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■オープニング本文 ● 年が明けて早一週間ほど。石鏡の南西部にあるこの街では日常生活に戻り始めている空気、まだ微かに漂うお正月の空気、現在進行中の大きな戦を案じる空気など、様々な空気が混じり合って独特な雰囲気を作り出している。 そんな街の開拓者ギルドに今、あらゆる種類の空気をまとめてぶち壊すような男が現れていた。 身の丈は六尺五寸ほど、誰が見ても筋骨隆々と言う単語が真っ先に浮かぶであろう精悍な肉体は純白の六尺褌と真っ赤な毛糸のマフラーに包まれている。そして顔を覆い隠す、もふらさまを模したお面。…何処から見ても立派な変態である。 付近にいた開拓者や職員達が凍り付く。 その男はのっしのっしと擬音が聞こえてきそうな歩き方で真っ直ぐに受付を目指し…、あまりの事態に硬直している女性の受付職員の前で立ち止まると、ぺこりと頭を下げた。 「こんにちは。依頼を出したいのだが、宜しいでしょうか」 「あ、はい。こちらへどうぞ」 低くて渋い声でごく普通に切り出された職員は、はっと我に返ると男を受付の奥、衝立で区切られた区画へ案内した。 ● 男はお面を上にずらして口元を見せると、落ち着いた挙措でお茶を啜っていたが、職員が依頼の受付に必要な書類に筆と硯を用意して席に着いたところでお茶を置き、お面も外してお茶の隣に置く。 中年と言うにはまだ早いだろう、ぱっと見には三十路過ぎくらいの、厳めしいが実直そうな顔が現れる。 「我輩は楽山藻風と申す旅の者、修行中の身ゆえ、申し訳ないがこのような格好で訪れさせてもらいました」 両手を机に置いて頭を下げる。どうやらこの出で立ちは修行の一環であるらしい。 「は…はい。それでは、依頼の内容を伺いましょう」 出で立ちと言動のギャップへの驚きと、でもそんな格好をする修行って何なのと突っ込みたい気持ちを抑えて、職員は事務的に話を進める事にした。 「お願いしたいのはアヤカシ退治。我輩が遭遇したのは我輩と同じくらいの背丈の鬼の群れで、その中の一匹は侍のような大鎧を纏っていました」 「前者は普通の鬼で…、後者は鎧鬼の可能性が高いですね。出会った場所や状況を詳しくお願いします」 鬼はごく標準的な前衛型アヤカシであり、オーガとも呼ばれる。標準的と言われるだけあって特殊な能力は持たず戦闘手段も単純であるが、駆け出しの開拓者とほぼ互角の戦闘能力を持つ。 鎧鬼は侍の大鎧ごと具現化した鬼であり、場合によっては単体でも討伐依頼が出されるほどの強敵である。普通の鬼が大鎧で武装する事もあるのでそちらと見間違えの可能性もあるのだが、群れの中で一匹だけなのであれば、鎧鬼であると考えた方が良いだろう。 「場所はこの街の南に徒歩で一日足らずの山の麓。見かけたのは沢沿いの崖に走ったひびのように見える洞窟から出てくる所でした。数は大鎧を纏っている者も含めて五匹以上いたようですが、改めて数える余裕は無かったので詳しくは分かりません」 「よく…逃げられましたね」 小さな村ならあっさり全滅させる事が出来るほどの戦力である。書類に情報を記入する職員の手が微かに震えた。 「いやなに。その時はたまたま崖登りの途中でしてな。運良く鬼どもの攻撃が届かない高さにいたので必死に登って逃げ延びた次第です」 褌一丁に覆面とマフラー姿で崖をよじ登っていたのだろうか。脳裏に浮かびかけた想像図を咄嗟に振り払う。 「分かりました、すぐに依頼として開拓者の募集を開始しましょう。他に付け加える条件などはありますか?」 筆を置き、書き上がった書類の内容を確認しながら訪ねると、楽山は少しだけ考える素振りを見せてから口を開いた。 