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■オープニング本文 「いやあ、見かけんねぇ。アンタみたいなべっぴんさんが通り掛かりゃ、一発で分かるしなぁ」 「そうですか、ありがとうございます」 神楽の都に近い小さな山奥の農村で、そんな言葉が交わされる。説明した農夫は「アヤカシには気をつけろよ」と最後に声を掛け再び野良仕事に精を出し始め、礼を言った女性はそのまま立ち去る。 しかしこの女性、明らかに地の者ではない。 (仲間とはぐれた旅芸人、という言い訳もそのまんまですが、とにかく早くもの字さんと連絡を取り合えるようにならなければ) 薄汚れた布と笠を組み合わせた即席市女笠の隙間から覗く白い顔は、クジュト・ラブア(iz0230)。浪志組の真田・森両派に追われ、ミラーシ座の協力の末ここまで落ち延びていた。「もの字さん」とは、もふら面を被った男で、旅館街演劇界の裏の事情通。いろいろ胡散臭い面もあるが、神楽の都で老舗一座から冷遇されたクジュトに惚れ込み手を貸し、以来行動を共にしている。 「私の……故郷」 呟き空を仰ぐ。 アル=カマル出身だがもう捨てた。 目に浮かぶのは、ミラーシ座の面々と楽しく演奏し、舞った日々。常に、神楽の都が舞台だった。屋内でも演じた。屋外でも奏でた。何度も、何度も。 軽やかな弦の爪弾きに弾むステップ。 響く「アタシの歌を聴け〜い☆」という掛け声。鳴り始める拍手。 皆が一体になる瞬間。 そして、アップで浮かぶ恋人の顔。 「貴方の故郷は『ここ』、でしょ?」 無防備に覗き込んでくる瞳。すぐに引いて、寿司の折詰と携帯汁粉を手渡してくるようなしっかりした娘だ。この村の奥の空き家に腰を落ち着けるまでに、ありがたく頂いて腹を満たした。 「笑顔になれるようになったら、ミラーシ座に帰っていらっしゃい」 「早く、戻らねば……」 恋人の言葉を思い返し、ぐっと握りこぶしを固めこの村にはぐれた旅芸人のエルフ女性がいることを印象付けて回るのだった。 「……あ〜あ。説得でいいんなら、あの騒ぎは何だったんだか」 子どものような身長と外見の浪志組隊士、市場豊(いちば・ゆたか)が浪志組屯所の廊下を渡りながらぼやいていた。 真田悠(iz0262)から指示を受け、クジュトの居場所を知ってるなら交渉しろと命じられたのだ。 豊がクジュトの居場所を突き止めた要因は、ただ一つ。 「一応言うが、ここは見逃して貰えないか?」 クジュト捕縛に動いていた時にそうお願いされ、首を縦に振ったこと。その後、彼らの後をとにかく尾行したことだった。 「説得にはあの人の仲間に頼むのが一番早そうですね……ん?」 ここで不意に立ち止まる豊。 「……クジュトらしき人物の潜伏場所が分かったらしい」 「よし。このままじゃ、あの騒ぎで動いた者が馬鹿を見る。姐御はなんも言わんが、やっちまっていいだろ?」 「そうだな。投降を促して断られたんで斬った、でいいだろ」 そんな会話が漏れ聞こえる。 「……森さんたちの過激派かぁ」 「よお」 眉を顰めて通り過ぎると、右眼帯の男、回雷(カイライ)と出会った。 「あ、ちょうど良かった。ボクの手柄の手伝いをしてもらえませんかね?」 豊、回雷にクジュト説得の手伝いを頼むのだった。 こうして、クジュト説得に同行してもらう人材が集められた。 豊は、これで説得が楽になり自分に手柄が苦労なく転がり込むと踏んでいたのだが、この後とんでもない事態に発展した。 なんと、クジュトの潜伏していた空き家がすでに森派内過激派8人に包囲され、今まさに踏み込まれてしまったのだ。 「ち。逆包囲なんだが、こちとら大将がやられりゃ水の泡なんだ。突っ込むぞ!」 回雷の号令で林から出て、森派に続いて空き家に突っ込むのだった。 そして、まさかの事態に遭遇するッ! |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
