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■オープニング本文 武天の商業都市、芳野の冬の風物詩と言えば雪の祭りである氷花祭だ。 芳野にほど近い景勝地、六色の谷で行われるこのお祭りは、寒さに負けない熱気溢れる催しで。 今年も例年通り行われることとなったのだが、今年はちょっとした趣向が。 昨今、開拓者たちの活発な活動と、新しい国々との交流に伴い様々な新料理がこの芳野にも流行していた。 しかしここは商魂たくましい商業の街、芳野である。 流行はめまぐるしく変わり、昨日まであったお品書きも明日には違う物、なんてことも。 そこで、賑やかな芳野の氷花祭に彩りを添えるべく企画されたのが「屋台競べ」である。 芳野の様々な商店が協賛し、材料や屋台の準備は整えてある。 あとは、天儀のみならず世界各国の珍品料理から、家に伝わる秘伝料理まで何でも御座れ。 ここから新しい流行を作ってしまおうじゃないか、というのがこの「屋台競べ」なのだ。 芳野の腕利き料理人から、噂を聞きつけた他国の料理人まで津々浦々の腕自慢が集まっているとのこと。 もちろん、ここに開拓者も参加自由である。 自慢の腕を振るうも良し。ただ単に食べ歩くも良し。 しかし、競い合うからにはそこから覇者が生まれるのが道理。 ということで「屋台競べ」が行われるのはたった一日なのだが、その日の売り上げで勝敗が決定。 一番人気だった屋台には、賞金が与えられる予定である。 一方、氷花祭といえばそれを象徴するのが雪像作りである。 見事な芸術品から、愛嬌ある一品まで所狭しと雪像が並ぶのは、この氷花祭ならではの一幕。 雪を固めた雪像から、氷を用意しての氷彫刻までなんでもござれなのは何時もの通りである。 こちらは、見物客の人気投票によって一番を選ぶことになっているとか。 もちろん、一番人気の雪像にも賞金は与えられる予定である。 真っ白な雪で埋め尽くされた六色の谷。 そこを見渡す楼閣で、温かい料理に舌鼓を打つのも良し。 珍品から伝説の一品までが玉石混淆の屋台を廻るのも良し。 雪像を眺めるのもいいだろうし、有り余る雪で童心に返って雪遊びも楽しいだろう。 今年は芳野の領主代行、伊住穂澄も大いに祭を盛り上げるつもりのようで、例年以上の盛り上がりだ。 一週間にも及ぶ氷花祭、ふらりと足を向けてはどうだろう? |
■参加者一覧 / 劉 天藍(ia0293) / 柚乃(ia0638) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / フェルル=グライフ(ia4572) / 平野 譲治(ia5226) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 滋藤 柾鷹(ia9130) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 玄間 北斗(ib0342) / 十野間 月与(ib0343) / 劉 那蝣竪(ib0462) / 无(ib1198) / 浅葱 恋華(ib3116) / 綺咲・桜狐(ib3118) / イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138) / サヤ・エミル(ib8937) |
