|
■オープニング本文 喧騒の中にいる。 耳に入って来るのは、とことん品の無い言葉や全く底の抜けたようなくだらない笑い声。そんなどうしようもなく低俗な音源が、大音量で耳を槌の如くがんがん叩きまくっている。不快ではなかった。 このトプキという町は、押しては引いてを繰り返す波のように、時期によって出す音量が違う。そして今は、長い引き潮の時を超えて再び波が押し寄せてきている。 冬市が近い。 準備期間から次々と町へ流れ入って来る商人たちの音量が、この『冬の底の暖炉亭』をも満たしている。 懐かしい騒がしさ。静かなのは寂しい。周囲が賑やかであれば、それだけで抱きしめられているような温もりが得られる。一人ではないのだと。たとえそれが他人であろうとも。 温かければ、とりあえず人間は活動できるのだ。自然、仕事にも力が入る。どこからともなく聞こえてくる戯言に耳を貸す余裕も生まれてくる。そう、お前はもっと上へ行けるのだと。詰まらない思考を巡らせる余裕も出てくる。そう、ジルベリアにはもっと美味いものがあっていいはずだ、と。 麦、じゃがいも、肉、そして酒。ジルベリアのメシを説明するのに必要なのはそれだけだ。厳しい環境が透けて見えてくる。体を温めるため。体力をつけるため。酒のついでについてくるもの。それがジルベリアのメシだ。 しかし俺は知っている。メシは、人を幸福に出来るのだと。たまたま知ったその事実を体現するために、おそらく俺は、ここにいるのだろう。 突然、名案を思い付いた。本当に今日は調子がいいらしい。 「そうだ、開拓者だよおい!」 「うるせえええ黙って働けボケッ!!」 「働きながら聞けタコ。いいか、このクソ忙しさで臨時に雇った娘さんたちも完全に参って辞めていっちまった。新しく雇うしかねえがこの際だ、多少高くつくが馬鹿みてえに頑丈だっていう開拓者雇っちまえばいい」 「アホ抜かすな、どんだけ高くつくってんだ」 「だから、市までの一週間だけでいいんだよ。それだけ乗り切りゃまた娘さん方雇やいいんだ。ただでさえ客さばけてねえんだ。それをさばけるようになると思や損はしねえ。それに、開拓者ってのはあっちこっち旅してっから他所の国の美味いもんも随分知ってるはずだ」 「けっ、美味いもん美味いもんとてめえはまたそれか。俺の作ったもんは美味くねえってのかボケッ!」 「‥‥んなこた言ってねえだろうが。俺はただ」 「勝ってにしやがれ! んなことより腕動かしやがれ一週どころか今も乗り切れねえだろうが! とっとと洗いもん済ませて肉捌けボケッ!!」 「おー言われんでもこんなもんすぐさま片付けてご覧にいれるわタコがああ!!」 本当にあっという間に片付けて、俺はごった返す客たち向かって思い切り声を荒げた。 「おう聞いてくれや旦那方! 飲んだくれの旦那方のおかげでこっちはすっかり参っちまった! こうなったらもう開拓者雇うしかありゃしねえ。旦那方の周りで開拓者がいたらぜひとも声かけてくんな! よろしく頼むぜ!」 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
慄罹(ia3634)
31歳・男・志
藤吉 湊(ib4741)
16歳・女・弓
幻獣朗(ib5203)
20歳・男・シ
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
シーリー・コート(ib5626)
18歳・女・砲
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰 |
■リプレイ本文 騒音に近い音で賑わうトプキ。 開拓者たちは、ギルドで聞いていた道を頼りに店を目指していた。 「うっし、久々のバイト‥‥楽しみだぜ♪」 慄罹(ia3634)は活気のある街並みを見ながら声を上げる。 その声に彼の隣を歩いていた幻獣朗(ib5203)が思案気に目を上げた。 「拙者は‥‥依頼主の心構えが気に入りません」 ギルドで聞いた店主に対する依頼主の態度。それを思い出し、息を吐く。その様子に慄罹は、僅かに苦笑して頬を掻く。 そうして目を動かしたところで、他店と同様に賑わう店が目に入った。 少年が忙しなく動く店。明らかに人手が足りない店を見て、もしやと思う。 「『冬の底の暖炉亭』‥‥あの店のようですね」 Kyrie(ib5916)はそう言って、店内の様子に目を瞬いた。 「随分と忙しい職場のようですね――ですが、望むところです」 仕事に対しては誠心誠意行うつもりだ。 こと接客に関しては任せて欲しい。 やる気満々に口にするKyrieと同じく、藤吉 湊(ib4741)もやる気に袖を捲る。 「客商売、学ばせて貰うで!」 商人希望の彼女にとってここは、接客学ぶ学び舎のようなものだ。 彼女は勢い良く歩き出すと店に入った。 「じゃまするでー!」 自分達の登場をさぞ喜んでくれるだろう。そう思い店に入ったのだが、彼女を迎え入れたのは想像外の物だった。 「っと、危ない」 飛んで来た皿を受け止めた羅喉丸(ia0347)が湊の前に立つ。 「てめえは料理もまともに運べねえのか!」 「運んでんだろ、何処に目ぇつけてんだよ!」 空の皿を手に言い合う厳つい顔の親父と、小柄な少年。どうやらあの少年が依頼人のトルカらしい。 「客に当たったらどうするんだ」 羅喉丸は息を吐いて歩み寄ろうとした――が、その動きをルオウ(ia2445)が遮る。 「よお、俺はサムライのルオウ。よろしくな〜」 空気を読まない明るい声に、トルカの目が動いた。 正直場の空気は険悪そのものなのだが、ルオウは気にした様子もなく彼に歩み寄った。 「なんだよアンタら」 「大変そうだってんで手伝いに来たんだ、よろしくなっ!」 「手伝い‥‥開拓者、か?」 驚いた様子で訪れた8人を見るトルカにエラト(ib5623)が前に出る。 「吟遊詩人のエラトと申します。よろしくお願いします」 「お、おう、よろしく‥‥」 丁寧な立ち居振る舞いにモジモジ言葉を返すトルカに、エラトが首を傾げる。 それに咳払いを零すと、彼の声が上がった。 「あー‥‥じゃあ仕事の割り振りを――」 「それに関しましては事前に話し合ってあります」 エラトとは違った丁寧な動作で頭を下げたシーリー・コート(ib5626)に、トルカの尻がムズッとする。 だがシーリーは気にせず胸に手を添えると、店内を見た。 「見た所、仕事内容が侍女のソレと被るでありますので、侍女としての意識で働かせて貰いますでございます」 「そ、そうか‥‥」 元々侍女として働いていたシーリーならば接客に問題はないだろう。 そんな彼女を見ていた湊は、早速真似をして胸に手を当てている。 「けっ、やるんだったらさっさとしてくれ!」 一連の遣り取りに声を上げたのは親父さんだ。 彼はそう言って厨房に入ると、その姿を慄罹が追いかけた。 「親父さん、よろしくなっ!」 袖を捲って手を洗い始めた彼に、オヤジさんは何も言わずに店のレシピを差し出してくる。 どうやら厨房の手伝いを了承してくれるらしい。 そうして店内では接客が、厨房では料理作りが開始されたのだが、ふとルオウがトルカを見た。 「な、なんだよ」 自分に何かあるのか。 若干不機嫌に呟くトルカに、ルオウは彼の頭に手を添えて呟いた。 「なんかトルカには親近感感じるな〜、なんでだろ?」 