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■オープニング本文 今回、武天のとある街にて祭りが開催される運びとなったらしい。 街の名は芳野、商業の街として賑わっているという話である。 武天の都、此隅から天儀の各地へと伸びる街道筋沿いの海にほど近い場所で発達した街で。 商業が発達し、大きな花街も存在しているということである。 そんな芳野という街にて、この度大規模な夏祭りが行われる。 街を上げての夏祭りは、商業の街らしく派手で華やかとか。 そして、祭りがあると分かれば、黙っていられないのが開拓者だ。 今までも、開拓者達が参加する祭りは各地で行われている。 今回も今までと同じで開拓者達は気軽に祭りに参加すればいいだろう。 さて、今回、その芳野の街で行われる夏祭りの見所はというと。 もちろん一つは花火だ。 海沿いの街らしく、海岸沿いであがる花火は夜の海に映えるのだとか。 もう一つは、商業の街らしく華やかな音楽と衣装の華麗さで知られる盆踊りだ。 飛び入り参加自由の、賑やかな会場が設けられるのだという。 そして、もちろん盛大に屋台が並ぶのだとか。 今回は特例として、開拓者達のように飛び入りで屋台を開くことも可能だとか。 そんな芳野の街の夏祭り、参加してみないか? |
■参加者一覧 / 天津疾也(ia0019) / 無月 幻十郎(ia0102) / 十六夜 美羽(ia0178) / 静雪 蒼(ia0219) / 風麗(ia0251) / 朧楼月 天忌(ia0291) / 奈々月纏(ia0456) / 橘 琉璃(ia0472) / 四条 司(ia0673) / 葛切 カズラ(ia0725) / 鷹来 雪(ia0736) / 美咲(ia0808) / 焔部・虎徹(ia0840) / アルカ・セイル(ia0903) / 御剣・蓮(ia0928) / 巳斗(ia0966) / 天宮 蓮華(ia0992) / 静雪・奏(ia1042) / 桐(ia1102) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 輝夜(ia1150) / レフィ・サージェス(ia2142) / 天水・夜一郎(ia2267) / 天水・紗夜(ia2276) / ルオウ(ia2445) / 侭廼(ia3033) / バイ モーミェン(ia3333) / 水無瀬 灯火(ia3794) / 荒屋敷(ia3801) / 柏木 くるみ(ia3836) / 佐竹 利実(ia4177) / 大羽 天光(ia4250) |
■リプレイ本文 ●賑わう屋台 「よっしゃあ、せっかくの祭りや、儲けに儲けるでえ。くぅう、ちゃりんちゃりんとなる銭の音が堪らんわあ」 目を銭にして意気込んでいるのは天津疾也(ia0019)だ。 彼を始め、開拓者達が出店を出す一画は朝から多いに賑わっていた。 長く続く祭りの期間、多くの客が訪れる出店。 祭りとなれば財布の紐もゆるむもので、普段は商売とは無縁の開拓者達も知恵を絞って商売繁盛を目指すのである。 長く伸びた広い道沿いに、ずらりと並ぶ出店の数々。 同じ開拓者として背中を任せる仲間でも、今日だけは売り上げを競う敵。 一体どんな盛り上がりを開拓者達の出店は見せるのだろうか。 「さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 豪華景品が当たる的当て屋だよ!」 盛大に声をあげて客を呼び込むのは疾也だ。 彼が出店を出しているのは、小さな屋を木の板に投げつける的当て屋である。 どうやら当たった場所によって商品が異なるようで。 祭りとなれば、財布の紐もゆるむものだが、特に射倖心を煽るものに人は弱いものだ。 