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■オープニング本文 五行の、三陣に近いとある辺境の地。 そこには、畑があり、たくさんの孤児を養う畑の主が住んでいた。 振難という名の農夫は、少ない収入ではあってもたくさんの子供に囲まれつつ毎日を過ごしていた。親の居ない子供達は振難を慕い、振難もまた子供達を慈しみ、お互いに支えあい、助け合っていたのだ。 が、ある日。 無理をして働きすぎたため、彼は過労で倒れてしまったのだ。そればかりでなく、病気にもかかってしまった。 毎月ぎりぎりの生活費で生活しているため、治療費など捻出できるわけもない。また、孤児の多くはまだ10歳にも満たない子供が十数人。とても手が回らない。 さらに悪いことに、借金の返済が近づいていた。ここしばらくは収入もままならなかったため、このままでは土地と家とが取られてしまう。 孤児たちの中で、一番の年長者である娘・氷井は、それでも父親と慕う振難を助けたいと色々金策を練るも、返済には程遠く。このまま、家を取られてしまうのか。そればかりは避けたい、けれど‥‥。 なんとかならないものか。彼女は三陣に店を構える、知り合いの商人に、助けを求めて向かっていった。 「助けてあげたいのはやまやまだけど、こちらも大変でねえ。またぞろアヤカシが現れて、商品を積んだ隊商が全滅してしまったんだよ。お金を捻出できる余裕は、今はちょっとね」 「そう、ですか‥‥」 ここもだめか。懇意にしている商店「魔燐屋」の女店主、志奈。彼女の心底すまなそうな顔を見て、氷井もまたがっかりした表情を浮かべた。 絶望と重苦しい雰囲気が、周囲に流れた。やがてその雰囲気を払拭せんと、志奈が口を開く。 「‥‥ねえ、氷井ちゃん。その‥‥こういう話をもちかけるのはどうかと思うんだけど‥‥」 「え?」 「あたしの知ってた爺さん‥‥去年亡くなったんだけどね、その息子四人の誰かが大金を手に入れて、どこかに隠したらしいのさ。それが、この三陣から遠くない場所だっていうんだけど」 そう言って、志奈は喋り始めた。 かつて三陣から離れた場所に、一(はじめ)一家という家族が住んでいた。表向きは農夫だが、盗賊まがいの事も家族ぐるみで行っており、近くを通る隊商や旅人に襲い掛かっては、通行料と称して金銭や持ち物の一部、或いは全てを巻き上げていた。 こうして小金を溜め込んでいた一一家だったが、ある時アヤカシの群れに襲われ、家長の臼田と、四人の息子達だけが生き残った。彼らは三陣に向かい逃走。その途中に立ち寄った山中に、貯めた金を隠した。 が、その四人の息子もそれぞれ病や事故などで急逝。臼田だけが生き残り、三陣で一人暮らしをするように。 素性を隠して暮らしていたが、知り合いになった志奈にだけは自分の過去を時々聞かせてくれていたのだ。 「で、一臼田の爺さんによると。山には洞窟が四つあって、そのどれかに隠したそうよ。息子たちの名前は、上から日甲、白甲、日田、白田。そして洞窟も、山頂近く、中腹、尾根、麓に四つあって、それぞれに息子たちの名前を付けてるのよ」 「では、その四つのどれかに?」 「ええ。で、爺さんが言うには『一番臆病な息子の名の洞窟に隠した』んだってさ」 では、誰が臆病なのか? 氷井が志奈にそれを聞くと、彼女は書付を差し出した。 『わしの息子のなかで、一番の臆病者は誰か。わしが訪ねた時のやり取りから当てて見せよ。 白田「臆病なのは誰かって? そんなの日田兄貴に決まってら」 日田「てめえ何を言ってやがる、日甲兄貴の方が臆病だろうが!」 白甲「俺っちは臆病じゃあねえよ! 臆病なのは、俺っち以外の誰かさ」 日甲「おいおい日田。俺様が臆病だって? それこそ嘘ってもんだ」 なお、息子達は一人だけが正直者だが、他は嘘ばかりつく』 さらに加えて、洞窟のある山には木々が生い茂り、アヤカシも徘徊しているとのこと。 洞窟全てを回るのは、正直すごく大変らしい。アヤカシがうろついているのみならず、洞窟間の距離が結構離れているからだ。 「でも、嘘じゃあないんですか? そんなお金が隠されているのなら、誰かが手に入れたんじゃ?」 