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■オープニング本文 ●恋焦がれる青年 ―――そこは朱藩のとある町。 夜空を仰ぎ見て意を決する。 「よし。彼女にこの景色を今度見せてあげよう」 漁師を営む亮介という青年は鍛冶屋の娘の明希という女性に恋をしていた。だが、案の定片思いで彼女からは友達としか思ってもらえず、2人の時間を何度も過しても手ごたえがまるでなかった。 そこで彼は流星群は長い間見れることを知っていたため、漁の最中に見た綺麗な流星群を彼女にも見せようと考えたのだ。 「今度こそ告白しないと俺の気持ちは伝えられないな‥‥」 いい雰囲気になるのだからと告白することを決めたのだった。 明希に告白することを考えて熱くなった頬を徐々に冷たい海風が冷ましていく。そして、亮介は冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んでから、長い時間をかけ吐き出し仕事に戻った。 ●鍛冶屋の娘 「いらっしゃいっ!あら、亮ちゃん。今日はどうしたの?」 元気いっぱいの鍛冶屋の娘は亮介が片思いの相手の明希。彼女は父親が営む鍛冶屋の看板娘と言ったところだ。彼女は本当に可愛く町の人気者だが、色恋の話は全くといっていいほどなかった。高みの花で取ろうとする男はいなかったのだ。ただ亮介という1人を除いて。 「い、いや。明希に見せたいものがあってな」 緊張する亮介は頬をかきながらゆっくりと言葉を紡いでいく。 「なになに?早く見せて見せてっ」 期待の面持ちで亮介の顔を覗き込む。 「えっと。今ここでは無理なんだ。明後日の深夜に俺と一緒に海に来てくれないか?迎えに来るから」 「そのときに見せてくれるんだね。楽しみにしてるよっ!」 亮介は難なく明希と約束することができた。 ふと、1つの心配が浮上した。アヤカシである。そう朱藩の国は昨今アヤカシの被害が無視できない規模になってきているからである。だから、亮介は開拓者ギルドを訪れることにした。 |
■参加者一覧
天宮 涼音(ia0079)
16歳・女・陰
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
四方山 連徳(ia1719)
17歳・女・陰
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
詐欺マン(ia6851)
23歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●偵察 「このまま何事も起こらなければいいのだけれど」 舟の上で天宮 涼音(ia0079)が小さくぼやいた。やはり綺麗な流れ星の下で、不釣合いなアヤカシとは出会いたくないのだ。 「そうだな」 涼音と同じ舟に乗り舟を動かすルオウ(ia2445)がそう返す。舟の扱いは慣れてはいないので、上手く進められていないようだ。 その時、合図である鈴木 透子(ia5664)の人魂が旋回している様子を全ての舟は確認した。 「やっぱり出たでござるね。今いくでござるよ」 四方山 連徳(ia1719)はそう言うと合図の方へ向けて舟を進めた。 「いたわよ。ここからだとそう遠くないわ」 連徳と同じ舟に乗る設楽 万理(ia5443)は弓を構え鷲の目で狙いを定めて射た。見事にアヤカシである怨霊に命中した。 別の方角からは炎を纏った矢がまた別の怨霊に命中していた。 「…無粋なアヤカシ共には退場願おう」 九法 慧介(ia2194)の射た矢だった。 「人の恋路を邪魔するアヤカシは去るでおじゃるよ!」 愛と正義と真実の使者を自称する詐欺マン(ia6851)は慧介が射を行なう横で手裏剣を次々投げていた。 「人の恋路を邪魔する物は何とやら‥‥と言うでしょう?邪魔しないで下さいな」 最初にアヤカシを発見した朝比奈 空(ia0086)は透子が斬撃符で攻撃している怨霊にあわせて力の歪みで攻撃をしていた。しかし怨霊は個体は弱いが数が非常に多かった。 