【空庭】水の帳に隠されて
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/08/26 21:11



■オープニング本文

●いにしえのはらから
 口の重たかった古代人唐鍼であったが、尋問などの担当を開拓者らと交代して後は、少しずつではあるものの、疑問への答えを口にし始めた。
 その詳細は他に譲るものの、尋問記録は整理され、順次関係機関へと送られていく。
 唐鍼は言う。我々は護大を奉ずる者。護大派であると。
 ならばと問う。護大とは何か――護大とは空と呼ばれる全だ。世界の尽くを滅ぼし、破壊の後に再生を始める存在。護大は全てを兼ね備え、あらゆる対立概念を内包する。故に、全にして渾沌である。
 絶対的存在、なのではない。護大とは、絶対そのものであると。
「世界は、滅びを受け容れねばならない」
「なにを……」
「全ては滅び、滅びの先に再生が始まる。それが護大の不朽の愛(アガペー)だ」
 思わず喰って掛かりそうになる開拓者を、他の者が押し留める。
「何か手立てはないのか?」
「元より護大を滅することなど不可能だ。ある訳がない」
 末端の一員に過ぎない自分に解る筈ないと首を振る唐鍼に、開拓者たちは声を揃えた。それでもいい。可能性は自分たち自身の手で探るから、少しでもいい。知っていることを教えてくれと。押し黙る唐鍼であったが、彼は、やがて小さく口を開いて――

●冥越にて
 唐鍼(からはり)という男がいる。
「だからして……」
「ふむふむ、つまりあれか?」
 多くの者が話し合う会話から、古代人らしく御大派であるとか。
「……ううう」
 冥越で大切な依頼を終えた後のコクリ・コクル(iz0150)は、新たにもたらされた情報の飛び交う中で圧倒されていた。
「さりとてこれまでだれも……」
「つまりそれなりの……」
 朝廷からの使者やギルド職員、開拓者たちがあーだこーだ言い合っている。
 それはそれでとても大切なことなのだが、コクリには理解の追いつかない話のようで。
「その一つが、『裏のある場所、手掛かりのある扉の奥』と」
「ん?」
 コクリ、この言葉には反応した。
 何だか冒険のにおいがして謎っぽい。
「裏のある場所……ここ冥越でか?」
「魔の森に沈んで、主たる大アヤカシを倒してなおもその姿のまま。裏だらけとも言えるではないか」
「昔からの秘密だから、遺跡だとは思うが……」
「裏のある場所ねぇ。森だらけの中で」
「しかも、封印を解くための手掛かりを探すのに手掛かりのある扉の奥とは……」
「手掛かりって……取っ手のことか?」
「普通扉にはついてるだろう」
「いやいや、通さないつもりならついてないかもだぞ」
 よく分からない手掛かりに、出るのはため息ばかりだ。
「おおい」
 ここで追加の情報がきた。
「裏のある場所に身を潜めた何者かは抜刀術に長けていたらしい」
「なるほど」
 ここでぴんと来た者がいた。
「抜刀術の使い手なら一対一が好みだろう。手掛かりのある扉ってのは、1人ずつに選別する機能があるんじゃねえか?」
 おおー、とどよめきがわく。
「あっ! 『裏のある場所』」
 ここでコクリ、大きな声を上げた。ぎろ、とその場にいた全員の視線が集まる。
「チョコレート・ハウスでここまで来る途中、滝を見たよ」
「それだっ!」
「お嬢ちゃん、その滝はどこにあった?」
 中型飛空船「チョコレート・ハウス」でここまで来る途中、偶然木々に隠れるようにしてたたずんでいる滝を発見していたのだ。
「おおい、他に滝のある場所を知ってるやつ、いないか?」
「そんなの待ってられるか。お嬢ちゃん、すぐに案内してくれ」
「おい、腕の立つ者はいないか? 敵は抜刀の使い手だ。一対一で来ると思われる」
 途端ににぎやかになる。

 あなたはこの騒ぎを聞きつけ、腰を上げた。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
水月(ia2566
10歳・女・吟
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
星芒(ib9755
17歳・女・武
小苺(ic1287
14歳・女・泰
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文