「ああ、その点なら間違いはないよ。あたしはあの爺さんに恩があってね、死に掛けていたところを助けてやった事があったのさ。それからは爺さん、あたしにだけは嘘をつかなかった。死ぬ間際にも、多数の金銭が隠してあるのは事実だってあたしに教えてくれたんだ」 「この書付も?」 「ああ。『あんたには世話になった。以前に言った金をやるが、ただではやらん。この書付の謎々を解けるほど頭が良ければ、金はあんたのものだ』って言われてね」 「‥‥というわけです」 「色々と考えて、こうするのが良いと思ってね」 氷井と志奈が、ギルドの応接室にて依頼内容を話すのを、君達は聞いていた。 「あの爺さんが、あたしに対して誠実だった事はまちがいないです。で、振難の旦那にはあたしもかつて世話になったから、同じように助けたいんですが‥‥今は店が大変で、どうしてもお金を出せなくてね」 「それに、山に行って洞窟に向かったとしても、あのあたりにはアヤカシがいると聞いています。わたしたちでは、どうする事もできません。どうか皆さん、お知恵とお力を貸してはくれませんか?」 氷井と志奈は、君達の前に報酬を差し出した。 「これは、お小遣いを貯金していたものです。借金返済にも、治療費にも到底届かないけど。どうかこれで、お願いできないでしょうか」 「これも、あたしの個人的な持ち物をみんな質に出して作った金だ。少なくて恥ずかしいが‥‥どうか引き受けて欲しい」 二人はそう言いつつ、頭を下げた。 |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ
黒鷹(ib0243)
28歳・男・魔
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
クラリッサ・ヴェルト(ib7001)
13歳・女・陰 |
■リプレイ本文 その山は、さして大きくは無い。 が、ねじれた木々に毒々しい草の色、何より漂い出てくる瘴気と怖気を含んだ重苦しい空気が、得体の知れぬ恐怖、そして嫌悪を生じさせる。よほど豪胆な者でもなければ、こんな場所には近づこうとはしないだろう。 「ここが‥‥」 豪胆な六名の開拓者の一人、銀髪の美女にして魔術師、ジークリンデ(ib0258)が山を仰ぎ見る。氷蒼の宝石もかくやの美しき瞳が、山を見つめつぶやいた。 「この山のどこかに、臼田おじいさんが残した遺産があるのですね」 彼女は、厳しい眼差しで周囲を警戒していた。 「‥‥皆さん、注意してください。近くにアヤカシが居るみたいです!」 鳳珠(ib3369)、巫女の少女が警告する。彼女の瞳もまた青く、その奥には使命感に燃える炎が舞っているかのよう。そして、彼女は感じ取っていた。 アヤカシが接近している、という事を。 「あーっと、つまり‥‥どういう事だ?」 出発前の話し合い。サムライの嵐山 虎彦(ib0213)は何度めかの質問を行った。たくましい体躯の彼だが、頭を使ってあれこれ考えるのは苦手であった。 「俺も、こういうのは苦手でなあ。どうも良くワカラン」 鷲尾天斗(ia0371)、左目に眼帯をつけている志士の彼も、同じく悩み、眉間にしわを寄せている。 「論理の問題だよ。俺の他にも、ジークリンデさん、鳳珠さん、クラリッサ・ヴェルト(ib7001)さんも、全員同じ結論を出した。まず間違いはないだろうさ」 右目に眼帯をした黒鷹(ib0243)が、肩をすくめながらそれに答えた。 「もう一度説明するわよ?」と、クラリッサ。十二歳の少女のような外観の陰陽師は、熊のぬいぐるみを片手に、嵐山の前へ進み出た。 「なぞなぞは、『一人だけが正直で、あとは嘘をついている』。だからまず、息子全員を正直者と仮定して考えるわけ。白田は『臆病者は日田』。日田は『臆病者は日甲』。白甲は『臆病者は自分以外』。日甲は、『日田は嘘を付いている』。ここまではいい?」 「あ、ああ」 自信なさげに、嵐山は頷いた。 「この四つのうち、一人が正直、三人が嘘とした時‥‥」ジークリンデが、クラリッサに続き説明した。 