■リプレイ本文 ● 芳野の冬の祭り、氷花祭。その華である雪像の公開日は明日に迫っていた。 その会場にて。すでに日は落ちているがかがり火の明かりの下、作業を続ける開拓者たちが居た。 「ふむ……もう少しここを薄くするか。この気温なら、日が出ても大丈夫だろうしな」 氷の彫刻を前に、思案している青年は琥龍 蒼羅(ib0214)だ。 眼前の氷像は、見事な迅鷹であった。 鋭く薄い羽はその一枚一枚が氷に彫り込まれ、まるで今にも飛び立ちそうな躍動感に満ちている。 それは、琥龍の相棒、迅鷹の飄霖を象ったものだ。 意外に凝り性なのか、それとも芸術を解する趣味人としての矜持なのか、たっぷりと時間をかける琥龍。 やっと満足行く出来になったようで、ほうと手にした小刀や鑿をしまい込むのだった。 顔を上げ、周囲を見渡す琥龍、見ればまだ方々に作業中の者がいるようで。 その中の一つ、作業しているのは開拓者のからす(ia6525)だった。 「ふう、疲れた」 どうやらこちらもひとまず作業終了のようだ。 しかし、疲れるのも当たり前である。作られた雪像はどうやらかなりの大物。 向かい合う二つの大きなかまくらが彼女の作品のようである。 どうやらその作りには秘密があるようで、それをしみじみ眺める彼女は満足そうに頷いて。 そして、そんな琥龍やからすをちょっとした高台から見下ろす1人の男が。 彼も同じように作業中の開拓者、无(ib1198)だ。 彼は下に見下ろす光景と自分が作ったものを見比べていた。 无の作り上げた雪像は、非常に個性的だ。というか、それを雪像というのかどうか不明なほどであった。 「……作る人作られる人、かな」 ぽつりとつぶやく无の言葉に、きゅ? っと首をかしげたのは彼の相棒、管狐の尾無狐だけ。 作業を終えた彼は、弾を取るためにふらっと屋台街の方へ歩き出すのだった。 そしていよいよ雪像の公開日がやってきた。 氷花祭の人出も最高潮、屋台の数々も気合い十分である。 そんな中、朝からかなり盛り上がっている屋台があった。 「ほら、飲んで行って。温まるわよ〜小さい子向けの物もちゃんとあるから♪」 くるくると忙しそうに働いている赤髪の女性は浅葱 恋華(ib3116)だ。 彼女は友人らとともに、甘酒や卵酒、葛湯をだす飲み物の屋台を出しているようだ。 氷花祭はその名の通り雪の祭りだ。寒いのは当たり前。 そんな中、甘い香りの甘酒や卵酒、それに子供向けの葛湯は大人気だった。 奇をてらった物では無く、こうしてお客がほしがる物を提供するというのは、いい目の付け所だ。 さらに、接客をしているのが妙齢の女性ばかりというのも魅力的だった。 「寒い日に、とっても温まる甘酒はいかがですか……? 卵酒、葛湯もありますよ……」 狐柄の前掛けもかわいらしく、ちょっと顔を赤らめながら接客をする綺咲・桜狐(ib3118)。 「さあ、寒い中、暖まるよ。一つどう?」 笑顔もまぶしく積極的にお客を捕まえているイゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)だ。 3人は、多くのお客に恵まれ、忙しく働いているようだった。 だが、忙しく働いていれば喉も乾くもの、綺咲とイゥラは休憩がてら甘酒を一杯。 すると……。 「ん、何か熱くなってきました……」 「なんだか温かい通り越して熱くなってきちゃったけど、まあ寒いし丁度いいわね」 なんだか怪しい雲行きの二人。どうやら酒に強くなかったようだ。 「……でもやっぱり熱いし、ちょっと肌蹴ちゃいましょうか」 と、イゥラがいえば、こっくりと綺咲も頷いて、妙に色っぽい様子で接客開始だ。 鼻の下を伸ばして集まってくるおいちゃんたちでさらに集客も加速。 それを見て、思わず調理場の浅葱が、 「うぅ〜……桜狐ぉ、イゥラぁ。後で私にも−!」 と地団駄を踏むのだが、残念ながらそのときは訪れなかった。そこにやってきたのは黒髪の女性だ。 「あら? えっと確かお祭りの運営をしてる領主さん?」 「はい、芳野の領主代行、伊住ですが……えー、さすがにこの状況はちょっと注意を、ということで」 「……あ」 さすがに、家族連れも多いお祭り。ちょっと行き過ぎたようで厳重注意。 お酒で未だにぽやっとしている二人共々、こってり怒られるのであった。 