とある終焉への物語
マスター名:東雲八雲
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/31 22:51



■オープニング本文

●寿命尽きる前に
「何でしょうか。親分」
 障子を開けた子分の怜治の目の前には老衰する雅藤組の親分―雅藤源蔵―の姿があった。
「怜治、これを開拓者ギルドに届けれくれ」
 源蔵が怜治に渡したものは一通の文書だった。
「これは何でしょうか?」
 怜治は親分の意図が掴めずそう問う。
「わしの孫娘の麗羽のことだ。あいつには1度開拓者となってもらい、その後この組を纏めて欲しいのだ」
「なぜ開拓者に?」
「わしも以前は開拓者として力をつけたのだ。麗羽も志体を持っている。だから、わしのようになってもらいたいのだ」

 雅藤源蔵は以前開拓者で力をつけその後組を祖父から継いだのだ。だから孫娘にも同じ道を辿ってもらおうと考えているのだ。

「わしはもう長くないだろう。だからあいつがわしからすぐに継ぐことはできないだろうが、まずは力をつけてもらいたいのだ。だから麗羽の今の状況を正してくれる者を連れてきてもらいたいのだ。わしにはもう無理だったからな‥‥」
「了解しました。では、行って参ります」
 怜治は頭を下げると障子を閉め、開拓者ギルドへ向かった。

●孫娘の現状
―――武天の裏路地。

「たくっ‥‥今日は雑魚の多いことね」
 1人で大勢の男と喧嘩をしている娘がそう呟いた。
 現状は悲惨だった。たった1人の娘に数十人もの男たちが熨されていた。
「梓。終わったわよ。ちゃんと報酬の分の仕事はしたからもう行くわ」
 そう言うとその娘は1人の女性から大金を貰い、賭場へ消えていくのだった。
 その娘こそ雅藤組親分の孫娘―雅藤麗羽―だ。裏路地で依頼された喧嘩を引き受けて多額の報酬を貰い、それを賭場で使うのだ。つまり喧嘩屋をしているのだ。

●開拓者ギルド
「失礼する。受付はここでいいのでしょうか?」
 正装で開拓者ギルドへ赴いた怜治が受付らしい女性に声をかけた。
「はい。ご依頼でしたらここで受け付けます」
 にこやかに微笑む受付の女性が答えた。
「では、これを頼む」
 怜治は懐から1通の文書を取り出し受付に渡した。
「はい。中を拝見させてもらいます」


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 前略

わしは雅藤組を取りまとめる雅藤源蔵だ。
依頼内容としてはわしの孫娘の麗羽が開拓者になろうと心変わりさせてくれる者を求めている。
方法は問わない。開拓者たちが1つの方法を決めてくれたらよい。
報酬についてはあまり金は出せないが、わしが蒐集していた物をいくつか分けようと思う。
本題だけではあるがこれにして失礼する。

                          草々
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「なるほど。分かりました。この文書を添えて開拓者を募ります」
「忝い」
 怜治は小さく頭を下げ礼を言い開拓者ギルドを後にした。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
佐久間 一(ia0503
22歳・男・志
八十神 蔵人(ia1422
24歳・男・サ
星風 珠光(ia2391
17歳・女・陰
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
箕祭 晄(ia5324
21歳・男・砲
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
サンダーソニア(ia8612
22歳・女・サ


■リプレイ本文

●情報収集
 雅藤組のもとに佐久間 一(ia0503)、星風 珠光(ia2391)、箕祭 晄(ia5324)、菊池 志郎(ia5584)に向かい、路地裏や賭場に真珠朗(ia3553)、サンダーソニア(ia8612)が向かい、梢・飛鈴(ia0034)と八十神 蔵人(ia1422)が雅藤麗羽を呼び出しに向かった。

「麗羽さんについてのことを出来る限り教えてもらえないでしょうか?」
 一は源蔵にできるだけの情報を求めた。
「もちろんだ。あいつに1度開拓者になってもらうために必要な情報であれば出し惜しみはせん。まず何が訊きたい?」
 源蔵は上半身を起こし、承諾してくれた。
「ありがとうございます。まずはなぜ麗羽さんが喧嘩屋を始めたかを教えてもらえないでしょうか?」
「なぜか‥‥恐らくは暇つぶしだろう。志体を持っているため常人では敵わないことを知っていてやっているのだろう」
 源蔵は小さく息を吐き答えた。
「麗羽さんは組を継ぐのを嫌がって、それでわだかまりが生じているのでしょうか?あと、今まで源蔵さんはどのような説得をしてきたのでしょうか?」
 志郎が質問を続けた。
「嫌と言うことはないとは思うのだがはっきりしたことはわからん。わしがしてきた説得は様々な鍛錬には開拓者になるのが1番だと言ってきたのだが、もう実力は十分にあると言い張り、あんな面倒ごとを引き受けるだけの人になって鍛錬も何もないと、聞かない始末だ。そして、わしの身体もこの状態でもうわしから出向いてやることもできないからな‥‥」
「なるほど。ありがとうございました」
 志郎が礼を告げた。そして質問はゆっくりとと続けられた。

