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■オープニング本文 理穴の里を襲ったアヤカシの群れ。 その被害はいまだ続き、里の人々は疲弊していた。 儀弐王をはじめとして、理穴の軍は根強く反撃を続けているのは事実だ。 しかし、アヤカシ達の一大攻勢の真相は未だ明かされているわけではなく。 不安と疲労はじわじわと、人々の心をむしばんでいくのだった。 被害の中心地は、理穴の緑茂という里である。 そこからほど近い小さな里、深柳。 深柳の里も、現在ではアヤカシの被害から命からがら逃げ出した人々の避難先となっていた。 村を焼け出され、ともすれば家族や友人を失った人々の心労は激しく。 しかし、アヤカシの出没は終わることなく、先行きは暗く暗雲が立ちこめているようであった。 そうなれば、避難先としての深柳の人々の負担も増えるわけで。 物資の不足や生活場所の確保で、たまに小競り合いが生じてしまうのも仕方ないことであった。 もちろん里の住人たちは善意で避難民達を迎えている。 アヤカシの恐ろしさは万民が知るものであり、その被害に対しては皆団結するのが普通なのだ。 だが、避難生活が続けば避難民達は疲弊し、同じく迎え入れた住人達も疲弊していくもので。 ゆえに、避難生活が続けば、小競り合いも増えてしまうのだ。 いつしか、ぎすぎすとした空気がそこかしこで感じられるようになるのであった。 そんな中、その人々の不安を煽るようなさらなる事件が起こった。 深柳の里は、周囲を簡素な柵で囲んだそれなりに防備を備えた場所である。 増える避難民のため、里の集会所や、いくつかの空き家を開放されていて。 さらには自身の家を空けて、親戚の家に身を寄せてまで、場所を確保する人もいる現状である。 また、ぎりぎり食料に関してはまだ問題は無いのだが、徐々に不安が増しているのも事実で。 そんな中、夜な夜な里を徘徊して、住人や避難民を脅かしているものが現れたという。 しかも、その噂の中心地は里の外れの墓地。 そこを中心に、ふらふらと歩く甲冑姿や歩く白骨が見かけられるというのだ。 噂はあっという間に人々に広まり。 しかし、疑心暗鬼と不安にさいなまれている人々は、その噂の中でますます心を閉ざす。 「避難してきた自分たちを追い出すための、嫌がらせでは‥‥」 「避難民たちが、住人を脅かすために流した嘘なのでは‥‥」 「本当にアヤカシが村に入り込んできているのならば、恐ろしい‥‥」 不安は不安を呼び、恐怖は恐怖を誘う。 そこであなたたち開拓者に、深柳の里のこの問題を解決してくれと依頼が来たのだ。 さて、どうする? |
■参加者一覧
沢渡さやか(ia0078)
20歳・女・巫
天青 晶(ia0657)
17歳・女・志
純之江 椋菓(ia0823)
17歳・女・武
鳳・月夜(ia0919)
16歳・女・志
霧葉紫蓮(ia0982)
19歳・男・志
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
摩喉羅伽 将頴(ia5459)
33歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●話す 開拓者の仕事、それは多岐にわたる。 だが、開拓者の仕事の華、それはもちろん戦闘だろう。 この天儀には、アヤカシという敵がいる。 そして、それに対抗できるのは志体を持つ開拓者だけであるならば、それは必然だ。 だがしかし、開拓者達は考えたようだ。今回の仕事では、戦闘よりも優先することがあると。 「アヤカシが出るという話を聞いて馳せ参じた開拓者でござる!」 村にやってきた開拓者達を、なんだなんだと見やる里の人々。 「可能であれば少々村の状況を教えてほしいのでござる!」 どーんと大音声でそう言っているのは、摩喉羅伽 将頴(ia5459)。 