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■オープニング本文 ●人斬り 「な、なんじゃこれは!?」 とある街に事件が起こった。それはばっさりと首が斬られた死体が発見されたのだ。斬られた首はどこにもない。血飛沫の先を見ても首が落下したような痕もなかった。まるで頭を掴まれた状態で斬られたように推測される事件現場だった。 そのような事件が3日間立て続けに起こったのだった。 これだけの事件が起きておきながら、犯人の特徴が一切掴めない状況だった。ただ、常人の力ではないのだろう、なぜなら、相手の頭を片手で掴んだまま首を斬り落としているようなような死体の状況だからだ。 「ここまで連続して同じ事件が起こるとなると、もう開拓者に原因を突き止めてもらうといいんじゃないか?」 とある街の青年が街の集会でそう発言した。 「そ、そうじゃな‥‥さすがにこのまま放っておくわけにはいかないようじゃな‥‥」 長も頷くしかなかった。他の集まった全員も渋々頷くこととなった。 ●開拓者ギルド 「‥‥というわけなんだ」 青年が開拓者ギルドの信武に依頼を伝えた。 「なるほどな。募集させてもらうぞ」 信武はそういうと依頼の一覧に追加することにした。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
空(ia1704)
33歳・男・砂
忠義(ia5430)
29歳・男・サ
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
盾男(ib1622)
23歳・男・サ
志宝(ib1898)
12歳・男・志
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
リーブ・ファルスト(ib5441)
20歳・男・砲
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂 |
■リプレイ本文 吐き出す息が月のあかりに白く照らされている。寒さも静けさも、身を震わせるのには十分すぎるようだった。 月の下を、火の明りを揺らしながら朱麓(ia8390)は歩いていく。 「ふぁ〜。こりゃ幾らなんでも遅くまで遊び過ぎたな」 夜の街を一人で歩いている。件の人斬りを誘き出すためだった。 「さすがに心配のようですねえ」 「そう見えるかな」 「ふふ、そりゃあ」 盾男(ib1622)は意味深な笑みを浮かべた。彼らは人斬りに備え、朱麓と一定の距離をとりながら彼女の様子をうかがっている。 特に風雅 哲心(ia0135)などは片時も彼女の周囲から視線をはずさない。今も己の心眼で周囲を探っている。朱麓は哲心の思い人だった。 会話の剽軽を嫌ったわけではないだろうが、ふと玲璃(ia1114)が口を開いた。 「皆さん、昼間は色々と調べておられたようですが」 「何も分からなかったな」 哲心は肩をすくめた。 「俺と朱麓で現場や被害者の親族にも当たってみたが、目新しいものは見つけられなかったし、被害者にも共通点は見当たらない」 「無いんでしょうねえ、共通点。犯人には誰でもいいんでしょう」 玲璃は眉をひそめた。柳のような眉をしている。女と、よく見間違えられる一因であるかもしれない。 「やはり、ただの辻斬りのようなものだと?」 「まあ、ただでは無いんでしょうがね。やり口からしても」 しかし動機については確かに、ただの辻斬りと変わらないかもしれないと盾男は思っている。 「‥‥困った奴だ。少し前の自分みたいな事してるな」 こぼした呟きは誰にも聞かせなかった。朱麓の揺らす明かりに、張り付くようにしてついていく。 「怖くない怖くない‥こんな日はさっさと帰るに限るわね‥」 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は肩を震わせるようにしながら、小さい歩幅を早めている。小刻みに揺れる提灯が、彼女の赤い髪を暗がりによく映しだした。 「こうして見てるとヴェルト様は本当にただのか弱い娘さんってぇな感じですねえ」 「んじゃあ素はどうだとお前さんは見るよ、忠義(ia5430)」 「どうでやすかね。案外、怖い所もあるお人かもしれませんぜ」 「執事は女を見る目も養ってんのかァ?」 