もしかすれば、すごいものが当たるかもしれない、というそんな思い。 普段ならば控えてしまうかもしれないそんな気持ちを、祭りの熱気と陽気さは忘れさせてしまうものである。 ということで、子供向けに失敗してもお菓子やオモチャがもらえるし。 もし当たれば、高級との触れ込みの景品まで並べば、どちらかといえば大人がはまり込んでいるようで。 当てろとか○じぇろとか怪しげにはやし立てる店主の下、豪華景品を狙って、外れの雑巾を獲得。 そんなこんなで、大盛況のようである。 さて、そうした客の射倖心を煽りつつ阿漕にも、当たりが出ないように細工をする心ない店主もいるとか。 では開拓者はどうだろう? 「オレはそんな義に劣ることこたあしねェよ、細工は一切無し。やっぱ楽しんで貰いてェじゃねえか」 今日だけは商売人といえども、正々堂々そういうのは朧楼月 天忌(ia0291)だ。 しかし、なかなか客が来ない。 それもそのはず。お客が、射的でもやろうか、と店を見れば強面の店主がどっかりと。 そして、うちに来るのか来ねぇのか、とでも言うように仏頂面でじーっと見据えている。 これは怖い。 そしてふらりと店の前を横切る若者が居れば、 「兄ちゃん、やってかねえか? どうなんだ? あ?」 びっくりした弱そうな若者は、くびをカクカクと頷いてしまい、あれよあれよと筒を持たされ。 仏頂面の天忌が睨み付ける中(本人としては見守っているのだろう)、弾を放つ。 すると何の因果か弾は景品に命中し、 「お! やったか! やりやがったか! めでてえな兄ちゃん!」 なにやらその若者は、逃げるようにして景品の人形を抱えて去ったり。 そんな天忌の姿を心配げに見ているのは隣の屋台の少女だった。 「‥‥奏兄ぃ‥‥天兄ぃ‥‥どないしまひょ?」 はぁと溜息をついて、どこか黒いものを感じる笑顔で顔を上げたのは静雪 蒼(ia0219)だ。 話しかけた相手は静雪・奏(ia1042)、彼は友人のルオウ(ia2445)と共に、働いていた。 彼らが運営している出店は盛況の様子、暑い日中は特に調子の良い冷やしたお菓子の出店だ。 よく冷やしたわらび餅にきな粉がたっぷりと、祭りの日には甘いものが必須である、異論は認めない。 「‥‥俺は祭りは楽しむ為に来たんだけどなぁ」 とは言いつつも、とても忙しいらしく、てんてこ舞いである。 普通に売るだけでなく、回転板で出た場所に応じて当たり外れがあるという売り方のようで。 当たればお徳、というのはやはり皆、心惹かれるもののようだ。 そんな彼らの所に、よたよたときな粉が入った木の容器を運んできたのは藤村纏(ia0456)だ。 彼女もここのお手伝いで、新しいきな粉を補充してきたのだが、 「ありがとうやわぁ〜‥‥しかし、纏はん。やっぱりそんな立派なのがついとると難儀そうやね」 にまっと蒼が笑いながら、ハリセンの先で示したのは纏のなかなかに立派な胸で。 「えぇっ?! そ、そないなこといわんといて〜」 真っ赤になってあわあわと否定する纏であった。 ともかく、数人で協力しつつもなかなかに忙しいようで。 「冷たぁ冷えたわらび餅〜運試しも出来ますえぇ〜!」 と、元気な蒼の声が響く。 やはりまだまだ賑わいは終わらず、手が離せない一日になりそうであった。 ●賑わう人々 賑わう出店があれば、それを楽しむ客達が居るのは必然で。 そんなお客の中には、数多くの開拓者達もいる。 日々、危険な仕事をしている彼らも、こうした祭りの日には精一杯羽を伸ばすのであった。 「さぁ、美咲は何が食べたい? 今日は姉らしく奢ってやるぞ」 人混みの中で目を引く2人の女性は、風麗(ia0251)と美咲(ia0808)だった。 どうやら姉の風麗が妹の美咲の手を引いて、祭りを回っているかのよう。 