き出すも、上昇→前加速で回避しつつ盾で殴りつける。 鷲尾がよろけたところで一旦地面に足をつき、次は緋乃宮の所へ! 「ちょろちょろと……! 落ちろカトンボ!」 「ここがお前の墓場となるのだ!」 何が空気撃、各務は手裏剣で攻撃するが、前者は回避され後者は進行を止めるだけのダメージにならない。 速くはない。しかし巧い。空中で見せる立体機動と流れるような戦闘運びは、美しいとさえ表現できる。 「当たらない……でも、当てられない……」 相手の動きをよく見て、変化にも対応できるよう大きく避ける緋乃宮。しかしそれでは反撃が難しい。 剣での薙ぎ払いが回避されたアヤカシは、そのまま背後から近づいてくる真亡へと目標変更。地面を蹴って剣を振りかざす! 「今度は右!? それとも上!?」 油断していたわけではないのに先ほど一撃もらってしまった真亡。同じ轍を踏むまいと今度は大きく構える。 しかしアヤカシは軌道を変える気配がない。このまま真正面から突っ込んでくる……!? 「違っ……うわっ!?」 真亡の刀がアヤカシに届く寸前、突然アヤカシの体躯が地面すれすれまで下がりスライディングタックルを行うような形になる。 足を掬われ転倒しそうになる真亡の足を引っ掴み、アヤカシはポッドの水力で起き上がりこぼしのように立ち上がってそのまま真亡を地面に叩きつけた! そしてその反動で再び宙にふわりと舞い、ポッドでブースト、多由羅の元へ! 「そ、そん……っ!」 木に登り、こちらも縦の動きをしようと考えていた多由羅だったが、登っている最中でアヤカシがショルダータックルを仕掛けてきたので避けることすら出来なかった。木とアヤカシとでサンドイッチにされ、その口からは強かに血が吐き出される。 ずん、と重苦しい音で地面に降り立つアヤカシ。ピンクのモノアイが不気味に輝いていた。 「く……まるで獲物を屠るイェーガーですね……!」 「確か猟兵とか狩人という意味じゃったな。なに、狩るのはこちらよ。勘違いするでない」 「君を相手にするには私はまだ……未熟!」 「威張って言うな! こいつ、あんな鈍重そうな図体でよく動く……! 新しいタイプとでも言うか!?」 「ふははははは、恐いよう!」 「余裕あんなお前……」 「あなたこそ」 多由羅、リンスガルトはもちろん、各務も何も戦意は衰えていない。各務のボケも何のツッコミもまだまだやれるという意思表示にすぎない。 「やれやれ……外見はともかくとして、やっぱり背中のアレ、便利そうですね」 「貴様も大概頑丈だな。一番ダメージが多いはずだが」 「だからこそ、ですよ。このまま引き下がるわけには行きません」 「なるほど。囚われた屈辱は反撃の嚆矢だからな」 「うん、他の方が襲われても困りますし、ここで退治しましょう」 「ブレイブな奴らだぜ。さァ! 首の代わりにメダル置いてけェ!」 真亡が痛みを堪えて戦う意志を示す以上、スチールもこれ以上野暮なことは言わない。 緋乃宮の言うように、ここで退治する。考えるのはそれだけでよかろう。 パチン、と鷲尾が指を鳴らすと、一同は再び攻勢に転じる。 今度は鷲尾が戦陣で指揮を執るようだ。 「こォいうのは似合わねェんだがなァ。英流、白月、同時にあの野郎に接近戦挑め! 瞬脚でだ!」 「私のは早駆ですけれどね!」 「うん、わかりました」 答えた二人の姿がふっと掻き消え、アントリアのすぐそばに出現。各務は長斧で、緋乃宮は絶破昇竜脚で攻撃する! いち早く反応したアントリアは、ポッドから前方に空気を全力噴射、後方へと飛び退く。 しかしそこにはすでにリンスガルトと真亡が待ち構えている。それを察したアントリアは空中で体勢をくるりと変え、逆に二人に向かって突っ込んでいく! 「そう何度も遅れを取るものか!」 「妾の実力、思い知れぃ!」 