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■オープニング本文 桜の花弁が舞う、春の空。織り交ざる青と白に、彼方 翔(iz0098)は思わず鼻歌を零した。 そんな心地よい春の日に相応しくない、荒れた声が聞こえてくる。 「どうするんだ。皆楽しみにしてるのに」 一瞬言い争いかと思ったが、どうやら違うらしい。二人の男は向き合い、そろって困惑した顔を浮かべている。 「どうしたんだ?」 突然ひょっこりと顔を出した翔に、男は思わず苛立った態度を見せた。しかし翔が浮かべた人懐こい笑顔に、毒気を抜かれてしまう。 「あー‥‥、酒が届かねぇんだと。花見にそれがないんじゃ、盛り上がりに欠けるだろ?」 「ん、そうだな」 花を愛でながら、美味しいものを食べても心が癒されるだろうが。やはり酒を酌み交わしながら騒ぐのが、大人の楽しみなのだろう。 「せっかく場所取りしてるのになぁ」 そう言って男は、下に引いていた茣蓙の上にどかりと座る。確かに絶好の花見日和を、ふいにしてしまうのは勿体無い。 「届かないって何かあったのか?」 翔が疑問をぶつけると、立っているもうひとりの男が、肩をすくめてみせる。 「アヤカシが出たんだ。隣の街にいい酒蔵があるんだけどね。その道の途中で、大きな鳥の姿をしたアヤカシが2体出たらしい」 「!」 「さっき、こっちから隣の街へ行こうとした奴が慌てて戻ってきたんだ。多分、それのせいで酒が届かないんだと思う」 ここから隣の街まではそう離れていない。男が指差す街の方角には山が見えた。どうやら山の間の谷を進んで、隣街まで行くらしい。 「厄介そうな場所だな」 小さな声で翔が呟く。相手が鳥の姿をしているのなら、上から狙われるかもしれない。まして空を飛ばれたら、人の身では痛手を食らわせるが難しくなる。 「だけど俺と駿なら、いける」 翔の瞳が、強気に染まった。駿は彼が心を許す朋友だ。共に戦うのであれば、負ける気など微塵も起きやしない。 「もうギルドに手配かなんかしたのか?」 「い、いや。本当についさっきの事だから、今から‥‥」 「じゃあそれ、俺が引き受けるよ」 簡単なお使いを引き受けたように言う翔を、男は呆然と見る。それまで黙って座っていた男が、一段低い声を出した。 「一人で行くつもりか? おめぇ、世の中そんなに甘くは‥‥」 「あ、それはない」 苦笑しながら、けろりと翔はこたえる。 経験が浅いと、無謀と勇気を混同しやすくなる。それが若い者なら尚更だった。口の悪い男の心遣いを、翔は温かく感じる。 「大丈夫、ギルドで誰か誘うよ。ありがとな!」 そのまま駆け出そうとした翔は、突然ぴたりと立ち止まって後ろを振り向いた。 「あのさ、終わったら勝利の祝杯に来ていいか?」 くいと酒を呷る真似をする翔に、男たちは苦笑する。 「駄目だよ。‥‥お酒を飲むのはね。もう少し大人になってから」 「ちゃんと無事終わればな。全員で顔出しやがれ」 大人たちの激励は辛口だった。 「ちぇーっ。絶対来てやるからなぁ!」 拗ねた振りをした翔は大声で叫んで、開拓者ギルドまで全力で駆けていった。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎 |
■リプレイ本文 少し気難しいところがある駿を、彼方 翔(iz0098)は首筋を撫ぜて宥める。駿の気が少し立っているのは、見知らぬ人がいるからだ。 「皆、協力してくれてありがとな!」 唸り声を上げそうになる駿を一発叩き、翔は目の前の開拓者達に声をかけた。 「俺はサムライのルオウ! よろしくなー」 ルオウ(ia2445)は相棒のロートケーニッヒと共に、元気良く挨拶をする。 「アヤカシ討伐した後は花見だっけ? ぜってー参加してぇな!」 「私達もお花見に参加して良いんですか?」 目を丸くしている露羽(ia5413)に向かって、翔は「そういう約束だったろ?」と頷く。こたえに露羽は顔を綻ばせた。 「嬉しいです。それでは楽しい酒の席にする為にも張り切っていきましょう」 そう言って相棒の月慧に協力を頼むと、静かにその声を聴いていた月慧も嬉しそうに目を細める。 「私、桜がとびっきり大好きです。