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■オープニング本文 石鏡、陽天。 その北側郊外に存在する、小さな塔の地下迷宮。洞窟を改造して作られたそれは、地上部分に小さな石塔が立てられ、入り口は地下に造られている。発見されたのは大分前の事。現在に至るまでに、内部はあらかた調べつくされ、今は無人となっている。 値打ちものは残されていない。あったとしても、すでに運びつくされていた。残されているものは、がらくたも含めてほとんどが値打ちのないもの。 やがて、この地下迷宮は忘れられ、時間が経っていった。 蒲生商店の傘下にある、小さな商店「根平屋」。 壊れた道具類、日用品だけでなく、武器や防具なども含め、壊れた品物を集めて修復し、格安で売り出すという「廃品修理・再生屋」である。 この根平屋の主人が、滑九取夫。蒲生商店の店主、蒲生譲二朗とは知り合いである。亡くなった滑九の父親と蒲生とは友人同士で、蒲生は父親を亡くした滑九を引き取り、商人として育てていた。 そして数年後。滑九は蒲生の口添えもあって、独立する事になった。 独立するに当たり、どんな商店にするか。内容は、先代の根平屋と同様に「廃品修理・再生屋」を行う事となったが、どこでその店を開くべきか。それが問題だった。 蒲生が店舗を用意しようかと提案するが、滑九はそれを断った。 「これ以上、蒲生さんに頼るわけにはいきません。そうでないと、死んだ親父に顔向けできない」 かくして、根平屋を再び開くための場所を探し、あちこちを飛び回り。 発見した。 それが、かの石塔の地下迷宮。 場所的に、陽天の近く。そしてさほど離れていない場所には小さくは無い村があり、そこには商店街がある。農業や工業もそれなりに盛んで、農具・工具、そして日用品の需要がある事が認められた。修理や安売りの店があれば、客が来る見込みはある。 村にも店はあるが、陽天に比べれば品物が少ない。そして、陽天までは遠くはないが、近いわけでもない。馬で1〜2時間かかるのだ。 その石塔までなら、徒歩で30分程度。あそこを店舗にすれば、村の人たちが客になってくれるだろう。 餞別代りに、滑九は蒲生より売れ残りや不良品の在庫商品を引き取り‥‥かの石塔へと運び入れた。 地下迷宮を、在庫の倉庫に用い、地上の石塔には店舗と事務所を据え付け、最後に看板を。 事前に雇っていた店員数名とともに、新たな「根平屋」がここに生まれたのだ。 商売は順調に進んでいた。いや、順調すぎるほどだった。 狙い通りに村の人間たちが客として訪ね、徐々に収入が増えて行った。それだけでなく、村の商店からも道具や商品の修復を依頼されるほどに。 次第に、修理待ちの道具の数も多くなり、それらは地下迷宮の空いた場所を利用して置かれる事に。 「旦那様、危険じゃないですかね?」 「大丈夫だ。ここを見つけた時に、中に危険が無いかくらいはちゃんと確認している。それに、ここには以前、人間の盗賊たちが根城に使っていたらしい。つまりは、アヤカシはその時から居ないって事だ」 地下迷宮を怖がる店員へと、滑九はそう言っていた。実際、迷宮は途中まで進むと、広い部屋に出て、行き止まりになっているのだ。隠し扉も見当たらず、どこかに通じている気配も様子もない。ゆえに、滑九は安心してここを使っていた。 だが、ある日。 滑九が、行方不明になったのだ。 「ええ。この事を聞いて、わたしも驚きました」 ギルドの応接室にて、蒲生が事の次第を説明する。 「なんでも、夜遅くに在庫の廃品を取りに向かって、それきり地上の店舗に戻ってきてないとの事で。それを聞いて地下迷宮の倉庫へと行きましたら‥‥あの行き止まりの部屋に、見慣れない穴があったんですよ」 光がまったく届かないため、内部には松明で明りを取る。そこで、店の人間は松明を掲げ‥‥驚いた。 部屋の壁の一角が崩れ、穴が開いていたのだ。そこから、在庫品の入った箱がいくつか、さらなる地下の未知空間の中へと転がり落ちていた。 「その穴から松明を掲げてみましたが、光は奥まで届きませんでした。