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■オープニング本文 武器を手に入れると、人は強くなる。 だが、精神までもが一緒に強くなるかは、人それぞれである。 だからこそ、武器を振るう技術と共に精神も鍛えるのだ。 心なき力はただの暴力、その矛先がいつ何時狂い出すのかは分からないものである。 そして、正しい心を失った力ある男がここにも1人。 武天のとある小さな農村。 冬に入って農村はいつにも増して静かであった。 武天は農業においてそれほど発達した土地ではない。 山が多く、むしろ鉱山やその他の産業で栄えている国だからだ。 だが、それでも広い国土には農村が点在しているわけで。 そんな農村の一つに、突然の悲劇が降りかかったのだった。 ある日ふらりとやってきたその男は、村のはずれの廃屋に住み着いた。 彼には数名、付き従っている男達が居るようで。 村の人々は冬の内職をしつつ、突然現れたその男達を訝しんでいたらしい。 そして案の定、村の人々に対してその男は牙を向けたのだった。 志体を持たない村人は、その男達に適うわけもなく。 特に、男達の中心人物である1人の剣客の腕前はすさまじかった。 男達は村人を殺すまではしなかったようだが、その武力で虐げ支配したのである。 村からは食料を奪い、村人に逃げることを許さず男達はその村に居座った。 そんな中で、こっそり1人の村人が、商品に手紙を紛れ込ませることに成功し。 村の窮状がギルドへと伝わったのであった。 その結果、開拓者への依頼が急遽張り出されたのである。 目的は、村に居座った剣客と男達の排除。 さて、どうする? |
■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102)
26歳・男・サ
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
アルカ・セイル(ia0903)
18歳・女・サ
ミル ユーリア(ia1088)
17歳・女・泰
柊・忍(ia1197)
18歳・女・志
御神村 茉織(ia5355)
26歳・男・シ
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●発起 村への小さな道を歩む影二つ。 それに気付いたのは、村の入り口を歩いていた剣客崩れであった。 「おい、村になんのようだ!」 「はぁ、何の用と言われますと‥‥商売ですが」 きょとんと、首をかしげる男は青嵐(ia0508)だ。 「‥‥ふん、今は間に合ってるよ!」 「そんなことを言わずに。薬は常に備えておくべきですよ」 そんな青嵐の言葉に、こくこくと頷いている助手とおぼしき女性はミル ユーリア(ia1088)。 2人とも、姿は確かに旅の薬売りで、見たところ武器も持っておらず。 しばらく悩んだその剣客崩れは、 「‥‥いいだろう、ちょっとついてこい」 そういって、2人を村はずれへと連れて行くのだった。 小さな農村である。年季の入った建物に、おそらく春先になれば緑が広がる農地が見えて。 だが、不思議なことが一つ。内職が忙しいと言っても、人達の会話の声が聞こえないのだ。 農家の妻たちが洗濯がてら、井戸端で話す影もなく、内職で働く男達の陽気な声も無い。 ただただ、村は寂寥としているのである。 2人は村はずれの小屋に到着した。 見れば、小屋は最近手が入ったようで、ところどころ新しく改築されていて。 さらに、入り口当たりで青嵐とミルに視線を向けている男達が数人。 彼らは青嵐にはいぶかしげな視線を、そしてミルには遠慮の無い品定めの視線が向けていた。 「‥‥お前らはここで、待ってろ。薬売りだったな?」 「はい、薬売りのセイと申します。打ち身切り傷何でも御座れの妙薬から、胃薬に‥‥」 「そんなのは良いから、ちょっと黙って待ってろ!」 青嵐の言葉を遮ると、男はそう怒鳴りつけて、小屋へと入っていく。 そして、しばらくじろじろと他の男達に見られながら待てば、男が小屋から出てきて。 「俺がついていくが、商売はしても良いぞ」 そう言われて、青嵐とミルは頭を下げるのであった。 