 コクリ・コクル(iz0150)たちは上空の中型飛空船「チョコレート・ハウス」から艦載滑空艇を駆り、件の滝壷横の広間に降り立っていた。
「近くにアヤカシはいないようですね……」
「ん……滝つぼも……大丈…夫」
 左右を警戒しながら細身で小麦色をしたロップイヤーの獣人、サライ(ic1447)が静かに言うと、視線を落としていた白く落ち着いた雰囲気のある水月(ia2566)がこくこくと頷く。
「今度は滝の裏の洞窟か…何が隠されているかワクワクするよね。コクリ」
 滑空艇の翼を折りたたんで隠してきた天河 ふしぎ(ia1037)も二人所まで来て振り返り、にこっ。
 そしてあわわ。
「新しい冒険になりそうにゃね♪」
「コクリにゃんとまた冒険にゃ、嬉しいにゃー♪」
「わわわ、ちょっと千佳さんも小苺さんも激しすぎー!」
 猫宮・千佳(ib0045)と小苺(ic1287)がコクリにはぐはぐと挨拶してたっぷりとスキンシップを堪能していたり。
「今度は滝に遊びに行くのかと思ったら調査だったのねぇ……それにしても、小さいコが集まったわね♪」
 そんな様子を御陰 桜(ib0271)が横目に見て和んでいる。
「きっちり仕事を終わらせた後で余裕があったら遊んでもイイわよね?」
 にこ、と隣にいる星芒(ib9755)に話し掛ける。
「抜刀術使いを突破すればきっと大丈夫☆」
 どちらかというと背の低い星芒、桜を見上げて明るくにこっ☆。
「じゃ、行こう。この謎も僕達の手で解き明かす為に!」
 気を取り直して声を張るふしぎ。
「ありました。滝の裏側への道です」
 先行偵察に行ったサライがおーい、と手を振っている。
「みんな、行こう」
「冒険に終わりはないのにゃ、うっしゃあにゃー!」
 コクリの言葉に小苺が飛び跳ねて、さあ出発だ。



 洞窟の中は十分な広さがあった。
「滝の裏だけあって涼し〜☆」
「足元に水溜りが多いのもあるんだろうね」
 ん〜、と気持ち良さそうに伸びをする星芒。その横でコクリが足元を気にしている。
「中はヒカリゴケで明るいみたいだし濡れてる足元にさえ注意シてれば大丈夫かしら?」
「そうですね。特に敵の気配はないですし」
 桜が壁面で淡い光を放つヒカリゴケを見ながら言う。周囲を抜け目なく探っていたサライが頷いた。
「この光るやつが外でも使えたら便利なのににゃー」
「……あ……」
 千佳がぴぴんと来てヒカリゴケの方に。水月が先に手を伸ばしてヒカリゴケを岩からむしると、ポロリと崩れて光を失った。元の場所からは水がにじんでいる。
「気をつけて。ここから下り坂になってる」
「滝の水がこっちに入ってたら水没するにゃね」
 ふしぎが皆に注意し先を行けば、小苺が見えなくなった滝の方を振り返る。
 しばらくすると平地に。
「天井はあまり高くないね。鍾乳洞みたいにでこぼこしてる」
「コクリちゃん。そういえばここって、、なんの封印解く手掛かりがあるの?」
 上を見るコクリに星芒が聞く。
「え? そういうのはまったく知らされてないんだ。ただ、『手掛かりのある扉の奥』と『居合いの使い手がいる』だけしか……」
「あ、ありました」
 コクリがそこまで言ったところで、先行していたサライが振り返った。
 先が行き止まりになり、扉のようなものがあったのだ。
 取っ手などがない代わりに、右手とも左手ともつかない大きな手形の窪みがあるだけだ。
「扉は破る為にあるのにゃ。突破するのにゃー!」
 勢いよく前に出てきた小苺がその窪みに左手を合わせたときだったッ!
「あっ!」
 皆の声が響く。
 一瞬で小苺の姿が、消えた。
 扉の手形も消えている。



