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■オープニング本文 ●聖夜の三連星 ジルベリア由来のこの祭りは冬至の季節に行われ、元々は神教会が主体の精霊へ祈りを奉げる祭りだった。 とはいえ、そんなお祭りも今では様変わりし、天儀本島や各国でも趣向を凝らしたジルべリア風のクリスマスが催されている。 そんな折。 「今年もこの季節がやってきた…」 神楽の港で。吹き上がる風に揺られるこの時期にしては寒すぎる格好の赤い帽子をかぶった若い青年。サンタ帽子がなければ、サンタクロースだとは気付かない。周囲の痛い視線もなんのその、それに従うようなそぶりで、マッチョなトナカイらしき男が2人、同じように風に吹かれている。 奇異の目で見られたことは言うまでもない。 ●三連星を語る者たち 師走の押し迫った神楽の都で。 「奴が来たらしい」 「ほへ?」 珈琲茶屋・南那亭で、いきなり呟いた客に店員の雪切・真世(iz0135)はびくりと反応しメイド服のお尻の上にある大きなリボンを揺らめかした。 「ああ、奴が帰ってきたんだ」 同席していた別の客も、両肘をついた状態で視線を鋭くした。 「今年も性懲りもなく来たか」 さらに別の席からも声が。 「さらに出来るようになったかな?」 うふふ、と別の席からも。 「奴は帰ってきたか……くりすますよ、私も帰ってきたー!」 奥の席では立ちあがる者も。 「ちょ、ちょっと、一体何?」 瞬間、ざっ、と一斉に店内から真世に視線が集まった。 ああ。 哀れ真世、何が起こっているのか一人理解できない。 「へ? な、何よ何よ〜っ」 「いいかい、店員さん。……『聖夜の三連星』が神楽の都入りしたという情報が今入ったのだよ」 きょろきょろする真世に、一人の店員が珈琲片手に立ち上がって説明した。 「そ、そうなの? さ、サンタクロースだっけ? いい精霊さんなんでしょ?」 ――バンッ! 「違う! 奴らはちびっ子にはそう呼ばれているかもしれないが我々にはいい迷惑なのだ」 突然テーブルをたたいて立ち上がる客に、「ひいっ」と怯える真世。その客は続けてそう熱弁した。 「ああそうだ、迷惑千万だ。『三連星』を語っていいのは我ら『ハリセン三連星』だけだ」 あるテーブルから三人の人物がハリセンを手に立ち上がる。 それを見て、対抗するようにガタッと立ち上がる者たち。 「おっと、『三連星』の名は俺たち『黒ダコ三連星』だけにしてもらいたいな」 黒ひょっとこの面をかぶった人物三人組だ。 「ちょっと待って! 『三連星』の名前は私たち『ツインテール三連星』だけのものよ」 別の席からツインテール三人娘が起立する。 「いや、オレたちだ」 「いーえ、私たちです」 「わいらのことも忘れてもらっちゃこまるで」 「おいどんたちも不服でごんす」 「ボクたちの人生美学によると、これは白黒つけなくてはですね」 店内ではガタガタと次々三人組が立ち上がっていた。 「ちょっと、何よ〜っ」 というわけで、南那亭は今日もにぎやかで大繁盛。真世も大変そうだったり。 こちらは、港。 「へええっ。クリスマスにはサンタクロースに対抗して『三連星』を語る人が集まって腕を競うんだね」 中型飛空船「チョコレート・ハウス」から降りたコクリ・コクル(iz0150)が、ほかの船から降りる旅人に三人組が多いことの理由を知って呟いた。 「ああ。クリスマスにはカップルも多いが、非モテな連中や三人組に誇りを持ってる奴らはこの三連星頂上決戦に参加するため神楽の都に来るらしいな」 副艦長の八幡島がコクリに希儀産のピスタチオを手渡しながら言う。自らも殻を割って、パクリ。 「でも、人が集まるならよかったよね。ボクたちの運んできた希儀産のクリスマスワインもたくさん飲んでもらえそう」 「そうだな。じゃ、コクリの嬢ちゃんは早速『アウラ・パトリダ』にも挨拶しておいてくれ」 「うんっ。わかったよ、八幡島さん」 ピスタチオをボッケに入れて、元気よく答えるコクリ。 コクリも商売繁盛のようで。 でもって、希儀風酒場「アウラ・パトリダ」。 「で、『虎狼』は三連星頂上決戦を取り締まらないんで?」 店長のビオスが、浪志組観察方のクジュト・ラブア(iz0230)に聞いてみた。ちなみに虎狼とは、この店での浪志組の隠語である。隠密活動をするクジュトらへの配慮だ。 「市井の人には一応無害ですし、自分たちの仲の良さを見てもらったり確認するだけみたいですしね」 くす、と微笑してクジュトは返す。 「あら、この店に来る恋人達と一緒ね」 店員のセレーネがくすくす。 「あ、だったら私たちも参加しようかなぁ。町で三人組で演奏してればいいの?」 店の歌姫もしている香鈴雑技団の在恋(iz0292)が身を乗り出した。 「そうですね。演奏して合間に『三連星です』って言えば、ほかの三連星の人が絡んできてくれます」 「喧嘩に……なるんですか?」 応じたクジュトに心配そうに聞く在恋。 「ううん。『俺たちの方がすごいぜ』とパフォーマンス合戦になるだけ。似た感じだったら喧嘩になるかもだけど、そうなりそうなら適度に相手をほめてあげればいいよ」 「じゃあ行ってみようかなぁ」 どうやらそんな感じらしい。 もちろん、アウラ・パトリダは恋人達でにぎわうことになるだろう。 |