「麗羽君について知っていることを怜治君も教えてくれないかな?」
 珠光は怜治から情報を訊き出そうとしていた。
「構いません。お嬢様は昔から喧嘩が耐えませんでした。もちろん志体をお持ちになるので無敗ときいております。あとお嬢様は‥‥」
 珠光はそのまましばらく怜治の話を聞き続けていた。

「そこのおまえ、俺に麗羽について教えてくれないか?」
 晄は雅藤組で源蔵の身支度を任されている人妖の―雫―に話しかけていた。
「すみません。わたくしが麗羽様について知っているのは喧嘩ばかりの毎日だということくらいです。力になれずに申し訳ありません」
 雫は晄にぺこぺこと頭を下げ何度も謝っていた。晄はどうしたものかといった表情をしているようだった。

 そしてしばらくし情報を収集した結果、現状の麗羽は喧嘩で勝つことが好きでそれだけの惰性で続けているといったものだった。
「結局、開拓者になればもっと強い相手と戦え、退屈しない戦いができることを教える方がよさそうですね」
 町から帰って来た真珠朗がそう結論付けた。
「そうだね。あと開拓者についてあまり詳しくは知らないようだね」
 真珠朗とともに行動していたサンダーソニアがそう付け加えた。

 一方呼び出しに向かっていた開拓者2人はと言うと、完敗したが何とか話を聞いてもらい雅藤組に向かっているところだった。
 どのような経緯かと言うと―――
「あれアルな?」
 飛鈴が指差し蔵人に言った。
「そのようやな。交戦中のようやけど」
 蔵人は苦笑いしながら返答。目の前で起こっていることは完全に異常だった。約20人いや30人ほどの男たちが1人の少女を取り囲み、鈍器や刃物を手に攻撃をしている様子だった。しかし血を流し倒れていくのは男ばかりだ。その少女はむしろあくびをしながら軽く避けて、拳や脚を男の身体に当てていく。殴るや蹴るのではなく、当てるといった行動だ。それで男たちの皮膚は弾け倒れていっているのだ。
「なんだ?まだ2人残っていたのね。少しは楽しませてちょうだい」
 そう言うと麗羽は勘違いし一直線に飛鈴と蔵人に向かって走った次の瞬間、蔵人の頬に拳が当たった。それだけで殴られたかのような状態になっていたが、驚いたのは麗羽の方だった。いつもはそれで男であろうと気絶していたからだ。
「あら?志体持ちなんだ。だったら手加減は要らないよね。死なない程度にはしてあげるわ。どんな武器を使ってでも楽しませてね」
 そう告げると蔵人が口を開く間も与えず、一息のうちに蔵人は腹部を3発殴られた。続けて飛鈴の方を見向きもせずに空気撃を難なく回避。
「これは過小評価しすぎたアル‥‥」
 そう呟いた瞬間、鳩尾に拳が入ってた。そして倒れ込んだ。
「志体持ちでもこんなものなのね。少し残念だわ」
「まずわしらの話を聞いてくれ」
 蔵人がゆっくり起き上がり話し出した。
「話って何よ?」
「まずわしらはそこの男らとは無関係や」
「ちょっと話あるから呼びに来ただけアル」
「一緒に来てくれるやろか?」
 2人が言い寄った。
「仕方ないわ。無関係な人まで巻き込んだ責任もあるからついて行ってあげるわ。場所はどこ?」
「雅藤組アル」
「よりにもよって爺さんの関係ね‥‥」
 麗羽は苦笑いし渋々ついて行くことにした。

●説得
「戻ったな。って大丈夫か?」
 晄が少し心配そうに飛鈴と蔵人に声をかけた。
「大丈夫だったらこんな怪我してないアル」
「でも、連れてきたで」
 蔵人は麗羽の方を指差した。
「2人とも早く手当てした方がよさそうだねぇ」
 珠光が続けて声をかけた。珠光が飛鈴に、晄が蔵人に肩を貸して部屋に入っていった。

