おそろしき邪村:弐話
マスター名:塩田多弾砲
シナリオ形態: シリーズ
EX
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/11 23:46



■オープニング本文

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 人形商店「濁屋」。
 その隊商が、戻る途中でとある村に迷い込み、一人を残し村人により掠殺された事件があった。
 そこは、村人全員が外から来た者に襲い掛かるという、おそろしき場所。そして当然、隊商が仕入れた商品も、全てが奪い取られた。
 濁屋は、何が起こったのかを調べに赴いた。濁屋主人・偽瑠の養女、亜貴。彼女の護衛という名目で開拓者を雇い、村へと向かったのだ。
 村の全容は、霞がかかり見えなかった。が、村の住民は全員がアヤカシ。そして、村中央の屋敷にはただ一人‥‥どこかからさらわれてきたらしい、少女が一人いた事が確認された。
 彼女‥‥木葉は拉致されただけでなく、屋敷内の何者か‥‥おそらくは、村の支配者‥‥に人質を取られ、逃げられなくされているらしい。そしてそのうえで、奉仕を強制させられているのだと。
 開拓者たちと亜貴は、それを知った時に周囲をアヤカシに囲まれ‥‥かろうじて逃げ延びた。
 
 ギルドに、再び濁屋の主人・偽瑠と、その養女・亜貴が赴いていた。
 そして偽瑠は‥‥依頼内容を口にし始めた。

 偽瑠は以前より、広い交友関係を有していた。それは今でも変わらない。
 今回の事件に関しても、最初に開拓者が戻ってきた直後。開拓者たちから聞いた話を聞いて、得体のしれないその「村」が何なのかを、独自に調査をしていたのだ。
 その結果、判明したことがいくつか。
 一つ。数年前までは、その村は廃村だった。が、いつしかそこの周辺で行方不明の旅人が増え、その頃から「村」に何者かが住んでいると噂が立ち始めた。
 二つ。では、その「村に住む何者か」とは何か? それが、はっきりとしない。
 偽瑠は現地調査を依頼した密偵からの情報で、盗賊や山賊、逃亡した犯罪者なども、この村にかくまわれた事があった事をつきとめた。が、彼らのうち戻ってこれたのはわずか。しかもそのわずかな連中も、皆が皆、逃げた時の傷が原因で死ぬか、恐ろしさで死ぬかという末路。
 唯一、森より離れた場所にある、小さな町へと逃げてきた若い山賊がいたが。彼は今、牢屋の中で震えながら過ごしているという。
「そやつは、赤尾という名でしてな。とある山賊団の頭でした。で、若さゆえの無茶な略奪を繰り返していたのですが‥‥」

 その山賊団は、勢いだけはあるが統率がとれておらず、武装した警邏隊に追われ、逃げ込んだのが件の村。
 赤尾が言うには、村の住民は歓迎するでもなく、恐れるでもなく‥‥ほとんど無関心だったという。
 唯一、村中央の屋敷の主人らしき者は、ちゃんと受け答えしたと。
 なんでも、怪我だか病気だかで人前に出られない身体だとかで。暗がりの部屋の中、布団から半身を起こして会話をしたという。顔かたちは良く見えなかったが、かなりたくましい男性のようだった、と。
「山賊どもは、勝手に上がりこんだものの、屋敷の主人は歓迎したそうで。『この村には客がいない。飲み食いくらいしかもてなせないが、ゆっくりしていってくれ。欲しいものがあったら、持って行ってもかまわない』と言われ、赤尾たちはそれを受ける事にしたそうです」
 自分たちが怖いものだから、酒と食べ物で機嫌を取ろうとしているのだろう‥‥。赤尾たちは、その時にはそう考えていた。
 先刻の下働きの娘が、びくびくしつつ一人で酒や肴を運び、晩酌の相手をしてくれていた。
 しばらくは飲み食いを楽しんでいたが、やがて飽きた手下たち三人が、下働きの娘に手を出しはじめた。次第に彼らは、いやがる彼女を無理やり奥の部屋へと連れて行ってしまったのだ。
 にやにやしながら、赤尾はそれを見送った。そして、数刻後。
 悲鳴が、聞こえてきた。それも、手下たちの悲鳴が。
 不審に思った赤尾は、奥へと向かいかけたが、乱れた着衣の下働きの娘が飛び出してくると『助けて!』と叫びつつ、別の部屋の奥へ。
 彼女が消えると同時に、周囲の戸が一斉に開き、そこには‥‥。
 幽鬼めいた、村人たちの姿があった。