「勘弁してくだせえ、空様(ia1704)」 知己であるらしい空と忠義の会話はさすがに軽快なところがあると、リーブ・ファルスト(ib5441)は思った。 「ファルスト様は療養明けだそうで。どうぞご無理はしやがらねえでくだせえ」 「ありがとよ。まあ、問題はねえさ。それに復帰戦くらいは幸先良く行きてえしな」 リーブは鳥銃の銃口を上に向けて抱くようにしながらリーゼロッテの周囲を見張っている。 空も、暗視を駆使しながら、時折リーゼロッテとすれ違う者を見据えている。この男の視線は、随分と鋭い。 「ヒヒ‥オイ忠義、奴さんが誰を引いてどうゆう結果になるか、賭けるかァ?」 「多分賭けにもならんですぜ、其れは‥‥あれを」 リーゼロッテの背後から、なんともなしに歩み寄る影が一つ、空の鋭い目にとまった。 「十中八九、ってとこかい」 空は呼子笛を取り出し、リーブは天へ向けた銃口をゆっくり影へ下ろした。 「ん、と、僕は周辺警備の方が‥‥」 そんな感じで遠慮混じりに呟かれた御調 昴(ib5479)の要望はあいにく却下される運びとなった。 班分けとして分けられた人数の中で、囮役としては明らかに昴がもっとも適任であるとの結論であった。 昴はちょっとしょんぼりした。しょんぼりしたまま、やはり暗がりを一人で歩いていく。龍獣人の翼と尾をコートで隠している。獣人だと犯人が警戒するかもしれないと思ったのだった。 「‥‥なんだか昴さん元気なさそうですけど、悪いことしましたかね?」 「んー、結果としてぇ囮役しっかり果たしてるからいいんじゃないかぁねぇ」 若干、罪悪感にさいなまれてるっぽい志宝(ib1898)に比べると犬神・彼方(ia0218)の様子はさっぱりしたものである。一家の頭だけあって「よーし、行ってこい」と送り出すような心内だろうか。 オラース・カノーヴァ(ib0141)は息をひそめて昴と自身の距離をはかっている。アムルリープの射程内で待ち伏せたい。昼のうちに、この辺りの地勢は頭に入れてある。問題はないようだった。 犯人がアヤカシにしろ人間にしろ、捕らえられることが出来ればいいとオラースは考えている。討ちとるよりはその方が難しいからなのだった。難しい方が、燃える。 (‥‥破滅型、か) オラースは影に身を寄せるようにして肩を揺すっている。 甲高い笛の音が暗がりを伝いながら響いてきた。 「どうやらぁ当たり引いたのは他みたいだぁね」 「急ぎましょう、心配です‥‥昴さあん、行きましょう!」 志宝たちは笛の音を辿って駆けだした。 「いらっしゃい、辻斬りさん。歓迎するわ」 「‥‥ん。ああ、なんだ、嵌めらたわけか俺」 月が照らしている。 リーゼロッテの前に立った男は中肉中背、なんの変哲もない若者といった風貌だった。右手に、脇差を垂らしている。 「お怪我はねーですか」 「ええ、ありがとう。一人だとちょっと危なかったかもね」 リーゼロッテはあいまいな微笑を浮かべながら自分の首をさすっている。 「あんたら開拓者だな」 「そういうこった。さあて人斬りさんよ、今までやった分恨まれる覚悟は出来てっか? ‥‥出来てなくてもやっちまうがなぁ!」 リーブが空撃砲を放つと同時に男は横っ跳びにとんだ。 「とと、腕もよさそうだ。相手にすんのも馬鹿だな、またいつか一人ずつ遊んでくれ」 勢いよく踵を返して駆けだした男の視線の端で、影が、周りの暗がりに溶け込まず浮かび上がるようにしてついて来る。 「いつかなんざ言わずにいま遊んでくれよヒヒ、ハハアッ!」 無造作に影から突き出された忍刀が男の腕の肉を浅く裂いた。 「‥‥いけねぇ、シノビがいやがる」 「そういうお前さんも開拓者崩れってとこだろ」 「まあそんなとこだな」 「空様、跳んでくだせえ」 気軽な調子でかけられた言葉とは裏腹に忠義の放った地断撃は激しく地を割った。男は衝撃に弾き飛ばされながらも走ろうとしている。 辻から、人影が出てきた。 「あんたが人斬りかい。安心おし、命まではとらないさ」 朱麓の振るった苦無が、男の足を止めた。 「まだいるのか」 「いいや、まだだぁね」 辻のもう片方には彼方たちがすでに立っている。十二人の全員がこの場にそろったことになる。 「ご苦労さんだな」 「あんたが大人しく捕まってくれればそうでもない」 「それも癪だからな」 「そうか。どちらにしろ、これ以上はさせねぇよ。