やはり、開拓者の力が圧倒的で矢や陰陽術を中心に怨霊を次々消し去っていった。怨霊は道連れにしようとしていくため近づかせないようにと、できるだけ安全を考え戦った。 そして、しばらくすると大量にいた怨霊は全滅したのであった。 「これで亮介さんたちが来ても安心ですね」 慧介がそう呟いた。 「そうでおじゃるな。心配なく流れ星を満喫してもらうのが1番でおじゃる」 詐欺マンが続けた。 ●出発前 時は少し遡る。 「好きな娘に、な。その気持ちすげーわかる気がするぜ。よーしっ、応援してやろうじゃん!」 ルオウは亮介の肩を軽く叩き応援すると告げた。 「アヤカシが出るかもしれないのに夜の外出とは‥‥困った依頼主でござるねー」 と連徳が、 「こんなことを言うのもなんだけども一介の漁師がギルドに依頼を持ち込むなんて相当思い切ったわね。金額分の思いだけでも伝わると良いのだけれど」 万理が、そう言うと、亮介はそれでも彼女に綺麗な流れ星を見せたいし、危険な目には遭わせたくないと強い意志を見せ付けた。 「これは敵わないでござるね。有事の際は何とか手を尽くすけど、死んでも知らないでござるよ?」 「例えアヤカシが出ても堂々と振舞っていればよいでおじゃる。まろ達が絶対守るゆえ・・。あとはその恐怖をも生かすでおじゃるよ。」 と詐欺マンは吊り橋効果の存在を示唆した。 「ところで、汝はどのあたりを回るでおじゃるか?」 ●流れ星 時は戻り亮介たちが乗った舟が出発したばかりだ。護衛に戻ってきていたのは慧介と詐欺マンが乗った舟と連徳と万理が乗った舟だ。そして戻ってきてはいるが、雰囲気を壊さないようにと少し距離を取っていた。 「ところで、仕事とはいえなんで男と二人、夜の海で船に乗って星を見なきゃいけないのでおじゃるか!!」 アヤカシを退治した詐欺マンは同じ舟に乗る青年、慧介に文句をぶつけていた。 「俺にそう言われてもな‥‥」 慧介は苦笑いしながらそう返答した。 「仕方ない、彼に「愛」について説く必要がありそうでおじゃる。しっかり聞くでおじゃる」 詐欺マンはここぞとばかり恋愛指南役を見せ付けていた。 「あちらの舟少し騒ぎすぎでござらんか?」 連徳は慧介と詐欺マンの舟を見て少し苦笑い。 「アヤカシの退治も済んだことですし少しくらいは大丈夫じゃないかしら」 「あ、一つ落ちた」 迎えに戻らず待っている透子は流れ星を確認した。 「え?今ですか?」 舟を動かしていた空は見逃したようだ。 「またすぐ落ちますよ」 透子は小さく微笑んだ。 「さすがに、すごいわね。この時期に来れてよかったわ」 もう1隻の待っている舟に乗っている涼音はそう呟いた。 「本当に綺麗じゃん。また来てもよさそうだな」 ルオウがそう呟いた。 そしてようやく亮介たちの乗った舟が近くまで来たようだ。目を凝らせば迎えに行っていた舟も確認できる。 そしてしばらくこの流れ星の雰囲気を亮介たちと開拓者たちは満喫すると、開拓者たちの耳に亮介の声が届いた。内容までは確認できないが、様子からするとどうやら告白しているように見て取れた。 「あらあら、熱いわね」 と涼音はにやにやとして言っていた。 また別の舟で連徳が、 「‥‥大胆でござるねー」 と言い、 「そ、そうですね。返事が‥‥接吻のようですね」 万理が驚き返答する。 「良かったですね‥‥願いが叶ったのですから」 と、空は小さく呟き、 「あ‥‥綺麗ですね」 流れ星を発見した空はそう続けた。 その頃、慧介は、 (「なんで俺がこんなことに?」) そう思いながら詐欺マンの恋愛指南を聞き流していた。 (「流れ星‥‥綺麗だなぁ」) 慧介が空を仰ぐと、 「汝はちゃんと聞いているでおじゃるか?」 詐欺マンはそう慧介にそう言う。 「あ、ああ。聞いている」 慧介は焦りながら答えた。 「では、まろが言ったことを言ってみるでおじゃる」 「え‥‥」 「聞いてなかったのでおじゃるな。仕方ない最初からするでおじゃる」 詐欺マンの恋愛指南はまだまだ続くようだった。 そして、これ以上ないというほど流れ星を満喫した亮介たちと開拓者たちは陸へ戻ろうとしたが、そこへアヤカシが。 「いけないでござる!」 