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■オープニング本文 前回のリプレイを見る :警邏隊・罪人収監施設内・網面の証言 「‥‥俺は、ちょいと前にヒズメって吸血鬼に雇われていた。そいつが開拓者に退治された後、俺の懐は乏しくなっちまってな。そこに『旦那』と名乗るやつが、俺と、俺の仲間たちに声をかけてきた。 雑魚アヤカシでいっぱいのとある屋敷ん中に、ヒズメの姉・タガメって吸血鬼が貯めた、お宝に続く鍵があるもんだから、そいつを‥‥『貫抜鬼丸』を取ってこいってな仕事を頼みやがった。 だが、見つかったのは、『貫抜鬼丸』の柄の部分に仕込んでいた、あの小さな短剣のみ。近くに住んでた百姓に聞いたら、どっかのこそ泥どもがこの屋敷に入って金目の物を奪ったらしい。で、そのこそ泥どもは偽瑠に高値でそれらを売り飛ばしたって事を突き止めた。 で、そこからつい最近、蒲生商店に売られたってのも知った。 そこで、剣の鑑定人・縊首比に俺は近づき、縊首比と『旦那』の提案で、一芝居打つことにした。俺たちが縊首比から剣を奪ったって事にしておけば、縊首比がお宝のために俺たちと協力しているとはだれも思わないだろう。このごたごたで、剣の鑑定に時間がかかるという名目で、お宝の場所をつきとめる時間を稼ぐこともできる。 とりあえず、俺たちは剣を奪った‥‥と、縊首比に言わせ、廃村の隠れ家へ持っていく段取りを立てた。 これは最初、俺たちもうまく行くと思っていた。だが途中で羽猿の群れに襲われ、剣を奪われた。そればかりじゃあなく、羽猿に仲間たちが何人か殺された。 俺らは『旦那』に相談したが‥‥その直後あたりから、『旦那』の態度がおかしくなってきた。気前よく支払ってくれてたのが、いきなり渋り始めたのだ。 蒲生が雇った開拓者どものせいで、剣もまた縊首比の元に戻ったが‥‥、縊首比もおかしな様子を見せ始めていた。やはり羽猿に襲われたあたりから、妙に『旦那』をかばうような事を言い始めてな。今にして思えば、縊首比の奴も途中から殺され、アヤカシになっちまったんだと思う‥‥」 :警邏隊の報告書、一部抜粋。 「‥‥網面の証言、そして手下の手記に従い調査したところ、該当する地点で二つの遺体、および遺留品を発見。遺体は白骨化し散乱‥‥」 「遺体の片方には、お守り袋が。内部には所有者の名前らしき『宇摩』と記載された名札が。加えて、ぼろぼろになった書簡も発見。解読に時間がかかったが、内容は『吸血鬼タガメがため込んだ宝の事を知った』『「旦那」と名乗り、盗賊どもを操って宝を手に入れる』という旨の文章が‥‥」 「もう片方は、女性ものの衣服を着用。衣服には『奈良無』の刺繍が‥‥」 :ギルド・応接室。 「‥‥縊首比がまさか、アヤカシと化していたとは気づきませんでした」 蒲生商店の、蒲生譲二朗。そして店の幹部、蘭厨。 蘭厨の表情は、落ち込んだそれだった。妻の銀嶺が、襲われた‥‥誘拐されたのだ。 「私があの巻物を、自宅に持ち帰った事を奈良無‥‥いや、奈良無にすり替わった『旦那』が知り、襲ったのです。襲ってきたそれは、確かに奈良無と同じ顔形をしていました。私は駆けつけ、切り付けながら問いただしたのです。『お前は何者だ。なぜ、こんな事をするのか!』と」 それに対し、『旦那』は答えた。 『わたしの名は戯見留。あの中で眠ってるモンを暴かれんのは、面白くないんだよ‥‥!』 「‥‥推測するに、こういう事情と状況かと思われます。 :当初は『旦那』、つまり見つかった遺体の『宇摩』が、タガメとやらが貯めた宝の事を知り、網面たちを用いてそれを手に入れるための剣‥‥『貫抜鬼丸』を手に入れようとした。 :貫抜鬼丸は見つかったものの、それは既に偽瑠の手元に。それを私たち‥‥蒲生商店は、知らずに買ってしまっていた。 :蒲生商店で、貫抜鬼丸の鑑定を縊首比に依頼。そこで『旦那』こと宇摩は、網面たちとともに縊首比を抱き込み、剣を奪われた事にしようとした。そうする事で、宝を独り占めするために。しかしこれは、羽猿の群れという予想外の出来事で失敗に。 :これに前後し、奈良無にそっくりのアヤカシ‥‥戯見留が現れ、奈良無と宇摩とを殺し、奈良無と『旦那』に成りすました。また、縊首比も殺され、屍鬼として甦った。 :二人に成りすました戯見留は、獄卒鬼を率いて、根城の網面の手下たちを殺し、網面本人も殺そうとした。 :さらに戯見留は、奈良無に成りすまして蒲生商店内に潜入し、剣に隠された地図がどこにあるかを探った。その結果、蘭厨とその妻銀嶺が所有しているのを知り、奪いに来た。 「‥‥幸いと言うべきか。その時には私の手元には巻物は無く、友人に預けて調べてもらってまして」蒲生に続き、蘭厨が言う。 「それを伝えると、戯見留は妻を‥‥、銀嶺を気絶させ、そのまま夜の闇の中に消えていきました‥‥くっ!」 それから後日、戯見留から連絡が来た。 『巻物を持って、この場所に来い。この女と引き換えだ。ただし、人数は少なめで。‥‥無駄に人死にを出したくなければな』 「‥‥戯見留が指定した場所は、かの森のさらに奥にある広場です。そこには巨大な岩塊がありますが‥‥瘴気が濃く、ほとんどの者は近づきもしません」 おそらくは、そこが「お宝」をしまい込んだ場所であり、同時に「中に眠ってるモン」を隠している場所なのだろう。 「‥‥開拓者の皆さま、お願いします。妻を、銀嶺を助けてください」 「銀嶺は、以前にも女郎蜘蛛に拉致された事がありました‥‥これ以上アヤカシに翻弄されるのは、あまりに不憫です」 そう言って、蘭厨と蒲生は件の巻物を取り出した。 「これを。まずこれを見せないと、戯見留は銀嶺を即座に殺す‥‥との事でした。どうか皆様、戯見留を討伐し、銀嶺を助けてください」蘭厨は、巻物を君たちに差出し、懇願した。 「そして、もしもそこが危険な何かを封じている場所で、それが目覚めてしまったならば‥‥退治してください。こんな事で、もうこれ以上‥‥人死にを出したくないのです。どうか、お願いします」 |
■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
梓(ia0412)
29歳・男・巫
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
和奏(ia8807)
17歳・男・志
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
明神 花梨(ib9820)
14歳・女・武 |