「道案内がいた方が早いでしょうから、我輩も現地まで同行しましょう。勿論、開拓者の皆さんの指示に従って行動します。それともう一つ」 「依頼人が現地までの道案内ですね、もう一つは何でしょう」 さらさらと筆を動かして条件を書き加え、職員が先を促す。 「依頼を出す為に必要と判断したので素顔を晒し、本名を名乗りましたが我輩は修行中の身。ゆえに表向き依頼人はもふら仮面であり、同行するのももふら仮面であるとして頂きたい」 すっとお面を手に取り、素早く装着して頭を下げる。 「はあ…はい。分かりました。条件に加えておきます」 出で立ちに、修行内容に、ネーミングに。色々と突っ込みたい衝動を抑え、職員は曖昧な表情で頷いた。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
クラウス・サヴィオラ(ib0261)
21歳・男・騎
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
羽紫 稚空(ib6914)
18歳・男・志
クレア・レインフィード(ib8703)
16歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 開拓者達の集合場所には、もふらさまのお面を被った人物が何故か二人いた。 一人は依頼人の楽山藻風…もとい、もふら仮面であり、もう一人はこの依頼を受けた開拓者、梢・飛鈴(ia0034)である。 開拓者の中には傾いた出で立ちで過ごす者も多いので、もふらさまのお面を被っているくらいでは―もふら仮面は今日は防寒着を身に付けている―そこまで目立つ事もない筈だが、それが二人になったせいだろうか。今は周囲に奇妙としか形容出来ない空間を作り出している。 「すげえなぁ。ダブルもふら仮面だ」 二人を見てそんな台詞を漏らしたのは不破 颯(ib0495)だった。これは頼もしいねぇと言ってヘラリと笑う。 それが嫌だったのだろうか、梢がもふら仮面から少し距離を置いていた。視線や表情を敵に見せたくないからという理由でお面を被っている彼女からすれば、よく言っても色物、悪く言えば変態にしか見えないもふら仮面の仲間扱いは御免被りたいのだろう。 (まあ同じようなお面を被っているだけダ。区別は付くから別に問題は…) 「わぁ、飛鈴久し振りー。しばらく見ない内に随分ごっつくなったね!」 そんな梢の思考を見事にぶった切ったのは天河 ふしぎ(ia1037)だった。もふら仮面に駆け寄って親しげに声を掛け、ふとこちらに歩いてくる梢に気付く。 天河があれ? と首を傾げるのと、梢が大きく手を広げるのがほぼ同時で。 「わわ、ごめん、もふらのお面を被ってるからつい飛鈴かと思っちゃって…痛っ、ちょっとこれとっても痛いよ飛鈴?」 「…」 感情の起伏には乏しい梢だが、ごつい大男と間違われたのは流石にショックだったのだろうか。無言のまま天河の顔面を鷲掴みにして、両のこめかみを割と本気で締め上げ始めた。骨の軋む音が聞こえそうな光景である。 「まあまあ、梢殿。天河殿に悪気はなかったのでしょうから、アイアンクローはやりすぎではないかと」 志体を持たない者が使うならともかく、十分な握力を持つ志体持ちが使うとかなり危険な技ですと、もふら仮面が止めに入った。 「いやあ。あんた達、面白い事をやってるねぇ」 いつの間にか側に来ていたクレア・レインフィード(ib8703)がからからと笑っていた。確かに、第三者から見ればちょっとしたコントに見えたかもしれない。 「もふら仮面です、今回は宜しくお願いします」 「もふ…。もふら、仮面ね。何だかけったいな名前だねぇ」 「格好良いじゃん、世を忍ぶ仮の姿って感じでさ」 「この場合、もふら仮面の方が正体じゃないのかい?」 