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■オープニング本文 「ボクのともだちを、さがしてほしいの!」 そう叫びながらギルドに入ってきた影に、受付係の女性は目を丸くした。 どう見ても、年齢は十は数えていないだろう、幼い少年。ところどころツギの当たった、清潔だがボロボロの衣服は、彼があまり裕福ではない農民の子であることをうかがわせた。 「ねぇ、ここはボクたちを、たすけてくれるところなんでしょ? ボクのともだちを、さがしてほしいの!」 まだたどたどしい言葉で、少年は真剣な表情で語る。 友達を探してほしい、とは穏やかじゃない。とりあえず話を聞いてみよう、というわけで受付係は口を開いた。 「話を聞くから、落ち着いて。まず、あなたのお名前を聞かせて?」 「ボクは、風太」 「では、風太くん。あなたの友だちが、いなくなっちゃったの?」 受付係の言葉に、風太と名乗った少年はこくん、と大きくうなずいた。 「ボクのともだちが、村の近くの森に入っていっちゃったきり、もどってこないの! ねぇ、ともだちをさがして!」 少年の言葉に、受付係は眉をひそめた。 深い森は、人間のものではない。獣と、アヤカシの領域だ。幼い子供がひとりで迷い込んで、無事でいられる可能性は少ないかもしれない。 「わかったわ。落ち着いて、そのお友達の特徴を、教えてくれる?」 「ともだちは、毛深くて、いつも舌を出してはぁはぁ言ってて、たまにボクにとびついて、ボクの顔をぺろぺろなめるんだ」 「・・・・ちょっと、その、変わったともだちね・・・・」 何だかすごい光景を想像して、受付係の表情が青ざめる。風太の顔はあくまでも真剣だ。 「ねぇ、おねえさん、おねがいだから、ともだちをさがしてほしいの! ボクには他にともだちがいなくって、あの子にもボクの他にはともだちがいないんだ。ボクの大事な大事なともだちなの。だから! おねがい、ポチをさがして!」 真剣そのもので、今にも泣き出してしまいそうな風太の様子に、受付係の女性は、思わずうなずいてしまったのだった。 |
■参加者一覧
周太郎(ia2935)
23歳・男・陰
由里(ia5688)
17歳・女・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志
クォル・T(ia8800)
25歳・男・シ
ジェシュファ・ロッズ(ia9087)
11歳・男・魔
鷹碕 渉(ia9100)
14歳・男・サ
ミント・F・S(ia9200)
27歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● 「まかせて! ポチくんを絶対に見つけてあげる。どんなことがあってもわたし達が付いてるから、大丈夫だよ!」 不安そうな風太に力強い言葉を掛けたのはミント・F・S(ia9200)だ。彼女の笑顔いっぱいの様子に、風太は思わずうなずく。 「困っている老人子供は依頼があれば放って置かない、ソレが解消屋! ディスペアーズ、焔&・・・・」 突然大きな声で名乗りを上げはじめた天ヶ瀬 焔騎(ia8250)が、そこまで言って隣の周太郎(ia2935)に目配せをする。 「周、だ」 苦笑しながら、周太郎が言葉を継いだ。 「友を思うその気持ち、必ず届けさせてみせる」 そういってニッと笑った焔騎に、風太はきょとんとした表情だ。 「ところで風太くん、ポチのことについて詳しく教えて欲しいんだけど〜」 ジェシュファ・ロッズ(ia9087)がおっとりした口調でたずねる。その言葉でいなくなった友だちのことを思い出したからか、風太の表情が崩れた。目にいっぱい涙を溜めて、今にも泣き出しそうだ。 「泣かないで・・・・風太くんの大切な友達、絶対に森から捜しだしてポチと一緒に帰ろうね!」 