そして、姉らしく頼もしい言葉を妹に投げかけた風麗であるが、 「ほら、この、もぐもぐ、イカ焼き、もぐもぐ、とか、もぐもぐごっきゅん‥‥美味しいぞ」 でっかいイカ焼きをもぎゅもぎゅ食べつつだったり。 「もう、お姉ちゃん、そんなに食べ過ぎたら、他のものがはいらなくなりますよ?」 と、たしなめつつ楽しげな様子だ。 祭りの空気は、いろいろなことを思い起こさせる。 小さい頃、妹の手を引いて歩いた祭りの光景、姉に手を引かれて歩いた祭りの思い出。 だからこそ、普段とは違うような気持ちで、精一杯楽しめるのかもしれない。 「‥‥今日はありがとう」 ふと、賑わう露天を進みながら、美咲が風麗にそういえば、 「‥‥世話かけっぱなしだが、いつもありがとな」 ちょうど風麗の言葉とぴったり重なり、思わず顔を見合わせて姉妹は笑いあい。 「‥‥どっちが先に嫁に行くか分かんねぇけど、その時まではよろしくな」 そういってお姉ちゃんは可愛い妹の頭を撫でながら、食べていたリンゴ飴を分けて上げたりするのだった。 「さーて、次はどこで遊ぼうかな〜と」 両手には食べかけの屋台料理が握られて、景品のおもちゃなんかがはみ出た袋を背負ってにこにこ笑顔。 祭りを全身全霊で楽しんでいるのは大羽 天光(ia4250)。 彼はきょろきょろと周りを見回すと一つの屋台が目に付いた。 看板には『御萩屋』 店主はどうやら妙齢の女性のようだが、妙な盛り上がりを見せている。 そんな輪の中に飛び込む天光、そこで行われていたのは、御萩屋名物・博打萩だった。 参加無料、しかもお萩が食べられる。そんな美味しい遊びだが、外れを退けば激辛お萩を食べるはめになるその遊び。 店主のアルカ・セイル(ia0903)も参加するとか。 さて、盛り上がっていれば、気になるのは人の常。 なんだなんだとのぞき込んだ天光や、ちょうど通りかかった荒屋敷(ia3801)も参加することとなりいよいよ開催だ。 ずらり集まったのは、お祭り好きの男達や甘いもの好きの女の子達で。 まずは一斉に、渡されたお萩をぱくり。 もぐもぐと緊張の一瞬の後、面子の1人の表情はみるみる変わり‥‥。 「むぐぅっ! か、辛っ!!」 おや、不運なことに天光が大当たり。 激辛のお萩を食べてしまった人は失格、そして最後まで激辛お萩を食べずにすんだ人が勝ちである。 しかし、大量のお萩を前に、普通にお腹が一杯になって逃げ出す男性挑戦者がいたり。 ぎゃくに、ぺろりと平らげる娘さんがいたりと盛り上がり。 いよいよ最後の決戦、残ったのは荒屋敷と甘いもの好きの町娘さんだ。 ちなみに店主のアルカも途中で激辛を食べてしまったよう。 「よーし、アルカさん! 同じ開拓者のよしみだ。俺が勝ち残ったら、一緒に夕涼みに行かねぇっ?!」 「おや、おじさんにちょっかいをだすと、ハートブチ撒けるぜ? ‥‥なんてねっ!」 と、荒屋敷が絡めば、セイルも返し、いよいよ最後の一個に挑戦すればそこはお約束。 「か、辛いっ!! ちくしょ〜 踏んだり蹴ったりだぁっ!! 折角の夏祭りだから女性と絡みたかったのになァッ」 と、激辛お萩でさんざんな目にあう荒屋敷であった。 結局勝利者は何個もお萩を食べた後、さらに商品の三色お萩までもぺろりと食べた町娘さんだったとか。 「それは大変でしたね‥‥もう一杯いかがです?」 と、アルカの御萩屋からほど近い場所に、ぽつりと開かれた屋台にて。 博打萩の1発目で激辛を退いてしまった天光の話を聞いているのは、店主の御剣・蓮(ia0928)だった。 ここは『呑み処 蓮』、お手頃価格で酒を提供している上に、店主は神秘的な女性という呑み処で。 祭りの熱気も緩急あるもので、すこし外れればこうして腰を落ち着けられる場所もあり。 大人は大人で、酒をなめつつ、祭りの賑わいを静かに楽しめるとあれば、かなりの繁盛の様子であった。 天光と同じように、激辛お萩を前に破れた荒屋敷の姿もあったりで、できあがっている男性客もちらほら。 