イリア・サヴィン(ib0130)
25歳・男・騎
ニーナ・サヴィン(ib0168)
19歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242)
22歳・女・吟
リア・コーンウォール(ib2667)
20歳・女・騎
サラファ・トゥール(ib6650)
17歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 瞬間の、勝負だったッ! 「いい年して考えが甘ェーんだよ、あんたは!!」 まずはまるごともーもーに身を包む村雨 紫狼(ia9073)が咆哮の雄叫びを上げた。すでに突入した森派数人がピタリと足を止めるが、やはり目的行動に集中している者への利きは悪い。 「この差……どうにも瞬脚を使うしかないかね……」 「お願い、クゥに渡してっ」 鞍馬 雪斗(ia5470)が鞘に収めたままの短剣「オレイカルコス」を握った構えのまま一気に長い距離を踏み込む。その瞬間にクジュト・ラブア(iz0230)の恋人、ニーナ・サヴィン(ib0168)に投げ渡されたヴァイブレードナイフは顔色も変えずにぱしりとキャッチしている。二刀を携え勢いそのままに、続けて走る。 「おいアンタ、魔術師一人で出るんじゃねぇ」 「座長の無事が第一……だろう?」 追ってくる回雷に微笑しつつ言い捨て走る。突入が目的なので紫狼へ向かっていく敵は無視してすり抜ける。 「ご心配なく。私もついています」 声を掛けられ、はっとする回雷。ナハトミラージュで存在感を薄くしていた黒い肌のエルフ、サラファ・トゥール(ib6650)が走っていたのだ。三人でまずは屋内を目指す。 「頼むわよっ!」 背後ではリスティア・バルテス(ib0242)(以下、ティア)が、バイオリン「サンクトペトロ」の弓で先を示す。神楽舞「防」を踊った最後の動きである。 「心眼で見ると、囲い込みの動きをしている様子。小細工無しでさっさとクジュト殿と森派の隊士を引き離しさえすれば、ですね」 ミズチの水着のように身体に密着し肌がずいぶん出ているシノビ装束を着る秋桜(ia2482)が、瞬間把握した情報を伝えつつ走る。 さらに秋桜、ぼふんと煙を張る。 「乱戦には効果がありましょう」 煙遁だ。 そして、リア・コーンウォール(ib2667)の火尖鎗が鋭く伸びたっ! 「貴公ら部下がこのような有様では、長である森とやらもたかが知れているな?」 紫狼の咆哮で寄って来た男一人の左肩口を狙いカウンター。奇麗に入って体勢を崩す敵。 「残りは任せる」 イリア・サヴィン(ib0130)が紫狼に言いつつ駆け抜ける。リアも追った。紫狼、計3人を受け持つ形。 「急ぎましょ、ニーナ!」 「ええ。これ以上の騒動はミラーシ座には不似合いだわ」 ティアとニーナも走る。 「おおっ。後は俺がボコる。俺の二天一流で……」 咆哮で寄って来た敵を、木刀二本で相手する。リアのおかげで時間差ができ、十分に対応可能だ。 「柊先生から託された力を、人殺しになんか使ってたまるか!」 斬りはしない。木刀で殴るのみ。が、敵の流し斬り。もろに食らって片膝つく紫狼。まるごともーもーが災いしている。 「仕方ありませんね」 庇うように豊が割り込んだ。この隙に立ち上がる紫狼。激闘を再開する。 ● 紫狼の咆哮は、利きこそ悪かったが実に効果的だった。 空き家正面入り口に向かっていた男は一人になっている。とはいえ、これが位置的に邪魔。 「その道は空けてもらうよ、彼を渡すわけにはいかないのでね……!」 雪斗、足を止めオレイカルコスを構えたっ! 「貫け閃光、風穿つは雷帝の蹄っ!」 ――ピシァャン! 瞬間、雷が走った。