【隠月】月招き
マスター名:桜紫苑
シナリオ形態: シリーズ
EX :相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/31 06:06



■オープニング本文

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●偽りの姿
 記憶にある彼女の姿は、ほっそりとして儚げだった。
 あの頃は笑った顔が大好きでたまらなかったが、今にして思えば目を引く容姿だったとは思えない。
「別人か。それとも‥‥」
 傍らに控えた男は、僕の呟きなど聞こえなかった素振りで、いつも通りに下知を待っていた。
 そして、僕も思い患う時間はない。
 いかに奔放なあの女とて、長く空けては不審に思うだろう。
 他の頭領達と共に王の元に召集もされている。
「他の里も裏千畳との駆け引きを始めたと聞く。暗器の確保は鈴鹿にとっても重大事。ギルドに、調査を続行するよう依頼を出せ」
 頭を下げた男の気配が消えると同時に、僕は艶を出し、見目よくする為に油をすり込んだ髪を掻き回した。わざと乱雑に切った毛先が縺れて跳ねる。
 懐を探れば、薄い御守袋が指先に触れた。いつもと違う感触なのは、中に入れていた帯留を開拓者に預けているからだ。それは、彼女が残した唯一の品。
 僕を捨てた彼女への怒りと憎しみを忘れる事がないよう、自分への戒めも込めて、ずっと持ち歩いていた。
 それを見れば、彼女と、僕と同じ顔をした妹の姿が浮かぶから。
 けれど。
「‥‥人の姿など、いくらでも変えられる」
 ぽつり、呟いた。
「いや、もともとの姿が偽りであったという可能性も‥‥」
 己の中に残された記憶すら偽りであったなら、何を頼りにすればよいのか。
 ちくりと差した胸の痛みを誤魔化すように首を振ると、僕は丁寧に畳まれた衣へと手を伸ばした。

●協力者
 久しぶりにギルドへと顔を見せた彼は、出されたばかりの依頼に目を止めて受付嬢を振り返った。
「この依頼、楼港で飾り職人を調べていた件か?」
「そうよ。そのまま調査を続行してくれって鈴鹿の頭領から。どうかしたの?」
 大仰に肩を竦めて、彼は手近な椅子に腰をおろす。男とは思えない艶が滲んで見えるのは、受付嬢の目に色眼鏡補正が入っているからではなく――
「うなじの所、白粉が残っていますよ、輝蝶さん」
 ばっと首筋を押さえた彼に、はあと大きく息をつく。
「ま、いいんですけどね。輝蝶さんが女装趣味だって事、知ってる人も多いし」
「誰が女装趣味だっ! と、ともかく、乗りかかった船だ。俺も協力する」
 乗りかかった船?
 怪訝そうな受付嬢に、彼は頷いてみせた。
「高華楼の花魁、夕霧の名を使っていいって事になったからな。そこら辺の小間物屋にゃ顔がきくぜ」
「えーと、それはつまり‥‥」
 輝蝶が夕霧に化けて一緒に小間物屋をまわるという事だろうか。
 盛大に口元を引き攣らせた受付嬢に気付く事なく、彼は話を続けた。
「小間物屋も、開拓者と上得意とじゃ態度も違うだろうしなぁ。あ、舞台の事は心配するな。兄さんも、開拓者には恩があるんだから出来る限りの事をして来いって言うし」
「ああ、うん‥‥」
 愛想笑いを貼り付けて、受付嬢は依頼に書きつけた。
――協力者、輝蝶――


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
八嶋 双伍(ia2195
23歳・男・陰
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462
20歳・女・シ
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
如月 瑠璃(ib6253
16歳・女・サ
高尾(ib8693
24歳・女・シ