■参加者一覧 / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / アーニャ・ベルマン(ia5465) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 猫宮・千佳(ib0045) / アグネス・ユーリ(ib0058) / デニム・ベルマン(ib0113) / 雪切・透夜(ib0135) / ヘスティア・V・D(ib0161) / ニーナ・サヴィン(ib0168) / リスティア・サヴィン(ib0242) / 真名(ib1222) / ミリート・ティナーファ(ib3308) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 泡雪(ib6239) / サフィリーン(ib6756) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 綺堂 琥鳥(ic1214) |
■リプレイ本文 ● 神楽の都はどこかそわそわ。 道行く人たちが楽しいことを心待ちにしているから、なおさら。 「ちょっと早く来すぎちゃったかな?」 日暮れ前の珈琲茶屋・南那亭の前にアーニャ・ベルマン(ia5465)が人待ち顔でぼんやりと前髪をいじっている。金髪の中に混じる赤い髪の房をくるりん、と指に巻き付けたところで、突然の喧騒。 「きゃ〜っ! 聖夜の三連星さ〜ん」 見ると、半裸サンタとムキムキトナカイ、そして細マッチョトナカイがポージングをしているではないか。 「まてまてぃ。我ら、ハリセン三連星。……いざ尋常に、勝負!」 新たにハリセン「笑神」を持った三人組が現れ、「猫が寝込んだ」、「布団が吹っ飛んだ」、「みにゃみ春夫でございます」などと言いつつぺしんとサンタたちに突っ込んだ。 「はん」 サンタたちは微動だにもせず、鼻で笑った。瞬間、がくりと膝をつくハリセン三連星。どうやら敗北したらしい。 「さすが!」 聖夜の三連星を称賛する言葉に、じっとしていることの苦手なアーニャがじっとしていることなどできようはずがない。 「待ちなさい! ベルマン家の三連星参上!」 立ち去ろうとするサンタを振り向かせ、びしりと指差すアーニャ。 「三連星?」 「お、お姉と弟は今日はお休みだから私だけなのです〜。行きますよっ!」 怪訝な顔をするサンタに、一人だけのアーニャは問答無用とばかりにロングボウ「フェイルノート」を構えてガドリングボウ。ここにはいない姉と妹の分まで魂の三連射。しかも速射で続けて撃つ! 「ほぅ、仲間の分まで気持ちが乗っているな」 「す、すごい、あの聖夜の三連星が一目置いたぞッ!」 空中に突然発生したつららで矢を弾きつつ感心したサンタたち。この様子に観客は惜しみない拍手をアーニャに送る。 「アーニャ、お待たせ」 ここでデニム(ib0113)登場。アーニャの肩に手を軽く置いて撃ち方止め、との合図にする。 「あ、デニム。……ううん。私もちょうど来たところです〜」 振り向き待っていた人ににこやかに言うアーニャ。周りの三連星勝負を見ていた者たちは「どこが来たところだ!」と突っ込みに行こうとするハリセン三連星を必死に止めていた。 サンタたちは、プレゼントを待つ子のために先を急ぐ。 時は若干遡る。 「ええっと、希儀産クリスマス・ワインを仕入れてくれたお店は……」 営業用のサンタ服に身を包んだコクリ・コクル(iz0150)が一息ついていた。 が、突然誰かが抱き着いてきた。 「コクリちゃん発見にゃ♪ サンタさんの格好で何してるにゃー?」 一瞬にしてコクリの懐に入り込んで見上げているのは、猫宮・千佳(ib0045)。 「えっと、お得意様の挨拶回り。ちょうど終わったところかな?」 この言葉に千佳、瞳をうるうる輝かせた。 「せっかくのクリスマスにゃ。一緒に……そうにゃ、南那亭少し休憩していくにゃー♪」 「うん、そうしよう。ボクもちょうどそう思ってたんだ☆」 というわけで手をつないで歩き出す。 おっと。 コクリ、自分の被っていたサンタ帽を取って千佳に被せたぞ。片方の猫耳だけ出して不思議そうにコクリを見る千佳。 「こうすればお揃いっぽくなるかなって」 「うれしいにゃ! ……うにゅ?」 コクリの腕に抱き着いて喜んだ千佳、サンタとハリセン三人組に気付く。 「うに、勝負も何か楽しそうにゃね♪あたし達も三人だったら勝負してもよかったかにゃー?」 なんだかんだで仲の良さそうなハリセン三人組を見て千佳が言う。 