水を差す真似をするアヤカシなんて許せません!」 意気込むフェルル=グライフ(ia4572)には、もうひとつの目的があった。 「今年が開拓者になって、初めてエインと迎える春なんです。大好きな桜を、エインと一緒に見たいなって」 フェルルが見上げると、エインヘリャルも同じ様に気合が入っている。 「そうだね。私は薔薇が好きなのだけれど、桜も趣があって良いと思うよ」 言葉の通り、アレーナ・オレアリス(ib0405)の胸に飾られた一輪の薔薇は、彼女によく似合っている。凛とした仕草で、アレーナは次の言葉を続けた。 「さて、無粋なアヤカシ君達にはさっさと退場して貰うとしようか」 「花見で酒が飲めないのも問題だからな。さっさと倒す事には賛同する」 ぶっきらぼうに言い放つ風雅 哲心(ia0135)に、犬神・彼方(ia0218)も相槌を打つ。 「哲心の言う通り、花見と洒落込む前に邪魔ぁなもんを片付けちまうか」 そこへ北條 黯羽(ia0072)が不安げに呟く。 「実は依頼で本格的に龍に乗るのは初めてなんだが‥‥、よろしく頼むぜぃ、寒月」 しかし相棒の寒月と不安を振り払うように共に気合を入れると、ふと彼方と視線が交わった。彼は仕草で応援を送っている。 「‥‥そこに旦那もいるし、無事に討伐して花見を楽しみたいさね」 黯羽の言葉に、寒月も頷いた。 「俺らも初陣や。よろしくなぁ」 同じ初陣でありながら、ジルベール(ia9952)の飄々とした態度には余裕を感じさせる。 「桜の季節は短いっちゅーのに。早いとこ討伐せんと、酒が届く前に桜が散ってしまうね」 「さ、行こか」と相棒のネイトに話しかけると、ネイトも一吼えで応じる。 「‥‥俺達も負けてられないな」 頼もしい仲間達を目の前にして、翔は同意を求めて駿の背を叩いた。 険しい谷間を、龍が縫うように飛んでいく。 「この辺やな」 アヤカシの目撃場所周辺にたどり着いたジルベールは、ネイトに呼びかけた。 「準備はええか? 俺はいつでも行けるで」 ジルベールが問うと、ネイトは一呼吸置いてから、谷間に響き渡る声で吼える。その声に触発されて、二匹の大怪鳥が姿を現した。大怪鳥の姿を確認したルオウが、ロートと共に飛び出していく。 目の前のアヤカシに怯む事無く、ルオウは雄叫びを上げた。大怪鳥の片方がぴくりと反応し、ルオウの元へと飛んでくる。ルオウのいる位置は、大怪鳥がいる所から少し離れていた。 このまま迎え打つか、背を向けもう少し距離を稼ぐか。ルオウの見せた一瞬の迷いに、アヤカシが加速する。 息をつめるルオウの前で、大怪鳥の姿がぐらりと揺らいだ。何時の間にか距離をつめていた月慧が、アヤカシの横っ腹に爪を突き立てていた。痛みに暴れるアヤカシの爪が、露羽の体をかすめる。 「!」 それを目撃していた黯羽が、まずは呼び出した式で大怪鳥の動きを束縛した。そして露羽の元へと急ぎ、傷の確認をする。 幸い傷は深くなく、露羽は治癒符を小さな式に変化させると、式はみるみると傷口を塞いでいく。 「有難う御座います」 痛みも引いてきたのか露羽が一息ついた。深くはなくてもアヤカシから受けた傷に油断は出来ない。顔色が少し良くなって来た事に安堵して、黯羽は大怪鳥の姿を目で追った。 式に束縛されている大怪鳥は、もがく様に暴れている。 「よっしゃあ! ロート、行くぜぃ!」 そこへ掛け声と共に、ルオウがロートと空高くから駆け下りてきた。ロートが勢いを乗せた一撃を食らわせた後、ルオウが剣を突き立てる。 叫び声を上げて、アヤカシは束縛を振り払い暴れだした。読めない動きをアレーナと相棒のウェントスは、軽やかに交わしながらアヤカシに近づいていく。 流れる様な動きでアヤカシの翼を傷つけていけば、目に見えて機動力が落ち、抵抗する力も弱くなっていった。隙を見逃さなかったアレーナは、美しいと称賛するほどの剣捌きでアヤカシの急所を深く切りつけた。 断末魔をあげて、大怪鳥は瘴気へと変わり、霧散していく。 ルオウがアヤカシ一体を引き付けたのを確認して、フェルルもエインと共に空へと躍り出た。残ったもう一体の大怪鳥と対峙する。 「ここに居てもらっては困るんです」 「月慧、思いっきりやってしまいましょう!」 