■リプレイ本文

●なぞ
「こんにちはーですのー」
 ふいに掛けられた声に、彼女は足を止めた。
 どんちゃん騒ぎで夜を明かし、朝帰りというにはお天道さまが高く昇って、日差しを吸い込んだ地面から蒸し蒸しとした暑さがじわり立ち上る頃合いのことだった。
「おー、なんだ、てめぇか」
 金色の髪を乱暴に撫でると、擽ったそうに笑う。
「どうした? 団子でも食いに来たのか?」
「お団子じゃなくて、楽しくお酒を飲んで、遊べる場所を教えて欲しいんですの!」
 真剣な表情で言い募ったケロリーナ(ib2037)に、彼女、森藍可は面喰らったように黙り込んだ。
「おねえさま?」
 普段、あまり見せる事のない藍可の困惑した表情。けれども、彼女はすぐにいつもの顔に戻った。
「‥‥てめぇにゃ、まだ早いと思うんだがな。ま、いいか。社会勉強だ」
 いくつかの店の名を聞き出したケロリーナは、スカートを摘んでちょんと膝を曲げた。
「ありがとうございます。そういえば、北斗くんは一緒ではありませんの?」
「あいつなら、じーさん達が心配だからって、土産片手に里帰りしてるぜ」
 ケロリーナは首を傾げた。
 つい最近、どこかで似たような話を聞いた事がある気がする。そして、こんな事を思うのも。
「‥‥北斗くんは、よく村に帰られますの?」
「ま、そんなに遠くねぇしな。どうした? あいつが恋しいのか?」
 にんまりと意味ありげな含み笑いを向けて来る藍可の声も耳に入らぬ様子で、ケロリーナは感じた違和感の正体について考え続けたのだった。

●導き出された答え
 とんとん、と筆の軸で卓を叩いて、霧崎灯華(ia1054)は嘆息した。
 これまでの情報をまとめていたのだが、どうにもおかしな点が多い。自分達が調べた静流と、鈴鹿薫の抱く印象が一致しないこともだが、その静流という女が暗器製造を請け負うという裏千畳と鈴鹿との契約の証を持って消えた事も気に掛かる。
「どこかで糸がこんがらがっていると思うんだけど」
 それを解くのが自分達の仕事だと分かっていても、ぷつぷつ途切れた情報では、追いかけようがない。
「そういえば、静流が連れていた娘の父親が誰か問いただすの忘れてたわ」
「お悩みだねぇ」
 燗徳利と猪口とを卓に置いて、高尾(ib8693)はひょいと肩を竦めてみせた。
「両替商を調べに行くって言ってなかった?」
 顔もあげずに問う。
 ぐるぐる巡る思考は、いつの間にか情報をまとめていた紙の上で猫や犬になっている。それを一瞥すると、高尾は椅子を引き、灯華の前に腰をおろした。
「調べて来たさね。白髪頭が魅惑的な、枯れ木みたいなイイ男。聞いた話によると、その「静流」はちょくちょく楼港で稼いでいるみたいだね。用心棒とか、取り立て屋とか裏の仕事で」
 裏かぁ。
 頬杖をついて、灯華は紙に裏と書き付けた。
「鈴鹿か裏千畳、静流がどちらのシノビだったのか分からないけどさ、契約の証を持ち逃げしたってんなら、大っぴらに名前を明かして動くってのもおかしな話だ」
「よねぇ。姿や印象が違うのに、名前は同じって事は、薫の前の静流が偽りだったか、2人が全くの別人なんでしょうね」
 灯華の前に置いた猪口に酒を注いで、高尾も同意して頷いた。
「‥‥静流が姿を消したのは、いつの事なんだろうね。大分前なら‥‥静流はもう死んでいる可能性もあるんじゃないか」
 くいっと猪口の酒を飲み干して呟いた高尾に、灯華は眉を寄せる。
 考えられない事ではない。
 だが、そうすると現在、静流を名乗っている女の意図はどこにあるのだろうか。そして、契約の証は‥‥。
「また、分からない事が増えたわね。‥‥あー」
 頭を振って、灯華は文字やら落書きやらで埋め尽くされた紙を丸め、猪口の酒を呷った。
「辛気臭い話は止め止め! 考えて答えが出ない時は、気分転換が大事なのよ。呑みましょ!」
「もう呑んでるけどね」
 顔を見合わせ、笑い合って、女2人は昼酒と洒落込んだのであった。