そんな中、蓮は客達の声に応えて、 「‥‥では、恥ずかしながら一曲」 と、酒の酔いと盛り上がりに華を添える調べが流れて、賑やかに、そして楽しげに祭りの時間はすぎるのだった。 ●賑わいと時の移ろい 「はりこのお面をかぶってみませんか〜」 響く声の先をみれば、そこには白い丸いナニカが。 バイ モーミェン(ia3333)は、自身がかぶる張り子の面というか頭の着ぐるみの出店を出しているようだ。 「かわいい張り子ですよ〜」 他では見ないものに反応するのは子供達だ。 とりあえず、少ないお小遣いをはたいてかぶってみれば、怪しいナニカが量産体制で。 それをみれば、なぜだか子供に大人気、あれよあれよというまに子供達がそろってかぶればかなり怪しい光景に。 いろんな色が付いていて、どこか猫っぽかったり熊っぽかったり。 そんな妙に気の抜けた張り子の頭がそろって、ぼーと群れている姿は、かなり怪しくもおもしろいのであった。 そしてその隣にもなんだかおもしろい店が。 並ぶ商品は、怪しげな木彫りの像、女人姿で笛のように鳴るものなど、不思議な機能がついた木彫りの細工である。 店の主は佐竹 利実(ia4177)。 さすがに、人々に怖れられているアヤカシそのものを像とするのは控えたものの、不思議な機能は子供に人気で。 崩れても直せる組木の人形や笛の木彫り細工人形なんかも人気が出ているようである。 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、時間が過ぎれば空気の帯びる雰囲気も移ろい。 少しずつ日がかげってくれば、小さな子供達よりも、祭りを楽しむのは若い者達と大人達だ。 そんな、まだ夕暮れには早く、しかし少しずつ風が涼しさを帯びる時間にて。 「あっちあっち、あれも見ましょう!」 まだ幼さの残る弟、天水・夜一郎(ia2267)の手を引くのは天水・紗夜(ia2276)だ。 祭りを心の底から楽しんでいる様子の姉弟である。 「お、にいちゃんやっていくかい?」 たまたま通りかかったのは天忌の射的の屋台、お隣の蒼たちから指導があったようで、盛り上がっている。 景品を見ている姉に気づいた弟の夜一郎はこくりと頷くと、姉を見上げて 「うん、射的をやってみる」 といえば、姉の紗夜は笑顔で弟を励まして。 「やっちゃん、確りね!」 はてさて、結果はどうなったかといえば、大きな人形が手に入ったようで 「俺には必要ない。だから、やる」 仏頂面の弟に、姉は 「ふふ、やった! やっちゃん凄い! 有難う」 嬉しそうな紗夜の声、彼女はくしゃくしゃと笑顔で夜一郎の頭を撫でて。 そして2人は、賑やかに 「食べる? 買ってあげようか」「いや‥‥必要ない(ぐー)」「ほら、お腹なってるじゃない」 どっちが奢るかで揉めるのも仲の良い証拠で、2人は祭りを楽しむのであった。 さて、屋台もそれぞれ千差万別、となればちょっと経路の変わった屋台もあるもので。 「いらっしゃいませ、暑いひととき、冷たい飲み物はいかがですか?」 昼日中の熱気が残る時刻、涼しげな声で道行くお客に声をかけるのはレフィ・サージェス(ia2142)。 彼女は一目見て分かる形で、人目を引いていた。 纏う衣装はジルベリアのメイド服、まだ広まっては居ないまでも異国情緒は伝わるもので。 その名もずばり『メイド喫茶』、ジルベリアの飲み物と焼き菓子を振る舞うそんなお店はなかなかの賑わいで。 やはり、見た目は重要な要素なのである。 物珍しさから入る客も居れば、 「母と天儀に来るまではジルべりアで暮らしていましたので本当に懐かしく思います」 故郷を懐かしむジルベリア出身者は焔部・虎徹(ia0840)。 なかなかの賑わいを見せるメイド喫茶なのであった。 そして一風変わった、玄人好みの客引きをする店もある。 