南那〜荒野に蘇る悪夢
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/25 19:36



■オープニング本文

●南那のこと
 泰国南西部に、海に面する三角形をした土地があった。
 東は急峻な山岳地帯があり、西にはアヤカシもいる深い森が広がっている。
 裾広がりとなる南には広大な砂浜があり製塩業が主産業。漁業も盛んであるが、近年海洋アヤカシの影響で不漁が続く。開拓者による討伐もあり徐々に回復はしているが、元の活況には戻りきれないでいる。
 半面、陸地では平野部が少なく主要河川の水量がやや乏しいこともあり、農作物生産高は低かったりする。
 泰国の長い歴史の中、飛空船の発達もあり戦略的価値の低くなった土地は幸いにも戦乱に巻き込まれることは多くなかった。理由のひとつが、攻めにくく守りやすい地形。歴代領主は専守防衛の立場を鮮明にして、賢明にも戦火を免れてきた。平地のすぼまる三角形の頂点たる場所にある城壁「北の砦」が南那最大の軍事施設であることからもそれが見て取れる。
 しかし、陸地外側を囲う土地はやがてよそ者を排すようになり閉鎖的となっていった。
 周囲の発展に取り残され、志体持ちなど血気盛んな若者は故郷を捨てるなど人材流出が続き、南那は衰退の道をたどることとなる。
 そんな、限界を迎えた土地に目を付けた旅泰がいた。
 彼は南那沿岸の尖月島を観光地にし、泰国南部では普通に飲まれていた珈琲を天儀に輸出することで不漁にあえぐ南那の経済を活性化させた。
 ひとつの転換点を迎えた瞬間だった。
 そして、土地の歴史は大きく動き始める。

●荒野に揺らぐ黒い霧
「守備隊長、特に異常はありませんでした」
「そうか……。しかし、そうなると予定の商隊はどこに消えたんだ?」
 南那北部の北の砦内で、そんなやり取りが聞かれた。
「馬賊かアヤカシにでも襲われたのですかね?」
 ある兵がつぶやく。
「馬賊か。昨年には紅風馬軍に領地を襲われたが和解してアヤカシを退治した。それに、紅風馬軍は海路から出てもらったはずだ」
 隊長は首を振って馬賊の可能性を否定した。この周辺は馬賊の活動域ではないし、西方の「アヤカシの森」を突破して侵入した紅風山千率いる紅風馬軍は周辺地域で活動させないよう、わざわざ海路で手厚く搬送したのだ。
 もちろん、他の馬賊が近寄っているという可能性はあるのだが――。
「伝令ーっ! たった今、北部緩衝地帯でアヤカシ出現の報ありっ。早駆けの定期連絡便からの情報。武装した骨鎧アヤカシ多数が発生、低速の商隊などはひとたまりもないそうです」
 さらにもたらされた報に色めき立つ守備隊。
「なんだと!」
「あんな場所でアヤカシなんて聞いたことないぞ」
「緩衝地帯、ってことは、俺たち南那正規軍が派手に出向くことは出来ない場所だな」
「こっちの出動領域まで来ればこちらの判断だけで出向くことが出来るが、あの場所にいるなら隣接領と協議することがまず先になるな」
 騒ぐ部下たちの中、うーんとうなる隊長。
「もっと詳しい情報はないのか? 位置と敵の数、および出現地付近の状況は」
「接続領地の中では南那が一番近いそうです。アヤカシの数は不明ですが、その理由が大きな黒い霧があって敵中心はそこにあると見られているからです」
「瘴気だな、そりゃ。とにかく、すぐに親衛隊長に連絡しろ」
 指示を出す守備隊長。そんな中、伝令の兵がぽそりと付け加えた。
「霧の中からは、『ゴゴゴゴゴ……』と重そうな何かが移動してるような音がしているんですが」
「……まさか、な」
 ははっ、と守備隊長は頭を振るのだった。

 こうして、北の事変が南那の中心都市、椀那に伝えられた。
 親衛隊長・瞬膳(シュンゼン)の対応は、「正規軍によらない、開拓者の小隊で強行偵察し敵の正体を暴く」というものだった。
 南那北部の荒野に霊騎(なければ軍馬の貸し出しあり)に乗って急行し、偵察戦闘をする開拓者が募られるのだった。
 深夜真世(iz0135) も、もちろん出陣する。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
萬 以蔵(ia0099
16歳・男・泰
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂


■リプレイ本文


「正規軍はあの地帯に周辺領地への許可なく立ち入ることはできない。申し訳ないが、馬賊侵入とアヤカシの暴虐を食い止めた英雄にもうひと働きしてもらうことになる」
 南那北部の「北の砦」中庭で親衛隊長・瞬膳(シュンゼン)の声が響いた。
「英雄って、そんな……」
 霊騎「静日向」に乗った深夜真世(iz0135)が照れている。
「ほら、アンタは英雄に担ぎ上げられてるんだからそれっぽくしないと。ここには前に戦った時の人員はいないんですよ。ぴしっとしないと」
 元・紅風馬軍で結局南那に残った論利(ロンリ)が、乗っている馬を真世に寄せて彼女の腰を叩く。
――ひひん!
 ごちゃごちゃやってる二人の横に、新たな騎馬が現れた。
「南那の平和を守るため、やってきました帝国騎士。……美人双子姉妹登場!」
 アーシャ・エルダー(ib0054)がびしっ、と背筋を伸ばし声高らかに言い放つ。霊騎「テパ」ととも育ちの良さの伝わる登場をする。
「お姉、相変わらずテンションが高いですね」
 アーシャの横に、妹のアイシャ・プレーヴェ(ib0251)がくすっ、と微笑しながらつける。姉が太陽のようであれば、妹は月のように柔らかく。霊騎「ジンクロー」も落ち着いた様子で、やはり育ちの良さが伝わる。
「ここの兵とは初めてですからね〜。最初が肝心です。……真世さんも一緒に参戦ですね、大丈夫、みんな強いからどーんと気楽に構えていてください」
「まあ、そのくらいの方がいいかもしれません」
 どーんと胸を反らすアーシャに、ふふふと見守るアイシャ。
「南那に来るのも久しぶりだな、ユィルディルン。……真夜さんもお久しぶり。静日向とはうまくやってるか?」
 今度はクロウ・カルガギラ(ib6817)が反対側から霊騎「ユィルディルン」を真世の横を通りながらぽんと彼女の肩を叩く。
「周りがどう言おうが関係ない。久しぶりの南那でおいら、頑張るぜ!」
 だから真世も、な、と言いたげに萬 以蔵(ia0099)が霊騎「鏡王・白」を真世に寄せて、肩をぽん。真世の方は、「うんっ。クロウさん、以蔵さんっ、今回もよろしくねっ」。
「ほ〜う。英雄さんらと一緒か? おっさん、光栄だねぇ」
 真世たちを遠巻きに見ながら呟くのは、アルバルク(ib6635)。彼はアーシャやクロウたちとは逆に育ちの良さなどは見えないが、霊騎「アラベスク」に乗る姿は歴戦の雰囲気が漂う。本人は斜に構えているようではあるが。
「英雄さんと一緒なんだ? あたいもダイちゃんも、光栄だねぇ」
 横ではアルバルクの言い方を面白がった小さな砲術師少女、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が口調を真似て斜に構えていたり。彼女を乗せた白い霊騎「ダイコニオン」も、緑色の鬣を揺らせながら「ひひん」と嘶き楽しそうだ。
「担ぎ上げられとるだけやしな。それより、軍馬を借りた二人はどうやろ?」
 ジルベール(ia9952)が霊騎「ヘリオス」の馬首を巡らせやって来た。亜麻色の体毛が美しい馬で、ジルベールに良く懐いている。
 その、ジルベールの視線の先。
「どうだ〜?」
「突出する気はないしナ。むしろ都合がイイ。……ネプはどうだ?」
 ふわふわ浮かぶ人妖の狐鈴に見守られる中、軍馬を借りて乗った梢・飛鈴(ia0034)が手綱を持ち馬の反応を見ながら言う。
「はぅ! これで無事にムスペルを運べるです。初実戦、思いっきり暴れるのですー!」
「……駆鎧に夢中だナ」
 火竜タイプの駆鎧を入れたアーマーケースを背負い騎乗したネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)は、もうはしゃぎまくり。気にすることもなかったかともふら面の位置を整える飛鈴。
「まあ、暴れたあとの回復ならわたいにまかせろー」
 狐鈴は神風恩寵などを準備してきたらしい。
「ん? 狐鈴ちゃん、いつもと口調が違う?」
「ま、そこそこに真面目なんと違うカ?」
 気付いた真世が遠くから突っ込みを入れてくる。言葉の響きがいつものひらがな口調ではなく感じ口調なのだが、飛鈴が代わって応えてやる。
「開門準備整いました!」
 そうこうするうち、瞬膳に報告が入る。
「真世さん、気をつけるんですよ♪」
 アイシャがぎゅっと真世を抱き締めたところで、出陣の合図。
「開門、出撃っ!」
 瞬膳の声とともに、開かれた門から一斉に十騎が駆け出した。