連徳は1番最初にアヤカシである幽霊船を発見し、呼子笛を鳴らした。すると開拓者は幽霊船を退治するべく戦いに赴いた。空気を読めないアヤカシに対して殺意を露にしながら。 ルオウが動物の声真似をした咆哮で、幽霊船の注意を引き付けた。幽霊船から次から次へと怨霊が溢れ出していた。そう偵察の段階で退治した大量の怨霊はこの幽霊船から出てきたものだ。 幽霊船に向けて矢が次から次へと放たれるが、怨霊を射抜くだけになり幽霊船には全く届かないようだ。 「舟を幽霊船の近くに動かしてくれないか?」 ルオウはそう言うと涼音に操作を任せ立ち上がった。その手には刀。 「分かったわ。無理したら駄目よ」 ルオウは正面から向かってくる怨霊を次々斬り裂き幽霊船に向かっていった。空はいつでも回復できるようにと接近していった。慧介は道を開くのを手伝うように矢を射ていた。詐欺マンは怨霊が亮介たちに接近しないようにと構えていた。 「大丈夫でおじゃるよ。1つの余興だと思ってるといいでおじゃる」 詐欺マンは亮介の横で怖がっている明希にそう告げた。 「まさか、アヤカシとドツき合ってる開拓者を肴に愛を語らおうとかしてないでござるよね?それどころじゃないようでござるね」 連徳は亮介たちを横目で確認するとそう呟くが、戦闘の手は緩めない。 開拓者の戦いはいつもに増して凄まじかった。ただただ怒りに任せているだけなのだ。 「邪魔しないでくださな」 空はルオウの回復と手裏剣での援護攻撃を担っていた。涼音と透子は舟を全力で進めた。そしてようやく幽霊船に攻撃できる位置まで接近できた。ここまで来るとあとは問題ないようにルオウは幽霊船を斬り刻み、涼音は斬撃符の剣燕を飛ばし援護していった。透子も斬撃符で援護をしていた。援護をしている空を1体の怨霊が道連れにしようとよって来たのだ。 「気をつけるでござるよ」 それを隷役を使用した連徳の魂喰が先手を打った。 「ありがとうございます」 空は礼を言うと手を休めず手裏剣を投げた。 「それにしても限がないわね」 万理は次々射を行なっていたため、持ち込んでいた矢束の半分ほどを使い切っていた。 「これで終わりだ!」 ルオウは最後の一太刀を幽霊船に決めると、幽霊船は音もなく瘴気へ帰っていった。 幽霊船を失った怨霊は次々と万理と慧介の射によって数を減らしていった。 「すごい数でおじゃる」 詐欺マンはそう言うと手裏剣を投げ続けた。 時間は掛かったものの亮介と明希は傷を負うこともなくことを終えたのだった。 ●終幕 帰ってきた頃にはもう夜が明けかかっていた。が連徳と万理は最後まで見ると舟で出ていた。 「次は個人的に来たいわね」 涼音はそう呟いた。 「でも、空気の読めないアヤカシはもう懲り懲りでおじゃる」 詐欺マンが肩を竦めた。 空が亮介と明希に、 「これから2人の時間を大切にしてくださいね」 と今後の応援をしていた。透子も笑みを浮かべ2人を応援していた。 「…いいなぁ。俺もいつか亮介さんみたいに恋をする日が来るのかな」 と慧介が呟いた。 「大丈夫でおじゃるよ。まろの言ったことを生かせば汝にもできるでおじゃる」 詐欺マンが自信満々な表情でそういった。慧介はもう苦笑するしかできなかった。 そして、しばらくし夜が明けると連徳と万理が帰ってきた。 「最後まで綺麗でござったよ」 「綺麗でしたわ。また来たいですわね」 と満足げに話した。 明希が開拓者を招き、亮介の告白話を肴に朝食を頂くことになった。 その朝食は開拓者の疲れを吹き飛ばすほど楽しいものになった。最初のうちの肴は告白話だったが、話が弾むにつれ亮介の過去にも至ることになったのだった。そのため、亮介だけは常に顔を真っ赤にしていた。 余談だが、亮介は明希と付き合うようになってすぐに2人が付き合っていると町中に知れ渡った。何と言っても今まで色恋の話のなかった人気者に彼氏ができたとなってはすぐに広まったのだ。亮介のことは一部の男たちからは勇者と、また一部の男たちからは高みの花を摘み取った愚か者と呼ばれるようになった。しかし、亮介にとって呼び方などは気にすることはできなかった。なぜなら今、明希と過す時間が1番大切だったからだ。 了 |