■リプレイ本文 その場所は、焚火がいくつも焚かれ、煙を発している。それが視界を曇らせ、開拓者たちを不安にさせた。 だが、開拓者たちが相対しているのは、よりおぞましい存在。 「さァ、約束の物は持ってきたぜェ。人質は解放して貰おうかァ」 鷲尾天斗(ia0371)は、そのおぞましい存在‥‥人質を手にした吸血鬼・戯見留と、彼女が従えている獄卒鬼二体に対し、鋭い視線を向けていた。 「それじゃあ、それを足元に、こちらに向かい転がしてもらいましょうか」 奈良無‥‥蒲生商店の若き女性店員‥‥の顔をした、かの吸血鬼は、慇懃な口調でそう告げた。そして戯見留は、人質に‥‥綱でくくられ、猿轡をかまされた銀嶺にぴったりと密着している。その両脇に立っているのは、獄卒鬼。鋭い刃先を持つ槍を手にしており、身構えている。 周辺には、戯見留が焚いたのだろう焚火がいくつも焚かれ、その後ろには大きめの塚‥‥岩をぞんざいに積み重ねたかのような塚があった。 「‥‥待っててな、すぐに助けるで」 明神 花梨(ib9820)が心配そうに、囚われている銀嶺を、そして鷲尾が転がした巻物を見つめている。巻物は既に、戯見留らの近くまで転がっていた。 「‥‥戯見留さん。ひとつ伺いますが‥‥」 鷲尾の隣で、和奏(ia8807)が問いかける。 「巻物をお渡しすれば、必ず銀嶺さまを返して下さる‥‥という確証はあるのでしょうか?」 「おう、そうだ! 人質は返してくれるんだろうな!?」 和奏に続き、梓(ia0412)が吼える。だが戯見留は、嘲るような一瞥を投げてよこし‥‥行動する事で、返答とした。 人質・銀嶺の手首を「ひねる」という行動で。 「!」 「‥‥てめェ‥‥何しやがったァ!」 「‥‥安心なさい、手首の骨を折ってやっただけ。どうせ人質を放したら、遠くから弓か何かで狙い撃ちされるんでしょうからね。お仲間も二人ほどいないみたいだし、遠くから狙ってるんでしょ? あの藪とか、あの茂った木のあたりとかから」 こいつ、気づきやがったか? 「‥‥あァ、そうさ。保険だよ保険。俺たちが馬鹿正直に、お前の要件聞くとでも思うかァ?」 「‥‥ふぅん。莫迦正直に教えてもらって、感謝するわ。まさかカマをかけたら、本当にそうだとはね」 「‥‥ちいッ!」 糞っ、一杯喰わされた! 「‥‥ま、下手なことしたら人質がどうなるか、わかってくれたようねえ。とりあえず、そこのトッチャン坊やの質問に答えてあげるけど、人質は返してあげるわ。わたしに必要なのは、その巻物ともう一つ‥‥ここにあるもの『たち』だからねえ」 巻物と、もう一つ必要、だと? ここにあるもの『たち』? 他にアヤカシでもいるのか? 「あの‥‥トッチャン坊やって自分の事でしょうか」 「いや、俺に聞くなよ」 和奏と梓のやり取りに構わず、鷲尾は吸血鬼へと言葉を投げつける。 「おい、戯見留‥‥」 「はい?」 「タガメの宝を隠したいのなら、なぜ『巻物の破棄』じゃあなく‥‥『人質と交換』なんだァ?」 「なぜだと思います? お利口さんだと思うなら、お答えになってみて頂戴な」 この野郎‥‥! 「あァ、良いぜ。答えてやらァ‥‥」 「‥‥状況は、あまり良いとは言えなさそうですねぇ」 とある木に登り陣取っていた不破 颯(ib0495)は、一人静かにつぶやいた。もう一人、バロン(ia6062)と最初に示し合せ、遠くから狙撃するためにここで構えていたが‥‥。 「‥‥煙で、良く見えませんねぇ。それに‥‥あんなに引っ付かれるとはねぇ」 ここから、戯見留を狙撃しよう。そう考えていた不破とバロンだったが‥‥相手もそれに対する対抗策は考えていたようだ。焚火を焚いて、煙で視界を遮り、なおかつぴったりと人質にくっついて離れない。加えて、両脇を獄卒鬼が立ち盾になっている。 さて、どうしましょうか‥‥。 「‥‥はて、そういえばぁ‥‥?」 おかしい。やつは他に獄卒鬼を従えていたはず。そいつらはどこに‥‥? 「‥‥!」 その時、気配を感じ‥‥不破は見た。 