「さて、焼きネギ屋の開店じゃ」 香ばしい葱の香りが広がる屋台には輝夜(ia1150)が。 「不思議な食べ物を作っていますね。どんな味なのでしょうか‥‥」 見れば、先ほどメイド喫茶で故郷を懐かしんでいた虎徹が今度は香ばしく焼ける葱の前に。 一本買って味見をすれば、火が通った葱の甘味に、特製のタレがよくあっていて。 香ばしい醤油の香りに、幽かな清涼感を添える柑橘の余韻、なかなかに味わい深い。 仲間にも持って帰ろうと買いこむ虎徹に対して、輝夜は、 「この味が解るとは、汝はなかなかの通じゃな」 たしかに珍しい屋台ではある、しかし美味しいものは受け入れられるもので。 腕相撲勝負で子供には甘いが、大人には容赦しない上に、見た目からは想像できない強さを発揮してみたり。 「さぁ、我に挑戦する腕自慢は居るかの?」 賑やかに、味良し香り良しと繁盛を見せているのであった。 ●賑わいは勝ち負け 「珍しいものがいっぱいです‥‥作り方教えてもらえないでしょうか?」 レフィのメイド喫茶でお茶を堪能したあと、輝夜の焼き葱に目を輝かせているのは礼野 真夢紀(ia1144)だ。 葱のタレについてこっそり教わったりしつつも、次に真夢紀が向かったのは、不思議な屋台で。 見れば、大人も子供も一心不乱に台に向かって、小さな板に針を突き刺している。 葛切 カズラ(ia0725)の型抜きの屋台がそこにあったのだ。 カタヌキ、それは小麦や砂糖製の脆い板菓子を決められた形にくり抜けたら、景品がもらえるというものだ。 子供のお小遣いで、もしかすると豪華景品がもらえるかも。 そうした誘惑は子供ならず人々の心をくすぐるものである。 「‥‥なかなか難しいものですね」 真夢紀も挑戦してみるものの、なかなか難しく、すぐにひびが入ってしまうようだ。 なにげに、景品一覧の中にカズラ自身の名もあるためだろうか、つぎ込んでいる大人達の姿も見えたり。 こうした、当たればすごいという屋台は、やはり祭りの熱気と盛り上がりの中でこそ賑わうものである。 同じように、しかも大きな規模で盛り上がってる屋台があった。 掲げられた看板は『夜通し屋』とある。 「寄ってらっしゃい遊んでらっしゃい、お代は1回50文!」 響く威勢の良い声は、侭廼(ia3033)。彼の前には茶碗と賽子。 勢いよく振り入れればころころ転がる賽子に、一喜一憂するお客さん達がいて。 「遊んだだけでスイカ一切れ! さー、らっしゃーい」 子供には、少ないお小遣いが増えるかもしれないという誘惑と、人生の厳しさを教えたり。 そして、大人げない大人はごっそりお金を使ってしまう素敵な屋台。 そう、チンチロリンの屋台なのである。 しかも子供達も楽しめる工夫がしてあるのが、心憎いところで。 「スイカも食べられるし、オモチャがもらえるかもしれないよ。遊んでいく?」 お手玉に手品、子供達の目を引いて、水無瀬 灯火(ia3794)がお客さんを集める。 お手製の竹とんぼやお手玉なんかと交換ができるし、スイカも美味しく。 そうなれば子供達も盛り上がるもので、少ないお小遣いが増えたらいいなと思わず熱中だ。 だが、勝負は時の運、勝つときもあれば負けるときもあり、子供達も人生の厳しさを知ったりしつつ。 「おう坊主、残念だったな。スイカ食うか?」 侭廼がそういって負けた子供に声をかけ、酢蛸をかじかじ囓っていれば、 「夜は大人向けにやってるから、お父さんにもお小遣いを稼がない? って伝えてね〜」 こっそりスイカの追加を渡して上げているのは桐(ia1102)だ。 そして、子供達の賑わいが終われば、あとは大人達との戦いで。 「侭廼さん、負けたら当分お酒は抜きですよ」 灯火が侭廼をそうやってたきつけて、茶碗と賽子ですべてが決まる真剣勝負が始まったりするのであった。 