●静流
「‥‥」
 見上げて来る円らな瞳に、緋神那蝣竪(ib0462)はぎこちない笑みを浮かべた。
 見られるのはよしとしよう。
 しかし、無言でただ見つめられたのでは、少々居心地が悪い。
 状況を打開する方策を探った那蝣竪は、袂に入れた飴を思い出した。
 ここを教えてくれた彼女が持たせてくれたものだ。
 その時には何故と疑問に思ったが、なるほど、こういう理由があったのか。
「えーと、これ、食べる?」
 途端に輝く瞳。
 差し出された手に甘刀「正飴」を握らせると、那蝣竪は駆けて行く背に声を掛けた。
「ちゃんと半分こするのよ?」
「はーい」
「はいにゃー」
 返って来る元気なお返事に、やれやれと苦笑すると、洗濯物を畳んでいた部屋の主に向き直る。
「元気なお子さん達ですね。‥‥あれ? 息子さんは獣人でした‥よね?」
「‥‥俺の子じゃねーっ!」
 子供がいる年に見えるのかとか、ぶつぶつ呟き始めた重という名の開拓者に、そんな事はともかくと用件を切り出す。
 こちらは忙しいのだ。放っておくと延々と続きそうな愚痴に付き合っている暇はない。
「今、依頼で人探しをしているの。それで、こちらに静流さんという方がいると聞いて」
「私に?」
 ふいに掛けられた声に、那蝣竪は息を呑んだ。咄嗟に長脇差に手が伸びる。
 天井の梁から飛び降りた女が、さらりとわざとらしく長い髪をはらった。体の凹凸を強調した服、派手な印象と、どこかで聞いた特徴を揃えた女だ。
「アタシに聞きたい事があるんですって? いいわよ。払うもの払ってくれるならね」
 そう来たか。
 乾いた笑いしか浮かばない。
 しかし、それで引き下がるつもりはなかった。
「そう。じゃあ、答えて貰える内容かどうか、話を聞いて判断してちょうだい。私達は今、静流という女性と、細工物が得意な小間物職人を探しているの。何かご存じ?」
「静流はアタシだけど、開拓者に探される事した覚えはないわね」
 けれど、女の表情が僅かに動いたのを、那蝣竪は見逃さなかった。
「あら、そう? 楼港あたりで荒稼ぎしてるって聞いているけど?」
「アタシはまっとうに仕事してるだけ。‥‥ああ、でも、いい事を教えといてあげるわ」
 顔を寄せ、那蝣竪にだけ聞こえるように静流は囁く。
「鈴鹿のシノビは、主に忠実なのよ?」