迫り来る敵を、真亡は今度は待たなかった。瞬風波を放ち、遠距離から迎撃を狙うが、アントリアはそれをバレルロールで回避。なおも突っ込もうとするが…… 「その盾は飾りかのう?」 逆立ち状態で屈伸していたリンスガルトは、全身のバネを使って両足蹴りを敢行する。 敵が『避ける』ことを意識しすぎて『防ぐ』ことがおろそかになっていると気づいたリンスガルト。真亡の攻撃を必ずギリギリで躱すと確信していた。 その全力を持って繰り出された蹴りは、アントリアの動き一瞬だけ空中で止める。 だが、それで充分。その僅かな隙に真亡が走りこんで刀を叩きつけ、斜め右の地面にたたきつけた! 重量が重量なのでバウンドはしない。その分空気を噴射して、地面を滑るように移動するが…… 「おっと逃がさん! でんじろう!」 よくわからない掛け声だが爆砕拳らしい。何はすでに鷲尾の指示でアントリアの移動方向に回りこんでおり、アントリアはそれに気づかなかった。 首のあたりに直撃をもらうアヤカシ。金属の軋む嫌な音が響き渡る……! 「俺にとっちゃさァ、お前等の重武装は怖くとも何ともネー訳よ。学習したかァ!」 何が離脱するとほぼ同時、鷲尾の魔槍砲から砲撃が放たれた。 このセリフは本来、白梅香でアヤカシを貫く際に言おうと思っていたものらしいが、それをなぜ今言ったのか。答えは単純にして明快だ。 アントリアは砲撃を回避する。盾を軸にブースト回転、独楽のようにして砲撃をすり抜ける。そこに…… 「防御に自信がないから、そんな小技に頼るのだ!」 立体機動を小技と言い放ち、スチールがセントクロスソードを振り下ろす。 彼女にリンスガルトほどの腕前があったのなら問題なかったはずなのだが、アントリアはその攻撃に対し緊急ブースト。前を向いたまま後ろ方向に逃げるという離れ業を見せる。 ヤツの立体機動の元がガスか何かなら、それが切れるのを待てばいい。が、無限とも言える空気を動力としているのでは持久戦も望めない。 しかし、この場で悲観に暮れる者は誰もいなかった。それどころか勝利を確信した笑みでアントリアを見つめている。 感情を持ち合わせない、理性もないタイプのアヤカシ。だから彼には一生わからない。 開拓者たちの笑み。そして、鷲尾の言葉の意味を。 「駆逐してあげます……一匹残らず!」 背後から響いた多由羅の声。それにぎょっとしている暇などはなかった。 新緑の森の中、木漏れ日に照らされたアントリア。その心臓部を、真紅の槍が貫いている。 それはスチールが投擲し戦場に突き立ったままだった魔槍、ピラム。それを多由羅が回収し、メンバー随一の腕力で投擲。堅牢な装甲を見事女子力(物理)でぶち抜いたのだった。 それはまるで矢のようであったと後に語られる。アヤカシに緋を穿つ紅蓮の弓矢――― アントリアはがくんと膝をつき、ゆっくりと瘴気に還っていく。森というフィールドは、彼にとっては立体機動を最大限活かせる場所だったのかも知れない。そこで負けたのだからもう文句を言えた義理ではなかろう。 「……ほらな。重武装なんざ怖かねェ。こっちにゃ頼りになる仲間がたーんといるんだからなァ」 「うん、何とか倒せました。それにしても、ずいぶんと厄介な動きでした……」 「まったく。あんな金属の塊が空中を自由自在に飛び回ったり回転したりするのはもう見たくないですよ」 「そうか? ふ、妾は中々楽しめたぞ。久々に手応えのある相手じゃった」 星の一欠片……望遠鏡座、アントリアのメダルを回収しリンスガルトは不敵に笑う。 またしても一発で手に入れたこのメダル。何度も相手したいわけではないが、だんだん気味が悪くなってくる。 依頼を受けた開拓者たちだけが確実に手に入れる理由。その謎は、ポンプから空気が出るようにあっさりと答えが出るものではなかった――― |