フェルルの後を追って、露羽もアヤカシの前に姿を現す。二人は大怪鳥同士が合流するのを阻止しながら、目の前のアヤカシを翻弄していく。苛立ちを体現した動きは難なくかわす事が出来る――筈だった。 ひたすらに暴れるアヤカシの爪が、エインに引っかかる 「!」 「フェルル!」 バランスを崩すフェルルに、翔が叫んだ。何とか体勢を持ち直したフェルルに安堵の息を付いて、翔は大怪鳥に向き直す。 「行くぜ、駿!」 翔の掛け声に合わせ、駿はアヤカシに突っ込んだ。駿の爪がアヤカシを切り裂き、それに翔が続いていく。 空気撃で相手のバランスを崩そうとするものの、相手は空を飛ぶアヤカシ。バランス感覚ではこちらよりも勝っている。 駿の攻撃をかわし、反撃される。身構えていた駿は、何時まで経ってもこない攻撃に、そっと周囲を窺った。 大怪鳥が叫び声をあげる。その背には矢が刺さっていた。アヤカシの向こうには、矢を番えながらネイトに乗る、ジルベールの姿があった。 「翔さん、怪我しとらへん?」 「あ、ああ。大丈夫だ」 そんなやり取りをしている間にも、ジルベールはアヤカシへ新しい矢を放っていた。 「悪いけど桜は見納めやな、デカブツさん」 ジルベールの手を離れた矢は、アヤカシの目に吸い込まれていく。同じように、かまいたちがアヤカシの体を引き裂いた。 少し離れた所にいる彼方が、符を構えていた。反対側でもう一体のアヤカシの足止めをしている仲間の元へも護衛に入れるように、彼は中衛の距離を保っていた。 しかしアヤカシは完全に分断されていて、互いに手傷を負っている。 ここはもう一撃打ち込んでおくべきかと判断し、彼方は相棒の黒狗と共に大怪鳥に近づいて霊青打を打ち込んだ。 「お花見を楽しみにしている方々のためにも、その瘴気の翼を断ち切ります!」 苦しむアヤカシの遥か頭上に、フェルルとエインが現れる。そしてエインは、急降下を始めた。同時に長巻を構え、アヤカシを打ち払う。 参ったのか、大怪鳥は背中を向けて逃走を試みる。しかしその先には哲心が居た。アヤカシは捨て身の勢いで、哲心の相棒極光牙に襲い掛かった。 極光牙は硬質化し、その攻撃を受け止める。そしてすかさずスカルクラッシュを繰り出した。 「手前ぇらにこれ以上、この空ででかい顔はさせねぇよ。星竜の牙、その身に刻め!」 よろめくアヤカシに向かって、哲心は奥義・星竜光牙斬を放つ。その攻撃をまともに喰らった大怪鳥は、意識を手放して真っ逆さまに落ちていく。 沢山の羽を撒き散らしながら、最後にはその羽さえも瘴気に変わり、消えていった。 両方の大怪鳥が瘴気へと変わり消えたのを確認して、哲心は刀を納める。 「終わったな」 「次に生まれる事があるならば、桜を楽しむ事の出来る鳥になるといい」 そう言って、アレーナは胸に差した白い薔薇を手に取った。戦闘の最中にあって尚、美しさを保っているその花を空へ投げる。――せめてもの手向けと、願いを込めながら。 無事に酒も届き、花見は盛況を迎えていた。 そんな中で、フェルルは自分の茶店で作ってきた桜餅を、周囲へ振舞っていた。 「もしよろしければ、お花見のお供にどうぞっ」 沢山の人に手を伸ばして貰い、フェルルは笑顔を見せる。ひと段落して、フェルルは仲間の元へ足を向けた。 「犬神さんもいかがですか?」 「おお、悪ぃな。頂くよ」 そう言って、彼方は二人と二匹分の桜餅を手に取った。彼方の傍らには、酌をしている黯羽の姿があった。 「花より団子、じゃねぇけどな。んでもってぇ頼れる相棒と贅沢贅沢っとぉ」 今にも歌いだしそうな彼方に、黒狗も満足そうな声を上げる。 「黒狗もお疲れさんな。‥‥黯羽の寒月もお疲れさんだぁな? また黒狗とぉも仲良くしておくれぇな」 黒狗の隣には寒月が寄り添っていた。彼らの仲の良さに、黯羽が微笑む。‥‥仲が良いと言うか、子ども扱いされているような気もするのだが。そんな所を含めて微笑ましい光景だった。 彼方から桜餅を受け取って、黯羽は桜を見上げる。すると彼方に肩を抱き寄せられた。普段は依頼中にこんな事はしないのだが。アヤカシ討伐も終わった事だし、特別だと自分に言い聞かせる。‥‥それに触れられるのが嫌いな訳ではない。 桜が舞い散るなか、視線が交わる――。 