――ドガガッ、ドガガッ!
 不審な霧とアヤカシの目撃情報があった方面にひたすら向かう。
「しかし、あったかくて長閑でエエ所やのに、折角の平穏も長くは続かんか……南那の人らも苦労するなぁ」
「ところでなんだい、歩兵・騎兵・アーマーって普通拝めねえ組み合わせだぜ」
 物思いにふけるジルベールに、アルバルクが「微妙に俺らも苦労するかもだぜ?」と先行きを話す。
「正体不明のアヤカシ集団が相手だ。むしろ都合がいいのかもしれん」
「はぅ。力の強そうなのがいたら力比べなのです!」
 可能性を口にするクロウ。当のネプはまだ見ぬ敵本体のパワーを判別する気満々だったり。
「威力偵察だからな。出来うる限り交戦機会を長引かせて霧の中に潜む敵情報を得られるよう図るぜ」
「ネプさん、以蔵さん。総撤退の合図は決めておきますから、聞き逃さないで下さいよ」
 アイシャがヤル気で漲る二人に慌てて呼子笛で吹いてみせる。ピッピッ、と短く二回で総撤退伺い及び総撤退了解。ピーッと長く力強く吹いて総撤退と決まった。
「じゃ、骨鎧の上限を見極めるため霧の中へ2組が別方向から突入でいい?」
「あたいは突入する人を支援する部隊になるよ」
 アーシャが提案しつつ左に位置を変え、アイシャが続いた。これを聞いてルゥミが中央に上がる。
「真世さん、俺らは援護射撃や。落ち着いて確実に狙ってこ」
「うんっ」
 にこっ、とジルベールが真世をエスコートしてルゥミに続いた。
「じゃ、霧の中はもらった」
 飛鈴は静かに言い放ち、まず露払いする援護射撃組の後ろに付いた。
 そのすれ違いざまに、ジルベール。
「しかし霧の中の重そうな音なぁ。……移動砲台とかやったら嫌やなぁ」
「……十分ありうるんじゃねぇか?」
「はぅ! わくわくするのです〜」
 アルバルクがぼやき、ネプがむしろ嬉しそうにしながら飛鈴と同じ位置に。
 やがて、荒れ果てた大地は急峻にそそり立つ岩山に阻まれて大きく右に曲がる。
「おい、あれ!」
 ここで、左に寄せていた以蔵の声が響いた。
 前を促す声に全員が注視すると、遠くに黒い霧が見え始めた。
「あれは相当でかいな」
 同じく、以蔵やアーシャ、アイシャと同じく側面攻撃位置に寄せていたクロウが呆れる。
 黒い小山とでも言えそうなほどの大きさだったのだ。出発した「北の砦」の城壁程度に高い。
 しかも小さな砦がすっぽり隠れるくらいの幅もある。
 移動砲台説、ここにきて現実味を帯びてきた。



