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■オープニング本文 ●空への想い 「1度でいいから青空を飛んでみたいわ」 そう溜息をつくのは―空―という名の少女だ。彼女は病弱で18歳という若さで死を宣告された身で、布団から出ることすら許されない状態だった。 いつも空の看病し、空と話す1人の少年がいた。少年の名は―昇―。彼はいつも空の溜息混じりの言葉に、 「病気が治ったらな」 と、答えるしかなかった。もちろん空の病気は治ることはない。しかし、昇は空が死ぬ前に1度でも青空に連れて行きたいと考えていた。それは彼が募らせる空への想いからの考えだろう。それでも彼には空を青空に連れて行くことはできなかった。 今日の空はいつものように、しょんぼりした顔で頷くと、思いきや強情だった。 「昇。私を青空まで連れて行ってよ」 「ダメだ。それでおまえの病気が悪化したらどうするんだ?」 昇は空の身を案じて却下した。 「もう十分に悪化してるわよ。でも、それでも行ってみたいの」 しかし、空は屈しなかった。 「それで死にでもしたらどうするんだ?」 「本望よ」 空は即答した。当然のように即答したのだった。 「お、おまえ。分かっているのか?」 動揺しているのは昇の方だ。死はどうしても先延ばしにしたい彼からすると空の発言は意外だったのだ。 「何もしなくてももう時期死ぬわ。それだったら望みを叶えてから死ぬ方が本望よ」 空は何かを悟ったような様子でそう言った。 「わかった。もう空の好きなようにしてくれ」 昇の方が屈した。 「だったら開拓者に頼んできてもらえるかしら?」 「開拓者にか?今はシルベリア帝国の方に向かっているやつが多いが大丈夫だろうか?」 「‥‥そ、そうなの?」 空は少し不安そうな顔をした。 「ま、開拓者がダメなら俺が、グライダーで連れて行ってやる」 昇はその場凌ぎのような強気で言った。当然、彼はグライダーに乗った経験はない。 そこへ旅の吟遊詩人の三枝琴織が現れた。 「失礼します。見に迷ってしまって、ここから開拓者ギルドに向かうにはどの道をいったらいいでしょうか?」 「開拓者ギルドなら今から行くところだ。一緒についてくればいい」 昇は琴織をつれて開拓者ギルドへ向かった。 ●助力を求めて 「おまえは開拓者ギルドに向かってたようだが、何か依頼でもするのか?」 昇は興味本意で琴織に訊いた。 「ただ挨拶に行こうというだけよ。そういうあんたは依頼でもあるの?」 「空を空に連れて行ってやるためだ」 昇は深刻そうな顔で答えたが、 「ん?空を空に?」 言葉の意味が掴めず琴織は考え始めた。 「すまん。空って言うのはあの部屋で寝ていた女の名前だ」 「ああ。なるほど。叶うといいね」 琴織は微笑んだ。 「ああ」 しばらくすると開拓者ギルドに到着した。 「ここだ」 昇は戸を開き、開拓者ギルドに踏み込んでいった。その横に並んで琴織が入っていった。 「おう。琴織か。今日は何かようか?」 「私じゃなくて昇がね。空っていう女の子を空に連れて行ってあげたいんだって」 と琴織は昇の依頼の説明を始めた。 |
■参加者一覧
朧楼月 天忌(ia0291)
23歳・男・サ
桐(ia1102)
14歳・男・巫
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250)
25歳・男・志
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎
マリー・プラウム(ib0476)
16歳・女・陰
テオドール・フェネクス(ib0603)
16歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ●準備 依頼を受けてやってきた開拓者はまず店を回った。 「丈夫で大きな籠は見つかりませんね」 菊池 志郎(ia5584)は呟いた。志郎が探しているのは依頼主の2人空と昇を乗せるための籠だ。角を曲がったところでなにやらたくさんの荷物を持った巨漢に会った。 「何を持ってるんでしょうか?」 志郎は巨漢に訊ねた。 「何って籐と竹や。編み込んで作れば軽くて丈夫なのができるやろ」 と巨漢もとい斉藤晃(ia3071)が答えた。 「その手がありましたね」 と、志郎が晃から荷物を受け取ったときに、 「私もお手伝いしますっ」 マリー・プラウム(ib0476)が現れた。