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■オープニング本文 「お! いらっしゃいっ」 赤髪の少年が、元気よく開拓者達を迎えた。 石鏡北部、小さな村の入り口。 ある依頼をひとつ片付けた開拓者達は、少し休憩しようとこの村に立ち寄った。 「うちの村の名産はさ、このあまいふかし芋なんだ!」 背中に籠をしょった少年は、抜けっ歯を見せながら思い切り笑うと、開拓者達にふかし芋をさしだした。 「なぁに、お代はいらないよ! 今日は記念日だからな!」 あはは! と景気よく笑うその少年は、白太と名乗ると「おれ、準備があるからさ!」と言ってその場を去った。 ●村長の家にて 開拓者達は、挨拶がてらに村長の家にお邪魔した。 「せっかく寄っていただいて申し訳ないが‥‥」 と、村長はかぶりを振る。 「わしらは、今日限りでこの村を捨てるんですじゃ」 白い髭をふがふがと動かしながら、村長はそう話す。 家の窓からは、荷車を引く痩せ馬が何頭も見えた。 老いた村人達がいそいそと荷物を抱え、荷車に載せていく様を見ると、どうやら本当らしい。 空に鐘の音が響いた。 「いかんっ! 鬼が現れおった。すまん、ちょっと失礼する」 そう言い残して、村長は家を飛び出した。 「出発じゃ! もう出発じゃぞ!」と、村長の叫び声が聞こえる。 それと入れ替わるように、白太が飛び込んできた。 「大変だ! 姉ちゃんが、森の小鬼達に‥‥あれ? さっきの人たち!」 馬の鳴き声が聞こえる。 御者が鞭を振るったのか。 白太が扉の外を見て怒鳴る。 「姉ちゃんが鬼にさらわれたんだ!」 その声を聞きつけた村長が戻ってきた。 「聞こえておる。じゃが、もう出発せねば‥‥」 「姉ちゃんはどうするんだよ! じいちゃん!」 白太は食ってかかった。 「なぁ、あいつら、アヤカシなんだろ? 姉ちゃんが、食われちまうじゃねえか!!」 「‥‥静かにせい」 村長は悔し涙を流していた。 「村には、もう打てる手だてはないのだ。逃げる以外には」 「ばか! おれは逃げねぇ!!」 白太は壁にかけてあったつっかえ棒を手に取ると、「逃げねえんだ!」と叫びながら、村長の家を出て行った。 「あの」 普段であれば、首を突っ込まなかったかもしれない。 ただ、心配そうに白太を見送る村長の背に、つい、開拓者の一人が声をかけた。 手伝いますよ? と。 |
■参加者一覧
時任 一真(ia1316)
41歳・男・サ
空(ia1704)
33歳・男・砂
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
一心(ia8409)
20歳・男・弓
春金(ia8595)
18歳・女・陰
周十(ia8748)
25歳・男・志
風月 秋水(ia9016)
18歳・男・泰
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●出立 「見過ごすわけにはいきませんね‥‥急いで探し出しましょう」 一心(ia8409)の言葉に、風月 秋水(ia9016)が「そうだ、な」と答えた。 「明かりをお借りできるだろうか、村長殿?」 霧咲 水奏(ia9145)の頼みに応じて、村長が松明を数本用意する。 「わしらがお手伝いできるのは、これくらいじゃ‥‥」 「ありがたい。村を離れるのは耐え難くありましょうが、せめて若き御仁の門出となるよう尽力致しましょう」 霧咲の言葉に、「宜しくお願いします」と村長は深々と頭を下げた。 「とりあえずバラけて動かれたら、二人じゃ守りきれねぇ。かたまって動いてくれよ」 周十(ia8748)と空(ia1704)の声かけに従い、村長を含めた13名は隊列を組み始める。 「コッチは任せとけばいいさ、急げばあるいは助かるかもしれねぇしなァ」 クククッ‥‥とひとりわらう、空。 このとき。 赤小鬼が率いる小鬼数匹が、空き家の中から開拓者の様子を伺っていた。 突然現れた開拓者達を警戒した赤小鬼が、安易に飛び出そうとする小鬼をひと睨みして引き止める。 結局、開拓者達が捜索班と護衛班にわかれ、南北に散ってから、鬼達は村人の一団を追い始めた。 ●空から 人魂を操れるギリギリの高さまで小鳥を飛ばし、春金(ia8595)は村の北に広がる森を見つめていた。 「鬼の居場所がわかればよいかと思っておったのじゃが、なかなか難しいのぅ‥‥」 森の木々は存外背が高く、森のおおよその大きさと川などの地形がわかったほかは、なかなか収穫は‥‥。 「む? あれは‥‥」 一瞬、森の中を駆けていく白太の姿が見えた。それほど遠いわけではない。何処かへ行こうというより、闇雲に捜しているという雰囲気。 人魂を解いて、春金はその旨を捜索班5名に伝えた。 「‥‥踏み荒らした跡があったり、身につけたものが落ちているかも。そういうのを探しながらいこうか」 という時任 一真(ia1316)の言葉に、うなずく面々。 ここからは地上戦だ。 時任とフェルル=グライフ(ia4572)が呼子笛を担当。呼子の合図を確かめ合ってから、捜索班は二つにわかれて森へと消えた。 ●護衛班 移動中、村人達はひたすら暗い表情をしていた。幼い二人を心配して、目を腫らす老婆もいる。 「ちとゆっくり行こうぜ、そんなに焦る事もねぇだろ」 たまらず、周十は話を振った。なにげない話題から徐々に修行の話になり、刀の手入れについてこだわっていることまで、話がふくらんだ。けれど会話のあともまだどことなく不安げな村人達に、周十は話の最後でこう締めくくる。 「俺らがついてんだから心配すんな。他の連中が二人とも助けて合流すっからよ 」 その力強い言葉に、ようやく安心した様子で村人達はうなずいた。 (「ああゆうのは何かしらの想いを持ってる奴が行った方が良い、かもしれん。想いだけでどうにかなるとは思わんが、俺よりは役に立つだろうよ」) 捜索班のことを思いながら、空は隊列の最後尾を行く。 「お?」 ふいに、足を止めて振り返った。うっすらと笑う。220cmの長槍『羅漢』を、がしりと構えた。 ●白太救出 時間はあるようでない。 一心、時任、春金は森の中を駆けていた。 春金の記憶を頼りに、白太を捜す。 (「白太の方は急げばいいとして‥‥気になるのは、亜佐美の方。鬼が連れ去った理由が、ね」) 時任は鬼の考えに思いをめぐらせる。 「見つけたのじゃ!」 春金が指をさす方向。白太が細い棒っきれを持って震えていた。二匹の小鬼と対峙している。二匹とも、ぎらりと光る刀を持っていた。 「腕をっ!」 一心が矢を放った。 木々の間を突き抜けて、矢は小鬼の腕に命中した。怯んだもう一匹に、春金の呪縛符がまとわりつく。 間合いをつめていた時任が放った『阿見』『泉水』の弐連撃が、小鬼を葬った。 「あ、あんたたち!」 白太が笑顔を見せる。半べそをかきながら、真っ赤な顔で。 ●亜佐美救出 (「姉を思う弟、か‥‥尊ぶべき物、だな」) 捜索弐班は、亜佐美を捜して森の奥へと進んでいた。小鬼を見つけることが、亜佐美の発見につながると踏んだ風月が、青い瞳で周囲を警戒する。同じく弐班の霧咲が、地面を注意深く見つめる。足跡はないか‥‥? 草根の折れ方は‥‥? フェルルも二人に続く。 「あら?」 フェルルが足を止めた。それは幸運と言ってよかった。木々の間を走っていく小鬼が一匹、視界に入ったのだ。 「あの鬼、何処かへ行こうとしているわね。まさか、亜佐美ちゃん?」 その小鬼は月の装飾が施された鎧を着て、歪んだ笑みを浮かべていた。 呼子笛の長い音が1回、森に響いた。 「少し遠いがこの音、時任殿か! ‥‥よし、拙者らも行こう。気取られぬよう、気をつけて‥‥」 霧咲の言葉に、風月とフェルルはうなずいた。 捜索弐班は小鬼のあとを追ってゆく。 『いざ』というときの作戦は、打ち合わせ済みだ。 やがて小さな広場に到着した。幾つもの武器、鎧が転がっている。恐らく、どこかの兵士のものだろう。兵士の姿が見えない理由は、考えるまでもない。フェルルは息をのんだ。 「あれは、まさか亜佐美ちゃん!?」 小鬼達が数匹、一箇所に群がっていた。月鎧の鬼も、それに加わる。その隙間から幼い白い腕が見えていた。 武器を手に、フェルルは鬼達の前に飛び出した。奴らの近くで笛を吹けば、鬼を刺激する恐れがあった。大丈夫、十分勝算は‥‥。 