 一行、さらに接近する。
「鎧を着た骨のアヤカシが霧より先行してるみたいねっ!」
「向こうも気付いたようやな」
 一番前に出た援護部隊。真世が朱春弓を構え、ジルベールが戦弓「夏侯妙才」を用意する。
「真世さん、ジルベールさん、あたいに任せてっ。……黒霧もくもく左衛門、あたいが相手だあっ!」
 代わってルゥミが前に出る。
 ダイちゃんに乗ったまま構えるは、魔槍砲「死十字」。
「ホネホネいっぱい。みんなやっつけてあげるよ!」
――ピカッ!
 十字架状の銃の先に閃光が生まれると、一気に迸った。
――ど〜ん!
「どうだ! 魔砲『スパークボム』」
 着弾点の付近の敵を一気に巻き込むッ。
 が、意外とアヤカシはまだ健在。
「骨のくせにえらく頑丈ねっ」
「よし、今や」
 呆れる真世に、ジルベールの合図。中央に一斉射撃するが、敵も止まって盾を構える。防御重視だ。
「次。真世さん、敵の顔ねろぅてみて?」
「こ、こう?」
 突っ込むのをやめた敵が、高い位置への攻撃に仰け反る。盾も上に。
「おおきに。下狙う時は腰骨辺りねろぅてな?」
 手伝わせた分はきっちり決める。ジルベールが盾をかざした敵一列目の、がら空きになった腰を狙って砕いた。これで完全に敵出足をくじいた形となる。
「そして連発。そーれ! どっかーん!」
 ルゥミもここにスパークボムを重ねた。さすがに数体が瘴気に返り消滅する。
「よし、回り込む。多少の危険を冒しても敵中心部を確認しなくちゃな」
 左ではついに側面攻撃班、クロウが動いた。ドカカッ、とユィルディルンの足取りも力強く、騎乗戦技でまずは先陣を切る。
「……やっぱおいら、正面組の敵に側面攻撃するよ」
 クロウに続いていた以蔵が、声を絞り出した。
「こっちはど〜んと任せといて」
「……確かに、今は霧の中の方がアヤカシの数が少ないようですけど」
 後続のアーシャ、味方が減って怯むタマではない。アイシャはジンクローに身を委ねつつ鏡弦で探っていたが、表情は晴れない。霧内部が判然としないのだ。
 この時、結構な数がいる敵正面は援護組の猛攻で中央を減らし、左翼はクロウたちに気付いて動きを乱していた。
 ここを友軍正面が見逃すはずがない。
「こじ開けるぜ?」
 アルバルクが振り向いた先に、軍馬を下りて真世に預けた飛鈴とネプがいた。
「いくかイ」
「はぅっ! 頼むのですっ」
「編成がこうごちゃごちゃしてちゃあな。飛び回るしかあるめえよっと」
 アルバルク、行った。飛鈴とネプが徒歩で続く。
「ルゥミちゃん、真世さん、右だ」
「分かったよ、ジルベールさん。どっか〜ん!」
 援護組は右の敵を牽制する。
「おいらは……。今後のために良く見えるところで戦っておくつもりだぜ!」
 左の敵には以蔵が単騎突っ込む。長い絡踊三操を前に出し、倒す目的ではなく近寄らせないようにしながら敵の出方を見る戦い方だ。剣で敵の攻撃を受けては、絡めるようにして弾く。
 棍を突き出す様にして迫るがしかし、敵は多い。当然片方に振るってる間に逆から突っかかってくる。
 そしてついに懐に入られる。
「くそっ。これでも食らうがいいぜ!」
 以蔵、正拳突き……いや、爆砕拳で応じた。凝縮させた気を拳に宿し、鋭い突きを放つ。
――どぉん!
 爆音とともに大ダメージ。この隙に棍をふるってまた有利な間合いを取るが、やはり単騎突っ込みはきつい。
「ふう……」
 一旦駆け抜け生命波動で一息つく。援護射撃に感謝しつつ。
 そして、中央。
「よし。おっさんが隙作るんで行ってくれ」
 アルバルクが戦陣を発揮してネプと飛鈴に指示した。
 と、同時にアラベスクが猛り大きく跳躍した。
――ぐしゃっ!
 着地ざま敵を踏みつける。
「行きなっ」
 アルバルクは着地と同時に周囲を切り抜け。ファクタ・カトラスの極意でシャムシール「アル・カマル」の刀身をひらめかせると敵の足元を狙った。明らかに、目立って狙われつつ敵の足を止める作戦。
「ありがたイ」
「ほら、おっさんそのくらいは紳士だからよ?」
 これで正面突破に成功するネプと飛鈴。
「はぅ! ムスペルで思いっきり暴れるのですー!」
 ネプは霧の手前でアーマーケースを開放した。
 瞬間、どどんとそそり立つ火竜型アーマー「ムスペル」。
「この隙に黒い霧の中だな」
 飛鈴のほうは、したたた、と黒い霧に近付く。
 当然、中からは新たに骨鎧が。
「遅い。ってなァ」
 迷わず前進して格闘間合いに入る飛鈴。アーマードヒットの拳を叩き込む。スキルなしで何発必要か確認する予定だが……
「まだ、まだ、まだッ!」
 攻撃を食らいつつも続けざま三発、合計四発をぶち込む。ようやく崩れ落ちた骨鎧。
「次はわたいの方たのむ」
 次の敵がなかなか来なかったのは、狐鈴が呪声で敵を攻撃していたため。
「結構手間だナ」
 今度は暗勁掌で密着。手早く三発で倒してから黒い霧の中に逃げた。
 中は暗い。
 そして、感じたッ!
――ごごごごご……。
「……ン? 狐鈴、暗視使えば見えるカ?」
「計画性がないからこーなるといわざるを得ないなー」
 不気味な気配に目を凝らす飛鈴。思わず付近に浮く狐鈴に話を振るが、残念ながら狐鈴は暗視を取得していない。いつもなら減らず口に突っ込む飛鈴であるが、今は見上げて息を飲んだッ!
「こいつハ……」



