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■オープニング本文 ●これまでのお話 時に天儀歴1011年、場所は建て増しに建て増しを続ける神楽の都。 他儀との新たな交流とともに人・物・金のさらなる集積地となる中、この賑わいを見逃すはずもなく畜生働きをする悪党どもも増加していた。光輝けば影が濃くなるとはよくいったもので、急速に治安も悪化。さらに少数ながらアヤカシの侵入も確認されるようになり、開拓者による治安維持部隊結成の献策がなされた。 浪志組の誕生である。 紆余曲折たる「【桜蘭】大神の変」を経て、また一から出直すことになった彼ら隊士。組織立て直しが進み光が差してきた一方で、立ち上げ時に人数確保のため登用した元罪人隊士残党が離隊後も街に紛れ暗躍する。やはり光あれば影は常に寄り添うのか。浪志組、無論座視するはずもなく。 振るう刃は何を護り何を斬る。 嗚呼、浪志組の明日はいずこ――。 ●本編 「『クマタカ』から情報が入りましたよ」 薄暗い居酒屋の奥の席で茶色いもふらのお面が闇に浮かんだ。 「来ましたか。裏切らなかったようですね」 到着したばかりの金髪エルフの男性は颯爽ともふら面で顔を隠した男の前に座る。名をクジュト・ラブア(iz0230)という。浪志組隊士だが、監察をしているだけに隊士服などは着ていない。 「判断するのは早いですよ、クゥの旦那」 肩を揺らしエルフに言うもふら面の男。笑っているのだ。 「もの字さんも、私をそう呼ぶんですね」 「恋人だけにそう呼んでもらいたいですか?」 「当たり前です」 もふら面、さらに大きく肩を揺らした。が、すぐに身を改めた。 「それより、先日武天の野趣祭で味方になってくれた『クマタカ』ですが。早速神楽の都に残ってる元罪人隊士3人をとりまとめたそうです。『旧帰り橋』から神楽の都を脱出する手はずを整えたのでここを叩け、と」 「判断するのは早い、と言いましたね?」 「ええ」 クジュトの指摘に、もの字は酌をしてやりながら頷く。 「罪人何ざ、信用などできません」 「結構な報酬をちらつかせたはずなんですが。……では、どう裏切ってきますかね?」 ちびりと猪口を傾け聞くクジュト。 「橋で返り討ちにして、報酬もいただいてとんずら。別の橋から逃げるのもあるでしょうが、旦那がちらつかせた金があるんでこれは無視しないでしょう」 「つまり、とりまとめた元罪人隊士は3人より多い、と?」 「人数が少なすぎますから、これは宣戦布告と取るべきでしょうね」 でないとたった3人ぽっちで言ってくるのはおかしいでしょう、あちらもバレるのは計算の打ちですよ、と進言する。もふら面の男、社会の闇に生きている。こういった状況の話にも詳しいようだ。 「ですから、迷う必要はありません。敵の数については倍を見積もっておけば間違いないでしょう」 「では、私と回雷、市場豊と……あとは8人雇えば約二倍の戦力が整いますね」 む、と顎をさすり計算するクジュト。 「あと、馬鹿正直に敵の指定した戦場で戦うこともありません。『千鳥屋』という料亭が『最近、柄の悪い客が居座っている』と困っているようですね。調べると、『クマタカ』たちはここに集まっているようです。約束の日の日暮れも予約が入ってますから、ここで落ち合ってから『旧帰り橋』に向かうようですね」 「なるほど。そこを叩いてもいいわけですか」 「問題は、敵の指定戦場たる橋で迎え撃つとどういう仕掛けをしてくるか分からず、敵の想定外たる料亭を急襲した場合は全員が集まってない可能性があり打ち漏らしがある、というところでしょうね」 もふら面の見立てを聞いて、う〜んと唸るクジュト。 「まあ、集まった戦力で向き不向きもあるでしょう。皆で話し合います」 こうして、浪志組隊士や開拓者の人集めをすることとなった。 そして選ぶ戦場は、見晴らしがよく日暮れ後は人通りのなくなり正面衝突のしやすい『旧帰り橋』か、不意は突ける半面敵の参集具合のつかめない料亭『千鳥屋』か――。 |