●楼港
 照りつける陽光を避け、石灯篭の陰で一休みしていた如月瑠璃(ib6253)は、突然、目の前に差し出された涼しげな硝子の器に目を瞬かせた。
「ん? ところてん、嫌いか?」
「‥‥いや。いきなり出て来たので驚いただけじゃ」
 瑠璃の手に器を持たせると、輝蝶は彼女の隣に並んでところてんを啜る。ちらりと輝蝶に視線を向けて、瑠璃もところてんに箸をつけた。
「カキ氷は皆で食いに行こうな。ところてんといや、高華楼の姐さん達の間で、一時、酢醤油派と黒蜜派の抗争が起きた事がある」
「それはまた‥‥。で、どちらが勝利したのじゃ?」
「協定結んで、引き分けた。女って、つまらねぇ事でよくあれだけ騒げるよな」
 箸の先で半透明のところてんを突っついて、瑠璃は口元を軽く引き上げる。
「つまらぬ事で騒ぐのに、男も女もないと思うが? ほれ」
 瑠璃の指し示した先には、数人の男達が賽を振っては一喜一憂していた。中には熱くなっている者もいるようで、大層な騒ぎになっている。
「ああ、あれな。金でも賭けてんだろ。最近、賽に巧妙な細工が仕掛けられている賭場もあるって噂が‥‥」
 はたと、2人は顔を見合わせた。
「巧妙と言うても、あのように小さな賽に細工など、たかが知れておるのでは?」
「それが、普通のイカサマサイコロじゃないって話だ。もうかなり昔から使われていたらしいが、噂が出たのはここ1、2年。今も噂話の範疇を出ていない。限りなく黒に近い灰色って奴だな」
 ふむ、と瑠璃は考え込んだ。
 この楼港は北面の一都市だ。だがしかし、不夜城と称されるこの街は、陰殻の影響も強い。特に楼閣や酒楼、そして賭場が集まる歓楽街はその経営者がシノビである可能性が‥‥。
 そこまで考えて、輝蝶を振り仰ぐ。
「その賽が使われておる賭場とやら、調べられるじゃろうか?」
「高華楼に行きゃ、噂ぐらいならな。一緒に行くか?」
 うむと頷き、太陽の位置を確認する。話を聞くだけなら、合流の時間までには戻れるだろうと算段して。
 そのしばらく後。
「あ、輝蝶さん!」
 通りにその姿を見つけて、楊夏蝶(ia5341)は彼に駆け寄った。
「お待たせ! ‥‥あら? 瑠璃ちゃんは?」
「ああ、調べ物があるとかでちょっとな。それより、なかなか似合ってるじゃねぇか」
 さらりと褒められて、頬に血が上る。
 高華楼の夕霧の使いとして小間物屋をまわる為に、忍装束をつけたままではおかしいだろうと変装をして来たわけだが、それを似合うと言われると、さすがに照れてしまう。
「そ、そう? 派手じゃない?」
「んなこたねぇよ。‥‥そうだな、折角だから設定つけるか」
 設定てなに?
 問うよりも先に、輝蝶がよしと顔を上げた。
「ティエは夕霧ん所の振袖新造で、俺はティエに入れ揚げてる放蕩息子でどうだ? で、簪を買いに来たが、ティエは店に並んでいる品が気に入らず、例の帯留めを見せてこの細工師がいいと駄々をこねるってのが、今回の筋だ」
 口を挟む間もない。
 嬉々として筋とやらを語る輝蝶に、夏蝶は困ったように眉尻を下げた。