その声に、トルカの米神が揺れる。 「知るかっ!」 彼はルオウの手を払うと、プリプリと仕事に戻って行った。 ●接客☆ 「いらっしゃいませでございます」 メイド服で渾身的に接客をするシーリー。 そんな彼女に絡む客がいた。 「こんな美人の姉ちゃんいつ雇ったんだぁ?」 酒が入っているのだろう。 真っ赤な顔でシーリーの頭から爪先まで舐めるように見る客に、彼女の眉がピクリと揺れた。 だが、ここはグッと我慢すべきだろう。 幸いと言えるかは定かではないが、彼女の昔の奉公先は、旦那様と仰ぐ者以外、人間として如何な者たちばかりだった。 故に、そうした人間の扱いには慣れているのだが―― 「へへっ、なあなあ、酌してくれよ〜」 笑って伸びてきた手に、シーリーがニコリと笑う。そしてそれにつられて男も笑うのが、その直ぐに固まった。 「業務に夜の寝仕事は含まれておりません‥‥ご注文は、なんでありますか?」 ニコリと微笑んだ冷たい笑顔。 額に突き付けられた銃口の冷たい感触に顔を引き攣らせると、男は手を下げて静かな声で注文を行った。 その遣り取りを偶然見てしまった羅喉丸が苦笑する。 「接客としては、微妙だな」 本来なら助けに入るべきだろうが、今はそんな余裕などない。 「おい、1つの料理運ぶのにどれだけ時間くってやがる! 次はこれ持ってけ!」 「了解した」 響く怒声に声を上げて、厨房に料理を取りに行く。 店の忙しさは、見た以上だ。 だが彼の顔に疲労の色はなかった。 「ふむ、少し懐かしいな」 幼い時分、厳しくも優しかった師匠の下で、戦況を見極めながら動く修行の一環として食事の用意をしていた事がある。 現状がソレに良く似ているのだ。 「何事にも通じるものはあるということか」 思わず笑みを零し、新たな皿を手に取る――と、その前をルオウが駆け抜けた。 「3番テーブル、会計したいって言ってるぜ!」 空の皿を置いた彼は、そう声を掛けて別のテーブルに走って行った。 その姿は多少危なっかしいが、テキパキとしていて気持ちが良い。 「俺も給料分はきっちりはたらかなくてはな」 そう口にしてフロアーに戻ると、新たな客と空いた席が目に入った。 「5番テーブルが開いた。そこの皿を下げてくれ!」 「おう、任せろ!」 全体を把握しながらあげられる羅喉丸の声に、ルオウやシーリー、そしてKyrieが的確に動く。 「3名様ですね、ではお席へご案内いたします」 Kyrieは空きテーブルを確認すると、軽やかな足取りで店内を進んだ。 その姿は舞い手のようで案内される客は何処となく呆気にとられているようだ。それでも嫌ではないのだろう。 普段と違う雰囲気に、表情が綻んでいる。 「ではこちらでオーダーを――‥‥おや?」 席に客が着いた時だ。 Kyrieがヒラリと後方に飛んだ。すると、その脇をルオウが凄い勢いで駆けて行く。 「おお、凄い!」 「本当、まるで踊ってるみたい!」 華麗にルオウを避けた彼に拍手が上がる。 それに礼を向けると、客からは感嘆の溜息が漏れ聞こえてきた。 どうやら、彼の普段のゴシックメイクではなく爽やかで清潔感の格好が好感を呼んでいるようだ。 「喜んで頂けて光栄です。では改めてオーダーをお伺い致しましょう」 そう言って微笑んだ彼に、客は黄色い声を上げて注文を口にした。 ●厨房☆ 「おーい、8番テーブルの料理はまだか〜」 フロアーから顔を覗かせたルオウに、鍋を手に慄罹が振り返った。 「――おう、かに玉一丁あがりっ!」 彼は泰国で振る舞われる料理を中心に担当しているのだが、その腕は親父さんも感心するほどだ。 手際よく皿に盛ったオムレツに似たそれをルオウが持ってゆく。 