「食らうが‥‥いいっ!」 獄卒鬼の巨体を発見したバロンは、弓を、「鳴弦の弓」の弦をひきしぼり、強力な一矢を放った。 だがそいつは、盾と鎧に身を固めていた。盾でバロンの矢を弾くと‥‥そいつは手にしていた大刀を構え、突進する。 まずい! この至近距離‥‥外せば、次はないッ! 矢をつがえ、引き絞る。だが、すでに敵は、かなり近くまで接近している。 「南無‥‥三!」 熟練した、弓術師の一射。気合と共に放たれたそれは、音高く飛び‥‥。 アヤカシの額を、貫いた。 額を貫かれた獄卒鬼は、そのままのけぞり、後ろざまに倒れる。そして‥‥そのまま転がり落ちると、地面に叩き付けられた。 「‥‥九死に一生を得た、といったところか」 目前の鬼が霧散するのを見届けると、バロンは息を整え‥‥その場を移動した。 「あァ、良いぜ。答えてやらァ‥‥。まずは、『タガメは此処に眠っているモノを誰かに開けさせたかった』。何故なら、其のモノは開けた者に憑りつき初めて形を成すからだ」 鷲尾は、戯見留へと言葉を投げつける。戯見留はニヤニヤしつつ、それを聞いていた。 「この巻物の数列、これはキーナンバーだが‥‥それともう一つ、封印されたモノを従えさせる為の魔法陣だ。どうだ?」 鷲尾の言葉に、戯見留は奇妙な表情を浮かべていた。 予想を当てた事による「感心」さと、予想を外した事による「呆れ」。そして‥‥仕掛けた罠がうまくいったとほくそ笑む「満足感」。それらを合わせたような表情を、そいつは浮かべていたのだ。 「‥‥褒めてやるわ。予想は、深読みしすぎ。とはいえ、いくつかは正解。‥‥そこまで考えていたという事に関しては、賞賛に値する。まさに‥‥こちらの望み通り!」 獄卒鬼の槍の片方が、銀嶺に当てられている。そして戯見留自身も短刀を取り出し、突きつけつつ‥‥もう一体へと命じていた。 「糞っ、動けねェ! 下手に動けば、人質が!」 心中で歯噛みする鷲尾や開拓者たちを嘲笑うかのように、命じられた獄卒鬼は、槍で地面の巻物を手繰り寄せ、拾い上げる。 それをひったくった戯見留は、狂気とともに狂喜した。 「これで‥‥これで、タガメのように恐れられ、有名になれる! ‥‥お前ら、行け!」 吸血鬼のその言葉と共に、獄卒鬼は銀嶺をひっつかみ、開拓者たちへと投げつける。そしてそれと同時に‥‥。 槍を握り、突進した! 木から飛び降りつつ、その邪悪な気配を放つアヤカシへ‥‥襲撃してきた獄卒鬼へと、不破は矢を更に射る。 鎧で身を固めているためか、そいつはなかなか痛手を受けない。が、痛手を全く受けていないわけではない。 板金の鎧の隙間に矢じりが刺さり、確実に傷を負わせ、動きを奪い、邪な生命を奪っている。ギラつく瞳が迫る様は、不破をわずかに気圧したものの‥‥最後の射撃がそいつの命を貫き、動きを止めた。 「‥‥やーれやれ。まったく、面倒かけさせてくれます」 だが、もっと面倒な相手が控えている。こちらに獄卒鬼が来たという事は、おそらくバロンの方にも向かっているかもしれない。 「バロンさんの事だから、大丈夫とは思いますが‥‥後の問題は‥‥」 戯見留と、残った獄卒鬼。そして‥‥『何か』。 「とっとと向かって、ちゃっちゃと片づけますか」 軽い口調と裏腹に、新たなアヤカシをその矢の餌食にせんと、不破は仲間の元へと向かっていった。 貫抜鬼丸と、柄の短剣。それらを戯見留は、塚のとある隙間に差し込んでいた。 「右に三回回し、次に短剣を左に三回。そして今度は剣を右に二回、短剣は左に五回‥‥」 そして、戯見留はそれらを巻物を見つつ、回転させていた。 