いくぞ朱麓」 哲心の振るった刀から雷電がまばゆい閃光となって迸った。 四方から浴びせられる攻撃を、男はなんとか直撃を避けようとしながら細かに動いている。 「安心スルネ、峰打ちアルヨ」 騎兵銃を手に急所を外しながら盾男はおどけている。 「うっかり死なせてしまったら私が生死流転で無理やり死なせないようにしますが、その間は術にかかりきりになりますので、どなたか犯人に後日の生き地獄を味あわせる為、回復の術をかけて頂けますでしょうか?」 「私いいわよ、治癒符使えるし」 男から距離を置いた場所で神楽を舞い、仲間たちに精霊の力を付与していく玲璃の言葉にリーゼロッテが応えている。 「‥‥あそこはずいぶん怖いこと言ってるな」 「てめえで腹切ったりしても無駄ってこった」 「しねえよ。腹の切り方はあんまり知らないしな」 男はすでに四肢から相当量の血を流している。男はしばし立ち尽くして息をつくと、何かを決したような衝動的な動きを見せた。 体を一足で運び、左手を志宝の首へはしらせた。そのとき志宝がもっとも男の近くにいた。 「うっ」 男の左手が、志宝の首から顎にかけてを掴む。親指から中指の三本が下顎を掴み、薬指と小指が首に添えられている。 親指に力が加えられ、首をぐっ、と少し持ち上げる。 志宝の白い首が、暗がりの中にのぞく。 男は、左腕の下に添わせるようにして右手の脇差をはしらせた。刃を、左手の小指のすぐ下に、通す。 (ひょっとして、死ぬ‥‥?) 男と目が合う。何も伝わって来ない。相手の刃は見えない。しかし自分の首をつかんでいる腕の下を死臭を伴って白刃がはしってくるのを、感じた。 志宝は反射を起こして見せた。反射を無心として、体に染みついた篭手払の動作で右の刀を挙動させた時、死を弾く音が、志宝の見えぬ場所で散った。 「‥‥なに?」 「志宝さん!」 「‥やり過ぎだぁな」 平素大人しい昴が声をあげ、短銃で男の右手の甲を撃ち抜く。彼方は加減を抜き去り、式の力を纏った十字槍を打ち出し、男の肩を芋のように串刺しにした。 「‥‥こんなところだろう」 オラースの結んだ呪文が効力を発揮し、男をまどろみの淵に落とす。 己の流した血の上に、男は糸の切れたように倒れ伏していた。 「よう、起きたか」 男が目覚めると、荒縄でふん縛られていた。傷は、ふさがっている。 「ま、こんなところかしらね。これでとりあえず大丈夫なはずよ。しっかりお金になりなさい」 「‥‥‥」 リーゼロッテが治癒符に使った符をひらひらさせていた。 「気分はどうだよ」 「‥‥おかげですっきりしてるよ。あんたらが随分血ぃ流させてくれたからな」 「ヒヒ‥‥お前さん、シノビだな」 「ああ」 「あの、理由は、あるんでしょうか」 「無い」 昴の問に男は首を鳴らしながら応えた。 「理由は無いが、今までやってきたことをやってただけだな。他にやることが無いんだ。理由が無くなったからって、やめられるもんじゃない。ほら、人間って要は習慣で生きてるっていうだろ。それ」 「罪の意識は無いわけですか」 玲璃の目は笑っていない。 「分からないってのが正直なとこだな。理由が有れば良くて、無いと駄目。俺には分からなかった」 「なんだ、つまらない。あなた本当にただの辻斬りだったわけね。首は? なんのために持って行ってたの」 「首の表情の残り方で、その時の技の出来が大体分かるからな」 「それで?」 「どうもしねえさ。表情が崩れたら、埋めた」 「つまらない」 リーゼロッテは踵を返した。 「はっ、まあ都合なんざどうでもいいさ。やるこたやっちまったんだ。それは変わりゃしねえ。そろそろ行こうぜ」 塀にもたれていたリーブはやはり銃をトンと背に担いで立ち上がった。 「どうすんだ。俺をギルドか奉行所に突き出すのか?」 「よく分かってやがるじゃねえですか」 「極刑だろうな」 「そりゃそうでしょうよ」 「お前さんがたがここで手ぇ下してくれないのか?」 「俺たちの都合だ」 オラースは素っ気なく言った。 「はっはっは! そうか、そりゃ仕方ないな。俺にしてみればあんた達の方がよさそうなんだが。あんた達にも都合がある」 男は、縛られたままの恰好で立ち上がった。 笑っている、と哲心は思ったが、それまで出ていた月が俄かにかげって、男の表情をうかがうことは出来なかった。 「んじゃ、連れて行ってくれ。誰が俺の首を落としてくれんのかは、知らないけどな」 (代筆 : 遼次郎) |