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■オープニング本文 ●はじまりの物語 泰国南西部に、南那という地方がありました。 古くは漁業と港取引で栄えていましたが、飛空船が普及し南回り航路の重要性がなくなるにつれ、さびれていくことになります。 沿岸重視の開発に加え、河川に恵まれなかったため陸地での穀物生産高はとても低くなっています。もっとも、長大な砂浜海岸を活用した製塩業が堅調で、内陸周辺地との取引が活発でした。おかげで内陸部生産高は改善されません。 近年、漁業部門で不漁が続くようになりました。 製塩業も、燃料となる松などの伐採の加速によりかつての効率的な生産が不可能になってきました。 何より、古くから侵略対象になっていただけにかなり内向的な土地柄です。 どんどん廃れていくことになります。 そして領地は、紛争の少ない専守防衛。 志体持ちの若者は、より実入りのいい外部へと流出していきました。 これがまた、土地として廃れる一因となります。 そんな中、数年前に小さな旅泰がこの土地に目をつけます。 ほかの交易の活発な場所からはじき出されている小さな旅泰です。 名を、「林青(リンセイ)商会」。 この、殻に閉じこもった土地と取引するため、まずは沿岸「尖月島」に巣食うカニ型アヤカシの退治を引き受けるのでした。 そして、今――。 ●行き着いた物語 「林青さ〜ん、それじゃいくね〜」 尖月島の海小屋から、ピンク色ビキニ水着の雪切・真世(iz0135)が手を振っている。 「ああ。それじゃ真世君、頼むよ」 アロハを羽織ってひょろりとした林青が、海小屋から続く花道の脇にスタンバイして手を振る。 すると真世、しゃなりしゃなりと脚を伸ばし気取った感じに歩き始めた。さら、と長い黒髪を手の甲で跳ね上げて腰を振るように進み、林青の脇を通過すると花道正面で屈んでポーズ。少しそのままにした後、振り向いてお尻を振りながら帰っていった。 「よし、ばっちり。花道の高さも長さもこんなもんだろ。真世君も最近ぐっと色っぽくなったね」 「な……色っぽく歩いてってゆったの、林青さんぢゃない〜」 真世、真っ赤になって恥ずかしそうにタオルのくるまっている。 「まあまあ。この新作水着ショーがいつの間にか尖月島の名物になってしまってるんだし。……これを目当てに多くの人が来る。そこで開窓(かいそう)の宣伝をしっかりしておかないとね」 「うううー……頑張る……」 開窓とは、南那内陸部に新たに整備している、飛空船発着湖のある街だ。 先日、真世たち開拓者と林青らが視察してどんな街にするか話し合ったところだ。 そこで「万国美味通り」や「コーヒーの樹オーナー制度」、「文化の香る街」などの提案があった。 「そうそう。頑張って、万国の美味しいものを取り扱ってくれる商人とか、珈琲栽培に興味を持ってくれる人とか、芸術の浸透に貢献してくれる人に来訪してもらえるようにしないとね」 どうやらそんな作戦のようで。 「もちろん、尖月島ももっと広く知ってもらいたいから真世君にも開拓者の募集も頼んだんだけど」 「うんっ。それはもう」 尖月島は、最初の開拓でカニ型アヤカシを倒して以来、森林部の伏流水の活用や井戸水、雨水タンク設置などで弱点だった水系を整備。沿岸部にはイルカが遊びに来るようになり、一度海賊に占領されたものの海賊たちの手により大量の宿泊施設ができてしまうという幸運にも恵まれ、今では立派なリゾート地となっている。 「開拓者ギルドには、とにかくのんびりしませんかっていうのと……」 ここで真世、言葉を止めた。 「海の家の手伝いや新規出店、水着ファッションショーの出演、夜のキャンプファイヤーで演奏してくれる人なんかもしてくれていいよって頼んじゃった」 てへ、といたずらっぽい笑みを浮かべる。 「ああ。それでいいよ。……そういえばここは、真世君や開拓者のみんなと開発してきたんだしね」 言いながら林青、持っていた紙をくしゃりと潰した。 「あの……まずかった?」 「いや。大手からの協力を押し付けられてたけど、断る理由ができてうれしいよ。……私から開拓者を雇ったんなら、問題視されてたけどね。グッジョブだ」 予定を書いていた紙なんだろうな、と心配していた真世。林青がそれを否定したことでうれしくなった。 「いやっほぅ♪」 思わず、水着姿を隠していたタオルを放り投げてのびのびとジャンプしたり。 というわけで、もう泳ぐことのできる南の島「尖月島」でリゾートしたり手伝ったりしてくれる人、求ム。 |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / のばら(ia1380) / 九法 慧介(ia2194) / 新咲 香澄(ia6036) / からす(ia6525) / 猫宮・千佳(ib0045) / アーシャ・エルダー(ib0054) / アグネス・ユーリ(ib0058) / 雪切・透夜(ib0135) / ニーナ・サヴィン(ib0168) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / ルンルン・パムポップン(ib0234) / リスティア・サヴィン(ib0242) / 御陰 桜(ib0271) / 比良乃 落葉(ib0276) / 真名(ib1222) / 綺咲・桜狐(ib3118) / 禾室(ib3232) / ミリート・ティナーファ(ib3308) / 龍水仙 凪沙(ib5119) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / フランヴェル・ギーベリ(ib5897) / 泡雪(ib6239) / 八条 高菜(ib7059) / 小苺(ic1287) |