●記憶の
 ギルドで調べた開拓者名簿には「静流」という名のシノビは記載されていなかった。
 はふ、と息を吐き出して、柚乃(ia0638)は賑やかに人々が行き交う通りへと目を向けた。
「薫ちゃん、遅いな‥‥」
 いつもの代理人が、薫が戻って来た旨を届けに来たのは、柚乃がギルドで調べ物をしていた時だ。陰殻の祭りで話はしたけれど、どこに誰の耳があるか分からない状態で依頼について語れるはずもなく。
「や。遅れてしもうたか」
「瑠璃ちゃん、お帰りなさい。大丈夫、遅れてないよ」
 そうかと笑んで、瑠璃も腰をおろす。慣れた手つきで茶をいれながら、柚乃は首を傾げた。
「何か良い事があったの?」
「‥‥分かるか?」
 出された茶を一口啜って、瑠璃は小さく折り畳まれた紙片を取り出し、柚乃の前に広げてみせる。それは、以前、楼港を調べた際に手に入れた細見だった。以前よりも甘味処や茶店の名が増えているのは、瑠璃がこまめに書き足しているからだろうか。
「美味しいお店、見つけた?」
「うむ。輝蝶が穴場の餅屋を‥‥ではなく、ここと、ここだ。楼港では、夜な夜な幾つもの賭場が開かれているそうだが、この2ヶ所の賭場は仕掛けのある賽を使っているという噂でな。しかも、牛耳っているのは同じ男なのじゃ」
 うん、と頷いてはみたものの、話が見えない。柚乃の表情からそれを読み取ったのだろう。瑠璃は賭場を調べるに至った経緯を簡単に説明した。
「あ、柚乃ちゃん! はい、お土産!」
 ひょいと顔を見せた夏蝶から竹皮の包みを渡されて、柚乃はぺこりと頭を下げる。何が入っているか分からないけれど、甘いものだという事は察しがついた。
「あ、ありがとう‥‥。もうすぐ薫ちゃんも来るから、一緒に頂くね」
「薫くんと言えば、陰殻に里帰りしていたのよね? もう戻って来てるの?」
 柚乃が口を開こうとしたその時、頭の上に何かが置かれた。
「なんだい、依頼人は戻って来てるのかい。文を書いたのが無駄になっちまったね」
 頭の上からくすりと笑い声が降る。
「ちょっと、潰さないでよね。後が面倒なんだから」
 また別の声が聞こえたが、頭の上にのった何かのせいで振り返る事も出来ない。
「潰しゃしないって。しかし、使えない依頼人だよね。中途半端にしか情報を寄越して来ないしさ」
「か、薫ちゃんは!」
 更にぎゅむっと掛かる圧を、ぶるぷると耐えながら必死で言葉を紡いだ。
「なんだかんだ言っても、困っている時はお願いを聞き入れてくれる、優しい女の子なんです‥‥っ」
 へーとかほーとか、毒気を抜かれた相槌とも取れない声に、尚も言い募る。
「私が用意した浴衣だって、最初は嫌がったけどちゃんと着てくれて!」
「浴衣‥‥。聞くまでもないけど、可愛いんだよね?」
 こくんと頭を動かして、柚乃は後悔した。
 今まで頑張って支えて来たのに、このままでは潰れてしまう。本気でそんな事を思う。
「へえ、可愛い浴衣ね。私達も見てみたかったよ、鈴鹿の頭領?」
「好きで着たわけじゃない。‥‥ただ、断れなかっただけだ‥‥って、そんな事よりも! 調査は進んだのか!?」
 薫の怒鳴り声を気にした様子もなく、夏蝶がはいと手を挙げた。
「細工師なんだけど、幾つかのお店との取り引きしてる人じゃないかって。間に人が入っているみたいで、詳しい話は聞けなかったけど。賭場の元締めと仲介の人を調べたら、何か分かるかもって瑠璃ちゃんと話してたのよね」
「で、静流の事だけど、神楽にいる静流は何か知っているっぽいわね」
「あ、薫くんだ〜! おかえり〜!」
 夏蝶の報告に続けて、那蝣竪とケロリーナの声が響く。
 これで、全員揃ったようだ。
「お前は毎回毎回‥‥ッ」
 飛びつかれ、諦めたように項垂れた薫の顔を覗き込み、ケロリーナは手を組み、上目遣いにある事をお願いする。それは。
「薫くんが知っている静流さんの似顔絵を作りたいんですの」
「私も、静流さんの特徴が知りたいです。癖や仕草、何でもいいんです。静流さんの手掛かりになると思うから」
 早速、紙や筆記具を用意したケロリーナに端的な情報を与え、その傍らでは柚乃達に静流の人為りを語る。
「あいつは、いつも静かに笑ってた。僕達が喧嘩しても、笑って間に入って‥‥」
「僕達?」
 食いついたのは高尾だ。
「静流は、あんたの親しい人で、おいたを笑って許してたわけね。そして、そこにはもう一人、いたわけだ」
「それが、静流の娘ってところかしら? その子の名前とか知っているの?」
 灯華に聞かれ、薫は一瞬だけ躊躇を見せたが、やがてゆっくりと頷いた。
「でも、娘は探さなくてもいい。あいつは関係ない」
 ひどく思い詰めたような瞳で言い切った薫に、高尾と灯華は顔を見合わせる。
「それじゃあ、静流の事でもうひとつ、教えて貰えるかしら?」
 黙って成り行きを見ていた那蝣竪が問う。
「静流は鈴鹿のシノビなの? それとも、裏千畳?」
「‥‥裏千畳だ」
 那蝣竪は考え込んだ。
 静流が裏千畳のシノビであるなら、どうしてあの静流は鈴鹿の忠狂いに触れたのだろうか。鈴鹿という名は、一度も出していないというのに。
「似顔絵、出来ましたの〜!」
 ケロリーナが描き上がった似顔絵を皆に見えるように掲げる。
「どうですか? 似ております〜?」
「ああ」
 懐かしむような、悲しんでいるような薫の表情に、高尾は息を吐く。灯華も、ただ黙って似顔絵完成に盛り上がる仲間達を見つめるだけだ。
 彼女達が出した幾つかの予想は、今は胸のうちに。
 先延ばしにするつもりは無いけれども。