そうしてその姿を見送ると、今度は包丁を手にした。 「若いの、至急キャベツを切ってくれるか!」 「おう、了解したぜ」 オヤジさんの声に、気持ちの返事をして包丁を走らせて行く。 その姿を厨房の隅で見ていたトルカは面白くなさそうに息を吐いた。 その頬は僅かに腫れている。 「‥‥俺だって」 「俺だってなんです。そう不貞腐れるのなら初めから態度を改めるべきだったんですよ」 言って、前を通り過ぎたのは幻獣朗だ。 実は厨房に入った直後、彼とトルカはぶつかっていた。 その原因はトルカのオヤジさんに対する態度だ。 「申し訳ないけど、お前には仕事をさせない」 幻獣朗はそう言って彼から仕事を取り上げた。 当然トルカは反論したが、その声は却下された。 「お前さんのオヤジさんに対する態度が気に入らない。お店を切り盛りする苦労を知らずに半人前の小僧が偉そうな口を叩くんじゃない!」 「――‥‥っ」 声を失ったトルカが幻獣朗を睨む。 だが幻獣朗は容赦なく言い放った。 「用済みだから黙って見ていなさい」 「あ、アンタにンなこと言われる筋合い――ッ!」 ガンッと凄まじい音が響いた。 志体持ちゆえに力は抑えた。 だがトルカにはとっては凄まじい衝撃だったようで、頬を殴られた反動で床に倒れてしまった。 これに親父さんが手を出そうとしたが、それを湊が引き止めた。 「今はすることがあるやろ。客が待ってるで」 この声にこの場は一時お預けとなった。 それから既に半日。トルカはそれ以降何もさせて貰っていない。 「繁盛はええんやけど、観察する時間があらへん‥‥ん? なんや、まだ不貞腐れてるんか?」 湊はそう言うと、トルカの前にお椀を差し出した。 ほんわか湯気の上るそれは初めて見る料理だ。 「『牛すじと根野菜の煮込み』や。美味いで?」 ニコリと笑う彼女を見て、トルカの目が逸らされる。 だが彼女は気にせずに一口分を彼の前に差し出した。 「ええか。この料理は牛すじと大根、人参、じゃがいもを塩胡椒で煮込むだけなんや」 簡単やろ? 言って無理矢理口に突っ込む。それにトルカの目が瞬かれた。 「‥‥美味い」 「せやろ♪ 牛すじのプリプリ感と、とろみかかったスープの香ばしさが絶品やねん。大根にも味がよう染み込むし、人参はアクセントになるんよ」 得意気に胸を張った見せる彼女に、トルカの目が落ちた。 そしてもう一口食べて、改めてオヤジさんを見る。 汗水流して働き、檄を飛ばすその姿にトルカの眉間に皺が寄った。 「なあ、トルカは人使いが荒いって言うが、この位どうって事ないぜっ」 「え?」 「以前行ってた所なんて朝から晩まできりきり舞いだったしな」 ニッと笑って野菜を届けに行く慄罹にトルカは目を瞬いた。 よく見れば、彼の仕事はオヤジさんのそれに似て完璧に近い。 料理に対する姿勢や手際等、見習うべき点が多いのだ。 それは彼だけではない。 「エラトさん、これも頼みます!」 幻獣朗はそう言うと使える皿とそうでない皿を分けてゆく。 その先ではエラトが丁寧に、それでも早く皿を洗う姿がある。 彼女は周囲の状況を自身でも確認し、手の足りない所にさりげない助けを出している。 「お水が足りなくなっていますので汲んできます。お皿はこちらのを使ってください」 彼女はそう言うと、空の桶を持って外に出て行った。 どんな雑用でも心を籠めて行う姿は共感が持てる。 「‥‥俺は‥‥」 トルカは開拓者とオヤジさんの仕事を見つめると、静かに拳を握り締めた。 ●開発☆ 開拓者たちは、昼間は店の切り盛り、夜は新メニューの開発に尽力した。 そしてその姿は、トルカに変化をもたらしているようだった。 