■リプレイ本文 ●着替えない男たち 「尖月島……ここに来るのは久しぶり、か」 呟いた琥龍 蒼羅(ib0214)の腰に、どしんと何かがぶつかった。 「蒼兄ィ、泳がないの?」 「ほら〜。二人掛かりでも蒼兄さんは倒れないって言ったじゃない……」 紺色のワンピース水着に身を包んだ紫星(iz0314)と在恋(iz0292)が抱き着いてきたのだ。 「まずはキャンプファイヤーの準備を手伝いたいからな」 蒼羅、二人の頭を撫でてやる。 「……君達も大きくなったね。時が経つのは早いもんだ」 そして九法 慧介(ia2194)もやってきた。烈花や皆美、闘国もいる。 「手品兄ィの背が縮んだんじゃない?」 「まあ大きくなっても君達は可愛いけどね!」 減らず口をきいた兵馬の頭をわしわししてやったりも。 「みんな、久しぶりなのです……芸術祭、頑張って。私も水着ショーに出るから」 にこっ、とルンルン・パムポップン(ib0234)も登場。 「水着ショーって……忍者姉ェ、着替えてないじゃん」 前然が突っ込む。陳新も一緒だ。 「それは……本番までの秘密だったりしちゃいます」 どうやら香鈴雑技団の面々は変わらずの様子。 「そういえば、お茶姉ェもいたわ」 「変わった様子はあったか?」 思い出したように言う紫星に、蒼羅が聞いてみる。 「まったく、変わらないわね」 紫星、笑ってきっぱり言う。 ●海小屋では そのお茶姉ェこと、からす(ia6525)。 海小屋で店員用の刺繍シャツに身を包んでテーブルを拭いていた。 「からすさん、遊ばないの?」 そこに、白いシャツを羽織った雪切・真世(iz0135)がやってきた。 「私はいいのさ」 からす、海小屋で調理手伝いや雑用をしている。 おっと。新たな人影が。 「思えばいろんな事があったの……」 たぬきの獣人、禾室(ib3232)だ。 「禾室ちゃん、尖月島って初めてだったっけ?」 真世、隣に座って聞いてみる。 「そうじゃの」 元気なく答えたところで、ふりんと黒くて大きなリボンが禾室の顔の横で揺れた。 「ふふふ。皆さんと一緒に『珈琲お届け隊』としていろいろ回りましたが……」 「おお。おぬし、来ておったのか!」 黒いリボンは、泡雪(ib6239)の着用していた黒いビキニの胸の飾りだった。リボンがおっきければ小さな布地に包まれたふくよかな胸もげふんげふん。 「わぁ、泡雪さんビキニ水着に腰だけのエプロン! 可愛い可愛い〜♪」 真世がきゃいきゃい、泡雪が「少し恥ずかしいですが」と恥じ入る横で、禾室は少し考える風だった。 この時からす、新たな来客に気付き、椅子を引いてやる。 「ここには美味しそうな食べ物がいっぱいあります………」 銀狐の獣人、綺咲・桜狐(ib3118)がやって来ていた。パレオを揺らめかせ歩いて来て、からすに導かれるまますとんと腰を下ろす。白地に赤のギンガムチェックビキニに包まれた胸をむにゅりと潰しつつ身をひねったのは、からすが冷たい茶を出したから。 「堪能したみたいだね」 「……油揚げは無かったですけどいっぱい食べちゃいました……」 夢見心地で言う桜狐。 「知り合いに山賊むすびを出すの連中がいたけど、山賊いなりはあったかな?」 そんなのは、ない。 「美味しそうな食べ物いっぱいか……」 禾室、耳に入った言葉に思うところがあるようで。 しかし。 「そうそう。アーシャさまも来てますよ。『水着コンテストに参加します』って、更衣室にいました」 泡雪が言う。アーシャ・エルダー(ib0054)も来ているようで。 「ホント? 禾室ちゃん、行ってみよ!」 真世、早速禾室を誘う。 ●更衣室にて 「真世さん〜」 更衣室に行くと早速、アーシャが真世をだきゅはぐ。 「あは。尖月島は久しぶりですよね〜」 「そうそう、思えばここから始まったのですね〜」 抱きしめた真世に言われ、カニを退治して、井戸を掘って、真世さんと遊んで……とか思いめぐらせる。 「そしてほっぺにちゅ〜でした。こんなに楽しく南那に関われたのは真世さんのおかげですよ」 「私だって、アーシャさんに感謝してるもん」 真世、それじゃ私から、とアーシャのほっぺにちゅ☆。 「うふふふふ、真世ちゃんお久しぶりで♪」 「あん」 アーシャがたっぷりはぐって満足したところ、今度は真世、後ろからはぐられた。 振り返ると八条 高菜(ib7059)がいつものゆったりした笑顔を浮かべていた。もふもふと真世の抱き心地を堪能している。 「なーんでもお手伝いしますからねっ」 「い、言ってるそばから脱がされてる〜っ!」 高菜、手馴れたものだ。もふもふ抱き締めたあと真世が身を引いたところで衣服を脱がし恥じらって身を寄せたところをまた抱き締めと技巧が光る。真世、翻弄されまくったあとで我が身を見ると……。 「んあっ! 何この紐だけみたいな水着!」 「あら〜、ちゃんと大切なところはこの小さな三角の布で隠れてますよ〜」 描写は、避ける。 