マリーも店を回って籠探しに奮闘していた1人だ。 そして3人で材料を持ち帰り、開拓者が丈夫で大きな籠を作ることになった。 「これで籠を作るんですね」 そう確認すると桐(ia1102)はせっせと編んでいった。 実際には編む作業は思ったより時間は掛からなかった。12人で分担して作業をしたためだ。もちろん2人と言うのは昇と琴織だ。琴織は最後まで見届けようとついてきていたのだ。 「見ているなら手伝え」 とシュヴァリエ(ia9958)に言われたことを発端に琴織も作業をすることになったのだ。 そもそもなぜ籠なのかと言うと 「あくまで個人的な意見ですが、複数の龍で2人の入る籠を吊るしていくのはどうでしょうか?」 とメグレズ・ファウンテン(ia9696)と提案したことから始まったのだ。 もともと何でもよかったが、 「つまりは籠を吊るして気球のような形にするんだな。異論はない」 と朧楼月 天忌(ia0291)が、後押ししたことで籠に決定したのだ。 「おい。そこ間違ってるぞ」 天忌が天ヶ瀬 焔騎(ia8250)の間違えたところを指摘したり、 「これ意外と難しいだな」 と昇がぼやいたり、 「コツを掴めば割りと簡単ですね」 とテオドール・フェネクス(ib0603)を余裕を見せたり、ということがあったが今は――― ―――完成し歌月、黒焔、持国、鉄尖という4匹の甲龍に繋がれた籠がある。その籠の中にはルオウ(ia2445)。それとテオドール。 「それじゃいくぞ!」 黒焔に乗る焔騎が号令をかけ、桐、メグレズ、マリーも同時に飛び上がった。 4匹の甲龍に繋がれた縄がぴんと張った。 そして、ゆっくりと籠は気球の要領で持ち上がった。 「これだけ上がったら十分じゃんか!」 籠の中で成功を喜ぶルオウ、と満足するテオドールがいた。 籠の性能は十分でも、4匹の甲龍が息を合わせて動くというのは別問題だ。併走に失敗すると互いにぶつかり、籠に衝撃を与えてしまうことになる。最悪の場合は落下に繋がるのだ。 「うゎっと!」 テオドールは揺れる籠の中で思わず籠に掴まり、じっと堪える。ルオウは揺られながらも景色を堪能していた。 「少し揺れてるな」 試運転を見上げる天忌は呟いた。 「そうですね。方向を変えるときによく揺れてます」 桐が天忌に続いて呟いた。 「やはりこうして飛ぶのは難しいものですね」 鉄尖に乗るマリーが難しい顔をして言った。 「同じ種類の龍でも曲がるときの速度の調整は難しいです」 意見しながらも着実にコツを掴み始めている持国に乗るメグレズだった。 そして順調に試運転を兼ねた練習を終えた。 その成果は十分なもので戦闘にでもならない限りほとんど揺れないというくらいに上達したのだった。2人を乗せて飛ぶときは空のいきたいように飛ぶため、アヤカシに遭遇しない空を飛ぶとは限らないのだ。それでも安全に飛行するのが今回の目標だった。 ●憧れの空へ 「‥‥それにしてもシケた願いだ。空なんざいくらでも行けるだろうによ‥‥。好きにしな。こっちゃ依頼を果たすだけだ」 と無関心を決め込む天忌はルオウに、 「話し相手はおまえに任せるわ。オレと話しておっかながらせても仕方ねえしな。何より‥‥辛気臭くなりそうで苦手だ。」 と言い駿龍の凶津緋のもとへ向かう。ルオウはわかったと頷いた。 「そうだ」 天忌は踵を返し、 「ただ‥‥病を治すとか言うのはやめとけ。きっと本人が一番良くわかってんだろうからよ。せめて楽しくさせてやんな」 凶津緋の方に向き直し、 「オレはこのシケた願いを叶えてやるだけだ。そんだけしか出来そうにねえからな」 と、言いながら凶津緋に飛び乗り先行して出発し、近くでみんなが出発するのを待った。 「空の上はこっちもよりも寒いし風も強いからの」 晃は布団を籠の中の2人に渡した。 「ありがとうございます」 空が礼。空と昇は布団に包まり、出発を待った。 「空だっけ?いい名前だよな!これから行く『空』ってどんな所だと思う?」 挨拶を終えたルオウは明るく空に話しかけた。 「そうね‥‥普段は窓から見る空しか知らないから、詳しくは分からないわ。強いて言えばとても広い世界ってことくらいかしら?」 空は笑みを見せて答えた。 「そんな感じだけど楽しみにしておけよ」 ルオウは微笑みそう言うと、炎龍のロートケーニッヒに乗り飛び立った。 炎龍か駿龍に乗る開拓者はこれで全員が飛んだことになる。 「早くした方がいいぞ。