「そうだね。今日は猫又の百乃さんいないから……」 「うに。百乃も連れてくればよかったにゃ」 「でも、機嫌悪くしてるかもね」 「そしたらコクリちゃんと二人だけで仲好くするにゃ!」 「あれ? そしたら今とおんなじ……」 「とにかく南那亭に行くにゃ〜♪」 コクリの手を握り元気よく駆け出す千佳だった。 ● 時は再び遡り、三連星勝負の頃。 「……まあ、いい」 ハリセン三連星がハリセン攻撃をした直後に撃退されたところで、リューリャ・ドラッケン(ia8037)が息をついていた。駆け出しそうになり、投文札にも指を掛けていたところだ。 「行かないのか?」 気付くと、一緒に歩いていたヘスティア・V・D(ib0161)がにやりと微笑している。 「あれくらいなら恋人たちの邪魔にもならんだろ」 歩き出す。今度はアーニャが登場しているが、もう視線は別の方に。 すると。 「ほぅれほれ、我らひょっとこ三連星」 「恋人には祝いの酒じゃ。我が底抜け銚子のどぶろくを受けるといい」 眼前で、前をはだけて腰にそそり立つように装着した銚子を付けたひょっとこ面の三人組がカップルを取り囲んでいた。局所はしっかりと底を抜いた銚子で隠してはいるが、それを差し出すように腰を突き出しているのはいかがなものか。というか、その位置で落ちないということは内部でどうなっているかは明白で。 「……ああいう手合いは説得が必要だがな」 「人様の邪魔するおいたはダメだね」 冷たくリューリャの目が引き絞られ、薄っすらとヘスティアの面に冷笑が浮かんだ。つかつかと近寄っていく。 「お? あんたらもカップルか?」 ひょっとこ三連星、二人に気付いて振り向いた。 「ちょっとOHANASHIがあるんだがなぁ」 「そうかそうか。それは話が早い。早速我がどぶろくをこのそそり立った銚子から……」 ヘスティアがリューリャの手から投文札を奪い取り、おもむろに振りかぶると思いっきり投文札を投げ下ろした! 「オウッ!」 ぱきゃん、と陶器の割れる音。ひょっとこの男は股間を両手で押さえてうずくまった。銚子の破片が周囲に散っている。 「お話ってお前ら……」 「説得と言い換えてもらってもいい」 気色ばむ二人のうちの一人に、リューリャ。スローイングカード「キャッツアイ」を喉元に合わせてにらみ上げる。 「こいつ!」 「おっと……最初から分かりやすく物理的なお話してんだぜ?」 リューリャに掴み掛ろうとしたもう一人は、ヘスティアが後背よりギャロット「クリドゥノ・アイディン」の鋼線を絡ませる。ぎゃっ、と男は悲鳴を上げて崩れ落ちた。首に巻いた鋼線が締まったのはほんの一瞬。気絶しただけだ。 リューリャも相手をのしておいて駆けつけた警護団に引き渡す。 そして気付いた。 「真紅のドレスか……」 「珍しく可愛い格好と言えばいいだろ? ……ああ、慣れない格好すると寒いな」 リューリャ、そっと身を寄せる。当てつけのように言っていたヘスティアは満足そう。彼の腕に絡まり、身を預け歩き出す。 「相変わらずですね」 そんな二人の様子を遠くで見ていたのは、雪切・透夜(ib0135)。 一人で珈琲茶屋・南那亭に。 「いらっしゃいませ、南那亭に……透夜さん! もうちょっと待ってね」 南那亭めいどの雪切・真世(iz0135)が出迎え嬉しそうにする。 「うん。仕事が終わってからでいいよ」 透夜、席に座って改めて周りを見る。 「千佳さん。はい、あ〜ん」 「あ〜ん、にゃ♪」 コクリが千佳にケーキを食べさせている。ぱくっ、と食べて嬉しそうにする千佳。 と、ここで千佳の目が見開かれた。 今度はお返しかな、とコクリがあ〜んと顔を寄せようとして、びっくりした。 「あ、ほっぺたに何かついてるにゃ? とってあげるにゃよ♪」 「え?」 コクリ、不意を突かれカウンターでぺろり……というか、ぶちゅ〜、という感じに。もちろん千佳は満足そうにその後コクリのほっぺをペロリにゃふん♪と舐めとったり。 「と、透夜さん、お待たせっ。今日はありがとね」 ここで真世が厨房からやってきた。いつか透夜に贈られたドレス「銀の月」を着ておめかししている。 「うん。……じゃ、行こう」 透夜、自分の腕に手を絡めてくる真世の感触に笑顔。そしてこっそり「ありがとう」。 「ほへ?」 真世、聞こえたらしい。 「ううん……何でもないよ」 見つめ返す透夜。「クリスマスなんだし、一緒にいたいものね」という言葉は視線に込めた。 「……うん」 分かったのかは不明だが、真世はぎゅっと透夜の腕に抱き着くのだった。 ● 真世と透夜は、喧騒の街を歩く。 「寒いけど、だからこそ軒の明かりが温かく感じるね」 「うん。……透夜さんと一緒に見てるから、なおさらそう感じる」 犬矢来の軒先、うだつの上がった二階建て。往来を急ぐ人は家族の待つ団らんを求めているのか、それとも恋人との逢瀬を夢見ているのか。 この街に、人は生きている。 