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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 鑑定人・縊首比。 蒲生商店は、彼のもとに「貫抜鬼丸」という剣を預け、鑑定を依頼した。 が、縊首比のもとに網面という盗賊が入り込み、剣を強奪。 剣はアヤカシに奪われ、開拓者はそれを取り戻したが‥‥剣の柄の部分には短刀が仕込まれる部分があり、そこには短刀の代わりに金属製の小さな筒が入っていた。 なぜか落ちていた仕込み短刀とともに、再び剣は縊首比のもとで鑑定‥‥となったが、いまだに鑑定結果は届いていない。 かの筒は、蒲生商店で預かり、厳重に保管。 そして、網面はまだ捕まっていなかった。 蒲生商店・奈良無。 武家に生まれた彼女は、好奇心が旺盛で、交流する事が好きだった。 そして商いに興味を持ち、蒲生商店に職を得て、現在に至る。基本真面目で、情熱的な彼女だが、欠点もあった。 短絡的なのだ。即断即決即行動は、彼女の美点であり長所ではあったが‥‥こと商いに関しては思慮が足らず、失敗も多い。 『お前はまず、その短慮を直しなさい。商いはその後だ』 と、蒲生から言われ、現在彼女は下働きや雑用を主な仕事にしている。当然、本人は不満。 「あたしって、そんなに商人に向かないのなかあ」などとぶつぶつ言いつつ、使いの仕事で陽天の街中を奔走していた。 「‥‥あ、縊首比先生!」 ふと彼女は、街中で縊首比を見つけた。 「なにしてんですか縊首比先生、旦那様が頼んでた剣の鑑定は終わりましたか? あれからずっと連絡がないんで、心配してたんですよ?」 「いや、アンタ誰だ?」 人違い。よく見ると、全く顔が違う。後姿が似てるだけで、彼だと思い込んだだけだった。 「すみません‥‥ったく、失敗失敗」 とか言いつつ、しばらく後。 「先生? ‥‥いやいやいや、きっと見間違いに違いない。あたしは間違える事に才能あるからねー。ささ、仕事仕事」 確かに、似ているように見えるが、どこか別人のようにも見える。 縊首比‥‥あるいはそのそっくりさんは、怪しげな連中とともに暗い横町へと消えて行った。脅かされてなのか、同意を得ているのか、とにかく引っ張られていく。 なんとなく、胸騒ぎがする。そのおかげで何度も失敗したものだが、成功したこともあった。ほんのわずかだが。 かくして、尾行したところ‥‥。 捕まってしまった。 後頭部を強く殴られ、意識を失っていた彼女。 気が付いた時には、どこかの部屋の中。縛られていたが、縄抜けの技術を身に着けていた彼女は、すぐに抜けた。 どうやら、隣の部屋から声が聞こえる。そっと聞き耳を立てると、声が。 「‥‥けどよ、剣に仕込んどいたはずの地図が手元にねえじゃねえか! あれがねえと、手に入るもんも入らねえよ!」 「‥‥焦るな。蒲生商店も偽瑠も、あの剣に仕込まれた地図には気づいてても、お宝には全く気付いてねえ。仮に俺たちよりも先にお宝を見つけても、貫抜鬼丸が無けりゃ手に入れるのは無理ってもんだ」 この二人の声は、縊首比と一緒にいたガラの悪そうな者の声だろう。 「じゃあ、俺たちはこれからどうする?」 こちらは、聞き覚えがない。若く、若干頼りなさそうな声。 「俺たちは、剣を抑えてある。そうだな‥‥今捕えてる蒲生商店の莫迦女を人質に、あの地図を交換しようじゃないか。そうすりゃ、剣と地図は俺たちの手元に、そしてお宝は俺たちのものになる。