とりあえず、里に迎え入れられる開拓者達、そしてまず取りかかったのは。 里の手伝いであった。 「同じ事をしていれば、互いを知る機会も自然と増えますから。仲良くなる一番の近道ですっ」 にこにこと笑顔で、重そうな荷物を運んでいるのは純之江 椋菓(ia0823)だ。 彼女は里の住人や避難民に混じって、里の雑事を手伝っていた。 季節は秋口、朝夕の風が寒くなれば、暖を取るための薪に防寒用の衣類が必要となる。 ちょっとした資材でも無駄にはできず、忙しい折、開拓者達の手助けは、渡りに船のようであった。 「辛い時こそ馬鹿騒ぎ、ってぇのが俺の身上だが‥‥さすがにそんな元気も無さそうだな」 ひょいっと肩をすくめるのは喪越(ia1670)。 彼は怪我人を見て回っていたのだが、不意に裾が引っ張られる。 「おぅ? なんかようかねアミーゴたち」 ちょいちょいと裾を引っ張っていたのは里の子供達だ。 大人達がぴりぴりする中、飄々と剽軽な様子の喪越が気になった模様で。 「‥‥おじちゃん、カイタクシャの人?」 との子供の言葉、そのとおり開拓者だぞと喪越も言いながらふと気づいた。 大人達の不安そうな様子を敏感に感じ取ったのか、どの子も寂しそうな顔をしていることを。 「‥‥ふむ、よーし、お兄さんが外の話をしてやろう! 耳の穴かっぽじってよーく聞くんだぞ!」 そして始まる冒険譚に、子供だけでなくいつの間にか大人達も集まって。 閉塞的な里は話題に飢えていたようで、喪越が近々、ギルド総出での大攻勢の話をすれば、歓声すら沸いて。 「ま、ちょいとは希望が沸いたってところか?」 にっと笑みを浮かべる喪越、話はまだまだ終わらないようだ。 そしてそんな人だかりや子供達のそばには一人の開拓者の姿が。 見れば、子供達は場所の取り合いかちょっとした喧嘩騒ぎが。 どうやら、里の子供達と、新しく村にやってきた避難民の子供たちはまだ仲良くなれていないようで。 そこにひょこっと顔を出したのは、ともすれば子供達と並ぶような背丈の白蛇(ia5337)だ。 「喧嘩したら‥‥駄目だよ‥‥」 だれだろう、と子供達は首をかしげるが、よく見ればその身につけた装備から開拓者と分かったようで。 そうなれば、子供同士の喧嘩より開拓者の方が気になるというもの。 お手玉を始めた白蛇に、子供達は一緒に遊び始めて。 元はといえば、親たちが微妙に険悪な雰囲気になるからこそ子供達がそれに反応しただけで。 子供達の間では、なにが問題でぎすぎすしているのか、それがそもそも分かっていないものだ。 だから、こうして一度遊び始めれば、仲良くなるのは時間の問題。 「この子達は‥‥兄弟‥‥」 白蛇はそういって、2体のもふらのぬいぐるみを取り出して。 「だから、持ち主である君たちが取り合いで喧嘩してたら‥‥悲しむ‥‥」 そう言ってぬいぐるみを渡せば、子供達はすなおにこっくり頷いて、分かったと言うのだった。 ●調べる 「今後も、こうして共同で見回るのはどうでしょう?」 椋菓がそう里の人々に進言したのは、墓地を含めた里の見回りであった。 里に朝早く到着した開拓者達が、こうして見回りを始めたのは昼過ぎ。 すでに、噂のせいか誰も近づかなくなって久しい里の外れにある墓地は、やはり閑散としていて。 「骨の姿のアヤカシとのことですが、やはり最近よく出るという骨鎧や狂骨といった類でしょうか‥‥」 沢渡さやか(ia0078)は首をかしげてそう言って。 しかし、方々を見回っても、あまり痕跡も見あたらないようで、。 そうなれば、夜にアヤカシが動き出すまでは再び、里の手伝いに戻るようであった。 「何かあれば、拙者にドーンとお任せあれ!! でござァる!!」 威勢良く里の人々にそういうのは将頴。早くも、大きな鍋を掴んでいて。 そう、どうやら、開拓者達は炊き出しまでするようであった。 