時間は待ってはくれねぇぞ」 シュヴァリエが少し急かした。もちろん飛行時間をできるだけ長く確保するための発言だ。 「では、そろそろ出発するぞ」 焔騎が号令をかけると歌月、黒焔、持国、鉄尖の4匹は試運転のときよりも丁寧にゆっくりと飛び立った。それは空への配慮があった結果だった。 そして空と昇を乗せた籠が浮かび上がった。2人には新鮮な感覚のようで喜びと不安がひしめき合っているような顔をしていた。 ●飛行 まず最初に空が頼んだ行き先は海だった。桐、焔騎、メグレズ、マリーの4人は海を目指して飛行した。その動きは本当に4匹が連結しているのか疑いたくなるほどの一体感だった。 「この先の気候は緩やかやから大丈夫やで」 熱かい悩む火種に乗って先を見に行っていた晃が戻ってきてそう継げた。 4匹の甲龍たちに併走する駿龍のシルヴィスだ。シルヴィスに乗るテオドールは、 「では1曲。失礼させて頂きます」 というとメローハープを取り出し、明るい曲調の曲を演奏し始めるのだった。 周囲の警戒に精を出すのはドミニオンに乗る黒い騎士シュヴァリエだ。そしてもう1人。 「先生、何か不審な点に気づいたら教えてくださいね」 と、駿龍の隠逸に乗る志郎だ。志郎は超越聴覚を使用し周囲を警戒するが、今聞こえてくるのはもう見え始めている海岸とテオドールの演奏や、コイツ乗るの苦手なんだけどな‥‥という天忌の小声などだ。 正面に大きな雲があった。その雲を見て、焔騎が、 「あの雲、斉藤のオッサンに似てないか?」 と、指差して言った。緊張をほぐすための言葉だったが、その雲をよく見ると、酒を呑む巨漢に見えなくもなかった。 「本当に似てるわね」 と空はくすくすと笑った。 「確かに似てるな」 昇は晃と雲を見比べながら笑っていた。 「な、なんや?あのわしに似とる雲のことか?」 晃は自覚していた。 焔騎も晃の発言を聞いて笑い始めた。 「面白い話してるな」 ルオウが混ざってきた。 「で、どうだ?空、すげえだろ?」 出発前の話をもう1度訊いた。 「そうね。想像以上だわ。本当にすごいわね。こんなすごいのを見たらもうすぐに死んじゃってもいいくらいだわ」 空が感動を口にした。 「比喩表現ならいいんだが、すぐに死なれるのは困るぞ」 と昇。 「もちろんよ。こんなところで死んだらもったいないじゃない。短くてもあと半日は死にたくないわ」 と空が返答。 「だから―――」 「嬢ちゃん、気休めかもしんねぇが聞いてくれや」 昇が言おうとした声は黒い騎士シュヴァリエの声でかき消された。 「俺の知り合いには不治の病を患った弟を持ってる奴がいるんだがな。 もう治らねぇと診断されたにも拘らず、そいつは弟を救う方法を必至になって探した。そして弟もそんな兄の為に必至になって生きようと努力をした。その結果、どうなったと思う?」 シュヴァリエは試すかのような口調で言った。 「私には分からないことだけど、話の流れとしては助かったのかしら?」 空は疑問を含んだ回答。 「そう、治ったのさ。信じられねぇかもしれねぇがな。生きたいと願う二人の願いが奇跡を起こしたのかもしれねぇ。つまりは未来ってのは誰かに決められるもんじゃねぇ。自分達の手で切り開いていくもんだって事さ。ま、そんだけだ。余計なお世話だったらすまねぇな」 シュヴァリエは言うだけのことを言うと警戒に戻っていった。 「渡すのが少々遅れましたが、空から風景と一緒にこれも楽しんでください」 桐は甘酒を渡そうとした。 「ありがとう。頂くわ」 空がそう答えると昇が立ち上がり、桐から甘酒を受け取った。 「それとさっきのシュヴァリエさんの話の治る奇跡もあると思いますよ。治らないと言われてやりたいことをやり遂げた時に治っていたっていう奇跡も耳にしますから。奇跡と言われるほどまれなことだとしても、です」 桐はシュヴァリエの話を後押しした。 「そうね。本当にこの病が治ることがあればいいわね」 空は目の前の景色を心に焼き付けるように真剣に見つめながら答えた。 「次の場所お願いしてもいいかしら?」 空がそう言うとマリーが、どこにいきますか?と返した。 「それじゃあちらの森の上をお願いします」 空が指差した先にあるものは、魔の森だった。 「次は森の上空です」 マリーはそう全員に告げた。 「森の方はアヤカシが飛んでいる可能性もあるので気をつけてください」 とメグレズが言った。そしてメグレズの甲龍、持国を軸に向き直った。 