あいつの、あの旦那の言う事が正しけりゃな」 「‥‥兄貴、本当に大丈夫なんだろうな? どうも俺たち、あいつが信用ならねえよ」 「そうだ。俺も、あいつは信用できねえ」 「焦るなよ、俺も信用しちゃいねえ。とはいえ、今しばらくは仲間と思わせとかなきゃな。俺はこれから、旦那と相談しなきゃならねえ事があるから、しばらく留守にする」 「どちらに?」 「あの廃村だ。羽猿に出くわしちまった、あの森の奥に行ってくる。邪魔な奴が来ねえだろうから、縊首比のやつもそこに隠しときゃちょうどいいだろ。お前らはあの莫迦女を見張ってろ」 声はそのまま、聞こえなくなった。 「くそっ、莫迦女って、ずいぶんな言いぐさじゃあないか。とにかく、ここから出なきゃ‥‥」 会話が途切れ、扉から離れる。 周囲に目が慣れたら、この部屋は物置である事がわかった。多くのガラクタが、ぞんざいに置かれている。 見ると、天井板が外れていた。ガラクタを積み上げれば、あそこまでたどり着くのはたやすいだろう。さっそく箱を積み上げ、即席の階段を作る。 天井から脱出しようとした、その時。 「!?」 「た、助けてくれーっ!」 盗賊どもの悲鳴、それが響いてきたのだ。 悲鳴に交じるは、何かが暴れまわり、殺戮する音。 やがて、殺戮が終わったのか。静かになると‥‥。 血に飢えた、巨大な何かの吐息が聞こえてきた。 「それを聞いて、あたしは無我夢中で天井裏に上って、隠れて‥‥無我夢中で脱出しました」 ギルドは、その応接室。 奈良無は蒲生譲二朗、そして蘭厨とともに、依頼に赴いていた。 「周囲は暗くてよくわかりませんでしたが、町に近い場所の空家だったと思います。で、街道に出て、町に戻って‥‥旦那様にお知らせしたんです」 「私も、奈良無から話を聞き、縊首比先生に使いを出しました。ですが、使いに出た蘭厨によると『留守』だったとのことで」 「はい。呼び鈴にも反応はなく、外から見た限りでは、人の気配はありませんでした」 「皆様にやっていただきたいのは、行方不明の縊首比先生を探し出す事。そして、おそらく黒幕と思われる『旦那』‥‥これらの正体を探る事です」 網面の言葉からすると、縊首比は、羽猿の出た森の深部に存在する廃村に軟禁されているらしい。そしておそらくは、『旦那』もそこにいるかもしれない。 『旦那』とやらがどんな存在かわからないが、あの盗賊のねぐらを襲った、恐ろしい何かと関係あるかもしれない‥‥と、奈良無は語る。 「ともかく、縊首比先生の身に何かあったら大変です。皆様、どうか‥‥先生を助けてください」 |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
梓(ia0412)
29歳・男・巫
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
和奏(ia8807)
17歳・男・志
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
明神 花梨(ib9820)
14歳・女・武 |