アークブラストだ。 「後は任せろ!」 びくっ、と痺れ足を止める敵に回雷が抱き付き転倒させた。 「行きましょう、鞍馬さん」 サラファが雪斗の前に出て、これで突入に成功。 「よし、ここはミラーシ座が貰った」 くるっ、ぴたっとリアが正面玄関を背にして仁王立ち。「こいつ」、「野郎!」と左右に散っていた敵二人が中央に戻って来る。 「まどろみの精霊に抱かれて眠りなさい」 ニーナが突入まぎわ、クーナハープで「夜の子守唄」を奏でるが本人も慌てている。敵はぼんやりするが眠りには至らない。 「クジュト!」 脇を抜けて叫ぶティアに気付き、「剣の舞」を奏で直すニーナだったが、ここを狙われた。迫る刃に目をつぶるニーナ。 ――ガキッ! 「浪志組……か。武器を持たない者に対して大勢で襲うとは、男として何も感じないのか? ……ああ。感じないからできるのだったな、すまない」 身を竦めたまま目を開くと、リアが敵の攻撃を止めていた。不敵な笑いを浮かべつつ敵を挑発しまくる。 「うるせえっ!」 「そうだ。私を狙え」 たちまち剣と槍で打ち合う。この隙に感謝の言葉を添えてニーナが突入する。 「待てっ!」 「邪魔だ!」 別の敵がニーナを追わんとしたが、ここにイリアが後から割り込む。騎士盾「ホネスティ」を構えたアヘッド・ブレイク。騎士の強行突破で横に弾き飛ばし一気に中に突っ込んだ。 「こいつら……ガッ!」 「浪士組も、荒れに荒れましたねぇ……」 三対二で自由に動ける形だった敵の一人は、ぴたりと背後に回った秋桜に忍刀「蝮」で斬られ、首元に刃を当てられた。予備動作の煙遁が光る。 「うるせえっ。反乱した奴を許すなんざ甘ぇんだよ」 敵もさるもの。瞬間的にがっ、と秋桜の短刀を持つ手を掴むと力ずくで引き剥がし距離をとる。 「貴方達の言い分は御尤もですが、開拓者相手では分が悪うございましょう」 秋桜、この隙に手裏剣「鶴」を投げる。かわして襲ってくるが、これを見事に取り押さえ直した。まるで暴漢に襲い掛かられるのは慣れているといわんばかり。 「今は矛を納めてお帰り頂ければ……あ、服部殿には度々縁がある身。屯所に戻ったら、宜しくお伝え下さいませ」 「ちっ」 これでなんとか取り押さえた。リアも回雷も一対一をそれぞれ制していた。 ● そして、屋内。 ――ドダン! 大きな音がした。 「無粋な……。衝立の後ろには着替え中の女性がいると相場は決まってるんですよ?」 「気持ち悪いこと言うんじゃねえッ!」 すでに突入していた敵が、クジュトを斬っていた。もっとも、これあるを期して用意していた衝立をスライドさせて防いでいたのだが。衝立は真っ二つ。敵の踏み込みで、クジュトの着ていた着物も帯が切れた。 「無事かっ!」 ここで雪斗が瞬脚で踏み込んできた。 「おわっ!」 「鞍馬さん、早く」 間髪入れずに敵がたたらを踏んだのは、気配を消していたサラファが雪斗の後から突っ込み、自らの手首に腕輪で繋いだ獄界の鎖で踊りつつ回転したから。「旋鞭」とも呼ばれるジプシーの近接攻守自在の技「ラティ・ハレオシャン」。いま、会心の表情で旋回の舞を終えて敵の前に立ちはだかり雪斗を促した。 「クジュト、怪我は?」 「ティアさん! 来たのは敵だけかと思いましたが……信じてましたよ。帯だけで済みました」 「いいからこれを……裏口だな、これは」 心配そうに駆け寄るティアに笑顔を見せるクジュト。雪斗は合わせを何とか結ぼうとするクジュトにヴァイブレードナイフを渡しつつ周囲を確認した。 「正義の味方の顔して実は暴れたいだけなんて山賊よりタチが悪いわよ? 浪志の義を忘れたならその看板、取り下げた方が親切ね」 「ニーナ、ここはイリアさんに任せよう!」 夜の子守唄か重力の爆音か迷っていたニーナに気付いたクジュトがその背中に声を掛ける。一緒に裏口から脱出を図ろうとする。 