「やはり、提案者が率先して動かねば、示しが付きませんよね‥‥」 大鍋を前に、妙に気合いの入った表情は天青 晶(ia0657)だ。 さすがに、里の食糧問題を解決するほどの資材、食料を持ち込むことは出来なかった開拓者達。 しかし、持てる範囲での材料や、里を手伝いつつかき集めた薪などを駆使して、なんとか炊き出しを行うようだ。 太陽が翳れば、吹く風も肌寒いこの季節。 そんな中、夕刻に近づいていくこの深柳の里の広場にて、暖かい汁物が振る舞われるとなれば多くの人が集う。 それぞれが持ち寄った自分の器を手に、子供も大人も集まっているようであった。 さて、そんな状況を前に責任重大な炊き出しなのだが。 「‥‥見苦しい点があるやもしれませんが、ぜ、全力を尽くします」 と、神妙な晶の言葉、緊張している様子なので、思わず心配したのか霧葉紫蓮(ia0982)が近づいてきて。 「そんなに、鯱張ることはなかろうに。どれ、少々味見を‥‥」 そういって、紫蓮がその大鍋の味噌汁を味見すれば、味が無い。 「ど、どうだろうか?」 「‥‥どうというまえに、味が無いな。もうちょっと味を足さねば」 ということで、やっぱり開拓者総出で、味を調えることに。 「疲れているときは濃い味の料理も喜ばれますし、もっとこうどぼどぼっと」 と、持ち込んだ調味料を追加したりする椋菓に 「うむ、そして具は多めの方が美味しいのでござる! 汁物なら大概の材料を混ぜても美味しいものでござるよ」 シノビの将頴は、薪を集めるついでにかき集めてきた茸をどばっと追加して。 そんなこんなで、無事に具だくさんの味噌汁が完成したよう。 開拓者達を輪の中心に、里の人々は集まって、暖を取りしばしの休息と相成ったようである。 ●戦う さて、和気藹々と炊き出しも終わった。 里の人々の愚痴を聞くさやかに、輪の中心で世間話をしていた喪越など、それぞれが里のために尽くしたようで。 しかし、今回の依頼の目的を忘れている者は居なかった。 里の人々の心を騒がすアヤカシたちを討ち滅ぼすこと、それが本来の目的で。 開拓者達が里のために尽くしたために、大きな問題もなく同行者はきまったようである。 だが、実際の所、里内の不和により不穏な空気が漂っている状況は、危険だったのだ。 一触即発とまでは言わないが、不安が不安を呼ぶ状況で、異分子である開拓者が里にやってきて。 その開拓者達が、淡々とアヤカシ退治だけをしていれば、おそらくはさらに里の不安を煽ったはずである。 本当に退治されたのか、何が起きていたのか、そうしたことを知ることが出来なければ、逆に不安は増しただろう。 その点、里の人と避難民たちから同行者を募ったのは悪い考えではないようであった。 だが、その分、開拓者達の負担は増すのは必然だ。 戦いの場に、守るべき対象がいるだけで、その難易度は跳ね上がる。 しかし、開拓者達はただ依頼をこなすだけではなく、里の平穏を取り戻したいという意思があった。 「私たちにお任せ下さい、全力でお守りしますから!」 椋菓はそう言って大薙刀を構える。 一行は、夜の墓場に向かって進む道にあった。 すでに、現場近くには紫蓮の提案によって、大きめの篝火がいくつか置かれているようで。 その明かりがぼんやりと当たりを照らす中で、開拓者達は待ち構えていた。 「‥‥皆さん、あちらに反応が」 万事ぬかりなく、開拓者達は先手を取った。 その嚆矢となったのは、さやかの瘴索結界である。 一団となって進む開拓者達、一軍となって、同行者の二人を守りながらの移動だ。 喪越と白蛇がもつ松明が周囲を照らす中、先陣を切るのは晶。 それを援護するように、付き従うのは紫蓮、そして白蛇と将頴の二人のシノビが脇を固めて。 術者の喪越とさやかは集団の中心に、二人の同行者と共にいて。 そしてそれを守る形で大薙刀を構えるのが椋菓。 進むことしばし、すぐさまその姿が見えてきた。 