さて、気を取り直して他の屋台はどうだろう。 ふらりと氷像を眺めながら道を行くのは琥龍だ。 自分の相棒、飄霖の氷像の出来を確認してみれば、陽光の下見事に輝く迅鷹の姿が。 その躍動感溢れる姿は、子供から大人まで等しく感心されているようで。 それを満足げに見送ってから、琥龍はふらりと屋台街へ。 すると鼻をくすぐる香ばしい黒ソースの香りが。 「お、あれは……」 それは琥龍の知った顔、礼野 真夢紀(ia1144)の屋台だった。 「あ、琥龍さん。お一つどうですか?」 彼女が作っているのは、ジルベリアの黒ソースを使って作られた薄いお好み焼きだった。 器用に生地の部分を大きく作り具材を挟んで提供するようで。 「なるほど、歩きながらでも食べられるようにしてあるんだな」 「はい、麺入りだと無理ですけどね」 そういって笑う真夢紀。彼女はこっちもどうですかと、別の料理を琥龍に勧めた。 こちらは、真夢紀を手伝っている十野間 月与(ib0343)の料理だ。 「はい、まゆちゃん。ちょうど蒸し上がったから熱々よ」 真夢紀は、十野間から手渡された笹の葉の包みを琥龍に渡した。 それは、泰国風の肉まんだ。こちらも手で持てるようにと笹の葉で包まれているようだ。 それ以外にも、竹筒の容器で豚汁やジルベリア風のシチューも提供する十野間と真夢紀。 ほっと安心するような暖かい料理の数々は中々に人気のようで、 「売り上げで勝敗が決まると言っていたな……これで多少は貢献できたかな?」 琥龍は料金を払いながらそう真夢紀に言うのだが。 「他の人が、楽しんでくれればそれで……」 十分ですから、と首を振る真夢紀に隣の十野間も笑顔を浮べて。 そんな二人に見送られて、繁盛する屋台を琥龍は後にするのだった。 ● 賑やかに盛り上がる屋台街から、手に手に料理や飲み物を持って観光客たちが足を進める先は雪像だ。 今年も見事な雪像がずらりと並んで勢揃い。 そんな中子供たちに大人気の屋台がいくつかあった。 「のほほ〜んのんびりたれたぬきさんなのだぁ〜」 脱力しまくったタヌキ、聞けばたれたぬきとか言うらしいが、その着ぐるみで踊る奇っ怪な姿が一人。 「のほほ〜んほっこり、笑顔は心のぬくもりなのだぁ〜」 ぬくもりなのだー、と子供たちが真似する中、踊っているのは玄間 北斗(ib0342)だ。 その彼の背後には、どんと鎮座する脱力系のたぬきさんが。 ところどころを黒く染めて、のほほんと転がっているその雪像は、もちろんたれたぬきの雪像だ。 踊りも含めて、大いに賑わうたれたぬき。 子供たちの笑顔が玄間は嬉しくて、思わず頑張って自作のたれたぬき踊りを踊り続けるのだった。 そんなたれたぬきと同じように子供の人気をつかんでいる雪像が一つ。 子供は陽気な歌や動きが大好きだが、一方でちょっとした遊びも大好きだ。 そこを注目したのか、子供たちがじーっと像を眺めて考え中のその雪像は平野 譲治(ia5226)の作だった。 「雪だるまの塔と従者たちっ! さあ、氷の君は誰なりかねっ♪」 どーんとそびえる大きな雪だるま。その周囲には小さな雪だるまがたくさん並ぶかわいらしい雪像だ。 だが注目すべきはそこだけではない。 実は、この大小様々な雪だるまの中に氷の小さな雪だるまが混じっているらしい。 子供たちはそれを探すのに夢中なようで、 「氷の君は小さいなりっ! しっかり探さないと見つからないぜよっ!」 子供たちが一生懸命探す姿に混じって、あんまり見分けの付かない平野だったり。 そんな中、一人の子供がついに氷の君を発見したようで、 「あ、ほらあそこにいた!」 「え、どこどこ? どこにいるの?!」 わいわいと賑わう子供たちに、正解ぜよっ! と子供と一緒に喜ぶ平野の姿が。 こうして、平野の雪像も大いに祭りの一角を盛り上げることに成功するのだった。 そして、もう一つ。