「山賊どもは、もちろん応戦したそうです。が、どんなに武器をふるって痛手を与えても、村人たちは堪える様子は無かったとの事です。赤尾もまた、刀を振るって切り付けたものの‥‥とうてい、刃向える相手では無かったと」
 その後。手下たちの何人かは、生きたまま村人たちに引き裂かれ‥‥赤尾だけが何とか手下を犠牲にして逃げ出す事に成功した。体中あちこちを、食いちぎられはしたが。
 だが、村を囲う塀を乗り越えるその時。
 大挙する村人たちに、すぐ近くまで迫られてしまった。
 しかも、その先頭にいたのは‥‥。
 村人たちの同類と化した、三人の手下。下働きの娘を手籠めにしようとした、あの手下たちだったのだ。

「‥‥そやつらに齧られはしましたが、ともかく赤尾は逃げました。そして‥‥森の周辺を巡回していた、近くの町の警邏隊に保護されたというわけです」
 偽瑠が語り終え、亜貴が続けた。
「その山賊団の話は、半年ほど前の事。話に出てきた下働きの娘ってのは、おそらく木葉さんでしょう。……かわいそうに、きっとそれ以前から、ずっと囚われの身になって、怖い思いをしているに違いないわ。……甚六さんを殺しただけでなく、罪のない女の子を拉致して、恐怖で縛る奴隷にしているなんて‥‥絶対に許せない!」
 義憤にかられつつ、亜貴は言った。
「わしは今、その村の周辺の警邏隊に声をかけて、村そのものを焼き払い、このアヤカシを退治する計画を立てています。最初は、営業活動の一環‥‥というつもりで始めたのですが、話を聞いててさすがにわしも腹が立ちました。その主人とやらはまるで‥‥昔のわしのように思えてならんのです」
 亜貴に続き、偽瑠もまた言葉を放つ。
「ですが、その掃討作戦の前に。その木葉という娘さんと、囚われているだろう木葉さんの人質を助けなきゃならんでしょう。そこで皆さんには、木葉さんと木葉さんの人質を助けてほしいのです」
「この依頼、私も同行させてください」と、亜貴。
「人の心をもてあそぶ悪鬼外道‥‥こいつが滅するところをこの目で確かめない事には、死んだ甚六さんも浮かばれません! みなさん、お願いします。力を貸してください!」


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
華角 牡丹(ib8144
19歳・女・ジ


■リプレイ本文

「失礼‥‥自己紹介してもよろしんす?」
 おっとりとした口調で亜貴の前に進み出たのは、一人の花魁。
「わっちは、華角 牡丹(ib8144)と申しんす。今回より、参加させてもらう事になりんした。よろしくお願いしんす」
「あ‥‥ええ、よろしくお願いしますね」
 他の参加者五名は、前回と同じ面々。
「‥‥亜貴さん、作戦の確認、良いかナ?」
 もふら面の秦拳士、梢・飛鈴(ia0034)。
「恐怖村に向かったら、陽動班と救助班に分かれます。で、陽動班は暴れて、村人たちと、屋敷の主の目を引きます」
 シノビの少女、ペケ(ia5365)。
「その隙に、救助班が木葉さんや人質を救助。合図を陽動班に送り、退却します。今回は、木葉さんや人質の救助が優先で、敵アヤカシの殲滅は二の次という事で、よろしいですね?」
 赤き髪の志士。ルエラ・ファールバルト(ia9645)。
「救助班は、ルエラさんと華角さん、私です」
 優しき瞳の巫女、鳳珠(ib3369)。
「陽動班は、梢とペケ、でもってこの俺、不破 颯(ib0495)だね〜。亜貴さんには、陽動班に回って頂きます〜」
「私も、陽動ですか?」
「木葉さんを助けたいのはわかりますが、さすがに護衛しつつ潜入‥‥ってのは、厳しいんで。どうかご勘弁を」
「わかりました、皆さんに従います。それに‥‥」
 亜貴は、腰の刀の柄を撫でつつ言った。
「それに今回‥‥わたしも久々に刀を振いたくて仕方のなかったところです」