「私、こういうの、好き」 「僕もだよ」 透夜、突然の真世の言葉に少し面喰ってくすくす笑った。彼女らしい、と感じた。 「んふ」 「うん」 身を寄せる真世。そのくびれた腰に手を回し歩き出す透夜。 こんな感じが二人らしい、とも感じる。 と、そこへサンタ一行が通りかかった。 「あっ。聖夜の三連星」 周りから無邪気なちびっ子の声がする。 その時だった! 「『三連星』……この心をくすぐる響き!」 緑の髪の長身男がサンタたちの前に立ちふさがる。 嗚呼、その姿はッ! 「その二つ名はいただこう……そう、私たちがな」 背中に纏うは哀愁ではなく、いつも一緒のオトモダチ・うさぎのぬいぐるみのうさみたん! シャキーン、とモデル立ちをしてサンタを指差すはラグナ・グラウシード(ib8459)だが、いつもと様子が違うぞ。「ほぅ?」と話の続きを待つサンタたち。 「紹介しよう! 我が友を! ……家から持ってきたうさぬい・うさこたんだ」 ばば〜ん、とふんぞり返るラグナ。なんと、お腹にもうさぬいがセットされているではないか。 「そうだな、我らを呼ぶなら……『らぶりぃ三連星』とでも呼ぶがいい」 シャキーン、と水浴び後に天を仰ぐような姿勢のモデル立ちをしてアピールするラグナ。その動きでうさぬいたちの手がぶんと広がり、まるで中央のラグナを紹介しているかのような並びとなる。 「ぷぷーーーっ!」 笑いを押し殺した声が横合いから響く。ちょうど居合わせたエルレーン(ib7455)が大爆笑しているのだ。 「馬鹿兄弟子がまたウマシカなことを……」 ラグナを指差しぷぷぷと身もだえている。ラグナ、当然これには気付かない。三連星勝負に集中しているのだッ! 「ほお、らぶりぃ」 「そう、らぶりぃ」 対峙するサンタたちはナイスポーズをして聞いてくる。ラグナは右腕と左腕でS字を作り、右肩越しにかわいらしく顔を出すうさみたんとくりん、と左腹側に首を傾げたうさこたんの両方を指差すポーズで対抗した。 それを遠巻きに見ている住民たちの反応は。 「まあちょっと奥さん聞いてくださいよ、あれでらぶりぃを語ってますわ」 「どこでどう情操教育を受けたらあのような感覚になるのかわかりませんわね」 「年末はああいうのが湧いて出ますわよね〜」 くすくす笑われているが、サンタは崇高な使命がある。意に介さない。 ラグナももちろん、意に介さない。崇高なのだ。 「はっ!」 サンタたちは三人で次のポーズに。 「何の……ああっ……」 ラグナも次のポーズに移ったが、もともと相方二人はぬいぐるみ。もう、振って動かすなどのバリエーションはない。それに気付いたラグナはぎりぎりきーと歯ぎしりして悔しがる。 ここで、ラグナのぬいぐるみを取り上げする姿が。 「お、お前は……」 振り返るラグナ。 「……なんか、あわれになってきたの」 そこにいたエルレーンはそう言いかけて……言葉を飲み込んだ。 「ふふん! ぬいぐるみしかトモダチのいない、かっわいそぉ〜なおばかさんを助けてあげるんだよ! 新生、らぶりぃ三連星だ!」 代わりに気丈にそう言い放ち、ポーズをした。ラグナも気付いてエルレーンと対称になるポーズを。二人に手をつながれたうさみたんがセンターだ。「みんななかよし」と言わんばかりにぷらんとかわいらしく足が揺れた。 「ふむ、弱点はこれで無くなったな。らぶりぃ三連星を名乗るがいい」 サンタ、それだけ言って背を向けた。 「か、勝ったのか?」 「むしろ負けたんじゃない? 最初の三連星は」 感動するラグナに、エルレーンが冷たく言う。 「なにおぅ。うさみたんの最後の揺れのおかげで勝てただろ」 「馬鹿な兄弟子を持つと苦労する……」 なんだか賑やかに聖夜を送る二人のようで。 ● 別の場所では吟遊詩人の演奏が流れていた。 いや、ちょうど終わったところだ。 「ありがとうございます。『雑技の三連星』でした」 在恋(iz0292)と陳新、兵馬の三人が礼をして退く。温かい拍手が送られる。 入れ替わりに、今度は黒いタンクトップ姿のリィムナ・ピサレット(ib5201)が上がった。 「リンスちゃ〜ん。『白い三連星』、出番だよ〜」 白い女児ぱんつ「蜜蜂」をチラ見せしつつ舞台袖に向かって呼ぶと、恋人のリンスガルト・ギーベリ(ib5184)がやってきた。こちらは赤いミニスカートのワンピース姿だ。 「白い三連星というても、まだ2人しかいない様じゃが……」 妾は白い服ではないし、リィムナも白くなかろう、とリンスが近寄る。 「大丈夫。ほら」 リィムナ、呪本「外道祈祷書」を片手に「白面式鬼」。たちまち白面を被ったリィムナの分身が姿を現した。 「白面式鬼か。……で、何をするのじゃ? 演武か?」 リンスが感心した瞬間。 「演武じゃなくて……こうだよ♪」 リィムナ、リンスの背後に位置取る。白面式神は同じく前に。 ――がばぁ! 「って!」 リンス、前と後ろから体を押さえられおへそ見えるまでスカートを捲られた。 