「ご苦労だった傷はわしが癒そう」
 そう言うと源蔵は淡く輝くと飛鈴と蔵人の傷が見る見るうちに癒えていった。
(「この人巫女だったんですね‥‥」)
 厳つい外見からは全く予想もできない行動に開拓者全員の表情が固まっていた。
「どうかしたか?」
 源蔵が不思議そうに開拓者に問うた。
「い、いえなんでもありません」
 固まった表情のまま一が答えた。
「それで?話って何なの?」
 麗羽が面倒だと言わんばかりの様子で切り出した。
「話はおまえに開拓者になって力をつけてもらいたいことだ。現役の開拓者の話を聞いてくれ」
 源蔵はそう言った。
「麗羽君は戦えてお金さえ入ればいいんだよね?」
 珠光が根本を確認した。
「そうね。暴れられてお金も貰えたら文句ないわ」
「だったら開拓者でもいいと思うけど何で喧嘩屋を選んだの?」
「開拓者みたいに面倒ごとを押し付けられるのはごめんだわ。現にこんなことで開拓者が動いてるでしょ?」
「依頼は色々あるからその中から自分に合うのを選べばいいんだぜぇ。それに何と言ってもひ‥‥」
「人の役に立つ。達成感がある。気の合う仲間ができる。この3つは開拓者だからこそですね」
 晄が答えを志郎が言った。
「なっ!俺の言おうとしたこと!」
 と晄が抗議するが、聞いてる人は誰一人いなかった。
「それに戦争に召喚されるのもやってられないわ。大アヤカシが攻めていたとかで前に戦ってたみたいだけど、そこまで命を賭けるのはもったいないわ」
 麗羽がやれやれと言った様子で答えた。
「それも人が多くて安全な場所に攻め込むなど色々と選択手段はあります」
 一が即答した。
「と言うかまずきみは予想を遥かに上回るほど強いんや。開拓者でもそこまで強い人は少ないんちゃうか?」
「そうアル。それだけの実力があれば問題ないアル」
 不意を付かれ完敗した蔵人と飛鈴が続けた。
「アヤカシについては詳しくないけど上位になったら厳しいわ。だから人を相手してる方が楽なのよ」
「しかし、勝てる勝負っていうより、『勝つと解っている』勝負だけしてて、『退屈』じゃないのかなって思いましてね。自分の思い通りに事が運ぶ毎日ってのは、どーなのか興味あるんですよ」
 真珠朗が興味を麗羽にぶつけた。
「確かに退屈ね。でも面倒なことや死にそうなことをやる方がよっぽど嫌ね」
 と、
「開拓者になれば様々な利点があるよ。晄君の言う3つも期待できることだね。戦いにしても自分のできないことは他の人と協力すればできることもあるよ」
 サンダーソニアが続けた。すると麗羽が考え出した。
「客によっては開拓者より喧嘩屋を求めていることもあるわ」
 と麗羽が答えるとすかさず一が、
「でしたら喧嘩屋も1つの用心棒として、個人的に商売をしながら開拓者としても活動してみてはどうですか?」
 そう切り替えした。
「その考えは悪くないねぇ。お金を儲けるならどっちもやってるのが手っ取り早いかもしれないしねぇ」
 珠光が後押しした。
「そうね。まずは開拓者として戦ってみるわ。それでも退屈だったり、儲けが下がるようだと即刻止めるわよ」
 麗羽はとりあえず承諾した。まずこんなことを組内で解決できないようでは組の崩壊は近いのではないかと考える開拓者もいたかもしれない状態だった。

●事後談
 麗羽は開拓者としてアヤカシを殲滅し、喧嘩屋改め用心棒として人相手にも戦闘を送る日々になった。実際に戦っているのは同じだが、戦闘の相手に強弱ができて退屈はしないらしい。そして、協力して戦うことも少しずつ身につけているようだ。

「わしの最期の仕事じゃな。何はともあれ説得に成功したのだ。予め希望を聞いていたものを中心に、わしが蒐集したものから選ばせて貰った。雫。」
 源蔵が手を叩くと人妖の雫が大きな箱を開拓者の人数分運んできた。
「希望に副わないものもいくつかあると思うが許せ」
 開拓者は中を確認すると驚くか感謝していた。ただ1人―蔵人―は中身を見て、そのまま固まっていた。
「おぉ〜、ありがとうありがとう。大事にするぜぇ」
 と晄がお礼を丁寧に伝えていた。
「服のや鎧は大きさは合っているか?」
 源蔵が確認した。すると各自で確認していった。
「大丈夫だ」
 真珠朗がそう言うと他も頷いていた。
「あ。これ少し小さいので替えはありますか?」
と志郎は靴を持って言った。
「それならあと1つ大きいのがあったはずだ。雫、取ってきてくれ」
 源蔵が言うと雫はすぐに替えを取ってきた。
「これでちょうどいいようです。ありがとうございました」
 志郎はお礼を伝えた。
「そうだ。麗羽にも1つ渡しておくものがある」
 そう言うと雫が今まで見たこともない篭手を麗羽に渡した。
「これは使えそうね。ありがたく貰っておくわ」

 そして、全てが終わると、
「それではわしは暫し休む。休んでいる間のことは麗羽と怜治に任せる」
 そう言うと源蔵は眠るように息を引き取ったのであった。



    了