「皮は小麦粉と熱湯を混ぜて練るだけなんだぜ」 慄罹はそう言って、肉まんとワンタンの作り方を教えてゆく。 「この時期はやっぱり肉まんに限るよなっ」 そう言って渡してくれた肉まんは、温かくて季節感にあっている。 特にジルべリアは寒い。そんな中で出されれば誰でも顔が綻んでしまうだろう。 「肉まんやワンタンは具を変えればオリジナルのものが作れるぜ」 頑張れ。そう言って頭を撫でてくれた彼の優しさに、トルカは素直に頷いた。 そこにエラトが別の料理を提案する。 「私は天儀で作ったアレンジ料理を提案します」 材料は天儀から彼女が持ち込んだ。 目の前に置かれたのは、前日に漬けておいたお肉だ。 「天儀式シャリシク。これはお肉を細かく切って、ネギ、生姜と山椒、塩や酢などで味付けした天儀酒に漬けた物です」 言って、肉を串に刺すと網の上に置いて焼き始めた。 「おう、良い匂いじゃねえか」 「お1つ如何ですか?」 香ばしく焼かれた肉を差し出すと、オヤジさんは美味しそうにそれを口にし、トルカも同じく口にしたのだが、その目が驚きに見開かれる。 「味が染みててうめえ」 「当然だろ。料理ってのは、本来手間を惜しんじゃいけねえ。嬢ちゃんたちは良くわかってるぜ」 「‥‥手間を」 オヤジさんはそう言って、他の開拓者の料理にも興味を示した。 「私はジャガイモを揚げたものと、パンにハンバーグを挟んだ、ハンバーガーであります」 「うお、これうめえ!」 シーリーの料理を食べて誰よりも先に声を上げたのはルオウだ。 この料理、彼くらいの世代に人気が出そうだ。 それにKyrieのデザートも中々なもので、好評だった。 「これは私のお気に入り、バクラヴァと言うスイーツです。実は家で作ってきまして――」 言って彼が差し出したのは、胡桃やナッツなどを砕いてシナモンと一緒に挟み、幾重にも重ねた焼き菓子だ。 それ自体はそう甘くない。 だがその上に重ねられたシロップが甘かった。 「甘い、でも美味しいであります♪」 「はい、女性には人気が出るかもしれませんね」 シーリーとエラトの声に、Kyrieは満足そうに微笑む。 「砂糖と蜂蜜、それにレモン汁を少々混ぜた濃厚なシロップです。強烈な甘さですが、疲れなど吹っ飛びますよ」 そう言った彼に、女性陣は「確かに」と頷きを返したのだった。 ●トルカ 「おっと、何処に行くんだ?」 依頼終了最終日。 皆が寝静まった頃、トルカは寝床を抜け出した。 それを見つけたのは羅喉丸だ。 「ちょっと、厨房に‥‥」 「そうか」 「あ、あのさ‥‥ありがとうな」 不意に呟かれた声に、羅喉丸の目が瞬かれる。 そして彼はフッと笑みを零すと彼の頭をクシャリと撫でた。 「礼を言うのはこちらの方だ。良い修行になった」 言って、頭を軽く叩き離れてゆく姿に、トルカは改めて頭を下げた。 そして厨房に入ったのだが、彼の目が直ぐに見開かれた。 「あんた、何で‥‥」 彼が目にしたのは箒を手に掃除をしている幻獣朗の姿だ。 「何でも何も‥‥厨房は常に綺麗でなければいけません」 溜息交じりに呟き、彼の目がトルカに向かう。 「少しは、オヤジさんの気持ちがわかりましたか?」 彼はこの1週間、オヤジさんの姿を見てきた。 その上で感じ入るものがあったはず。 「‥‥子に逞しく育って欲しいと願う親心‥‥少しは、通じていると良いのですけど」 そう呟き、幻獣朗は掃除を再開した。 トルカも加わるのだが、咎められる事はなかった。 翌日、開拓者たちは何事も無かったかのように店を後にしたのだが、後日彼らの元にトルカから手紙が届いた。 書かれていたのは新メニューの案と、オヤジさんと少しは打ち解けたと喜ぶ彼の言葉だった。 (代筆 :朝臣 あむ) |