これもやっぱり子供に大人気な雪像があった。 「わぁ〜……おっきなもふら様!!」 子供たちがはしゃぐのも当たり前、柚乃(ia0638)が作ったのは巨大なもふらの雪像だ。 それだけではない。もふらのお腹部分が小さなかまくらになっているようで子供たち大興奮。 外から眺めたり、中に入ってみたりと大いに人気のようであった。 そんな様子を見つめているのは、制作者の柚乃と相棒のもふら、八曜丸だ。 「雪遊びって楽しいね」 そんな柚乃の言葉に、雪像と同じ襟巻きを巻いたもふらの八曜丸がもふっと頷けば。 「……あー!! 本物のもふらさまがいるー!」 八曜丸を見かけたのか、雪像の所の子供たちが目を輝かせて八曜丸へと殺到する。 もふもふの八曜丸に抱きついたりと子供たちに大人気な八曜丸で。 「……後で一緒に甘い物食べに行ってあげるからね?」 しばらく離してくれなさそうな子供たちに困った顔を浮べる八曜丸に柚乃はそう言って。 二人はしばらく子供たちの相手をしてあげるのだった。 そんな雪像の合間にすらりと立つ一組の氷像があった。 遠くから見ると、それは見事な迅鷹の氷像だった。 琥龍の作った飄霖の氷像に競べると、どこかあどけない姿のその迅鷹。 それはフェルル=グライフ(ia4572)の相棒、迅鷹のサンの姿だった。 飄霖の像が凛々しいというなら、こちらのサンの氷像はどこかかわいらしい氷像だ。 だが、その理由はもう一つあった。 近づいてみれば、実は迅鷹のサンは、だれかと遊んでいるのだ。 それは、ちょこんと迅鷹の足下に立つ人妖の氷像だった。 彼女は酒々井 統真(ia0893)の相棒、人妖の雪白である。 酒々井とフェルルは、二人で一緒にそれぞれの朋友の氷像を作ったのだ。 その出来は、組み合わせの可愛らしさや丁寧な出来もあってかなりの好評のようだ。 歩いてくる人が皆その近くで足を止め、人妖と迅鷹の組み合わせに笑顔を浮べていて。 そんな様子を、制作者の二人は遠巻きに見守るのだった。 「どうだ? あの出来だったら文句は無いだろう?」 酒々井の言葉に、まあまあじゃと人妖の雪白が返せば、思わずその様子にフェルルは笑顔を浮べて。 そして酒々井とフェルルの二人は連れだって、屋台街の方に向かうのだった。 しばらく自分たちの氷像の様子を見ていたのだが、その人気ぶりに満足したようで。 「……それにしても、氷花祭、素敵な名前ですね。雪の中ですけど、一足先にお花見気分ですねっ」 にこやかに言うフェルルに、思わず酒々井も笑みを浮べつつ、 「ああ、確かにな。でも氷像作りは大変じゃ無かったか?」 「ええ、最初は不安でしたけど、楽しく作れましたし」 フェルルの言葉に、それは良かったと頷く酒々井。 そして、いよいよ屋台街の入り口にやってきた二人。やはり賑わいは相当な物で、 「……その、今日は寒いですし、はぐれないように屋台を見て回りましょうっ♪」 そういって、きゅっと酒々井の手を握るのだった。 その様子に、酒々井も軽く手を握り返して、 「ああ、確かに寒いな。……甘い物でもおごるよ」 そう言いながら、二人は連れだって屋台を見て回るのだった、 ● 人で賑わう氷花祭。その中にはいろいろな想いを抱えている者もいるようだ。 「今、用意しておりますので少々お待ちを。いや、初雪もとても嬉しがっておりましたよ」 にこやかに応対しているのは芳野の老舗女郎屋・桜花楼の主人、陣右衛門だ。 相手は開拓者の滋藤 柾鷹(ia9130)。 滋藤は知己の女郎、初雪を氷花祭見物に誘いに来たのであった。 滋藤は初雪の支度を待っている間、お茶を差し出した甚右衛門に問うた。 「……参考までに聞いておきたいのだが、もし身請けをする場合、いかほど金が必要か?」 その言葉に、主人の陣右衛門は、じっと滋藤を見つめて。 「……そうですな。