そこで、若い者たちに綱を渡して、そこから地下に下って行ったのですが‥‥」 地下に降りてみると、そこは洞窟の一部。東西に続く長い洞窟の中間部らしく、それぞれ松明の光が届かないくらいまっすぐ長く伸びていた。 耳を澄ますと、どこからかかすかに水の流れる音が聞こえてくる。また、周囲もどこか湿っぽい。 足元には、在庫品を入れた木箱がいくつか転がっていた。箱は一部が壊れ、中身が散乱している。湿っているためか、苔むした匂い、黴臭い匂いもまた漂ってくる。 ふと、東側から音が聞こえてきた。それは何やら、足音のような、動物の鳴き声のような、不穏な何か。が、かすかに獣臭と‥‥危険な雰囲気とが込められた匂い。それらが接近してくるのが感じられた、というのだ。 かさかさと、足音めいたなにか。そして‥‥。 「!」 いきなり響いた、強烈な動物の鳴き声。 それとともに、地下に降りた若者は詳しく見聞することなく、叫んだ。 「引き上げてくれ! 何かがいる!」 「‥‥と、このような事がありまして」 蒲生が、説明を終えた。 引き上げられた若者は、その直前に「気配を感じた」と言う。なんでも、数多くの動く何かの気配、それらが接近してくる気配を、強烈に感じ取ったと。 「皆様にお願いしたいのは、洞窟に降りて行って、滑九を助け出してもらいたいのです。おそらく、いきなり壁が崩れて地下の洞窟に落ちてしまい、何かに追われて洞窟の奥へと逃げたのでしょう。その『何か』がアヤカシであろう事は想像できますが、どんなアヤカシかはわかりません。皆様のお力で、洞窟に降りてアヤカシをやり過ごしつつ、滑九を探し出してください。せめて、生死だけでも確認したいのです。もし依頼を引き受けていただけるなら、どうか急いでください」 |
■参加者一覧
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
狸寝入りの平五郎(ib6026)
42歳・男・志 |
■リプレイ本文 「ん〜♪ 遺跡を店にたぁ面白ぇ♪ なんも無ぇかと思いきや、実はあったか大変だ♪ ついでにお宝怪物も‥‥っと、後者はいらねえ必要ねえ‥‥ってなとこだなアミーゴ?」 「は、はぁ‥‥」 蒲生商店の、会議室にて。蒲生譲二朗は面食らっていた。 客商売をしている立場から、変わった客を相手に商売をする事は何度もある。開拓者に対しても、今までいろいろと依頼を出し、何人かは顔見知りにもなった。 が、目前のやたらと喋る陰陽師と対峙して、蒲生は痛感していた。自分の経験など、まだまだだと。 「おっとっと、不安や心配、ノーサンキュー! こうは見えてもこの俺は、腕は立ちます役立ちます、安心安全保障付き! っても保証書無くして大変サ! ‥‥おいおいどーした、俺のナイストークに感心して声もナッシングってか?」 「は、はぁ‥‥」 喪越(ia1670)に、蒲生は圧倒されていた。 「‥‥とりあえず、話を先に進めて構わねえか?」 喪越と対照的に、落ち着いた声の男が声をかけた。その眼は開いているのか閉じているのか、眠っているのか起きているのかすらはっきりしない。 彼は志士、その名は狸寝入りの平五郎(ib6026)。二つ名が示すように、まるで狸根入りしているかのような眼差しだが、身体全体からは落ち着いた雰囲気と、貫録とが醸し出されている。 「でも、その前に‥‥蒲生さん、お久しぶり! またよろしくね」 リィムナ・ピサレット(ib5201)の元気かつさわやかな声を聞き、蒲生は安堵した。彼女は以前に何度か自分からの依頼を受け、見事に解決してくれている。 「ええ、その節はお世話になりました。またよろしくお願いします」 知り合いであり、なおかつ信用のおける人物に再会できた。それだけでも蒲生は嬉しく思い、そして心強く思うのだった。 「さて、それじゃあ始めましょう。仕事の話を、ね」 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)、赤毛の美少女、美しき陰陽師の少女が促す。 「わかりました、リーゼロッテ様。では‥‥こちらへ」 そう言って蒲生は、皆を案内した。 洞窟から感じるのは、澱みという名の不安。 