「ふぅん‥‥あれが恐怖村でありんすか。いかにも、といった雰囲気でありんすなあ」
「ふむ〜、周囲から『鏡弦』で調査したが‥‥いやあ、かなりの数だね〜。少しばかり、骨が折れそうだ」
 不破の言葉を受け、鳳珠も術をかける。
「‥‥こちらも、瘴索結界で確認しました。内部にアヤカシらしい濃い瘴気が、それもかなりたくさん感じられます‥‥あら?」
「どうかしたカ?」
 梢の問いに、鳳珠はかぶりを振った。
「いえ、何でもありません。ただアヤカシの一つが、妙に素早く動いていたように感じられたので‥‥」
 その気配は、すぐに消えてなくなった。まるで、何かの中に紛れ込んだかのように。
「‥‥それじゃあ、皆さん。打ち合わせ通り行きましょう」
 生じた違和感を無理にひっこめ、鳳珠は皆へと言った。
 この違和感が、悪い方向に向かわなければ良いんですが‥‥。そう思いながら。

 村の内部に入り込んだ陽動班。
 屋敷の前にて救助班と別れると‥‥まるで申し合わせたかのように、周囲の家屋からアヤカシどもが出現した。
「バーストアロー!」
 が、そいつらの数体‥‥否、十数体は出現と同時に、引導を渡された。不破の鳴弦の弓より放たれたバーストアローが、まるで邪悪な炎を消し飛ばすかのように、そいつらを薙ぎ払ったのだ。
「次、行かせてもらウ」
 先陣を切るは、もふら面の秦拳士。
 目を引くは、身にまとった布鎧「朱雀尾」の刺繍。
 アヤカシはその刺繍めがけ、唸り声をあげつつ掴みかかってくる。
「丁重なお出迎えに、感謝スル」
 その礼とばかりに、脚絆「瞬風」を装着した両足が、風のごとく、烈風もかくやとばかりにアヤカシどもへ強襲した。
「‥‥っ! こいつら、堪えてなさそうダナ」
 拳や蹴りは、急所に当たっている。が、動きは鈍くならない。おそらくは屍人でなく、食屍鬼だろう。
「ならば‥‥これでどうダ!?」
 掴みかかった大柄なアヤカシの腕を、梢はしゃがみこんでかわし‥‥膝へと強烈な蹴りを放った。
 うまくいった。膝の皿を壊してやったので、倒れたまま立ち上がれないだろう。
「開拓者ペケ、さんっじょぉぉぉ〜ですよ〜〜〜っ!」
 梢に続くは、ペケ。その両腕には鋼鉄の籠手「龍札」を到着している。
 掴みかかるアヤカシへと拳の一撃。続き肘、とどめに顎への一撃。
 しかし目前のアヤカシは、痛みを感じていない様子。が、それも予測していたペケは素早く動き‥‥他方から襲いかかったアヤカシの攻撃を受けつつ、最初のアヤカシへ蹴りを放つ!
 無様に転がったアヤカシどもを見て、亜貴は感心し、畏敬の念を抱いた。
 開拓者の称号は伊達ではない。何度か彼らの活躍を目にはしてきたが、そのたびに彼らの力強さを実感する。
「‥‥ぼーっとしてると、怪我しますよ〜っ!」
 隣に立つ不破の言葉に、亜貴は我に返った。そして、近くのアヤカシへ‥‥刀を振った。
「はーっ!」
 喉笛へと深く切り込むが、アヤカシは堪えた様子はない。が、亜貴も戦いの素人ではない。町道場とはいえ、師範代を務めた事があるのだ。開拓者ほどではなくとも、己の身を守る程度には戦える。
 何度も刃を叩き込み、ようやく一体を倒した。その頃には、他の三名は十体以上を血祭りにあげている。
「さ〜て、宴をもっとド派手にしようかね〜」
 そう言った不破の手には、火が付いた焙烙玉。それを屋敷の大扉へと投げつけるのを、亜貴は見た。