「どう? 白ぱんつだよ〜♪ あたしと式のぱんつも丸見え♪」 お尻を突き出す二人。リンスのフロントと合わせ、リィムナの作った女児ぱんつの品評会状態だ。 「にゃああああ!? は、放すのじゃああ!」 いやいやぶんぶんとじたばたするリンス。ようやく二人を跳ねのけた。きっ、とリィムナを見る。やばい、と感じて逃げるリィムナ。 こうして、どってんばってんと逃げたり捕まえようとしたり。 その後。 「えへへ♪ 大うけだったね♪」 「はぁはぁ…ううっ、皆に見られてしまったではないか! 誰に許可を得て見せておるのじゃ! ……汝は妾のなのじゃぞ」 てへ、とか反省するリィムナの手を鷲掴みにするリンス。そのまま誰も知らない暗がりへ。 「ここは?」 「いつそういう気分になってもいい様に都の物陰の場所は全て覚えておる」 裏路地からそんな声が。リィムナから突っ込みがないのは……。 「な、何するの……あははは! いひひひひ! くすぐったいい……あ…恥ずかしい恰好撮られちゃうっ」 何をやってるかは秘密だが、のちにリンスから写真術式機で撮影した写真用練感紙を見れば縄で縛られたことがわかる。この状態でタンクトップに頭を突っ込みおへそをじっとりねっとり舐められたようで。 「……今日はいっぱい、お仕置きしてね…?」 その威力は、最後にリィムナが涙目でそう訴えるほどだったとか。 さて、その後の舞台はというと。 「さあ、いくわよ。アグネス、ニーナ♪」 明るく力強く面を上げて、リスティア・サヴィン(ib0242)が袖から舞台前に駆け出した。 「ええ」 「オッケー」 ゆっくりとアグネス・ユーリ(ib0058)が続き、それを追い越すようにニーナ・サヴィン(ib0168)が飛び跳ねた。 「それに真名、サフイリーン、ミリート?」 今度は反対の袖に向かってウインクするティア。 「ほいさ。楽しくいこっか♪」 ミリート・ティナーファ(ib3308)が犬尻尾をなびかせ走る。 振り向く先には、真名(ib1222)。 「アグネスたちもいるし、最高のステージにしましょ♪ ね、サフィリーン」 真名が呼び、応じるようにサフィリーン(ib6756)も飛び出してきた。 いや、その勢いで二人を追い抜いたぞ? (……仲良しさんの真名お姉さんとミリートお姉さん) サフィリーン、二人の間をすり抜け風のように前に。 「調子良さそうね、サフィリーン」 (結婚しても可愛いリスティアお姉さん) 先頭のティアまで行くとくるっとその場で爪先立ちで回転し、大きく飛翔。腕をいっぱいに広げジプシークロースをなびかせ、蝶をイメージしたバラージドレスを生かすようにひらり。 「掴みを任せちゃったわね」 「ホント。観客の目はすっかり釘づけだわ」 (大好きなお日様ニーナお姉さん……そして、憧れの楽師で踊り手のアグネスお姉さん) 着地して顔を上げると、二人は楽しそうにサフィリーンのアドリブを受け入れていた。 「大好きな……素敵な人達と一緒に」 立ち上がったサフィリーン。振り返ると、ティアもミリートも真名も、頷いていた。 「それじゃ最初は……あたしの歌をきけーい!」 それを合図にティアが人差し指を高々と上げた。 タ・タララン♪とミリートが弾むような明るい音を竪琴「神音奏歌」で奏でる。 ポン・ポロロ♪とニーナがクーナハープで綺麗なメロディーラインで合わせる。 シャンシャン、と精霊鈴輪で足踏みしながら渋くアクセントを入れるのはアグネス。 トン・タン、と打楽器のように足踏みで低音のリズムでサフィリーンが対の音を。 そして歌いだすティア。 ♪みんな知ってる・聴いてる? 町に流れる新曲・ステップ これが花の詩人組 六華の歌とまばゆい舞♪ トン・タタン、シャンシャンシャンと拍車が掛かる中、真名が前に出てジャンプ。陰陽符「乱れ桜」を大盤振る舞い。舞い散る桜と真名のおおらかな飛翔に「おおおっ!」と観客が沸く。 「さあ、見目うるわしき六人の競演。観客は貴方達だけじゃあ、ないわ! さあ、姿を見せて!」 さらに間奏の隙にティアが華彩歌で会場の周りにある、越冬状態のサクラの枝々から花を咲かせる。 「見て、デニム」 「すごいね」 ちょうど通りがかっていたアーニャとデニムがうっとりと寄り添う。 「ふうん」 「見事だな」 ヘスティアとリューリャもここにいた。微笑が似合う。 この時、舞台。 「花達も精霊達も聴いていて、私達の演奏を!」 ティアの叫びに会場も「おおーっ!」と腕を上げてこたえた。 「それじゃ、メンバーを紹介するわ」 ティアが最初に振り返ってウインクしたのは、アグネス。 それと分かるとアグネス、とーんと軽やかに跳躍した。 高〜い宙返りは、絢爛の舞衣の幾重にも透ける布を散らして観客を魅了した。もちろん、しなるアグネスの肢体も。 すとん、と着地が決まる。 「今日、ここを通り掛った人は幸いよ。この6人組と、一度に出会える機会は今日だからこそ♪」 ウインクと投げキッスでさらに魅了し、さっと身を引いた。