今は、動くものの気配はない。アヤカシどころか、暗闇に生きる動物の兆候もない。当然、滑九の気配も。 そして、四人は縄で洞窟内部に降り立っていたのだ。事件があった時から、ずっとそのままになっているのか。箱が散乱している。 「自然にできたもの、かしら」リーゼロッテがつぶやいた。 「‥‥奥に行くに従い、結構広くなってるみたいだね、それに‥‥」リィムナが、手にしたカンテラをかざして光を当てる。が、その光は洞窟の奥までは届いていなかった。 「‥‥それに、ずいぶん奥がありそう」 「ま、洞窟の途中で、刀を振り回すだけの広さはあるってこったな」と、平五郎。彼の言うとおり、洞窟には高さと幅がそれなりにあり、武器を用いる状況になっても引っかかる事はなさそうだ。 「皆様、どうかご無理はなさらず。ここに縄梯子を下ろし待機しておりますので、何かあったらすぐにお戻りください」 「ん〜、ちっとばかし湿気ってやがんな。んなとこに煎餅しまいこんだら、可及的速やかにマズくなる事請け合いってーなくらいにジメっとしてやがんぜ」 喪越の言うとおり、どこか湿度が高いような気がする。リィムナも、肌に伝わってくるひんやりした空気の中に、わずかに水っぽさを感じ取り‥‥ちょっとばかり不安を覚えた。 「水」がある、という事は‥‥どこかに、「水源」がある、ということ? それが「外」につながっているか、あるいは、「内」に貯まっているものなのか。どちらにしろ、「湿気」が漂ってくるのは「西側」から。 そして、不穏な音が聞こえてきたのは、「東側」。 一行は決めていた。まず向かうのは、「何かが居る」方向。そこで‥‥先に「何か」を叩く、と。 「ん〜、洞窟なだけに、what do you? ユーたち『どー』ゆー『くつ』履きゃよかったっけ? っても草鞋の俺には関係ないサ! ってなー」 喪越の冗談が、そろそろ鼻につきはじめ、平五郎はため息をついた。腕は立ちそうだし悪いやつではなさそうだが、正直近くにいると疲れを感じる事もしばし。 とはいえ、先刻から気配も音すらもない。正直、拍子抜け。退屈すら覚えてしまう。 読み違いか‥‥。そういう考えが浮かんだ矢先。 「しっ!」 リーゼロッテが、制するように手を挙げた。 「リーゼロッテさん? 何か、感じました?」 「‥‥いるわ、前方に‥‥かなりたくさん何かがいる」 リーゼロッテがかけていた瘴索結界に、何かが引っかかったらしい。まちがいなく、滑九をどうにかした「何か」‥‥聞こえた鳴き声の原因たる「何か」に違いない。 全員が、戦闘準備に心を切り替えた。 「へへっ、暗闇の中でダンスパーティとでも思えば、少しは心躍るってなもんだZE!」 闇の中に潜む危険をあざ笑うかのように、喪越がつぶやいた。 カンテラの明かりとともに踏み出したのは、大きく広がった空間。そこには、苔むした岩があちこちに転がり、奥の方から何かがうごめくような気配があった。じめじめした空気は、先刻同様に漂っている。 「数は‥‥この空間、あちこちに広がっているわ。注意して!」 リーゼロッテに言われるまでもない。タワーシールドと小太刀「霞」とを手にした平五郎は、「気配」に対して身構えた。 カンテラを手にしたリィムナは、短剣‥‥アゾットを片手に握りしめる。武器としては頼りないが、魔術師である彼女の武器は呪文。それを用いる用意はとうにできている。 リーゼロッテもまた、アゾットを携えているが、彼女もまた陰陽師。呪文を用いてアヤカシを倒すつもりだろう。 お調子者の喪越は、陰陽槍「瘴鬼」を手にしている。漆に染まる柄と、根元に黒い宝珠が付く穂先。刃の不気味な輝きが、かえって頼もしい。 さて、どんなアヤカシが来るか。暗闇を見通そうかとするように、鋭き視線を洞窟内の空間へと向けた。 一歩、踏み出す。それとともに、いきなり大きな鳴き声が。 声の主は、すぐ近くの苔むした小岩。だが岩は、動き、しなり、飛び上がった。 「!」 全員が、それにくぎ付けになった。それは苔むした岩が、四足を伸ばして歩き出した姿に他ならない。否、その後部からは尾が伸び、前部には獣の頭部があった。鋭き歯を持つ鼠の頭部が。 