「やれやれ、表ではかなり派手な事になっているようでありんすね」
 焙烙玉の爆発音を聞きつつ、華角はつぶやいた。
「とはいえ、今のところはうまくいっているようで何よりでありんす。このまま、見つからずに済めばいいんでありんすが」
 彼女の後ろからは、ルエラ、鳳珠が続く。
 屋敷の周囲は、高い塀に囲まれており、入り込むのに難儀すると思われた。
 が、どういうわけか。裏口に回り込むと、勝手口らしき入り口が半分開いていたのだ。怪しく思ったが臆することなく、救助班の三名は入り込み‥‥屋敷内部を探索し始めた。
 思った以上に内部は広く入り組んでおり、何かの気配は見当たらない。いや、瘴気は濃いが、アヤカシも、人の気配すらも無い。そもそも、生活の場としての痕跡があまりにも無さすぎる。まるで廃墟、住民が少ないとしても、これは普通ではない。
「‥‥どうも、変な感じね。木葉さんと、館の主人以外にも誰かいるはずなのに‥‥その気配も全く感じさせないのは、どういう事かしら」
 短剣と盾を手にしているルエラが、疑問を口にした。鳳珠もまた、先刻に覚えた違和感が、再び首をもたげるのを実感する。
「‥‥何か、嫌な予感がします」
 何かがおかしい。問題は、そのおかしい「何か」が何なのか。それがわからない事。
「しっ‥‥お静かに願いんす」
 華角が、廊下の奥を指し示した。そこは、外にある畜舎らしき建物に続く通路。そこから‥‥声が聞こえてきたのだ。唸り声とも、うめき声ともつかない声が。

 迫るアヤカシを片づけた後、正面玄関の大扉を開くと、陽動班の四名は屋敷内部へと入り込んでいた。
 中には、立っていた。‥‥あの、仮面をかぶった「四人」が。
「はーっ!」
 それを認めると、すぐに不破はバーストアローを放つ。仮面の四人の額を矢は貫き、戦わずしてそいつらを倒した‥‥と思った。
「‥‥な、なんですか、こいつら!?」
 が、そいつらを見たペケは、驚きの声を上げる。
 矢を受け割れた、四人の仮面。その下の素顔は、無かった。
「これ、は‥‥?」
 それらは、等身大の藁人形。着物を着せ精緻な手足と仮面をつけた、人型だったのだ。
「‥‥でも、この手は本物そっくり‥‥ひっ!」
 人形の手を取った亜貴は、腰を抜かした。
 それは、作り物ではない。死んだ人間から、あるいは生きた人間から切り落とした、本物の手足だったのだ。四体の人形の手足は、いずれもがそうなっていた。
「作った奴は、この館の主人だろうナ。で、確実にこれだけは言えル」
 梢が、顔をしかめつつつぶやいた。
「‥‥この館の主人は、度し難い異常者ダ」
 が、彼女がそう言ったとたん。
 館の奥から、大柄な人影が歩み出てきた。