「世話のかかる男だ。神楽に戻ったら寿司をたんまり奢ってもらうからな。ウニだぞウニ」 盾を構えたイリアがサラファと入れ替わりで敵を封じにかかる。背中越しからさらに「妹に怪我させたらただじゃ済まんぞ」とも。 とにかく、あとは逃げるだけだ。雪斗が裏口の引き戸に手を掛けようとする。 ――ガラッ! 「この程度、読めないわけがないだろう」 自動で開いた、と思ったら最後の一人が回り込んでいた。 「く……白兵戦しかないか」 反射的に短刀「木千把丸」を抜いた雪斗。これで敵の初撃をなんとか防ぎつつ回避した。そのままたたらを踏んで中に入る敵。クジュトたちもうまくすり抜けた。 「ちっ……」 「おっと、何処に行く? 君の相手はこっちだ」 振り返ろうとした敵の肩に手をポンと置き振り向かせると、そのままドラグヴァンデルの柄で殴りつける。 「イリア殿、こちらは任せてくれ」 イリアが相手をしていた敵は突入してきたリアが受け持っていた。 これで救出は完了した。 しかし、この直後に誰も想定できなかった事態に直面するのだったッ! ● 「だから、無人の割に生活の痕跡が消えきってない空き家だったんですね」 後にクジュトはそう語ったが、今は空き家の裏。 「サラファ。合流地点は?」 「東方向に村に戻る道があるそうです。真っ直ぐ逃げた後、とにかく右ですっ」 林をまっすぐ駆け抜けつつ聞くティア。サラファが答えとにかく走る。 先行は、雪斗とサラファ。後にクジュト、ニーナ、ティアが続いていた。 「ねえ、クゥ」 「ん?」 「……早くミラーシ座に戻って来ないと、今度は私がどこかに行っちゃうかもよ?」 恋人に呼ばれ振り向いたクジュト。ニーナが安心したような笑顔でくすっと微笑んでいた。 「ニーナ……。も、もちろん戻りますよ。いや、ミラーシ座からは逃げてない」 「……浪志は? こんな事があっても浪志に戻るのか……? 止めはしないが……」 抱き寄せるのを我慢しつつ幸せの絶頂で言うクジュトに、雪斗が不安そうに聞いた。 「ええ、戻ります。各儀の文化が急速に集まっている神楽の都からは逃げちゃいけない。あそこにミラーシ座の未来がきっとあります。だから……だから、立場上都合のいい浪志組には、土下座をしてでも戻らせてもらうつもりです」 「ふぅん……」 この言葉に、ティアが眉を顰めた。 「あの……ダメですかね?」 「クジュトの好きにすればいいわ。ただし、クジュトとミラーシに今回みたいなことがあったら……」 ティアの顔色をクジュトが伺い、ティアの瞳が厳しくなった瞬間だった! ――キキッ! 「上から?」 サラファの叫びは、遅い。皆、油断していた。 アヤカシの猿鬼が十匹程度、木々の上から飛び降りて襲い掛かってきたのだ。不意をつかれ体重の乗った攻撃にかなりのダメージを負う一同。 「くっ。これでも……くらってなさいっ!」 米糠の入った小袋をぶちまけるティア。効果はともかく、この大声は役に立った。 「何だ?」 敵を取り押さえていたイリアが林の方を見た。 「アヤカシですっ! 結構多いですよっ!」 「アヤカシだと?」 奥から響くクジュトの声に、取り押さえられていた浪志が立ち上がった。縛ろうとしていたイリアがびっくりする。沈んでいた彼らの瞳が義憤に燃えたっ! 「野郎ども、アヤカシだ。消毒しにいくぜっ!」 「なんだ、アヤカシだと?」 「おいおい、こんなことやってる場合じゃねぇだろう!」 たちまち林の裏に走っていく浪志たち。 「なんだぁ?」 「ほぅ、腐っても森派浪志組ですなぁ」 ぽかんとする紫狼に、感心してにこにこする秋桜。 「こうしちゃいらんねぇ」 「クジュト殿に攻撃せぬな?」 屋内の浪志も駆けつける。リアが念を押し続く。 「鞍馬さん、時間を作りますから魔法を」 戦布「厳盾」を構え前に出るサラファ。フェイント、頭突き、急所蹴りなど泥臭い格闘戦は喧嘩殺法だ。