クレアの感想に、羽紫 稚空(ib6914)とクラウス・サヴィオラ(ib0261)が合いの手を入れる。 「正義のヒーローって感じがして良いよなぁ」 最後に滝月 玲(ia1409)が現れ、全員が集合した時点で出発となった。 道中でもふら仮面におおよその作戦が説明され、協力要請にも了解が得られたので、もふら仮面も戦力として活動する事になる。 ● 目的地の洞窟のある山へと到着した開拓者達は、山の麓から谷底への入り口部分で罠の作成を開始していた。洞窟まではまだ少し歩かなければならないのだが、近付きすぎると罠の完成前にこちらの存在に気付かれる可能性が高くなるので、これ以上の接近は難しい為である。 超越聴覚で遠く離れた音でも聞き分けられる天河が警戒に立ち、他の六名ともふら仮面で落とし穴を掘ったり、荒縄を張り巡らせたりする。 「ところで、もふら仮面は修行中の人だと聞いたが、その仮面も修行の一環なのか?」 作業中、ギルドから貸し出されたスコップで穴を掘っていたクラウスがもふら仮面に質問を始めていた。 「そんな格好であの崖を上がったりする修行って、何処で覚えたんだい?」 沢の上流側に見える崖に目を向けたクレアも気になっていたのだろう、荒縄を括り付けた木の杭を河原に打ち込む作業の手は止めずに便乗質問する。 「我輩、正体不明の正義のヒーローなる存在に憧れていましてな。ある時、ジルベリアを舞台に覆面レスラーなる方が登場する小説に出会い、これだ! と思ったのです」 一冊の本との出会いがきっかけでした…と遠い目をして語るもふら仮面。 思い立ったが吉日とレスラーに関して詳しい情報も集めないまま修行の旅に飛び出し、小説中に登場した特訓を行ったり、必殺技の再現に取り組む毎日を送っているらしい。お面がもふらさまの物なのは深い考えがあっての事ではなく、入手が容易だったからだと言う。 「おお、それじゃ正義のヒーローらしい必殺技とかあるんだ? それ凄く見たい!」 「ひょっとして、連携技なんかもあるのか?」 突っ込み所満載のもふら仮面の事情はスルーしていた滝月だったが、必殺技の部分には興味を惹かれたのだろう。羽紫も似たような反応を示す。 「皆さんの期待に添えるかは分かりませんが、機会があれば…」 そんな会話の内におおよその穴は掘り終わり、穴に蓋となる薄い板を被せ、軽く土砂を被せてカモフラージュする作業に移って行く。 「罠の位置はちゃんと覚えておいてくれよなー。掛かると結構痛いように作ってあるし」 羽柴の注意に全員が頷くと、最後に罠の位置を再確認の上で、鬼をここまで引き付ける班と対鎧鬼の班の分担も確認する。最後の確認が終わらせて、開拓者達は洞窟への移動を開始した。 ● 「鬼達はみんなあの洞窟の中にいるみたいだね。急に慌ただしくなったから僕達に気付いたと思うよ」 超越聴覚の効果が残っていた天河の報告と同時に動き出していた開拓者達は、鬼達が現れるより先に全員が配置に付いていた。 鬼達が洞窟から出てくるなり、鬼を引き付ける班のメンバーから一斉に石が投げ付けられ…、その中に一つだけ焙烙玉が混じっている。 バン! と乾いた爆音と共に撒き散らされた破片は鬼達に大きなダメージを与えた様子はなかったが、挑発する効果を十分に発揮する。 『『『グルゥゥゥアア!』』』 鎧鬼の指示も待たずに投石していたメンバーに向かって走り始めた鬼の数は五匹。もふら仮面が確認していた数より一匹多いが、罠に嵌めれば何とか出来る範囲だろう。 鎧鬼も鬼達に続こうと武器を掲げて走り出し…、最初の一歩を踏み出した所で突然目の前に現れた人影に何かを被せられ、視界を封じられる。 