「でもでも……」 「真世ちゃんだけじゃなく、私もちゃんとお揃いで……」 恥じらう真世。高菜は仕方ないなぁと自分の着ていたシャツを脱ぎ捨てる。 「ぶっ! ……あ、桜さぁん」 真世、くらっときた後、近くに御陰 桜(ib0271)を発見して泣きついた。 「まあ、真世ちゃんにはまだ早いカモね。自分で選んだら?」 振り返った桜、悩ましくくねらせた肢体は白いワンピース水着に包まれていた。 「……う、薄くない? その生地」 「濡れても透けないらしいわよ?」 真世が目を丸めてしまうくらい、布面積の割にドキドキするような水着のようで。 結局、真世が自分で選ぶことに。 「小さな水玉模様で胸元はフリルの返し、でもって肩紐なしのワンピースはどうかな?」 「ん、可愛くていいと思いますよー、んじゃ、これで人前に出てくればいいんですよね」 とりあえず、二人とも赤地に白水玉のワンピに着替える。高菜の方は胸がポロリしそうだが。 「だ、大丈夫、高菜さん?」 「やだなあ、ちゃんと真面目におつとめしますから。弁えてますよ」 高菜、意味深そうににこにこ。 はたしてどうなる? ●小さな人影も 海小屋は飲食の店でにぎわっていた。 泰猫飯店の鈍猫が数年前に天儀に送り出した山賊砦の瑞鵬と涙の再会をしていたりもする。 「そんなことより妾を見るのじゃ!」 そこに、どどんとゆるキャラ猫の着ぐるみが登場。顔出しの穴からのぞく勝気な顔つきは、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)。このゆるキャラ「泰ニャン」の作者でもある。 「店の宣伝をするのじゃ♪ 大入り間違いなしぞ!」 早速体を揺すったりゆる可愛い動きでアピールアピール。 「おおい、山賊焼きを三つ〜」 「泰猫飯店さ〜ん、炒飯くださいな〜」 早速効果絶大のようで。 「にゃ、尖月島は……はじめてかにゃ?」 「柚乃は、尖月島を訪れるのは久しぶり、かな?」 そんなことを言いつつ浜を歩いているのは、小苺(ic1287)と柚乃(ia0638)。もちろん柚乃は藤色のもふらさま「八曜丸」を抱いている。 『怪我してるもふか?』 その八曜丸、小苺が包帯をぐるぐる巻きにして水着代わりにしているのが気になったのだ。 「ファッションショーもあると聞いたから、それで、かな?」 八曜丸がその包帯に手を伸ばしそうになるのを止めつつ、柚乃は小首を傾げる。 小苺はそんなことは構わずぴぴん、と猫耳を立てていたり。 「コクリちゃん発見にゃ〜っ!」 どうやらコクリ・コクル(iz0150)を発見したようで猫まっしぐら。 「久しぶりにゃ〜っ!」 「わっ! 小苺さんっ!」 駆け寄ってぴょんと跳ねて、ハグぎゅ〜♪ 「って、ちょっと。包帯がほどけてる〜っ!」 コクリ、ほどけた小苺の胸元を隠すべくだきゅ〜と強く抱く。 「こんにちは。今日はどう過ごそうかな?」 そこへ柚乃が到着。 「あれ? 柚乃さん、今日は珍しい色だね」 おっと、コクリが気付いた。 普段から比較的紫系を好む柚乃だが、今日はパレオ付きのピンクの水着を着ていた。 これを聞いて微笑む柚乃。少し身を屈めてパレオの裾に手を掛けた。 「ふふ……ほら、裏地は淡紫色だったり」 白い足を前に出して、ちらと裏地を見せる。 「シャオのも見るにゃ。下はシンプルで猫柄な水着を着てるにゃ!」 抱きしめていた小苺はこれを見て対抗すべく、ぺらりと胸元の包帯を緩めて見せつけていたり。これでコクリも一安心。 「コクリちゃんやっほー♪」 ここで新たにリィムナ・ピサレット(ib5201)が登場。コクリを抱き揉み抱き揉み。 「いやぁぁぁん、ちょっと待って〜」 コクリ、さすがに脱出して逃げを打つ。もちろんリィムナが追う! 「はっ! 凪沙さん、助けて〜っ」 逃げるコクリ、避難所を発見。 「うおおおおっ。コクリさんに腕がしぃっ! された!」 避難先は、龍水仙 凪沙(ib5119)。あまりの唐突さにうさ耳がピンと跳ねたではないか! 「一緒にファッションショーのモデルやろ〜♪」 さらにリィムナが飛び込んでくる。コクリ、改めて凪沙の腰に抱き着く! 「うおおおおっ。今度は腰までがしぃっ! された!」 結果、コクリと一緒に抱き揉みされまくりだったり。 「コクリちゃんが参加するならあたしも参加するにゃー♪」 さらにここに猫宮・千佳(ib0045)が飛び込んで来て抱きゅがし〜。さらに頬ずり頬ずり。 「さ、最初からみんなにお願いして助けてもらうつもりだったよぅ」 揉みくちゃにされながらコクリがそんなことを。完全に巻き込まれた凪沙はおめめぐるぐるだったり。 とにかく、仲良く更衣室へ。 ●ビーチの水際では 「ん〜……海ー! って感じね」 太陽の下、ぴったりした白いワンピ水着を着たリスティア・サヴィン(ib0242)が伸びをしている。傍には、丈長の水着にシャツを羽織るクジュト・ラブア(iz0230)。 「ふふ、どう? 結婚しても変わらぬこのプロポーション」 ティア、くいと身をひねってクジュトに流し目。 「いつも以上に魅力的ですよ」 「ありがと。イリアには綺麗な私を見て欲しいから手は抜いてないのよ」 笑顔で言ったところでティアの様子が変わった。 「あらクジュト。ティアを口説いてるの?」 アグネス・ユーリ(ib0058)がやってきたのだ。臙脂の色味が小麦色の肌に映えている。