「白田が正直な場合、白甲と日甲が嘘とするには無理があります。また、日田が正直な場合も、白甲と日甲を嘘とするのは無理です」 「白甲が正直な場合、白田、日田、日甲を嘘とするのも無理。でも、日甲が正直なら残りが嘘でも全員の話は通じますね。という事で‥‥」 最後に、鳳珠が結論を述べた。 「白甲の言った事‥‥『臆病なのは、俺っち以外の誰かさ』が嘘なので、一番臆病なのは白甲というわけです」 「ナンだって! そうだったのか!?」 大げさに驚いてみせる鷲尾に、嵐山は疑いの眼差しを向けつつ言った。 「‥‥よくわからんが、わかった。要は中腹の洞窟に行きゃあいいんだな? なら、とっとと行こうじゃあねえか!」 そして今。彼らは山へとたどり着き、登ろうとした矢先。 瘴索結界「念」により、鳳珠は感知した。すぐ近くに、アヤカシが存在する。そしてそれは、徐々に接近してくる。藪をかきわけ、そいつ‥‥否、そいつらが姿を現した。 出現したのは、巨大な鎧鬼。薄汚れた鎧を着込んだ三体の鬼たちだった。まだ遠くのためか、こちらには気づいていない。 いや、気がついたかのように、そいつらの一体がこちらを向いた。 「‥‥?」 そいつの視線の先には、何も見当たらない。それもそのはず、開拓者達はすぐに隠れたのだ。 鎧鬼は辺りを見回した。まだ納得がいかないのか、その場に立ち止まり離れようとしない。 「‥‥ちいっ」 鷲尾は、心の中で舌打ちした。隠れるのは性に合わないし、戦闘になっても勝てる自信はあるが、当初に話し合って決めた事‥‥基本的に戦闘を避けて行動するという作戦を無駄にするつもりはない。 そしてまたしばらく経つも、そいつだけはとどまり続けている。 限界を感じ、武器を持って飛び出そうと決意しかけた次の瞬間。 「‥‥アムルリープ」 黒鷹の唱えた呪文が、鎧鬼へと放たれた。呪文の効果はすぐに現れ、そいつは倒れ込み、いびきをかきはじめた。 幸い、先刻の二匹の鎧鬼が戻ってくる気配は無い。そいつが眠りこけている今のうちにと、開拓者達は山の中へと向かっていった。 「くっ、参ったなあ‥‥」 疲労が、クラリッサを苛んでいる。 山の中腹へと続く道を進んでいる途中、彼らは獣道が交わる場所にたどり着いた。そこで一休みしたあと、鳳珠は再び瘴索結界「念」をかけて、この先にアヤカシが存在しないか確認していた。 改めて、クラリッサは周囲に目を向けた。 「‥‥鳳珠さん、こっちの道には確実にアヤカシがいるの?」 「はい。こちらの道に沿って、アヤカシが九‥‥いえ、十体ほど居るのが感知できました。このまま進んでいったら、間違いなく遭遇します」 「それだけの数を相手にするのは、少し大変ですね」と、ジークリンデ。 「俺に任せろ! 全部倒してやる! ‥‥と言いたいところだが、派手に立ち回るのはまずいしなあ」嵐山もまた、悩みの表情を浮かべた。 「ま、しょーがない。ここは迂回するしかないだろうね。遠回りになるだろうが、確実にアヤカシがいるとわかってる道よりかはましだろ」黒鷹の言葉に、皆頷く事で同意した。 「しっかし、こうコソコソするのは本当に性にあわねェなァ。じれったくてかなわないぜ」心眼で周囲への警戒を怠ることなく、鷲尾がぶつぶつと呟いた。 そして、さらに時間が経過。 アヤカシを避け、瘴気漂う山中を歩き回り、六名の開拓者は目的地へと‥‥山の中腹にある洞窟、その目前へと到着した。 「ここが、白甲の洞窟か? 間違いないんだな?」嵐山が、訝しげに呟く。 「おそらくはね。で、ちょいとデカイ兄さん。偵察頼めるかい?」 「俺か? ああ、いいとも黒鷹。鷲尾、お前も来るか?」 「もちろん。いいかげんコソコソするのも飽きてきたんでね」 かくして、肉体派の二人‥‥嵐山と鷲尾は、それぞれの長槍‥‥『青鬼』『蜻蛉切』を構えて洞窟内へと入り込んでいった。洞窟の入り口はかなり大きく、内部もそれなりに広そうだ。鳳珠から松明を受け取り、それに火をつけて二人は中へと歩を進めた。 そして、数分後。 「アヤカシだ!」 二人の声が、洞窟内から響いてきた。 ジークリンデが放ったマシャエライト、火球を呼び出し周囲に明かりを灯す魔法により、洞窟内部に光が投げかけられる。