そして、その男がついて来るままに任せつつ、2人は村へと向かいつつ。 「‥‥ずいぶんと警備が物々しいですが、近頃大きなアヤカシでも出没したのですか?」 不意にそう問われた男は、一瞬答えに窮し、 「ん? あ、ああ、そうなんだ。だから、こうして俺も護衛のために監視してるわけさ」 その言葉に、村の風景を眺めている2人は、静かに頷くのであった。 村の家々を回りながら、2人は村人たちの怯えた表情を何度も目にして。 そして、村人たちが後ろで目を光らせている剣客崩れに気付くと、何も言えずに押し黙るのに遭遇した。 さて、この状況を打破するために、彼らは何を為すのだろうか。 同日、薬売りに扮した2人が村へと来る少し前に、実は村では一悶着あったのだ。 村の中を見回っていた剣客崩れの1人は、大きな声を聞きつけてそちらに向かい。 そこに見かけない女性の姿があることに気付いたのだった。 「おいおまえ! そこで何をしている!!」 腰の刀に手を居て駆け寄る剣客崩れ。 そこには、怯えた表情の村人とがっちり肩を組んだアルカ・セイル(ia0903)が。 実は、彼女はこっそりと村に入っていたのだ。 だが、接触すべき村人の姿がほとんど無く、やっと見つけた村人とおぼしきその男も怯えた様子。 村人の男に、大声を上げられてしまったのだが、 「‥‥頼む。ここはあたしに合わせて芝居を」 がっしりと肩に手を置いて、そう言われた男は、怯えたまま頷くのだった。 そして、剣客崩れがやってきて。 「おい、そこの女。お前、見ない顔だな、なんだお前は!」 「私はこいつの友人で、久しぶりに近くまで来たついでにちょっと顔を見に来たんだけど」 あんたこそ何者? と言った様子のアルカ。 思わず剣客崩れは怯えた村人にそうなのかと言うように視線を向ければ。 「あ、はい、そうです。友達で‥‥」 「いやぁ、急に声をかけたんで驚かせちまったようで」 にっと笑顔を向けるアルカであった。さて、それに対してどうしたもんかと思案顔の剣客崩れ。 とりあえず、勝手にふらふら表に出るな、と命令口調でそう告げて。 さて、上手く村人と接触したアルカだが、なかなか思惑通りには行かないようで。 村人の口からは、村の予想以上の窮状が語られるのだった。 「‥‥それじゃ、避難は無理か‥‥」 「はい、外を出歩けば見つかってしまいますし、村は狭いですから見つからないようにするのは‥‥」 声を潜めて、アルカはその村人から話を聞いた。 監視をしているのはほんの数人なのだが、村は小さく、村人は殆ど動きがとれないとのことで。 しかも、村人同士で会う場合も監視されるようで。 「‥‥厳しい状況だな。だがまぁ、他にも村に仲間が入り込んでるからな。何とかするさ」 そういってアルカは、微笑んで。村人を安心させるのだった。 ●転機 「このあいだ納品してもらった品なんだが、予想より売れて急ぎ追加の発注を頼みたいそうなんだ」 そういって最後に村にやってきたのは1人の商人であった。 村の内職を受け取りに来た商人と名乗る彼は、なにやら酒を荷車に乗せてやってきて。 「ほれ、村の衆で飲むようにねぎらい酒もたっぷりいただいてきたぜ? 少し飲んじまったが」 と、笑顔で酒の匂いを振りまくのだった。 彼も変装した開拓者の無月 幻十郎(ia0102)であった。 そして、彼も村の入り口でとめられたあとに、村はずれの小屋へとつれられて。 そこで、同じように待たされたのだが。 当たり前のように酒を取り上げた男達は、早速それらに手をつけようとしつつ。 だが、そんな浮かれた様子でも、男達は彼らの首領の言葉を待っていた。 小屋の奧に陣取って、柱を背に座りつつ、刀を抱いている男。 無月は、一目見てその男が首領の竹田夕斉であると気付いたのだった。 全身から発している剣呑な雰囲気は、まさしく殺気で。 くつろいでいるような様子にも関わらず、竹田は危険な雰囲気を纏っていた。 そんな様子に、我知らず無月はぞっとした感覚を覚えるのであった。 そして、竹田は座ったまま、ゆっくりと口を開いた。 「‥‥多いな」 「へ?」 思わず、間抜けな声を上げたのは、無月をここまで案内してきた剣客崩れだ。 