■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
空(ia1704)
33歳・男・砂
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
リア・コーンウォール(ib2667)
20歳・女・騎
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
サラファ・トゥール(ib6650)
17歳・女・ジ
藤田 千歳(ib8121)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● 「元罪人、か……。悔い改める機会はあった、のだろうね」 板塀の影に隠れたフランヴェル・ギーベリ(ib5897)(以下、フラン)がぼそりと呟いた。 視線の先にはならず者風男性二人組が件の料亭「千鳥屋」入っていくところだった。 「ラブアさんの絵の腕前も大したことはないですがまあ、アレが『クマタカ』でしょう」 隣で人相書きを確認していた檄征 令琳(ia0043)が静かに言う。 ここで料亭から仲居の女性が出て二人の方にぱたぱた駆け出してきた。 「……やあ。これで予約の8人のうち4人が二階の座敷に集まったようだ」 「口調が戻ってますよ、雪斗さん」 やって来たのは鞍馬 雪斗(ia5470)だった。女装は普段着だが、こういった普通の町娘のような服は着ないので珍しい光景ではある。 「……お店に来られますか?」 「そうだね。ボクたちももう潜伏しておいた方がいいかもれしない」 令琳に指摘され、赤くなって店員口調で聞く雪斗にフランが頷いた。 「では、ラブアさんに合図を送っておきましょう」 令琳、人魂を蝙蝠にして民家に飛ばすと雪斗やフランに続いて千鳥屋に入っていくのだった。 「いやいや、旅芸人のお話は非常に面白いものですなぁ」 その、蝙蝠が飛んで入った民家では家主が手を叩いて笑っていた。 「ヒヒッ……。このッ程度の話でも喜んでもらえるたァねェ」 顎をさすりつつ鋭い目付きでひそみ笑いをしているのは空(ia1704)だが、すでに一座の任侠風男の役者だと触れ込んでいるのでむしろこの反応に「おお」と喜んでもらっていたり。 「いえ。私達も早く到着しすぎて宿入り前にひと稼ぎしようと思っていたので、ここで化粧などの準備ができたのは幸運でした。ごらんのように浪志組も用心棒についてくれましたし」 すっかりと女形姿に整えたクジュト・ラブア(iz0230)が頭を下げている。その横では、浪志組の羽織を着た回雷がいた。さらに横ではリア・コーンウォール(ib2667)が一口大の饅頭を味わいお茶を飲み、またついつい次の一口饅頭に手を伸ばしていたり。 「ヒヒッ」 「あ、いや……。こう、菓子盆にたくさん盛られているとな」 空に表情を覗き込まれて、珍しく恥かしそうに頬を染めるリアだが甘味の魅力には逆らえない。ぱくりともう一口。 そこへ、外から市場豊が顔を出してきた。肩に乗っていた蝙蝠がぱっと消える。 「座長、連絡来ました。そろそろいいようです」 「では、そこの料亭で飛び入りの剣舞の仕事が入ったようですので」 ざっ、と立ち上がるクジュトたち。 そう。 彼らは裏切ったと判断した『クマタカ』の指定してきた「旧別れ橋」に行く前の料亭で、彼らを叩くことにしたのだった。 ● さて、千鳥屋の一階。 机の席が並ぶ一つに市女笠を被り外套を纏う旅人の姿が。上げた顔は、黒い肌に長い耳。褐色エルフのサラファ・トゥール(ib6650)その人だった。 「あ」 サラファが紫の瞳を見開いたのは、仲間に気付いたから。 