「いいの?」という風な視線のサフィリーンに気付くと、「ここぞ、というのは一瞬なのがいいのよ。真名もそうだったでしょ?」とにこり。 続くミリートは、一曲やるようだ。 「ジルべリアの冬の歌だけど、寒さ辛さだけじゃないよ!」 竪琴を手に明るい曲を演奏し、冬を題にした歌を歌う。その曲調は、深雪の上に遊ぶ子犬の足跡だったり、雪解けのせせらぎの喜びだったり。とにかくポップで、とにかく繊細で……。 「夜は雪灯籠ほわり並んで帰り道♪」 ミリートがここまで歌ったところで、炎のように激しく真名がステップイン。腕を振り、素早く回り、足を蹴上げる。 「誰かを待って、誰かに会いに、誰かを夢見て……♪」 しっとり歌うミリートに、気性激しく踊る真名。穏やかなたたずまいの中の燃え盛る愛情を表現して見せた。 「消して解けない雪はない、草木も花も人の心も。生きとし生けるものたちに、春よ春よ、春が来る♪」 犬の耳をぴんと立てて再び明るく歌い踊るミリートに、相棒、紅印と『狐獣人変化』で同化して狐の尻尾や耳を生やした真名が手を取りくるっと回って喜びを表した。 「サフィリーン。次の曲、いい?」 「春の曲だったわね?」 退屈させないわよ、と振り向くティアに、にっこりと確認するアグネス。サフィリーン、こくりと頷いた。 「歌はニーナよ、いける?」 「もちろん。……みんな、天儀一……ううん、この世で随一の楽師と舞手のステージへようこそ♪ 普段はなかなか揃わない顔合わせよ〜? 見れた貴方は幸運のお人♪」 「あたしが紹介するまでもなかったわね」 振ったティア、元気よく飛び出し手を振るニーナに感心して身を引いた。 そして、アグネスの前奏が流れる。春の曲だ。 サフィリーンも軽く膝を上げてステップして準備万端。 ♪風に乗せた歌を聴き、花がふわりほころび開く 星が瞬き弾けて流れ、私の思いあなたの胸に 心のざわめき波のよう、揺らめき止めてあなたの腕で♪ 幻想的に歌うニーナ。丁寧に爪弾くアグネス。 サフィリーンはそんな二人の思いを胸に、クロースと共にくるりふわり。花のほころぶように。 あるいは軽やかなステップ、鳴ったエイコーンは星の瞬き。 続いてアグネスと手を合わせて鳴らし、くるっと位置を変わる。二人の纏う布が波のよう。 まるで夢の中のよう。 そんなひと時の中で、突然曲調が変わった! 「春は喜び、すべての始まり!」 ニーナ、力強く叫び虹色のショールを宙に投げ、履いていたクリスタルヒールを両方ともぽーんと蹴上げて脱いだ! 「ちょっと……」 「はやぁ〜、アドリブ……」 真名が呆れ、ミリートが目を丸めた。 ♪いいじゃない、いいじゃない。このひと時だしいいじゃない♪ ハープを激しくかき鳴らし歌うと、同じフレーズを観客に求めた。 「お姉さん……」 「ま、いいんじゃない?」 びっくりしたサフィリーンに、くす、と微笑するアグネス。 「じゃ、締めは激しくいきましょう! そーれ」 ティアの掛け声で「いいじゃない」の大合唱が生まれる。サフィリーンが、ミリートが、真名が楽しそうに激しく踊る。 ここでニーナ、客席の前に来たサンタ一行――聖夜の三連星に気付いた。 「三連星?」 と視線で咎めている。 「いいじゃない。全員で六人だから二組のような一組って考えて頂戴♪」 ニーナがハープを弾きつつ身をくねらせる。 サンタ、ぐっと親指を立てて「いいじゃない」と瞳で返す。 「ああ……やっぱり、あたし、皆が好きだわ。こうしているのが幸せ」 納得したサンタを見送りつつ、演奏するアグネスが感極まって口にした。 そして曲の終わり。 「みんな、ありがとー!」 ティアの叫びに観客が「おおー!」と応える。 「皆、大好きよ!」 真名がミリートにぎゅうと抱き着く。 「最高だったわよ!」 そこからさらにアグネスがティアとニーナを巻き込んで、ぎゅっと抱き締め。 「聴いてくれてありがとう……わっ」 「ほら、サフィリーンも」 ぺこ、と観客にお辞儀していたサフィリーンもむんずとつかんで改めてぎゅうするアグネス。本当に楽しそうだった。 ● そしてここは、希儀風酒場「アウラ・パトリダ」の前。 「席、予約しておいたんだ。此方でお酒を酌み交わすのもまたいいんじゃないかなって」 「だねっ。おめかししてきてよかった」 透夜と真世が入店する。 「およ?」 「ん、今日は牡蠣入れ時…じゃない、かき入れ時…。…お金取らないけど」 入り口付近には酒場の占い師、綺堂 琥鳥(ic1214)が陣取っていた。 「す、すいません。占ってください」 ちょうど若い娘が琥鳥に声を掛けた。透夜たちは席へと移る。 「私、噂を聞いてきたんです。ここの占い師さん、よく当たるかどうか分からないけど当たるんじゃないかって評判で」 熱心に話す娘。 「……どんな評判……でも瓢箪から駒」 微妙な評価に呆れた……というか、いつも通りな琥鳥。 「とにかく、ぶれないのがいいんだって聞いたんです!」 