由里(ia5688)があわててそう言って、風太をなだめる。 「焦る気持ちは判る。が、冷静さを欠いてはできる事もできなくなる。さあ、これを飲んで落ち着くといい」 そう言ってからす(ia6525)が風太に冷茶を差し出した。 お茶を飲んで深呼吸した風太は、ぐっと涙をこらえて説明しはじめる。 「ともだちは、毛深くて、いつも舌を出してはぁはぁ言ってて、たまにボクにとびついて、ボクの顔をぺろぺろなめるんだ・・・・」 ギルドでした説明を繰り返す風太。 「うーん、それってやっぱこう、犬みたいな形のもんじゃ?」 周太郎が呟く。 「犬なら問題ないけれど、『犬っぽいアヤカシかケモノ』の可能性もあると思います。その事も考慮に入れておく必要がありますね〜」 ジェシュがそう指摘する。 「森に入る前にポチ君の好きそうなものを風太君に用意してもらったほうがいいかな?」 そう言ったのはクォル・T(ia8800)だ。すると風太は懐から小さな布製の人形のようなものをとりだす。 「これ、いつもポチはこれであそんでた」 「おお、用意がいいな。うん、探すにはきっと使えるだろう」 うなずいて、周太郎がそれを受け取る。 「それから、ポチの似顔絵を描いてもらいたいんだけど・・・・」 由里がそう言ったものの、あいにくと筆記用具がなく、これは断念。そもそも風太にそれが描けるかどうか判らないけれど。 「・・・・で、風太はどうするか、だが」 静かな声で呟いたのはそれまで沈黙を保っていた鷹碕 渉(ia9100)だ。 「ボクもいっしょに、行くよ!」 決意に満ちた瞳で、風太が宣言する。 「ボクがいかないと、ポチのこと、分からないでしょ?」 しっかりと言う風太に、渉は仕方ない、と言うように頭を振った。 「・・・・・・・・全力で護るが、万が一という事もある。それなりの覚悟をして貰おう」 素っ気ない口調でそう言いながらも、心の中で守り抜く決意を固める。 「付いてくるなら言う事ちゃんと聞いて、離れんようにするんだぞ」 周太郎の言葉に、風太がしっかりとうなずいた。 「ポチ君を探す隊、出発だよー」 クォルの明るい掛け声と共に、一行は歩き出した。 ● 昼間でも薄暗い森の中。風太が不安にならないように話しかけるミントの声が響く。 「大人がついてても、入っちゃいけません! って言われてるところに初めて入るのって、ドキドキするよね」 そんなふうに声を掛けると、風太は大丈夫、と言うように首を振ってみせた。でもそのちっちゃな手は、ミントの服の裾をぎゅっと握りしめている。 「わたしも、一人で森に入るときは、怖かったんだ」 「お姉ちゃんも?」 「うん。ちゃんと帰ってこれたけど、誰にも言わずに森に入ったから、後でお姉ちゃんたちに散々怒られたなぁ」 懐かしそうに目を細めて呟く。ミントが自分の幼い頃の事を話したせいか、風太は彼女に親近感を覚えたようだ。心なしかさっきより落ち着いた表情をしている。 二人のすぐ隣では、周太郎がその様子を気にしながら、あたりにも気を配っている。前方では渉も、素っ気ない態度ながらちらちらと風太に注意を向け、彼が歩きやすいように枝を払って道を作ったりしている。 そうして風太を気にかけながらも、開拓者たちはポチを探しはじめていた。 「ダメで元々、やれることはやっておいた方がいいしね」 そんな事を呟きながら、クォルがポチのものと思われるような足跡はないか、地面をくまなくにらみつけている。由里はシノビの経験を活かし、みんなよりも少し先行して探索を進めている。からすは、いざという時に連絡を取れるように呼子笛を握りしめながら、風太から預かった人形をふってポチの名を呼ぶ。 「ケモノをおびき寄せる、と言ったら、やっぱり食べ物だよね〜」 そう言ってジェシュは、どこから持ってきたのか、小さな肉の欠片を地面にまいて、ポチが近づくのを待つ。 