すぐには分かりませんが、看板女郎ですから相場は、軽く百万文と言うところでしょう」 「そうか。すぐにとはいかぬがゆくゆくは……と、まだ内密に頼む」 それに頷く陣右衛門。しかし、そこで彼は深々と平伏して。 「我ら遊女屋の主人にも情はあります。初雪は、幼い頃からここに居る我が子のようなもの……」 そして顔を上げた遊女屋の主人は笑顔を浮べて、 「その子を幸せにしてくださると信頼できる相手であれば、あまり金に関して野暮なことは言いませんよ」 そういう陣右衛門は、次の機会にでも話を決めましょう、と言うのであった。 そして、支度を終えた初雪は滋藤に手を引かれて。 「……初雪、参ろうか」 「はい、滋藤様」 2人は連れだって氷花祭へと向かうのだった。 寒くないようにと気を配りながら進んでいきつつ、滋藤は尋ねた。 「どこか見たい所はあるか?」 「……そう、ですね。雪像を一緒に見てみたいのですけど……」 そこまでいってもじもじと恥ずかしそうに顔を赤らめる初雪は、きゅっと滋藤の外套の裾をつかんで、 「その、良く世の恋人同士がすると、話しに聞いたのですが、一緒に屋台で何か食べてみたいのですが……」 そう言って、滋藤を見つめる初雪だった。 その後2人が向かったのは、屋台街だ。 大いに賑わう真夢紀と十野間の料理屋台。やはり暖かい料理は繁盛しているようで、特に肉まんが大人気だ。 それを滋藤と初雪は2人で分けて食べてみたり。 さらに進んで、綺咲・イゥラ・萌葱の屋台で甘酒を2人分買って。 そしてふらりと腰をかけたのは休憩所のように、大樹の陰に置かれた縁台に腰掛ける2人。 そんな2人の眼前にも丁度とても繁盛している屋台があった。 「春待ち色のあたたかいお汁粉、いかがですか?」 ウサギの耳に、ジルベリア風のメイド服姿で接客をしている女性は緋神 那蝣竪(ib0462)だ。 彼女がくるくると働いている屋台では、どうやらお汁粉を売っているよう。 添えられているのは、梅花の落雁。お汁粉の中には栗やモチまで入っているという豪勢な物。 寒い時、暖かくて甘いお汁粉はやはり多くに人の心を惹きつけるようであった。 「抹茶餡に、さくら餡の汁粉も出来たよ。味見してもらえるかな?」 厨房に立っているのは、劉 天藍(ia0293)だ。 実は今回、いつも那蝣竪に誘われている天藍からこのお祭りに誘ったようだ。 ただし、屋台の売り子としてのお誘いだったので、なかなかに那蝣竪の思いは複雑なよう。 しかし、そんなことを顔に出さずに、那蝣竪は汁粉を味見して。 「ん、味もばっちりよ、天藍君!」 そういって再び売り子として忙しく働くのだった。 しかし、こうして並ぶと那蝣竪と天藍は2人とも中々に人目を引く容姿の持ち主だ。 それに甘い物は女性にも大人気のようで、天藍の元に女性客がじわじわと集まっているようで。 それを見た那蝣竪は、休憩時間にひたすらに新たなモチを焼くのだった。そして休憩あけ、 「……焼き過ぎちゃったから食べてね! ちゃんと全部よ?」 どんと積まれた焼き餅の山。言わずもがな、その意味は伝わろうというものだ、しかし、 「ん、お餅は焼き餅入れるのも美味しいかな」 「……もぅ、意味分かってるかしら?」 「ん? 意味? 上手く味がしみこむように焼いたんじゃ無いのかな?」 のほほんと微妙に鈍い天藍相手に、思わず那蝣竪はやけ酒ならぬやけ甘酒を呷るのだった。 だが、実際の所はというと、天藍は、元気に接客する那蝣竪の横顔に時々見惚れていたりするのだった。 「どうしたの、天藍君?」 くるりと那蝣竪が振り向けば、慌てて視線をそらしてどぎまぎする天藍。 心中、やっぱり美人だよなぁと想いながら今の状況を不思議に思って、天藍は小さく笑みを浮べるのだった。 そして、やっと客足は落ち着いて来た。 最後に来たお客は、すらりとした青年と、初々しい小柄な女性だ。 滋藤と初雪の2人に、お汁粉を渡してから2人はやっと店じまい。 