まったく動じない琥鳥の様子に、それよそれ、ときゃいきゃい喜んでいる。それはそれとして琥鳥、相変わらずのマイペースで占いを始める。 店内は結構、客が入っている。ほとんど予約席のようだ。 一方、カウンター席の一角で。 「それじゃ、聖夜に乾杯」 「乾杯」 水鏡 絵梨乃(ia0191)と泡雪(ib6239)が仲良く並んで座り、希儀産クリスマス・ワインの入った杯を打ち鳴らしていた。 「それにしても……」 絵梨乃、泡雪を見てくすと艶やかに息をつく。 「ど、どうしました、絵梨乃様?」 少し慌てて泡雪が問う。 「いや、エプロンなんかのない泡雪を見るのは久しぶりだな、と思ってね」 にこ、と目を細めて泡雪を見る。 紺色のワンピースはいつものメイド服に近いが、白いエプロンがなければヘッドドレスもない。白いといえばざっくりとあいた胸元の肌がとにかく目立つ。 「ボクと色違いとはいえ、同じデザイン。いつもの泡雪の魅力とは少し違うかな?」 胸を張り腰をくねらせる絵梨乃。ざっくりあいた胸元には谷間がくっきりと露出している。 「い、言わないでくださいませ……そ、それに絵梨乃様だって、フレアタイプのミニはあまり……足のラインがすっきり見えるものばかりなのに」 ぽんっ、と真っ赤になって胸元を隠す泡雪。そう、彼女は着やせするタイプ。いつもと違ってはっきりと胸の大きさが分かってしまう衣装と絵梨乃の視線に参ってしまっている。それをごまかすようにくいっとワインをあおり、最愛の人の魅力に話題をすり替える。 「そうかな? まあ、ボクは普段見られない色気押し衣装の泡雪を見れるからいいかな?」 絵梨乃、泡雪の方に向き直ってこれ見よがしに足を組み替えた。むにり、と太腿が色っぽく重なりを変える。 「え、ええと……」 これを見て珍しく取り乱す泡雪。普段なら何がしら突っ込むだろう「色気押し衣装」も聞き流す始末。「ん?」と改めてじっくりと視線を合わせる絵梨乃から逃げるように視線を落とし、自らの太腿に。やってみて、ということかなとんしょんしょ足を組み替えようとして……恥ずかしくなって浮かせた足を戻しきゅっと閉じたり。仲良く並ぶ膝小僧。絵梨乃はその様子を見てとても満足そうに酒を飲む。完全に肴にしている。 そして絵梨乃、賭けに出た。 「恥ずかしがっている泡雪も、酒のつまみに最高だ……」 酒をあおりつつ、流し目でそんなセリフを。いつもなら完全に叱られるパターンだが……。 「そ……そんな」 やった! 泡雪、もじもじと赤くなって小さくなるだけ。絵梨乃、満足そうに泡雪の小さな顎に指を掛けて見詰めることのできる高さにする。 「あっ!」 しかし、そこまでするとさすが泡雪、ここではちょっとと正気に戻った。 「酒のつまみなら、私が……」 恋人のために、といそいそ厨房に方に行く。ここは泡雪の働いたことのある店だ。 「あら?」 そこではじめて気付いた。聖夜の三連星がカウンターで静かに飲んでいたことを。どうやら相手にしてもらず席を外すようだが。 「それにしてももう三回目のクリスマス」 一方、絵梨乃はワイングラスに視線を落としていた。 「泡雪、愛してるぞ」 こっそり、後から言うセリフを呟いていたり。 ほかにもいた。 「持ち込み、いいのか?」 足を汲んで座るヘスティアが聞いてきた。 「予約したときに許可を取ったよ。……この前の、開拓者最強コンビで優勝したお祝いだ」 リューリャ、祝い酒「鉄人」を出した。 おっとヘスティア、以外にも首を振ったぞ? 「あー俺は……酒はあんま飲めない状況だから、摘みの方中心で」 「飲めない……状況?」 リューリャ、彼女の微妙な言い回しに気付いて怪訝そうにのぞき込んだ。ヘスティアの方は少し嬉しそうにしているぞ? 「いやその、飲みたいんだぞ?! 流石に妊娠中は……」 「なに?」 「し、少量で!」 聞いてないぞ、という風なリューリャ。ヘスティアの方は、「だったら祝い酒」という流れになると感じて猪口を差し出していたが。 「さー、みんな。打ち上げよ〜」 ここでにぎやかにティアが入店。 「はやぁ〜、思いっきり歌って、次は思いっきり美味しいものだね」 晴れやかにミリートが続き、席に着く。 「真名お姉さん、グラスある? それじゃアグネスお姉さん?」 サフィリーン、甲斐甲斐しく動いて皆を気にする。 「ありがとう、サフィリーン」 「あたし? 仕方ないわね。……皆それぞれ、大切な人がいるけど、こうして好き勝手盛り上がれる場所があることに……」 頷く真名。そしてアグネスがウインクしてライングラスを掲げ。 「かんぱ〜い♪」 皆で斉唱して、ぷは〜。 「皆で歌って踊って楽しかった〜♪ みんな、だ〜い好き♪ カレシよりも友情が大事よね♪」 酒はおいしく最高の気分らしく、ニーナがにこやかに。 「あの、ニーナお姉さん……」 つんつんと袖を引くサフィリーン。指さす方にはクジュト・ラブア(iz0230)がいた。 