アヤカシになれた開拓者とは違い、同行者たちは小さく声を上げて息を呑むその姿。 それは、この世の常にはあらざる歩く白骨の姿であった。 だが、その姿にひるむ開拓者達ではない。 「さぁちゃちゃっと瘴気に戻って退散するのでござる!」 まず始めに、動いたのはシノビの2人であった。 骨鎧を中心に、数体ぞろぞろと動いている白骨に向かって、まずは牽制の手裏剣攻撃。 シノビの真骨頂はその早さにある。 将頴も白蛇も両者とも早駆を使用しての高速移動を行って。 そうすればただでさえ素早い開拓者の中でも最速となり、位置を変えながらの援護射撃には十分で。 そこに突っ込んでいくのは、晶。 「攻撃は最大の防御、一気に攻め崩します!」 刀を手に、真っ向から接近してくる狂骨を一刀両断。 その背後に付き従い、横合いから襲いかかろうとするアヤカシを守り援護するのは紫蓮で。 前に出て攻める彼らを、後ろに控えるさやかの神楽舞が援護すれば。 傷を受けつつ、同行者達や術者に向かってくるようなアヤカシには、 「志士の肩書きに賭けて、ここは一寸たりとも通しませんっ!」 身の丈を優に超える大薙刀を振るって、近寄らせもしない椋菓。 あっという間に白骨のアヤカシ達は討ち滅ぼされ、物言わぬ白骨に戻ってしまうのだが。 「さぁて、どうやら最後に大物がのこったみたいだな」 そう言いながら、術を放つ喪越。鎧を着込んだ骨鎧に対して斬撃符を見舞えば、 「‥‥硬い相手なら‥‥火遁‥‥」 早駆で接近した白蛇が火遁を見舞えば、骨鎧は炎に包まれる。 だがまだ動き攻撃しようとしてくる骨鎧に対して、 「抜かりなどなし! シノビを舐めるでないのでござる!!」 こちらは将頴、接近しつつ、骨鎧の足を薙ぐファルシオンの一撃に、骨鎧はがしゃりと膝をついて。 「これで終わりです」 青白い光を放つ武器を手に、晶が一刀を見舞えば、最後の骨鎧も地に崩れ落ちるのであった。 ●纏める 「自警団、なんかを‥‥つくると良いんじゃないかな‥‥」 明日以降、討ち漏らしが無いかを確認する日々の中で開拓者たちはというと。 白蛇は、とりあえず目先の心配事が消えた里の人々に対してそういっていた。 確かに、里を騒がせていた怪異の決着は付いた。 だがしかし、里が未だにアヤカシの危機にさらされているのは変わらず。 また、理穴自体が大きな混乱の中にあることで、未だ不安の種は尽きていないのであった。 これからも避難民が増えることもあるだろうし、これから厳しい冬に向かえばいろいろと不安は増すだろう。 それに対しても、開拓者達は出来るだけのことを残していくつもりのようで。 「‥‥それは?」 子供の相手をしていた紫蓮が、もふらのぬいぐるみを手にした晶に問えば、 「子供にでも渡そうかと思いまして。これからも不安な日々が続くでしょうし、すこしでも安らげば、と‥‥」 晶はそう言って笑みを見せるのだった。 そして、開拓者達が里を去る日がやってきて。 「見ろ、ここにはもう夜明けが来てやがる」 喪越は、そういって見送りにやってきて頭を下げている里の住人と避難民達を見やり。 「俺達は、次なる夜を祓いに行こうじゃねぇか」 そう、飄々と喪越が言えば、 「さて、ではこれ以上の問題が起きぬことを祈りつつ‥‥退散でござるな」 将頴もそういって、大きく里に向かって手を振るのだった。 ふと、喪越の脳裏をよぎるのは、墓地を調べてもなんの痕跡も無かったことで。 「内部不和を煽って、兵力を割かせる‥‥戦略としちゃアリだが、まさかねぇ‥‥」 今回は、里の不和を抑えることが出来た開拓者達である。 だが、理穴全体に関わる大きな動乱は終わってはおらず、この根を断ち切らないことにはまだ不安な夜は続くだろう。 里の人々は、開拓者の優しい心遣いによって、ひとときは不安な夜を忘れることが出来るはずだ。 依頼は、無事成功。きっと開拓者達の思いやりは、良い方向に物事を導くだろう。 |