勝負は時の運、勝つときもあれば負けるところもあるが、お祭りは財布の紐を緩くするものだ。 夜通し屋は名前通り夜通しでお客の相手をしつつも、どうやらなかなか荒稼ぎをしたようである。 ●賑わいは人の絆 「さすが、祭りだけ、あってものすごい人出でしたよ? たどり着くのに、体力使いきった気もしますよ」 にこにこと笑みを浮かべて、賑わっている屋台の一つにやってきたのは橘 琉璃(ia0472)だ。 手にしているのは、その屋台で働く友人達への差し入れだとか。 「調子は、どうです? 私もお手伝いしますし、とりあえず、休憩いかがです?」 そういうと、たすき掛けをして、彼は調理場に立つのであった。 そこは、開拓者達が大所帯で運営している甘味処であった。 普段は背中を預ける仲間達と共に、祭りの中賑やかに店を開く。 それは、なかなかに楽しい時間と言えるようだ。 「折角誘っていただいたのに、場所が解らず、いろんな人に聞いてしまいましたよ」 間に合って良かった、と胸をなで下ろしている青年は四条 司(ia0673)、彼もひょっこりと顔を見せて。 手には、迷っている途中、レフィのメイド喫茶にて手に入れた焼き菓子を持ってきて。 「ジルベリアの焼き菓子を売っている屋台があったので、買ってきたのだが‥‥」 つまみ食いで、お腹が一杯とか? と付け加えて、みたりする司。 すると丁度、作りたてのリンゴ飴を前に、心が揺れていたらしき白野威 雪(ia0736)がはっとなって。 かき氷担当の雪、貴重な氷を作って人気のかき氷を作っている彼女は、甘いものがとても好きだとか。 差し入れの焼き菓子を早速貰って、幸せそうな笑顔で接客に戻るのであった。 さて、この露天の中心人物はどうやらまだ若く、ともすれば幼く見えるような巳斗(ia0966)のようだ。 のんびりのほほんとした様子ながら、なかなかに忙しそうに働いているようで、 「そちらの素敵なお兄さん、お美しいお姉さん、甘い甘い甘味は如何ですかー?」 祭りと言えば、さまざまな祭り独特の甘いものが食べたくなるのが道理だ。 リンゴ飴を始め、皆で手分けしていろいろな商品が並び、なかなかに人気の屋台のようで。 「どうですか? この和菓子、花火を表現したもので、名前を『夏夜』というのですよ」 こちらも甘味処の仲間の天宮 蓮華(ia0992)、彼女手作りの丸い和菓子には可愛く花火を模した鮮やかな模様が。 それに負けじと巳斗も酒入りの和菓子を作れば、祭りの夜に漂う馥郁たる甘い香り。 その和菓子をひょいぱくと食べたのは無月 幻十郎(ia0102)だ。 「はっはっはっは、酒を使った甘味かぁ うん美味い!」 思わず太鼓判の出来だったようで、そのまま彼は店の前で客に対して、 「甘味好きは、もちろん酒好きの兄さん姉さん方も十二分に楽しめるぞ」 と誘えば、思わず良い感じにお酒を呑んでできあがりつつある祭り客達も足が向いて。 そんな中、また1人、ひょこっと顔を出す親しい仲間の姿。 「来ちゃいました」 とかわいらしく、声をかけたのは柏木 くるみ(ia3836)だ。 酒入りのお菓子も構わずに、甘いものはどれもこれも幸せそうに食べて。 もちろん、お手伝いをと仲間達がそろったところで、いつの間にか夕暮れも過ぎて空は暗く。 赤々と提灯が照らす灯りのしたで、祭りは変わらず続いているのだったが、そのとき。 遠くの空にきらめく閃光と大きな音、花火が上がるのが見えた。 お客さんを始め、店の皆も空を見上げて、一瞬息を呑んで。 そんな光景の下で、皆一丸となって楽しく働きながら、 「‥‥夏が終わるのは寂しいですが、皆様との縁はずっと続いていきますものね」 涼しくなってきた風と、ふと祭りの終わりに想いを馳せて、蓮華はそうつぶやいて。 まだまだ祭りは続きそうではあるが、この祭りは皆に沢山の思い出を残しているようであった。 |