「にゃにゃ?」
 転送された小苺、すぐに理解した。
 目の前に、ゆうらりと軽鎧の幽霊剣客が立ち塞がっていたのだ。
「これがコクリちゃんの言ってた『居合いの使い手』にゃ?」
 言うが早いか敵が問答無用で動く。しゅるりと生き物のように腰溜めの刀が円軌道を描くッ!
 いや!
 小苺、この突っ込みより早く踏み込んで刀の柄の動きに炎甲「軍荼利明王」の拳で合わせた。刀は抜刀しきらない。
――ざ!
 敵、踏みとどまって反転し、再び左手で抜刀。今度は至近距離。
「ぶっぶーにゃ★」
 何と小苺。この軌道を軽やかな背面飛びで飛び越えた! すたんと着地した時には再び半身になった敵の背後。
「当って砕ける……にゃにゃ、砕けてたまるかなのにゃ」
 全身が赤く光って鋭い踏み込み。もう敵を振り返らせずに拳で射抜く。
 かしゃん、と敵が崩れると近くにまた手形の扉が現れた。
 小苺、先に進む。

 こちら、最初の扉。
「あ。手形が……」
 再び窪んだのを見て、サライが調べようと右手を伸ばした。
 そして、サライも消えて手形が消えた。
「一緒だけど……広い?」
 はっと気付いたサライ。周りを確認すると同時に大きく後ろに跳ねた。
――しゃきん……。
 敵の幽霊剣客が問答無用で抜刀を仕掛けていたのだ。いまはもう、再び鞘の中だが。
(できますね)
 きらん、とサライの瞳が本気になった。
 ここからの展開は目にも留まらない。
 サライ、苦無「烏」を二本全投擲しつつ移動。敵はかわして接近して右手で抜刀。サライはいない。
 はっと気付いた敵。サライ、右手やや後方にいた。苦無の補充が終っている。
 踏み込む敵。
 右に円弧を描き舞うように投げるサライ。先と同じ動き。これは命中したが敵も食らうのを覚悟して斬り付けた。
 敵、早くもサライの動きを見切っている!
 その、瞬間だったッ!
 斬られたサライが体を伸ばして苦しそうにきりもみする。
 いや、踊っているのか?
 敵は止めとばかりに踏み込んだ瞬間……。
――とすとす、とすっ! カシャーン。
 リロードを短縮した苦無多数が飛んで来た。この手数には敵も怯み、やがて倒れた。
「見事な技ですが…相手が悪かったようですね」
 夜と無刃を連発したサライ。現れた扉に手を合わせ後にする。

 再び、最初の扉。
「どっちの手を当てるか、知ってる人か知らない人かを判別する仕掛けなのかな?」
 星芒が調べていた時、運悪く手形の窪みが復活した。
 転送されたとき、かざした左手の先に左構えの幽霊剣客を見た。
「あ、お疲れさまっ☆」
 思わず挨拶したが、敵は抜刀で応える。
――ずばっ!
「あっぶない☆」
 星芒、敵の軌道をかわして仏剣「倶利伽羅剣」の柄を入れていた。天狗駆の足元は安定し、カウンターが冴える。
 そしてすれ違う二人だが、敵がすぐさま反転し襲い掛かる。
「動き易さ重視ならそう硬くはない筈っ」
 今度は不意打ちではない。構えた仏剣に気力を込めて……。
「吹っ飛べ!」
 刀と剣がぶつかる!
 そして、強力な衝撃波が敵を襲った。
「これでどう?」
 追撃に、もう一度烈風撃!
――カシャン……。
「ラッキー♪ ブイッ」
 腰を捻ってVサインし、ウインク。先を急ぐ。



 外では次にコクリが右手を掛けて入り、その後千佳が左手をかざして追った。
 そして見たッ!
 コクリが力なく倒れているところを。
 同時に、ゆらりと幽霊剣客が立ち上がっているッ!
「コクリちゃ……うににっ! 許さないにゃっ!」
 怒りの千佳、コクリを気遣い離れつつマジカルワンドを振るった。
「マジカル♪ フローズにゃー♪ 冷たくなるといいのにゃ!」
 敵に冷気を纏いつかせ出足を重くさせるが、さすが抜刀の使い手はそれでも早い。あっという間にすれ違い斬られた。が、こけていたので傷は浅い。
「うに!? 近くに来るのは禁止にゃ! マジカル♪ 壁ー」
 千佳、今度はコクリを背後にしている。絶対ここで止めるとばかるにストーンウォール!
――どか、どかっ、どかっ!
 壁を崩したとき、敵は見た。
 にゅふふん♪ と勝ち誇っている千佳を。
「新しく覚えた魔法……必殺のマジカル♪ アッシュにゃー!」
 ふりん、とパニエたっぷりなスカートと小さなお尻が跳ね上がり、千佳、渾身のララド=メ・デリタ。
――ぱり〜ん。
 灰色の球が敵の左手首を消滅させると同時に、敵は崩れ落ちた。
 千佳、衣装下の胸当て装甲を砕かれ気絶しているコクリを背負って先に行く。