 ルエラの、心眼「集」の助けもあり、木葉と人質を見つけた。その点に関しては良かった。
 が、それ以外では、三人は後悔していた。
 畜舎と、その内部に存在していたもの‥‥。亜貴を連れてこなくて良かった。もしも彼女がこれを見たら、立ち直れなかったかもしれない。
 内部はかなり広く、入り口付近のみを松明が灯りを投げかけていた。そして、そこに佇んでいるのは、木葉。
 内部から強く濃く漂うのは、血と排泄物の悪臭に、強い腐臭。それだけでも十分に不快であったが‥‥部屋の「人質」は、それ以上のおぞましき行為を施されていた。
 石造りの壁には鉤が下がり、それに巨大な肉塊がいくつも下がっていた。それは、人間の死体。それも‥‥目を抉られ手足を切り落とされ、胴体部分もむごたらしく傷つけられている。それが壁沿いに、いくつもぶら下げられていた。見える範囲からして、その数は少なくとも十数体以上‥‥いや、百体はある。
 が、さらにおぞましい事に、いくつかは動いていた。生きているのだ! うめき声は、哀れなその犠牲者たちから響いてくる。おそらく舌を抜かれているのだろう。
 もしも十分な光源で、部屋の奥まで見たら‥‥考えたくもない。この状態で直視し続けていたら、間違いなく正気を保てなかっただろう。木葉はそれを直視し、突っ立っていた。
 華角は、必死に吐き気を押さえつつ‥‥木葉へと声をかけた。
「木葉はんで、ありんすか? 助けに来たでありんす」

 主人らしきその人影は、大柄な全身を汚れた布で包まれ、判然としない。丸腰で、よたよたした歩き方をしていた。
 しかし、漂う瘴気から、そいつがアヤカシである事は間違いない。亜貴が剣を構える前に、開拓者たちが襲いかかる。
 不破の矢が、頭部と胴体とに何本も突き刺さる。すかさず、ペケの拳がそいつの鳩尾へと直撃し、梢の蹴りが、そいつの足を薙ぎ払う。
「主人」は、あっけなく転倒した。ぎくしゃくとした動きで立ち上がろうとするが、その動きはのろく隙だらけ。
「‥‥フンっ!」
 梢が悠々と近づき、蹴りを放つと‥‥それをまともに受けて地面に転がった。
「‥‥なんだこいつハ? あまりにも弱すぎル」
 そう、あまりにも手ごたえが無い。亜貴も近づくと、そいつに白刃の一閃を食らわせた。
 バキッ。
 彼女の刀が、首を刎ねる。が、その感触は肉でなく、木で作った人形のそれだった。
「人形‥‥?」
 転がった首。その布がほどけた下に見えたのは、人形の顔。
「‥‥濁屋の商品?」
「‥‥付喪人形ですね。まさか、これが館の主人?」
 霧散していく付喪人形を見つつ、ペケは釈然としない面持ちを浮かべていた。
 やがて、狼煙銃の合図が。
 激しい輝きを見つつ、陽動班は退却した。
 だが、その輝きに続き‥‥火の手があがった事には、妙な胸騒ぎを感じざるを得なかった。