先頭にジークリンデ、クラリッサが立ち、鳳珠に黒鷹と続く。 内部は広いが湿っぽく、ところどころの岩肌には水滴がつき、水溜りもできている。湿気とともに漂う、かび臭さと酸っぱい臭い、腐肉の悪臭もまた耐え難い。 そして、松明を手にした鷲尾と嵐山との背中も、すぐに見つかった。 「気をつけろ! 粘泥だ! それも、かなり手ごわそうだ!」 鷲尾が指し示した先には、洞窟の地面に広がる水溜り‥‥に見える、粘液の塊。 それが5m程度先に、洞窟の地面いっぱいに広がっているのだ。その周辺には食い残しらしい、動物の死体の残骸が散乱していた。 「心眼をかけてなきゃあ、ヤツを見逃すところだった。松明や呪文の光を嫌ってるのか、後ろに下がっているぜ」 「? 嵐山さん、どうしたんです?」 鳳珠が、巨漢のサムライの着衣がおかしいことに気づいた。何か、腐食したような痕跡がある。 「大した事じゃあない。ただ、やつに少しばかり近づきすぎただけだ‥‥。ただの粘泥かと思って不用意に近づいたら、酸の霧を浴びたみたいでな」 「‥‥仕方がありません、どうやら戦わなくてはならないみたいですね」 ジークリンデが、静かにつぶやくと‥‥厳しい目つきとなりて粘泥を見据え、進み出た。 そいつが光を恐れているのは明らかで、接近する様子は見せない。だが、洞窟の地面いっぱいに広がっており、避けて通るのは困難。それだけでなく、近づくだけで酸の霧を受けてしまうとの事。 ならば、方法は一つ。 「‥‥我が掌に集え、凍える精霊の力よ‥‥我が敵を撃つ、冷たき刃となれ‥‥」 彼女の身体を包む、巫女装束・千早「如月」。聖なる服の与えし力が、精霊魔法の力をつむぐ。 「‥‥吹雪よ、我が力となりここに顕現せよ‥‥汝、怒れる嵐のごとく! 『ブリザーストーム』!」 ジークリンデのかざした手より、強烈な吹雪が放たれた。それはのたうちまわる大蛇のように、湿った洞窟内の宙を切り、粘泥のいやらしくおぞましい水溜りへと直撃する。 反撃するかのように、粘泥は表面を波打たせ、身体の一部を延ばし鎌首をもたげたが‥‥それだけだった。 冷気の直撃を受けたそいつは、まるで沸きあがるかのように表面を痙攣させ、悪臭を何度も噴出させた。が、凍るとともにそれもおさまり、最後には凄まじい腐敗臭を放つ汚物の塊と化して動かなくなった。 「‥‥さあ、参りましょう」 醜き化け物を退治した美しき魔術師は、微笑みながら皆を促した。 「さてと、うまくいきそうだな」 黒鷹は荷車で金を運びつつ、仲間達へと言葉を掛けた。 粘泥は、強酸性の強力なものだったが、倒した後に同類が出てくる事はなかった。かくして洞窟の奥へと進むと‥‥そこで、探していた大金を発見した。用意していた数個の一輪の荷車に金を積めるだけ詰め込み、彼らは洞窟を後にした。 「宝石やら宝珠やら、値打ち物もかなりあったな。思った以上の金額にはなるんじゃないか?」 「このまま、何事も無く戻れるのなら、ですけどね」 黒鷹に続き、鳳珠が呟く。少なくとも、今まではアヤカシに遭遇してはいない。登山したときの道をそのまま下っているためか、むしろ順調すぎるくらいに順調に下山している。 やがて、開けた場所で一休みしようと立ち止まったその時。用心のために、鳳珠は瘴索結界「念」で、再三周辺へと警戒の念を強めていた。 「‥‥!? 皆さん、注意を!」 鳳珠が、警告の声を上げた。 「アヤカシか!?」 「はい! 動いています!」 先刻の十体のやつは、動かなかった。が、今回のそいつは移動している。 どこだ? どっちの方角から来る? 全員、背中合わせになり四方からの襲撃に警戒した。 「‥‥上だ!」 そいつらを見つけた嵐山が叫ぶ。そいつらは、空からやってきたのだ! それらは、人一人よりさらに一回り大きい。しかし、透明で不定形な身体であるため正確な大きさは把握しづらかった。 ふわりふわりと浮遊しつつ、そいつらから何かが放たれた。 「!?」 透明な糸状のものが、クラリッサに絡みつく。蝶が蜘蛛の糸に絡まれたかのように、クラリッサが地面に転がった。 そのアヤカシ‥‥風柳は、さらに糸を伸ばして開拓者達を絡めとろうと試みる! 