「ふん、こうなったらこいつもただの的だナ」 瞬脚で鬼達と鎧鬼の間に割り込んだ梢が、手にする外套を鎧鬼の顔面に叩き付けていた。慌てながらも外套を剥ぎ取ろうと片手を顔に伸ばした隙を逃さず極神点穴を叩き込み、素早く後ろに回り込む。鎧鬼が何とか外套を剥ぎ取った時には、鬼達と入れ違うようにして走ってきた四人で取り囲む事に成功していた。 「さぁ、お前の相手は僕達だ!」 啖呵を切る天河が鎧鬼の正面に、滝月とクラウスが左右から取り囲む。鎧鬼を孤立させ、鬼達への指示を封じて連携を阻害する作戦は見事に成功していた。 ● 「うん。どうやらあの四人は上手く鎧鬼の方に向かえたようだなぁ」 走りながら後ろを振り返った不破が、鬼が五匹ともこちらを追い掛けている事を確認しながら呟いた。 鎧鬼に向かう班のメンバーは皆崖沿いの窪みに身を隠していたのだが、投石と焙烙玉で頭に血を上らせた鬼達は、彼等に気付く事無く鬼を引き付ける班を追い掛けてきている。 「これは本当に鬼ごっこみたいだな。おーにさんコチラ、なんてな!」 羽柴がロングソード「クリスタルマスター」を抜き放ち、頭上で二度、三度と回転させて見せる。日の光を浴びて輝く水晶の刃は大層美しかったが、鬼達の目には挑発としてしか映らなかっただろう。やや落ちかけていた走るペースが戻り、雄叫びを上げながら開拓者達に追いすがってくる。 「鬼達に諦められたら困るからねぇ、あたいも少し挑発しておこうかし、ら…!」 一瞬だけ振り向いたクレアが石を放り投げ、鬼の顔面に命中させていた。大きな石でもないし、勢いよく投げた訳でもないので大したダメージにはなっていない。それでも頭に血を上らせる効果は十分にあったのだろう、再び雄叫びが聞こえてくる。 「おお、素晴らしいコントロールですな」 「ただ器用なだけさね。それより、自分達で仕掛けた罠に引っ掛からないようにね」 感心するもふら仮面に軽く応える内に、罠の設置場所が見えてきていた。荒縄を飛び越え、四者四通りのルートで落とし穴の隙間を走り抜けた所で足を止め、振り返る。 鬼達も荒縄には気付き、それに引っ掛かることなく飛び越え…見事に落とし穴の蓋を踏み抜いた。 殆どが膝くらいまで、深くても大腿部くらいまでしかない落とし穴ばかりだが、勢いよく走ってきた所への落とし穴は中々の効果を発揮していた。勘良く開拓者達の走った跡をなぞるように走ろうとする鬼もいたが、不破のガドリングボウでばらまかれた矢を受けてバランスを崩し、咄嗟に身体を支えようとした突いた手から落とし穴に落ちて行く。 「いよっしゃ、そこだぁ!」 素早く月鳴刀を発動させた羽柴が、落とし穴に嵌った鬼の内の一匹を薙ぐ。先ほどの攻撃後、六節で即座に矢の再装填を済ませていた不破が同じ鬼に強射「弦月」を叩き込み、この鬼は動かなくなった。 クレアともふら仮面も、それぞれ手近な鬼を殴りつけて手傷を負わせている。 これで数の上では四対四の同数となり、連携の取れる開拓者にやや有利な形で鬼退治が展開されて行く事になる。 ● 鎧鬼を孤立させる所までは順調に進めていた対鎧鬼班だが、撃破の方にはかなり手間取っていた。鎧鬼は自身が孤立させられたのを悟るなり、崖を背負うように立って持久戦の構えを見せた為である。 ダメージを与える為ではなく、開拓者達が近付けないように手にした大太刀を振るい、多少の被弾は鎧で受ける。普通ならじり貧に陥るしかない展開だが、配下の鬼達さえ戻ってくれば逆転が出来ると踏んでの選択なのだろう。 「ち、面倒な真似ヲ…」 思うように有効打を叩き込めなくなった梢が舌打ちを漏らす。 「まさかもふら仮面達が負けるとは思わないが…、早く援護に向かわないとな」 「もふら仮面の必殺技を見逃したくはないからなぁ、そろそろ片付けないと」 仲間の勝利を疑ってはいないが、それでも出来るだけ早く援護に向かいたいクラウスと、もふら仮面の必殺技に興味津々の滝月が早期決着の段取りを考え始める。 