■リプレイ本文 「‥‥ったくよォ、どうも気に食わねェな」 鷲尾天斗(ia0371)は、幾度となく毒づいていた。 「全くだ」 巫女にして、逞しき大男、梓(ia0412)もそれに相槌を打つ。彼は頭を用いる事は苦手ではあっても、今回の依頼内容の胡散臭さには感づいていた。 開拓者たちは今、盗賊どもの根城‥‥破壊された場所にて、調査の最中。 周囲には、鷲尾が蒲生商店に頼み同行した同心たち、そしてここから逃走した奈良無の姿もあった。 「間違いはないのか?」 「ああ、あたしはこの倉庫の‥‥ここから逃げ出したんだ」 倉庫の扉は外側から、まるで何かに叩きつけられたかのように壊れていた。 しかし‥‥どうも妙だ。ガラクタの量はそれほど無く、天井に階段にして積み上げるには程遠い。更には、その天井が崩れてしまい、隠れる天井裏も無い。 「おかしいな? ここに天井裏があって、あたしはそこに隠れたのに」 そして、多くのガラクタと共に有るのは、盗賊たちの死体。惨たらしい様相のそれらは、一つとして損壊していないものが無い。野生の獣が食い散らかしたとしても、ここまでひどくは無かろう。 「‥‥どうか、成仏したってや。南無」 鷲尾の近くで、狐耳の美少女、明神 花梨(ib9820)が手を合わせ、その冥福を祈っていた。 「見たところ、盗賊どもは叩き潰されてるねぇ。いやはや、随分と莫迦力を持ってるみたいで」 へらり‥‥とした口調と裏腹に、不破 颯(ib0495)は周囲へ鋭い視線を向けている。巨大な棍棒、もしくはそれに該当する武器を力任せに振り回し、あちこちに叩きつけたような痕跡からして、まずは間違いないだろう。 「ふん、やはりな。しかし‥‥妙だなァ」 「鷲尾さん、何がです?」和奏(ia8807)が問いかける。 「ここを襲った奴らが『旦那』とやらの手先なら‥‥殺すこたぁねえはずだ。こいつらは網面の手下であり、網面は『旦那』の手下。いくら反感持たれてたからって、テメェの手下を意味もなくブチ殺すのは、どうも気になるぜ」 「確かに、そうですね‥‥」 「おい! こっちに来てくれ!」 会話を、バロン(ia6062)の鋭い声が中断させた。 「‥‥どういう事だァ? わけがわからねえ」 廃村に向かう道すがら、鷲尾はバロンが見つけたものに対して悩み続けていた。 「正直、俺もわからん。しかし‥‥もしもあれが本当なら、網面もまた『旦那』に騙されているのか、あるいは‥‥最初からああするつもりで、『旦那』に従っているのか」 バロンの言葉に、皆は考え込んでいた。 バロンが見つけたのは、死体。どうやら、致命傷を負ったがそのまま隠れて難を逃れたものの、逃げ出す事も出来ず、そのまま死亡‥‥と推測される状況だった。 「そうですね。あの手にしていた文章を吟味すると‥‥奈良無さんは、本人も知らない何かを知ってしまったのでしょうか?」和奏もまた、相槌を打つ。 死体の手には、手紙が握られていた。鷲尾は、仲間たちと共に読んだその内容をもう一度思い起こしていた。 『‥‥網面の兄貴へ。ちょいと気になる事があるから、これを記しとく。読んで、考えておいてくれ。この事は、仲間たちには言ってある。 気になる事ってのは、「旦那」についてだ。兄貴も俺らも、「旦那」の姿を見た事が無くて、声でしか命令されてねえよな? それで、あの羽猿が襲ってきたちょっと前の事なんだけどよ。 酒場からの帰り道。俺は酒に酔って迷い込んだあの森の奥で、偶然「旦那」らしいやつが、アヤカシ連れていたのを見かけちまったんだ。 夜だったんで、暗くて見えなかったが、あの声は間違いなく「旦那」だった。何かしてる様子だったから、そいつらが去った後に行くと‥‥ガラクタの山があった。 その中には、蒲生商店の者って書付と財布もあった。俺はその中から金だけを抜き取り、今まで黙ってたんだ。 けど、あの捕まえた莫迦女を見て思い出した。多分「旦那」ってのは 』 文面は、それで終わっていた。 「‥‥こいつは一体、何を伝えたかったのだ?」 