「はい、こちらになります」 淑やかに来客を別の仲居に任せたと思うと、サラファの視線に気付いた。静々とやって来る。 ただ、動きのはじめだけ軽やかに爪先立ちから動いた。 ジプシーのアムルタート(ib6632)である。 「この度こちらに奉公させていただくことになりました。至らぬ所もあるかもしれませんがどうぞよろしくお願いいたします」 「天儀人風の肌の色に化粧してかつらをつけ、そしてここの従業員の服……。化けましたね」 しっとり礼をする姿を見て感心するサラファ。 「それはともかく、浪士組って警備してる人ってイメージだったけど、それだけじゃないんだね〜」 せっせと机を拭きながら小声で会話するアムルタート。 「捕縛もしますし、演奏もしますね。それより、いま上がった2人で合計4人ですか?」 「そーだね〜。予約は8人らしいけど、予定通りに集まったことはない人なんだって〜」 「うーん……」 ここで、入店したばかりのフランがやって来た。 「店員さん、上のお客さんは最後の晩餐だ。人数の再確認のためにも、旬のものをご馳走するから何人分欲しいか聞いてみてくれないか? なんならボクが市場に買い付けに行ってきてもいい」 「とりあえずは出入り口の封鎖とか見張りが必要なのかな……。大人数じゃないだけ、救いがあると見るか」 ナイスアイデアを口にするフランに、続いてやって来た雪斗が見通しを話す。 「じゃ、話してみるよ〜」 「ラブアさんによると、表と裏は回雷さんと豊さんを配置するそうですよ」 早速動くアムルタートに、新たにやって来た令琳が伝える。 「ボクは、本隊が突入後に正面から駆け上がるからここがいいかな」 「私は踏み込むまでは別室待機で、中の様子はこれで探ります。都合のいい部屋に案内してもらえれば」 「ああ……それなら目星はつけている」 フランは残り、令琳は考えがあるらしく二階へ。雪斗が令琳を案内する。 そして、サラファがナハトミラージュで気配を消し、新たな待機場所へ移動するのだった。 さて、二階の『クマタカ』たちの席に行ったアムルタートは。 「それじゃ、2人は遅れとるんでたちまち6人分でええよ」 「かしこまりました。それでは」 旬の魚が手に入ったことを伝え、特別に出すと話したところそんな声が返ってきた。 アムルタート、多くは言わずに下がる。 ちら、と視線が動いたのは部屋の隅に蜂が紛れ込んで止まっていたことに気付いたから。店員なら追い出そうとするなりするが、彼女は何もしない。 この時、別室。 「8人の予定で4人しか集まってないにもかかわらず、『2人遅れてるから6人分』ですか……」 先ほどの部屋に人魂を蜂にして送っていた令琳がニヤニヤと考えを巡らせていた。 「6人……だろうね。皆に伝えてこよう」 案内したばかりだった雪斗、立ち上がると「おっと」とふらつく。 「どうしました?」 「普段着はもうちょっと動きやすいんでね」 いつもの服は太股丸出しで動きやすいから、とは言えないようで、令琳にそれだけ言って辞した。 そしてしばらく後、千鳥屋の外。 「6人だそうです」 中の様子を見てきた市場豊が、外で見張っていたクジュトらのところに戻り報告した。 「しっ! 隠れて」 クジュトが豊を板塀の影に引き入れる。丁度、通りを人相の悪げな男2人が行き、千鳥屋に入っていった。 突入は近い、と気を引き締める空とリアだった。 ● そして、千鳥屋一階。 雪斗がここに客を装い待機するフランに目配せして、さらに外に向かって合図をした。 「フフッ。出番だね」 フラン、微笑してゆらり立つ。手には魔刀「アチャルバルス」。ややフランの顔色が青白いのは生命力をやや脅かすといわれるこの魔刀の影響かもしれないが、意を決したような顔つきは美しい。 ここでどかどかと突入組が踏み込んできた。 「雪斗さん、二階に一般客は?」 「仲居に気をつければ……あとは存分に」 聞いたクジュトに雪斗が小さく頷く。 