「多いって何が‥‥」 「客が多すぎる。薬売りに遠方の友人、そして商人か‥‥‥‥潮時だな」 そういうと、竹田は顎をしゃくって他の部下に、言った。 「お前ら、そいつを縛り上げてから、村人を1カ所にまとめて、叩き込んでおけ」 そして、にたりと口の端を高く引き上げるような不気味な笑顔を向けて、 「酒は、この村との別れの宴に取っておこう。‥‥お前さんも、運がなかったな」 蛇のような笑顔の竹田に、無月にそう告げたのだった。 そして、無月はなすすべもなく後ろ手に縛り上げられて。 「おい、お前ら。さっきの薬売りも面倒だ。斬ってこい」 どこか愉悦を滲ませて、部下に指示する竹田の声を背に聞きながら。 「油と火種を用意しておけ。まとめて燃やすのが一番だからな」 無月は、剣客崩れに言われるがままに、村の中央にある集会所へとつれられていくのだった。 数人の剣客崩れが、刀をちらつかせて村人を集めていた。 そんな中、村の長老の所にも1人の剣客崩れがやってきて。 「おい、村長! 大人しく出てきな!!」 どんどんと戸を叩く剣客崩れ。その言葉に、ゆっくりと村長の老人は戸へと向かうのだが。 村長は、手にした投文をぽいと囲炉裏に放ってから、毅然とした態度で剣客崩れの言葉に応じるのだった。 剣客崩れの鈍い感覚では気付かなかった。 村長以外に,もう1人の人間がこの小屋にやってきていたことに。 そしてその人間が、村はずれでの会話を聞いて、これから村で何が起きるのかを把握していたことに。 「さって、待機組への連絡も終わったし‥‥」 影のように、日の陰り始めた村を駆けるのは御神村 茉織(ia5355)だ。 「村長には投文を読んでもらえたから、混乱が起きないといいんだがな‥‥」 静かに時機がやってくるのを待つ、御神村なのであった。 ●契機 「全く、こんな村一つ手中にしてお山の大将か。めんどくさい上にちぃせぇ‥‥」 村のすぐ近くにて、待機する三つの影があった。 面倒くさそうに呟いているのは鷲尾天斗(ia0371)で。 だが、彼はすぐさま、手にした槍を握りつつ。 「まぁ、その大将の腕前は中々らしいから‥‥楽しめるかねぇ」 戦いの興奮を楽しみにするかのように、くすくすと笑うのであった。 そんな鷲尾の様子を見つつ、ふっと笑みを浮かべて手にした賽の目を見ているのは柊・忍(ia1197)で。 そして、その横で大きな体を隠すように膝をついて。 村に視線を向けているのがメグレズ・ファウンテン(ia9696)であった。 彼らは、直前に村からひっそりと抜け出してきた御神村に告げられていた。 腕を振るう機会はもうすぐであると。 ケーン ケーン ケーン 村に響くように聞こえたのはキジの鳴き声三つ。 それが御神村の放った合図であると、瞬時に理解した三者は駆けだしていて。 「参ります!」「ああ、全力で叩き潰してやるぜ!」「さあ、祭りの時間だ!」 メグレズの言葉に、柊が応え、そして後を追う鷲尾は楽しげに笑いながら。 三者は、村はずれの小屋を急襲するのだった。 丁度その頃、青嵐とミルは見張りの剣客と竹田に言われてやってきた剣客の2人に囲まれていた。 後からやってきた剣客崩れが、見張りに何ごとかささやきかけて。 そして、2人の剣客崩れが刀を抜いた瞬間、御神村の合図が村中に響いたのだった。 最初に動いたのはミルだった。 今まで、ただの薬売りの助手だと思っていたミルの動きは、泰拳士ならではの足捌きで。 予想だにしなかった剣客崩れは、彼女が懐に踏み込むのを目で終えていなかった。 そして、体の真芯に拳を一撃、ぐふっとくぐもった声を立ててぶっ飛ぶ男。 はっともう1人の剣客崩れは身構えて刀を抜いたのだが、そこでミルが空気撃。 そして体勢を崩した剣客崩れにするすると近づく青嵐は、相手の喉をがっちり掴むと。 「叫ばれるわけには行きませんから」 静かに静かに、放った斬撃符によって男の喉を切り裂いたのであった。 「ちくしょう! お前ら偽物だったのか‥‥」 みぞおちを突かれ、息も絶え絶えに絞り出すもう1人の男だったが。 「まぁ、弱肉強食もアリかもしんないけど‥‥あたしは気に入らんからぶっ飛ばさせてもらうよ」 素早く隠し持っていた手甲を装備したミルによって殴り飛ばされるのであった。 