フェルルに気がついた月鎧の小鬼が、とっさに足元の少女を抱えて持ち上げた。 「――っ!!」 声にならない叫び声。赤い髪。やはり亜佐美だった。 亜佐美は足と手をばたばたさせるが、少女の力では鬼には敵わない。そばにいた小鬼が、刀を抜いて亜佐美に突きつけた。 下品な笑い声を出して、月鎧がだらだら涎をたらす。ほら、攻撃すれば殺すぞ? 「くぅっ」 フェルルはそっと、鬼達を刺激せぬよう、長巻を地面に置いた。 たいそう楽しげに笑い、暇をしている小鬼どもが思い思いの武器を手に、フェルルに近づいてきた。 「『朔月』!!」 その一瞬に起きた出来事に、小鬼達は反応できなかった。 霧咲の放った矢が、刀を突きつけていた小鬼を貫く。 さらに飛び出した風月の三節棍が、月鎧の小鬼へ弧を描き振り下ろされる。 「風月流の技、その身に刻め!」 二人とも、あらかじめ死角へまわりこんでいた。亜佐美が救出されたのを見て、フェルルが吼える。 『覚悟しなさい!』 万事目論見どおり。 もはや小鬼達に、退路はない。 しばらくして、気を失っていた亜佐美が目を覚ますと、三人が心配そうに覗き込んでいた。 「わっ」 少し驚いた亜佐美に、優しい様子でフェルルはウィンクをする。 「亜佐美ちゃん、白太くんと一緒に絶対助けるから‥‥お姉ちゃん達を信じて、ねっ」 ●追走の結末 「ギギイイィァアヒヒハハ!! さァ瘴気ヲ貪れ!」 空の平突が小鬼の鎧を貫いた。 「ったく、マジでアヤカシって奴は!!」 鍛えぬかれた周十の『兼朱』が小鬼を袈裟懸けに切り倒す。 「こっちは一仕事終えて帰ろうと思った所で、更に余計な仕事一つ増やされてんだぞ。つっても、‥‥ま、体も鈍っちまうし、しっかり護衛してやるよ!!」 数匹いたはずの小鬼達は、みるみる周十と空の二人に打ち倒されていく。 既に、赤小鬼は逃げ出していた。とてもかなわない。せめて、飛び道具でもあれば話は別だったのだが‥‥。 現実はうまくできていない。 ●合流 星が闇夜に輝く中、朽ちた砦。まだ一月の夜は冷えこみ、村人達は焚き火を囲んで二人の到着を待っている。 砦の警戒をしていた空が、ニヤリと笑った。その視線の先に、松明をかかげて走ってくる、春金、時任、一心、そして白太の姿があった。 少しほっとした表情で、周十が四人を迎える。 「まったく、突っ走ンじゃねぇよ」 砦の入り口で、村長が白太を抱きとめた。 「ヒヒッ、てめぇらは本当に運が良い、本当になァ」 空がそう肩をすくめる。 弟たちに少し遅れて、フェルル、風月、霧咲、そして亜佐美が、砦に飛び込んできた。 ●明朝、旅立ち 次の日、開拓者達は砦で村人達を見送った。痩せ馬がひく荷車を、時任は目を細めて見つめる。 (「うまくいったけど、村人達が生まれ育った村を捨てなきゃいけないことに変わりない。なんというか、無力だなぁ‥‥」) 「おい、あんたたち!」 少年の声が響いた。開拓者達が目を丸める。白太はまだ、砦の中にいたらしい。開拓者達に、あつあつのふかし芋を次々と配っている。 「少ししか持ってないから、ちょっとだけだぜ! 今回のこと、ありがとな!!」 「ちょっと! 白太、ちゃんと丁寧な言葉遣いで‥‥」 同じく、お盆に熱いお茶を乗せて、亜佐美が砦の奥から出てきた。 風月は芋をほおばりながら独り、皿を回す。 白太が跳んで喜び、大いに拍手した。深く笠を被り、風月は白太の頭を撫でる。白太の笑顔がまぶしい。 (「故郷を捨てる者の心情はわかるのじゃよ。本当なら故郷を捨てずに済む方法を探したいがの‥‥覚悟を決めたのならそれを手伝うだけじゃ」) 春金は様々なことを思いながらも、白太に微笑みかける。 「無茶ではあったが良く頑張ったの。姉様を大事にするのじゃぞ?」 春金の言葉に、「なんかもうひとり、姉ちゃんができたみたいだな」と白太は照れた。 「本当に、ありがとうございました」 お茶を配りながら、亜佐美は一人ひとりに深々と頭を下げる。 「これ! 二人とも!!」 そんな二人は、慌てて戻ってきた村長に連れられて、砦を後にしていく。 「記念日って、言ってましたし‥‥」 白太と亜佐美が、前向きに歩んでいけることを、一心は強く願うのだった。 了 |