「‥‥そういう、事かよォ!」 槍使いの獄卒鬼と戦いつつ、鷲尾は悟った。 「貫抜鬼丸と短剣は、『鍵』で、巻物は『鍵穴に差し込み、回す順番を記した物』って事かよォ? 違うか?」 獄卒鬼が放った、強烈な槍の一撃。それをアクケルテで受けつつ、鷲尾は叫んだ。 「いかにも! そして‥‥この中の物は、アンタの言うとおり‥‥誰かが近くにいる時に、『開けたかった』のよッ!」 「‥‥どういう事、ですか?」 「いや、俺に聞くなって‥‥銀嶺さんよ、すぐに痛みは治まるからな」 刀を構えた和奏へと、梓は神風恩寵で銀嶺を治癒しつつ答えた。意識を失ってはいるが、命に別状は無さそうだ。 「要は、うちらを生贄にでもするつもりやないか? まったく、胸糞悪いわ!」 槍を回転させつつ、もう一体の獄卒鬼が突進する。が、それに対し、槍には槍でと言わんばかりに‥‥花梨の手から、大槍が放たれた。 「あ、ごめん。手が滑ったわ」 しかし、大槍「シャタガンター」は容易に弾かれる。獄卒鬼の口元に、悪意ある笑みが浮かび‥‥それはすぐ、困惑となった。 神威の木刀、名刀・鬼神丸。それぞれそれらを構えていた梓と和奏は、獄卒鬼へ切りかかる。 が、鬼神丸の刃を槍で受け止めた獄卒鬼は、そのまま力で押し‥‥弾いた。 剣が手から飛び、遠くに転がる。とどめとばかりにさらなる一撃が襲い掛かろうとした、その時。 空間そのものが、ねじれ、歪み、たわんだ。まるで目に見えぬ大きな手に、目前の獄卒鬼が捕まれ‥‥先刻の銀嶺のようにねじられたかのように。 「食らいやがれ! 『力の歪み』!」 困惑の表情を浮かべた獄卒鬼の表情が、焦りのそれに。だが、畳み掛けるように和奏が刃を撃ち込み‥‥梓が木刀での一撃を叩き込んだ。 斬撃と打撃の相乗、さらにそれに加え、花梨の持つ清杖「白兎」の一撃もまた、鬼の脳天を砕く。 断末魔の悲鳴と共に、鬼は霧散した。 そして、仲間が倒れた事で、もう一体の獄卒鬼はそれに気を取られた事を、鷲尾は見逃さなかった。 後ろに下がり距離を取ると‥‥その足元へと短銃、エア・スティーラーを抜き、弾丸を食らわせたのだ。 「はっ! そのままくたばりなァ!」 膝を撃ち抜かれ、膝をついた獄卒鬼へ‥‥魔槍砲の一突が貫き、引導を渡す。 二匹目の鬼が倒れ‥‥それと同時に、戯見留の作業も終わった。 「これは!」 「やれやれ‥‥ちょっとまずそうですねぇ」 その場に駆け付けたバロンと不破は、鷲尾らとともに‥‥「それ」を見た。 「これが、タガメの残したお宝よ! ‥‥さあ、出てこい、『がしゃどくろ』!」 塚を吹き飛ばし、巨大な、まさに巨大な骨の腕とともに、小屋ほどもある頭蓋骨が、胴体が出てくる。 「成功だわ! わたし自身が、こいつを暴いた! こいつが、お前たち開拓者を殺せば! 思いきり残酷に殺してやれば! 更に箔が付く! 恐れられる! そして、わたし自身もタガメのように有名になって、恐れられる!」 「有名? 恐れられる? あんさん‥‥そんな下らない理由で、人をだまし、殺してきたんか!」 花梨が、開拓者たち、そして今までの犠牲者たちの声を代弁するかのように言い放った。 「そうさ。これでわたしは、誰からも恐れられ、有名になれる! こいつを蘇らせたのは、このわたし、戯見留だってね! あとは、この巻物に書かれた呪文で、こいつを操れば! アハハハハ‥‥」 だが、巨大な骸骨は、哄笑する戯見留をつかんだ。 「え?」 困惑する暇も与えず、がしゃどくろはそのままいきなり‥‥口に戯見留を放り込むと、咀嚼したのだ。 