「いま取り込んでるみたいだし、放っておいても大丈夫でしょ」 「甲斐性があるならこっちに来るでしょ?」 言い切るニーナ。確かにいまクジュトは琥鳥といる。アグネスはそれに頷く。 「そういうアグネスはどうなのよ?」 「あたし? あたしは、時々こうして皆でってのが省にあってる。誰か1人大切な人とって性分じゃ、ないのよねぇ」 突っ込むティアの言葉を飲み込むようにグラスをあおり、はふぅと遠くに視線をやるアグネスだった。その横では料理にがっつくミリートと、それを見守る真名、そして「ふぅん」とアグネスを見遣るサフィリーンがいた。 さて、クジュト。 聖夜の三連星に絡まれていた。 「これで占い三連星……とかいったら勝負されるのかな……。……占い勝負?」 とか、琥鳥が呟いていたからだった。 「いや、こっち二人だし」 クジュト、助けを求めるように遠くのニーナを見たが、ニーナはツン。 「ではこちらも二人で」 サンタ、引いた。ポージングするトナカイ二人が前に出る。 「楽しむのはいいけど羽目をはずし過ぎないように……。羽目をはずすと関節外す……。皆が楽しく過ごせるのが一番……」 早速、水晶玉に手をかざして結果を話す琥鳥。すると心当たりがあったかトナカイの二人。しきりに肩を回したり手首をこねくって関節をゴキゴキと鳴らし始める。しばらくすると重かったり可動域が狭くなっていた関節が軽くなったようで、晴れやかな表情に戻る。 顔見合わせ、しきりにぺこぺことお辞儀した。占いに満足したらしい。どうやらトナカイ稼業も楽じゃないようで。 「琥鳥さん、すごい!」 去りゆくサンタたちを見送り絶賛するクジュト。が、琥鳥は席を立つ。 「お客落ち着いて来た……? なら少し踊りでもする……。舞台に躍り出て踊りを」 「ニーナたちは楽しそうだし……そうですね、私たちが」 クジュト、伴奏をする。その曲に乗って琥鳥が両短剣での剣の舞いや、薄い布を持ち優雅な舞いを披露する。 それを、透夜たちが見ている。そっと椅子を横に動かし真世と肩を寄せた。 「ん?」 見つめてくる真世の瞳。乾杯したあと、何度も口を付けたグラスを持っていたが透夜の手が優しく押さえてテーブルに戻させた。 「大切な人と、より善き日を……なんてね。真世と一緒のこういう時間て、大事にしていきたいな」 透夜の言葉に、真世は真っ赤になって身を寄せるだけ。皆が舞台に注目している隙に、こっそりと軽いキスを交わしたのだ。 酒場に、品のいい拍手がわく。 しばらくして、がた、とリューリャが席を立った。ヘスティアの手を取り、エスコートする。 その、立った瞬間だった。 「ああ、そうそうティア」 舞台では琥鳥とクジュトが礼をしていた。 「俺は、君を愛してる」 見返すヘスティア。リューリャはしっかりと立って、背後にステージの明かりを背負っている。たった今、大きな拍手も生まれる。 ヘスティアは何か言ったが、拍手にかき消される。口の動きを見たリューリャだけが、その言葉を知っている。 ● こちら、店外に出た聖夜の三連星。 いくら忙しくても酒を飲んでの小休止もする。が、もう急がなければ。ちびっ子が待っている。 裏路地を走り、塀を越え屋根を飛ぶ。 おや。 何かに気付いたらしく下を見たぞ? そこには……。 「アーニャ、僕に君の一生を護らせてほしい」 風に吹かれ、それでもしっかり直立しまっすぐ見詰め、デニムが言い切っていた。目の前には、アーニャ。それまでべったりとしなだれていたが、びっくりして息を飲んでいる。 「健やかなる時も病める時も、傍にいさせて欲しい」 彼の胸に去来するのは、どんな時も明るく奔放な姿、何よりも笑顔に益々惹かれていった事、ずっとこのまま二人で一緒にいたいという願い。 「……アーニャ、僕と結婚して下さい」 デニム、言い切った。風が強くなって前髪を揺らす。指を絡めて整えるが、瞳はやはりまっすぐ。 「デニム」 アーニャの答えは、どんな時も奔放だった彼女らしく、ただ抱き着くだけ。それでも温もりが、思いが伝わってきた。 「僕が、ベルマン家に入ろう」 「お姉は結婚先決まってるし、弟は帰ってこないし、お父さんもお母さんもデニムが来てくれるのは大歓迎だよ」 アーニャ、さらに嬉しそうにむぎゅむぎゅと抱き着く。 微笑ましい姿に、ふっと微笑するサンタ。 そして着地。 同時に、む? と右を見る。 「平和な時間もいいものにゃー。……でもまた一緒に冒険にも行きたいにゃねー?」 「そうだよね。せっかく世界は広いんだもん」 そちらには、南那亭を出た千佳とコクリが手をつないで歩いていた。 さらに左を見るサンタ。 「らぶりぃ三連星は、かったんらお……」 「まったく馬鹿な兄弟子を持つと……」 勝利の美酒をたらふく飲んでぐったりしているラグナを、エルレーンが背負っていた。 その姿に、うんと頷くサンタ。 夢の詰まった白い大きな袋を背負いなおすとちびっ子に届けるためトナカイ二人組とともに、走る。 |