「よし、それじゃあ僕が一番手で行くよ」 言うが早いか、天河が構えも取らず鎧鬼へ歩み始めた。 鎧鬼は無造作に歩み寄ってくる天河に一瞬だけ戸惑うような様子を見せたが、即座に気を取り直して大太刀を振るおうとした。次の瞬間。 『グァァアア!?』 大太刀を振りかぶっていた鎧鬼は天河を見失うと同時には脇から肩にかけて何かに刺されたような深傷を負って悲鳴を上げていた。傷口から勢いよく瘴気が吹き上がる。 「空賊忍法刹那影刃斬…時の間、お前には見切れなかったようだね」 夜で時を止めた隙に懐に入り込み、影で鎧の隙間を刺し貫く大技を決めた天河が静かに呟いた。 そして深傷を負ってなお、残った側の手に大太刀を持ち替えて迎撃の構えを取ろうとする鎧鬼に向かい、クラウスと滝月が走り込んでいく。 「精霊の力を借りて…」 「天呼…」 『グゥ…ガッ?』 オーラの輝く剣と真っ赤な炎に包まれた鉄扇を前に、それでも差し違える覚悟で大太刀を振るおうとする鎧鬼の後ろに突如、瞬脚で回り込んだ梢が現れた。崖を背負って油断していた隙を突き、膝の裏を蹴り飛ばして体勢を崩す。 「これで終わりダ…!」 がら空きの背中に破軍で強化された極神点穴を叩き込み、二人の前に突き飛ばす。 「今、討伐せん!」 「鳳凰拳!」 騎士の誓約で強化されたグレイヴソードと破軍で強化された天呼鳳凰拳を同時に受けた鎧鬼はそのまま倒れ伏し、完全に息絶えた。 ● 鬼を引き付ける班の側の戦いも佳境に差し掛かっていた。 羽柴が前衛の中央を担い、左右にいるクレアともふら仮面を攻撃しようとする鬼をフェイントで妨害する。回避主体で立ち回る二人と羽柴の三人で四匹の鬼と互角に渡り合い…、その隙に不破が六節を惜しまずに使用した速射で鬼の体力を削っていく。 鎧鬼を倒したメンバーの援護が駆け付けたのは、そんな勝敗の天秤が殆ど開拓者側に傾いた状況だった。 満遍なく体力を失っていた鬼達は羽柴の月鳴刀で一匹が倒れ、不破の矢を受けて一匹が倒れ、クレアのパルマ・セコでも一匹が倒れた。そして…。 「もふら仮面、今だぜ!」 「おう!」 滝月が瞬脚からスライディングを決めて最後の鬼を転倒させ、もふら仮面がすぐ側の崖を蹴って更に高くへジャンプする。自身の身長の倍近い高さからほぼ垂直に落下した彼は、綺麗なダイビング式クロスチョップで最後の鬼を撃破した。 ● 「依頼人なのに手伝わせて悪かったな。でも助かったぜ」 今度会う時はさっきの技とか、教えてくれよなとクラウスがもふら仮面に握手を求めた。彼は修行を再開する為、ここに留まるらしい。落とし穴の埋め戻しなどの雑事も引き受けるとの事。 「あたいには想像も付かない修行だねぇ…っと、結果が出たよ」 もふら仮面に関する近い将来を占っていたクレアが、最後のカードをめくって結果を読み始めた。 「うーん。…どうもあんたを探してる…男性がいるみたいだねぇ。多分家族か同じくらい近しい人で」 ぴしり、と音が聞こえてきそうな勢いでもふら仮面が硬直した。何やら心当たりがあるらしい。 「そ、それは貴重な占いをありがとうございました…。我輩、修行が終わるまでは今回のような事がない限り人里には出る事もないと思いますが、皆さんお元気で」 「ふぅん、何やら色々ありそうだけど。…道行きに幸あれ。元気でね?」 深くは追及せずに、ウィンク一つで別れを告げる。他のメンバーも、思い思いの挨拶を交わして街へ帰って行く。 アヤカシの脅威は消滅したが、この山の周辺では暫くの間、褌、マフラー、お面姿で崖を登る不審者の目撃情報が後を絶たなかったという。 |