「よし、ボクが正面から切り込もう」 「お願いする」 フラン、先頭で階段を駆け上がり、リアが続く。 「ヒヒッ。毒でも仕込みャ手っ取り早いッてェのに」 後詰めの空はそんなことを言うが、右手の忍刀のほかにちゃっかり左腕にアームクロスボウを装着している。 「命の保障はしなくていいって言ってもな……気がすすまんね」 殺る気で充実している空の横を、浮かない表情の雪斗が瞬脚で抜けた。 この時、フランは階段を上りきり部屋の襖に手をかけていた。 リアはそのまま廊下伝いに横に展開。 ――ぱん! フラン、ついに襖を開ける。 中では、ならず者どもは異変に気付いて武器を手にしようとしていた。心眼で察知していたらしい。 「問答無用じゃあ!」 「ボクも口上無用だよ」 敵、刀「牙折」を構えや一気に出てきた。「一閃」の極意である。 迎えるフランは、示現流「隼襲」で踏み込む。切っ先が分身するかのような刃は、柳生新陰流奥義のひとつ「柳生無明剣」っ! ――ざすっ! 先手必勝同士の激突は、合い打ち。 すれ違いざま互いに視線を交わす。 「フランさん、逃げられないようそのまま中に!」 ここで雪斗の声が響いた。 ――ぱんっ! 「余計な手間と労力をかけてしまうが、よろしく頼む」 このタイミングで横合いからリアが突入した。事前に仲間に言っておいた「襖は傷つけるな」を口にしながら。 「どうぞこちらから逃げてください!」 同時に部屋の奥でアムルタートが声を張った。仲居が避難しはじめる。 「畜生!」 リアに近かった志士は、座敷払からの居合で突っ込む。 しかしリア、怯まないっ! 「出所を叩けば、な」 リアの獲物は、九寸の鎧通し「松家隆茂」。体ごと突っ込んで腕を貫く。 「くそっ!」 引いて払う敵。さすがに食らうがやはり寄せるリア。無言の凄みに敵は部屋を横切る形でどんどん引いていった。 これが境界線となった。 「逃げずにボクに来るがいい!」 境界線より突入側では、フランが咆哮をかまして盾を構える。腰を抜かした仲居がいることに気付き、敵の注意を一身に受ける。こちら寄りに敵は合計3人。 リアは中央で1人と戦闘中。 そして境界線より奥の敵二人。 こちらは完全に浮き足立っていた。フランの咆哮にも耳を貸していないほどだ。 「うおっ! いつの間に」 「逃がしませんよ?」 気配を消していたサラファがリアの後から躍り出ると市女笠と外套を脱ぎ捨てた。派手に隙ができた演出に、敵は一転、切り掛かってくる。ナディエの跳躍移動で回り込んでいたのでどうしてもそうなるが。 「アムルタートさん、そっちは頼みます」 戦布「厳盾」で受け流しつつ声を張る。 「邪魔だっ」 サラファが攻撃を受けつつも仲間への声掛けを優先したのは、アムルタートがまだ仲居の衣装で武器すら構えてなかったから。敵はもう、料亭の者だろうが切り掛かろうという勢いである。 「いや〜ん!」 アムルタート、敵の横薙ぎを受けてきりきりと回り……。 と、思ったら。 「なんてね♪ さあさあ御縄の時間だよ〜♪」 回った動きで衣装を脱ぎ去ったではないか! その下からは、薄く軽やかにひらめくバラージドレス「サワード」を纏った妖艶な姿が現れる。それだけではなくジャンビーヤ「竜爪」とアキケナスの二刀を持っているのだ。 「いつ抜いたッ!」 「『プレスティディヒターノ』って、知ってる〜?」 うろたえた敵の気のない二の太刀をあっさりノウェーアで動きでかわし、ラスト・リゾートで流れるように武器を突き立てる。 「くそっ」 「あっ、卑怯!」 先の腰を抜かした仲居がここまで這って来ていたのだが、これを掴んでアムルの方に投げ、逃げを打つ。 「くっ!」 獄界の鎖で戦っていたサラファも敵一人で手一杯。マノラティで絡めようとするが届かず、戦っている敵から攻撃を食らうのだった。 ● 逃げた敵は傷口を押さえながら廊下を急いでいた。 が、その速度を緩めた。 