しかもビーズなんかで独自に飾ってしゃらしゃらと豪華な感じ。 「兄さんがどういう反応するか聞かせたいわね〜」 ニーナ・サヴィン(ib0168)も一緒だ。こちらはオレンジのワンピース水着で、ティア、アグネスと形はお揃い。波打つ金髪や白い肌と合わせアグネスと対になっている感じ。見とれるクジュトは無視しつつ、ティアの旦那の話に食いつく。 が、言われたティアはがっくりと崩れ落ちている。 そこに雪切・透夜(ib0135)がやってきた。 「すいません。水着ショーの人手が足りないみたいです」 「あら、そんなの透夜が出れば解決じゃない。もちろん女性でしょ?」 アグネス、堂々と言い返す。透夜の方はすでに膝までのハーフパンツタイプ水着で身を固めている。 「ええ、女性です。だから無理……どうしたんです、ティアさん?」 透夜、ティアに気付いた。 「何ともないわっ。妹達が綺麗なのはお姉ちゃんの自慢! だから泣かない!」 ティア、ぐぐぐと拳を固めて立ち上がり復活! くすんと涙をこらえたのは姉のたしなみ。 「あれ? 透夜さんたち、早いね」 この時、島に到着したばかりの新咲 香澄(ia6036)が姿を現した。 「はや〜。透夜くん、もう着替えてるんだ?」 ミリート・ティナーファ(ib3308)もいる。 「わたしたちも早く着替えよっか」 そのミリートに後ろから抱き着くのは、真名(ib1222)。 「ちょうど今はコクリさんたちが着替えてるかな? 水着ショーの打ち合わせも。アーシャさんが何かたくらんでますけどね」 「コクリちゃんが? のばらさんも行こう。……よし、ボクもファッションショーに出よう。需要がない?そんなことは知らないね!」 透夜が更衣室を指差すと香澄が一緒にいたのばら(ia1380)に一声掛けて走り出す。 「……そんなこと誰も言ってないですよ」 「香澄さん……のばらはその、ちょっと……」 あー、と絶句する透夜は置いてけぼり。のばらの方は傍にいる比良乃 落葉(ib0276)の顔を見上げてもじもじする。 「いいよ。先にお話を済ませてしまおう」 落葉は憂いを帯びた表情のままのばらに視線を落とし、そして静かな方へと視線をやった。のばら、こくと頷いてついて行く。 そしてアグネス。 「へえ、アーシャが? ちょっと楽しそうね」 「面白そうじゃな? 行ってみよう」 ニーナもティアの手を引き、ほかの皆も移動する。 ●水着ファッションショー 「それでは今年の水着の流行を占う尖月島ファッションショー、開幕です!」 舞台で司会が叫んで引くと、入れ替わりに舞台両袖から泡雪と真世が出てきた。 「真世さんに泣きつかれては出ないわけにはいきませんしね」 ほふり、と泡雪が呟いたのは内緒だ。 「スポンサーからメイド水着でやってくれって急に注文きたけど、透夜さんにおまじないしてもらったモン」 大丈夫、と反対側で呟く真世。透夜にさっき抱きしめてもらったのだ。 歩を進め中央で近付くと見つめ合って、くすり。 胸の大きな黒リボンを揺らめかして正面を向くと正面花道へと並んで歩いてくる。二人ともポットの乗った銀盆を手にししゃらしゃらと歩を進める。 「おお、エプロン付きかぁ……」 花道横で過ぎ行く二人を見上げる観客は揺らめく腰下エプロンから見え隠れする黒いビキニのチラリズムにため息。 「それだけじゃないですよ」 くす、と泡雪。今度は濃いピンクのワンピースに黒い肩紐の水着を来た高菜が堂々と歩いて来た。胸もふっくら堂々としたもの。 いや、それだけではないッ! うふん、と夜春なウインクをした高菜、何とビキニの胸のラインに指を掛け、引きずりおろした。 「ああ……あっ!」 驚いた観客の声はすぐに歓声に変わる。 「珈琲は南那亭です♪」 裸になったと思われた高菜、実は下に泡雪や真世と同じ水着を着ていた。泡雪が銀盆に載せていたエプロンを渡し、真世が二枚重ねだった銀盆を渡す。 高菜がエプロンビキニに変身したころ、花道下両脇に人波を分けワゴンが到着。 「どいたどいた!」 「これが必要だろ?」 下駄路 某吾(iz0163)とからすが珈琲給仕台を運んで来たのだ。 「では真世さま、高菜さま、いきましょう」 合図して花道から飛び降りる泡雪。真世と高菜も反対側に降りる。 「開窓という街が新たにできます。そこの珈琲もおいしいですよ」 泡雪、眞那の飛空船港町をアピールしつつ観客を分けて珈琲を振舞うのだった。もちろん男どもはメロメロ。 ●飽きさせませんよ! 「さあ、次も見物だよ」 ファッションショーは続く。というか、なぜかからすが司会をしている。 『あんあん』 『わん』 又鬼犬「雪夜」と闘鬼犬「桃」が元気よく舞台に飛び出し、振り向く。 そこへさくらが登場。 「からすちゃんのご指名なら仕方ないわね」 うふん、とボリュームある桃色のポニーテールを両肘を上げて支え上げる。強調された胸は薄く白〜いワンピース水着に包まれ、むにゅり。夜春を使ってるのは内緒だ。 「おお〜」 もちろん観客は大盛り上がり。 「いい反応。なかなかお目が高いじゃない♪」 すっ、すっ、とスタイリッシュに足を出して花道へ。ターンして腰を振って戻る姿に大きな拍手が送られた。 直後、だだだだだっと誰かが花道を走ってきた! 「さあ、楽しいショーの始まりですっ!」 身体を包んだロイヤルナイト・サーコートをばさぁと広げ顔を上げたのは、アーシャ。