 扉の外。
「ならば僕は、この進む道を己の利き腕に託す」
 ふしぎが、キリ、と顔を上げて右手をかざす。
 すると、転送。目の前に幽霊剣客が右構えで睨んで……突っ込んできてる。
「僕の瞳を見ろっ!」
 ふしぎ、動じない。
 ぎん、と集中する瞳。
 敵、抜刀できない。
「……遅い」
 逆に霊剣「御雷」を引き抜き敵に迫る。
――がきっ!
 敵、鞘入りのままふしぎ攻撃を防いだ。
 いや、すぐさま反転してすれ違ったふしぎにまたも居合いッ!
「くっ……」
 ふしぎ、かろうじて振り向き再び瞳術。代々の慕容王が秘伝としてきたとされる「餓縁」で敵の技を封じる。またも抜刀できない敵。
 いや、もう鞘入りのままふしぎの脇にたたきつけた。瞳術、少し遅れたか。
 そしてまたすれ違いざまを振り返って仕掛けてくる敵。
 もうふしぎの瞳術、間に合わない。ぎらん、と敵の刀が鞘走った!
 ふしぎも抜刀し防ぐがその上から胴に打撃を食らう。
 刹那!
 すれ違った敵に、今度は猛然とふしぎが先に振り返る。
「蒼き旗の元、天駆ける翼で今、この道を開く!」
 無茶な体勢から状態を捻りつつ練力放出で敵に迫る。
 その様、まさに流星。
 狙うは敵の納刀の瞬間!
――カキィーン!
 敵、膝から崩れ落ちた。

 そしてまた扉の外。
「六、ね」
 桜が転がした賽を拾い上げていた。不安そうに水月が見詰める。
「どっちの手を掛けるかで先が決まるかもだしね。分からない時はコレで決めちゃうのもいいのよ♪」
 あるいは、人生これまでそうだったのかもしれない。
 桜、背中越しに水月に言って安心させてやる。
「それじゃ、トリは任せたわよ♪」
 ふにゅ〜、と落ち着かない水月に言い残し、賽にキスして右手を掛けた。
「はっ!」
 桜、すぐに腰を落とした。
 転送されたのだ。
 しかも目の前で幽霊剣客が左の腰溜めにこちらの様子を伺っている。
 明らかな居合いの構え。
 と、その構えから右にずれた。
「集中してるみたい……」
 慎重に口にする桜。ぱしっ、と何やら装飾しまくった短い刀が飛んできたのをキャッチする。
 実は、帯に隠すようにしていた魔刀「E・桜ver」を目にも止まらぬ速さで投げていたのだ。愛用の魔刀はシノビの得物にしては――いや、女の子の持ち物に相応しくお洒落だった。そのデコ短刀に目を引かれたのかは知らないが、とにかく避けられた。
「……ね!」
 喋ってる途中だった桜、語尾が上がった。
 敵がキャッチした隙を狙ってきている!
「いいわ。剣客ちゃんの土俵で勝負シてアゲル」
 桜、正面から受けて立った!
 左下から円弧を描く軌道。
 桜、身を沈めて果敢にこれに合わせた!
――ざしゅっ!
 すれ違う二人。
 桜、魔刀を逆手持ちする左肩がしぶいた。
 敵は、振り返る。
――ぱきぃぃ……ん!
 が、美しい音を残し砕けた。
「いざって時の為練習はシてるけど……」
 できれば須臾なんか使いたくないわね、と溜息。
 無知覚反撃の技で生き残る。