 この時、左翼側面攻撃部隊も黒い霧に突入しようとしていた。
「骨鎧ごときが帝国騎士の進軍を止めるなんて無理無理〜!」
 アーシャが長い髪をなびかせ、ぶうんぶうんと長柄槌「ブロークンバロウ」を気持ちよく振り回す。
 黒い霧からは新たに骨鎧の集団が迎撃に湧き出してきていたのだ。
「お姉! 今回は敵の正体を見極めるだけでいいんですからね! 無茶はしません様に」
「ふつーふつー。アイシャの援護もあるし、遅い徒歩の敵を蹴散らしながら行くだけですからね〜」
 呼び掛けるアイシャを振り向きもしないアーシャ。
 アイシャの方は先ほどから引き続き、射程自慢のロングボウ「フェイルノート」でバーストアローを続けている。霧の中から出てきそうなところにとにかく撃ち込んでいる。これがかなり効果的。
 が、それもお終い。
 アーシャがついに黒い霧に突っ込むから。
「アイシャさん、どうする?」
「もちろん」
 寄って来たクロウが聞いてくる。手短に頷くアイシャ。
 クロウの方はにこりとして視線を外す。寄って来ていた敵にフリントロックピストルを一発かますと一気に突っ込んだ。戦陣「槍撃」で指揮を取る。
「さあ、ジンクローいきますよ!」
 アイシャも人馬一体でこれを追う。
 そして、アーシャ。
――ごごごごご……。
「見えた! ……けど、これって」
 アーシャ、見上げて息を飲んだ。
 目の前には、出発した北の砦のような大きく高くそびえる壁があったのだ。その高さ、約7メートル。だが、幅は砦ほどではない。下の幅は約10メートルか。
 時を同じくして、正面の飛鈴。
「おー。丸太みたいなのが縦に三つ並んで出たり入ったりしてるなー」
 見上げた狐鈴がのほほんと言う。
「講談師の話す戦記モノに出てくる破城槌そのものカイ」
 さすがに苦無「獄導」に換装した。投げつけるがきいているのかどうかは不明。当たった部分は黒い霧が消えるが、微速前進している巨体が止まるはずもない。
 場面はアーシャに戻る。
「まさか、破城塔?」
 ごごごご、というのは塔の足元の大きな車輪群の音。とんでもないことにアヤカシなので自走式だ。
 が、これで攻撃の手を緩めるアーシャではない。
「ちょうど焙烙玉があるんですよね〜。テパは危ないと思ったら霊鎧で防御を固めてね。頭いいからちゃんと使いどころ分かってるよね? 行くよ、テパ」
 アーシャはガードで、テパは霊鎧で守りを固めつつ、骨鎧に構わず突っ込んだ。
「お姉!」
 ここでアイシャが降って来た。
 高速走行で追い、今、ジンクローが踏みつけでどーん。
「アイシャ、ありがとっ。……さあ、喰らいなさ〜い!」
 アーシャは敵の攻撃を受けながらも突破し並走すると、車輪にもぐりこませるように焙烙玉を転がし離脱。
――ど〜ん!
「どう?」
 振り向くと爆発したあたりの黒い霧は消滅したように晴れていたがまた霧が隙間を埋めた。爆発した場所に傷すらない。
「車輪すら壊せないってこと?」
 不満たらたらに言うアーシャ。
「おっと、危ない」
 ここで、彼女に迫っていた敵を薙ぎ払いつつ駆け抜ける姿が。
「心置きなく戦ってくれ。とにかく騎兵の突撃なので足を止めないように」
 クロウだ。
 振るう刃はシャムシール「アッ・シャムス」。
 包囲に入っていた骨鎧たちの陣形を切り裂き、駆け抜けざまの戦術攻で指揮を取る。
「ん?」
 そして気付く。
 敵の破城塔の形状に。
「防壁は前面と両側面。裏は何もなく、三階層で中は黒い霧の濃度が高く視界が悪いが……骨鎧がここから出てる、か」
 霧の中心はここだな、と判断。
 無理はせず、今はまたアーシャとアイシャの支援に走る。