発見者であるバロンが、何度も考える。が、その思考の答えは導き出せそうにない。奈良無に聞いても「知らない」としか答えなかった。 しかし、網面がその答えを導き出してくれるに違いない。少なくとも、何かの手がかりを持ってはいるだろう。 更に、他にも妙な点が。 「‥‥奈良無が隠れたって天井裏。確かに空間はあったが‥‥」 それは、崩れていた。調査が終わり、同心たちとともに店に反した奈良無が言うには、『きっとアヤカシのせいでしょう、そうに違いない!』。 「だが、なぜアヤカシがそこまで叩く? ‥‥わかりません」和奏もまた、釈然としない様子で考え込む。 「それにもう一つ。縊首比さんの屋敷も、変やったで?」花梨がそう言うと、和奏はそれに同意した。 「ええ‥‥厳重すぎるにもほどがあります」 盗賊たちの根城を通ってから、彼らは縊首比の屋敷へと向かった。が、中に入ろうとするも‥‥留守中なのか呼び鈴に反応がない。 ならばと強引に入ろうとしたが、高い塀と固く閉ざされた扉、そしてすべての窓には頑丈な格子が取り付けられ、侵入は断念せざるを得なかった。 「瘴気は感じられましたが‥‥アヤカシは感じられませんでしたからねぇ。」 もっとも、後であの中に入る事になるでしょうけどねと、不破は付け加えた。 「‥‥あの巻物の内容も、譲二朗さんはわからなかった、と。なんせ、ただの数字の羅列。暗号かと思ったけど、どうも違うようだし。なんなんでしょうねえ」 やれやれと、不破はわざとらしく肩をすくめる。 やがて、一行の視界に入ってきた。森の中の、廃村らしきものが。 「‥‥とりあえず、今はあの村の調査を最優先だ。行くぜぇ?」 鷲尾の言葉に、皆がうなずいた。 廃村には、人の気配や生活の痕跡がまるでない。あるのは崩れかけた家屋。そしてそれらに紛れ込み、邪悪の塊。 その村に入ってから、瘴索結界や鏡弦にて、開拓者たちはすでに「感じ取って」いた。 「気配」を、アヤカシが放つ、純然たる悪の「気配」を。動きつつ、接近してくるそいつらの「気配」を。 「‥‥俺でもわかるぜぃ。っていうかよ、なんでそんなとこにでかい岩があるんだっての」 梓の言葉が終わらないうちに、家屋の影から巨大な「それ」‥‥いや、「それら」が姿を現した。 それらは、岩だった。巨大な人の手を模した、岩の塊。 アヤカシ‥‥岩の手は、開拓者たちへと襲い掛かった。 「‥‥破ッ!」 先陣を切るは、バロン。ジルべリアの古強者たる射手は、鳴弦の弓を引き絞り、鋭き矢尻の矢を放ち、岩の手へと直撃させる。 巨大な掌に強力な矢を受け、岩の手の一体が砕け散り、果てた。 梓により、術が‥‥「神楽舞・攻」がかけられている。それらの効果により、開拓者たちの身体に猛りと勇気とが流れ込む。 「‥‥そこかっ! 喰らえィ!」 携えた神威の木刀で、接近してきた岩の手を打ち据える。聖なる力を有した木刀が、邪悪の岩塊を打ち砕き、引導を渡した。 「‥‥目障りだ、消えろ」 鷲尾もまた、短銃と槍‥‥宝珠銃「エア・スティーラー」と魔槍「アクケルテ」を用い、その小癪なる巨大な岩塊へと攻撃する。 アクケルテの穂先、特殊金属のダマスクスによる突貫攻撃が、手を模した岩のアヤカシを一体、また一体と穿ち、砕き、灰燼に帰していた。 「‥‥どうやら、ウチらの出番は無さそうやね」 「ええ‥‥おや?」 花梨の言葉にうなずいた和奏だが‥‥彼は感じ取った。 迫りくる、新たな敵意と害意とを。 岩の手が全て倒れ、静寂が戻った。 だが、それは再び破られる。 「おやおやぁ? どうやら本命の登場のようですねぇ?」 