「お礼代わりに、特別に那蝣竪さんの為に一つ作るよ、何がいい?」 「私のために?」 「うん、那蝣竪さんだけのために」 そう言われては悪い気はしない那蝣竪、にっと笑顔を浮べて、 「じゃあね、一番甘いお汁粉お願いね♪」 そして、2人は並んで、最後に2人だけの時間と2人だけのお汁粉を満喫するのだった。 そして滋藤は、丸一日一緒に楽しめたことをかみしめながら、薄暗がりの道を歩いていた。 もうそろそろ氷花祭も終わりだ。屋台は閉まり、これから優勝の屋台と雪像が発表される。 その賑わいを遠くに聞きながら、滋藤は初雪をぎゅっと抱きしめた。 「……滋藤、様……」 驚き声を上げる初雪だったが、そっと彼女も滋藤に手を沿わせ、 「離したくないが、時は残酷だな。……又必ず逢いに来る、待っていてくれるか?」 「ええ、お待ちしております。ずっと……」 その言葉を聞いて、滋藤はそっと口づけをして、初雪、愛しく大切に想うとつぶやいた。 彼女だけに聞こえたその愛の言葉に、初雪もそっと応えて。 「……はい、滋藤様、私もお慕い申し上げております……」 様々な思いが渦を巻くが、それを2人は口に出さず、ただ祭りの後の余韻を静かに感じるのであった。 ● そして一日は終わり、屋台競べの結果が発表されることとなった。 礼野と十野間の屋台や天藍と那蝣竪の屋台は、大いに賑わい好評だったようである。 しかし、残念ながら売り上げで一位を取ったのは、開拓者が作る屋台では無かったのである。 さすがに数名だけで運営をした屋台が多く、中々に数では敵わなかったよう。 だがしかし、開拓者たちの屋台の多くは、好評であったようだ。 また来年も、との声も強く、優勝は出来なかった物の人々の心はしっかりとつかんだようである。 一方の雪像、その優勝争いには大きく開拓者たちが絡んでいた。 子供に大人気の作品たちも惜しかったのだが、人気の作品は二つに絞られた。 一つは、からすの作品だ。 対面して並ぶ二つのかまくら、その片一方には団らんする家族の雪像が置かれていた。 酒を飲む父親、餅を焼く母、そしてその餅をつつく子供。 そんな様子を彫り込んだ雪像が、かまくらの中にいるその雪像の名は「冬の楽しみ」 では対面のかまくらには何があったのかというと、そこは空だった。 「あの、これは……」 「うむ、こちらには本物の七輪を置いてある。休憩のどうぞ。餅などを持ち込んで暖まってほしい」 こちらは七輪を中において実際に使うかまくらだったのだ。 かまくらの中から見れば、自分たちと同じように団らんを楽しむ家族の像が正面に。 この工夫は、多くの人の心を打ったようだ。 だが、それに対抗するのは无が作った雪像であった。 「まぁまぁ……頑張ったかね」 そうこぼす雪像は非常に凝った作りの物だった。 会場全体を見渡すちょっと小高い場所にその雪像はあった。 それは、眼下の光景を写し取ったかのような雪像だった。 細かく、かわいらしい様子で作られた小さな像は雪像や制作者を象ったものである。 まるで、祭り全体が再現されているかのような雪像は、遊び心に溢れていた。 そこに立てば、思わず眼下の風景と雪像を見比べてしまうその工夫。 通る人は皆、この雪像は毎年作っても言いと声をそろえて言うように、まさに発想力の勝利であった。 この二つの雪像が優勝候補である。 そして、審査の結果、優勝したのは无の作った雪像だ。 万雷の拍手と賞金が授与され、長かった祭りは終わるのだった。 開拓者たちの様々な思いを乗せた祭りは終わった。 あとの余韻だけが残るだけ。 はらはらと雪が降り始め、再び六色の谷は普段の落ち着いた様子を取り戻していく。 次は春、桜の季節になればまた祭りがやってくるだろう。 そんな想いと共に、祭りを後にした者たちは、みな温かい気持ちで帰路につくのであった。 |