それが一つだけでなく、二つ、三つと動き始める。そして、その苔むした鼠に呼ばれたかのように、暗闇の奥からさらなる鼠、漆黒の身体を持つ鼠の群れが出現し、迫りつつあったのだ。 漂う獣臭と、悪意あるチュウチュウという鳴き声。そいつらは開拓者へと鼻先を向け‥‥襲い掛かってきた! 単なる鼠といえど、それらは数が多かった。人間がたった四人しか居ないのでは、たかられて食い殺されるのは容易な事。ましてや、その鼠どもはアヤカシ。並の人間ならば、すぐにでもずたずたに食いちぎられるだろう。 だが、彼らは開拓者。不可能を可能にして、手ごわき敵を倒し、困難に打ち勝つ者たち。 「『ブリザーストーム』!」 青い閃光が、リィムナより放たれた。吹雪が、迫りくる鼠へ直撃する。闇の中で、黒いアヤカシ鼠‥‥人喰い鼠と、苔の暗緑色に包まれた苔鼠。それらが冷気の白に染まり、引導を渡された。 が、生き残りが周囲の岩陰や、さらなる洞窟の奥から這い出てくると、復讐とばかりに迫ってくる。 「ふん、残りはわずかだな。鼠退治といくか」 つぶやきつつ、平五郎は両手の武具を振り回した。剣が鼠を切り捨て、楯が鼠を弾き飛ばし叩き潰す。 「ほらよっと! 鼠の串刺しいっちょあがり! 満員御礼大サービス! 御代はいらねえとっとけYO!」 喪越の槍も、鼠どもを薙ぎ払い、突き刺し、叩き潰す。洞窟内部にしばし斬撃音が響き、‥‥数刻後、鼠は一掃された。 「やーれやれ、東の後は、西に向かうぜニンニキニキニキニンニンニン‥‥ってか♪」 喪越の声が、改めて洞窟内に響く。 鼠を一掃したのち、先に進んだ開拓者たちは‥‥引き返すべきだと判断した。行き止まりになっていたのだ。そのため彼らは、来た道を引き返し、今度は西へと向かっていった。 考えてみれば、滑九は明りを持っていないのだ。いや、あったとしても、その他の装備を整えているわけではないだろう。 「‥‥急がなきゃ」 その事に気づいたリィムナは、焦りを覚えた。焦りは禁物とは承知だが、それでも焦りを覚えずにはいられない。東側に向かい、アヤカシの鼠を倒したのは良いが‥‥その分時間を食ってしまった事も事実。 「‥‥そうね、急がないと」 リィムナの考えに気づいたのか、リーゼロッテがその言葉にうなずいた。彼女も先刻から、瘴索結界を何度かかけつつ、瘴気回復で減らした練力を回復しつつ、先へと進んでいた。 「‥‥? おい、気づいているか?」 ふと、平五郎が闇の中。前方を指差した。 「え‥‥? ええ、見えたわ」 カンテラの明かりと異なる、うっすらとした光。それが遥か前方に見えてきたのだ。 洞窟が導いた西の果てには、大きな空間が広がっていた。うっすらと光る苔があちこちに生えて、ほのかな明かりを投げかけている。その明かりが照らし出しているのは、水をたたえた巨大な池‥‥いや、地底湖。闇の中とはいえ、微弱な光を受けた湖の水面は‥‥美しかった。 「‥‥注意して、アヤカシの存在を感知したわ」 リーゼロッテの瘴索結界。それに反応があったという。水の中にいるらしい。 「‥‥ん? おい、あれを見ろ」 湖の、向こう岸。 そこに、何者かの姿があった。横たわり動かない。 「滑九‥‥さん? 滑九さんだねっ!?」 リィムナが思わず大声を上げる。確かめる方法は、ただ一つ。 皆は、駆けだした。 向こう岸に向かうには、地底湖の岸を歩いていくにはあまりに距離があった。が、幸いに岩の一つが、壊れた橋のように向こう岸の途中まで伸びている。 そして向こう岸からも、同じように岩が伸びていた。 飛び越えるには、少々距離がある。 「‥‥『ストーンウォール』!」 リィムナの呪文が石の壁を作り出し、四人掛かりで苦労して倒し即席の橋とした。それを進み‥‥開拓者たちは、たどり着いた。探すべき、連れ帰るべき人間の元へと。 「‥‥あんたらは?」 リーゼロッテの閃癒が、尽きかけていた滑九の体力と生命とを回復させた。ひどく衰弱していたが、どうやら大丈夫のようだ。 「私たちは、蒲生さんに頼まれて助けに来たんですよ。もう大丈夫ですからね」 リィムナの言葉に、疲れ切った様子で彼は微笑んだ。 「‥‥寒いし、腹も減った。