陽光を跳ねる鈍色のジルベリアの鎧が現れた。 「鍛えた体は美しいのです! さあ、かかってきなさい!」 大剣テンペストをぶんぶん振り回したかと思うと身をひねって鎧を跳ね飛ばして脱いだ! おお、と客席の男どもが前のめりに注目したところ、改めてコートを脱いだ姿は青いビキニ姿。ポージングを決めて引き締まった体を強調する。 「面白そうね」 「誰ですっ?!」 背後からの声に振り向くアーシャ。花道最奥に立つ影は、臙脂のビキニに刃長六寸九分の両刃短刀を構えるアグネスッ。 「勝負ですっ!」 アーシャの声に驚愕する観客。 ぶうん、と大剣が横に薙ぎ、しゃらりとビーズ飾りを揺らしてかわす。 が、これはアーシャの想定内。 「突き、もらいました!」 かわした先へ突きに来た。 ――くるっ、ぴた。 何とアグネス、これも密着回避でかわし短刀「碧州守純」をアーシャの首筋にピタリ。寸止めしていた。 「やりますね?」 「正々堂々宣告されちゃってるからねぇ」 アーシャとアグネスが交錯したまま視線を交わし、ニヤリ。 大きな拍手が巻き起こった。 ●子供水着もあるよ! 「お次は可愛らしくいこうかね?」 からすの声で登場したのは……いや、花道に黒い壁が現れたぞ? どうした? と動揺する観客は、壁の後ろから羽ばたいた一羽の小鳥。 すうっと結界呪符「黒」の上に止まり羽を休めると、つんつんくちばしで壁をつついた。 瞬間、壁が消える! 「行くよ、コクリさん!」 「うんっ、凪沙さん!」 掛け声とともに、壁の消えた花道からお互いの顔を見て手をつないだ小さな娘二人が元気よく走ってきた。不意を突かれた観客は、一気にどどんと前に出た二人の存在感に驚きの声を漏らす。 「スタイル含めマニア必見だよ」 下ではからすがにやり。 「スタイル? そんなもの、ツルペタストーンに決まってるでしょ!」 健康的に肩肘を上げてポーズする凪沙。スポーティーなぴっちぴちワンピの魅力を見せつけておいて、くるん。 「おおっ!」 マニアはいたようだ。 何と振り返った凪沙。ウサギ尻尾を出すために背中がお尻までザックリ開いていたのだ。 「おおおっ!」 同じく振り返ったコクリにも注目が集まる。彼女に尻尾はないので尾てい骨が以下略な状態で。 「それだけじゃないよ」 からすの合図でもう一人が走って来る。 「コクリちゃんが参加するならあたしも参加するにゃー♪」 千佳、遅れて登場! フリフリのたっくさんついたオレンジの子供用水着に身を包んで花道を突進する。 そしてコクリにがしーと抱き着き一回転すると……。 「うに、せっかくだし対照的な水着の方がいいかにゃ? はいはーい、コクリちゃんもぱぱっとお着替えにゃ♪」 千佳、コクリの水着を脱がした! 「ああん、千佳さん〜」 が、これは演出。 コクリ、下に千佳と同じデザインのフリフリたっぷりビキニを着ていた。 「わしも対照的な水着じゃ!」 さらにほわほわたぬきっ娘が走ってきた。 禾室である。コーヒー色で白フリルのついたワンピはもちろん、つるぺた幼児体型。右胸のコーヒーチェリーの飾りを強調しておいて、凪沙と一緒に振り向き尻尾ふりん☆。 「胸の大きさ? そんなことは気にしてはいけない」 さらに元気いっぱいに香澄登場! こちらもお色気が似合うというタイプではないが、健康的に大人びた青いビキニで思いっきり伸身してジャンプイン。 「おー、コクリちゃんやっぱ可愛いね、抱きしめてやりたいよ!」 すでに抱き着いてますって、香澄さん。 「みんな可愛いにゃ♪」 もちろん千佳も抱き着いている。 「ち、ちょっとここからどうするの?」 困るコクリ。横では禾室が下で給仕する真世に手を振り、凪沙が「ふふっ。この歳でコクリさんたちと並んで違和感ないなんて、私も罪な女ね」とか呟きつつうっとりしてたり。 「しかたないなぁ。入れ替わるよ」 ここで花道最前列に出てきたのは、リィムナ。 ぺったんこ体型で白いスク水……いや、それはただの日焼跡だ。 白のスリングショット着用で、熱っぽい視線送り観客を釘づけ。 そして無限ノ鏡像で分身する! 「はい、はいっ……」 高く蹴り上げるハイキック。その動きで詳しい描写は避けるが、ずれてしまう! 「はいっ!」 両側にいた分身が、あらわになる直前で手で覆う。 この様子に釘付けとなっている間にコクリたちは舞台袖に捌けていた。 リィムナも最後にお尻ふりん♪して退場する。 ●幕間劇 そんなリィムナを、客の最後列でじっくりじっとり見ていた人物がいた。 「リィムナ……堪らないよ。あの夜の事を思い出してしまう……」 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)だ。 「また一人占めをしないと……」 そんな視線とつぶやきが聞こえたか、捌けるリィムナは最後に肩をぞくっ、と震わせていたり。 「……一人占め……」 そんな呟きは、フランヴェルの背後から。 声の主は、のばらだった。 「森の方へ行こう」 落葉は人の少ない方へとのばらを誘う。もちろんのばら、頷く。 「友達、明るかったね」 「はい」 無難な話題に、元気よく答えるのばら。 落葉はしかし、次の会話を探さない。 (私が年端もいかぬ頃、かつて愛して、しかし離れて行ってしまった人が居た……) 引き締めた唇は、自信に向けた悔しさ。 (しかし、家の者達から彼女を守ることができなかった) 私自身の不甲斐無さに、思わず顔がゆがむ。 