空気の読めない者たちが突如現れたのだ。 「げ‥‥これはマズイな」 先頭を進む天忌が状況を察したときにはすでに遅かった。 遠目から森に見えたそこは魔の森だった。まるで森の上空に得物を誘い込むような静けさで志郎の超越聴覚でも探知できなかったのだ。 周囲に現れるのはアヤカシだった。ただ下にすごい数が集まっているようで、前方からは数えるほどのアヤカシが向かってくるのが見えた。 「お呼びじゃねえんだよ。テメエもオレもな!喧嘩してえなら舞台裏でだ!」 閃光のように天忌はアヤカシに向かって飛び立った。 「邪魔すんじゃねえよ!」 とルオウも天忌に続いた。 「ここは危険なので先に戻っていてください」 志郎とシュヴァリエがそう告げると、2人は前方から現れたアヤカシへ向かっていった。 「邪魔するもんはずんばらりんやってな!」 晃は咆哮を上げながらアヤカシへ向かっていった。 テオドールもシルヴィスに全速力で飛ばして、武勇の曲や奴隷戦士の葛藤を奏でることで士気を向上させていた。演奏は戦局を操っているかのようなもので素晴らしいものだった。 「あの開拓者たちは逃げなくて大丈夫なのか?」 昇はそう不安そうに言った。 「だいじょうぶ。大アヤカシとだって戦った英雄だもん。あんなアヤカシに負ける訳がないのです!」 と、マリーは自信を持って継げた。大アヤカシ炎羅を倒したのも紛れもなく開拓者なのだから、自信を持って言えることなのだ。 「嬢ちゃん達んトコにゃ近づかせもさせねえ。何度も言わすな、それくらいしかオレにゃ出来ねえよ。気合入れるぜ、ルオウ!」 と天忌。おうとルオウは一言返すと雲上戦経験者の称号に相応しい空中戦を繰り広げた。ロートケーニッヒが間合いを詰めてすれ違う瞬間に両断剣が炸裂しアヤカシは原形を失っていった。 志郎は隠逸の素早さを利用し接近しアヤカシを珠刀「阿見」で斬りつけた。風魔閃光手裏剣で気を引いて、裏術・鉄血針で視力を奪っていた。 晃は咆哮で集めたアヤカシを大斧「塵風」で砕いていった。 「ったく空気が読めねぇよな。せっかくの空中散歩なんだ。邪魔すんじゃねぇよ。」 シュヴァリエはドミニオンと共に翻弄するように飛び回りファングで捉えキックで引き裂いていった。それに合わせてショートスピアによる突きが決まっていった。 アヤカシはそう強いものは居らず数分とかからずに圧倒することができた。 そして空と昇を連れる甲龍4匹に戦闘に出ていた開拓者は合流した。 焔騎はふと空に告げた。 「この空は、俺達と繋がっている。 生きて、君等だけが知る空を俺にも聞かせてくれ。 今日のこの空より、良い空を見つけよう。 俺達は生きている限り、二人の事を忘れないさ。 この空の下、行き続ける理由を探して、生きて行こう、出切る限り。 最後に、笑える様に」 と―――。 ●事後談 夕暮れ時に無事に出発した丘に戻ってきた。空の調子も非常によく家に送らなくてもいいということになった。 「今日は本当にありがとうございました」 と空と昇は開拓者にお礼を述べた。 「楽しめましたか?」 と訊く桐の姿や、 「空くらいいくらでもつれてってやるよ!だから友達になろうぜ!友達がいなくなるのはさびしいよ」 と親しみを深めようとするルオウの姿や、空と昇の二人を見ながら酒を飲みながら、 「人はいつかは死ぬという結末はかわらんからな。結局どう生きたかやろうが‥‥」 と呟いてから、 「次はグライダーに乗ってみたくないけ?」 と笑いながらよっていく晃の姿や、 「世の中にはきれいなものがたくさんあると心から思って、喜んでもらえてよかったです」 と言う志郎の姿や、 「ただ、今回 一つの目標を終えて、明日を見失って欲しくない、な。もうちょっと、頭が良ければ、な。これが精一杯かな、苦笑するしかないな。もっと上手いこと言えたらいいんだが」 と苦笑している焔騎の姿や、 「ねぇ知ってる?笑顔には万病を治す力があるんだって。空さんの笑顔とても可愛かったし、隣の笑顔も‥‥死ぬなんて思わず大切にして欲しいな、またやりたい事が見つかったら呼んでね」 と微笑むマリーの姿や、仕事は終わったぞと帰っていく開拓者の姿を横目に、 (「『生きてて良かった』治らねえ病ならせめてそう思って欲しい。けど、それこそオレの役目じゃねえ。男を見せろよ、小僧。」) と言わんばかりの天忌の背中があった。 そして、開拓者が去ったあと覚悟を決めた昇の姿があった‥‥ 「俺は空のことを―――――」 了 |