「こっちだ! 来い!」 だが、嵐山がその場から駆け出した。咆哮した彼を追い、三匹の風柳が嵐山へと向かい漂い飛ぶ。 「はっ!」 すかさず、鷲尾が最初の風柳、クラリッサに絡みついた糸を槍の穂先で切断する。糸を切られた風柳は、鷲尾、そしてクラリッサへ攻撃の矛先を向けた。 「絡め! 『アイヴィーバインド』!」 が、そいつが地面に接近したところを見計らい、黒鷹が呪文を放った。地面より生えた蔦が、風柳を絡め取ったのだ。 「ブリザーストーム!」 すかさず、ジークリンデの冷気の呪文が炸裂する。 「斬撃符!」 それに加え、クラリッサもまた黒き刃を飛ばした。 「喰らいやがれっ! 雷鳴剣!」 凍りつき、切り苛まれたそいつに、鷲尾は電撃を帯びた槍で一閃した。 嵐山は、三体の風柳と対決していた。 「てめぇらに唱える念仏はねぇ。往生しやがれ!」 しかし、どんなに凄んだところで、風柳は嘲笑するかのようにふわふわと浮遊するのみ。 ふと、一体が嵐山の後方から近づき、糸を伸ばし絡みついた。 「くっ!」 すぐに槍で薙ぎ払うが、それと同時に前方から二匹が絡みつく。丈夫な糸に絡め取られ、動く自由が奪われつつあるのを彼は実感した。 「ちっ、畜生!」 さらに、身体から力が抜けていく。血液を吸い取られていると、感覚で理解した。 「斬撃符!」 クラリッサの符による攻撃が無ければ、そのまま吸血されて果てていただろう。黒い刃により糸が切断され、彼の自由が取り戻された。 「アークブラスト!」 「雷鳴剣!」 ジークリンデと鷲尾が、稲妻による攻撃をしかけるも、それらは空振りした。逆に風柳は、開拓者達へと糸を伸ばし、絡めとろうとする。 「呪縛符!」 だが、クラリッサが放った符が、黒き腕となりて低空の風柳をつなぎとめた。 「ありがたい! おらっ!」 嵐山が、そいつに槍を突き刺す。不定形の身体を貫く、おぞましい感触が槍の柄から伝わってきた。 追い討ちに、再び鷲尾が放った雷鳴剣が一匹目を退治した。残りは二匹。 そのうち片方が、空へと逃れようとする。それを見逃さず、クラリッサは再び呪縛符を放ち地面に釘付けに。 そして、残る一体はジークリンデの唱えたアークブラストの一撃が決まった。電撃の強烈な一撃を喰らい、そいつもまた昇天。 「アァ! ふざけてんじゃねぇぞゴラァ! 奇麗サッパリ浄化してやんよォォォ!!」 呪縛符で動けない風柳へ接近し、鷲尾は放った。‥‥零距離雷鳴剣、流し斬りと雷鳴剣とを合わせた技を。 アヤカシの断末魔を見届け、開拓者達は戦いが終わった事を実感した。 「本当に、ありがとうございました」 「これで借金も返せるし、施設の修理や当面の運営費もまかなえます」 志奈が礼を述べ、氷井が頭を下げる。 風柳をしとめた後、鳳珠の閃癒で回復した開拓者達は、それ以上の妨害を受ける事無く下山。そのまま依頼人の下へと向かったのだ。 「大丈夫か? 他になにかできることは?」嵐山が声をかける。が、氷井は感謝の笑みを浮かべつつ頭をふった。 「いいえ、これだけで十分です。皆さんがしていただいた事は、一生忘れません」 「‥‥ほら、こいつは返すよ」 黒鷹は、氷井へと最初にもらった報酬を返していた。 「そんな、困ります‥‥それでしたら、こちらからもらってください」 氷井はそう言うと、持ち帰った財宝の中から現金を取り出し、それを黒鷹へと差し出した。ちょうど、最初にもらった金額と同じだ。 「振難の旦那は言っていましたよ。『人には、受けた恩を必ず返しなさい』ってね」志奈が、黒鷹に言葉をかける。 「もしもこれも受け取れないっていうんなら、今後また依頼する時の、前払いと思っておくれよ」 志奈の言葉に、氷井もまた頷き、そして改まって開拓者達に頭を下げた。 「皆様、改めましてありがとうございました。また機会がありましたら、その時にはよろしくお願いします」 後日。振難の病状は回復し、借金も返済。 孤児を養う振難は、以前ほど無理をしなくても、孤児たちの養育が出来るようになったとの事。 そして、氷井をはじめとする子供達は、開拓者への感謝の言葉が絶えなかったという。 |