が、すぐに気付いた。 のばらが心配そうに見詰めていることを。 (面影がある……十年前の) 思わず心が落ち着く。 十年前の、すべてが充実していた時の感覚がよみがえる。 「……きっと母様は」 「いや、少しこうして歩いていたいな」 意を決して、亡くなった母のことを口にしたのばら。落葉は十年前のように語り掛け、並んで散歩を楽しんだ。 そのころ、人のいなくなった更衣室でくすくす笑い声が。 「うん! とっても似合ってるわ♪」 真名が手を合わせて喜んでいる。 目の前ではミリートがにこにこしていた。白でフリルのワンピを纏い、しっぽふりんしながら満面の笑顔が水着の眩しさを増加させている。 「お姉ちゃんも似合ってるよ!」 ミリートがご機嫌なのは、このせいもある。 真名の水着は、赤いホルターネックのビキニ。白い肌に黒い長髪と合わせ、濃い色が映える。 「華やかで似合うと思ったんだ♪ お姉ちゃん、綺麗だもの」 大人びた感じの真名の手に抱き着くミリート。 「私の独り占め♪」 とは口にはしなかったが、むぎゅ〜としがみつく姿はそう言ってるも同然で。 「じゃ、皆にミリートのお披露目といこうかな?」 真名、そんなミリートがとても愛しそうだった。 ●再び水着ショー 「金髪と一緒だとはっとすること請け合いだね」 からす、相変わらず縁の下の力持ちならぬショーの司会をやっている。 「はぁい♪ みんな、恋してる〜?」 オレンジビキニのニーナが高々と手を振り会場を盛り上げながら歩いている。 「……それはそうと恋人がいたはずだね?」 からす、花道下から突っ込む。 「だあって……可愛く健康的に……アイドルっぽくてしろってクゥが」 ニーナ、そんなことを言いつつ客席に投げキッス。惜しみなく白い肌や水着に包まれたボディラインを晒す。観客はもちろん大歓声で投げキッスに答えるが。 「……ニーナ……」 こっそり舞台袖から見守っていたクジュトはやきもちを焼いていたり。その後ろでアグネスがふぅやれやれ。 「最後は尖月島らしく、華やかに」 からすの紹介でトリを飾るぺく出てきたのは……。 「ルンルン、行きますっ!」 すたたたっ、と薄桃色のビキニを着用したルンルンが走ってきた。 そしてっ! 「ジュゲームジュゲームパムポップン……可愛いモデルさんになぁれ!」 ワンドを回してウインク一発。 「うおおっ!」 観客、色めき立つ。 「花のルンルン忍法で、お客さんの目を釘付けです」 くるっと自分自身がまわって観客にウインクしたときには、出てきた時とはまるで別人のようなルンルンがいた。 花の意匠や可愛いフリルの付いた、それでいてデザイン大胆な薄桃色のビキニを着ている容姿はまったく変わっていない。 それでいて、揺れる胸、流す瞳、踊る金髪、きゅっと閉じられる白い太腿、恥じらうようにくねるウエスト――。 それら一挙手一投足が、すべて女性の喜びを表すように魅力的になったのだ。 これぞ、これぞルンルンの奥義「ルンルン忍法『花の鍵』」ッ! スタイリッシュに歩く姿に観客の視線が釘付けとなる。 ●さ、後は遊ぼっ! 「みんな、お疲れ様なんだぞっ」 ショーが終わって解放された皆を天河 ふしぎ(ia1037)たちが出迎える。 「その水着、よく似合ってるね……もし良かったらだけど、これから一緒に屋台を回ってみない?」 そしてコクリを誘って海小屋の屋台へゴー。 「はや〜。お疲れ様だよ」 「やっほ〜」 そこにミリートがやってきた。真名も一緒だ。 「あら、今頃? 遅いわよ」 ティアが二人を出迎える。 「その分ミリートと水着の選びっこして楽しんだのよ」 満足そうに答える真名。 「はいはい。準備ができたなら……イルカと泳ぐわよ!」 「オッケー。アグネス、ニーナ! 遊び倒すわよー♪」 これを見守っていたアグネスが走り、ティアがそれを追い越してニーナも誘う。たちまちお揃い色違いの水着に包まれた三人組がさくさくさくっと浜辺に足跡を作る。 「魚ー! 魚を釣るにゃー!」 小苺は違う場所に走る。 「竿持て者共、いざ戦場へ!!」 「柚乃はやっぱりイルカさんと泳ぎたいかな♪」 柚乃はこのノリにはついて行けないようで。 この時、海小屋。 「はっ!」 居眠りしていた桜狐、ついにお目覚め。 「……まさか今まで寝ていらっしゃるとは」 戻ってきた泡雪と真世が汗たら〜。 「その……真世?」 後ろから、透夜の声。真世が振り返ると海の方を指差す。迷う真世。 「行ってらっしゃいませ、真世さま」 「あとはやっておくのじゃ。……南那亭にいらっしゃいませ、じゃ!」 泡雪が促し、禾室が早速働く。 「うん。透夜さん、行こう!」 「あらあら……それじゃ私も」 手を取り合い海に走る真世と透夜をについて高菜もゴー。 「お腹一杯ですし食後の運動したほうがいいでしょうか? ならイルカさんと遊びましょう」 目覚めた桜狐も、これを追う。 ●幕間劇、その後 落葉とのばらは森を散策した後、海小屋に戻っていた。隅の方でひっそりと座り飲み物を前に話をしていた。 「きっと母様は、家の事もあったから、身を引いたんだと、思います。でもですね!」 ついに母の話をした。 自分の瞳の色を母が綺麗で大好きって言ってくれたこと、自分が生まれたころの話をするときとても幸せそうな様子だったこと……。 「母様、落葉さんのこと、ずっと好きだったのですよ。