剣客2人を無力化した青嵐とミルは、急いで村人たちが集められつつあった集会所へと向かって。 だが、すでに集会所では戦いが始まろうとしていた。 集められた村人たちが、剣客たちの剣呑な雰囲気に怯える中、村長は皆をなだめて。 だが、ついに男達が油をまき始めようとしたときに、響く合図の鳥の声。 そして、それと同時に、ひらりと飛び降りてきた姿があった。 「‥‥ほら、得物を持ってきたぞ」 御神村は、現れると、手にした刀を無月に向けて。 どうやら合図と同時に、集会所の高い窓から忍び込んだようだ。 それを見て、無月は。 「よし、それを待ってたんだ。‥‥ふんっ!」 後ろ手を縛っていた頑丈な縄を強力で強引に引きちぎる。 とっさのことに呆けていた剣客たちも、事ここに至ってやっと刀を抜こうとするのだが。 「おっと、そうはさせないよっ!」 村人に紛れていたアルカは、火種の松明を持っていた男にまっすぐ接近すると正拳突を一撃。 御神村は村人たちを庇うように、剣客崩れを引きつけながら飛苦無を投げて男を壁に縫い止める。 そして、無月は受けとった愛用の刀をずらりと抜き放つと。 「仲間を斬っちまったあんたらに何があったか知らないが‥‥逃がすわけにはいかねぇからな」 大上段からの一撃を受け止めようとした相手の受け太刀事一撃を叩き込むのだった。 どうと、男が倒れれば、こちらの剣客崩れは全滅したようで。 一拍おいて、わぁっと村人たちの歓声が上がったのだった。 戦いの舞台は、村はずれの小屋を残すのみとなっていた。 柊がグレートソードの一撃で戸を斬り倒してそこから一行は踏み込んで。 「さーてと、お前らの命は焔を統べる悪鬼がスッパリと散してやる。命が惜しければ俺の前に居るな」 まっすぐ竹田に向かって突き進む鷲尾、彼を阻もうと2人の取り巻きが迎え撃つが。 「俺らのことを忘れてないか! 精霊剣!」 柊は青白い燐光を放つグレートソードを振るって妨害し。 「させません」 スパイクシールドでメグレズは取り巻きの一撃を受け止めるのだった。 浅く傷を負い,竹田の前にたつ鷲尾。流れる血にも構わずに笑みを浮かべて、 「さて、本気で相手するか。だからお前も本気でかかって来い。そしてお互い愉しもうや!」 竹田の殺気を圧倒するかのような狂気を放ちつつ、鷲尾は槍を振るうのだった。 竹田は居合いを主軸に、鷲尾の槍を凌ぎ続け、お互いに小さな傷だけが増えていった。 その横で、ほぼ同時に二つの勝負が決着した。 「これでお仕舞いだ!」 グレートソードの質量を活かして、大上段からの一撃で柊は相手を叩き伏せ。 「牙刃、剽狼!」 盾で相手の攻撃を凌いでいたメグレズは、防戦から攻撃に転じ。 盾を投げ捨てつつ、両の手で高く構えた無銘大業物を裂帛の気合いとともに振り下ろす。 反撃の初撃に弐の太刀要らず、一撃でもって相手を斬り倒したのであった。 だが2人が倒れて、竹田も絶体絶命かと思えたその時、鷲尾は膝を折ってしゃがみ込んだ。 幾つもの傷によって体力が尽きたのか。 危機が一点好機となった竹田は、焦りもあったのか、鷲尾の首を一撃しようと刀を振り上げて。 「‥‥‥紫焔」 座った状態から放たれる志士の一撃は、竹田の振り下ろしかけていた両腕を斬り飛ばしていた。 「っっ!!!」 声もない悲鳴を上げた竹田は、とっさに後ずさると、血を流しながらも裏口から逃げようとして。 そんな無様な竹田を迎えたのは、裏口をふさぐように立ちはだかったミルと青嵐であった。 「年貢の納め時、ってやつね。観念しなさい」 ぎりっと奥歯を噛む竹田は、しばし立ち尽くしてから、失血のために崩れ落ちて事切れるのであった。 それを見ながら、鷲尾は 「まぁ、地獄に行くのに刀はいらねぇだろ。俺が行くまで頑張って地獄の国盗りでもしてろ」 まだ斬られた両手が握ったままの竹田の刀を取るあげて、楽しかったぜと笑うのであった。 村を襲った災厄は取り除かれて、村は本来の姿を取り戻した。 無事、依頼成功である。 かつて開拓者でありながら、道を踏み外した竹田たちを斬った彼らの思いはどうだったのか。 例え、闘うために狂気を必要としても、踏み外せない道があることを開拓者は改めて思うのであった。 |