「何か、来たようだな」 呟いたのは、からすだ。 「ポチ!」 風太が叫び、走り出そうとする。 「待って、風太くん!」 ミントが、彼を抱き止める。 「来たのは、ポチだけじゃないみたいだな・・・・」 焔騎が呟く。ポチと思われる、真っ白な毛並みの犬に続いて現れたのは、真っ黒な毛を持つ犬に似た、しかしずっと獰猛な顔つきの生き物。どうやらポチを獲物として追いかけていたらしい。 「狼・・・・というか、それにそっくりなアヤカシ、みたいだね〜」 ジェシュが相変わらずおっとりと呟く。 「しかも、結構な数・・・・七、八匹はいるねぇ。ちょうど自分たちと同じくらいの数だ」 クォルがニヤニヤと笑いながら言い、すっと十字手裏剣を構える。 「ちょっと待って、狼だけじゃない、あれ・・・・」 由里が呆然としたように呟き、そしてあわてて風太の目を塞ぐようにその前に身体を滑り込ませる。 由里が指さした方向――狼の姿をしたアヤカシ達の背後に見えた大きな影――それは、蜘蛛、に見えた。大人の人間の背丈ほどもある、巨大な蜘蛛。 「うわ、これはなかなか、衝撃的な外見ですね〜」 ジェシュの言うとおり、巨大な蜘蛛の姿は間近で見ると相当に衝撃的だ。だからこそ由里は、風太が心に傷を負ってしまわないよう、その目を隠したのだ。今は彼女の意図を理解したミントが、風太を腕の中に抱きかかえるようにしている。 「アヤカシ共、俺の横を生きて通れると思うなよ」 そう言って焔騎は、刀を抜き放つ。 「依頼主の危険は抹消する、ソレが俺達、解消屋のサービスだ」 焔騎がニヤリと笑う。 最初に動いたのは、渉だ。地断撃を放ち、接敵前に一匹目の狼を吹き飛ばす。 驚いた狼たちが、敵意をむき出してうなりを上げる。中の一匹が、動けずにいるポチに噛み付こうと飛びかかった。 「そうはいかぬ」 「ギャンッ!」 悲鳴を上げたのは、狼のアヤカシの方だった。からすが木々の間に紛れるようにして矢を放ったのだ。 敵味方入り乱れての乱戦が始まった。 焔騎が囮となるように大きく動いて大蜘蛛に刀を振るい、クォルが敵との距離を測りつつ狼に手裏剣を投げる。距離を詰めた渉が、大蜘蛛に斬りつける。 「行かせないわ!」 由里が、前衛の間を縫ってこちらへ近づこうとする狼どもに早駆で接近し、刀を叩きつける。 「ナウマク・サンマンダ・ボダナン・エンマヤ・ソワカ!」 同じく前衛を抜けてきた狼に、周太郎が術を叩き込んだ。 「ワンワンッ!」 「おっとっと、もう大丈夫だからおとなしくしておくれ」 逃げるように風太の方に駆け寄ってきたポチと思わしき白い犬を、ジェシュが捕まえる。 「・・・・!」 大蜘蛛が八本の足の半分ほどを振り上げて焔騎に襲いかかる。だがその攻撃を、焔騎はその刀で受け止めた。その隙を突いて、渉が太刀を大蜘蛛に叩きつけた。 たまらず声にならない叫びを上げて、大蜘蛛がくるりとその身を翻して退却を計る。 「・・・・逃げるのならば無理には追わぬ」 渉が呟く。他の者たちもそれに同意する。いつの間にか、狼たちは全て倒されるか逃亡していた。 騒がしかった森の中に、静寂が戻る。 「ワンワン!」 「ポチ!」 ようやく我に返った風太がミントの腕の中から飛び出し、白い犬に抱きついた。ポチは、うれしそうに風太に飛びつき、その顔をなめる。 「ポチくんは、アヤカシなどではなく、普通の犬のようだね。安心した〜」 ジェシュがほっと呟く。 「この子がポチくん? あたしにも抱かせて〜?」 ミントがうれしそうにポチを抱き上げる。ポチも喜んでミントの顔をなめている。 「お友達を大切にね風太くん!」 由里も優しく言って、ポチと風太の頭を撫でる。 「疲れただろ、帰りは肩車でもしようか」 焔騎がたずねると、風太は太陽のような笑顔でうなずいた。 「全て終わったらお茶にしよう。村の景色でも眺めながらな」 帰路を辿りはじめながら、からすがしみじみと言ったのだった。 |