の、のばらも……私も、すぐに『父様』とは、呼べないかもですが……まずは、母様のお話をしたいなって」 堰を切ったように出た言葉を止めたのは、落葉の手だった。 ぽふ、と頭に乗っている。 「こんな私でも、許されるのならば娘と思いたい。……ああ、だけれど、君の母君の話はまた後で、ゆっくりしよう。今は、大切な友達と遊んでおいで」 落葉、「私はもうここにいるのだから」の言葉を視線に込めた。 のばら、大きく頷く。 時は少し遡り、海小屋の出店で。 「この山賊焼き美味しい」 「うんっ。そうだね」 ふしぎとコクリが山賊焼きを食べながら歩いていた。 「……僕たち、空の双子とか言ってた時もあったよね。これからも一緒に色んな事が出来たら……もし困った事があったらいつでも力になるんだぞ」 店で「球『友だち』」を購入して、コクリに差し出した。 「もちろん、ボクだってふしぎさんの力に……」 頷いてコクリが球に一緒に手を掛けた時だった! 「あーっ! ふしぎちゃん、分かってるじゃない!」 突然の声は香澄だった。 「うに! ボール遊びするにゃ〜!」 「仕方ないわねぇ。人数がいた方が楽しいし」 千佳と凪沙も一緒だ。 三人がどどど、と駆け寄って来る。 「わわっ、そんなつもりじゃなかったんだぞっ!」 「ふしぎちゃんがそんなつもりじゃなくても、こっちはそういうつもりだしね」 「うにに、ボール奪うにゃ!」 「千佳さ〜ん、こっちパス〜」 うろたえるふしぎに襲い掛かりボールを奪取すると凪沙にパス。千佳はコクリをゲットして一緒に波打ち際に走る。もちろん、ふしぎも追う。 たちまち水際でばれー遊びが始まった。 この時、のばらは落葉の言葉に頷いていた。 落葉の指差す方を見ると、コクリたちがバレー遊びをしている。 この嬉しさを誰かと共有したい、との衝動に駆られて走る。途中で履いていた袴をぽーんと脱いだ。白いさらしと白いビキニ下姿になると、思いっきりコクリの背後から抱きついた。 「コクリさん、遊ぶのですー!」 「うわっ、のばらさ〜ん」 ばっしゃ〜ん! ぷあっ、と自ら顔を上げるコクリ。珍しく甘えるのばらにびっくりする。 「の、のばらさん?」 「えへへ……家族って、やっぱり、嬉しいですね♪」 コクリ、以前に聞いた話を思い出し自分もうれしくなった。 「あたしも交ぜるにゃ〜」 「コクリさん、ボールボール〜!」 ここに千佳と凪沙が突っ込んできて、またばっしゃ〜ん。 とにかくそのあとも何が何だかわからないながら遊び続ける。 ●水しぶき楽しく 沖には、イルカがたくさん遊びに来ていた。 ざぷん……。 皆の乗ったボートにジャンプし、誰かを巻き込んで跳び越え落ちた。 「あら、待ちきれなかったのかシら?」 狙われたのは、いつも尖月島に遊びに来ている桜。早速イルカがじゃれついたのだ。 『大丈夫ですか?』 心配した桃が水面に立って駆け寄って来る。 「心配なのは雪夜かシら? とにかく、久々にイルカたちと遊びましょ♪」 いうと同時にどぷんと潜る。次に水面に出た時はイルカの背中につかまって一緒に泳いでいた。 そして振り向く桃。 『あん……』 不安そうな雪夜についてやるのだった。 再び、船。 「きゃ〜っ、オカリナ吹かなくても寄って来る〜!」 ニーナ、そんなことをしようとしていたらしい。船をつつかれバランスを崩し、どぷ〜ん。 「いけない」 「大丈夫、ニーナ?」 アグネスとティア、すぐに飛び込む。 なかなかニーナは上がってこないぞ? その時。 ――どぷ〜ん! 「〜っはぁっ。イルカと泳ぐってきもちいい〜♪」 ニーナ、イルカにつかまったまま顔を出す。さらに引きずられるように泳いでいるぞ。 「クセになりそう〜♪」 楽しそうな声が遠ざかる。つかまったイルカが遠くに泳いでいるのだ。 「アグネス、追うわよ〜」 ティア、手近なイルカにつかまり指差す。イルカ、素直に追う。 おっと、アグネスは? 「いい? 後でお願いがあるからね?」 そんなことを言いつつイルカにつかまると、あっという間に連れ去られた。ニーナとティアを追う。 (ふうん……腰を波打たせるようにするのね) とかつかまりながら思うアグネス。 泳ぎがあまり得意じゃなく後でイルカと泳ぎの練習をしようとしているのは内緒だ。 ちなみに、最後に残っていた桜狐もしっかりといたずらされていた。 「わぷ……悪戯なイルカさん」 体当たりされて海に落とされた後で、いまようやく船の縁につかまって一息ついたところ。 が、ここで気付く! 「……って、水着? ……はぅ!? そ、それ返してください!?」 船縁でちょうどこちらからは見えないが、自分の胸元を見てががん、と狐耳を立てる桜狐。続いて先のイルカを探すと、口に赤いギンガムチェックのビキニトップをくわえて泳いでいる。 「返し……わぷ」 手を伸ばすと逆にこっちに泳いできて体当たりされた。 ざばん、と海面に出たところでは桜狐がむぎゅりとイルカに抱き着いているので見えない。そのまま手を伸ばして奪い取るとまたも取り返されたり。 「す、好きな色だったのでしょうか?」 別の場所。 「そ、そうでもないような……」 柚乃ももれなくイルカと楽しく(?)追いかけっこをしていた。 こちらは、裏地が淡紫色のパレオを取られていたから色は関係ないらしい。 ●追う者たち 「透夜さん、待って〜」 水際で真世が透夜を追っている。 「あははっ。……ここまで来ればいいかな?」 