そんな光景に背中を向けた相手に気が付いて、彼方は声をかけた。 「おーい、哲心。一緒に呑まねぇか?」 笑顔を向けてくる彼方に、哲心は複雑な心境を抱えた。この状態は犬も食わないとか言う類のものじゃないだろうか。 「‥‥いや、向こうの方で呑んでくる」 折角の誘いだが断りを入れて、二人の邪魔をしないように、哲心は広く開いた場所を探し、極光牙と座った。 「やっぱり春は花見に尽きるな。酒も美味いし、言う事なしだ」 「あの、お料理‥‥どうですか」 酒を堪能している哲心に、露羽が話しかけてきた。村の人達の所へ顔を出してきて、休む月慧の元へ行く途中だという。 露羽が視線を向けた先に、月慧の姿があった。露羽に気が付いた月慧は、彼の元に近づいてきた。 穏やかに休む月慧の傍らに座り、露羽は舞い散る桜を眺める。 「もう春なんですね。シノビの里では穏やかに花見を楽しむ機会もなかったですから‥‥。こういう時間もたまには良いですよね」 「ああ」 「花見だー!」 静かに花見を楽しんでいた二人の元に、元気な叫び声が響いてきた。少し離れた向こうで、ルオウが何かを喚いている。 哲心と露羽は顔を見合わせると、苦笑した。静かに愛でる花見も良いが、皆で騒ぐ花見も悪くはないのだろう。きっと。 「なんで俺らだけは甘酒なんだよーっ」 「俺たち、頑張ったじゃん!」 同じ顔をして文句を垂れているのは、ルオウと翔の二人組みだった。子供二人が騒ぐのを、ジルベールはへらりと笑ってかわしている。 「お疲れさんには変わりあらへんけど、酒は子供の発育を妨げるんやで。まあ、俺は大人やから美味しくお酒を頂くで」 ジルベールが酒を嗜んでいると、ネイトが顔を寄せてきた。 「ん? ネイトも呑むか?」 そう言ってジルベールは、ネイトの為に酒を酌んでやる。 「ネイトもお疲れさんや」 そんな事をやっている間に、子供たちはすっかり料理の方に夢中になっている。立ち直りの早さに、ジルベールほっとしたような、もうちょっと構いたかったような気持ちになる。 酒を呑みながら見る花の、いつもと違う美しさに二人が気が付くのは、もう少し先の事なのだろう。 ゆっくりと酒を口に含み、ジルベールは花を仰いだ。 「あー、それ俺の!」 「早いもん順だっての」 取ったの取られただのを繰り返し、ルオウと翔は取っ組み合いのように料理をつまんでいた。すっかり花のほうはそっちのけになっている。 それでもその内腹は満たされるわけで。ふとした瞬間、二人は声を出して笑いあった。ルオウと翔は、お互いが同類なのを感じ取っていた。 凄く気が合うし、その分反発もする。 「お疲れっ」 「おう!」 にっと笑ってそう言って、二人は拳同士をぶつけあった。そんな翔に、駿の尾がべしりと当たる。 「何だよ、駿。へ? 俺何もしてない? そんな事‥‥あー、えー?!」 駿に翻弄されている翔を、ルオウが声を上げて笑う。そして同じように隣で笑っているロートに声をかける。 「何時もありがとな! 助かったぜ。また一緒に空を飛ぼうな!」 ルオウの言葉に、ロートは満足そうに喉を鳴らした。 そんな様子を相棒のウェントスにのって、アレーナが空から眺めていた。折角だからと空からの桜を堪能しようと思っていたのだが。静かに酒を楽しむというのは無理があったらしい。 だがその賑やかな様子に、後で混ざって酒を呑もうかと考える。そのときは、翔に好きな女の子のタイプを聞いてみるのも楽しいかもしれない。 含み笑いをして、アレーナは儚く舞っている眼下の桜を眺めた。 桜が満開の季節は短くて、風に揺られては散りゆくけれど。その儚くも美しい姿に 人々は魅かれるのかもしれない。 花見を興じる人々を眺めながら、桜餅を配り終わったフェルルは、エインの傍で桜を眺めていた。そうして、そっとエインの首筋を撫ぜる。 「やっぱり桜は綺麗‥‥そういえば、こうやって一緒に桜を見るのは始めてだねっ」 相槌のように、ゆっくりとエインは息を吐く。エインの嬉しそうな様子に、フェルルもまた微笑む。 「また、こんな風に眺める事が出来るかな?」 弱気なフェルルの声に、エインは小さく吼えた。 「‥‥うん、そうだねっ」 きっと、何度でも。エインがそう言った様で、フェルルはとびきりの笑顔を見せた。 |