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■オープニング本文 「世の中は広い! 俺っちたちにはまだまだ知らないことが山のようにある! こないだ開拓者と一緒に森に行って、俺っちはその事をつくづく感じたわけさ!」 昼下がりの開拓者ギルドで、奇妙な散切頭を赤く斑に染めたおかしな格好の男が、熱い口調で語っていた。彼の名は迅助。志体を持たぬ故に開拓者にはなれず、しかし人一倍の好奇心で、小さな町には治まりきらぬ男。人呼んで【伝聞屋の迅助】。 「あの後、俺っちの町で見物人を集めて、こないだの経験を瓦版にして話して聞かせたんだ。そしたらすげぇ盛り上がりでさ。ほとんどのやつらが、鬼とかそういうもんを自分の目で見たことはねぇもんだから、興味津々なんだ」 ふむふむと興味深げにうなずくギルドの受付係を相手に、迅助の語りはどんどんと熱を帯びていく。 「それで俺っちは思った訳よ。みんな本当は、もっと色んな事を知りたい、見たこと無いものを見てみたい、って思っているんだってことをな。そしたら俺っちは、【伝聞屋】の名にかけて、その期待に応えなくちゃなんねぇ!」 眼を輝かせながら語る迅助の様子を、受付係の女性は微笑みながら眺めている。迅助の快活で真っ直ぐな調子は、側にいるものを明るい気分にする。 「だがよ、いくら俺っちが優秀な語り手だとは言っても、やっぱり、ただ話すだけじゃあ、聴衆を満足させることは出来ねぇ! もっと臨場感ってやつが必要だと思うわけよ!」 「臨場感、ですか?」 受付係の女性の言葉に、迅助は手をぽんっと打ってうなずいてみせた。 「おぅともよ! 聞けば、開拓者ってのは、変わったアヤカシやらケモノやらを、朋友と呼んで一緒に暮らしているって話じゃねぇか! こいつを使わない手はねぇ」 「と、いいますと?」 「つまり、開拓者たちにそれぞれの朋友を連れてきてもらって、一芝居打つわけさ!」 「芝居・・・・ですか?」 聞いたこともない話に目を丸くする受付係に、迅助が弾けそうな笑みを浮かべてみせる。 「街の広場に、即席の舞台を作って、その上で開拓者たちとその朋友が、どんぱちやってみせるわけさ! もちろん、本気で殴り合うわけじゃねぇ。そういう芝居だ。でも、本物の開拓者と、本物のケモノやアヤカシが刀を交えんだ、町民たちの度肝を抜くにゃあ十分だろっ!」 「なるほど、しかしそううまくいきますかねぇ」 「あったりきよ! 実はこないだの瓦版で、すでに宣伝済みなのさ。町民の反応はそりゃ、いい感じだったぜ! みんな、刺激に飢えてんのさ」 「え? 宣伝を? まだ実現するかどうかも分からないのに?」 「実現するに決まってんだろ? 後は開拓者の協力だけ。そのためにここに来たんだからな!」 自信満々に啖呵を切る迅助に、受付係も何だかわくわくしたような気分になり、笑顔でうなずいた。 「そうですね、お任せください」 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
嵩山 咲希(ia4095)
12歳・女・泰
与五郎佐(ia7245)
25歳・男・弓
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
久我・御言(ia8629)
24歳・男・砂
ジェシュファ・ロッズ(ia9087)
11歳・男・魔
夏 麗華(ia9430)
27歳・女・泰
ベルトロイド・ロッズ(ia9729)
11歳・男・志
ブローディア・F・H(ib0334)
26歳・女・魔