不破が嘲るように、半ば挑戦するかのように、登場したそいつに‥‥言葉を投げかけた。。 「‥‥へっ、てめえら‥‥羽猿を退治してくれた奴らかよ」 近くの廃屋から、男が姿を現した。その顔は網目状の傷が走り、まさに網目の面‥‥網面の名にふさわしい。その顔にぎらつく瞳は、一筋縄ではいかぬ「凄み」があった。 エア・スティーラーを構え、鷲尾は狙いを付けた。網面の足を狙い、捕獲できれば‥‥! だが、それを察していたのか。網面は石弓を構えていた。それは、鷲尾に狙いを向けている。 「‥‥ちっ」 「へっ。おい、そこの片目のあんちゃんよ。なかなかいい目つきしてんじゃねえか」 嘲りつつ称賛する口調で、網面が鷲尾に問いかける。 「まさに俺と同じ、悪党にふさわしいまなざしってやつだ。どうだ? あんちゃんもくだらねえ依頼なんざ忘れちまって、『旦那』に従っちまえよ。莫大なお宝が手に入るぜ?」 「‥‥ハッ、冗談はテメエのマズイ面だけにしときな」 網面へと、鷲尾は言葉を返す。もとより、こんな悪党の言葉に従う事など考えていないし、考えたくもない。 「ああ。お前なんぞに従ったとしても、どうせ元の仲間たち同様にアヤカシに叩き潰させるんだろうが!? いくら俺でも、それくらいは分かるぞ!」 息巻いた梓が、鷲尾に続き網面に言葉を投げつけた。だが、それを聞いた網面は予想外の表情と反応を返す。 「‥‥なんだと? それはどういう事だ?」 「どういう事って‥‥知らんの? 網面さん、アンタの仲間たち、根城で叩き潰されて殺されてんやで?」 「それは、『旦那』とやらが遣わした、アヤカシの仕業らしいって事が判明してるんですけどねぇ〜。まさか、知らないとか、とぼけられるのはちょっとばかり困るんですがねぇ〜」 花梨と不破とが、畳み掛けるように事実を述べる。それを聞いた網面は、あからさまに狼狽しつつあった。 「待て! 俺は『旦那』から、貫抜鬼丸を使った、お宝を手にする方法を教わりにここに来たんだ! 手にしたお宝は、山分けするって話でな! どういう事だ!?」 「こういう事、ですよ。皆さん」 「何‥‥縊首比!? ‥‥ぐはぁっ!」 網面が、家屋の「内側」から何者かにより‥‥吹っ飛ばされた。 石弓が両手から離れ、地面を無様に転がり、近くの土壁に激突する。 壁は大きく、頑丈なものだったが‥‥網面が叩きつけられたことで、ぼろぼろに崩れ、跡形もなく崩れ落ちた。 そして、土塊にうずもれるように。重傷を負い、動けなくなっている網面の姿がその中心に見えた。 「いやあ、莫迦には莫迦の使い道がある、というもの。感謝しますよ、皆さん」 巨大な二体の、棍棒を持ったアヤカシが家屋の中から歩み出てきた。 そして、それらに守られるようにして‥‥。 手に槍を握った、縊首比の姿がそこにあった。 数秒の静寂と、驚愕による沈黙。 そして、数秒が経過した後‥‥アヤカシどもは駆け出し、開拓者たちも駆け出した! 「行きなさい、赤角、蒼角!」 赤と青の獄卒鬼へ、縊首比は命じ‥‥己もまた、躍り出た。 「テメエッ‥‥! 一体、どういう事だ!」 「はっ! 最初から計略してたんですよ! もっとも、知る必要は無い! おとなしく殺されなさい!」 その槍さばきは、まさに神速。突き出す刃の前に、鷲尾は肩や足を切り裂かれるのを感じ取った。 「鷲尾! 今助ける!」 すかさず、梓が助けに入る。神威の木刀が打ち込まれ、その刀身の周囲に瘴気が舞った。 「‥‥まさかテメエ、アヤカシなのか!?」 鷲尾がつぶやいた。 「そう‥‥私は屍鬼。