 扉の外では、一人残された水月がぶるっ、と身震いしていた。
 滝裏の涼しさは、いつもなら心地良いと感じたかも知れないが、今は寒気のように感じているようだ。
「皆、無事で……」
 思わず呟いたところで、扉に手形の窪みが戻った。
「桜さん……賽でしたね」
 この時ばかりは微笑した。自分もそれに習うように、両手の指を組み合わせたとき自然に上になった手をかざした。
 転送される。
 そしていま、息を弾ませ真剣な眼差しで黒夜布「レイラ」をひらめかせていた。
 敵の幽霊剣客は既に、何度も鋭い抜刀術を繰り出していた。
 それでも水月を捉えられなかった。
 なぜなら……。
――だっ!
 また剣客が突っ込む。
 が、ひらりと黒布が舞い、水月の姿が消えている。
 そう。
 一瞬、水月はそこからいなくなるのだ。
 だが、敵もそろそろ水月の行動パターンに気付いた。
 いま、すぐに反転していつも水月のいる場所に斬りかかっている!
 もちろん水月もこれを狙っていた。引き込んで反撃するが、敵も速い。共に危険を察知して外す。
 ただ、これで水月の狙いが……いや、まだ水月の目はふにゅ〜ってなってない! 
 敵が来る。かわす。敵が来る。かわす。
 その動きなの中で、足につけた鈴がメロディーを奏でていた。
「永きにわたってこんな場所でずっと何かを護り続けてきた古霊兵さん……ほんとうに永い永い間お疲れ様」
 頃やよし、と顔を上げる水月。敵をいなして手をかざした!
「今までありがとうなの……その魂に安らぎを」
 刻んだメロディーは、『魂よ原初に還れ』。
――キラキラキラ……。
 敵、眠るように倒れた。



 そして水月が敵のいる部屋から転送された。
「よかった。大丈夫?」
 星芒が駆け寄り肩を抱く。
 が、水月の目は見開かれたまま。
「ふにゅ……」
 千佳がぐったりしたコクリを背負っているではないか! 小苺が心配そうに周りをうろついている。
「水月さん、回復は……」
 振り向いたサライが獣耳をへにょりとさせたまま聞く。
「……」
 水月、かぶりを振るのみ。
『これで全員か?』
 突然、ふしぎや桜が立っていた先から声が聞こえた。
 水月が見ると、一体の地蔵が洞窟の真ん中にぽつんと立っていた。ゆうらり、と練力のようなものを纏っている。それが喋っているようだ。
「ええ。全員ね」
「さあ。ここに来ればどこかの封印を解く手掛かりが分かるって聞いたんだぞ」
 桜が頷き、ふしぎが迫る。
『究極の物を捧げよ』
 地蔵の目が光りそれだけ言った。
「究極の物を捧げたら、なんの封印解く手掛かりがもらえるの?」
『引き返すのなら、次に来る時にはこの指輪を付け扉の窪みに手を合わせよ。さすれば直接ここに来る』
 星芒が聞く。地蔵はまったく聞く耳を持たない。
 代わりに、地蔵の供物台に人数分の石の指輪が現れた。
 桜が嵌めてみると、サイズはピッタリだった。星芒もそう。他の面々もそうだった。ふしぎなことに全員の指に合致した。
「だからどこの封印を解く情報なのかシら?」
「桜にゃん、だめにゃ。シャオが聞いても余計なことは言わなかったにゃ」
 星芒に代わって重ねて聞いた桜だが、小苺が諭した。
「コクリちゃんが心配にゃ。いったん戻るにゃ」
 千佳が涙目で訴える。
「帰りに水遊びでもと思ったけど……仕方ないわねぇ」
 桜、好きあらば泳ごうと持参していたビキニ水着「シェイプガール」を取り出すとコクリの破れた上着を外して首に回し、ホルターネックのビキニトップをつけてやった。
「……」
 水月はその上に外套を羽織らせて、優しく優しくなでなで。
「究極の物、ですか……」
 サライ、指輪を嵌めた手を見詰め呟くと思案にふける。緑の瞳が翳る。
「必ず究極の物を持って来るにゃ。それまで待ってるにゃ!」
『楽しみにしている。究極の物を捧げよ、究極の物を捧げよ……』
 振り返る千佳に、地蔵は焦がれるように繰り返す。