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●開幕前 「町のみんな! お芝居のお知らせだよー!」 相棒の駿龍、パビェーダの背にまたがって空に浮かぶベルトロイド・ロッズ(ia9729)が、声を張り上げながら手製のチラシをばらまく。眼下では道行く町民たちが、いったい何事かと空を見上げている。 「音に聞こえし正義の開拓者たちが、悪逆非道の悪人どもやアヤカシを、バッタバッタとなぎ倒す! 前代未聞の冒険活劇の開幕だぁ!」 ベルトーの蒔くチラシに合わせて、迅助が威勢のいい口上を述べてまわる。 反応は上々だった。最初は警戒するように遠巻きにしていたが、やがて一人が地面に落ちたチラシを拾い上げると、他の町民たちも次々にチラシを手にし、その内容を熱心に読み始めた。そして目を輝かせて迅助の周りを取り囲む。 「なぁ、これはいつやるんだ?」 「芝居ってのは、一体どういうのなんだ?」 「料金はどれくらいかかるんだ? 俺は、そんなに持ち合わせが・・・・」 興味津々の町民たちに、迅助はニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせた。 「公開は明日の正午! 見物料はほんのお気持ち程度! 気になるやつは全員、広場に集合しやがれってんだ!」 一方、会場となる広場では、舞台の設営と道具の準備が進んでいた。 「砦はこんな感じでいいかな〜」 「ええ、いい感じです、ジェシュファ様。私はこちらの色塗りをはじめますね」 今回は裏方に徹することにしたジェシュファ・ロッズ(ia9087)と夏 麗華(ia9430)を中心に、開拓者たちは紙や木でできた張りぼてに色をつけて、大道具の森やら砦やらを作っている。 「お芝居っていうのはよく分からないけれど、こういうのを作るのは楽しいね」 そう言ったジェシュは満足げな表情だ。隠すこと、嘘をつくこと自体を知らない彼は、役者には向かないので今回は裏方に徹するつもりだ。 「会場の設営は、こんなものですかね」 「せやな、完成やな。うん、ええ感じや」 力仕事を任された与五郎佐(ia7245)と天津疾也(ia0019)が、木を組み合わせて作った即席の舞台を前に満足そうにうなずく。 いよいよ、芝居の開幕まであと一日に迫り、練習も舞台も準備万端といったところだ。 「こんな面白い仕事は中々ないからねぇ。楽しくやらせてもらうよぉ」 「相変わらずの酔狂ぶりよ。まあ良い、我も劇は好むからな」 へらりと笑った不破 颯(ib0495)と相棒のもふら、風信子が、舞台を見つめながらそんな会話を交わす。 「俺は悪役かァ・・・・ま、威風堂々な俺ならではの適役だな。ハッハッハ!」 「やられ役とも言うけどね」 「咲希は人質役かよ。まァ弱っちそうなお前らしいな」 「やられ役よりはマシだけどね」 掛け合い漫才のような会話を交わしているのは、嵩山 咲希(ia4095)ともふらの雲々。 「人前で芝居だなんて初めての経験だな・・・・ま、ここはいっちょド派手に決めてみようかね」 今回の芝居で主役とも言える正義の開拓者の役を演じる朱麓(ia8390)もそう呟く。 夕闇が迫る広場で、それぞれが翌日の舞台に思いを馳せていた。 ●そして、開幕 「かっかっか。ずいぶんと楽しそうな舞台になったなぁ。ほな、大根役者にならないよう張り切ってやらせてもらうとするかいな」 開演まで観客席でつまみの売り子をしていた疾也が、舞台袖に戻ってきてそう呟いた。 事前の宣伝の効果があったらしく、観客の入りは上々。用意したゴザの上はほぼ満員だ。 「舞台に出るなんて初めてです・・・・緊張しますっ・・・・」 咲希も舞台袖で呟く。 「私が裏で、皆様の行動を把握して、何かあった時にはフォローします。また、観客の方々に万が一の事態がないように気を配っておきますので、皆様は安心して、演技をなさってください」 麗華がそう言ってみんなを励ました。 そうこうしているうちに、定刻がきた。 まずはじめに進行役のもふら、風信子が、舞台に転がり出る。 「皆様お集まり頂き真に有難うございます。本日は強き力に正しき心を持ち合わせ、世の為人の為戦い続けし開拓者の、日々の一部を活劇とし、皆様に提供する次第にございます。開拓者とは何者か? 