だとしたら?」 「‥‥決まってる! テメエを倒すまで!」 「アクケルテ」の槍身が、貫くべき相手を見つけたかのように、ギラリと輝いた。 「ほーら、鬼さんこちら。そんな鈍かったら、俺を倒せないよ〜」 嘲る事に関しては、不破の独壇場。そして、巨大な棍棒を持った獄卒鬼の片方・赤角は、それを頭上で振り回し、叩きつける。 手近の大木にそれが当たると、大木の幹が簡単に折れて倒壊した。 「‥‥はっ!」 バロンもまた、蒼角と戦っている。が、状況はよろしくない。打ち込んだ矢が、それほど痛手を与えていない様子なのだ。 「‥‥まずいで、このままでは」 体力負けしてしまう。バロンと不破とを交互に見つつ、陥った状況を花梨は整理していた。 「ぐっ! ‥‥ちょっと、まずい‥‥ですねえ」 不破が、棍棒のトゲに引っかかれた。ざっくりと血が吹きだし、地面を染める。 その様子を見て、赤角が下卑た笑い声をあげた。それに続き、蒼角も嗤う。 「‥‥舐めるなっ!」 バロンが静かなる怒りと共に、矢をつがえ、弓を引き絞る。蒼角はそれを見て、巨大な棍棒を振り回しつつ、叩き潰さんと突進した。 「‥‥『月涙』ッ!」 弓の弦がたわみ、矢が放たれる。宙を切るその勢いを止める物無し。回転しつつ、矢尻が蒼角の眉間へと命中し、貫いた。 「‥‥直撃、させます! 『秋水』!」 巨体をきりきり舞いさせ、よろめく蒼角。だが、「鬼切丸」の刀身を鈍く光らせた和奏が、そのアヤカシへと襲い掛かる。 響く切断音。それが瘴気を切り裂き、獄卒鬼の脇腹に深い傷を負わせた。 棍棒を取りおとし、体が崩れ落ち、巨体のアヤカシの片方が倒れた。 「!?」 「おおっと、お仲間の事を気にしてる場合じゃあないでっ!」 槍「シャタガンダー」を手にした花梨が、動揺している赤角へと、その穂先を向ける。天狗駆で悪い足場を軽快に走る彼女は、覚開断にて槍の穂先を打ち込んだ! 思わず膝をつく赤角。だがそこへ、更なる攻撃の雨が降り注ぐ。 「‥‥悪いねぇ、時間取られるわけにゃいかないんだわ」 とどめの一矢が突き刺さり、二体目の獄卒鬼も果てた。 「なっ!?」 そして、二体の手下を倒された屍鬼‥‥縊首比へ、魔槍の穂先が突き刺さる。 「よそ見してんじゃあ‥‥ねーぜっ!」 ブラストショットと、ゼロショットの攻撃。それらが決まり‥‥、縊首比もまた、果てた。 「‥‥くっくっく‥‥‥お見事」 アヤカシを倒し、息を整えている最中。 皆の前に、声が聞こえてきた。 「! テメエが‥‥『旦那』かっ!?」 鷲尾の声に、「声」は返答した。 「‥‥まあ、そんなところだ。関係者を全員殺してやろうと、一芝居打ったのだが‥‥逆効果だったようだな」 全員が、周囲を警戒する。が、「声」を出している者の姿は見られない。 「まあ良い‥‥蒲生譲二朗に伝えておけ。店員の一人は、すでに死んだ、とな。そして、これ以上店員を減らされたくなければ‥‥あの巻物を持ってこい、とな」 そうして、木陰から「旦那」は‥‥姿を現した。 そこに居たのは、奈良無だった。 「!?」 彼女は、すぐに森の中に消えていった。 「‥‥どういう、事や? なんで、奈良無さんが‥‥」 梓の神風恩寵とともに、花梨の浄境が皆の傷を治癒していく。その恩恵は、網面も受けていた。 「‥‥これが、あの書付に書かれていた事かァ? ともかく‥‥」 鷲尾は、立ち上がった。 「ともかく、網面と戻るぜ。‥‥おそらく、次で最後だろうからな」 鷲尾の言葉に、皆はうなずいた。 そして、鷲尾自身も望んでいた。次で‥‥絶対に解決してやる。 |