ここから抜け出せたら、みんなに温かいものでもおごりますよ」 「おっ、いいねえ。それじゃあHOTになる酒をぐーっといきたいところだZE!」 「そうだな。そいつを聞くと俺たちも早く帰りたくなったぜ。それじゃあ、早いところ‥‥」 そこまで言うと、彼は武器を構えて立ち上がった。 「‥‥みんな、アヤカシよ!」 リーゼッロッテもまた、叫ぶようにして言い放つ。瘴索結界が彼女に教えたのだ、アヤカシの接近を。 銀色に輝く、地底湖の水面。それはまるで、巨大な銀の皿。 が、銀皿の表面に、美しさを乱す者が現れた。丸太のようにも、流木のようにも見える何かが、浮上してくる。それは、太く短い四肢と、巨大な顎に長い尻尾を持つもの。ざらざらとした鱗が、カンテラの光に照らし出される。 まぎれもなく、それは鰐だった。それが二匹、三匹と、水中から姿を現してくる。うち一匹が陸上へ這い上ると‥‥開拓者たちへ向かって突進してきた。 巨大な口を開き迫りくる異様な姿は、腕利きの開拓者とて、動きを止めるほどに不気味かつ恐ろしげ。 が、平五郎が動きを止めたのはほんのわずか、一秒に満たないほどのわずかな時間。 防盾術‥‥盾を効果的に用い、顎のかみつきを弾き飛ばしたのだ。すかさず、刀で切りつける。 そいつの鼻先をえぐるようにして、刃傷をつける。痛みにうめくように、アヤカシ鰐は唸り声をあげた。 反撃せんととびかかろうとした、次の瞬間。 「おおっと、動くなdon’t move! ハンドバッグにしてやるからYO!」 鰐の脇腹へと、喪越の槍が突き出されたのだ。穂先が深く突き刺さり、肉を切り裂く感触が喪越の手に伝わってくる。 「こいつはおまけだ、とっときなっ!『斬撃符』!」 さらなる一撃を食らった鰐は、再び湖へと滑り落ち、霧散しつつ沈んでいった。 「へっへっへ、革製品いっちょあがり。御代はだれか払ってくれよ、ギブミーマネープリーズ!」 仕留めた事に得意げになる喪越だが、さらなる鰐が岸から上がってくるのを見て表情を変えた。 平五郎も、同じく顔をしかめる。 「‥‥潮時だな。おい、滑九さんよ。歩けるか?」 「ああ、大丈夫だ。行こう!」 先刻、ストーンウォールでかけた橋を通り‥‥開拓者たちは逃げを打つ。 それを追い、鰐どもも橋を渡って獲物を逃がさんと迫りくる。 「貫け、電撃よ! 『アークブラスト』!」 橋をかけた本人が、橋へと雷の呪文を放つ。閃光とともにほとばしった電撃が、アヤカシ鰐へと直撃した。 狂い悶え、二体目のアヤカシもまた霧散する。 あとは、洞窟へと逃げ込むだけだ。が、湖からさらに数匹、鰐が岸から上陸した。思った以上に動きが素早く、一戦交えぬことには追い付かれそうだ。 「あーっもう、しつっこい!『ブリザーストーム』!」 が、リィムナがそいつらへと呪文を放つ。吹雪が数匹の鰐を凍えさせ、凍らせ、そして痛手を食らわした。そして、鰐どもの追撃をわずかな時間、食い止めた。 「みんな逃げ込んだ! お前さんも早く!」 平五郎が伸ばした手を握り、引っ張り上げてもらう。そのまま彼女たちは‥‥逃走した。 鰐はさらに追おうとしたものの、それ以上の追撃は不可能だった。リィムナが去り際に唱えた『ストーンウォール』により、生じた壁が洞窟をふさいだのだ。 「蒲生さん、ご心配をおかけしました」 「いや、何事も無くて幸いだった。よく戻ってきてくれたな」 脱出後、洞窟の入り口で待っていた蒲生に出会い滑九は感謝の言葉をかけた。 「この部屋は、ふさがなくてはなりませんね。それにしてもみなさん。本当に、感謝の言葉もありません。ありがとうございました」 滑九が礼を述べ、蒲生もともに頭を下げる。 「しかし、たった一つ心残りがあったなあ。宝物がまったく全然ナッシングとはな」 「ま、いいじゃないの。依頼人は無事に助け出せたんだし」 「うんっ、蒲生さん。機会があったら、また呼んで下さいね!」 「ま、終わりよければ全てよし、ってな」 それぞれのやり方で、それに返答する開拓者。が、皆の顔には依頼をやり遂げた充実感に満ちていた。 その後。洞窟への穴をふさぎ、その部屋は開かずの間として封じられた。 そして、店の方は再び繁盛し、滑九は商売に邁進したという。 |