聞きはすれどもそれだけで関わることなど滅多にないそんな彼らの生き様、最後まで存分にお楽しみを」 もふもふした外見に似合わない、しっかりとした口上を皮切りに、とにもかくにも、幕は上がったのだった。 木で組まれた舞台の上に、灰色の砦。 そこに、一人の男が現れる。 「うむ・・・・確かこの辺りで見かけたと聞いたのですが・・・・」 そう言いながら現れた与五郎佐が、思わせぶりにあたりを見回す。 「あの時の借り・・・・必ず返しますよ。朱麓・・・・」 そう呟いて、去っていく。 全く意味が分からない観客は、きょとんとしている。だがこれは、後の展開に続く伏線なのだ。 入れ違いに舞台に現れたのは、開拓者らしい服装の朱麓とベルトー、それに朱麓の相棒の忍犬、緋焔。少し遅れて、村人風の衣装を着た咲希も現れる。 「ここに、悪党どもがいるのかい?」 尋ねた朱麓に、依頼人役の咲希が深刻そうな顔でうなずく。 「ええ。なんでも、その頭領は恐ろしい身体を持つ悪党だとか・・・・」 「恐ろしい身体って、どういうこと?」 ベルトーが首を傾げる。咲希が静かに首を振った。 「いえ。詳しいことは分かりません」 「かっかっか! その悪党っちゅーのは、俺たちのことかいな?」 声とともに舞台に飛び込んでくる疾也。派手な色使いの着物と、ツンツンに逆立てた髪の毛が、いかにもチンピラ風。そしてその隣には土偶ゴーレムの硬喜がデン、と突っ立っている。麗華の相棒だ。 「ここであったが百年目! 俺様に出会ったとあっちゃ、生きて帰れへんで! なんったて俺様はな・・・・ひでぶぅう!」 長ったらしい名乗りを上げている途中で、朱麓の鞘に入れたままの剣撃であっさりと倒れる疾也。 土偶ゴーレムの硬喜が地面を蹴って跳躍し朱麓を踏みつけようとするが、朱麓はそれをひらりとかわし、目を輝かせながら槍を構えるベルトーとの連係攻撃で、このゴーレムを地面に沈める。 「・・・・何だい何だい、もうちっと骨のある奴は居ないのかい?」 朱麓がニヤリと笑ってみせる。 「ふん、そいつはただの囮だ」 そう言いながら、舞台上に一人の女が現れた。観客席がざわめく。 「・・・・確かに、恐ろしい身体ですね」 咲希が呟く。その声がいささか悔しそうな気がするのは気のせいだろう。 舞台に現れたのは、ブローディア・F・H(ib0334)。紅色のコルセットに黒色のガーター、網タイツという派手な衣装(といっても彼女の普段着なのだが)。悪役に見えるようにと片眼に装着した眼帯が、余計に彼女の艶めかしさを強調している。 そして何より、その露出度の高い衣装からこぼれ落ちそうな、動くたびにゆさゆさと揺れる、・・・・巨大な胸。 観客席から聞こえるのは、男たちのため息だ。 「頭ぁ! こいつら、やっちまいますか?」 明らかに軽薄そうな颯の声に、人々は我に返った。腕を組みながらニヤリと笑う彼の表情は、下っ端の小悪党が板についている様子だ。 「とくと見せてやんぜェ! この雲々の実力をなァ!」 「なはははは! 俺様に勝てると思ってんのかよ!」 「・・・・」 颯に続いて、もふらの雲々、猫又の燦爪丸、鬼火玉のファイヤーバル、といったケモノたちが舞台に現れる。さまざまな姿の悪役がひしめく舞台は、迫力満点だ。観客である町民たちも、目を丸くして舞台に見入っているようだった。 「よぉし、死ねやぁ!」 颯の下品な言葉を合図に、激闘が始まる。 次々に襲いかかる悪役の攻撃を、ベルトーの多彩な槍捌きが弾き、緋焔と連携した朱麓がその刀で受け止める。 「きゃあっ!」 戦闘が長期戦の様相を帯びてきたと思われたその時、咲希の悲鳴が響き渡った。 「おっとぉそれ以上暴れんじゃねえ。女が死ぬことになるぜぇ?」 見れば颯が無防備な咲希を抑え付けて、その喉元に小刀を突きつけている。 「でかしたぞ颯」 「ありがとうございやす頭ぁ! で、こいつらどうしやす?」 尋ねた颯に対し、ブローディアが酷薄な笑みを浮かべる。 「武器を取り上げろ。そして――いたぶってやれ」 「承知しやした!」 うれしそうに笑う颯。あっという間にベルトーと朱麓は武器を取り上げられてしまう。 