目の前の襖が静かに開くと、二振り小太刀の陰陽二刀小太刀「照陽影陰」を構えた令琳がゆるりと出てきた。 「退路で安心したところを斬り伏せる予定でしたが……潜伏に感付いたということは志士ですかね?」 「黙れ!」 敵、竹林で一直線。 が、令琳。こうなると思っていたかすぐさま呪縛符でつたを絡める。 「どうでしょう。いま刀を捨てていただければ、命までは取りません。大人しくしていただけませんか?」 飛んでくる唾が令琳の頬にかかる。彼の糸目が一瞬不敵に笑った。 「はぁ、交渉決裂ですか」 「隙ありだぜ、兄ちゃん」 溜息をつくが、これは誘い。敵は知らず眼を殺気に漲らせ突っ込んでくる。 そこへ、眼突鴉。至近距離で敵の目に……詳しい描写は伏せるッ。 「うぎゃああああっ!」 「命を奪う覚悟があるということは、奪われる覚悟もあると言う事です」 もんどりうつ敵を見下しつつ、令琳は縄を用意する。 場所は変わって、突入正面。 「貴様、クジュトっ!」 最初のサムライが部屋の外に出つつ、最後尾にいたクジュトに気付き斬りかかっていく。その前に短刀「木千把丸」 を持った雪斗がいたが、これを横の大振りで下がらせていた。 「よほど嫌われてるんだな……」 クジュトへの突貫を許してしまった形の雪斗だが、むしろしてやったり。反対の手にはいつの間にか神秘のタロットを摘んでいた。カードは、「力」の正位置。目的遂行への充実した力を示す。 「毒の話が出てたな…‥これは猛毒だ」 雪斗のポイズンアローが敵を撃つ。 「くっ」 敵とクジュトの声が混じった。敵は横合いの攻撃に怯まずクジュトの胸を刃で狙ったのだ。 が、同時に敵の胸にも刃が襲っていた。 「秘術影舞と影ってな……」 気配を消してクジュトの背後に潜んでいた空だった。 「ん?」 しかし、敵は倒れない。そのまま階段をどんがらんと転がり下りて逃げる。 「私と一緒で、ここに鉄板でも入れてたんでしょう」 敵に刺されたクジュトは刃の立たなかった自らの胸を刺して言う。 「なァる。……だァが、俺に会ッた時点でめでたくDEADENDなんだよ」 階下の敵をアームクロスボウで狙う空。酔ったような口調。今度も敵の胸を狙ったぞ? 「無理です、空さん!」 クジュトは叫んだが、薄緑色の気を纏って飛んだ矢は、敵の胸に突き立った。 「月涙ってェらしいぜ? 良かったなァ。月に泣いてもらえて」 空の言葉は、もうぴくりとも動かない敵には届かなかったろう。 そして再び二階。 「雪斗さん、そっちを頼んだよ」 2人を相手にして1人を仕留めたものの、1人に逃げられたフランが叫ぶ。 「痛ェ。……ちっ。橋を利用して一直線にやっつけるつもりが……ひっ」 廊下を逃げる敵に、雪斗が瞬脚で回りこんで立ち塞がる。ばさっ、と仲居の服をついに脱ぎ捨て、いつもの女性ふ……軽やかな衣装に戻ってタロットをかざす。 「……痛みはあるかもなそりゃ、キミ達が他人に押し付けた痛みが。ならせめて償ってから逝けばいいさ……蛇牙、突き立てろ!」 雪斗、またもポイズンアロー。毒をもって社会の毒を制す。 「ちっ」 「恨みは無いんだけどな……全く、運が悪い人達だよ」 逆走をはじめた敵に、「太陽」の逆位置のタロットでサンダーを放つ。 「襖や障子が被害を受けないようにしたかったんだがな」 最後は横合いから出てきたリアがブラインドアタック。 これで終わったが、リアの表情が優れないのは料亭が傷付いたから。 「まあ、良い料亭ですし今度、団の皆さんと来るのも良いかも知れません」 「そうですね。ならず者の温床になっているなら良い手です」 1人を捕縛した令琳が言うと、女形衣装を脱いで軽装になったクジュトも頷いた。 「とにかく、これで終わりですね」 獄界の鎖で敵1人を捕縛したサラファも姿を見せて言うと、皆が頷いた。 後日、浪志組に千鳥屋から献金があった。ならず者の巣窟となって相当困っていた状況が改善されてきたのだという。 |