べっと吐き出されたのは、巻物ごと噛み砕かれた戯見留の残骸。霧散していくそれを見て‥‥鷲尾はうめいた。 「そうか‥‥こいつが言っていた『ここにあるもの「たち」』ってのは‥‥『俺たち』だったのかよォ」 タガメが残したのは、封じられた強力なアヤカシ。ここまでは合っていた。だがそれをただ開放するより、蘇った時に、それなりに実力ある開拓者を殺したって事実があれば、より有名になれる。俺らは殺されるため、ここに呼ばれたってわけかァ。 戯見留はこのがしゃどくろを用い、自分がもっと有名に、そして恐れられるようになりたかった‥‥。はっ、マジにろくでもねェ。 だが、そんなことは今、どうでもいい。こいつを倒さねば! 巨大な腕が、開拓者たちを薙ぎ払おうとする。それを交わしつつ‥‥梓と和奏、花梨と鷲尾は、一撃を与える。 矢を射るは、バロンと不破。だが、大した痛手になっているようには見えない。 そいつの下半身は見えなかった‥‥今は目覚めたてで、完全ではないようだ。ならば、叩くのは今しかない。 焚火の煙がたちこめることもあり、そいつの全体像は見えづらい。だがそれが幸いし。がしゃどくろの方も開拓者たちの姿がよく見えていないようだ。 「‥‥化け物、ここだァ!」 鷲尾の叫びと共に、放たれたエア・スティーラーの銃撃が、巨大な肋骨を砕く。 響く叫びは、痛みか、あるいは屈辱による怒りか。両腕を振り回し、がしゃどくろは煙を払おうとする。 「そろそろ、終わりにしましょうよ‥‥っと!」 「喰らうがいい!」 が、煙の中から、不破とバロンの鋭き矢が放たれた。それらが、がしゃどくろの右腕を砕く。 「‥‥往生しい!」 続き左腕を砕くは、花梨。「荒童子」による一撃が、おぞましき巨大な骨を粉砕する! 明らかに、痛みによる咆哮が頭蓋骨から響いた。再生しつつあるが、両腕を奪われたがしゃどくろは、煙の中に開拓者の姿が無いか探し回っている。 「来やがれよォ‥‥糞なバケモンがァッ!」 挑発するように、そして気合を入れんと、鷲尾は吠え‥‥がしゃどくろの前にその姿を現した! カッと口を開き、巨大な歯と顎とが鷲尾へと迫った。だが鷲尾は、それを一瞥し‥‥叫ぶ! 「デカいからビビるとでも思ったかァ? 当て易いわ、阿呆がァ!」 鷲尾の魔槍砲による砲撃が、今度は背骨を撃ち抜き、砕く。倒れるがしゃどくろの頭部へと、鷲尾の槍が襲いかかり、貫き、破砕した。 白梅香の清浄なる力と、ブラストショットによる攻撃力増加。その二つが重なり、おぞましき怪物の頭部を穿つ。 「灰に、なり‥‥」 がしゃどくろの頭部にひびが走り、それが全身へと広がっていった。 「空に、水面浮いて‥‥漂え!!」 鷲尾の叫びとともに、全身の骨が崩れ‥‥巨大なる骨のアヤカシは、霧散した。 周囲には、焚火の臭いと煙、そしてアヤカシと戦った者たちの臭い。そんなものが漂っていた。 「‥‥そう、でしたか」 すべてが終わり、蒲生のところへと貫抜鬼丸を持って戻った開拓者たちは、事の次第を話し伝えた。 戯見留という吸血鬼が仕掛けた事、そして彼女があばいたがしゃどくろの事を。 「‥‥縊首比も、奈良無もいなくなってしまったのには、寂しいものがあります」 しかし、だからこそ店を続け、皆の死を無駄にしないようにしたい。蒲生はそう付け加えた。 こうして、この事件は幕となった。 治療を受けた銀嶺は、再び夫の元に戻り、以前の生活を続けている。 貫抜鬼丸は、蒲生商店の倉庫の中で、思い出の品として今も残ったままである。 |