人気のない岩場まで逃げて、透夜は振り向いた。とすん、と真世がぶつかる。そのまま抱き留め、見つめ合って……。 そして周りにだれもいないのを確認してから……。 「ぶっこ抜きにゃ〜〜っ!」 突然、背後岩場の向こうから気合の声。 どうやら小苺が大物を釣り上げたようで、どすんと釣果が二人の前に落ちてきた。 もちろん、キスはおあずけ。 別の場所でも。 「ミリート、あの岸まで競争よ」 「よぅし。負けないよ、お姉ちゃん」 真名の提案に、がおーと乗るミリート。 思いっきり泳いで岩場に先にたどり着いたのは、いつも元気印なミリート。 「よし、いっちば〜ん!」 「おめでとう、ミリート」 喜ぶミリートに、追い付くやいなや抱き着く真名。 その時、気付いた! 「イルカたち、ここまででいいよ」 何と、フランが天歌流星斬で宙返りしながらサーフィンしてこっちにやって来ている。 そして岩場の裏の声にも気付いた。 「まったく、フランさんたらこんなところに呼び出して……わっ!」 「とうっ! お待たせしたね。さあ、いつかの夜の続きを……」 どうやらフラン、ここにリィムナを呼び出していたらしい。そして天歌流星斬でさっそうと彼女の前に姿を現すと熱い抱擁を交わし「ん……」と息の詰まるような気配がして……。 「はや〜」 「こっちに行きましょう、ミリート」 少し赤くなりながら場所を変える二人だったり。 そして。 「ふふふ〜。はい、あ〜んして」 「あ〜、ん」 ミリートはお弁当を用意してきたようで、別の岩場でお弁当を二人で楽しんでいる。 「誘ってくれてありがとう……。えへへ、真名のこと、大好きだよ」 「うん、大好きよ、わたしのミリート」 岩場に伸びた影が、ちゅ、とキスしている。 のぞき見は野暮ですよ。 ●夜も楽しく そして、キャンプファイヤー。 「助手の兵馬と烈花がこの箱を三等分します」 舞台では慧介が立てかけた棺桶に入りふたをし、前然と兵馬が刃を立てた。その後開けると、誰もいない。闘国のドラムロールで、舞台袖から改めて五体満足な慧介が出てきた。拍手が巻き起こる。 「?」 この時、舞台裏で次の仕掛けに走っていた在恋と皆美がゆったりとチェアに座る真っ白い神仙猫翁に気付く。 「わしは謎のご隠居さまじゃ。娘子や、茶をはよう」 「ええと、手品兄さんに教わったのは……」 在恋、習った通りの手品で茶を出した。 「ほお、見事。代わりにこれをお裾分け」 実は神仙猫翁の正体はラ・オブリ・アビスを使った柚乃。自分も雑技団としてできるなか、という手ごたえに嬉しくなりバーベキューを差し出す。 客席では。 「今日は開窓もたっぷりアピールできました」 泡雪が満足そう。 「開窓の開発が進んだらジルベリアの商品を扱うための店を開くことを正式に申し込みに行きますよ。帝国貴族エルダー家の代表として」 アーシャも開窓の未来に思いをはせる。 「わしは成人したらいろんな場所に『食』を求めて旅に出るつもりじゃけど……」 元気のいい二人とは対照的に、禾室少ししんみり。 やがて二人に顔を上げる。 「帰る場所はあの南那亭じゃからな」 泡雪とアーシャ、静かにうなずいた。 やがて、ミリートが静かな演奏を。 「ニーナ?」 クジュト、雰囲気のある曲を聞きつつニーナを誘って人のいない方に。 「どう? 可愛い? ……あ。だぁめ、ここじゃ」 浜辺に座って、改めて恋人に水着を見せると押し倒された。 のしかかる重さはしかし、すぐに軽くなった。 改めて目を開くと、クジュトがにこり。 「ペアの指輪、できたよ。サイズ確認に預かってきたんだ」 左の薬指を見ると、月桂冠デザインの指輪がはまっていた。クジュトの左薬指にも同じものが。 嬉しさのあまり、どちらからともなく抱き着く。 「蒼兄ィ、これ……」 紫星は浜辺で蒼羅から弓「夏侯妙才」を手渡されていた。 「ある依頼で長い旅に出る事になった。いつか依頼を終え帰って来る時まで……預かっていてほしい」 背を向けて言ったところで、気付いた。 「俺にも必ず戻るって約束、ほしいな?」 前然だった。剣を構えている。 「いいだろう。見ておけ」 蒼羅、手加減しつつ自らの奥義「蒼龍閃」を披露する。 そして気付いた。 新たな影が割って入ったことを。 「隠逸華」 慧介だ。 叫んで前然に構えさせ、当てないように三段突き。 「……出会ってくれてありがとう。俺は君達が本当に大好きだよ」 慧介、技を出した姿勢のまま心からの言葉を贈った。 ●そして 「もちろん、冒険は終わりじゃないよね」 波の音が真下から聞こえるコテージのテラスに座り、香澄が隣に座るコクリと満天の星を見上げながら言う。コクリを挟んで千佳も一緒だ。 たとえば、人気のない場所で透夜が真世を抱いて囁いている。 「これからといえば……真世との子供、とか? ふふ。今よりももっと幸せにしないとね」 メロメロな真世はもう、透夜の思うまま状態。 ほかにも別のコテージの中。 「この浮気者めが! よくもあんな変態とっ! リィムナは妾のなのじゃー!」 「うわああん! 痛いっ……リンスちゃん、ごめんなさあいっ……♪」 昼間のフランとの場面をぐぎぎぎと見ていたリンスがリィムナを好き放題。これからどうなる? そして千佳も夜空を見上げてコクリの肩に身を預ける。 「綺麗な星空にゃー♪ 毎年コクリちゃんと来たいにゃね、これからも」 そう。 これからも――。 |