しかし、敵は2倍。たちまち乱戦に巻き込まれそうになる雪斗。 「道がなければ作ればいい……」 いや、巻き込まれない。雷を一発放って強引に前に逃げ始めたのだ。強い意思が瞳に宿る。 「そうね。歌と共に走るわよっ!」 「ええ。分かったわ。ほら、クゥも」 ティアが雪斗の動きに気付き、バイオリンで重力の爆音を奏で走る。ニーナも遠慮なく、重力の爆音。重低音の二重奏が両脇の猿鬼の動きを押さえつける。「歌と共に前に走る」という決意の重さをぶつけた格好。着衣を乱し血に染めたクジュトがナイフで追っ手を牽制し、開いた空間に走る。 ここで、後続の浪志が到着。 「後は任せな!」 これぞ浪志組の戦いを見せる森派過激組。 「こっちにも来やがれ! 俺の気が済まねえんだよ!」 またも紫狼の咆哮が炸裂する。これでクジュトたちは完全に離脱した。瞬間、紫狼は敵の早い襲いかかりに滅多打ちされるが、気合が入っている。倒れず両木刀で反撃。 そこに秋桜、リア、イリアが到着して存分に暴れまくる。 豊と回雷も間に合った。数的にも優位に立ち、流れを掴んだままあっという間に殲滅する。 それでも、クジュトたちを改めて追うアヤカシもいた。 「目敏いですが、させません。守り通します」 す、と猿鬼の背後に現れたのは、ナハトミラージュしたサラファ。獄界の鎖で縛り付けた後に喧嘩殺法で瘴気に戻すのだった。 ● 「もー我慢できねぇ。あんたの行動には何の覚悟も見えねえ! 誰かの言葉に流されて、何かあるたびに逃げ出してるだけだ!」 村への道に出た一行。村までを歩くが、そこでまるごともーもー姿の紫狼がもーもー吠えた。 「覚悟を決めて、あそこで『もの字』さんの使者を待ってたんですけどね」 「そーじゃねえ! 結局、あんたはこの事件で何も自身で決断してこなかったんだ」 ともにボロボロの姿で言い合う。特に紫狼は容赦ない。着ぐるみ顔を隠しているが、余程本気なのだろう。 「そうですよ。あなたは、東堂殿の計画を知っていた。大判殿に相談するなり出来たはずです」 「民を守る組織すら作れなかった人ですね」 新たに秋桜も思うところを言った。やはり唇を尖らせるクジュト。 「貴方は被害者だと思い込んでいるようですね。これは、立派な加害者ですよ。隊への裏切り、背徳行為です。しかも、責任を取らずに逃げた……制裁を受けて当然の立場です」 「特に被害者、加害者という意識はないので隊への裏切り云々もどうでしょう?」 滔々と語る秋桜に対して、さらりとかわす姿勢を見せる。 「それって卑怯なんじゃないですか? そんな方の歌、面白いと思う人、居ますかね」 「そうだ。今のあんたには他人の手を借りる資格も、他人を笑顔にする資格もねえ。ちゃんと今度こそ自分で、自分の人生に立ち向かえよ!」 かちんと来た秋桜に、同じくそう感じて吠える紫狼。 「もう、そういうのは随分昔に望めない身ですよ。それに……」 ざ、とクジュトが止まった。先にミラーシ座に話した時の口調が蘇る。雪斗がしたように前を向く。 「自分の意思で、浪志組に戻ります」 この時点で、クジュトは東堂俊一の投降と仲間の助命の件を知らない。覚悟を決めている表情だった。「何としても生き残る」という、決意。 「おお。どうしたんじゃ?」 ここで村の住民と出会った。 アヤカシが出現したこと、無事に浪志組が退治したことを話すと、全員の傷から信じてもらえた。 「ほぅ、浪志組」 感心する村人に森派が胸を張った。 どうやらアヤカシ退治を森派の手柄にして、クジュト保護を豊の手柄にすることで八方満足にするようだ。 空き家の主、独り者だった猟師は森でアヤカシに倒されていたらしい。 クジュトは真田を頼り隊に帰還。今後は自らの歓楽街からの情報収集能力を使い真田のために尽くすと誓い土下座したという。東堂の言葉もあり無事に復帰できた。 |