そして一方的ないたぶり。 「ぎゃはは! くらいやがれ!」 燦爪丸の爪が朱麓を襲う! 「・・・・!」 高く飛び上がったファイヤーバルが、ベルトーに体当たりをかます! 「嵩山流・眠々拳!」 高らかに叫んだ雲々が眠る! ・・・・いや、寝てどうする。 とにかく、一方的な攻撃により窮地に立たされた正義の開拓者たち。 「そろそろいいだろう――とどめを刺してやる」 そう言ってブローディアが、すらりと二本のサーベルを抜いた。そしてそれをゆっくりと振り上げる――。 ヒュウウウウッ! 一陣の風が吹いた。(裏方のジェシュが、竜の羽ばたきによって起こした演出効果だ) 「そこまでだ! 悪党共!」 静まりかえった舞台に、一本の矢が飛び込んでくる。 颯の右手に矢が突き刺さり、颯はたまらず小刀を取り落とした。 「ぐあ!」 自由になった咲希が駆け出し、現れた与五郎佐が彼女を護るように立ちはだかる。 「さぁ、朱麓さん、今のうちに武器を!」 「このやろう・・・・ぶっ殺してやらぁ!」 武器を取り戻した開拓者たちと悪党との戦いが始まる。与五郎佐と颯は共に弓を取り出し、壮絶な撃ち合いを繰り広げる。 「ぐ・・そんな・・・・馬鹿な・・・・」 颯の断末魔の声。戦いを制したのは与五郎佐だった。 振り向けば槍を取り戻したベルトーが、軽快な動きでファイヤーバルと雲々を退けていた。石突や柄も駆使した多彩な攻撃で翻弄され、ケモノたちは舞台から逃げ出していたのだ。 朱麓と戦いを繰り広げていた燦爪丸も、加勢した与五郎佐の矢を受けて倒れる。 「以前、貴女に救われた借り・・これで返しましたよ・・・・」 そう言って彼はその場を立ち去っていった。 残るは親玉のみ。ブローディアはしかし、余裕の笑みを浮かべて二本のサーベルを構えた。朱麓も静かに刀を抜く。 「さーてと、それじゃ親玉さんのお手並み拝見と行くか・・・・準備は良いかい相棒?」 「わん!」 彼女の言葉に、緋焔が元気よく答える。 ガキィィィン! 高らかと打ち合わされた金属音が、決戦の合図となった。 激しい剣撃の応酬を、観客たちが固唾を呑んで見守る。 いつの間にかあたりに流れている激しい太鼓の音は、舞台裏にまわった疾也と麗華による演出効果だ。ジェシュがカンテラを改造して作った照明も、舞台上を照らし出して、その迫力を際立たせている。 キィィンッ! ひときわ激しい音が鳴り響き、ブローディアのサーベルが一本、宙を舞った。畳みかけるように朱麓の攻撃が迫る。忍犬の緋焔は周囲を走り回ってブローディアの集中を乱している。 それから数合の打ち合い。辛うじて攻撃を受け止めていたブローディアの動きが、少しずつ鈍ってくる。 「隙ありッ!」 朱麓の刀が閃き、ブローディアの身体を切り裂いた(もちろん、実際は峰打ちだが)。 「くぅ! まさか、私が敗れるなんて――」 悔しそうな言葉を漏らし、ついに、悪の親玉ブローディアはがっくりと膝を付いたのだった。 「嫌だ・・・・この地位を失うなんて嫌だ! 私は何もしていない!」 抵抗の叫びもむなしく、手に縄をかけられたブローディアとその一味が役人に引っ立てられていく。 「ありがとうございました! おかげでまた平和な日々を送ることができます」 依頼人の咲希の、感謝の言葉に見送られて、正義の開拓者朱麓とベルトーは、また、旅へと戻っていく。 「かくて再び平和が訪れた。しかし彼らの戦いは終わらない。開拓者を必要とする者ある限り彼らの戦いは続くのだ」 終幕を告げる風信子の口上。疾也とジェシュが相棒の龍、疾風とヴェーチェルに乗って上空からばらまいた紙吹雪が、芝居の終演を飾る。 一瞬の静寂。 そして。 無我夢中で役目を果たした開拓者たちに捧げられたのは、鳴り止まない拍手だった――。 「これにて開拓者冒険活劇第一幕、一件落着、めでたしめでたし、ってなわけだ! 次回も絶対来てくれよな!」 飛び込むように舞台に上がった迅助が、観客たちに向かって叫ぶ。 こうして、朋友興行芝居は、大盛況のうちに幕を下ろしたのであった。 |