 一方、正面の霧の外。
「はぅ! いくらでもかかってくるといいのです! 右腕でどんどん敵をなぎ払っていくのです!」
 ムスペルに乗り込んだネプが、桜色のアーマーに乗り組んで暴れまわっている。右腕で繰り出す大きく無骨な五枚爪がぐわしぐわしと骨鎧を蹴散らす。三発も食らわせれば激しくお釣りがくるような破壊力。
 圧倒的な威圧感。
 絶対的な存在感。
「はぅ! いくらでもかかってくるといいのです!」
 と、ここで微速前進してくる黒い霧に包まれた。
「はぅ〜?」
「さ。連中の程度ってもんは大したことねぇが、中身も見ねえとな」
 アルバルクも霧に突入してきた。すでに骨鎧たちの野戦や高速戦闘時の連携能力はそこまでではないと見切っている。それが指揮官不在か目的が違うのか、そもそもの実力なのかはともかく。
 そして、やはり息を飲む。
「やばいぜ、アーマーはよっ!」
 アルバルク、ネプを振り返った。アーマーはを圧倒する存在に思わず鋭い声を上げるッ!
「力比べしたかったですけど、さっさと離れるのですよ!」
 さすがのネプも正面からは無謀と悟った。すぐに離脱行動に入ったため、間一髪で右手に逃れることができた。
 かに見えたっ!
――ガキッ!
「はうっ」
 突然、アーマーのバランスが崩れた。ネプは何が起きたか分からず転倒し、したたかに体を打つ。
「バカな。側面から杭だとぉ?」
 こちらは無事に前方から避難できたアルバルク。敵の攻撃の正体を知った。
 車輪の間から伸びた、先の尖った細い丸太が飛び出てムスペルの脚部に命中したのだ。
「まずい、垂直の杭でターンする気だ」
 観察に徹していたアルバルク、敵の動きを看破した。
 壁面に取り付けられた垂直の杭が地面に打ちつけられていた。これで固定しピックターンするつもりだ。
「もう骨鎧どころじゃナイな」
 横滑りに入ったところで、右手後方からわらわら現れる骨鎧と戦っていた飛鈴が戻ってきた。
「一発喰らっときナ!」
 走り込みつつためる右手に、炎の鳳凰が宿。ケーン、という鳴き声とともに繰り出される鳳凰の羽ばたきは一撃に懸けた飛鈴の拳。その名も天呼鳳凰拳ッ。
――ガスッ!
 一瞬、ピック周りの瘴気が消滅した。もしかしたらピックも消えたのかもしれない。抵抗がなくなった分、やや外に流れる巨体。そのままターンは諦めた。
 この隙に駆鎧を納めるネプ。
 同時に、外から笛が二回。右翼、左翼からも二回応じ、長い笛が。
 撤退である。
「よーし、てめえらも引くといいぜっ」
 以蔵が破軍で溜めた一撃で敵を屠る。
「真世さん、援護頼む。……ネプさんと飛鈴さんはこっちや」
 ヘリオスの踏み付けから太刀「重邦古釣瓶」で周囲を切り払っていたジルベールは真世に援護してもらう間に弓に換装し、軍馬に戻る二人のためバーストアローで道を開けてやる。
「お姉。もう十分偵察しました。最後の石つぶてを撒き散らすのはたまりませんでしたね」
「うん。……テパの脚、信じているからね。真世さんの淹れた珈琲を飲みに行かなくちゃ」
 破城塔の旋回運動の外側にいたアイシャとアーシャは撒き散らされた石をもろに受けてひどい目にあっていた。最後の力を振り絞り離脱する。
「くそっ。……しかし、収穫はあったな」
 クロウも馬首を返し続く。
「ネプ、乗れ。……置いてけぼりはナシだぜー」
 アルバルクはアーマーをケースにしまったネプを乗せて戦いつつ先行離脱。
「お。道を作ってくれるらしいぞー」
「敵が見逃してくれるかドーカ」
 狐鈴と飛鈴が後を追う。
 懸念はすぐに晴れた。
「やっほー。殿はあたいだよ〜。さっきの間に弾込めたから、まだまだ撃てるよ」
 ルゥミのスパークボム支援がここで来た。ロデオステップのダイちゃんに身を預けつつ魔槍砲を構えて。
 もちろん、外からは見えないがでっかい敵がいるという情報は届いている。むしろ好都合と適当に霧の中に撃ちまくる。
 やがて、ネプと飛鈴が軍馬に収まると高速で離脱するのだった。

「はぅ。ムスペルの耐久性はさすがだったのです。やっぱり火竜素敵なのです!」
 帰還したネプは駆鎧の良さを実感していた。
 ともかく、敵の正体は判明した。