「‥‥」
 村の外、村からしばらく離れた、霧が漂う森の出口近くにて。
 開拓者たちは合流していたが、木葉を連れた三人の顔は、やつれ、泣き腫らし‥‥精神に痛手を受けたかのような表情を浮かべていた。
「‥‥申し訳ありんせん‥‥これが精いっぱいでありんした‥‥」
 三人からの報告を‥‥人質とされた人々の事を聞いた他の開拓者たちは、その内容に言葉を失っていた。
「畜舎には‥‥松明で火を放っておきました。あれで、あの人質たちもどうか安らかに‥‥」
 ルエラは恐怖のためか、小刻みに震えていた。
「‥‥すみません‥‥大丈夫です‥‥大丈夫‥‥」
 ぶつぶつ呟く鳳珠の瞳からは、生気らしいものが消えていた。まるで心を消すことで、惨状を忘れようとしているかのように。
 話を聞いただけの亜貴ですら、もよおした吐き気に我慢ならず、戻してしまったほど。
 だが、木葉はおそらく毎日‥‥それを見させられていた。やつれた様相なのも、当然と言えよう。
「‥‥でも、もう安心するとイイ。主人がどんな奴か知らないガ‥‥そいつは絶対に、ぶっ潰ス」
「‥‥ええ、そうです。安心してください‥‥木葉さん」
 梢に続き、ペケもまた元気づけるように木葉に言い聞かせる。それを聞き、木葉は亜貴へとすがりついて‥‥泣いた。
「大丈夫、もう大丈夫よ‥‥大丈夫‥‥」
 亜貴が、肩を抱きしめ言い聞かせる。亜貴の胸に顔を埋め、木葉は声を上げて泣き‥‥。
 その声が、変わった。
 哄笑に。
「!」
 次に木葉がとった行動は、皆は目を疑った。
「な‥‥」
 亜貴の喉笛に、木葉は噛みつき‥‥食いちぎったのだ。
「な‥‥なぜ‥‥!?」
 そのまま、木葉は‥‥亜貴を放り投げる。
「‥‥あー、笑えた笑えた。馬鹿どもをだまくらかすのは、退屈しのぎに最高ねえ」
 木葉は、その姿は変わらないが‥‥より大きく、堂々と見えた。自信と生命力とにあふれたように見え、顔に浮かぶのは嘲笑の表情。
「『何事?』ってな感じだから説明してやるけど‥‥あの村の『主人』ってのは、このア・タ・シ。誘拐された哀れな小娘ってな演技してただけ。‥‥あら? あの口だけ激弱負け犬いないの? あのウスラバカに矢を放ったのも、このアタシよ〜ん。ぎゃはぎゃは、なかなか演技うまかったと思わない?」
 耳障りな口調で、少女は言葉を吐いた。その笑い声は、前回に聞いた声と同じ、傲慢そのものな声だった。
 言葉を受けつつ、亜貴は木葉を見つめた。見つめるしかできなかった。血はどんどん喉笛から流れ出ていく。
 開拓者たちも、あまりの事に動けなかった。理解するのに、時間が必要だったのだ。
「理由としては、退屈で刺激が欲しかったから。だから間抜けな旅人やら盗賊やらをだまくらかし、自分の手下にしたり‥‥手足切り取って苦しむ様子を楽しんでたわけ。納得でしょ? それから‥‥」
 救助班の三人へ、唇を、そして口の中に生えている牙をぺろりと舐めつつ‥‥少女は嘲った。
「アタシの本名は『タガメ』。木葉って名前は、拉致った娘の名前よ〜ん。まだ畜舎ん中で生きてたのに、アンタらが火つけて燃やしちゃったから、哀れ焼け死んじゃいました。ひどい事するわねえアンタたち、ぎゃはぎゃは!」
 その時。
 開拓者全員が、支配された。
「憤怒」という感情に。
 不破はバーストアローを放ち、鳳珠は浄炎を。
 ペケは不知火を、梢は竜巻を抜き放ち、華角は喧嘩殺法にて襲い掛かる。
 が、小憎らしいくらいにひょいひょいとそいつ‥‥タガメは逃れ、哄笑とともに開拓者たちを殴りつけ、地面へと叩きつけた。
「外道がぁっ!」
 が、白梅香を込めたルエラの短剣が、そいつの頬をかする。刃先が触れ、少女の頬の瘴気が浄化され、傷がただれるのが見えた。
「おー、怖い怖い。とっとと逃げちゃいましょ。さよなら〜」
 タガメはそのまま霧の中、白い闇の中に消えていった。
「‥‥亜貴さん!」
 やがて、落ち着きを取り戻した鳳珠は‥‥。
 地面に転がっている、喉を食い破られた亜貴へと「閃癒」を掛けた。

「‥‥事情は、わかった」
 開拓者たちの帰還後。偽瑠は濁屋店舗で事の次第を聞き‥‥血がにじむほど唇をかみしめていた。
「亜貴は、助かるそうだ。だが‥‥その『タガメ』とかいう奴を殺してやらねば、気が済まん!」
 彼もまた、憤怒の表情で開拓者へと吠えた。
「正式に、後で依頼する。そいつを‥‥タガメを殺せ! 確実にな!」